ジェノヴァ郊外の寂れた安宿の一室で、  
二人の男がワインを呷っていた。  
一人は三十代半ば頃、髪と同じ灰色がかった茶色の頬髯を蔓延らせていた。  
もう一人は二十を幾つと超えていないような若者で、  
落ち着かない様子で、グラスとドアに、視線を走らせている。  
「随分とピッチが早いな、ポルセッロ。  
そんな様子じゃ、運び屋が来る前に潰れちまうぜ」  
頬髯の男は、若者を揶揄した。  
「だけど兄貴、ほんとに運び屋は来るのかぃ」  
「当たり前だ。  
俺の見込んだ奴だからな。  
時間にはちょっとばかしルーズだが、来ることは間違いねぇ」  
「そんなこと言ったって、もう三十分もオーバーしてるじゃないか」  
ポルセッロと呼ばれた若者は、以前にドイツで“仕事”をしていたものだが、  
連中の時間に関するうるささは、尋常のものではない。  
ドイツ人は約束をすると、一分一秒の遅れもなくやってくる。  
その正確さたるや、ポルセッロは、ドイツ人という人種は、  
体内に電波時計でも仕込んでいるのではないかと勘ぐったほどだ。  
イタリアのルーズな時間感覚の中で生きてきたポルセッロにとって、  
ドイツでの“仕事”は、凄まじいカルチャーショックを与え、  
重篤なホームシックに罹患したことは言うまでもあるまい。  
ようやく帰郷してみると、ホームシックは癒えたものの、  
ドイツ人の時計病とでもいうべき時間厳守の感覚が、  
ポルセッロの神経を蝕んでいた。  
後に、ドイツ人よりなお、時間にうるさい日本人の、  
「五分前の精神」というものを知って、  
ポルセッロは世界の広さに途方に暮れるのだが、  
今はそれについて多くを語る必要はあるまい。  
とにもかくにも、ポルセッロは時間通りに現れない運び屋に苛立ちを隠せないでいた。  
ポルセッロが、二本目の安ワインのボトルの中身をグラスに空けた時だった。  
 
ドアがノックされた。  
ポルセッロと頬髯の男に緊張が奔る。  
頬髯の男は、座っていたベッドから立ち上がると、  
音もたてずにドアに歩み寄り、身を添わせた。  
「合言葉は」と、  
頬髯の男が尋ねる。  
ドアの向こうの人物は、それに応えたのだろう。  
頬髯の顔が弛んだ。  
「安心しろ。運び屋だ」  
頬髯の男はロックを解除し、ドアを開いた。  
そこに立っていたのは、白いワンピースを着た少女だった。  
歳はおそらく十五歳前後だろうか。  
長く赤い髪に、触れれば壊れてしまいそうな、  
儚いほどに華奢なシルエットだった。  
「よく来た。歓迎するよ」  
頬髯は少女を部屋に通すと、再びドアをロックした。  
「この娘、運び屋のメッセンジャーか何かですかい」  
驚いた様子のポルセッロを一瞥して、  
少女は鼻で嗤い、言った。  
「私が運び屋に見えないって言う意味なら、  
まだこの仕事を続けていけそうだね」  
その言葉の意味を、ポルセッロが反芻する間もなく、  
頬髯の男が、少女の肩に手を置いて言った。  
「こいつが、運び屋だ」  
噛み砕き、消化する必要がないほどに、  
率直で、平易で、簡単な一言であったが、  
それゆえにポルセッロは、事実との乖離に混乱した。  
今日、彼らが受け取る品物は、  
政府によって所持が厳禁されている、超第一級の“薬”なのだ。  
それの故意的な所持が認められれば、  
絞首刑を三度喰らう程度では済まされない。  
秘密裡に眼も覆わんばかりの拷問にかけられ、  
その“薬”の入手経路を白状させられて、  
心身ともに、人の形すら保てない状態になるまで責め挙げられた挙句、  
まさしく、ゴミとして棄てられるのだ。  
そんな恐るべき品を、年端もいかぬ少女が取り扱っているなど、  
ポルセッロの感情は、理解というものを拒絶していた。  
その混乱の境地にある顔を、頬髯の男は、  
「なんだ、びっくりして声も出ないか。  
まあ、そういう顔が見たかったんだがな」と笑い、  
少女の血が通っているのではないかと思えるほどに赤い髪に、指を梳かせた。  
「映画の『トランス・ポーター』に出てくるみたいな野郎が運んでると思った?  
でも、ああいうのは禁止品目を運ぶのには目立ちすぎるの。  
地元の、普通の女の子のほうが、官憲の目も欺きやすいし」  
少女は、屈託なく笑った。  
いまだに、混乱状態から解放されないポルセッロを他所に、  
頬髯と少女は、商談に入っていた。  
 
「それで、例の“薬”五十グラム。  
それで間違いないのよね?」  
「ああ、間違いない。  
さっそく、それを渡してもらおうか」  
「ええ、分かったわ」  
少女は、髪を一撫でした。  
ポルセッロの嗅覚は、甘い香りを嗅ぎ分けた。  
「それで、この人の見てるとこでやるの」  
少女が、表情を曇らせながら尋ねた。  
「そっちの方が燃えるだろ」と  
頬髯の男が応える。  
「変態」と呟きながら、少女は、ワンピースを脱ぎ去った。  
ワンピースの下は、裸だった。  
本来は秘されるべき、未発達な胸と薄い翳りに忍ばせた秘裂が、  
ポルセッロの眼底に焼き付けられた。  
膝から上は、一糸纏わぬ裸身でありながら、  
膝下は白いソックスと、焦げ茶のローファーであるのが、  
一層、非現実感を煽った。  
少女は壁に手をつき、二人に裸の背中を晒した。  
少女は、肩越しに頬髯の男を見やった。  
頬髯は、顎で先を促した。  
少女は、顔を向かい合った壁に向けた。  
全身が小刻みに震える。  
半ば呆然と見つめるポルセッロの眼前で、  
裸の少女が全身を震わせ、何かをしようとしている。  
それは、禁制された“薬”を取り扱う何かだ。  
ポルセッロの思考は、ますます混乱の沼底にヘと落ち込んでいった。  
少女の尻肉が一際大きく震えた。  
決して豊かとは言えない、その柔肉の狭間に蠢く柔肉が、  
引き攣ったように震える。  
薄くくすんだ肛門が、震えつつ、外側に隆起するように膨らんだ。  
その頂点、筋肉の緊張が最高点に達するであろう、  
孔の奥に、それの姿が覗く。  
少女の吐息が荒くなり、熱を帯びる。  
少女の直腸内に潜り込んでいたそれが、姿を現した。  
大きさは握り拳ほどの、球形をしたプラスチックケースだった。  
少女は、その瞬間に息を詰めた。  
それが少女の肛門から、排泄物のように吐き出された。  
粘ついた水音と共に吐き出されたそれは、ポルセッロの足元に転がってきた。  
ポルセッロは、それを手に取った。  
少女に由来するであろう、ねっとりとした体液が、  
ポルセッロの指を汚した。  
たった一グラムで、数百人の人間を狂気に追いやる薬が、  
このあどけないばかりの少女の中に潜り込んでいた。  
その書類上に記されていた“薬”のデータと、  
現在、眼前に繰り広げられる事実を擦り合わせたとき、  
ポルセッロは、果たして事実とは何かが分からなくなった気がした。  
 
その間にも、少女の行為は続いていた。  
痩せた身を震わせて、苦痛とも快感ともつかぬ行為にその白い裸身を委ね、  
恐るべき狂気を内蔵した卵を産み落としていく。  
二つ、三つ、四つ。  
少女は時折、苦しさに耐えかねてか、呻きを漏らした。  
その声は、熱く、甘く、妖しく、  
少女ではなく、女の声であった。  
いまや彼女の肛門は、白い肌の下を奔る血の色を透かしたように、  
鮮やかな紅さで濡れて蠢動し、狂気の卵を排泄するたびに、  
外側に捲れ返り、粘液に覆われた内壁を露呈させた。  
「東南アジアの神話には、金銀宝石を糞としてひり出す、  
ハイヌウェレって娘の伝説があるそうだ。  
ハイヌウェレは文明の礎も産み出したが、  
たった数グラムで文明を崩壊させかねないような  
“これ”を産み出すこいつは、一体何なんだろうな」  
頬髯の男は、ワイングラスを傾けながら、  
おかしそうに笑った。  
ポルセッロは、くぐもった笑いを聞きながら、  
虚脱したようにその光景を眺めていた。  
少女が、一際激しく体を震わせた。  
粘液にまみれた、無機的な、生命感の片鱗も持たない卵の五つ目が、  
少女の排泄孔を捲れ返らせながら這い出てきた。  
狂気の卵は、少女の肛門を目一杯に押し開き、  
その身を半ばまで外気に晒すと、飛び出るようにしてそこから抜け落ち、  
糸を曳きつつ、床に転がった。  
少女は、過呼吸に陥ったような息の音を上げていたが、  
少し落ち着くと、「これで全部です」と、  
今にも消え入りそうな、震える声で言った。  
「ご苦労」  
頬髯の男は、粘液に濡れて艶めくプラスチックケースを手に取ると、  
それを開き、内容物を確認した。  
白い粉末の入った、透明フィルムで出来た小袋がいくつかあるのを確認すると、  
男はそれを閉じた。  
「一応、残りがないか確認させてもらうぜ」  
頬髯の男は、シャツの袖を捲り上げた。  
男は、壁に手をついて尻を突き出したままの少女の傍らに腰を落とすと、  
その細い腰に左腕を回し、抱きすくめた。  
そして右手を、白く丸い尻に這わせる。  
頬髯の男の右手の指が、少女の中に潜り込んだ。  
「つい今しがた、あんなもんひり出しておきながら、  
もうきつきつになってるぜ。  
若いってのはいいねえ」  
頬髯の男は、少女の肛門を拡げ、なぞるように、  
指を円く動かした。  
少女は、排泄孔を人目に晒し、あまつさえそこを弄られ、  
拡げられ、内奥を覗き探られている。  
その恥辱と、苦痛と、背徳感と、淫靡な愉悦とに  
呑み込まれることを拒むかのように、  
少女は歯を食いしばり、壁の遥か上の、  
どこか遠くに縋りつくような眼差しを向けていた。  
頬髯の男は、少女の肛門に潜らせる指を増やしていく。  
それは、少女の肉体を不用意に傷つけないよう、  
熟達した動作によって行われたものであったが、  
小さな、幼い窄まりに、  
太く強張った指を入れていく様は、  
やはり捻じ込むと称するほかに、表現するべき術はなかった。  
 
少女の膝が、がくがくと震え、今にも崩れ落ちそうになる。  
その儚げな細い体を、頬髯の男の、筋肉を張り詰めた固い左腕が、  
万力のように固定し、少女に立ち姿勢を強要していた。  
少女の内腿は、秘裂から溢れ出した夥しい量の蜜に濡れていた。  
頬髯の男は、笑みを顔に張り付かせたまま、  
少女の肛孔を弄り続ける。  
少女の肛門は、すでに男の指を五本全て受け容れていた。  
ポルセッロは、その様子を息を呑んで見ていた。  
あの小さな孔に、五本ものの指が入っているのだ。  
現実離れした、酷くグロテスクで、淫猥で、  
どこか虚しい滑稽さに彩られた光景だった。  
ポルセッロは、頬髯の男が少女の尻の孔を拡げ、  
その中を覗いて「確認」するのだと思った。  
だが、頬髯の男は、更なる段階に進んだ。  
少女の白い背中が、弓のように仰け反った。  
食いしばられていた口が解き放たれる。  
少女は驚愕したかのように、眼と口を裂けんばかりに開いた。  
その眦からは涙が筋を曳いて流れ落ち、  
洞のように闇を湛えた口からは、所在を失った唾液が溢れ滴った。  
赤い舌が、慈悲を乞い求めるかのように屹立する。  
悲鳴にも呻きにもなれなかった呼気が、  
湿った熱を孕んで、零れた。  
頬髯の男は、少女の尻に、己の拳を捻じ込んだのだ。  
剛毛を纏わせた、大の男の拳を、  
少女の肛門は、苦悶の呻きを漏らしながらも、  
すっぽりと飲み込んだ。  
ポルセッロは、そのあまりに痛々しい光景を見続けることに耐えられなくなった。  
しかし少女の裸身は、蠱惑的な磁力でポルセッロの眼球を捕らえこみ、  
彼の逃避を許さなかった。  
頬髯の男は、くぐもった笑いを漏らしつつ、  
右腕をさらに少女の中へ沈めていく。  
獣毛のように、固くごわついた毛に覆われた腕が、  
少女の肛孔の縁を体内にヘと巻き込みながら、ゆっくりと刺さっていく。  
少女は、眼球を涙で濡らしてはいたが、  
すでにそれは、何かを視る器官ではなく、人形の眼のガラス球の様に、  
ただ可憐なだけのものと化していた。  
男が腕を潜らせるのに従って、少女はその余地を作ろうとしているかのように、  
薄い胸を上下させ、肺腑に溜まる空気を体外に吐き出していた。  
怖ろしいほどの時間をかけて、頬髯の男は少女の腸内を侵していった。  
少女が、張り詰めたような声で、短く鳴いた。  
それは、処理しきれなくなった感覚が、声となって噴き出したかのようだった。  
「ここが、一番奥か」  
相変わらず、頬髯の男は嫌らしい笑みを浮かべたまま言った。  
少女は、男の腕を肘の辺りまで咥え込んでいた。  
「どうやら、ほんとにあれで全部のようだな」  
また、少女が鳴いた。  
今度は震えるような声で、断続的に鳴き続けた。  
頬髯の男が、少女の腸内を弄繰っているらしい。  
少女のなだらかな腹部が、不自然に蠢いていた。  
「やめて、もう分かったんでしょ。意地悪しないで」  
少女は、ようやく意味のある声を出した。  
鳴き濡れた懇願を受けて、頬髯の男はやはり笑みを張り付かせたまま、  
「そうだな、そろそろやめるか」と、良心の呵責に捕らわれた様子もなく、  
軽い口調で言った。  
頬髯の男は、腕を抜きにかかった。  
ただし、それは入れるときのような緩慢な動きではなく、  
少女の括約筋を破壊しない限界の、極めて危険な負荷をかけるような速さで、  
かつ慎重に引き抜いていった。  
 
少女の声が止まらなくなった。  
甘く、熱い、無意味な声が、途切れ途切れではあったものの、  
少女の口から溢れ続けた。  
腸管を、剛毛を生やした厳つい腕が抜け落ちていく。  
敏感な粘膜が、乱暴に擦りたてられ、脳にアラートを鳴らす。  
目一杯に拡げられた肛門が、なおも卑しく腕にしゃぶりつき、捲れ返っていく。  
少女の中に充満し、蹂躙した感覚が、  
そのまま声として溢れ出して来ているようだった。  
頬髯の男は、手首までをほとんど一息で抜き取り、  
最後、手首から先はゆっくりと引き抜いた。  
少女がまた、息を詰めた。  
ごぼり、と、湿った音を立てて、頬髯の男は、  
少女の体から抜け出した。  
少女はついに力尽きたか、糸を失ったマリオネットのように崩れた。  
頬髯の男は、その体を楽々と受け止め、ベッドに転がした。  
「どうだ、なかなかの見ものだったろう」  
頬髯の男は、腸液でどろどろに濡れた右腕をタオルで拭いつつ言った。  
ポルセッロは、声が出なかった。  
「でも、お楽しみはこれからだ」  
頬髯の男は服を脱ぎ捨て、裸になると、少女を転がしたベッドに上がった。  
頬髯の男が仰臥する。  
すでにその股間には、隆々とした逸物が反り返っていた。  
意識を取り戻したらしい少女は、  
病犬のような足取りで頬髯の男の上に這い進んだ。  
少女は、頬髯の男の猛々しいそれを、  
自らの幼さの残る秘裂にあてがうと、ゆっくりと胎内に向けて挿し込んでいく。  
少女の口から、唾液のように、蕩けた甘い声が溢れた。  
少女は、頬髯の男のものを呑み込むと、  
その分厚い胸板に甘えるように抱き縋った。  
いまだ呆然と眺めるポルセッロの目に、少女の尻が映った。  
未熟な果実のような、白い双丘の狭間に、  
縁を鮮やかな血肉の色で飾った、空虚な洞孔が口を開けていた。  
それは、なおも物欲しげに、ぽっかりと開け放たれ、  
息づくように、ひくひくと蠢いていた。  
「どうした、ポルセッロ。お前も一緒にどうだ。  
それとも、ケツの孔は嫌か」  
ポルセッロは、豪放な頬髯の男の笑い声を浴びながら、  
服を脱ぎ捨てた。  
その股間には、頬髯の男にも劣らない、奔馬のような剛直が、  
激情を湛えていきり立っていた。  
ポルセッロは、少女の尻肉を押し開いた。  
肛孔が、物欲しげにひくつく。  
ポルセッロは、少女の尻に自らのものをあてがい、  
ゆっくりと刺し貫いていった。  
少女がよがり、喘いだ。  
ポルセッロは、少女の肉体に呑みこまれ、溺れた。  
頬髯の男の笑い声と、少女の嬌声、ポルセッロの荒々しい吐息。  
淫蕩な、狂気がたゆたうその一室に、  
命のない卵が、ぬらりと照り輝いて、揺れた。  
(了)  
 

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