いつもの様にいつものごとく、電車がホームに滑り込んでくる。  
冷たい風が体を吹き過ぎる。私の名前は、鈴木 光。高校3年生。  
電車に乗り込み、空いている席に座る。電車の中は暖かくて眠くなる。  
俯いて、目を閉じた。息をふぅと吐き出してリラックスモード。  
 
すると、周りからひそひそ話しが聞こえてくる。  
『…おい。あいつ可愛くねぇか?』  
『…なに言ってんだ。あれは男だろ。学ラン着てるだろうが。』  
『でもよぉ…。なんか…。タイプだなぁ…。ちっちゃいし。  
髪はサラサラだし。肌は白いし。目はぱっちりで、なんかこう、  
抱きしめたくなるっていうか…』  
『お前、そんな趣味が…』  
『違う、違うぞ。そんなのじゃない。』  
僕『どんなのだ…。』  
とか  
『きゃー。ほら、あの人。』  
『あら、今日はこの車両に座ってるね。』  
『可愛い…。ほんとに男の子なのかなぁ…。』  
『当たり前でしょ。なに言ってんの。』  
『今度、話し掛けて聞いてみようかな。』  
『失礼でしょ。止めときな。』  
『でもー…。』  
とか。  
 
もう…慣れたけどね…。…orz  
電車は、緩やかにブレーキをかけ、目的の駅へ停まった。  
ドアが開き、人の流れに乗って歩き出した  
 
歩いて10分ほどで到着する距離。  
しばらく歩き、学校へ到着。冷たい風が頬を冷やし、赤くなっていた。  
教室のドアを開ける。自分の席まで歩き、座る。  
「おっはよう!!」  
誰かが後ろから飛び掛かってきた。  
「うぁっ。なんだよ。」  
「光が頬を赤く染めて歩いてきてるのに、抱きしめない訳が無い!」  
「意味わかんないよ。離して。」  
彼は、田中 剛。背が高くて、髪は金髪に染めている。クラスでも  
不良の類に入る存在だ。クラスの奴らも、こんな私たちを見て  
「朝から熱いな〜。」  
「なんかさ、男同士で抱き合ってるのに違和感ないよな。」  
「やっぱ受けは光なのか?」  
 
などヤジが飛ぶ。  
もう…慣れたけどね…。…orz  
「俺と光が付き合ってるからって嫉妬するなよ…。」  
「そういう事じゃないと思うよ…ていうか僕は男だし。」  
「まだそんな事を言ってるのか。これは運命なんだ。諦めろ。」  
「もう…。はぁ…。」  
毎日こんな感じだ。思わず溜め息もでる。  
 
「とりあえず、この手を離して。」  
「嫌だ。」  
「苦しいよ。」  
「あーいい匂い。」  
ガスッ。あごにヘッドバットをお見舞いした。  
「うはっ。」  
剛は後ろによろけた。  
 
「男が好きだなんて気持ち悪いよ。」  
「ちがう!俺は男が好きなんじゃない!光が好きなんだ。」  
「…僕は、剛が嫌い。」  
瞬間、剛は目を見開き、膝から力無く崩れた。  
「…心にグサッときた…。」  
「もう付きまとわないで。」  
「…光。俺はお前の為なら何でもする。だからそんな事を言わないでくれ。」  
剛の表情は苦しそうだ。  
「じゃあ近寄らないで。」  
「わ、わかった…。」  
始業のチャイムがなり、先生が入ってきた。  
「授業を始めるぞー。」  
 
−授業は終わり、休み時間−  
 
僕はトイレに行きたくなって、友達を連れて一緒に行った。  
さっきから視線を感じるような気がするけど気のせいかな…。  
用を足して、友達と教室に戻る。  
そしてすぐ後から、どこへ行っていたのか剛も教室に戻った。  
「………。気のせいかな…。うん、そういう事にしておこう。」  
 
−2時限目の休み時間−  
 
僕は喉が渇いて、冷水器へと向かった。  
「なんか視線を感じるんだよなぁ…。」  
冷水器の前に立ち、水を飲む。背後に気配を感じて振り返ると剛がいた。  
「うわぁっ。なんでここにいるんだよ。」  
 
「うわぁは無いだろ。俺は水を飲みに来ただけだぜ。  
ちょっと自意識過剰なんじゃないのか?」  
「どうだかな…。」  
僕はまた水を飲み始める。  
剛は僕の横にきて、僕が水を飲む様をじっと見ている。  
「………。」  
剛は無言で飛び付いてきた。僕はサッと避けた。剛はしつこく飛び付いてくる。  
でも僕は、それを華麗に避ける。もう…慣れ(ry  
僕が避け続けてると、剛は勝手に壁に頭をぶつけて自滅した。  
うずくまって動かない。何事も無かったかのように、スタスタと教室へ戻った。  
教室のドアを開け、自分の席へ向かうと、そこには剛が何事も無かったかのように座っていた。  
「い、いつの間に…。気味悪いなぁ…。」  
 
「光さん。」  
剛が真面目な顔をしてこちらを見つめてくる。  
「今度の日曜に、映画にでも行きませんか。」  
「えぇー…。」  
剛の目は真剣で、真っ直ぐ僕の目を見据えてきた。  
「うーん…。友達と一緒なら、行ってもいいよ。」  
剛は、とてもわかりやすいショックを受けた顔をした。  
「いや、俺は光と二人きりで行きたいんだが…」  
「じゃあ行かない。」  
「なんでだよ!」  
「何されるかわかったものじゃないし…。」  
 
「俺は、紳士だ。何もしない。」  
「じゃあ、さっき冷水器でしてきたアレはなんだよ…。」  
「あ、あれは…」  
「とにかく、友達と行けないなら、僕は行かない。」  
「そ、それは困る。いいよ。友達と一緒に行こう。な?」  
「全部、剛のおごりね。」  
「光の友達の分もか?」  
「もち。」  
「ぬぅ…。仕方ない…。いいだろう。」  
「おーけー。」  
僕はニヤリと笑った。剛は飛び掛かろうと構えたが、鼻にから  
何かが出ている事に気付き、手で拭ってみると血が付いていた。鼻血が出ていた。  
 
 
今日は待ちに待った日曜だ。いやぁこの日が来るまで長かったなぁ。  
待ち合わせの時間は朝の10時にポチ公前。今は、朝の6時。  
早起きしちまったぜ。フフフ。テレビでもつけるか。んー…。  
ニュースばっかりだなぁ…。つまらん…。コンビニにでも行ってくるか。  
 
そして俺はコンビニへ向かった。早朝の空気は澄んでいて、気持ちがいい。  
まだ、陽がのぼりきらない薄暗い通りを、足どり軽く歩いていた。  
通りに人の気配はない。この通りを一人占めしているような気分だ。  
「今日は良い日だなぁ…」  
大きなあくびを一つした。  
 
曲がり角からふっと人が出て来た。そいつは俺に真っ向からぶつかってきた。  
途端に腹に激痛が走り、膝に力が入らなくなって前のめりに倒れ込んだ。  
何が起きたかわからない。腹を触ってみると血が出ているようだ。  
「!!!?…。」  
背後で走り去っていくヤツの足音が聞こえる。通り魔か。  
「いてぇぇ…。ぐ…たすけ…えはっ…」  
口に血が溜まってきて声が出せない。これは非常にヤバイ。  
俺の人生はこれで終わりなのか。ここで終わるのか。  
 
あぁ…母ちゃん…父ちゃん…俺は…いままで…。あぁ…みんな…光……光…!  
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
 
「剛の奴遅いなぁ。10時はとっくに過ぎてるのに。」  
「光のために気合い入れてるんじゃないか?」  
僕の友達、大地はニヤリと笑った。  
「からかわないでよ…もう…。」  
「まぁもう少し待ってみよう。」  
しかし、1時間経っても現れない。  
「しょうがない、俺が携帯に電話してみるよ。」  
「うん。」  
「………。ダメだ。でない。電源は切ってないようだけど。」  
「何やってんだろ…あいつは…。せっかく来たのに。」  
それから、また1時間、2時間と過ぎても剛は現れなかった。  
その後、光は、大地と昼ご飯を食べて、ポチ公周辺にある服屋やゲーセンに行って遊んだ。  
そして帰宅。玄関のドアを開けると、悲しそうな顔をした母さんが立っていた。  
 
「ただい…ま…。母さん…?どうしたの?」  
「今ね、学校から電話があって、剛君が刺されたって…。」  
「はぃ?刺された?」  
「剛君ね…。亡くなったって…。」  
母さんは、こんな冗談をつくような人じゃない。だとしたら…  
 
光は剛の携帯に電話をかけてみた。でも電話からは、無機質な呼出し音がなるばかりだった。  
 
次の日の朝、剛の事件はニュースで流れた。死因は、失血死だったそうだ。  
犯人は未だ逃走中。地道な聞き込み調査が行われているらしい。  
光は、いつも通りに学校へ向かった。いつも通りに学校へついて、  
普通に授業を受けた。何かが違う。今までと違う場所はというと  
剛の机の上に、花が添えられている事。いつもの10分間の休み時間をとても長く感じるようになった。  
その時、光は剛の存在の大きさを知った。いなくなって初めて気付く事。  
光は、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになった。  
無機質な時間の中ただ一人光が残されたような、そんな時間が一週間ほど続いた。  
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
色の薄くなった、いつも通りの通学路を光は歩く。ただ歩く。学校へ到着。  
机へ座る。光はぼんやりとした眼で前を向いた。  
「おっはよう!!」  
後ろから誰かが飛び掛かってきた。  
 
あれ?  
 
何時かの光景が脳裏を貫いた。光は固まって後ろを振り返らない。振り返れ無い。  
 
「元気だったかよ!光!」  
光は後ろを振り返った。そこにいたのは…。美しい女の子だった。  
細く真っ直ぐな黒髪は、腰まで流れ、勝ち気な瞳に、白く透き通るような肌。  
桜色の唇から、曇りのない澄んだ声か響く。  
「え、誰?」  
「オレオレ。」  
クラスのみんなが見慣れない女の子に気付き、クラスの視線が集まる。  
「…どちら様ですか。」  
「俺だよ。剛だ。」  
クラスの空気は固まった。  
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
俺は、通り魔に刺された後、走馬灯が頭の中を駆け抜けた。  
…光……光!  
視界が狭まっていき、意識は闇に飲み込まれた。  
俺は、その中で必死にもがいた。まだやりたい事がたくさんあったし、  
なにより光を待たせたままだったから。まだ死ぬ訳にはいかなかった。  
暗闇のなかで、もがいてもがいて、一点の輝きを見つけた。  
それは、暗闇の中では小さすぎてよくわからない程度の光りだった。  
俺は求めた。必死で望んだ。もがいてもがいてもがいてもがいてやっとたどり着いて、  
その光りに触れた瞬間に俺は砕け散った。  
 
気がついたら病院のベットの上にいた。頭がぼーっとする。  
身体を動かそうとするが、身体が重い。  
 
ここはどこなんだ。俺は…。  
 
腕を見ると点滴が刺さっている。針を抜いた。腕に鋭い痛みが走る。  
痛た。あぁ…。俺は生きているのか。  
重い身体を起こした。なにか身体に違和感がある。しっくりこないというか…。  
胸に重みがある。…!?こ、これは…。お、おっぱい…か…?なんだこれは…。  
…体中に色々なケーブルが繋がれている。それをブチブチと引きはがした。  
ベットから降りて廊下を歩き出した。トイレはどこだろうか…。  
そこへ看護婦さんが駆け寄ってきた。  
「上田さん…。起きてる…。ベットに…ベットに戻って下さい!」  
上田…?俺の事か?  
そして俺は先導されるままベットに戻された。  
「今、先生をお呼びしますから、ここでまっていて下さいね。」  
どうなってるんだ…?あぁ…。ぼーっとして頭が回らない。俺の身体はいったい…。  
 
身体を確認してみると、髪は長く伸びていて、胸は膨らんでいた。  
何となく下の息子ね様子を見てみた。  
ない…!あれ!?どこだ!俺の息子は!?  
そこへ先生がやってきた。  
「大丈夫ですか上田さん。」  
「せ、先生!息子が!」  
「落ち着いてください。上田さん。あなたに息子さんはいません。」  
「いや…そうじゃなくて…。」  
「上田さん。これは何本に見えますか?」  
先生が、人差し指と中指を立てた。  
「2本です。」  
「こごどこだかわかりますか?」  
「わかりません…。」  
「あなたの名前は?」  
「田中 剛です。」  
「もう一回聞きます。あなたの名前は?」  
俺は怪訝そうな顔をして答えた。  
「…田中 剛です。」  
 
それから、先生から、あなたは女であること。名前は上田 葵であること。  
「脳死状態」で、生命維持の措置がとられていた事を告げられた。  
当然ながら、はいそうですか、と納得できるはずもなく、  
「先生!そりゃ何かの間違いだ!」  
「何が間違ってると思いますか?」  
「俺は、田中 剛だ。上田じゃない。」  
「しかしですね。あなたは女性なのですし、剛なんて名前ではありません。」  
 
俺の第二の人生は始まった。  
 

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