【3】 −堕ちる獺−
体を柱に固定していた鎖が解かれると、恐怖と苦痛で全身の力が抜けた牝獺たちは、その場にくず
おれた。焼き印の痕が引き攣れるように痛んだが、互いを庇おうと、三頭の獺は這うようにして身を
寄せ合った。
クズリ族のジエルの巨体が近付くのを見て、彼女たちは先ほど身に染みて教え込まれた"牝獺の心得
"を思い出し、のろのろと体を起こそうとする。
ジエルが、それを制した。
『しばらくそのままでいい。痛みが治まるまではな』
ジエルは近くの男たちに公用語で「しばらく時間をくれ」と伝えた。このひとときの休息は儀式の
決まった段取りの一つらしかった。獺族に深い恨みを持つシエドラの異種族たちにも、慈悲はあるよ
うだ。痛みを堪えてうずくまって震える牝獺たちを前に、さて、とジエルは言った。
『これで、お前たちと言葉を交わすのも最後になる。
いくつか質問に答えてやろう』
ルルカたちは顔を見合わせる。これまでは何も教えてもらえなかったに等しい。聞きたいことはい
くらでもあった。でも、いざこうして質問を求められると、まずは何から聞けばいいのか──。
ルルカの頭の中にも、いくつも言葉が浮かび上がってくる。この儀式の意味は何なのか。獺族の犯
した罪は、これだけの仕打ちを受けなければならないほどのものなのか。ジルフの宣告の中にあった
レドラの街とは何なのか。そして、これから自分たちはどうなるのか──。
『これは、どういう意味なの……?』
獺の娘のうち一頭が、二重の円と放射状の線が組み合わされた図案の焼き印が押された下腹部の、
少し上あたりに手を当てて聞いた。彼女にとって、今、身を襲っている痛みから意識を逸らすことが
できないのだろう。それが最初に口を突いて出た疑問だった。
『それは、牝の性器を表しているんだ』
『性器……?』
『そのマークのすぐ下に、同じものが付いているだろう?』
『あ……』
以前はおしっこをするだけの場所だと思っていた、その桃色の柔らかい露出した肉の狭間に穴が──、
今では指の数本くらいは挿し込めるほどになってしまった穴が開いていることがずっと不思議だった。
これを、性器っていうんだ──?
ルルカたちは股間を覗き込んで、改めて自分の体に付いているものを確かめた。獺狩りで捕えられ
る前はほとんど目立たなかったその部分は、赤く腫れ上がり、ぬるぬるした液体を滲ませている。
『何で体に穴が開いてるの?』
『それは、本来、子供が生まれてくるところなんだ』
(やっぱり、そうなんだ)
ルルカは、そして、同じように無垢のまま育った牝獺たちは、自分の体についてようやく理解し始
めた。これは女性の体に必ず在るもので、自分の母親にも在るその場所から自分が生まれてきたのだ
と知った。
しかし、牢獄の生活を続けるうちに、どうしてそこからとろっとした液体が滲みだしてくるように
なったのか。自分の体はどうして今、恥ずかしいくらいにその液体を溢れさせてしまっているのか。
この液体はいったい、何なのか。どうして、そこを異物で擦り上げる行為に、快感が伴うのか。まだ
分からないことばかりだった。
『やれやれ、何で俺がお前たちの性教育をしなけりゃならないんだ』
ため息をつくジエルも、貞操観念の強い獺族が性について知るのはずっと成長してからのことだと
分かっている。これは過去に何度も繰り返してきた問答だ。
『どうやってこの穴から子供が生まれるの?』
自分たちの状況も忘れて、三頭の牝獺は好奇心を小さな円い瞳の奥に覗かせる。
ジエルは答えるのに少し躊躇うような素振りを見せた。後から思えば、それを知ることでルルカた
ちの苦しみが大きくなる、と彼は考えていたのだろう。
『お前たちがいつも道具を出し入れしていたところ、あれを膣って言うんだ』
『膣?』
『子供が生まれるときの通り道さ。その更に奥にあるのが子宮、
子供が外の世界で生きられるほど大きくなるまで、母親が自分の体の中で育てる場所だ。
そうだな、ちょうどその焼き印のあたりから上に向かって縦長の肉の袋があるのさ』
『女の子の大事なところ……』
『そうか……。そんな風に教わっているのか』
異口同音に呟いた牝獺たちを、ジエルは憐れみを込めた目で見た。
『私たちの体……どうなってるの?』
一頭の牝獺が、呟くように聞いた。
『発情してんだよ、お前たちは』
ジエルはやり切れない様子で、いつもの乱暴な口調に戻って答える。
『発情……?』
『そんな風に一年中、汁を垂れ流す牝は、お前たち獺族だけだ。
それはいつでも使えますよと言ってるようなものだ』
『使う?』
『そう、そこを使ってお前たちは街の男に奉仕するんだ』
『どんな風に……』
奉仕、というジエルの言葉に一気に不安の気持ちが膨らむ。
これまで何を聞いてもまともに答えてくれなかったジエルが、どうして今になって色々教えてくれ
るのか。それは、ルルカたちにこれからの運命を悟らせるためなのだろう。そう分かっていても、
ルルカたちは聞くのを止められなかった。
『もういいだろう?
この後、すぐ分かることなんだ』
ジエルは、ルルカたちの問いを遮った。
『祖先が近いからと言っても、
獺の言葉を使うのはすごく疲れるんだ』
そう言って、喉を押さえる。
知らなかった。
ジエルの言うことが本当なら、彼はルルカたちの前で悪態をついたり、愚痴を吐いたりするときに
も無理をして獺語を使っていたことになる。どうして、わざわざ──。
(それは私たちが、寂しくないように……?)
その想像が当たっているのか、ルルカには全く確証が持てない。これまでの彼の態度とあまりにも
格差があったからだ。しかし、今、彼が牝獺たちに向けているのは、肉親や仲間たち以外の者から初
めて受けた優しさである、とも思えるのだ。
ルルカははっとしてジエルの顔を見上げた。お礼を言わなくては、と思った。
しかし、言葉に出そうとしても、口がパクパクと動くだけで声にならない。彼の温情に応えようと
する気持ちより、自分に待ち受けているこれからの生活に対する不安の方が勝っていたのか、それと
も疑いを打ち消せなかったのか。
ジエルはルルカの頭にそっと手を置いて、優しく撫でるような仕草をした。
『儀式が始まれば、もうお前たちとは会話ができなくなる。
これが最後の言葉だ』
『え? 今、何て……?』
『儀式は、これからだ──と言ったんだ』
『!?』
『死ぬんじゃないぞ』
ジエルはそう言い残して、ルルカの前から離れた。
ルルカは殴られたようなショックを受ける。ジエルが言っていたように、この後すぐ、ルルカたち
はそれぞれ別の場所、街のどこかへ連れて行かれ、鎖で繋がれるのだと思っていた。恥ずかしい烙印
を押された丸裸の体、その浅ましい姿を街灯の明かりの下に晒されるのが、儀式の締めくくりだと思っ
ていた。
ルルカたちには、さらなる恥辱と、本当の地獄が待っているのだ。拘束用の金属環、毒針、衆目監
視の中での排泄、焼き印──、それらはこれから行われることの準備でしかなかった。
『ジエルは何て言ってたの?』
『まだ……、儀式はこれから……だって』
ルルカの言葉を聞いて、他の二頭の牝獺も絶句する。
三頭はいきなり頬を強く叩かれ、悲鳴を上げる。ジエルと入れ替わりに、豹頭の男たちが立ちはだ
かっており、牝獺たちが会話をしたことを咎めたのだ。
ルルカが彼女たちと言葉を交わしたのは、これが最初で最後になった。牝獺たちは引き離され、鎖
を引かれてそれぞれ三本の柱の前に引き立てられた。
「仕上がりを確認してくれ」
三人の男たちが、それぞれ牝獺の体の検分を始める。大きな鋭い爪の生えた手が、ルルカの乳房を
撫でた。男の手は充分に膨らんだ牝獺の乳房の重量感を楽しむように、持ち上げたり、軽く握り潰し
たりを繰り返す。ルルカの呼吸は次第に荒くなってくる。オトナになって膨らんだ乳房を初めて他人
に触られる感触に怯えるルルカの乳首は、ガチガチに硬くなっていた。
指先が乳首に触れる。敏感になった部分を触られ、ルルカは自分のそこの様子がいつもと違うこと
に驚く。痛みとも快感ともつかない刺激が体を走り、身をビクッとさせた。男の手が刻まれたばかり
の下腹部の傷跡に触れる。チリチリとする痛みに、ルルカは歯を食いしばって耐えた。
そして、無慈悲な指先が、ルルカの股間の柔らかい部分を捉える。触られたことで改めてそこが信
じられない状態になっていることを気付かされる。体の奥から溢れてくるあの液体が、これまで経験
したことがないほど大量に滲み出していた。
しかもそれは、牡獣の指先で、糸を引くほどのねばねばした状態に変質していた。
「──充分な仕上がりだ」
体に熱の溜まった牝獺の体は、ただでさえ興奮し易い状態になっている。そこへ、身も凍るような
残酷な仕打ちを受け、生命の危機に曝された。ルルカたちの身に起こったのは、極限状態に置かれ、
せめて子孫を残そうと生殖機能が活性化するという、牝獣の体の自然な反応だった。ただ、そんな理
屈を彼女たちが知るはずもない。
(これが発情……しているってことなの?)
ルルカたちを取り巻く群衆にとっても、獺たちの身に起きていることを理解する必要はなかった。
憎しみの対象である牝獺たちが浅ましく牡を求めて淫液を滴らせている姿が愉快で仕方がない。誰も
が獺族が貞操観念の強い種族であることを知っているだけに、その侮蔑は倍増する。
淫らな牝獣に対し、口々に嘲笑の声が浴びせられる。
彼らの言葉が分かるルルカばかりでなく、残る二頭の牝獺も、その声の調子から自分たちが蔑まれ
ていることを悟って、惨めさに啜り泣いた。
「あれ、濡れてるんじゃない?」
「うそ、信じられない……」
ルルカの耳に、そんな、同性と思われる声も飛び込んでくる。教わったばかりの「発情」という言
葉の意味はまだ理解できていないが、自分たちの今の状態が恥ずかしいものであることは痛いほど分
かった。
(恥ずかしい……。でも、何で恥ずかしいんだろう……)
裸を見られていること自体が、恥ずかしいと思う。さらに見られることで体が勝手に興奮して息を
荒げてしまっていること。見られれば見られるほど体が疼いて、股間から溢れ出す粘液の量が増す。
そんな自分が恥ずかしい。
ルルカは、やはりあの老クズリのジルフに騙されていたのではないかと思った。性器を常に刺激す
るよう仕向けたあの道具が、自分の体をこんなに惨めにしてしまったのではないか、と。ただ、それ
は結果に過ぎないのかも知れない。ジルフは、ルルカたちが儀式で命を落とさないように、そうさせ
ているのだと言った。
(そういえば、儀式の際に死んでしまうことがあった……、って──?)
ルルカは、それを思い出して身震いする。ジエルも先ほど、死ぬなと告げて去って行った。その儀
式はまだ始まってもいないのだ。これからどれほど恐ろしいことがこの身に降りかかろうとしている
のか──。
群衆のざわめきが収まるのを待って、豹頭の男たちは再び動き始めた。ジエルばかりでなく、ジル
フの姿ももう無い。クズリ族の役目は儀式の準備の段階まで、ということらしかった。それはこの先、
ルルカたちに通訳が必要ないことを意味する。何も知らされず、恐怖に怯えたまま儀式を受けること
も、獺族に対する罰の一環なのだろう。
男たちは三頭の腕を捻りあげ、背中に回して縄で軽く縛る。鎖が柱の頂点に繋がれ、多少の余裕は
あるものの、ルルカたちは腰を地面に落とすことができなくなった。それは性器を守ることをできな
くするための拘束であることに、彼女たちはまだ気付かなかった。
三本の柱の前に、恥丘に卑猥な刻印を刻まれた牝獺が並んだ。
腕を縛られ、胸も股間も隠すことができず恥ずかしさに震える三頭は顔を伏せて恐怖に耐える。
そして、恐れていた瞬間が訪れた。
「準備はできた。始めてくれ──」
豹頭の男の一人が、合図をすると、広場に鐘の音が響き渡った。
怯えるルルカたちの前に、それぞれ一人、立派な体格の男たちが立った。
それは、獺狩りの部隊の中にも、シエドラの群衆の中にも見たことのない種族だった。
原色に近い赤の衣装の男が一人、青い衣装の男が二人。引き締まった筋肉質の体と胸から背中、首
筋を覆う立派な鬣状の毛──。窮屈に上半身を包む衣装の胸元から、自慢するかのように豊かな毛を
剥き出し、ぶかぶかした布製のズボンを着けた下半身には、後ろに突き出した流線形の長く太い尾が
見える。
赤い眼、鋭い眼光のその異種族の男たちに睨まれ、三頭の牝獺はいっそう震え上がった。
豹頭の男たちがお辞儀をして場所を譲る。彼らはこの街の特別な身分の者であるらしい。二足歩行
に適した姿に進化した数々の種族の中で、特別に小柄な獺族と対照的に、突出した身体と能力に恵ま
れた、狼族の男たちだった。
ルルカの前に立った赤い衣装の狼族は、毅然と立つ他の二人と違って、体を屈め、口吻が突き出た
大きな顔をルルカに近付けた。
「俺はくじ運がいいな。こんな器量のいい娘に当たるとは」
落ち着きと気品を帯びた鋭い眼光からは想像できないような言い回しにルルカは驚いた。それでも、
褒められていることが分かり、緊張が解ける。男の低く唸るような声質は、父の声に少し似ていてど
こか懐かしさを感じさせた。
(あっ……)
狼の指先が、ルルカの乳房をそっと撫でた。先ほどの男たちの検分と違う、優しい感触にルルカは
ぞくっとした。それはルルカがこれまでに与えられたことのなかった愛撫の手つきだ。男の指は、
ルルカのどろどろになった股間をまさぐる。
「よく濡れているな。ジルフの考えたっていうあれの効果か……」
その男の指先の動きに、不快感は無かった。怖いのに、どこか安心できるような不思議な感覚が
ルルカを襲った。発情した牝の体が愛撫を求めているのだということを、何も知らないルルカが当然、
意識してようはずもない。もうしばらく触っていて欲しいとルルカは思ったが、男は手を離してしま
う。
ここまでは独り言のように呟いていた男は、ルルカの頭に優しく手を乗せ、ルルカに声をかけた。
そう、それは、はっきりとルルカに向けられた言葉だった。
「俺がお前の相手をする、ウォレンだ。お前は──」
公用語が獺族に通じるはずがないことは、彼も分かっているはずだった。しかし、狼族の気質か。
礼儀を重んじるあまり、そうして名乗りを上げたのだろう。
ウォレンと名乗った男の語りかけがあまりにも自然だったからか、頭を撫でるような彼の手つきに、
先ほどジエルから受けたのと同じ、優しさのようなものを感じたからか。
あるいは、ずっと誰かに聞いて欲しかったのかもしれない──。
ルルカの口は、勝手に動いていた。
「私は、ルルカっていうの──」
はっとして口を噤んだときには、もう遅かった。
公用語で、喋ってしまった──。
男の目が大きく見開き、ルルカに取り返しのつかないことをしてしまったことを気付かせる。やは
り、獺が公用語を話せてはいけないのだ。ルルカは血の気が引く思いで、狼の反応を待った。
「お前……」
そう言ったままウォレンはしばらく冷静さを取り戻すのに手間取っていたようだった。やがて、
ウォレンは、喧噪にかき消されて二人の間でしか聞き取れないくらいの小声で言った。
「ルルカっていうのか……。
いや、答えなくていい。ずっと隠してきたんだろう?
皆に知られたら、大変なことになる」
大変なこととは……?
それを聞こうとしたルルカは、ウォレンの吸い込まれるような真紅の瞳に射竦められ、怯えながら
頷いた。ウォレンの眼光は、ルルカが公用語を口にすることは命に関わるほどの深刻な結末を彼女に
もたらすのだと語っているようだった。
「黙っててやる。俺たちだけの秘密だ。決して他の誰にも知られるんじゃないぞ──」
再び、鐘の音が鳴った。「始めてください」と豹頭の男が、獺の前に立つ三人の狼たちに告げた。
何を──?
不安な表情を浮かべるルルカの口吻をぎゅっと掴んで、ウォレンは声を出すなと念押しした。
「お前が泣こうが喚こうが、これから起こることは何も変わらないんだ」
ウォレンはそう告げて、他の二人の狼たちがすでに始めているのと同様に、狼族の衣装である下半
身を緩く覆う布のズボンの結び紐を緩め、腹部と同じ色の白い毛に包まれた牡獣のシンボルを露出さ
せる。
(……何? これ……)
ルルカはちょうど目の前に突き出された、見慣れない器官に驚愕した。天を向いた白い筒状の毛鞘
の先端に、何かが飛び出してきそうな裂け目が見える。鞘の下には、大きな玉子型の白い毛玉が二つ
ぶら下がって揺れている。
(これも性器なの? 男の人の……)
ルルカは先ほどジエルから教わったばかりの言葉を思い浮かべた。知識を総動員して考えると、
それは子供を胎内に身籠ることと関係しているはずだったが、とてもそうは思えない。性器、という
その言葉に相当する公用語をまだ知らないルルカには、ウォレンに尋ねることもできない。
牡と牝とでは、股間の構造が違うことぐらいは、ルルカもなんとなく知っていた。しかし、獺族の
牡のペニスは、水中での行動に邪魔にならないよう進化したため、普段は僅かに飛び出した突起に過
ぎない。睾丸も体の中に埋没して、外側からはほとんど分からない、つるんとした股間なのだ。
目の前の、あからさまな形状の牡獣の性器に、ルルカは恐怖すら覚えた。この白い鞘の先端から、
おそらくこの牡狼は小便をするのだろう、とルルカは思った。だから、いっそう、何故、今このとき
にそれを出して見せる必要があるのか分からなくなった。おしっこを裸に剥かれたこの体に振りかけ
られ、辱められるのだろうかと思ったが、そうではなかった。
ウォレンの手が、今度は荒々しくルルカの頭部を掴み、自身の股間に引き寄せる。鼻先に、ウォレン
のペニスの先端があった。ルルカは、そこを舐めるように強制されているのだと悟り、そっと舌を出
す。その毛皮の鞘の先端がぴくりと震え、何かが飛び出してくるのを舌先に感じた。
小便をかけられるのではと思い、思わず目を閉じ、しばらくして何も起こらないことを訝しんで目
を開けたルルカは、驚きのあまり、息を詰まらせる。
毛皮の鞘から飛び出した赤い肉の塊が目の前にあった。それは、みるみるうちに大きさを増してい
った。心臓がばくばくと痛いほどに脈打つ。ルルカは突き付けられたその禍々しいものに視線を釘付
けにされた。自分の股間に開いた穴、そしてこの槍のような牡の──性器……。ルルカは、本能的に
それが自分の体に突き入れられるべく、そこにあるのだと悟った。
ただ、それはあまりにも大きい。だんだん自分の置かれた状況を理解し始めたルルカを恐怖が蝕む。
ジルフの指示で股間に収めておくよう渡された道具が、このときのためにルルカの体を拡張してお
くものだったことを知る。しかし、ルルカの鼻先に突き付けられている肉の槍は、これまで体に収め
たことのある道具のうちどれよりもずっと、大きかった。
表面に浮き出た赤黒い血管が散りばめられた、禍々しい形のもの。それは狼族特有の巨大なペニス
だった。
体の底に、妖しい疼きが起こる。ルルカの発情した体が、牡を受け入れることを欲しているのだが、
彼女にその自覚は無い。頭をぶるぶると振っておかしな感覚を振り払った。それどころではない事態
が、目の前に迫っている。
「入れるの……?」
震える声で問う。
「そうだ」
「入らないよ……」
じわりと涙が滲み出る。
「何度も言わせるな。お前の運命は変えられないんだ」
ウォレンはルルカの胸の上の金属環を掴み、「始めるからな」と告げた。
(何を──?)
答えの分かり切った問いは声にならなかった。
ルルカの頬をぽろぽろとこぼれた涙が伝って落ちる。あんなものを入れられたら、お腹が裂けてし
まう──。
近くで上がる他の牝獺たちの絶叫が、ルルカの恐怖を倍増させる。獺語にもならない叫びに続いて、
『痛い、痛い』『助けて』という言葉が飛んだが、この広場で牝獺を取り巻く誰もが、彼女たちの言
葉の意味を理解することはないのだ。
そして、同じことがルルカの身にも行われようとしている。
「優しくはできないからな。
ここに居る者は皆、俺がそうすることを期待している」
ウォレンはいきなり、ルルカの膣に指を突き入れた。体の中を他人に触られる初めての感覚にルルカ
は怯える。狼族の爪が、柔らかい肉の壁をちくちくと刺激した。『痛いっ』と獺の言葉で叫んで、小
声で「痛いの…」と訴えた。
ウォレンはその言葉を無視して、指を引き抜くと、無造作にルルカの片足を掴み、金属環と一緒に
持ち上げた。牝獺の小さな体は、それだけで完全に宙に浮いてしまった。
もうルルカには抵抗のしようがなかった。
何の躊躇いもなく、大きなペニスがルルカの体に挿し込まれた。圧倒的な質量のものが、ルルカの
小さな入口を押し広げながら侵入してくる。太さだけをとっても、これまで体に入れたことのあるも
ののゆうに倍以上はある。いや、もっと──?
焼き印を押し当てられたときと似た痛みがルルカを襲った。今度はそれがじりじりと長く続くのだ。
全く慣らしもせずに、このときになっていきなりペニスを突っ込まれていれば、ショック死をしても
おかしくない痛みだった。ルルカは、ジルフを疑ったことを悔いた。確かに彼のおかげで、ルルカた
ちは死なずに済んだのかもしれない。それ思うほどに股間に感じる激しい痛みは想像を超えていた。
痛みから逃れようとしても、胸の上部に嵌められた金属環をしっかりと掴まれ、股間に大きな楔を打
ち込まれていては、僅かに体を逸らすことすら許されなくなってしまう。
自分の身に何が起こっているのか、混乱する頭では理解のできない牝獺たちだったが、初めての男
性経験がこのような形で訪れることが彼女たちの心を深く傷付けたことに変わりは無い。これほど惨
めな性行為があろうか。衆目監視の中、自分たちだけが裸に剥かれ、拘束され、焼き印まで押された
惨めな体を凶器のような肉の槍で貫かれる。苦しみ悶え泣き叫んでも、誰も救いの手を差し延べよう
とはしない。それどころか、牝獺たちの呻きを掻き消すように、大きな歓声が上がる。
憎き獺族が苦しんでいるさまが愉快なのだ。
止めようのない痛みが断続的に体を襲い、ルルカはそれをひたすら耐えねばならなかった。
体に異物を押し込まれているだけで、勝手に胸がはぁはぁと激しく喘いだ。子供の頃、野原を全力
で駆け回って、それ以上走れなくなってひっくり返ったときのように、全身が新鮮な空気を求めてい
た。
頭がぼーっとしてくる。そのまま意識を失いそうになったが、苦痛から逃れることは許されなかっ
た。ウォレンの手が、ルルカの頬を軽く叩き、正気付かせる。
「体の力を抜け。本当に辛いのはここからだ」
「えっ?」
思わず、苦痛を感じている部分を覗き込んで、ルルカはすぐに後悔した。先ほど見た恐ろしい長さ
の牡の性器は、まだ半分も体の中に入ってはいなかった。
ウォレンはルルカを胸の環だけで吊り上げ、腰を上下にゆっくり揺らし始めた。肉の楔が槌で叩き
込まれるかのように、ルルカの体内に突き刺さる。更に強い痛みがお腹の中心部に沸き起こった。
(やめて……)
ルルカはウォレンが何をしようとしているのか理解した。彼の股間から突き出したものの先端は、
ちょうど今、刻まれた焼き印の下あたりを抉っているのだ。そこはジエルが、そして、かつて母が教
えてくれた、子供を宿す女性の神聖な器官があるところ──。
獺族は水中で活動するため、、他の二足で立つ種族のような筋繊維に包まれた子宮と違い、四足獣
に近い原始的な縦長の子宮を持っている。重力に対抗する必要がないため、子宮口も他の種族ほどし
っかり閉じているわけではない。
狼族の巨大なペニスの先端が、これまで開いたことなどない若い牝獺の子宮口を割っていた。牝獺
たちのそこは、異物の侵入をあっさりと許してしまった。体を引き裂くような痛みが走る。それは堪
える術がない恐ろしい痛みだ。
体の奥を激しく突かれ、抉られながら、牝獺たちはこの儀式の目的をおぼろげながらに感じ取った。
獺族の命を繋ぐその場所を穢し、彼らの尊厳を貶めること──。
牡狼たちが腰を突き出す度に、牝獺の子宮は拡張され、牡の欲望を流し込む容器として造り変えら
れていった。体の奥で何が起こっているのか、ルルカには分からなかったが、突き上げられる度に走
る痛みが、取り返しのつかない変化を体にもたらしていることに薄っすらと気付き、嗚咽した。
ウォレンが腰の動きを止めると、近くに居た男たちが、柱からルルカを拘束していた鎖を外し、手
を縛っていた縄を解いた。ルルカは思わず自分に苦痛を与える大きな牡獣の胸に、短い前足で必死に
しがみついた。何かにしっかり抱き付いていないと、繋がった部分が引き攣れを起こすように痛むの
だ。ルルカは獺族の鋭い爪──水中で魚を捕えるために発達した強力な武器──を狼の体に突き立て
ていた。
このときでなければ、血を吐くほど殴られてもおかしくないルルカのその行為を、ウォレンは黙っ
て受け入れていた。それは、この地獄の儀式の中で牝獺に僅かに与えられた慈悲のようでもあったが、
牝獺がそういった抵抗を見せることは織り込み済みである。狼は、ただ寡黙に、自分の責務を果たそ
うとしているだけだ。
しばらくの間は好きにさせていたが、ルルカの荒い呼吸が多少落ち着くのを見計らい、ウォレンは
彼女の体をしっかり掴むと、小さな獺の腕を体から引き剥がし、ぐるりと半回転させた。
『ん……ぐっ』
体の中で、大きな質量を持ったものが回転し、内壁を擦り上げる。
体に突き刺さった牡の性器としっかり掴まれた金属環でウォレンの正面に体を固定されたルルカは、
膣口のすぐ内側でウォレンのペニスの根本が大きく膨らんでゆくのを感じて、悲鳴を上げた。足をば
たばたさせて逃れようとしたが、それを止めることは叶わなかった。
(もうやめて……)
次から次へと、信じられないような災厄が身を襲った。狼族の牡の性器は牝の体に挿入された後、
根本にある巨大な瘤状の膨らみで固定され、射精が完全に終わるまで繋がったままとなる。そんなこ
とをルルカが知るはずもなかった。ルルカはそれが二度と抜けなくなってしまったのではないかと
思った。
他の二頭の牝獺も、ルルカと同じように牡狼に体を完全に貫かれ、数倍ほどにも見える体格の牡獣
の体の全面に磔のようにされてしまっていた。
狼たちは牝獺の胸の環を体に引きつけ、憐れな小さい獣の裸身を観衆の前に晒す。狼は見せつける
ようにゆっくりと体を回転させ、ふっくらと膨らんだ成熟した牝獣の乳房がゆらゆらと惨めに揺れた。
恥ずかしかったが、牝獺たちは、獺の心得を思い出し、腕をだらんと垂らして、胸を隠さないように
努めた。
下腹部には、赤く腫れた傷跡で描かれた牝の性器を表すマーク。すぐその下にある本物の性器は、
太い楔を打ち込まれ、限界に近いほど広げられていた。両足は引き攣るように左右に開き、あまりに
も受け入れているものが大きくて閉じることができず、恥ずかしい結合部分を余すところなく晒して
いる。
視線を落としたルルカは、自分のお腹が異様な形に膨らんでいるのを見た。巨大な狼族の男性器が
内臓を突き上げ、体の半分ほどまで埋め込まれているのだった。
焼き印の形が不自然に歪んでいる。体内のその位置にある子宮も、当然、原型を保っているはずが
なかった。
打ちひしがれたルルカを、更なる絶望の予感が包んだ。上半身を屈め、ルルカの肩越しにふっふっ
と荒い息を吐きながら、体を小刻みに震わせるウォレンの様子は、何かが差し迫っていることを示し
いていた。
次に起きることは……。
ルルカは自分の体に押し込まれているものが、小便を出すところだということを思い出し、ぞっと
する。
「……おしっこ、するの……?」
身を捩ってウォレンを見上げ、小声で尋ねる。
「おしっこか……、そうだな、お前たちにとっては似たようなものだ」
ウォレンは事もなげに答えると、いきなり体を大きくぶるっと震わせた。
熱い液体が、激しい飛沫をあげてお腹の中に満ちてくる。
『うわあぁぁ……』
信じたくない出来事だった。体の中に排泄されている──。
『やめて、やめてっ!!』
頭を振り乱し、泣き叫ぶルルカの胎内を、不浄な液体が、内側から汚していった。新しい命を育む
ための場所が惨めに穢されてしまった。
(お母さん、ごめんなさい……。こんなことになるなんて──)
お腹の中におしっこをされてしまった。
小さい頃から何度も聞かされてきた、獺族の誇り。逃亡生活を余儀なくされながらも、誇り高い種
族であると──。そんなのは嘘だった。いや、「嘘にされて」しまった。
焼き印を押されたときは家畜の身分に堕ちたことを思い知った。今の自分は、それよりももっと惨
めな、家畜以下の存在だ。
狼の射精は、最初のうちの勢いはしばらくして衰えたものの、断続的に延々と続く。射精を続けな
がら、ウォレンは膝をつき、ルルカの体を石畳に降ろした。
大きな狼族の手が腹部に当てられ、ルルカはそこが流し込まれた液体でパンパンに膨らんでいるこ
とを思い知らされた。手足が地面に触れると、ルルカは屈辱と恐怖に震える体で、それでも必死に逃
げようと地面を掻いた。
(どうして……!?)
もう体のどこも掴まれていない。それなのに、どんなにもがいても前に進まなかった。
(ああ……、性器が──)
ルルカは思い出した。先ほど、体の中で感じた恐ろしいほどの圧迫感。
牝獺と牡狼の性器は密着していた。いや、牡狼のそのペニスの特殊な構造が、牝の体を繋ぎ留めて
いた。行為の全てが終わるまで、相手を逃がさないのだ。この儀式を行うのに彼らが適任である理由
が、この特徴的な射精にあった。愛し合う同種族の者にとっては愛情を育むこともできるその仕組み
は、小さな牝獣の体を凌辱し尽くし、絶望を与えることにも最大限の効果を発揮していた。
「"練り込み"を始めてください」
ルルカたちの耳には無機質な響きに聞こえる公用語で、豹頭の男が狼たちに告げた。
短い手足で四つん這いの姿勢にさせられた牝獺に、ペニスを挿入したままの狼が、後ろから体を押
し付けている。その腰が、二・三回ゆっくり動いたかと思うと、前後に激しく揺さぶられ始めた。獺
たちの小さなお尻も、その動きに合わせて振り回される。
三頭の獺の甲高い悲鳴が広場に響き渡る。
これが、"練り込み"という儀式の行程の一つで、牡のペニスを牝獺の体に馴染ませるための行為だ
った。この後、シエドラでの過酷な生活を迎える牝獺たちにとっては、早めに慣らされておくという
意味では、むしろ有難いことであったが、今の彼女たちにはそんな理屈は救いにならない。
精液で膨らまされた子宮をさらにペニスの先端が何度も抉り、激しい痛みが与えられる。気絶しそ
うになり、また痛みで目を覚まされることの繰り返しに牝獺はいっそこのまま殺して欲しいとまで思
った。しかし、しばらくしているうちに、牝獺たちは恐ろしいことに気付く。
頑丈なことが取り柄の獺族の体は、徐々にこの陰惨な状況にすら慣れてきていた。子宮が牡の形に
馴染んできたためか、お腹に感じる痛みは次第に和らいでいく。
ただ、それでももう一箇所、刻まれてまだ間もない焼き印の火傷の跡に、狼族の大きな睾丸が打ち
付けられる痛みは薄れることなく、ルルカたちを苦しめた。その位置に刻まれた印は、こうして犯さ
れる度に獺たちに身分を思い起こさせるためのものでもあるのだ。
豹頭の男たちが新たな合図を出し、ルルカたちは狼に犯される姿のまま、観衆の検分を受けること
になった。様々な種族の街の住人が、男と言わず女と言わず、ルルカたちの体に触れる。その瞬間だ
け狼は腰の動きを止めた。憎しみを込めて乳房や頬を平手で打つ者が居れば、牝獺の腹部に手を当て、
その小さな体の中に吐き出される射精の脈動を感じ取ろうとする者も居る。
皆、獺族の惨めな姿を確かめると、満足そうな表情を浮かべて離れていく。
一時間ほどの時が過ぎた。
最後にまた体の奥に勢いのある液体の射出──、狼族の体内で交尾中に生成される大量の前立腺液
が吐き出されるのを感じながら、ルルカは疲れ果てた体をぐったりと地面に横たえていた。お腹がさ
らに膨れ上がったが、もう嘆く気力も無かった。
体からウォレンのペニスが引き抜かれ、代わりに大きな木製の球が股間に押し込められる。
ウォレンの声がぼんやりと聞こえる。
「この娘はどこに?」
「この広場担当だ。後ろの壁に繋ぐ予定だ」
「そうか、可哀想にな……」
何が、どう可哀想なのだろう──。
顔を起こすと、ウォレンの姿はもう無かった。ジエルも、ジルフも、知った顔はどこにも居なかっ
た。
「見ろよ、精液でぱんぱんだ」
(セイエキ……?)
「狼族の精液が、こいつらの体を変化させるらしい」
「へえ〜」
(変化って……、どういうこと?)
ルルカの膣には、流し込まれたものがこぼれ出さないように、狼の性器の根本にある膨らんだ瘤と
同じか、少し大きいくらいの球が挿入されていた。同じ大きさの球が、三頭の獺たちの口にも押し込
まれ、ベルトで固定される。獺同士、互いに言葉を交わすことが禁じられたのだ。
まだ空には闇が広がっていたが、広場に集まった群衆も今ではまばらになり、儀式の終焉を告げて
いた。しかし、ルルカたちの悪夢はまだ終わりではない。
広場の中央にある噴水。その池の縁に新たに三本の柱が立てられた。上部には横木が十字に組まれ、
下へ目をやると、池に向かって鳥の止まり木のように棒が突き出している。
下部の棒に目の粗い布が巻かれた。そこはちょうど牝獺の股間が当たる部分になるのだ。三頭の牝
獺は、改めて柱に固定された。横木には腕を左右に開いた形で縄がかけられた。両脚は拘束されなか
ったが、宙に浮いた状態で足先が掛かる場所もなく、だらりと垂らすしかない。
尾はきつく柱に縛り付けられる。その先端が地面に触れるかどうかという高さで、三頭は身動きが
取れない姿にされた。体は噴水の方へ向けられている。観衆に対し晒し者にするのが目的ではないよ
うだった。
広場から、人々の気配が消えていく。ルルカたちは、裸身を磔にされ、噴水池の前に放置されたの
だ。
街灯が照らす広場から見上げる月の無い空は、漆黒の闇に見えた。
噴水の水は止められており、風も無く、鏡のようになった池が目の前にある。牝獺たちは、惨めに
変形させられた己が身体を水面に眺めながら、明け方までの時間を過ごすことになる。
それは彼女たちの中に残った僅かな尊厳の残滓までも奪い去ろうとする仕打ちだった。
荒い呼吸に合わせて上下に揺れる剥き出しの乳房。二度と外すことのできない、不気味な銀色の金
属の環。まだちりちりと痛む、卑猥な模様の描かれた焼き印の痕。精液で膨らまされたままの子宮──。
一生覆い隠すことの許されない、惨めな牝獺の日常の姿がそこにあった。
性に疎い獺の娘たちは、まだ体の中に小便を排泄されたと思っている。大きな木製の球で膣口を塞
がれ、その液体を胎内に留めておくよう強制される屈辱に喘いだ。それが体に染み込んでくる想像に
囚われ、身悶えた。
ルルカだけは、それが精液というものだと男たちの会話から聞き知っていた。狼族の精液が体を造
り替えるという、街の男たちの会話が気掛かりだったが、口に嵌め込まれた球に阻まれ、他の二頭に
それを伝えることは叶わなかった。
さすがに疲れが出たのか、眠気が襲ってくる。ルルカは、淡い恍惚に包まれていた。既に恐ろしい
体の変化が始まっていることを、彼女は知らない。ぼんやりと、いつかジエルにお礼を言わなくちゃ、
と思った。湧き上がるその気持ちが、今置かれた状況から逃れまいとする悲しい心の動きだとは、
ルルカ自身は思わない。
大事なのは、気持ちを表す言葉──、何度も母にそう言われていた。ルルカは、素直にありがとう
と言えなかった自分を責めた。
(間違いない。ジエルはきっと、私たちが寂しくないように無理をして獺の言葉を話していたんだ──)
しかし、その彼自身の言によれば、クズリ族が牝獺と会話をすることはもう無い。
ルルカが彼に礼を言う機会は、どれだけ願おうとも、決して訪れないのだった。