【6】 −おさかな−  
 
 青い衣装の狼族の男は、広間に集まった者すべてに見えるように、連れてきた牝獺を胸環で掴んで  
ぶら下げ、突き出した。美しく愛らしい獺の娘がもう一頭増えたことに、観衆は「おおっ」と歓声を  
上げたが、ルルカとウォレンだけは時間が凍り付いたかのように身を固くして言葉を失った。  
 ルルカに瓜二つのその牝獺の様子は、尋常ではなかった。  
 彼女はただ、ぶら下げられているだけなのに、はぁはぁと荒い呼吸をしていた。口はだらしなく開  
いて舌が飛び出している。眠っているかのように閉じられた目は、その部分だけを見ると喜んでいる  
風にも見える。頭は脱力して傾いており、つるりと長い獺族の胴も太い尾も、吊るされるままにぶら  
ぶらと揺れているのだが、両腕は緊張して乳房の横に引き付けられ、両足もぴんと突っ張ったように  
左右に広げられているのが、如何にも不自然だ。意識はあると思われるのに、彼女はその場に居るも  
う一頭の牝獺──ルルカを見ようともしなかった。  
 股間から漏れ出た液体が、尻尾までベトベトに濡らしている。その牝獺が激しい興奮状態にあるこ  
とは一目瞭然だ。  
 彼女のきれいな形の乳房。その先端に飛び出た乳首の先で、銀色に光る小さな環が呼吸に合わせて  
揺れていた。  
(あれは……何?)  
 ルルカは自分の乳首がきゅっと摘ままれるように感じた。視線を落とせば、同じ金属の環がもう  
一つ、股間にもぶら下がっている。  
(どうして、あんなところに──?)  
 牝獺は、時折、ビクビクッと体を震わせた。  
 
 一時、唖然としていたウォレンは慌てて、ルルカの視線を遮るようにしながら、ルルカの顔を胸に  
押し付け、抱きかかえた。  
「俺たちは、帰らせてもらうぞ」  
 青い衣装の狼族は、ウォレンが苛立っている様子に首を傾げて言った。  
「何言ってんだ。大事な行商の連中だろ、顔繋ぎしてもらわなきゃ困る」  
 ウォレンは諦めて男の言葉に従ったが、あの牝獺をルルカに見せたくないことはルルカにも伝わっ  
てくる。ルルカの息が苦しくなるほど彼女を自分の胸に強く押し付ける。  
(ウォレン、私は──)  
 ウォレンが強引にルルカを連れ帰ろうとしても、ルルカ自身はその場を離れようとしなかっただろ  
う。男にぶら下げられた牝獺が何をされたのか、知らぬままでは居られなかった。  
 馴鹿族の男たちに同族の狼を紹介したウォレンは、さりげない仕草で、ルルカを床に立たせると、  
ルルカがうっかり言葉を発しないように、短い獺族のマズルをそっと掴んだ。もう一方の手で目を覆  
い隠す。ウォレンはルルカのためを思ってそうしたのだろうが、逆効果だった。  
「さて、こちらの牝獺は、"加工済み"だ。  
 そうだな、街の二割ほどの牝獺がこの状態にされている。  
 こっちを好んで使う者も多い」  
(加工済み──?)  
 男の不気味な言葉が耳に突き刺さる。ウォレンも、ルルカの耳を塞ぐわけにはいかない。彼女が公  
用語を聞き取れることが知られてしまうからだ。  
 その青い衣装の男に悪気があったわけではない。彼はルルカに言葉が通じるなどとは思いもしな  
かったのだから。彼はウォレンにも見える位置に立ち、馴鹿族の男たちに説明を始めた。ルルカはこ  
れまで考えたこともなかった、シエドラの牝獺が迎える運命について、聞かされることになる。  
 
「交尾を繰り返すと、体の頑丈な獺族とはいえ、膣が緩んでくる。  
 どの牝獺も、いずれはそうなる。  
 殴ってみても締め付けが良くなるわけじゃないから、  
 使用感が悪くなってきたら、我々に伝えてくれ。  
 頃合いを見て、"加工"する──」  
 男の指先が牝獺の乳首のリングを摘み上げた。牝獺はかすかな声で、チィと可愛く鳴いた。ルルカ  
にはその意味がはっきりと判る。それは、官能を刺激されて出る喘ぎ声だ。  
「これを付けられた牝獺は常時、性感帯を刺激され、こんな風に……」  
 男は、牝獺の体を揺すって見せる。牝獺はチィチィと繰り返し鳴き、荒い息を吐いて喘ぐ。手と足  
だけを緊張させたポーズで、牝獺はぶらぶらと揺られた。  
「ほとんど動けなくなる。歩いただけで感じてしまうんだからな」  
 ルルカは、ウォレンに押えられた口の中で、小さな悲鳴を上げた。目を塞がれていることで、却っ  
てルルカの恐怖は大きくなった。  
 あの娘の体に着けられた三つの金属リング、──あれは、体の何処に着いてるの?  
 胸のリングは乳首の根本を貫通しているのだろう。そちらは一瞬目に飛び込んできただけでも、  
はっきりと分かった。問題は股間に見えた金属の光だ。乳首を貫いているのと同様のリングに見えた。  
あんなところにどうやって装着されているのか。  
 その疑問に対する答えはとっくにルルカの中で出ていた。きっと間違いない。さっき、ウォレンに  
触られたあの小さな突起に、金属の環が貫通しているのだ。  
 恐ろしく敏感な部分──。ウォレンに優しく触られただけで、快感でおかしくなりそうだった。あ  
んなところに穴を開けられ、金属のリングを通されたら、男の言う通り、一日中あの突き上げるよう  
な快感に包まれて過ごすことになるだろう。歩けなくなって当然だ。  
 
「食事や排泄くらいは自分でできるから、面倒なことはない。  
 これを着けられると、牝獺の膣は常時、痙攣したように動くんだ。  
 挿入されていようがいまいが、寝てる間もずっとだ。  
 間隔や締め付けの強さは個体によって違うから、  
 それだけ色んな感触を楽しめる」  
 男は、牝獺の片足を持ち上げ、性器を晒す。そこは、牝獺が体を震わせるタイミングに合わせ、  
キュッとすぼんでは、まただらしない口を開き、淫らな液体を垂れ流した。  
 見えなくとも、ルルカには毛皮の擦れる音や牝獺の荒い息によって何が起きているかはっきりと想  
像できた。痴態を演じる主は、自分とそっくりな顔立ちの獺の娘。それを思うと、ルルカまでもが恥  
ずかしくなって、顔がかあっと熱くなる。  
 狼族の男は、ウォレンが馴鹿族たちを前にそうしたように、牝獺の紹介を始めた。その細かな内容  
はルルカの耳に入っても右から左へ抜けてしまい、頭に残らない。牝獺の激しい喘ぎ声ばかりが、  
ルルカの意識に飛び込んでくる。  
 青服の男は、自慢げに、牝獺の滑らかな被毛を撫で、形のいい乳房に手を添えて馴鹿族の男たちに  
見せつけているようだった。ウォレンがルルカの乳房を愛撫したのと同じように。  
 ルルカは、自分がそうされているような錯覚を受ける。興奮に包まれて我を忘れていたあのときの  
自分も、彼女と同じような喘ぎ声を立てていたのかと思うと、ルルカはまた恥ずかしくなった。  
 
「ウォレン、その獺を貸せ。彼らに見比べてもらう」  
 ウォレンに対する男の依頼に、ルルカは飛び上がりそうになった。ウォレンは素早くルルカの目と  
口を覆っていた手を離し、肩を強く押えた。そのことは、言葉が通じることに気付かれないよう、  
ルルカに念押しをする効果があった。ルルカは叫びだしたくなるのを抑えて、必死に平静を装った。  
何も分からない振りをしようと努めた。  
 男が一歩踏み出して、ウォレンに手を差し出していた。ルルカを繋いでいる鎖を手渡せと言うのだ。  
(やめて、ウォレン、渡さないで……)  
 ウォレンは黙って手を伸ばし、男の手に鎖の端を受け渡した。  
(どうして、ウォレン……)  
 それは、ルルカの秘密を隠そうとしてくれているウォレンにとってそうせざるを得ない行動なのか  
もしれない。ただ、ルルカには無慈悲極まりない結果をもたらす行為だった。鎖を引かれれば、ルルカ  
は男がぶら下げている牝獺に歩み寄ることになる。彼女の体にどのような"加工"が施されているのか、  
ルルカがそれから目を逸らし続けることは不可能だった。  
 男は躊躇せずにルルカを引き寄せた。言葉の出せない種族は家畜と変わらぬ存在であることを思い  
知らされる。ルルカは恐ろしさに震える足を気付かれないように、ゆっくりとした足取りで従順な獺  
が鎖に引かれる様を演じた。そんな気遣いをしている自分に、気がおかしくなりそうだった。男は  
ルルカが状況を理解していると思っていない。だからルルカに残酷な現実を見せ付けることに何の感  
慨も無いのだ。  
 男が片手で鎖を短く詰めると、引かれたルルカの顔は思わず上を見上げる。ルルカの目に、横向き  
になったもう一人のルルカの乳房が飛び込んできた。  
(ああ……)  
 乳首を金属の環が貫通しているのは予想していた通りだったが、さらにその根本、桃色の肌が露出  
した乳輪と毛皮の境目あたりにも小さな金属の球が光っていた。歪められた乳房の先端を見詰めてい  
るうちに、それが乳輪を真横に貫く金属棒の両端に固定された球だと気付いた。そこがいつも刺激さ  
れるようにするため、シエドラの民が重ねた工夫の産物だ。  
(なんてむごいことを──、あっ!)  
 足を止めたルルカを寄せようと、男は鎖を強く引き上げた。前のめりに足を踏み出したルルカと、  
男が腕を振り上げる反動で正面を向いたもう一頭の牝獺が鉢合わせになった。  
 ルルカは息を飲む。目の高さにちょうど、吊り下げられた牝獺の下半身があった。  
 目の前に牝獺の可愛らしい肛門があった。桃色の放射状の襞は、膣から溢れ出した液体で表面を覆  
われてきらきらと光を反射した。同じものを体に持つルルカも、思わず見惚れてしまう美しさがそこ  
にはあった。  
(私も、いつもこんな風になってるの?)  
 いや、違う、と思った。その愛液の量は尋常ではなかった。肛門ばかりか、尾全体の毛に染み渡る  
ほどに流れ出しているのだ。  
 ルルカの視線は、ゆっくりとその源流に向かった。脳裏に、先ほどのウォレンの顔が浮かぶ。  
「ルルカ、見るな」という聞こえるはずのない声がもう一度、聞こえたような気がした。それでも、  
ルルカの視線はその部分に吸い寄せられていた。  
 薔薇の花びらのように赤く染まった肉の襞が大きな口を開け、暗い穴の奥から止め処ない液体を湧  
出させている。その頂点に赤い宝石のような珠があった。それはウォレンの指で刺激され、ルルカを  
悶え狂わせたあの部分だ。"加工"が施されていなければ、ルルカは自分の体にもそのような綺麗な果  
実か宝石かと思うほどの器官が存在することに驚いただろう。しかし、それは無惨に造り変えられて  
いた。股間に見えた金属の光。それは、牝獺の陰核の根本を横に貫く金属のリングが放つ光だった。  
 
 全身の力が抜け、崩れ落ちそうになったルルカの胸環を男が掴んで吊り上げた。先ほどウォレンの  
指示で排尿をさせられていなければ、ルルカは小便を漏らしてしまっていただろう。しばらく男たち  
の会話を夢うつつに聞いていたルルカを、突然、恐ろしさが蝕み始めた。ルルカは現実から目を背け  
るように目を瞑った。同じように目を閉じて喘ぐ、自分とそっくりな牝獺がすぐ隣に居る。青い衣装  
の狼族の手で、二頭一緒にぶら下げられているのだ。  
 もう一人のルルカ──彼女の身に行われた施術を思うと、ルルカは胸が痛んだ。どんなに恐ろし  
かったことだろうか。激しい痛みとともに体に次々と通されていく金属の環──。  
 
「少し触ってみるといい。ほら」  
 男はウォレンにそう言った通り、馴鹿族の男たちに"加工済み"の獺とまだ加工されていない獺を比  
べさせるつもりだった。  
「これはどうやって体に着けているんだ?」  
 誰かが隣の牝獺のリングを指して言っている。  
「穴を開けて通しているんだ」  
 やっぱり──。  
 ルルカは身を捩りそうになるのを必死で堪えた。思わず乳房を手で覆ったり、股間の痛みを想像し  
て両足を擦り合わせでもしたら、ルルカが彼らの言葉を理解しているとばれてしまう。  
「着けたら二度と外せないのか?」  
「一度着けたら、一生このままだ。  
 工具を使えば外せるだろうが、獺族の手では、無理だな」  
「相当、痛いんだろう? こういう飾りを成人の儀式で着ける種族を知っている」  
「そりゃあ、聞いたことのないような悲鳴を上げるものさ。  
 ただ、痛いのはそのときだけだ。すぐに快楽の虜になる。」  
 聞いたことのない悲鳴──、それはあの忌まわしい焼き印を押されたときより強い痛みに襲われる  
ということだろうか。  
 突然、下腹部のその焼き印をつつかれ、ルルカはドキッとして目を開けた。隣の牝獺の広げた足の  
先が当たったのだ。  
 そうだ、とルルカは思った。言葉が通じないと彼らが思っているのなら、少しくらい獺語の会話を  
しても大丈夫だろう。馴鹿族は獺の言葉を聞いたこともないのだし、狼族の男は両手が塞がっていて、  
ルルカたちを咎めようにも大したことはできないはずだ。  
『大丈夫?』  
 ルルカは小声で尋ねた。返事はない。  
『私はルルカ。あなたの名前は……?』  
 もう一頭の牝獺は激しく喘ぐばかりで、言葉を交わすことはできないようだ。それほどまでに強い  
刺激を受け続けているのだろうか。ルルカが諦めようとしたとき、う……っと小さくうめき声が聞こ  
えた。やはり、彼女には意識があるのだ。  
『話せるの? あなたは──』  
 ルルカの問いに、牝獺は小さな声で何かを言った。『ミルカ』と聞こえたような気がする。  
『ミルカ……? それがあなたの名前……なの?』  
 ミルカという名前らしいその牝獺は、再び激しく喘ぎ始め、それ以上は何も答えなかった。  
 
「本当にこっちの牝は動けないのか?」  
 男たちは、体の敏感な部分にリングを通された牝獺を興味津々に見ていた。先ほどはこんなに小さ  
な体なのに男たちのペニスを受け入れるシエドラの牝獺──ルルカの体にひとしきり感心したばかり  
である。北方の一族の好奇心は膨らみ続けていた。  
「信じられないな」  
「だったら、確かめてみるかい?」  
 狼族の男は、ルルカともう一頭の獺、ミルカの体を自由に触らせると言った。  
 すぐに無数の手が、ルルカたちの体に伸びてくる。乳房を荒々しく揉まれ、膣や肛門が押し広げら  
れた。恥ずかしい体の内側の粘膜までが男たちの好奇の目に晒される。  
「お尻の穴はどちらの牝も可愛らしいな」  
「本当、これが使えないというのはつくづく惜しい」  
 肛門に指先が押し付けられ、先ほどの激しい凌辱を思い出したルルカは恐怖に包まれ、また目を閉  
じた。男たちは、二頭の牝獺の体を弄びながら品評を始める。  
「おっぱいの形もそっくりだが、こっちの牝の方が柔らかいな」  
「それだけ使い込まれてるんだろう」  
「それにしても、すごい蜜の量だ。これが"加工"の効果か……」  
 ミルカは断続的に『ああっ』と喘ぐ。  
(ミルカ……、気持ちいいの?)  
 ルルカには、ミルカが感じているであろう快楽がどの程度のものか分からなかった。男たちに触ら  
れただけでこんな声を出すのだろうか。自分は、気持ちいいなんて思ったことはなかった。先ほどの  
ウォレンの愛撫を除いては……。  
 男たちが面白がってミルカの乳首や陰核を貫くリングを引いて刺激する。ミルカはさらに激しく喘  
いだ。これが、体に金属の環を通された効果なのか──。ルルカは自分もこんな風になってしまうの  
かと恐ろしくなった。ミルカに対する評価はそのまま、近い未来のルルカに対するものだ。  
「本当だ、こっちの牝はこれだけ鳴いてるのに、この恰好のまんまだな」  
 ミルカと同じように、ルルカの敏感な突起もこね回された。ルルカは身を捩って避けようとする。  
「こっちは反応がいいが、鳴かないな」  
「そっちの牝はあまり感度が良くないと聞いているが」  
「さっきの狼が弄ってたときはいい声で鳴いていたんだがな」  
 男たちの指が、股間の敏感な突起に集中する。ルルカは体がかっと熱くなるような恥ずかしさを感  
じたが、ウォレンに触られたときのような快感は無い。火傷の痕を撫でられるような痛みに似た感覚  
に涙を滲ませる。やがて、指は嫌がるルルカの膣に潜り込んできた。隣のミルカも同じようにされて  
いるみたいだ。  
「こっちの牝はすごいぞ」  
「中がヒクヒクしてる……」  
 
 指が抜かれると、狼族の男は二頭の牝獺の体を床に降ろす。ルルカは足が着くとなんとか自分で立  
てたが、ミルカは両足を開いたポーズのまま、床にごろんと倒れた。  
(本当に、動けないんだ……)  
 自分もいずれ彼女のようになるのかと思うとぞっとする。男がウォレンの方へルルカを押しやり、  
ルルカはふらふらとよろめくようにしながら、ウォレンの足元に辿り着き、そのまま支えを求めて彼  
の大きな足に抱き付いた。  
「さて、どっちがいいのかな。じっくり比べてみたいところだが……」  
 その馴鹿族の言葉は、遠回しに二頭とも使わせろと要求しているのだ。青い衣装の狼は困った顔を  
した。まだ交易証が発行されていない彼らは、"おつとめ"で提供される牝しか使えない。  
「残念だが、このお披露目では一人一回と決まっている。  
 じゃあ、こうしよう。残りは何人だ?」  
 八人の男が手を挙げる。  
「じゃあ、二人が先にこいつを使う。  
 残り三人と三人で同時に二頭の牝獺を使うんだ。それで比べればいい」  
 ルルカは男の提案に愕然とする。残りの八人をすべてミルカに押し付けて自分は助かろうというつ  
もりはないが、体が先の凌辱劇を覚えていて、震えが止まらない。  
「いいだろ、ウォレン。十分休ませてあるんだろう?」  
「ああ……」  
 ウォレンがルルカにしてやれることは、その小さな頭にそっと手を当てて抱き寄せることだけだ。  
ルルカをここから連れ出す口実が無かった。  
 
「今から、こいつを使ってもらう。  
 さっきの牝獺との具合の違いを確かめてみてくれ」  
 男がまた、ミルカの体を宙に吊るした。こいつはいいぞ、と男は言う。ウォレンがルルカを紹介し  
たときのように、彼も自分が連れてきた牝獺を自慢しているように聞こえる。  
 馴鹿族の男たちは、先を争って牝獺に手を伸ばすかと思われたが、さきほどの狂乱の反省からか、  
冷静さを装って質問を始める。  
「加工ってことは、やはり、生のままの方がいいんじゃないのか?」  
「元が良ければ、加工をすればもっと良くなる」  
「そんなに良いなら、街に居る獺、全部加工してしまえば……?」  
 ルルカは耳を塞ぎたくなったが、それはできない。  
 そして、一番聞きたくなかったことが、狼の口から語られてしまった。  
「加工された牝獺は、寿命を縮めることになる。  
 そうだな、牝獺の最期についても説明しておこう──」  
 ルルカを押さえるウォレンの手に力が籠る。おそらく彼がルルカに一番聞かせたくなかったもこの  
ことだ。ウォレンがルルカを連れて先に帰ろうとした理由が分かった。惨めに変えられたミルカの姿  
は、いずれルルカ自身が身をもって知ることだ。ルルカがミルカと違うのは、公用語を理解できてし  
まう、ということだ。  
 
「それは、何の前触れもなく起こる。  
 獺族の体も、過酷な生活に耐えられなくなるんだろう。  
 見た目には若いままなんだ。そのまま体が突然、"硬直"を始める。  
 手も足もガチガチに固くなって動かなくなる。  
 内臓は逆に緩んで食事もまともにできず、かろうじて声が出せるだけだ。  
 そうなったら、もう助からない」  
 膣も──、と男は続けた。性器も緩んで使い物にならなくなる。それは、シエドラにとってその牝  
獺の存在価値が無くなるということだ。  
「我々は、牝獺に二つの選択肢を与える。  
 通訳を通して、選ばせるんだ。  
 獺槍で突かれて死ぬか、通訳に教えられた通りの公用語で、  
 シエドラで生かされたことへの感謝の言葉を口にするか、だ。  
 ほとんど全ての牝獺が、拙い発音で感謝の言葉を述べる。  
 彼女たちの心臓には、特製の毒針が打たれる。  
 この針は痛みを感じないように細く、丹念に磨いてある。  
 せめてもの慈悲というやつだな。  
 そして、針を打たれた獺は安らかな死を迎える。  
 これが、シエドラの牝獺の最期だ──」  
 
 ルルカがその言葉を理解していると思っていないだけに、男の説明は躊躇いが無かった。そして、  
ルルカにとってこれ以上残酷な宣告はない。  
 体がガタガタと震える。ルルカの体を造り替えてしまったあの恐ろしい儀式のときに感じた以上の  
恐怖がルルカを襲う。おそらく、あの儀式のときに正気を保てたのは、シエドラに捕らえられた獺は  
殺されないという約束があったからだ。  
 ついにルルカは、自分がどうやって死ぬのかを聞かされてしまった。それもあまりにも惨めな姿で  
死ぬのだ。牝獺が死の間際に感謝の言葉を口にするなど、ルルカには信じられなかった。あちこちに  
金属の環を着けられた裸の体、動けない体を仰向けにして、淫らな焼き印の痕や限界まで使い込まれ  
た性器を晒しながら、何を感謝するというのか。  
 
「あの牝獺だって──」  
 狼族の男に指を差され、ルルカの心臓は飛び出しそうになった。部屋の全員が振り返り、ルルカを  
見た。思わず彼らの方へ向き直ってしまったルルカは後悔した。  
 言葉が分からない振りをしなければ──。  
 ルルカは必死で涙をこらえ、何も分からないといった表情を作ろうとした。それがどんなに悲しい  
行為か、男たちには想像も付かないのだろう。無情な会話が続けられる。  
 
「広場の牝獺は寿命が著しく短い。  
 あの牝も、あと半年もすればこれと同じリングを体にぶら下げているだろう。  
 そのときにまた来て試してみるといい。  
 今日とは違った膣の感触が楽しめる」  
 
(あと半年──!?)  
 
「そうなったらすぐ死ぬんだろう?」  
「硬直が起こるまではまず死なない。  
 リングを着けた牝獺が行為中に死んでも罪にはならない。  
 ただし、速やかに届け出てもらえれば、だ」  
「リングを着けてから、どのくらい生きてるんだ?」  
 
(やめて、やめて──)  
 
「普通なら、半年から一年ほど。  
 だが、広場の牝なら、二か月も持てばいい方だろう」  
「じゃあ、月に一度はシエドラまで来なきゃあな」  
 
(もう許して──)  
 
 狼族の男の言葉は、ルルカの胸の奥に突き刺さった。恐怖で全身を締め付けられるように感じた。  
 半年のちには、ルルカは敏感な三か所の肉の突起に冷たい金属の環の重みを感じているはずだ。さ  
らに二か月経たないうちに、小さな獺の体は岩のように固くなり、そしてこの世に別れを告げること  
となる。それがルルカに突き付けられた現実だ。  
 泣き喚きたい気持ちと、会話が聞けることを隠し通さねばと思う気持ちの葛藤に小さく震えるルルカ  
に、ウォレンは何もしてやれないようだった。今ならルルカにも分かる。ウォレンはせめて、シエドラ  
の牝獺の運命を知らぬままにしておいてやろうとしていたのだ。その気遣いは全て無駄になってしまっ  
た。ウォレンはただ、倒れそうになるルルカの背中をそっと支えていた。  
 そんな二人を置き去りにして、男たちはミルカを犯し始めた。  
 
 自分とそっくりの牝獺が馴鹿族の巨大なペニスを突き立てられる様に、ルルカは時間が巻き戻され  
たように感じる。自分と自分を犯す男以外の者の目には、あのときの情景がこんな風に映っていたの  
だろうと思う。ただ、ペニスを受け入れるミルカの反応はルルカのものとははっきりと違っていた。  
 胸環を掴まれ、宙に浮かされた状態で激しく子宮の奥を突かれるミルカ。ルルカにとって思い出す  
のもおぞましい内臓を押し上げるようにした後、間を置いて突き刺さる剛直の衝撃を小さな体に受け  
ながら、ミルカは、苦しい呻きの中に明らかに快楽の混ざった声を上げていた。  
「これは凄い。国の女たちでは味わえない」  
「そんなにいいのか? さっきの牝だって……」  
 ミルカを犯す男の漏らした感想に、馴鹿族の男たちはまた興奮を募らせ、広間は荒い吐息と熱気に  
包まれる。  
 誰かが、ふと思い付いたように青服の狼に尋ねる。  
「こんな牝がいったい何頭居るんだ?  
 牡を捕まえてきて、もっと殖やせないのか?」  
 自分たちの国へ何頭か連れ帰りたい、と彼は言った。それに対し狼族の男は、牝獺はシエドラでし  
か飼えない、とウォレンが説明したことをもう一度繰り返した後、少し考えて、こう付け加えた。  
 
「それに、こいつらの子宮は緩み切っている。  
 妊娠しても、すぐに流産してしまうだろう──」  
 
 その言葉を耳にした瞬間、ルルカは、公用語でも獺語でもない動物の本能的な叫びを上げていた。  
腹部にキリキリと痛みが走った。そこはかつてルルカの母が優しく撫でてくれたところ。子供を育て  
るための大事な器官──。実際に傷を付けられたわけではない。ルルカの心を引き裂かれる思いが、  
その痛みを感じさせていた。  
 子供を産み、育てることは憧れだった。叶わないとしても、街で異種族の子供を見掛ける度に温か  
い気持ちになれた。いつか、この生活から解放されるような奇跡があれば──。しかし、そのルルカ  
の小さな望みは、とうの昔に断たれていた。そう、あの"断罪の儀式"は牝獺からその能力を奪うため  
に行われたのだ。ルルカはもう、母親にはなれないのだ。  
 
 ルルカはウォレンの手を振り切って駆け出そうとしたが、ウォレンが慌てて鎖を引いたため、弾み  
で小さな体が振り子のようになって宙を舞った。逃げるどころか、周囲に居た馴鹿族の男たちの目の  
前に投げ出されてしまう。驚いた男たちが一斉に駆け寄る。ミルカを犯している男までが、彼女に  
ペニスを突き入れたまま、飛んできた。  
 床に転がったルルカの目の前に、ミルカの顔があった。  
(どうして……)  
 苦しそうに喘ぎながら、目を閉じたミルカは恍惚の表情を浮かべていた。  
(どうして、そんな顔ができるの?)  
 こんなに酷い目に遭っているというのに──。  
 自分もあのリングを着けられ加工されれば、ミルカのようになってしまうのか。あの狐族の女性に  
蔑まれて当然だと思った。ルルカたちの性器は今や、異種族の男を悦ばせるためだけに付いているの  
だから。  
 ルルカはまた、『わあっ』と叫んで起き上がろうとした。男たちの手が、暴れるルルカを床に押さ  
え付ける。  
「いったいどうしたんだ?」  
「俺は鎖を引いただけなんだが……、自分がまた犯されると思ったんだろう。  
 こいつらには言葉が通じないからな」  
 慌てて駆け寄ったウォレンが取り繕う。  
「今、黙らせる──」  
 
 ルルカはウォレンの言葉に驚いて、目を見開いた。  
(黙らせるって?)  
 ウォレンの厳しい表情が目の前にあった。  
 次の瞬間、右腕に激しい痛みが走る。息が出来なくなるほどの衝撃が襲った。今でもはっきり思い  
出せるあの焼き印の痛みよりもずっと強い、身を引き裂くような痛覚。続いて左腕を、同じ痛みが襲  
った。肩のあたりから先が痺れて無くなってしまったかのようだ。両腕がまったく動かなくなってい  
ることに気付き、ルルカは何が起こったのか、ようやく理解する。  
 毒針を打たれた。それも、ウォレンの手で──。  
 ウォレンは口で脅していても実際にそれをルルカに対して使うことはない、そういう甘い期待が心  
のどこかにあったルルカは、また彼に裏切られたのだと思った。  
(酷いよ……)  
 ウォレンは、ルルカがそれ以上声を発しないように、口をしっかり掴んでいた。ルルカはまだ動か  
せる足と尾をバタバタと振り回して抗議した。  
「押さえろ!  
「足にも打て、ウォレン!」  
 両足と尾にも毒針を打たれたルルカは、男たちの手でぶら下げられた。痺れた手足をだらりと垂ら  
して抵抗できないルルカの頬と乳房が、横殴りに打たれた。もうルルカには声を上げる気力も無かっ  
た。それでも、騒いだ罰にと男たちはルルカの乳房を何度も執拗に殴った。  
 可愛らしい整った形の乳房が激しい痛みと共に無惨に歪む。  
 ウォレンだって褒めてくれた、きれいな乳房が──。いつも形が崩れないようにしてきた小さな努  
力が無駄になっていく。しかし、それを嘆くのは滑稽なことにも思えた。  
 
 どうせ、あと八か月も生きられないのだから──。  
 
 体を動かせない恐怖に、ただ涙を流すことしかできないルルカを見かねて、割って入ったウォレン  
が強引に男たちの手から小さな牝獺の体を奪い取った。  
「こいつは連れ帰って、俺が仕置きをする」  
「手伝おうか? なんなら、すぐにでもリングを……」  
「いや、お前は皆の相手を続けてくれ」  
 青服の狼にそう告げて、ウォレンは一人、ルルカを宿から連れ出した。  
 
 宿を出たウォレンは市場への道に向かわず、建物の間の細い路地の人気のない場所へ、怯えて嗚咽  
を繰り返す牝獺を運んだ。  
「ウォレン……」  
「声を出すな。その小さな喉にも、毒針を打たなきゃならなくなる」  
「……」  
 ルルカは仰向けに寝かされる。ウォレンは少し苛立っているのだろうか、ルルカは地面に投げ出さ  
れたように感じた。手足の感覚が無くなっており、尾もぴくりとも動かせない。頭と胴だけの惨めな  
体にされてしまったような気がした。  
 色々な思いが頭の中をぐるぐると巡り、込み上げてきた悔しさに涙がこぼれる。  
「どうして教えてくれなかったの?」  
「普通の獺は、そのときが来るまで知らないことだ」  
「でも……」  
 公用語が理解できるルルカには、その理屈は当てはまらない。それは、いずれ誰かの会話から知ら  
されるかもしれないことだった。それでもウォレンは、そのことがルルカの耳に入らないよう、注意  
してくれていたのだ。その点で彼を責めることは筋が違う。  
 ルルカは抗議の矛先を変えた。  
「毒針を打つなんて、酷いよ……」  
 そう言われて、ウォレンは逆に、ルルカが暴れたことを咎める。  
「お前はまだ、事の重大さが分かっていない」  
 ウォレンは、これまでただ漠然と大変なことになるとだけ言っていた、ルルカが公用語を話せるこ  
とを知られてはいけない理由を語る。牝獺に施される"加工"をルルカが知ってしまった以上、黙って  
いる必要はなくなったからだ。  
 長いシエドラの歴史の中で、実際にそういう獺が居たかどうかはウォレンは知らない。ただ、取り  
決めだけははっきりと記されているのだ。牝獺が公用語を解することが判明した場合、牝獺にはただ  
ちに"加工"が施されなければならない。性感帯を刺激し体の自由を奪い、さらに毒針を喉に数回打ち、  
声帯を潰してしまわなければならない。  
「獺族が我々と対等の能力を持っていてはいけないんだ。  
 同情や共感を生めば、シエドラの牝獺を使った制度は成り立たなくなってしまう。  
 言葉を話せる獺族の存在は速やかに抹消されねばならない。  
 だったら、どうするか……。分かるか?」  
 答えることのできないルルカの下半身に、ウォレンの手が伸びた。体を起こせないルルカは、彼の  
指先が体の柔らかい部分に触れるのを感じ、怯えた。ウォレンはルルカの尻尾の付け根に指先を当て  
ていた。  
(そこは──)  
「牝獺を意図的に殺すことはシエドラでは許されない。  
 しかし、なるべく早く死んでもらいたい。  
 そのために、この規則はあえて明文化されていないんだ」  
 ルルカはウォレンが馴鹿族の男たちに話した言葉を思い出した。口や肛門を使うことに罰則はない  
が、建前上は御法度であるということ。  
 ウォレンは、ルルカの肛門までが凌辱の対象となる、と言っているのだ。当然、肛門だけが犯され  
るのではないだろう。同時に二つの穴が使われることは容易に想像できた。その恐ろしさも──。  
 言葉が使える牝獺は、それが知られたその場で体に金属のリングを嵌められ、穴という穴を犯され、  
徹底的に嬲られる。  
「半月もしないうちに硬直が始まるだろう。  
 声を奪われたお前は、獺語だって話すことはできなくなる。  
 声が出せないというのが、どういうことか。  
 感謝の言葉を言えない以上、必ず獺槍に突かれて死ぬということだ」  
 だから、これからも誰にも気付かれるな、とウォレンは念を押した。今日のような粗相は二度とし  
てはならない、と。  
 ルルカも心の底から自分のしてしまったことを悔やんだ。そして、ウォレンへの抗議の気持ちが薄  
れると、今度はシエドラの牝獺の運命がルルカの胸を押し潰す。  
 
「私は本当に……、あと八か月で死ぬの?」  
 声が震えた。  
「あれは一般論だ。色々な牝獺を見てきた。  
 お前はそんなすぐに死にやしない」  
「うそ……」  
「気休めじゃない。信じろ」  
「だったらいつまで生きられるの?」  
「……」  
「答えられないんじゃないの……」  
「ルルカ、俺は──」  
 ウォレンはなだめようとするが、ルルカの感情は堰を切ったように溢れ出した。  
「もう信じられないよ!  
 いつも調子のいいこと言って、私をがっかりさせてばかりで……」  
「ルルカ!」  
 ウォレンはこの会話を誰かに聞かれることを心配してか、ルルカを制止しようとした。胸環と鎖を  
掴まれると、身動きできないルルカの中で、不安と苛立ちとやるせなさが一気に膨らんで、弾けた。  
 
「あなたが、私をこんな体にしたからじゃないの!」  
 
 叫んでしまってから、ルルカは後悔した。自分は、何を言っているんだろう──。  
 それは身の程を弁えない言葉だった。罪を背負った獺族に、狼族のウォレンが気遣う道理などそも  
そも無いのだ。むしろ、ウォレンの態度はルルカに甘すぎた。  
 確かに、ウォレンのペニスで子宮を貫かれたことでルルカは発情を続ける体になった。子供を宿す  
ことのできない体になった。ただ、そのことを責めるのは逆恨みに過ぎないと、ルルカにも分かって  
いる。  
「俺は、シエドラの仕来りに従っただけだ」  
 吐き捨てるように言ったウォレンの言葉は、ぞっとするほど冷たく、ルルカの胸に響いた。  
「喋るな、ルルカ。何度も言わせるな」  
 ウォレンは、歯を剥き出した怒りの形相でルルカの顔を覗き込んで言った。ウォレンがルルカにそ  
のような表情を向けたのは初めてのことだった。肉食獣を祖先に持つ者の逆鱗を覗かせたその顔は、  
ルルカを竦ませるのに十分だった。  
 ウォレンはルルカの両腕を曲げ、鎖を絡めて乳房の左右に固定した。脱力した両足を左右に大きく  
開いて仰向けに転がした。これは、性感帯を刺激するリングを体に穿たれたミルカが無意識に取って  
いたポーズと同じだ。ウォレンはあえてルルカにその恥ずかしい恰好をさせたのだろう。  
「反抗を見せた牝獺には制裁を加えねばならない。  
 少しそのままにしていろ。決して、声は出すな」  
 そう言い残して、ウォレンは姿を消し、ルルカは人気の無い路地に放置された。  
 
 愛想を尽かされたのだと思った。  
 痺れてまったく動かせない裸の体を仰向けにして、ルルカはこれまでにないほど不安に感じた。急  
所である腹を無防備にしていることによる生存本能に揺さ振りをかける恐怖と、乳房や性器といった  
秘部を晒す恥辱が重なってルルカを責め立てる。  
 ウォレンは、彼女に仕置きをすると言っていた。毒針を打たれる以上の何をされるのか。ルルカは  
叫びたい気持ちを必死に押えた。  
 
 しばらくして、人の気配が近付いてくる。複数の足音と息遣い。ウォレンだけではないようだ。  
「おや、これはまた見事な眺めだ」  
 聞き覚えのある声に、ルルカはかろうじて動く首から上を起こし、見た。  
(ジエル……!?)  
 ウォレンが連れてきたのは、クズリ族のジエルだった。  
『久し振りだな。えっと、半年前に広場に繋がれたやつか。  
 お前のことは覚えているよ。  
 "おつとめ"の最中に暴れたんだって?』  
 ジエルは、いい体だな、と動けないルルカの体を撫で回して言った。  
『そこの狼──、ウォレンの旦那に言われて来たんだ。  
 牝獺に立場を改めて教えてやれ、とな』  
 ルルカの立場──、それは男たちの性欲処理の道具に他ならない。  
 俺は仕事が忙しいんだが、と言いつつ、ジエルは裸のルルカを眺めて舌なめずりをする。クズリ族  
は普段、牝獺に近付かないのが規則だった。ジエルは制裁のため、特別にウォレンのお墨付きをもら  
ったらしい。  
「始めろ」とウォレンが言った。  
「犯しながら、獺語で、そいつらの身分について教えてやるんだ」  
(ウォレン……)  
 
 ジエルはおもむろに腰布をほどき、性器を露出させる。ニヤリと笑うと、その先の尖った赤いペニ  
スを、動けないルルカの鼻先に突き付けた。強い刺激臭が鼻腔を満たし、ルルカはむせ返る。  
『クズリ族は性器の周辺に臭腺があるのさ』  
 舐めろ、とジエルが強要する。ルルカはおずおずと舌を出し、ジエルのペニスをそっと舐めた。口  
の中まで嫌な臭いが広がる。あまりの辛さに涙が滲み出てくる。  
『俺たちクズリ族が牝獺を使わないように言われているのは、  
 情が移りやすいってこともあるが、  
 この臭いが移るのを嫌がる連中が居るからって話だ。  
 だが、お仕置きにはもってこいだろ?』  
 これをお前の中に突っ込んでやるからな、とジエルは言った。  
『そんな……』  
『おっと、会話は禁止だぜ。前にも言っただろう。  
 お前は俺が言うことに、はい、とだけ答える。いいな?』  
『……はい』  
 動けないルルカを、ジエルは犯し始めた。先の細い、つるりとした形のクズリのペニスは、特段、  
ルルカを苦しめるものではないが、手足の自由が効かないのは、想像以上に恐ろしいことだった。相  
手の体に触れることは許されていないとはいえ、手足が動けば、いざというときに抵抗できる。その  
心の支えが奪われていた。普段無意識にしているように、地面に足を突っ張り、手の爪を立てて耐え  
ることも許されず、ルルカはジエルの腰の動きに翻弄された。  
 繋がった部分から、クチュクチュと激しく音がする。  
『嫌がって逃げたっていう割には、随分と濡らしてるみたいだな』  
『言わないで……』  
『お前の体はもう元には戻らないんだ。  
 一生、そうやって汁を垂れ流して男を欲しがって生きるんだ。  
 分かったか?』  
『……はい』  
『ほら、濃いやつをたっぷり流し込んでやる。  
 これに懲りたら、もう無駄なあがきをするな。  
 辛い思いをするだけだ』  
 
 クズリ族の交尾は短かった。射精を終えたジエルは、ペニスを引き抜くと、ルルカの体を折り曲げ、  
ルルカ自身の股間を眺めさせるのだった。火口のように開いた膣口から、吐き出されたばかりのどろ  
りとしたクズリ族の精液が溢れている。クズリ族特融の臭腺の臭いが鼻を刺す。臭いがルルカの体に  
擦り込まれていた。クズリ族だけではない。これまでルルカを犯したあらゆる種族の精液やペニスの  
臭いが、そこに滲み込んでいる気がした。  
(私は……あと半年、こうして過ごすんだ……。  
 もっといっぱい犯されて……。  
 そして……)  
 ウォレンはもっと時間があると言ってくれたが、早いか遅いかだけの違いだ。いずれルルカの体に  
冷たいリングが通されることは決まっている。  
『反省しているな?』  
『……はい』  
 ジエルの問いに、ルルカは素直に頷いた。  
 
『次はウォレンの旦那がお前に制裁を加えるってよ』  
(えっ……)  
 ジエルがルルカから離れると、すかさずウォレンがペニスを鼻先に突き立てた。舌で奉仕をさせら  
れるのは、儀式のとき以来、一度も無かったことだ。ウォレンはルルカに屈辱を与えようとしていた。  
 ルルカは涙を滲ませながら、仰向けのまま舌でウォレンのものを大きくするよう努める。  
 クズリ族に犯されたばかりの性器に、今度は狼族の巨大なペニスが押し込まれた。前の男の精液を  
洗い流さずにウォレンがルルカを犯すのは初めてのことだ。それはウォレンの明白な意思表示だ。  
ウォレンの体の下で抵抗することもできず、異種族の性器を受け入れている牝の獺が、シエドラの備  
品であり、単なる性欲処理器であることを知らしめようとしていた。  
(痛い……)  
 初めてのときと変わらぬ感覚がルルカを襲う。儀式でウォレンに初めて子宮の入り口を貫かれたと  
きの痛みをルルカは思い出した。それは単なる錯覚なのだが、ルルカには現実の痛みと区別が付かな  
かった。お腹の中に嫌な感じが広がった。ウォレンとのいつもの交尾では感じたことのないものだ。  
「それじゃあ、あっしは仕事があるんで……」  
「ああ、手間を取らせたな、ジエル」  
 狼族の交尾が長いことを知っているジエルは、来た路を引き戻して行く。  
 ウォレンはルルカを羽交い絞めにして、精液を流し込んだ。その脈動を、ルルカはウォレンの怒り  
のように感じた。思えば、ルルカは彼に恥をかかせてしまったのだ。  
 シエドラ自慢の牝獺を披露する場で、ルルカは思い上がった行動をした。そのことにウォレンは怒  
っている。  
(ごめんなさい、ごめんなさい……)  
 そうなんだ、とルルカは思った。自分は何を勘違いしていたんだろう。これが私とウォレンの本来  
の関係なんだ──。  
 涙がつっと目尻から流れ落ちた。この後一時間近く、ルルカは狼を体に受け入れたままとなる。そ  
れだけならいつもの交尾と変わらない。  
 狼の赤く冷たく光る瞳が目の前にあった。ルルカは、彼がしようとしていることが、ただ犯すだけ  
に留まらないこと気付いた。  
 
 いつもは体を貫かれながら見上げる視線の先には狼族の上半身を包む美しい灰褐色の胸毛があった。  
今、ウォレンの顔が見えるのは、彼が背中を強く曲げて、普段と違う姿勢を取っているからだ。  
(ウォレン、何をしようというの──?)  
 ウォレンは乳房に置いた手にゆっくりと体重をかける。狼族のウォレンにとってはそれほど強い力  
を込めているわけでもないのだろうが、圧力に肺が押し潰されそうになる。  
「くっ……、はっ……」  
 ウォレンが力を緩め、ルルカが苦しそうに息を吸うと、すぐさままた体重がかけられた。そんなこ  
とが数度、繰り返される。  
 ウォレンはルルカが恐怖に叫び声を上げたりしないことを確かめたようだ。  
「よし、どんなに苦しくても声は出すな」  
 ウォレンはルルカの体を思うがままにできることを知らしめようというのか、ルルカの下顎を掴み、  
口を開けさせる。  
(何!?)  
 肉食獣の鋭い牙やぎざぎざに尖った裂肉歯の並んだ恐ろしい口が近付いてくる。獺にだって、立派  
な牙がある。だが、それを相手に突き立てようものなら、報復が待っていることは明らかだ。ウォレン  
の口に牙を当ててはいけない。ルルカは必死になって口を大きく開いた。そこに、大きく裂けた狼の  
口が重ねられる。  
 熱い舌が、ルルカの口腔に押し込まれ、さらに奥へ進もうとするそれを、ルルカは小さな舌で必死  
に遮ろうとした。膣に感じている嫌な感覚が、口中にも広がる。異物の侵略を本能が拒絶していた。  
 鼻が摘ままれ、呼吸ができなくなる。ルルカは耐え切れず、喉の奥にウォレンの舌が侵入するのを  
許してしまった。  
(嫌……、やめてっ)  
 ルルカは二つの口を同時に犯されている。ウォレンは勝ち誇ったようにペニスを突き上げ、ルルカ  
の口を自在に動く器官で満たした。体の奥に吐き付けられる精液と同様、強制的に流し込まれる大量  
の唾液を、ルルカは成すすべもなく受け止めねばならなかった。  
 体中がウォレンの体液で満たされる。自由の利かないルルカは、今この瞬間、完全にウォレンの欲  
望を受け止めるだけの器だった。  
 ルルカが窒息しそうになる寸前で、ウォレンは舌を引き、ひと呼吸つかせると、また舌を押し込ん  
だ。二度目は、最初のときよりも長かった。三度目はさらに長く、ルルカは半狂乱になって、いつま  
でも続くその繰り返しに体を震わせた。  
 体が酸素を求め、心臓がバクバクと動く。全身を激しく血流が巡るのが分かる。鼓動が激しくなる  
のと裏腹に、意識は薄れていく──。  
 
「怖いか?」  
 ルルカは全身をガタガタと震わせていた。ウォレンの言葉に、潤んだ目で頷く。  
「そこまで怖がられるとは思わなかった。  
 口を合わせるのは嫌か?」  
(えっ?)  
 ウォレンの大きな手が、ルルカの頭の後ろに差し込まれた。その優しい手つきに、ルルカは戸惑う。  
ウォレンは周囲を見渡し、人の気配がないことを確認して、言った。  
「じゃあ、こういうのはどうだ?」  
(!?)  
 ウォレンは、再び、ルルカの口に自分の口を重ねていた。  
 ウォレンの舌が、ルルカの小さな舌を抑え込み、喉を大きく開かせる。頭をぐっと押し付け、首か  
ら背中の筋肉を何度か震わせたウォレンの動きと、口の中に広がる酸っぱい香り。ウォレンがルルカ  
に何をしようとしているのか、それは彼女の想像の限界を超えていた。  
 ウォレンの喉の奥から生暖かいものが吐き出され、ルルカの押し開かれた喉の奥に流れ込んできて、  
ようやくルルカは事態を理解した。ウォレンは胃の内容物を、ルルカの口の奥に吐き出していたのだ。  
そこまでして、徹底的に獺族の尊厳を貶めようというのか──。  
(酷い……ウォレン……。  
 でも……あれ?)  
 
──美味しい!?  
 
 ウォレンが吐き出したものは、どろどろと溶けかけた細切れの何かの塊で、始めのうちこそ酸っぱ  
い感じがしたが、すぐに舌の上でしっとりと甘く感じる不思議な味に変わる。  
 これは、もしかして──?  
 口を放した狼が、ルルカが目をぱちくりさせながら、口の中のものを飲み込む様子を見守る。  
「これは……おさかな……なの?」  
「そうだ」  
「どうして、私に──?」  
「まだ残っている。食べたいか?」  
 ルルカは思わず頷いて、おねだりするように口を開いた。我を忘れるほど、魚という食べ物は美味  
しかった。父から聞いていた、獺族の主食。  
(これが、魚……)  
 それにしても、こんなやり方で食べさせてくれるなんて。  
 ウォレンは、狼族だけにできる特技だと言った。狼族自身もほとんどの者が知らない、四足の遠い  
祖先から受け継いだもの。ルルカに魚を食べさせるには、こうするしかないとウォレンは言う。  
「今ここで俺がしたことは、二人の秘密だぞ。  
 獺に魚を与えた者はシエドラを追放される。  
 あの毒の解毒作用がある成分を、獺族は魚からしか摂ることができない。  
 だから、獺に魚を与えてはいけないんだ」  
 
 そのうち、痺れが取れてくるはずだ──。  
 ウォレンがルルカの後頭部を撫でながら、そう言ったような気がした。  
 お腹の中を優しく叩くようなウォレンの射精はまだ続いていた。その響きが、今は心地よく感じら  
れる。うっとりとした気分に包まれ、ルルカは目を閉じる。緊張の解けたルルカを、強い眠気が襲う。  
 胸のあたりがじわっと暖かくなった。それは、眠りに落ちるときの生理現象だと、ルルカは思った。  
 
 

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