『かわうそルルカの生活』  
 
     【プロローグ】 −裸の獺−  
 
街の中心に位置する広場には中央に大きな噴水があり、  
地下を通った用水が噴き出し、放射状に張り巡らされた水路を流れていく。  
一頭の牝の獣が、そんな広場の石畳を行き交う人々の流れを見ていた。  
 
色彩豊かで様々なデザインの民族衣装を着た者たち。  
ここは交易の街、シエドラ。  
世界各地から多様な種族が集まり、滞在し、また去っていく。  
広場や通りは雑踏に満ち、夜は酒場や宿が繁盛する、そういう街だ。  
どの種族の者も、長毛であれ短毛であれ、全身を毛皮に包まれているにも関わらず、  
その種の違い、住む土地の違いにより系統の異なった衣装を纏う。  
そういった衣装は羞恥心を感じないためにだけでなく、身嗜みであり、  
種族のシンボルとして着けられているものだ。  
対して、自分は──。  
 
彼らの衣装に決して引けをとらないとは思う、陽を受けると輝く美しい毛並。  
しかし、密に生えた細かな茶褐色の毛皮の上には纏うものもなく、  
二つのふっくらした乳房や、赤く腫れた小さな牝の性器は体の前面に露出している。  
恥ずかしさにはとっくに慣れたつもりだったのに、  
今のように、こうしてふっと一息つくような瞬間があると、  
往来で恥部を人目に晒していることが惨めになってくる。  
美しく整った形の乳房は、以前よりずっと大きくなった、オトナの獣のそれだ。  
無意識に胸を覆いそうになる短い腕を、はっとして左右に開く。  
裸身を隠すことは許されていないのだ。  
長く、根本の太い尾が、地面と水平になるまで下がっていることに気付き、  
慌てて持ち上げる。  
後ろから誰かが自分を見たとき、そのようにして薄桃色の慎ましく締まった肛門まで、  
およそ若い獣の女性なら必死に隠そうとする箇所を全て晒しておかなければ、  
罰せられるのだ。  
 
珍しいことに、今この瞬間、誰も自分を見ていなかった。  
そのことに気付き、緊張が解ける。  
人の流れはいつもより忙しない。  
何故だろう、と尾を地面に着け、短い足のつま先で立つ。  
首をもたげると、喉のすぐ下にある大きな金属の環が、その重さで乳房を圧迫した。  
この銀色の環は乳房の上と脇の下を通り、背中をぐるっと一周して、  
胸部にぴったりとくっついている。  
それは彼女の唯一の装身具であり、その身分を象徴するものだ。  
そして、それは永久に外せないのだ。  
常にじわじわと体温を奪う金属の感触は、彼女の心の芯まで卑しいものに貶めようとしていた。  
密かに自慢の形のいい乳房が環の重みで崩れてしまうのではないかと恐れ、  
こうして立ち上がるときは、両手をそっと環に当てて支えた。  
そんな小さな努力を知れば、誰もが鼻で嗤うだろう。  
身の程を知れ、と吐き捨てるだろう。  
もっとも、そんな気遣いが必要なのは、  
石畳に転がされた姿勢を強制され続ける日常の中の、ほんの一瞬のことだけ。  
こんなふうに体が自由になる時間は滅多に与えられない。  
 
往来から、誰かの「珍しい異国の行商が来ているんだ」という声が聞こえたが、  
一目見たいと思っても、それはこの獺(かわうそ)族の娘、  
「ルルカ」には叶わぬ願いだった。  
 
立ち上がって広場を見渡すルルカの姿に目を留めたのか、  
頭に大きな二本の角を持つ男たちが数人、近寄ってくる。  
ルルカは慌てて姿勢を正した。  
「今日は珍しく行列ができてないじゃないか」  
「北の果てに住む連中ってのにも興味はあるが、あっちはそのうち見れるさ」  
長い角を持つアンテロープの一族だ。全部で五人。  
砂のような色の毛皮に、顔と胴に黒いストライプの入った体。  
彼らの民族衣装も毛皮と同じ砂のような色で、首元にぐるぐると巻いた布は、  
衣服に砂塵が入るのを防ぐ役割をしている。砂漠に囲まれたオアシスに住む種族だった。  
頭上の二本の角は、細長い槍のような形で少し弧を描き後ろに伸びていた。  
植物を糧にする種族は、頭に戴く角が大きければ大きいほど性格は強引で暴力的であることを、  
ルルカは嫌というほど知っている。  
憂鬱な気持ちになりながら尾を持ち上げ、足を軽く開いて胸と股間を突き出す、  
恥ずかしいポーズを取った。  
それは、自らの体を自由にさせるという意志表示である。  
全ての男に対して等しく、それを行わねばならなかった。  
 
尻尾を地面に付けていたことは咎められなかった。  
ただ、それは始めに数発殴られるか、そうでないかの違いだけだ。  
男の一人がルルカの胸元の金属環を掴み、乱暴に持ち上げる。  
自分の倍以上の背丈を持つ男に体を振り回され、ルルカは身を竦ませる。  
いつまでも慣れることのない、体格と腕力の差から生まれる恐怖。  
水中での活動に適したルルカの体は、祖先から受け継いだもの。  
陸に上げられた獺族は、他のどの種族と比べても小柄で非力だった。  
別の男がルルカの短い腕を掴み、万歳の姿勢を取らせると、  
環を掴んだ男はもう一方の手でルルカの乳房を握り潰し、悲鳴を上げさせた。  
また違う男がルルカの足を左右に開こうとする。  
抵抗しても無駄なことは分かり切っているのに、自然と力が入り、股を閉じようとしてしまう。  
(見ないで……)  
足はあっさりと開かれ、ルルカの恥部が男たちの目に晒された。  
ふふん、と鼻で嗤う音がルルカの耳を襲う。  
つるりとした広い獺族の恥丘に、牝の性器を意味する卑猥な焼き印が押されているのだ。  
すぐ下に、本物の性器が見えている。ルルカは自分でそこを見ないようにギュッと目を閉じた。  
慎ましい窪みだったはずのそこは、活火山の火口のように赤く染まった肉をはみ出させている。  
その変わり果てた自分の股間を覗き込むたびに、ルルカは惨めな気分にさせられた。  
獺は回復力に優れているから今以上には酷くならないだろう、と医術の心得のある者は言った。  
事実、その通りではあった。  
半年ほど前に、ルルカのそこがこのように造り替えられて以来、ずっとこのままなのだ。  
ルルカにとって悲観を誘うその部分の有り様は、男たちの劣情を誘うのには適しているようだ。  
染み出した愛液に濡れ光る赤い肉襞がイソギンチャクの口のようにキュッキュッと蠢くのを見て、  
正面の男は下半身を覆う衣類をはだけ、血管の浮き出た大きなペニスを露出させた。  
「さっそく楽しませてもらおうか」  
男は、ルルカの胴の半分近くもある長さのペニスを、  
何の容赦もなく目の前の牝獺の小さな体に突き入れた。  
 
これが、シエドラで生きる獺族の娘たちの日常。  
延々と昼も夜もなく続く断罪の儀式だった。  
裸の牝獺たちに対し、行為を強要する側は着衣のままというのが、いっそう惨めさを感じさせる。  
何故、こんなに理不尽な目に遭わねばならないのか。  
それはルルカたちが獺族だから、という理由以外に何も分からなかった。  
私は獺だから、私は獺だから……。  
ルルカは心の中で繰り返した。  
では、獺だから──、どうして?  
 
「こいつらは、冷たい水の中で暮らしていたから病気知らずだし、  
 水中を自在に動く体は柔軟で、どんな体位でも平気なんだ」  
「そんなことは知っているさ」  
「早く射精(だ)しちまえよ、次が待っている」  
言葉通り、男はルルカに無理な姿勢を取らせようとした。  
石畳にうつ伏せに押し付け、四足獣のような姿勢でルルカに覆い被さる。  
前後に激しく揺さぶられる男の腰が、ルルカの背中を弓なりに曲げ、  
乳房を石畳に擦り付けた。  
『やめて、やめて……』  
ルルカは獺族の言葉で叫ぶ。それは、彼らの耳には入っても、意味は通じない。  
チィチィという鳥の鳴き声のように聞こえているだろう。  
かつて隆盛を極めた獺族は独自の言語を持ち、多くの種族が使う公用語を話さなかった。  
そもそも、発声方法が違うのだ。  
固有名詞でさえも、別の音に置き換えられるため、まったく通じない。  
声帯の構造が独特な獺族に公用語の発声は困難で、  
話すにはとてつもない訓練と努力を強いられるものだ。  
 
シエドラの牝獺には、公用語を覚える機会そのものが与えられない。  
言語に共通点が一切無いため、耳に入る言葉を覚えることも叶わない。  
しかし、ルルカは特別だった。  
小さい頃に、母獺から公用語を習ったのだ。  
そのことが却ってルルカを苦しめた。  
(いっそ他の牝獺たちと同じに、彼らの言葉が分からない方が良かったのに……)  
「誰にも、決して公用語を話せることを知られてはいけない」  
そう言った人物は、ルルカにとって心の支えになってはくれなかった。  
誰もルルカに声をかけようとはしない。  
金属環を鎖で繋がれ、どこにも行くことができないルルカの生活に会話というものは無く、  
孤独感が彼女の心を蝕む。  
自分がこの先どのように生き、そして死んでいくのか、全く知らされもせず、  
孤独と不安に押し潰されそうになりながら、  
それでもルルカはここ、シエドラでの生活を余儀なくされていた。  
 
自分の快楽のためなら、  
この小さな牝獺の体がどう痛めつけられようと構わないと言わんばかりに、  
ルルカの体をほとんど押し潰すようにしながら、男は射精した。  
体の中でペニスがどくどくと脈打ち、度重なる凌辱で緩み、  
風船のように造り替えられてしまったルルカの子袋を精液でいっぱいに満たした。  
ペニスを抜かれたルルカの体はまた勢いよく持ち上げられ、振り回される。  
精液を指で乱暴に掻き出され、恥部をさっと水で清められたかと思うと、  
次の瞬間には別の男のペニスが体に突き立てられていた。  
今度は仰向けの状態でルルカは犯された。  
両手両足を石畳に大の字に開き、ルルカは屈辱に耐えた。  
乳房を乱暴に掴まれ、ほとんど搾るようにこね回されながら、  
それでもルルカは指一本動かさないよう務めた。  
獺の身分では、相手の体を触ることは許されないのだ。  
うっかり触れただけでこっぴどく殴られることも珍しくない。  
 
次の男は体重を腕に乗せ、ルルカの乳房を執拗に揉んだ。  
金属の環に押し付けられた乳房が形を歪められることが悲しかったが、  
やめてもらうよう訴えることはできない。  
体の奥を抉られ、ルルカはまた別の悲鳴を上げた。  
 
五人の男はそれぞれ一回ずつルルカを犯し終え、周囲を見渡し、  
他にこの牝獺の利用者が居ないことを確認すると、もう一巡、  
ルルカの体を楽しむことに決めた。  
いや、一巡と言わず他の利用者が現れない限り何度でも、だ。  
普段ならルルカの前には交尾待ちの行列ができており、次々と相手が交代していく。  
中にはおとなしいやり方の種族も居て、その分、楽になれるのだが、  
今日は北方の行商とやらのせいで、この乱暴な五人の男たちに延々と輪姦されることになった。  
 
頑丈なのが取り柄の獺族の体を持っているとはいえ、  
この草食獣たちの乱暴なやり方はルルカを憔悴させる。  
男たちは逆に調子付き、快楽をルルカの小さな体から汲み上げようと、  
射精をしながらも激しく腰を振る。  
痛みに痺れた胎奥を熱い液体と肉棒に掻き回され、ルルカは意識が遠くなる。  
ここまで酷くされたのは初めてだった。  
目を閉じると昔の記憶が甦ってきた──。  
 
 
 

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