彼女は焦っていた。  
 
厚い雲の垂れ込めた空を蒼白い雷光が染めあげる夜。  
落雷の爆音と衝撃が立て続けに空気を揺らし打ち付けられた窓々がガタガタと悲鳴をあげ続ける。  
 
(今度は近いな。)  
 
そう考えて回廊の外に視線を映しても、落雷の残光が失せた夜空は一寸先も見えない闇そのものだった。  
あたりの様子を確かめるのはあきらめ、浮足立った髪に手櫛を通すと再び歩みを進める。  
 
(これは、ただの嵐じゃないかもしれない。)  
 
彼女は胸中に立ち込めた不安を一刻も早く払拭したかった。  
ただの思い過ごしであってほしい…  
 
だが実際のところ不安は確信に近く、いかなる楽観主義をもってしても、街ひとつだけを都合よく取り囲んだ嵐がただの  
自然の成り行きの仕業などとは考えられなかった。夕暮れ前、彼女が街の入口へと続く跳ね橋のたもとに立った時、  
あたりは雲一つない晴天だったのだ。  
 
法術を駆使した装具に身を固め、破邪の力を持つという宝剣を手にする彼女の歩みはいつの間にか駆け足へと変わる。  
わずかばかり脚を止めてしまった事にさえ後悔を覚える程に彼女、セリアは焦っていた。  
 
その向かう先は回廊に取り囲まれる中庭の中央。城塞を形成するこの街全体を見渡すように建てられた楼閣。  
その頂に領主の間があるのだった。  
 
…  
 
甲冑に身を包みかなりの高さの階段を駆け上がってきたのにセリアの息は僅かばかりも乱れていなかった。  
少女の愛らしさを残した唇からふっと息をはき、廊下を駆け抜けた勢いのまま扉を蹴破って領主の間に突入する。  
もはや無礼を気にする必要はなかった。  
あたりに衛兵の姿がない時点で既に尋常ならざる事態の発生は決定的になっている。  
 
それはすぐに最悪の事実としてセリアの目にも認識された。  
 
部屋の中で彼女を待っていたのは立ち込める鉄の匂いと絡みつくような熱気。  
そして黒く歪んだ巨大な影。固い何かをバキバキと噛み砕き、ぐちゃぐちゃと音をたてて貪り喰っている。  
 
「邪、竜、、」  
 
呻くように吐き出された声にゆらりと振り返ったその姿は巨大な翼と鋭い鉤爪を煌めかせるドラゴン。  
圧倒的力で君臨するまさしく魔物の王者のそれであった。  
 
だが、いま目の前にあるはずのその姿をセリアははっきりとらえることが出来ない。  
天にも届かんばかりの巨躯にも、自分と頭2つ分ほどしか違わぬ程度の大きさのようにも見えるのだ。  
 
幻体。  
 
見とれていると邪竜の気に呑まれてしまう。とっさに閃いて行動に移ろうとした機先を制された。  
 
「これは。姫殿下みずからのお出迎えとは痛み入る。」  
 
突如として頭の中に響いた声は男のものだとわかった。だがそれだけだった。  
老獪とも若輩ともとれるあやふやとした声音がセリアを一層混乱させる。  
相手の力量が図れない。冷たい汗が白い首筋を伝い落ちていった。  
 
…  
 
破邪の血をもって生まれたセリアは、国王の正妻の子でありながら、  
騎士として育てられていた。  
 
生まれもった力と近衛の騎士たちの英才教育。  
 
その二つの賜物により二十歳そこそこにすぎない彼女であるが、  
今や国中さがしても並ぶものが無いほどの腕前を誇っている。  
そこに王家に伝わる宝剣の魔力が加われば並みの魔物などに退けをとらないはずである。  
 
その彼女をしてこのドラゴンの力を見切ることができなかった。  
 
むやみと斬りかからなかったのは流石だが、間合いすら測り兼ねて  
寄るべきか退くべきかも見出せない。  
 
「さて、わざわざのお出迎え恐悦ではあるが、既に要は済んだ。退散させてもらうぞ。」  
 
「何を戯言を。臣下を害われた上、仇をむざむざ逃がしたとあっては王家の名折れ。  
貴様にはここで我が剣の露となってもらう。」  
 
だがセリアの気迫にさしたる興味も示さず邪竜は再び背中を向けてしまう。  
 
「やれやれ、我が身をわきまえぬ小娘に戯言呼ばわりされるとは。  
自重されよ。戦えばただでは済まぬのはそなたの身なるぞ。」  
 
「例えそうだとしても、王家の名を冠した宝剣を継いだ以上、無様は見せられない。」  
 
言うが早いか剣の柄に手をかけた彼女を衝撃が襲った。  
グンッと伸ばされた邪竜の尾が横殴りに薙ぎ払われ、家具や調度もろともセリアを吹き飛ばしたのだ。  
とっさに結界を展開するが勢いを殺しきれない。木の葉の様に舞い上がった彼女の身体は姿見に叩きつけられ、  
砕け散った破片が派手に宙を舞った。  
 
 
「防具に助けられたな。」  
 
 
骨が砕け内臓が破裂してもおかしくない程の打撃を受けながらセリア自身はかすり傷だった。  
だが彼女の身を護った甲冑には無数のヒビが走り、次はないぞと無言に告げている。  
 
それでも闘志を失わないセリアは再び剣に手を伸ばしかけるが、  
鈍く光る鉤爪をつきつけられてあえなく動きを止められてしまう。  
 
「このまま退けば良し。だがそれを抜けば我も容赦はせんぞ。」  
 
冷や汗がじわと背筋を伝った。力量であきらかに圧倒されている。  
眼前に迫っているはずのドラゴンの全容すらいまだに確かめられず、剣を抜く事もままならない。  
こんなことは初めての経験だった。  
 
「ふふふ、信じられないという顔をしてるな。」  
 
「こ、ここまで及ばないなんて、私は驕っていたというの?」  
 
「そうでは無かろう?  
 如何に宝剣を持とうと護衛もなくただ一人我に立ち向かわせるなど捨て駒も同じ。  
 思い直すべきは自身の力量ではなく、そなたの父や兄弟たちによって  
 そなたがどう扱わてきたかという事ではないかな?」  
 
「し、知ったようなことを!」  
 
柄にもなく激高してしまったのは図星をつかれたからかもしれない。  
一瞬、邪竜さえ出し抜く身のこなしを見せたセリアは、鉤爪をはねのけるとついに宝剣を抜き放った。  
返す腕で邪竜の胸元に一気に斬りかかる。  
 
「ふ、所詮は若気が至る年頃か。」  
 
だが、セリアが意表をつけたのはその一瞬だけだった。必殺のはずの一撃は  
翻された鉤爪であえなく阻まれ、返す刃であっさりと打ち返されていた。  
 
 
…  
 
戦いが終わり静寂の訪れた廃墟を大雨が洗う。  
街を見渡すように聳えていた楼閣がへし折られ見る影もない姿をさらしていた。  
 
邪竜との戦闘は一方的であったが、戦いと呼べるものになっただけでもセリアの力量をほめるべきだった。  
彼女は凶悪な爪撃を一度ならずとしのぎ、必殺のブレスを叩き込まれるまでその場で踏みとどまって見せたのだ。  
 
だが楼閣そのものすら吹き飛ばす黒炎に直撃させられてはひとたまりもなかった。  
宝剣の魔力も甲冑の法力もまとめて消し飛ばされ弾け飛ばされた彼女は、叩きつける雨の中、  
廃墟の上にその身を横たえていた。  
 
墓標のごとくうず高く積みあがる瓦礫の淵から、どす黒い赤に染まった雨水が滴り落ちていく。  
 
「あ、あぅ、、ぅ、、」  
 
脇腹に砕けた石壁の破片が突き刺さっていた。泡立つように流れ出た血が  
豪雨にも洗い流されず、後から後から溢れて周囲を赤く染める。  
 
苦痛にゆがんだ顔は、濡れた髪が頬に張り付き、泥に汚れて元の可憐さは見る影もない。  
 
その足下に邪竜は立っていた。自らの偉容を誇示するかのごとく翼を広げ、  
雨露を押しのけてセリアの上に長い長い影を落としている。  
 
「わ、私の敗けよ、と、止めを、さし、なさい、、」  
 
色を失った唇が苦しげに言葉を紡いだ。  
 
「我は貴様ら下賤な人間とは違うのだ。勝敗が決せば必要以上に相手を辱めることはせん。」  
 
対する邪竜の声は雨音を押しのけてあたり一面に響き渡る。  
彼我の力量差をあらためて思い知らされたセリアのプライドは敗北感に打ち据えられていた。  
だが彼女は屈しない。絶望的な状況の中で意地だけは通して見せる。  
 
「な、なにを、、人を、喰らう、、くせに、、、」  
 
「異な事を言う。貴様とて獣を狩り、鳥を討ち、魚を殺すであろうに。何を非難される謂れがある。」  
 
「い、生きるため、、だ、と?」  
 
いささか拍子抜けした応えに気勢をそがれてしまった。  
 
「左様。如何な強大な力を持とうと、腹が減っては生きていけん。」  
 
そこまで聞いた途端、得体のしれなかった魔物が急に身近に感じられて、なんだかセリアは可笑しくなってしまう。  
だが彼女の唇からもれたのは可憐な姫君の微笑ではなく、どす黒く彩られた大量の吐血だった。  
 
「ぅ、、、わ、私は、もう助からないの、ね、、」  
 
「長くはあるまい。介錯を望むか?」  
 
「くや、し、い、けど、もう気を失いそう、なの。だから、せめて、意識があるうちに…」  
 
「なるほど、王家の血筋にふさわしい見上げた覚悟だ。そなたの遺骸は必ずや丁重に葬ろうぞ。」  
 
言うが早いか既に蒼白くなりつつあったセリアの首筋にとがらせた鉤爪を向ける。  
 
「私の、身体、た、喰べちゃったり、、しない、、でよ、」  
 
「我らは気高き魂にはそれ相応の扱いで報いる事を心得ている。安心するがよい。」  
 
「そう、、なら、信じることにするわ…」  
 
そう言い残すとセリアはすっと瞳を閉じた。  
 
「覚悟は良いか?」  
 
「…」  
 
答えはなかった。閉じた眉が震えるのは体温を失った寒さゆえなのか、それとも恐怖を感じているからなのか。  
それはセリア自身にもわからなかった。ただ目の前にいざ死という現実を突き付けられたとき胸に到来したのは、  
全ての可能性を奪われる理不尽さへの憤慨と、それに抗う術を持たない自身のみじめさだった。  
それは驚くほどの熱情となってセリアの感情をつき動かした。もし、身体が健在であったなら恥も外聞もかなぐり捨てて  
無様にも泣き叫んでいただろう。だが今の彼女にできるのはただ一言、思いを口に乗せる事で精いっぱいだった。  
 
「まだ、、死にたくない、、」  
 
固く閉じた瞼の淵を雨粒とは別の滴が洗った。頬を伝い落ちた滴が赤く染まった水たまりに波紋を広げる。  
いつのまにか周囲からは雨粒以外の音が消えていた。  
 
 
長い、沈黙が流れた。  
 
 
やがて首筋から鉤爪が引かれていくのを感じたセリアがうっすらと瞳をあける。  
 
「やっぱり、歯向かう者は、簡単には、、死なせて、、くれ、ない、のね、、」  
 
「…違う。もう一つ別の覚悟の道を示してやろうというのだ。」  
 
「別の、、覚悟、、、、」  
 
「そう。我が眷属となって生きながらえる道だ。」  
 
「私が、、竜族に、どうや、って?」  
 
「我が子種の依代になるのだ。貴様の魂の気高きありようは、依代として申し分ない。」  
 
セリアの青ざめた顔にわずかに紗が入る。それは怒りの朱色だった。  
 
「くぅ、大層な事を言っておいて、結局、私を辱めるつもりだなんて、  
 所詮は邪悪な獣、少しでも信じた、私が、ばか、だっ、た…」  
 
残された精気を全て使いきるかの勢いでまくしたてるとそのままぐったりと動かなくなってしまう。  
そして伏せた唇から消え入るような声を漸く絞り出す。  
 
「でも、、死ぬよりはいい、、、」  
 
後になぜそう答えたのか問われたセリアは苦笑いではぐらかすことしかできなかった。  
目の前に迫った死の恐怖が覚悟を鈍らせたとは表向きの理由で、内心ではこの時、  
自身が自覚する以上に邪竜を信頼してしまっていたのだ。  
事切れる寸前の無我に近い境地が素直に心の内を口走らせたのが本当の理由かもしれなかった。  
 
やがて気を取り戻した時、セリアが目にしたのは、覆いかぶさるようにして雨粒から  
彼女を守りつづけるドラゴンの偉容だった。  
腹の痛みはわずかな違和感を残して消え失せ、失った血の気も戻って鉛の様に重かった  
手足がうその様に軽くなっている。  
 
「こんなすごい治癒術まで使えるなんて。」  
 
「違うな。今の貴様は我の生命力の一部を分け与えられているにすぎん。」  
 
腹に違和感を感じてセリアが顔を起こすと、裂けた傷口に無数の管が繋がっているのが見えた。  
それは鱗の隙間から伸びた邪竜の触手で、それが腹に潜り込んで砕けた骨を繋ぎ、裂けた筋肉を縫いあわせ、  
千切れた血管に繋がって失った血液を補ってくれている。  
 
「な、、私はこのままあなたと繋がったままで、、」  
 
なんとか叫んでしまうのだけは堪えたが驚きは隠せなかった。  
 
「だからこそ子種の依代となるのだ。子種とはいえ竜族。母体を護る力は十分に備えている。」  
 
「うぅ、やっぱり、そう、、なるの、、ね、、」  
 
邪竜から目をそらしたセリアの眼前に新たな触手が迫ってくる。腹につながる管よりも固く太い。  
 
「子を成したことはあるか?」  
 
「あ、あるわけないでしょ!」  
 
赤面した顔につきつけられたそれは邪竜の生殖器だった。先端を覆う殻が割れ亀頭に当たる部分が姿を現す。  
 
「だ、、だいたい、、私は、、こうい、う、のは…」  
 
「なるほど、殿下はまだ生娘か。」  
 
「そ、そんなに、はっきりわないで、、、あぅ、」  
 
突如ザラッとした舌に頬をなめられて身を竦める。鎌首をもたげた亀頭が蛇のごとく口を開いて  
セリアにむかって舌を伸ばしてきたのだ。邪竜の舌はそのまま繊細な動きで泥水に汚れた顔を舐め清め、  
擦り傷にまみれた頬に滋養を含んだ体液を刷り込む。  
 
「本当に可憐な面持ちをしている。」  
 
「なによ、さっきまで殺そうとしてたくせに、、、」  
 
背後からは糸のような触手が伸び、雨露に濡れて乱れた髪を解きほぐすようにすいてきた。  
 
「まるで黒絹のごとき髪だ。長く伸ばせばさぞ見事な姫君の姿となるであろうな。」  
 
「な、、なんで、そんな、急に、、やさしく、、」  
 
まるでいたわるかのような邪竜の仕草に胸が熱くなって、セリアは言葉が詰まった。  
 
「自らの子種を託そうというのだ。どうして無下に扱うことが出来ようか。  
 そなたのような美しき姫君を我が子の依代と出来る事。素直にうれしく思うぞ。」  
 
「あ、、」  
 
胸が一杯になって応える言葉を見つけられず、セリアはただ胸を満たした想いに誘われるようにして  
触手越しに邪竜と口づけを交わした。  
 
「んぅ、、」  
 
少し生臭い体液の味が唇に染みわたってくる。それがセリアのファーストキスだった。  
すぐに細く伸びた触手の舌が奥にまで入り込み口づけは深くなる。  
 
「は、むぅ!」  
 
突然の出来事で成す術ないセリアの唇を邪竜の触手が深く侵攻した。  
長く伸ばした繊毛を舌に絡ませてギリと締め上げ、愛らしい唇に頭を突っ込んで喉の奥を突き上げる。  
息苦しさに喘ぐ胸元からは甲冑を引きはがし、足首を抱え上げてロングスカートのスリットを割り開いた。  
 
「はぁ…」  
 
触手をぬかれた唇から粘液が糸を引く。情熱的な口づけに体の芯まで痺れきり、  
セリアは生まれて初めてになく自身の女を強く自覚されられていた。  
 
「くぅ、身体が溶けてしまうみたい、、」  
 
熱っぽくあえいだ胸元でシルクの布を盛り上げる膨らみが初々しく揺れていた。  
華奢な体つきに比べてやや大きめのそれは少女らしいハリに満ちてツンと上を向き、  
薄い布越しに愛らしい突起を浮き上がらせている。  
 
「私を押さえつけるなんて造作もなかったのでしょう?その気ならなぜ最初からこうしなかったの?」  
 
胸元をかばう様にした腕が触手にあっさりと組み伏せられてしまった。  
 
「言ったであろう。小娘を無理やり辱めるなどあっては、誇り叩き我らの名折れ。」  
 
無防備になった胸元にはさらに別の触手がすりより、瑞々しい果実のような乳房をきゅっと締め上げる。  
そして、ゆっくりとだが着実に、快感を得られるように揉み解していく。  
 
「それに、心を閉ざされてしまっては、子種を託す術式は成らんのでな。」  
 
腰をひと絡めして触手が脚の間へ割りこんできた。  
ロングスカートのスリットが全開にされ、付け根まで晒された脚は僅かでも動かすと下着が見えそうになってしまう。  
 
「改めて問おう。そなたは我が子種の依代となってくれるか?」  
 
「こ、小娘で構わないなら…」  
 
赤く染まった顔がすっと背けられる。  
 
「これは失礼した。我が美しき姫君よ。」  
 
次の瞬間、触手の舌に内股を舐められた身体が固く強張った。  
 
 
………  
 
いくばくかの時の後。  
 
腕に、頬に、胸元、そして脚。いつの間にかセリアは体中を触手に絡め取られていた。  
瑞々しい少女の柔肌に絡みついた触手たちは各々が個別の意志を持つかのごとく蠢めく。  
張り詰めた肌には生暖かい粘液が吐きかけられ、それを塗り広げる様に体中を擦り上げられた。  
 
くすぐったい。  
 
そう感じられたのは始めの数度だけで、その感覚はたちまち熱を持った疼きへと変わった。  
腋を、胸を、太腿を。ネチネチ、ニチャニチャとこねられるたび、得も言われぬもどかしさが  
全身に伝播して、自然に声が漏れてしまう。  
 
「…は、ぁ、、」  
 
それはセリアが少女の殻を破り、女へと変わり始めた証に他ならない。  
触手たちは超絶極まる感覚を駆使した愛撫をなおも続け、秘め事を知らぬ乙女の肌から  
次々にとツボを炙りだしていく。  
 
右肩から首筋へ至るライン、左胸の乳首の付け根、右の太腿の内側。  
この先、セリアを寝台で何度もよがらせることになる性感帯もこの時はじめて触手に開発されたものだった。  
固くこわばり悦び方を知らぬ肌が解きほぐされ、ゆっくりと着実に悦楽を教え込まれていく。  
 
「んぅ、はぁ、、あん、、い、や、、」  
 
乳房の上下を縛った触手がギリギリとその幅を狭め、大腿を巻き取った触手がキュウッと締って脚線を揉みあげる。  
興奮した乳首が血流を増して上をむいたところを押し倒すようにしてこね回される。  
矢継ぎ早の責め手に翻弄されるセリアはいつのまにか甘い喘ぎを挙げ続けていた。  
その耳元に邪竜が顔を寄せる。  
 
「剥ぐぞ。」  
 
そう宣告されるが早いか、身構える間もなくローブをはだかれ、  
腰の留め具を外されてスカートを脱がされてしまう。  
雨に濡れたレースの下着はたちまち透き通りセリアは股間の陰りすら隠せなくなった。  
 
太腿から爪先へ向けて伸びる一切の無駄のない完璧な曲線は美の女神すら嫉妬を覚えるほどに美しい。  
 
「あ、、いや、、」  
 
全裸にされるよりも淫らな恰好を強いられて、さすがのセリアも羞恥を隠し切れない。  
普段の快活な彼女からは想像出来ない消え入るようなうめきが漏れたのも無理からぬことだった。  
 
巨大なドラゴンの前で甲冑を剥がされ、下着姿を触手に絡め取られて成す術がない。  
覚悟していた事とは言え恐怖を感じないわけがなかった。  
 
これからなされる秘め事によって与えられるモノ。失うモノ。  
 
不安と恥辱とが入り混じった感情を簡単に制御などできるはずもなく、セリアは混乱し何も考えられなかった。  
 
その頭を突如、聞き知った声が叩く。  
 
「ひ、姫様!」  
 
振り向くと長年連れ添った従者が我を失った瞳でこちらを見つめていた。  
物心つく前から共に過ごし、力を見出された後も変わらず接してくれた存在。  
セリアにとって主従を超えて信頼しあう掛け替えのない友人の姿がそこにあった。  
 
その最も見られたくない相手に最も見られたくない姿を晒している。  
 
思わず叫んでしまいそうになったセリアの想いを察したのか、邪竜は翼を閉じて彼女の身体を隠し、  
健気にも短剣で立ち向かってきた従者に魔弾を放って吹き飛ばす。  
 
「安心するがよい。強制転移の魔法だ。命に別状はなかろう。」  
 
「そ、そう。あり、が、とう、、、」  
 
もう本当に戻ることはできない。満足に別れを言う事も出来なかった。  
突然訪れた永遠の別れが寂寥感となって胸を満たし、セリアは瞼を閉じて涙を落とした。  
それと同時に覚悟を決める。  
 
「お願い、、来て、、、、」  
 
今なら声を挙げ泣き叫んでも責められはしない。なのにそれをしないのはそれが己の選んだ道だから。  
例えいかなる経緯、理由があろうと自ら決めた事からは目を背けない。  
その覚悟こそが彼女が彼女たる所以。王家の血筋だけでは説明できぬ、セリアの気高さの表れだった。  
 
邪竜は伸ばした繊毛でその頬を拭うと、そのままセリアの処女を奪った。  
 
「は、はぁぁぁぁぁぁッ!!!」  
 
 
吹き荒ぶ嵐の結界の外で、魔弾に吹き飛ばされた従者リエルはセリアの破瓜の悲鳴を聞いた。  
 
「ひ、、姫様、、もうしわ、け、、あり、ません。」  
 
 
…  
 
それは覚悟や意思の強さでどうにかなる類のモノではなかった。  
 
異物を知らぬ膣道を押し開かれ、固く滾った男根に腹を貫かれていく。  
 
戦いで受ける傷とは全く異質の苦痛と感覚が全身を沸騰させ、五感を飽和させて、思考する余地を奪う。  
ほんの先端。固く膨らんだ先端の半分ほどが埋まっただけなのに、  
身を引き裂かれんばかりの感覚に襲われてセリアは声を抑えることもできない。  
 
秘め事に不向きな体つきなのだろう。  
 
処女だとしてもキツすぎる粘膜の抵抗に、それを悟った邪竜は媚薬を載せた触手を向かわせた。  
 
「舐めるがよい。少しは楽になろう。」  
 
だがセリアは涙に濡れた瞳に拒絶の色を浮かべる。  
 
「だ、だめ、、媚薬に狂わされてしまったら、我を忘れてしまう。」  
 
「良いのか?更なる痛みを受けることになるぞ?」  
 
触手の先端が純潔の最後の砦、セリアの処女膜に達していた。  
今にも引き裂けてしまいそうな薄膜をグイっと引き伸ばされると張り詰めた背筋がビクッと震えた。  
 
「いいの…、大切な時間だから、ちゃんと受け止めたいの。  
 自分を失ったままその時を迎えるなんて、私はいやだから。」  
 
知識はなかったが処女膜の持つ儀式的な意味をセリアは本能で悟っていた。  
 
それを貫かれた瞬間、自分は少女から女へと変わる。  
 
剣の道に没頭し色恋沙汰から目を背けてきたつい先ほどまでの日々では考えもしなかった事実。  
だがそれは二十歳の妙齢を迎えた自分にいつ訪れてもおかしくない事だった。  
 
こんな形で迎えるのは少し意外だったが大丈夫。自分を抱いたドラゴンは信用できる。  
刃を交えてから逢瀬に至るまで。僅かと言っていい時間しか過ごしていないがそれがわかった。  
 
姿形、種族の違いを超えて相手の魂そのものを愛すことが出来る。そんな高潔さをセリアは持っていた。  
 
「私からはまだ言えて無かったわね。」  
 
自ら邪竜に顔を寄せてそう囁く。  
 
「お願い、貴方の子種を私に託して…」  
 
そのまま唇を重ねて身をゆだねてきた。その身体を邪竜の触手が貫く。  
 
 
「は、はぁぁぁぁぁぁッ!!!」  
 
 
その瞬間、股間が熱く焼かれ、身体を引き裂かれんばかりの異物感が脳天を打ち据えた。  
処女姦通の衝撃はセリアの覚悟をも超越し、  
あまりの激しさにパクパクと呻く唇からだらしなく唾液を零してしまう。  
 
「は、はひッ、、はぁ、」  
 
喉が潰れんばかりに叫んだはずの悲鳴は掠れて言葉にもならない。  
 
だが、邪竜の触手はまだ膣道の半ばにすら達していなかった。セリアの身体が固いせいばかりではない。  
子種を満載し膨れ上がった邪竜の生殖器が大きすぎるのだ。  
触手から分泌される粘液が滑りをあたえていなければ、激痛で気を失っていたかもしれない。  
 
 
「随分と苦しそうだな。やはり媚薬を施してやろう。」  
 
「だ、だめ、、薬なんて使っちゃ、、大切な時に、正気を、失っちゃう。」  
 
「良いのか?さらに血を流すことになるぞ。」  
 
「死ぬよりはいいからって、、、いいえ、違う。あ、あなたを信じたから、あたなに、  
捧げるって自分で、決めたことだから、  
だから、、その瞬間は、、しっかり、、うけとめ、たいの。」  
 
「なるほど、あくまで気高くあろうとするか。では、そなたの純潔、このまま最後まで頂くぞ。」  
 
「お、お願い、、あ、あぁッ!」  
 
少しでも苦痛が和らぐようギュッと引き絞られた男根が僅かにその体積を縮めると、  
そのままセリアの最奥までを一思いに貫いていった。  
 
華奢な体が跳ね上がる。  
 
「は、はぁぁ…」  
 
 
それからどれほどの時が立ったのだろう。  
 
やがて激痛の波が引いた時、  
こじ開けられた膣道がジンジンとうずく熱でセリアは純潔の喪失を自覚させられた。  
捻りを加えた触手に未練がましく張り付く処女膜の残骸を剥ぎとられると、  
身も心も完全に女になる。  
 
「薬は、嫌だって…言ったのに、、」  
 
気が付けば尻穴に針状の触手がささり粘つく液体が注入されていた。  
 
「そなたの苦しむ顔は見たくなかったのでな。それに、この程度であれば正気を失うまい。」  
 
「あ、はぁぅ、、」  
 
邪竜の媚薬は濃度が薄められていたがその分だけ量を増していた。  
針を抜かれると尻穴からは支えきれない粘液がドロドロとあふれ出す。  
 
「やぁ、は、、恥ずかしい、、」  
 
両脚を熱い滴が伝う。その感触にセリアが羞恥を感じたのも一瞬だった。  
媚薬の浸透した膣内を触手が蠢き始めると痛みより大きい女の愉悦が理性を塗りつぶし、  
気高く可憐な姫君をあられもない姿で悶えさせる。  
 
「ん、あ、、はぁぁ、、あぁん、、」  
 
剣を構える凛々しい姿からは想像もできない、可愛らしい喘ぎが唇をついて出た。  
 
純粋で混じり気の無い乙女の心と、妙齢の女性へと成長した身体。  
やや遅めの初体験のギャップを媚薬によって埋められて、性の終局へ向けて一気に駆け上がる。  
 
激しく体奥をつかれ女にされたばかりの身体には強すぎる喜悦を送り込まれれば、  
セリアはただ恥も外聞もなく喘ぎ乱れるしかなかった。  
 
「やぁ、こ、声が、抑えられ、ない、、」  
 
責める邪竜もいよいよ受胎の術を発動しともに迎える極限への道筋を拓く。  
下着を引きちぎってセリアを全裸にすると、生殖器官から触手を伸ばしてその身体に貪りついた。  
 
「う、あぁ、はぁ、はげしい、、」  
 
瑞々しく張った乳房、しなやかに反りかえる背筋にまろやかな弾力のヒップ。  
愛らしい臍から続くなだらかな下腹のラインと、やや膨らみ気味の恥丘を経て至る乙女の秘所。  
そして華奢に括れた腰と贅肉ひとつない見事な脚線。  
 
露わにされたセリアの裸身は少女の可憐さと女性の艶とを調和させた完璧なバランスを備えていた。  
その中心で大きく花弁を開くピンクの花が固く膨らんだ触手をしっかりと咥え込んでいる。  
極上の身体に初めての雄として迎え入れられ、そして子種をゆだねる権利を得たのだ。  
 
邪竜でなくとも想念に捕らわれるなというのが無理であった。  
 
性欲に駆られた触手たちがセリアの身体に文字通りしゃぶり付き、  
絡みつくように擦り上げて快感を喰らう。  
 
触手の先端から感覚器官の集中した舌を伸ばし、それを性感に宛がって快楽を得るのだ。  
 
乳首へや股間の急所を嘗め回されセリアもまた激しい快感を受ける。  
 
「はぁ、し、舌が、気持ちいいの?」  
 
自らも舌を伸ばしてセリアは首筋に迫った触手を誘った。  
すぐに触手の蛇のような細い舌がきゅるきゅると巻きつき、唾液を絞り出されてだらだらと零してしまう。  
 
触手はそれを一粒も残さずに舐めとると、今度はお返しとばかり、  
頭ごとセリアの唇に潜り込んで生暖かい粘液を注ぎ込む。  
 
「は、ひぃ、、媚薬は、、いやだって、言ったの、に、、」  
 
熱く惚けた声に拒絶の色はなかった。媚薬に蕩かされた膣奥がゆっくりと広がり、  
結合が深くなって、触手の先端はついに子宮にまで達する。  
 
「はぁッ、はひぃッ…」  
 
たまらずに仰け反った背筋を舐めていた触手が尻の方へと降りていき、  
そのまま媚薬で溶けきった肛門へと潜り込んだ。  
 
「ひぁッ!あぁ、な、なに、ふ、不浄の孔を…、だめぇッ!」  
 
覚悟するどころか想像すらしていなかった尻を犯され、  
信じられないといった様で見開かれた瞳が驚きに揺れる。  
 
成されたことの意味が理解されると、それは瞬く間に羞恥の色に染まった。  
 
「だ、だめッ、お、お尻でする、なんて…」  
 
だが身体はそれを受け入れていた。  
 
「ん?こちらは、抜いたほうがよいか?」  
 
膣内のGスポットに後ろからの圧迫が加わることでより刺激が強くなり、  
受ける快楽が倍加していたのだ。尻を気持ちいいと感じてしまっている。  
 
セリアの答えを待たずに触手は律動を始めた。  
 
「あッ…、そ、それは、はぁん、動かしたら、やぁぁッ!」  
 
尻の触手がぐいっとしなってGスポットを前の方へと押し出し、  
そこを目がけて膣の触手が注挿した。  
 
「ひぃッ!」  
 
粘つく水音ともにつき上げられた瞬間、ゾクゾクした寒気が背筋を伝い、  
打ち上げられた体ごと意識までが彼方へ飛んでしまいそうになった。  
 
奥歯を噛みしめ辛うじて踏みとどまると、今度は大きくよがった下半身から  
触手を引き抜かれる感触に襲われる。  
 
蕩けきった膣口から触手が完全に抜かれてしまうと、  
もどかしいほどの切なさに襲われすすり泣きまでが漏れた。  
 
ピンクに染まった秘裂がもはや滝の様に蜜を溢れさせて破瓜の血を洗い流し、  
めくれ上がった粘膜を息づかせ物欲しげに蠢く。  
 
「だ、だめ、だめぇ、」  
 
邪竜の胸に震える手をつき、涙を浮かべた瞳が訴える。  
 
何がダメなのか。それを問い詰めることまではしない。  
 
触手の皮を剥き自らも敏感な粘膜を露出させると、  
邪竜は胸に抱いた愛しい姫君の望むものを与えてやった。  
 
「んあッ!」  
 
あたりに響くほどの水音がなった。  
 
その瞬間、邪竜とセリアは触手が子宮に埋まる程に深く結合し  
粘膜同士を触れさせあって一体感を共有する。  
 
それは凄まじいばかりの快楽だった。  
 
欲望に滾りはち切れんばかりになった肉棒を乙女の聖域に迎えられ優しく抱擁される悦び。  
 
男を知らなかった身体の奥底までを満たされ、むせ返る程の  
猛々しい獣欲で染められ蹂躙されていく充足感。  
 
ただの雄と雌として。心も体も最も深いところで一つになった邪竜とセリアは  
同時に理性の堰を崩壊させ、溢れだした悦楽の波にその身をゆだねた。  
 
 
宵闇に邪竜の咆哮がこだまし、セリアの悲鳴が雨音を切り裂く。  
 
「うぉぉぉッ!射精すぞ!!」  
 
「はぁっ、あぁっ、はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」  
 
射精と同時に尻へ媚薬が注がれ絶頂を嵩上げされた。  
正気を失いそうな程の愉悦の中、  
熱い奔流が子宮にも尻穴にも注がれて、魂までも満たし尽くさんばかりの勢いで広がっていく。  
 
「あ、あぁ、き、来てる、こ、子種が、私のなかに来るの、わかるぅ!」  
 
邪竜の子種は初めて男の樹液を迎えた子宮にしっかりと授けられ、粘膜の中へと根を伸ばしていた。  
傷口からは邪竜に繋がっていた触手が千切れて潜り込み、腹の中からセリアを竜族の母体へと変えていく。  
初々しく張った乳房では、絡みついた触手が搾乳運動し、  
やがて生まれる子供のために母乳を出すことを教えていた。  
 
「は、はひぃッ…、わ、私、子、子供を授かってはぁ、母親に、はぁッぅ、ま、また、イクゥッ!」  
 
竜族の生殖行為は人間の女性、ましてこの夜初めてを迎えたばかりのセリアにとって、  
激しすぎるものだった。娼婦ですらよがり狂わせるほどの媚薬と淑女をして快楽の虜にする性を  
同時に注がれ、子種まで授けられたのだ。  
いくら気高く気品に満ちた姫君と言えど淫楽への搦め手を逃れることはできず、  
あさましいまでに絶頂を繰り返す。  
 
「あ、はぁぅ、はぁッ!」  
 
繰り返し訪れる快楽に、凛々しかった面持ちが淫熱に惚けて涙を流し  
開きっぱなしの唇から唾液の筋を零す。  
 
邪竜はだらしなく差し出された舌を優しく吸って口づけすると  
それでも可憐さを失わない姫君が絶頂の極限から降りてくるまでただ抱擁し続けた。  
 
 
…  
 
 
幾ばくかの後。時刻は暁に近づく頃。  
依然垂れ込めた暗雲に遮られ、白み始めた空を仰ぎ見ることはできなかった。  
 
触手のなかで気を取り戻したセリアがうっすらと目を開く。  
その瞳は明らかに人のモノとは異なる妖しい紅色に輝いていた。  
 
「これで、私も貴方たちの同類になったのね。」  
 
「不満か?」  
 
「そうではないの。自分が招いた事だし覚悟もしていたから。ただ、もう戻れないと思うと少しだけ…」  
 
「先ほどの従者が心配か?ならば彼女も同類に迎えてやれん事もないぞ。」  
 
「バカな事を言わないで!」  
 
それは邪竜が初めて見るセリアの本気の怒りだった。真紅の瞳に烈火の如き感情が宿るのが  
はっきりと見て取れた。  
 
「ならば別れを伝えに行けばよかろう。彼女を飛ばした先はそれほど遠くはない。」  
 
「で、でも、この格好じゃ、、」  
 
見ればセリアは引き裂かれたローブの切れ端をどうにか纏っただけの姿をしている。  
男を知って丸みをました体のラインの半分も隠せてはいない。  
 
「既に秘め事を見られたのだ。いまさら恥ずかしがることもあるまい?」  
 
「そういう繊細さの無さは改めて欲しいのだけれど。私たちは、そ、その、伴に子を成した、  
ふ、夫婦、みたいな、ものなんだし。」  
 
「くくく。我が妻であるならこの程度の困難は自らの力で乗り越えるのだな。北の廃城で待つ。」  
 
それだけ言うと翼を広げ邪竜は空高くへと飛び去ってしまう。  
後に引いた航跡が雲を切り裂き、東の空から差し込む光が突き刺すようにして地上を照らし出した。  
 
瞬間、視界が白に染まる。  
 
左手をかかげ眩しそうに朝日を遮ったセリアの表情は既に迷いの色が消え、  
覚悟を決めた決意が込められたかのようだった。  
 
 

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