ぼくには二人の幼馴染がいる。
二歳上の夏実姉と一歳上の冬華姉だ。
よく三人で遊んだ小さいころの思い出は、今でもかけがえのない宝物だ。
だが、今は……。
「ちょっと! ナツ姉、何するつもり……ひゃうっ」
敏感な男性器を無造作につかまれ、情けない声が漏れる。
ナツ姉は煽情的に髪をかきあげると、サディスト全開の笑みを向けてくる。
「何って、決まってんじゃん? 今日もこのチンポに、ハッスルしてもらおうって」
「そん、なの……おかしいよ。あ、ぁ……。大体、彼氏はどうしたのさっ」
ぞくぞくと震えているぼくを尻目に、なんでもなさそうにナツ姉は言う。
「しょーがないだろ。彼とのエッチで失敗したくねーんだよ。こんな練習、一斗でしかできないし」
いつ聞いてもムチャクチャな理屈だ。
ぼくは思わず怒りを口走る。
「非常識だよ、ナツ姉は。頭おかしいんじゃないの!?」
だが、それは失敗だった。
特徴的なツリ目が、さらに持ち上がる。
かちーん、とナツ姉のスイッチが入ったのがわかった。
「あ、いや……。今のは言い過ぎ……」
「へえ、一斗のくせに、言ってくれるじゃんか? いつからあたしに意見できるほど、偉くなったのかなぁ?」
「な、ナツ姉、ごめ――」
「フユカ、押さえろ」
ぼくの謝罪も、非情な命令で遮られる。
「はーい、ナッちゃん♪」
背後からの甘い声の主に、羽交い絞めにされる。
表情こそ見えないが、フユ姉がきっと姉とは対照的な垂れ目をほころばせているのだろう。
「や、やめてよ。こんなので、ぼくが観念するわけ――」
「ふぅ――――っ」
「ふぁぁぁぁぁっ!?」
唐突に、耳に息が吹きかけられた。
びくん、と反応した身体から、冗談みたいに力が抜ける。
「ふふ、カズくんったらかわいい。耳責められると、とっても素直になっちゃうのよねえ?」
「や、やめ――」
はむ、とフユ姉が耳たぶを甘噛みしてきた。
「ああ、ぁあ……っ」
まるで食べられているかのような快感に、四肢が弛緩して抵抗の意思が失くなる。
しかしだらりとした全身に反抗するように、ただ一点は屹立していた。
「あらあら、興奮しちゃったのね」
「ったく一斗は、淫乱だよなぁ」
「ひ、ひどいよ……」
泣きたくなるが、泣いたって彼女たちには嗜虐心のエサなのだ。
ナツ姉が、おもむろに上半身の衣服を脱ぎだした。
「な、なにするつもり……?」
「うん? 今日はちょっと、パイズリの練習をな」
よっこらせ、としなだれかかってくる。
ツリ目の童顔の上目遣いと、アンバランスな巨乳のコラボレーション。
「…………っ」
「うは、もうバキバキじゃん? じゃ、始めるね〜」
そう言って、まるでおもちゃで遊びでもするように乱暴にペニスを挟まれた。
柔らかで、温かい。
拷問のような乳圧に、おとがいを反らして女のように悶えた。
「あーっ、あぁ……っっ。だ、だめ。ナツ姉、これ……、だめっ!」
「おほっ、我慢汁でもうぬるぬるだわ。……ほ〜ら、こいつを塗りこんで、滑りを良くしてやるとぉ〜?」
「うぁぁぁっ。だ、だめぇぇぇっ」
もどかしい気持ちよさが、肌の下を這う毛虫のように全身を行き来する。
「舌も使ってあげなよ、ナッちゃん?」
「そうだな。……くくっ、れろぉぉぉぉ……」
「うかあぁぁっ!?」
付け根から先端へと、ねぶるように舌が這う。
研ぎ澄まされた触覚が、がくがくと腰を震わせる。
一度だけでも狂いそうなその責めが、幾度も繰り返されればどうなるか。
「ああああっ! な、ナツ姉ゆるひてっ。おかしくなるぅぅぅっ」
「……うふふ、とろとろになったカズくんの顔、かわいい♪」
「いひんだよほぉ、おかひふなっても。こへはへんひゅうなんだはらぁ」
「喋っちゃだめぇぇぇっ! くわえたまま、しゃべらないでへぇっ!」
目を見開いているのに、目の前が見えない。
ぐるぐるな視界の気持ち悪さと、ぞわぞわと沸き上がる気持ち良さの板挟み。
「あ、あ、あ――――」
「んだよ、もうイきそうなのかよ? 一斗は早漏だから、いまいちあたしが上手いのかわかんないんだよな」
呆れたように、ナツ姉が言う。
そこによりにもよってフユ姉が、いらぬ知恵を授けた。
「じゃあ、出しちゃったら罰ゲームでいいんじゃない?」
嗜虐的な二つの笑みと、絶望するぼくの表情。
「お、それいいな。ならあたしがいいって言う前に出したら、オシオキってことで♪」
それはもう、ほとんど死刑宣告だった。
「ゆ、許して……。許してよ……――あひぃぃっ?」
唐突に、乳首がフユ姉につねりあげられた。
「カズくん、ちくび弱いんだぁ? 女の子みたいだねえ?」
耳元に囁かれるフユ姉の吐息が、抗いがたい快楽に変わる。
本当なら痛いはずなのに、それすらも気持ちよさに昇華するみたいだ。
一方ナツ姉のパイズリのフェラチオは、休まず続いている。
「んっ、ふぅ、ぺろ、んむぅ、れろろぉ、んふっ……」
「あ、あ、あ、あ――――」
壊れた人形みたいに、のどから無意識に声が出る。
ずたずたになった理性に、フユ姉がいたずらっぽく囁いてきた。
「イッちゃっても、いいんじゃないかなぁ……?」
「えっ……? で、でも――」
もうなにかを考えることなんてできない。
だが、頭のどこかでそれに抵抗する。
「イったら、とぉっても気持ちいいよ? 精液ぴゅぴゅって、したくなぁい?」
「でも……。でも……――」
「おちんぽぺろぺろしてるナッちゃんの顔に、精子かけたくないの?」
「……〜〜〜〜〜〜〜〜!」
元より、我慢なぞできるはずはなかった。
ぶるりと全身が震えると、尿道から白濁が次々と溢れる。
「わふっ!?」
ナツ姉が、突然の射精に驚きの声をあげる。
口元と顔全体に、ぼくの子種汁が蹂躙するように飛び散った。
「あ、あ……、あー…………」
気怠い解放感が、ぐったりとした身体を支配する。
最高の悦楽感。
しかしそれも、眼前の幼馴染を見るまでだ。
「……オシオキ、決定だなこりゃ」
れろりと精液を舐めながら、ナツ姉が凶暴な笑みを浮かべた。
昔からぼくは、この笑みを見ると心臓と身が縮み上がる。
「ご、ごめんナツ姉。ぼ、ぼく……」
フユ姉の甘言に騙されたことを、激しく後悔する。
だがフユ姉当人は、やはりぼくの背中に胸を押しつけたまま、嗜虐的に笑うだけだ。
「なあ一斗、ひとつ訊きたいんだが――」
「あ、あ……」
「あたしが今までお前の謝罪を聞いたことがあるか?」
そう言って、ナツ姉の手が射精したての亀頭に伸びる。
「うはぁぁぁっ♪ ら、らめ、そこ、イったばかりで敏感……っ!」
ぐりぐりぐりぐり、と普段の何倍も感じてしまうそこを責められる。
しかし決して竿は刺激しない。
あくまで亀頭を、嬲るように弄られる。
「だめぇぇぇぇっ、らめだからぁぁぁっ。こんな、こんなのっ、頭ヘンになるぅぅぅぅっ!」
「知ってるカズくん? こういうの、地獄車っていうのよ。棒のとここすらなきゃ、男の子はイくこともできないんですってね?」
「心配すんなよ、一斗。今回は、暴発の危険なんてないんだから♪ あたしたちって、なんて優しいんだろうなあ?」
「あァぁぁ――――っ! あぁ――――っ!!」
猛烈な快感があるのに、射精感に直結しない。
炎のようなもどかしさが、ただただ身を焦がしていくだけだ。
脳が焼けつくような錯覚の中、鼓膜が二人の声をとらえる。
「いいよカズくん、好きに声出していいからね? カズくんのかわいいとこ、もっと見せて?」
「心配しなくても、途中でやめたりしないからさ。小便まき散らすまで、存分によがってな」
言葉の意味は、もはや理解できない。
だが自分が弄ばれるだけの存在なのだということは、よくわかっていた。
地獄のような天国。
いや、天国のような地獄だろうか?
ショートする思考の中、そんな愚にもつかないことをぼくは考えていた。
――次の日
「今日はナッちゃん、彼氏のとこにお泊りだって」
いつも騒がしいナツ姉がいないだけで、少しがらんとした部屋にフユ姉の声が響く。
「ひどいよねぇ。昔っからそう。いつもカズくんに好き放題するくせに、彼氏なんて作っちゃって。これじゃカズくんが、遊ばれてるみたい。……あ、私は違うよ? 私はカズくんが好き。だから――」
だが響く声は、一つだけではなかった。
「あ、あ、あ、あ――――」
「カズくんの可愛い声、もっと聞かせてね?」
そう言ってフユ姉が、いきなりバイブの振動数を上げた。
びくん、と機械的に身体が跳ねる。
「あっ、あぁ――……」
「くすっ、カズくんたら、アナル責められて気持ちいいんだ?」
「ち、ひが、ぅ……! フユ姉、もぅ、やめ、へ……はぅぅぅっ?」
少し体勢を変えただけでも、電撃のような痺れが走る。
自然ぼくの身体は強ばって、四つん這いのまま硬直する。
そしてそれは――フユ姉への無抵抗を意味する。
「あはぁ……っ! お、おしり撫でないでぇっ」
「うん、でもね……。カズくんの尻穴、とっても気持ちよさそう。ちょっと触るだけで、バイブもぐもぐって頬張っちゃうんだよ? いやらしいね?」
「そ、それはっ。フユ姉が、何度も何度もいじめて……あっぅぅ?」
くい、と動けないぼくを弄ぶように背後のフユ姉がバイブの角度を変えた。
それだけで身悶えしてしまうが、『とある理由』で逃げることはできない。
そして、囁きはやまない。
「いじめるだなんて人聞きの悪い。開発、って言ってくれなくちゃ」
お淑やかなくちびるから、背徳的な単語が紡がれる。
「最初はすごい抵抗したもんねぇ? 痛い痛いって、赤ちゃんみたいに泣き叫びながら。嫌がるカズくんにむりやり突っこむのも、実はそそられたけど」
「あ、ぅ……」
宝石を愛でるようにフユ姉が思い出を語る。
ぼくにとっての三人の良き思い出とは子供のころ一緒に遊んだことだが、彼女にとっては違うのだろうか。
「一ヶ月くらいしてからかな。あれは面白かったよね。いつもなら痛いだけなのに、快感を覚えちゃって」
「やめ、てよ……っ」
「あの時のカズくんの表情、最高だったよ? 極上の快楽を、禁忌と知りながら体験してしまった。自分が堕ちちゃったように感じたんでしょ? 認められない。認めたくないって」
「やだ、やだぁ……っ」
いや違う、きっと彼女にとっては、今この瞬間も『遊び』の延長線なのだ。
ただ玩具が、人形から人間に変わっただけだ。
「それが今では、すっかりイキぐせついちゃって。あ〜あ〜、昔の自分が知ったら、軽蔑するだろうなぁ?」
「……そんな。ひどい……、ひどいよ……っ!」
ほとんどべそをかきながら、首だけフユ姉に向けて睨みつける。
ぞくり、とフユ姉の目の色が変わる。
「(……そういうところが私たちを昂らせるって、分かってないのかなぁ?)」
「え、なに?」
「ううん、なんでもない。それじゃそろそろ、イカせてあげるね」
「えっ、ちょ、ま――」
ぐりぃ、とバイブが最奥まで押しこまれる。
複雑なリズムを描き、マックスの振動が断続的に前立腺に襲いかかる。
「ほーら、ずん、ずん、ずん、ずんっと♪」
「あ、ひゃ、は、あ、あっ、あっあっあっあっあっ」
一突きごとに、脳みそが溶けていくのがわかる。
頭蓋骨の中で液状化し、やがて全ての思考が意味を失う錯覚。
「イッちゃうぅ、イッひゃうよぅ、フユねぇえ!」
勝手にがくがくと全身が震える。
「ふふ……」
そして、フユ姉が――
「ふぅ〜〜〜〜っ」
耳の裏に息を吹きかけた瞬間、
「ぁはぁああああああああ゛あ゛あ゛っ!?」
何度経験しても慣れないドライオーガズムが、津波のように押し寄せた。
息が詰まる。
心臓が太鼓のように鳴る。
ふわふわとして、同時に押し潰されるような感覚。
そしてそれが射精よりも、ずっと長い間続くのだ。
「ふぁ、ふあぁぁぁぁ…………」
気付いた時には、涙とよだれで顔中べたべただった。
「すごいよカズくん。頭も顔もトロットロだよ? あはぁ、気持ちよさそう……」
恍惚としたフユ姉の声を、朦朧とした意識が捉える。
確かに、気持ちよかった。
だが――
「……うん? どうしたのかな、カズくん」
「ふ、フユ姉、お願い」
顔を真っ赤にして、ぼくは懇願する。
「ぺ……、ペニス触ってっ」
そう、ドライオーガズムとは、射精を伴わない快楽だ。
何度でもイケるということはすなわち、射精するまで満足することはないということなのだ。
「い、イッたのに。イッたばっかなのに……っ。からだ疼いてっ。火照っちゃって……っ!」
「そう、辛いんだね」
フユ姉が、慈愛に満ちた表情をする。
「――でもダメだよ」
「なっ、なんで!?」
愕然とするぼくに、本当に愉しそうにフユ姉が答える。
「だって、勿体ないじゃん。せっかくカズくんと二人っきりなのに、射精しちゃったらそれで終わりじゃない? でもこれなら、何度でもカズくんを気持ちよくできるの。……ずっと。ずぅ――――っと。……それこそ、永遠に、ね?」
ぞくり、と背すじに恐怖が走った。
ナツ姉のものとはまた違う、氷の刃のような危機感。
「好きだよカズくん。世界でいちばん、カズくんが好き」
その視線は紛れもなく愛情なのに、どうしてこうもぼくを怯えさせるのだろうか。
「それに、そんなにおちんこがいいなら自分でいじればいいじゃない」
「そっ、それができないから、頼んだんじゃないか!」
「……あら、なんで? どうして自慰できないのかな?」
「う……、それは……」
思わず、視線を逸らす。
「――自分の口で、言ってみてよ」
ぼくの『手首ががちゃりと鳴った』。
「こんな、手錠つけられてるから……!」
そう、さっきも言ったようにぼくは逃げられない、『それ』が理由だ。
手錠の鎖はベッドの手すりに巻きつけられ、四つん這いから体位を変えることも許されない。
「だってカズくん、こういう縛られていやらしいことされるの、好きなんでしょ?」
「な……っ、ば、バカ言わないでよ。そんなわけないでしょ――」
「ウソばっかり♪」
ぐにぃ、と再びバイブが突きこまれる。
それだけで、口から吐息が漏れてしまう。
「ほらまた気持ちよくなっちゃった。否定してもカズくんは、真正のマゾなんだよ。……違うの? 違うならこんなことされたり、私になじられたりしても興奮したりしないよねぇ?」
「はぁ……っ、はぁ……っ」
ぷるぷると、身体が細かく震える。
首を横に振るだけの気力もない。
必死に耐えているぼくを、満足そうにフユ姉が見下ろす。
「Mのカズくんは、なんにもしなくていいよ。私がぜぇんぶしてあげる。最高に気持ちいい場所に、連れて行ってあげる♪ だからただ、いっぱいアヘ顔見せて喘ぎ声聞かせてね?」
「いやだぁっ、やだよ……っ!」
抵抗しても、がしゃんがしゃんと手錠が鳴るばかりだ。
「……もう、そんなことしても無駄だって。ま、できるのは今だけかな。きっとそのうち、そんな元気もなくなっちゃうから♪」
「あ……、あ……、あ……っ」
そう言って、愛撫という名の拷問が再開される。
幼馴染の笑顔のもと、寿命の縮まる快楽の連鎖へと誘われる。
あくまで愛の名で、ぼくは脆いおもちゃのように壊されるのだ――――
「ただいまー、っと」
十回、いや二十回だろうか?
数えきれないほどの絶頂を一斗が味わった後、ふいに玄関の扉が開いた。
「……あれ、ナッちゃん? 今日は泊まりじゃなかったの」
「そのつもりだったんだがな。ケンカして出てきた。ったくよー、セックスは上手くいったんだけどさー」
ぷりぷりして、夏実が入室してくる。
言葉の端々から、苛立っているのが見て取れる。
そんな彼女が、部屋に入って目にしたのは――
「ぁ、はは……、あ、ひもひ、ぃぃ……」
「うわ……」
すっかりできあがった、幼馴染の弟分だった。
「ぁ、なふねえ、おかえひ……」
「フユカ、お前がやったのかよこれ。あーあー、よだれ垂らしちゃってまあ」
「ちょっと、やりすぎちゃったかな?」
二人が話している間も、一斗は断続して身を震わせている。
見れば、まだ射精はしていなかった。
「おうおう、かわいそうに。怖いおねーちゃんに、いじめられたんだなぁ?」
よしよし、と髪を撫でてやる。
普段ならはねのけられるその子供扱いも、接触全てが性的刺激になるいまの一斗にはご褒美だ。
「あふ……、きもちいい」
こんなトロトロの表情を見せられて、発情しない女はいない。
「――じゃ、今度はあたしの番だな?」
いつもの凶悪な笑みを、夏実が浮かべる。
苛立つイベントがあった分、その苛烈さは火を見るより明らか。
「ナツ、ねえ……?」
だが一斗にはもはや、体力的にも精神的にも、抗う力など残っていないのだ。
ただ迫りくる手を、それが紡ぎ出す快楽という名の暴力を。
緩んだ口と呆けた顔で、待つだけだった。