「うへー、やっぱ久々にやると脚に来るな」
12月21日。俺──結城慶太はは久々に部活に顔を出していた。
夏で引退した身とはいえ、たまには部活に顔を出してやるのが先輩というやつだ。
さすがにブランクがあるので半年前と同じ動きはできるものじゃないにしても、来季を見据える後輩達の手伝いはできる。
「お疲れっしたー!」
「おう、お前らも頑張れな!」
後輩達に見送られて体育館を出る。別に何も用事がなければ、あいつらと帰ってもいいんだが。
携帯の電源を入れる。メールを手早く打ってから、校舎を出る。
もう五時半ということで、かなり寒かった。マフラーを巻いて、手をコートのポケットに突っ込んだ。
「こりゃ、また雪降るなぁ……雪かきにまた駆り出されんのか」
一昨日、突然大雪が降った。太平洋側のこの街は、普通あまり雪は降らないはずだが……まだ道路の端々には、残雪がある。
「また沙穂んちの雪かきまでやらされんのは……正直しんどいんだけどな」
独り愚痴っていると、それを咎めるように鳴る着信メロディ。
メールの主は、予想通りのあいつからの返信。
俺の幼馴染で今は彼女の、古田沙穂。今日あいつは買い物に行っていて、俺とは途中で落ち合う予定なのである。
「駅前のチェルシー前にいるよー、か」
俺達がよく利用する喫茶店だ。ここからなら、十分くらいか。
メールを返して、待ち合わせの場所に向かう。自然、早歩きになっていた。
吐く息が白い。そう言えば今夜も寒くなるとニュースで言っていた。
この寒空の下で沙穂が俺を待ってると思うと、早歩きがさらにスピードを増した。
……と。そんな俺の視界に、沙穂と見たこともない男が話している光景が目に入った。
ぱっと見、沙穂はかなり迷惑そうだ。ナンパだろうか。……いや、ちょっと違う。
「だからさ、一度連絡してよ。ほらこれ、僕の名刺だから」
「……私、そういうの興味ありませんから」
「そんなこと言わないでさ、ほんとデビューの目もあるんだって。君望洋学園の子でしょ? あそこの学校って……」
話は良くわからないが、ともかく沙穂は嫌がっているらしい。俺が行動を起こすのに、それ以上の理由は要らなかった。
ぐい、とその社会人風の肩を掴む。振り向いた奴に思い切り低くドスの効いた声で告げる。
「アンタさ、俺の彼女に何してんの?」
「なっ……!? あ、君、良かったら電話してよっ」
それが思ったより効いたのか。その男は言葉を一つ残して去っていく。
さっき沙穂が受け取った名刺には、聞いた事もない名前のプロダクション名が書かれていた。
「……えーと」
沙穂の表情を窺う。ひょっとして、滅茶苦茶機嫌が悪かったりして……。
「もう、ずーっと待ってんだから。ほらー、マフラーも解けかけてて……寒くないの、慶太?」
「え、あぁ」
どうやら俺の幼馴染は今日も正常運転らしい。
「ああいう人ならたまーにいるから。怪しい人ばっかりだけど」
「え……沙穂って、スカウト受けたりしてんの?」
隣で呆れた表情をしている沙穂に、思わず聞いてしまう。だって、俺ですらそんな話は初耳だ。
「今年の春から三回くらいかなあ、よくわからないのとかCMの端役とかのは。でも安心してね、私はちゃんと断ってるから」
えへん、とばかりに胸を張る沙穂。そんな仕草がちょっと可愛い……が。
「沙穂はそういうのに興味ないんだ? 女の子ならちょっとはあるんじゃないの、やっぱ」
「うーん……」
俺の質問を受けて、少し考え込む沙穂。そうして。
「ああやってスカウトの人に声かけられて、全く何もないって言ったらウソになるけど」
沙穂の手が伸びる。俺の右手と沙穂の左手が繋がる。
「私……今の生活を犠牲にするのって嫌なんだ。家族がいて、慶太がいて、学校も大変だけど楽しいっていう学生生活が」
「……」
真っ直ぐな沙穂の視線に、ドキッとする。
「どんな理由があっても、慶太の側にいれなくなるのは嫌。ずーっと一緒にいたんだし、これからもそうでいたいし……好きなんだしね」
名刺を二つ折りにして側にあったゴミ箱に捨てると、沙穂は微笑んだ。
「……そっか。つまんねーこと聞いたな」
上を向いて、軽く息を吐く。
「ううん、いいよ。……でも」
「でも?」
信号待ちで止まる。すっかり日が暮れた町の中、俺達の前を路線バスが走り抜けていった。
「私がせっかく好きって言ったんだから、何か反応欲しかったかな」
少しすねたように、でも本心では少し悪戯っぽく。そんな沙穂の気持ちがあるのかもしれない。
「えーと。あー……結城慶太は、古田沙穂を愛してます。世界中の、誰よりも」
「それパクリでしょ」
言って、沙穂が俺のコートを引っ張る。ただその割には少し嬉しそうだけれど。
「やっぱばれたか。ははっ」
二人して笑って、横断歩道を渡った。
「そうそう、今日の買い物なんだけどね」
家に近くなってきた頃、沙穂が思い出したように話を切り出す。
「あぁ、MP3プレイヤーを買ってきたんだっけ?」
確か沙穂の姉ちゃんのお下がりのMDプレイヤーが壊れたので、買い換えるとか言ってた。
「そうそう。これ凄いよねー。このプレーヤーに2000曲も入るんだって」
「実際2000曲も入れることはないけどなあ」
「それはそうだけど。ね、慶太も試しに聞いてみない? 私、買ってからチェルシーで待つ間に色々やってみたの。買ってすぐ、持ってたCDの曲を入れてみたし」
銀色のスタンダードな本体からは、似たような色のコードが伸びている。
「電器屋さんでね、せっかくだからこういうの買ってきて」
沙穂の鞄からは、別売りのものと思われるイヤホンが出てきた。
「これ、一つのプレイヤーに二人分のイヤホンをつなげれるやつなの」
沙穂の持っているイヤホンは、確かに二股状になっていて二人が一度に聴けそうだ。でも、それより。
「沙穂、イヤホンは別に一つでいいっての、ほら」
普通のイヤホンを本体に繋げて。俺の右耳と沙穂の左耳に一つずつ付ける。
「ちょっと、けーたっ」
夕方の街は人通りも多いから、沙穂も気にしてしまうんだろう。でも、俺としちゃ周りは関係ない。
それに沙穂だって、こういうのは嫌いじゃないはずだ。それは前のバカップル騒動の時に何となくわかった。
「ほら、どっちにしても変わんないだろ。さっさと聴く聴く」
「……うん、そうだね」
沙穂も頷いて、プレイヤーのスイッチをONにする。聞き覚えのある曲が耳に入った。
「あー、やっぱ沙穂はこのバンドが好きなんだな」
「うん、小学生の頃から聴いてたしね。慶太を染めたのも私だし」
二人で一つのイヤホンを使っているから、顔が近い。沙穂も俺にくっつくようにして、駅前の歩道を歩く。
「中三の時だっけ。ボーカルの人が病気から復帰して一夜限りのライブをやるってなった時に、沙穂に頼まれてうちのネットや電話を総動員したなあ」
超高倍率のチケットを取るために、その時は結城家と古田家のありとあるゆる電話が使われたのだが……。
「結局ダメだったもんね。あれは行きたかったよ、私」
「今年のライブに行けたからいいじゃん、二人で」
そんな事を言いながら、流れてくる歌詞を口ずさむ。
「さあ 手をつないで僕らの今が 途切れないように……か」
「いい曲だよね」
言いながら、どちらともなくきゅっと強く手を握る。伝わる体温に、心も温かくなる。
周りの視線は感じるけれど、別にどうだっていい。沙穂とこうしていれば、本当にそう思える。
こういうのを、本当の意味でバカップルと言うんだろうけど。
「〜♪」
俺は、それでいい。
「そう言えば」
家に程近い商店街の道。沙穂が不意にそう言って、プレイヤーの電源を切る。
「んー?」
「クリスマスイブの夜はどうするの? 慶太は今年もやっぱりアレに駆り出される?」
「いや、アレは何とかパスした。俺がここんとこ家の店に沢山入ってたのは24日を空けるためだし。沙穂はどう?」
まあ、目的は24日を空ける為だけじゃないが。
「うーん、私の所はわからない。ただ、お父さんが役員だから」
「だよなぁ」
アレ、と言うのは俺達の住んでいる街の商店街と町内会が毎年やっている「クリスマスイベント」のことである。
特売をやったり歳末抽選会なんかをやったりするのだが、イブの夜にそれがピークになる。商店街の真ん中でもイベントをする。
うちの親は町内でも毎年ノリノリな部類だし、普段は公務員な沙穂の父さんも、この時ばかりは町内会の役員として大活躍なのだ。
で、俺達幼馴染の二人はその煽りを受けて子供の頃からその手伝いをやらされてる。
制服扱いになっているサンタの格好をするのは正直恥ずかしいので、遠慮したかったのだ。それに……。
「まあいいや、明日決めようぜ。沙穂もわからないんだし」
「えー。この前もそう言って先延ばしにしたじゃない。ダメだよ慶太、そういうのは」
「むう……」
沙穂はただの幼馴染だった昔も、付き合うようになってからも、相変わらず何かあるたびに俺に対してこんな調子で言う。
昔は、幼馴染兼姉みたいな感じだったから……癖が抜けないのも仕方ないけど。
「わかった、じゃあ今日中に決める。それでいいだろ?」
「ん、そしたらまた後でメールしてね」
丁度いいタイミングで、沙穂の家の前に着いた。
りょーかい──といった感じに手を振って、沙穂と別れる。
古田家のドアが閉まるまで見送っていると、少し寒くなって、ぶるっと身体が震えた。
「……あら、お帰り。今日は遅かったのね。沙穂ちゃんとデートかい?」
家に帰ってくる。居間にいた母さんが開口一番でそんなことを口にした。
「違うよ、部活に顔出してたんだってば」
二回に駆け上がって鞄をベッドに放り投げる。手早く私服に着替えて、財布の中身を再確認する。
八……九……十枚。よし、チャンスは十回ある。
コートを着て、階段を駆け下りる。母さんに「その場所」に行く事を告げると、呆れた顔でさらに二枚くれた。
「あー、寒っ」
真っ白で煙みたいな吐息。身をかがめるようにして走る。
そして程なく、その場所についた。
そこは本屋。商店街の端にあるこの店は、年末大抽選会の担当店なのだ。そして……。
「おーう慶ちゃん、今日もポケットティッシュを山ほど持って帰りにきたか」
「うっさいな。今日こそは二位を貰ってくぜ」
町ぐるみの年末大抽選会。これは商店街の店が毎年持ち回りで店内に会場を作る決まりがある。
そして、一定量の買い物ごとに抽選券が一枚貰えるという定番の仕組みなのだ。
ついでに俺は、今月店番に入るたびに親に頼んでこの抽選券を貰って、何度も何度も挑戦していた。
結果はポケットティッシュの山だったのだが……。
「十二回か。一位は薄型テレビ、二位は○ィズニーリゾートペア宿泊券、三位はデジタルカメラだよ。慶ちゃんは今んとこポケットティッシュしか当たってないけどな」
「……よし、行くぜ」
狙いは二位のペアチケット。当ててクリスマスに沙穂を誘うのが狙いだ。
この町からなら、あそこに行って夜まで遊べば帰って来れない。だから、二人で泊まる大義名分も出来る。
目一杯遊んで、夜は旨いメシを食ってホテルに二人で泊まる。……考えただけでドキドキする。
子供の頃から互いの家に泊まった事はあったけど、二人っきりの外泊はしたことがない。
親の了承があれば沙穂もOKしてくれると思うし、抽選で当たったと言うことなら大丈夫だと思うんだが……。
「はい残念賞〜。ポケットティッシュね」
俺の前に立ちはだかる、運の悪さという壁。
「さあさあ、次がラスト一枚だよ。そろそろポケットティッシュと商店街お買い物券以外も当ててくれよ」
「くそぉ……これって当たり入ってないんじゃないか?」
ぶつくさ文句を言いながら、ガラガラを回す手に力を込める。
「頼む……っ!」
そして出てきたのは青い玉。
「残念、醤油一リットルでした〜」
「なあおっちゃん、もう一回、もう一回だけでいいからさ」
「ダメダメ、例外を許すわけにはいかんからね、しかも地元組に」
食い下がる俺。取り合う気ゼロの本屋のおっちゃん。そこに。
「慶太、なにやってるの?」
「あ……」
間の悪い事に、買い物帰りらしい沙穂が店に入ってきた。
「や、お前こそ、何で」
「お母さんから買い物を頼まれちゃって。そのついでに私大対策の問題集でも買おうと思ってきたんだけど」
そう言って、沙穂は俺と店長、そしてポケットティッシュの山を見て。
「……もう、相変わらずなんだから」
全てを察したような顔で、ため息をついた。
「抽選でチケット当たったんだ。無駄にしちゃ勿体無いから二人行かない? ……って、いつの時代の誘い文句よ」
呆れっ放しのままで、沙穂が俺に言う。
「別に沙穂を誘うことは大丈夫だろ。ただ、そっちの親にOKしてもらわんとダメだからさ」
俺達が付き合っていることがわかってからと言うもの、うちの両親は「これで息子の嫁は安心だ」だの「古田さんには割引しようかしら」だの煩い。
それに比べると、沙穂の両親は至って普通だ。まあ、沙穂の母さんの方はうちの母さんと茶飲み友達みたいなものだからわからないけど。
「でも、結局抽選外しちゃ意味ないよね」
「それを言うな」
ビニール袋の中に入っている大量のポケットティッシュと醤油。沙穂との豪華クリスマスデート計画もパーと言うわけだ。
「……じゃあさ」
沙穂が一歩前に出て、俺の前に立つ。
「うちでケーキとご飯作って、二人で食べようよ。お父さんにはイベントの方はちょっと顔出すだけでいいって言われたし」
学生なんだからそれくらいでいいんじゃない、と付け足して。
「まあ、沙穂がそれでいいんなら。その日は沙穂の家族はどうなんだ?」
「お父さんとお母さんはイベントのメインでやってるから、終わった後はお疲れさん会に行くと思う。お姉ちゃんは……多分友達と飲みに行くんじゃないかな」
最後の方は少し呆れ気味に言ってから、沙穂の顔が少しほころぶ。
「じゃあ、これで決まりね!」
──そんなこんなで当日。学校は冬休みに入ってたので、俺も沙穂も午前中に手伝いを済ませた。
「慶太の家、凄いね。結構電気代かかるでしょ?」
「あぁ、店の外のイルミネーションのことね。何日間だけだからそんなでもないよ。宣伝にもなるし」
なんでもない会話を続けながら、二人で買い物袋を持って沙穂の家に入る。
「……で、俺はどうしたら?」
料理はともかく、ケーキの作り方なんてのはほとんどわからない。
「ケーキ作るって言っても、スポンジはケーキ屋さんで買ってるしね。慶太は……えっと、果物や料理に使う野菜とか肉を切ってもらっていい?」
「あいよ」
二人で台所に立つなんて滅多にないけど、こういうのは嫌いじゃない。
かき混ぜ器で生クリームを作っている沙穂を見ていると、ほっとするような気持ちになる。
幼馴染であるとかそういうのも含めて、そんな気持ちになるのかもしれない。
「ねえねえ。あれっていつだったっけ、慶太の事件」
「事件?」
肉を切っている俺に、ケーキのデコレーションをしている沙穂が話しかけてくる。
「小学生の時にあったじゃない。慶太が私にプレゼント渡そうとしてさぁ」
その言葉を聞いて、ふっと思い出す。子供の時の恥ずかしい思い出だ。
「あ、アレの話はいいだろ」
「えー、でも私、毎年思い出すよ」
アレと言うのは、小学三年生のときの事件だ。
サンタがいないと言う俺と、絶対にいると言って聞かない沙穂が口げんかになって、俺が沙穂を泣かしてしまった。
時間が経つにつれて申し訳なくなって、その時俺が取った行動というのが……。
「まさかサンタの格好して、脚立持って私の部屋にプレゼント届けようとするなんて思いもしなかったわよ」
「だーっ、言うな、それ言うな。俺もガキだったんだ」
沙穂が全部言ってしまったので、思わずそっぽを向いてしまう。
……その後は、俺は脚立から落っこちて怪我をするわ、両親にはこっぴどく怒られるわで散々だった。
ただ、沙穂は喜んでくれたけど。
「ふう……」
料理の下準備をあらかた終えて、居間のソファに座る。
テーブルには小さなクリスマスツリー。多分沙穂が買ってきたんだろう。
「お待たせー。ケーキは冷やしたから、後はご飯を炊いて肉を焼くだけだよ」
沙穂もやる事を終えて、俺の隣に座る。
「何か面白い番組でもやってるかな?」
テレビをつけようとする沙穂……と、その手に生クリームの容器を持ってるのに気がついた。
「沙穂、それどうしたんだ?」
「あ、これね。作りすぎちゃって余ったから、何かに使おうと思って。慶太、フルーツ和えでも食べる?」
聞こうと思ってついでに持ってきたの……と、沙穂。
俺は沙穂の作ったメシなら何でも歓迎なんだが。何にしてもらおうか。
「……んー」
「何でもいいよ、余ったこれを使えて、慶太が喜ぶものなら」
そんな俺に。時々顔を出す感情……否、神が降りてきた。
沙穂の屈託のない笑顔を見ているとちょっと引け目がないでもないが、それはそれこれはこれ。
せっかく閃いたのだから、使わないのは勿体無い。
「慶太?」
「いや、せっかくだから俺が料理してやるよ、夕メシまでのひと時に」
沙穂の手から生クリームの容器を取ると、にっと笑う。感づいたのかハッとした沙穂をぐっと抱き寄せて、まずは……。
「うりゃ」
沙穂の口辺りを狙って、クリームを発射。顔にクリームの飛沫が飛ぶ。
「ひゃん!? 慶太っ、なに考えて……んんんっー!」
間髪いれずにキスする。付いたクリームを舐め取るようにして。
そう言えばキスするのも何日かぶりだ。
「ん……ふぁ」
唇を離す。漏れた吐息は甘いけど、。
「……慶太、どうせ『沙穂をクリームで料理しちゃるー』とか言うんでしょ。食べ物粗末にしちゃダメだよ」
非難がましい表情だけど、その頬はとても赤い。そして怒ってる赤さじゃない。
「料理って言うよりはデコレーションみたいな感じ?」
言って、沙穂の身体をソファに横たえる。本気で嫌がってないから大丈夫だろう。
「慶太……ダメだよ、せめてご飯食べてから……」
セーターとシャツを同時に捲り上げると、もう沙穂の上半身にはブラしかない。
「でも沙穂もこういう可愛いのつけてるってことは、今日するつもりだったんでしょ?」
「あう……それは、そうだけど、でも」
ちょっと動揺する沙穂。こういう沙穂を見てると、昔からちょっとだけいじめたくなってしまう。
「大丈夫、大好きだから、沙穂」
「こういう時にそう言っても説得力ないっ!」
抗議を聞かずに、最後の一枚を脱がせる。柔らかくて、形のいい沙穂の胸が視界に入った。
そうして、沙穂の胸を白く彩る。本当にケーキかプリンみたいだ。
「けーたぁ……やめようよぉ」
沙穂の頼みも聞かずに胸にしゃぶりつく。とても甘いし、興奮する。甘党じゃないのに癖になりそうだ。
クリームたっぷりの周りから徐々に舐め上げていって、最後に……。
「ふぁ……んっ」
ぷっくりと膨れた乳首を吸う。沙穂の身体がぴくっと震えた。その時の切なそうな、でも困ったような顔が可愛くて、もっとしたくなる。
「沙穂、ここ半年くらいで本当に乳首が感じるようになったよなー」
「ばか、慶太のばか。そうなったのも全部慶太のせいじゃないの」
その声だってあまり強い意味で言ってはいない。十年以上の付き合いで、今は身体も重ねた仲なんだからわかる。
「だから……その、ね?」
「なに、沙穂?」
俺の思ったとおりと言うわけじゃないけれど、やっぱり沙穂はちらちらっと視線をさまよわせた後で俺を見上げる。
「わ、私をこんなエッチな身体にしちゃったんだから、ちゃんと慶太は……って、何言ってるの私!?」
赤かった顔をさらに染めて、沙穂は一人であたふたする。何だか、無意識に言葉が出てしまったっぽい。
よし、ここは男の甲斐性を見せてやらなくては。
「沙穂、もう何も言うな。俺も男だ、大丈夫だから」
「慶太……私、その」
「任せろ、責任持って明日の朝までガンガンやってやっからさ!」
「ばかあーーーっ!!」
沙穂の「ばか」はあんまし深い意味じゃなくて、恥ずかしがってるパターンが多い。つまりこれは……。
「よっし、じゃあ続きを…………ひでぶっ!?」
ところが、沙穂の胸にまたクリームをかけようと思ったその瞬間に、後ろから何かが飛んできて俺の頭を直撃して──
「ああもう、うるさいったらないんだから。沙穂も私がいるんだから、夕方から慶ちゃんとまぐわうんじゃないの。聖夜を性夜にする気?」
今まで寝ていたのか、ラフな姿でこっちを見ているのは……。
「お姉ちゃん……!?」
「美穂さん!?」
いないはずの、沙穂の姉ちゃんだった。
「いやいや、まさかあの真面目な沙穂が慶ちゃんとあんなエロいプレイをしてるとはねー。出て行くのもうちょっと後にした方が良かったかな?」
四十分後。テーブルに食事とケーキ、そしてほんの少しの酒。
「お姉ちゃん、今日は出かけるんじゃなかったっけ……?」
「それがねえ。クリスマス合コンを仕切るはずだった友達がインフルエンザにやられちゃってさ、おじゃん。だから昨日ゼミの友達と朝まで飲んで歌って遊んでたの。で、さっき起きた」
穴があったら入りたい状態の沙穂に、旨いメシと酒を飲み食いできてご満悦そうな美穂さん。そして俺。
何とも言えない場の空気に、発言するのをためらってしまう。
「んー、ウマい! 沙穂もすっかり料理上手くなったわね。慶ちゃん、あんた結婚後は幸せ太りするわよ」
「何言ってるのよ。だいたいお姉ちゃんもいい加減料理覚えなさいよ」
文句を言いながら、ちびちびと舐めるようにアルコール入りのシャンパンを飲む沙穂。姉妹なのにえらい違いだ。
「私はいいもーん。料理も出来て経済力もある旦那をゲットするから」
「そんなんだから男の人と付き合っても長持ちしないのよ……痛っ」
あんたはいい男捕まえたからいいわよね、と言って沙穂の頬を摘む美穂さん。……俺、評価されてるのか?
「で、どうなのよ慶ちゃん、沙穂は」
沙穂弄りもそこそこに、今度は俺に矛先を向けてくる美穂さん。……そう言えば、昔っからこんなノリの人だったっけ。
「どうと言うと?」
「ふふふ、言わなくても察しなさいよ、身体よカ・ラ・ダ。沙穂って私よりよっぽどエロエロな本性隠してそうだし♪」
にへら、と笑う美穂さん。早くもビール二杯目に突入している。
「ちょっと、お姉ちゃん!」
「胸の小さいお子ちゃまは黙ってなさい。で、どーなのよ慶ちゃん。沙穂、本当はエロいでしょー?」
むむ。ここは素直に答えた方がいいのか。ここで変な事を言うのは沙穂がちょっとかわいそうな気もする。
「……まあ、普通じゃないっすか。俺は沙穂が好きだし、沙穂も俺が好きだからそれでいいんじゃないかなと。まずそれが大事だし、幼馴染だからその辺はお互いわかってますし」
「けーた……」
沙穂のちょっと嬉しそうな顔。だがしかし。
「その割には何であんな変態プレイをしてたのかなあ。慶ちゃん、真面目なこと言いつつ実は溜まってる?」
そりゃ、溜まってないと言えば嘘になります、はい。
「あーあ、最近はいい男もいないし慶ちゃんつまみ食いしちゃおうかなー。背徳感があって燃えそうだし」
「ちょっ、美穂さん何言ってんですか!」
思わず飲み物を吹きそうになる。この人はまたとんでもない事を言うもんだ。
「そーお? 慶ちゃん、姉妹丼ってのも悪くないかもよー? それに、私なら沙穂には出来ないコトだって出来ちゃうのよ?」
「う……」
自然、美穂さんの胸に目が行く。Tシャツの下の胸が、存在感を主張しまくる。
「ふふーん、どうやら慶ちゃんもおっぱい好きみたいね。触ってみる?」
ヤバい。俺は酔ってるはずじゃないのに、じりじりと近づく美穂さんから逃げる事も出来ず──
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」
どん、と美穂さんを押しのけて。
「けーたは私の胸が一番好きなの! いっつも胸ばっかり触ってくるんだからぁっ!」
「さ、沙穂っ!?」
呆気に取られてるのは美穂さんも同じみたいだ。驚いて目を見開いてる。
「慶太は私の幼馴染で彼氏なんだから、ぜっーたいにお姉ちゃんにはあげないの!」
俺を押し倒さんばかりの勢いで、ぎゅっと抱きついてくる沙穂。何だか、このパターンには覚えがある。まさか。
「慶ちゃん、これこれ」
美穂さんが沙穂の側にあったシャンパンのボトルを俺に見せる。空っぽだ。
「けーた、なんか言いなさいよぅ、ほらー」
……ついでに、沙穂はアルコールに弱くて飲むとよく暴走する。いや、飲み方が下手だからほぼ確実にこうなる。
「やれやれ……おい、少し良くなったか」
「うん……ごめん、せっかくのクリスマスなのに慶太に迷惑かけちゃって。もう大丈夫だよ」
美穂さんが食器洗いを引き受けてくれたので、俺が沙穂の介抱をしていた。
幸い度数の少ないものだったので沙穂もすぐに回復し、今はこうして普通に話をしてる。
「さて、それじゃ二時間くらい会場に行ってくるね、私」
立ち上がる沙穂。足取りは問題なさそうだ。でも。
「えー、行くのかよ」
このまま沙穂と二人きりでゆっくり過ごしたいと思ってたので、思わず不満を口にしてしまう。
「だって、少しくらい顔出さないとお父さんやお母さんに悪いし。それに、このままだと……」
「このままだと?」
聞き返すと、沙穂は顔を背けた。
「何でもない。着替えるから、ちょっと外出ててくれる?」
そんな風にして追い出された。仕方なく、居間に降りる……と。
「沙穂は元気になったかい、慶ちゃん?」
多分うちの店で箱買いしたと思われる発泡酒を、既に三缶空けている美穂さんがいた。
「何とか。今着替えると言って追い出されましたけど。やっぱり会場に顔出すって」
「マジかい。今日くらい自分のしたいようにすりゃいいのに、ほんと。……あぁ、あと私にはタメ語でいいよ、慶ちゃん」
呼称は「義姉さん」がいいけどね、なんて付け足して、美穂さんは笑う。
少し間が空いて。不意に美穂さんが静かに口を開く。
「……沙穂を大事にしてやってね。あの子、気づいてなかったけど昔っからずーっと慶ちゃんに惹かれてたんだから」
「それは……わかります。俺もそうですから」
だからこそ、長年幼馴染でありながら本当に向き合えなかった分を埋めるように、目一杯心を、身体を重ねてる。
「ん。あんた達に言っても今更だったか。……ま、幸せにやんなさい。ほら、どうやら沙穂も着替え終わったっぽいから」
しっしっ、と俺を追い払う美穂さん。あの人もやっぱり姉なんだな……とか思った瞬間に。
「あー、ただし妊娠させんのだけはダメだぞ〜。生でやるのはともかく中出しはできるだけ避けろよ〜」
らしい言葉が、部屋を出でるときに耳に入った。
「沙穂、入るぜー」
「あ、うん」
ガチャリと音を立てて、扉を開けて、閉めて。そして固まった。
「あは、やっぱりヘンだよね、こういうの」
少し大きめの帽子。膝上くらいまでの紅と白のスカート、そして暖かそうなベスト。
サンタクロースのようなこの服は、代々受け継がれてきたものだと言う。それを今回新調したそうなのだが。
「そんなことない……なんつーか、すげー可愛い、沙穂」
去年はこの格好をしていた沙穂を見る機会がなかったのだが、大人びた沙穂がこの格好をしていると、かなりぐっと来る。
「ありがと。……それじゃ、ちょっとだけ顔出して手伝ってくるね。慶太はどうする? 一緒に行く?」
どうすると聞かれて、思いつくのは一つだ。例えば、さっきの続き。
「んーと」
「とりあえず私は行くよー。お父さんから催促メールは来てないけど」
言って、部屋の扉に手をかけた沙穂を。
「待った。沙穂……行くな」
手を回して後ろから抱きしめる。
「俺さ、今沙穂を抱きたい。さっきの続きで」
「ダメだって……私、後でちゃんと帰ってくるから、その時ね」
諭すような沙穂の言葉。でも、俺の気持ちを変えるまでには至らない。
「本当に嫌ならさ、俺の手を振り切って行けよ。でも、もし違う気持ちがあるんなら……」
俺はずるい。沙穂の気持ちが少しわかってて、こんな態度に出てる。
「ばか……そんなこと、言わないでよ……もうっ」
少し躊躇してから。沙穂はゆっくりとこっちに振り向いた。
そのまま沙穂が背伸びして、軽くキスする。
「仕方ないなぁ。じゃあ、サンタな私が慶太にプレゼントってことで」
「あ、そしたら俺も……メシ時に渡すつもりが沙穂ダウンしてたし」
さっきまで今すぐ沙穂としたいと思ってたのに、何か思い出したように慌しくプレゼント交換になってしまった。
間が悪いような、でも俺達らしいような。
「じゃあ、せーので渡すってことでいい?」
「OK、いつでもいいぜ」
沙穂も俺も、袋の中にプレゼントを持って。
「じゃあ行くよ。せーの」
「「はい!」」
俺が差し出したのはペアリング。高い物ではないけど、二人の記念にと思って買ってきた。だが。
「え……?」
沙穂の手にもペアリング。こっちは女の子らしいあつらえだけど。
「おいおい。俺も沙穂も、ペアリングってオチ?」
「あはは、そうみたいだね……。何か、長い付き合いだから似るのかな、そういうの」
実際、二人でペアリングの話をしてた事があるのが大きいとは思うけど。
「……値段は比べないようにしような」
苦笑しながら、それぞれのリングを指に通す。さすがに二つ同時につけるのは変だろうけど、俺達らしいので今はよしとする。
ベッドに腰掛けてからもう一度見合って、また唇を重ねる。今度は丁寧に、そして深く。
「ん……ふぅっ……ぅ」
吐息が漏れる。舌が絡まる。沙穂と繋がりたい衝動がまた首をもたげてくる。
幼馴染と付き合っても、すぐ飽きねー?……と聞かれたことがある。
全くそんなことはない。沙穂は恋人同士になってからは、彼氏彼女としての関係だけでなく、幼馴染としても今までにないような顔も見せてくれるようになった。過ごしていてもとても新鮮だ。それに。
「ふぅぅ、ぁ……あぁっ」
ベッドに寝転がって、這わせた指に喘ぎ声を上げる沙穂。その蕩けかけた表情が、たまらなく俺をひきつける。
恋人としての沙穂も、こうして身体を重ねる時の沙穂も、もちろん幼馴染としての沙穂も。終わりなんかない。いつも新しい部分を発見できる。
「ぁ……慶太」
ベストを脱がせると、さっき見たブラがあった。丁寧にそれも脱がす。
そうすると、現れる沙穂の胸の膨らみ。さっきは中途半端に終わった分、今度はもっと気持ちよくさせてやりたかった。
麓の辺りからゆっくりと揉み解してやって、一番敏感な先端は残しておく。
そうして沙穂がそこを触るのを期待した頃に、軽く息を吹きかけて。
「うぁ……慶太、や、そこっ」
また硬くなった沙穂の乳首を、指先で押すようにしてから、二本の指で挟んでこねる。
コリコリっと乳首が責められるたびに、沙穂は切なげな声を上げた。
「あぁっ、やっ、胸ばっかり……またぁっ」
沙穂の喘ぎが大きくなる。美穂さんにバレると面倒なので、リモコンでコンポの電源を入れてループ再生するようにしておいた。
「サンタさんな沙穂はココが感じるんだ、ほうほう」
調子に乗って色々弄る。ふにふにと揉んで形を変えてみたり、舌で円を描くように舐めてみたり。
「こらぁっ……けーたっ、ダメ、んんんんっっ!」
気が付けば、沙穂は両脚の間にある俺の膝に擦り付けるように動いてる。ちょっと意地悪な質問をしたくなった。
「沙穂」
「あふ……ん?」
「腰、俺の膝に擦り付けてるけど。……早く下も触って欲しい?」
瞬間、沙穂が硬直して顔から火が出るほど赤くなった。
「わ、私……なんで、こんな、ぅぅ……あう」
泣きそうになってる沙穂。どうやら自分から無意識にしてたのがショックらしい。
「別にいいだろ。沙穂が気持ちよくなってくれてるなら嬉しいし、してる時はエロくて当たり前だし」
「うー……」
まだ沙穂は目を潤ませたままだ。このままいじけられても困るので。
「おりゃ」
「ひゃあっっ?!」
思い切り乳首を吸ってみた。驚いたのもあるだろうけど、沙穂の上体が跳ねる。
そのまま二度三度と続けて、最後に沙穂の首筋も吸う。目立つ所に紅い痕が付いたせいか、俺もカッと頭に血が上るように思えた。
「ぁ……けーた、わたし」
沙穂の声から、普段のキレが消える。代わりに、甘さと女っぽさが増したような。
「ん、わかってる」
手を胸から臍、そしてその下に伸ばそうとして──気が付いた。今日の沙穂はイベント用のとは言えサンタチックな格好だ。
あまり履かないミニスカートも履いてる。それを再確認して、また悪戯心が沸いた。
こういう時だけ女の子を苛めたくなってしまうのは、男の性なのやら。
俺は脱力している沙穂の身体を掴んで身体を反転させて、うつ伏せに近くする。そしてお尻を高く上げさせて……。
「や……慶太、これって」
「四つん這いとか後ろからはやだって言うんだろ。でも今日はこうやって触る。でないとしてやんない」
スカートを少しずらしただけで、沙穂の可愛い下着がわずかに見える。ずらしたスカートを脱がせてすぐさま、なぞるようにして沙穂のを弄った。
「ぁ……ぁんっ」
沙穂の下着はもう微かに染みていて、けっこう感じてたんだってわかる。でも、ひょっとすると。
「沙穂」
「ん、ふ……なに?」
触りながら、でも耳に近い距離で。思ったことを聞いてみる。
「ひょっとして、居間の時からずーっと興奮してた?」
沙穂にだけ聞くのは悪いので、俺もそうだと言う事を告げる。ややあって、沙穂も頷いた。でも目は閉じっぱなしだ。
「……どうして、する時だけこんなにいじわるなのよ」
そんな呟きじみた言葉を残される。とりあえず沙穂の染みてる下着を膝まで降ろして、太ももから中心へと掌を進める。
「俺がそうしたら沙穂も感じてくれるみたいだから。あ……やっぱし沙穂ってMとか?」
「そんなことなっ、いいっ……ぁっ……ひぁっ!」
答えようとした途端に鋭い喘ぎ声が上がる。沙穂の中はもう熱くてとろとろで、入れてみた指がきゅうきゅう締められた。
「ほら、こっちももうとろとろだし」
潤った内部からは、今にも溢れた液体が出てきそうだ。沙穂の丸いお尻を撫でながら、その指先を沙穂の一番感じる所に。
覆っていたものを退けるようにして、突付いた。
「あっ──!」
びくん、とまた沙穂が震える。頭は少し高い所で、顎も上がってる。
「沙穂さ、この体勢なんで嫌なんだっけ?」
「だって、慶太の顔見れないじゃないっ、ぁ……だから、やなの」
上ずった声。でも、多分きっと。
「後ろからされたら気持ち良すぎるから……なんてこと、ないよな?」
「ないよ……ないの……そんなの、なくてっ、あっ、ぁぁっ」
やばい。やっぱ可愛い。日頃は付き合う前とさほど変わらない幼馴染が、俺と身体を重ねる時はこんなにエロくて可愛い顔で、喘いでる。
そう思っただけで、もうガチガチな俺のがまた硬くなったような気もした。
したい。沙穂と……壊れるくらいにしたい。
「沙穂。……いいか?」
「……うん」
特に何も言わないってことは、暗にこの体勢でいいって事だろう。でも、こんな血の上ってる頭なのに一つアイデアが浮かんだ。
沙穂の中からゆっくり抜き差ししてた指を引き抜く。とろっとした沙穂の体液が指を伝った。
「ぁ……けーた?」
とろんとした目。普段は角度次第ではちょっときついくらいに見える目も、今は違う。
「ん、ちょっとしたアイデアをね」
ベッドから降りて、部屋の隅にあった──長い立ち鏡を持ってくる。それを、沙穂の視線の真ん前に置いて。
「沙穂、ちゃんと前向いててよ」
我ながら凄い意地悪だ。でも、それだってこの体勢でも沙穂の顔が見たいから。沙穂も俺の顔が見れるから。
「ばか……慶太のヘンタイ。……もう、仕方ないんだから、いいよ……そのまま、来てよ」
蕩けた表情のままで、沙穂が恥ずかしそうに言うのが鏡越しに見えた。
「いいの?」
「うん……平気な日だから。クリスマスだし……慶太を……その、いっぱい……ちょうだい」
ぞくりとするような、沙穂の懇願。俺のはもう三度でも四度でもやってやるとばかりに反り返ってる。
このままだと入れた途端に出してしまいそうだ。なので……。
「んぁ……ふぁ、ぁぅ……」
沙穂のとろとろの場所を、俺ので撫でるようにして往復させる。何度も、何度も。
「ねぇ……どうして?」
入れてくれないの、とはさすがに言えないんだろう。沙穂らしい。
「もっと、ゆっくりしようと思って」
「何それ……ぁ、んっ」
上から下へ。往復部分の上にある窄まりは、触ると本気で怒られるので触らない。
そろそろ、いいか。俺も少し落ち着いたとは言え、入れたくてしょうがない。
とろとろどころかもうぐちゅぐちゅになってるその部分のに宛がう。沙穂の短い声が聞こえて。
「くっ……」
「あぁっ──あ、あっ、あ」
最奥まで突き入れて、すぐに動き始める。スムーズに動けるけど、でもきゅっと締まってる。
ぱつん、ぱつんとぶつかる身体と身体の音。さっきかけた音楽は聞こえなくて、ただ俺と沙穂が出す音だけが耳に届く。
「沙穂、俺の方を見て」
往復を緩やかにして、沙穂に呼びかける。せっかく鏡を置いたんだし、無性に沙穂の顔が見たかった。
「慶太、けーたぁ……」
鏡に映る沙穂の顔。後ろから突かれていて、結構感じてるみたいだ。でも。
「だめ、こんな顔見せられない」
すぐに顔を背けてしまう。俺、沙穂の感じてる顔も好きなのに。
だから、思いっきり後ろから突いてやる。自然、沙穂のあごが上がって顔が見える。
「後ろやだって言う割には気持ち良さそうだけど」
「違っ……ゃ、だって、ぁ──」
答えれてない。やっぱり結構気持ちいいようだ。少し手を伸ばして胸も触る。柔らかくて、でも先だけは固くて敏感。
「っく」
そう言う俺も、付けてないわ興奮してるわで、あまり持ちそうじゃない。
嫌いなはずの後ろからで感じてる沙穂もいいけど……やっぱり最後はちゃんと向き合いたい。
入れたままで、沙穂の腰を掴む。そのまま身体を反転させてやって、それから脚を開かせた。そうして、俺が上になって向き合う。
「もうあんまし持たないかも。いい?」
「うん……いいよ、慶太……ひぁっ、ああっ」
はぁ、はぁと二人で荒い息をしながら、軽くキスする。
ずっ、と突き出すたびに、くちゅっと水音が聞こえる。何も隔たりがないから沙穂の中を強く感じるし、繋がった部分の上でも絡まりそうになる。
片手を繋ぐ。汗ばんだ身体を密着させる。耳のすぐ側に聞こえる沙穂の声。回されてる手の先から感じる、鋭い感覚。
密着感と快感で溶けそうだ。
「うぁ、出る……沙穂、沙穂っ!」
「慶太ぁ──あ、いっ、あああっ!!」
我慢できなくもない気がしたけれど、そのまま沙穂の中に思い切りぶちまけた。
薄い膜の中じゃなくて、沙穂の中に出す感覚。本能的なものなのか、いつもより数倍気持ちいい。
「あ──ぁっ、すごい……すごいよぉ」
沙穂が焦点の合わない目で俺を見る。求めるように唇が動いたので、息が乱れてるのも構わずにまたキスした。
「……っと」
「んっ」
繋がっていた部分を離す。その時にも沙穂は感じてくれたみたいだった。
「っ……はぁっ、慶太ったら、本当に思いっきり出しちゃって」
大の字になって、息も絶え絶えな沙穂。
「付けなくていいって言ったのはそっちだろ」
「そう……だけどね。良かった?」
「うん。沙穂も気持ちよかったっしょ?」
言いながら沙穂のほうを向いて、その姿にはっと見とれた。
一糸纏わぬ姿の沙穂。息をするたびに揺れる胸、すらっと伸びた手足。そして、二人分でどろどろになってる繋がってた部分。
「ずっと一緒にいても、こういう部分は気づかないよなぁ」
幼馴染同士でも、身体を重ねて初めてわかる部分もある、だからもっと欲しくなるし、そういう相手を知っているという事実に独占欲が満たされる。
「慶太?」
まだぼーっとしている沙穂の隣に寝転んで、そっとその背に手を回す。
「いや、付き合ってからわかる部分って、ちゃんと幼馴染同士にもあるんだよなって」
「そりゃそうじゃない。今だって、私は慶太についてわからないことだってあるよ?」
俺の胸に、沙穂の髪と息が触れる。沙穂の匂いがくすぐるように香る。
「お互い様ってやつだよな。だからいいんだろうけど」
言って、身体を潜らせる。目の前にある沙穂の胸をやわやわと揉んで。
「沙穂がこんなエロい素質あるなんてのも知らなかったし」
「ん、もう……私だって慶太がこんなに胸フェチだったなんて全然知らなかったよ」
その言葉には、微かに笑みが混ざっている。そうして。
「ほら、また赤ちゃんみたいに私の胸吸ってみる? ……慶太が大会に負けた日の、あの夜みたいに」
「なっ……!」
絶句する。あの日は悔しくて慰めて欲しくて色々あったけれど、言うのはナシにしてるのに。
「沙穂、それは言わない約束だろ……」
「あはは、ごめんね。……でも、あの時の慶太は可愛かったよー。いつもは自分で主導権握りたがるくせにあの夜は……」
「だー、やめろやめろ、やめてくださいマジでお願いします」
密着していた身体を少し離す。
「わかった? 私だって知られた事はあるけど、慶太はもっと私に色々握られてるんだから」
「う」
俺の髪を撫でながら言う。いつものノリになってきた。と言うか笑みが怖い。
「だからさ、これからも幼馴染としても恋人同士ってことでも、仲良くしようね、けーた」
「ああ」
それが引き金になったみたいに、また唇を重ねる。そうして。
「慶太……あのね、もう一回、しよ?」
こんな嬉しい提案が来る。やっぱり沙穂の本性はエロいのかもしれない。……美穂さんみたいになったらちょっとアレだが。
頷くと、沙穂の細い手が小さくなってた俺のを優しく握る。そして、起き上がってそこに顔を近づけてくる。
「沙穂、そこ拭いてないんだから」
汚いって、と言おうとしてまた口を塞がれた。
「いいの。慶太のなら平気。……あむっ、んっ、ん……」
そうして理性を剥ぎ取るような愛撫合戦がまた始まって、今度こそ何もかもを忘れて、溶け合った。
「……けーた、私、あっ、もう……いく……んっ、あああっ!!」
互いに何度絶頂を味わったか。熱くて柔らかくて、沙穂と重なってると本当に溶けそうになる。
それは沙穂も同じみたいで、積み重ねた二人の月日も大きいけど、身体の相性も合ってるのかなー……なんて蕩けた頭で思った。
「……今、何時?」
「11時少し前……」
沙穂のちょっと疲れたような、でも充足感もある声が届く。今までにないくらい何度も何度もしたからだろう。
「すっげえ長くやってたんだな」
側に寝転んでいる沙穂に声をかける。俺も沙穂も、二人分の体液に染まりきっていた。
「……うー、新記録だね、きっと。何であんなにしたくなったのかなぁ。受験のストレス? ……あ、私がエッチだからって言うのはナシね」
沙穂が不思議そうにそんな事を言う。俺はと言うと。
「いいんじゃね? それだけ俺は沙穂が好きで、沙穂は……俺を好きってことだし」
「もう。……ほんとさらっとそういうことを言っちゃうんだから。……って」
言いかけて、沙穂が弾かれたようにベッドから身体を起こす。
「イベントもそうだけど……お姉ちゃんのこと忘れてた! 何回もしたし、絶対聞かれちゃったよ……」
慌て始める沙穂。……すまん、俺は途中から気づいてた。
「沙穂、あれあれ。ドアに紙が挟まってる。メモ用紙みたいなのが」
ドアを指差す。二回目が終わったくらいで気づいてたものだけど、没頭していたから無視していた。
素っ裸でドアに駆け寄ってそれを引っ張る沙穂。B5サイズくらいの紙が挟まっていて。
「えっと……『独りだと暇だしお金欲しいので、沙穂の代わりにイベントの手伝いでもやってきます 美穂より』だって」
「へえ……気を遣ってくれたのかな」
「あれ、でも続きがあるみたい。『PS 沙穂ってすっごい可愛い喘ぎ声なのね。慶ちゃんも凄いみたいだし、聞いてるだけでお姉ちゃん濡れちゃいそう♪』って……何これ!!!」
「…………」
前言撤回。やっぱりこれをネタにしてしばらくの間沙穂を弄るつもりだ、きっと。
わたわたと慌てている沙穂。やっぱり肉親に聞かれるのは嫌なんだろう、でも。
身体を起こして、閉じていたカーテンを開けてみる。それから、半泣きの沙穂を後ろから抱く。
「何よう、私もうしばらく立ち直れないってのに」
「いいから、外見てみろって」
抱いたままくるっと向きを変える。
「あ……ゆき、降ってる」
俺達がしている間に降り始めたのか、外は一面銀世界だった。街灯だけじゃなく、雪明りで街は白く光っているようで、どこか幻想的だった。
「綺麗……雪なんて滅多に降らないのに」
「だな。本当に綺麗だ」
裸のままで沙穂を抱いて。窓の外は一面の雪。都合良く回しっぱなしのコンポからも冬の歌が流れてくる。
「響く音色はぁ、冬の口笛〜♪」
沙穂が口ずさむ。俺も嬉しくなって同じようにする。
「途切れないように──育てていこう、二人で……ってか」
どちらからともなく、二組のペアリングの填まった手を繋ぐ。
幼馴染としては幾度も重ねた日だけれど、心も身体も繋がった同士としては初めてのクリスマス。
理由なんか要らなくて、嬉しくて、二人で笑う。
ずっと一緒に育ってきた幼馴染の女の子と、今は想いも通じて、こんなに幸せなクリスマスを迎えられた。
上手く行きすぎだなーなんて思いながら、シャワーを浴びてまた何でもない話に花を咲かす。
そんな、俺達のクリスマス。
ただ、物事はいつも万事順調とは行かなくて。
翌日、俺は反動での筋肉痛と脇腹痛、沙穂も筋肉痛に襲われて、ダウンしてしまった。
そういう所まで俺達らしくて、これからもきっとそうなんだろう。でも、それがいい。
そんな事を沙穂とメールしながら、思っていた。