<プロローグ>
そこは、薄暗い空間。
手を伸ばせば自分の指先さえも分からなくなる闇の中。
唐突に音楽が鳴り響くと同時、パッ。とスポットライトが点いた。
闇を切り裂くような強い光の中央で、一人の女が浮かび上がる。
――腰までの波打つ金髪。やや濃い目の化粧を施した顔。
グラマラスなその肢体を見せ付けるように、その体は真っ赤なボンテージに包まれていた。
化粧をしていなくても、相当の美人だと想像出来るその顔の中央で。
赤いルージュで彩られた唇が、にぃ、と楽しげに弧を描いた。
「れっっでーぃぃぃす、あーんっど!じぇーんとるまーん!」
高々と両腕を振り上げ、女は大きく叫ぶ。
おおおおお!と暗闇の中から、大勢の人間の声が響く。
「今宵はこのアタシ、陽子ちゃんの主催する会に参加して頂き、ありがとうごっさいまーっす!
紳士淑女主人奴隷玩具、全ての存在を大歓迎するわっ!
皆仲良く元気よく!!会が終わるまで存分に楽しんでいって頂戴ねー!
今宵は無礼講ー!何が起きても無問題!とにかく楽しんじゃえー!なノリでいきまっしょうー!」
パチパチパチパチパチ。
闇から幾つもの拍手が起こる。
「ただーし一つだけお約束。Sは己の事をソドムだというのを忘れない事。
Mは己の事をマスターだと忘れない事っ。
SMに関わる者として、恥かしくない行いをする事。これをちゃーんと守るようにねっ。
もしも駄目駄目な事をしたらアタシと―――」
パッ。とスポットライトが灯る。
赤いボンテージのすぐ横で、カツ。とヒールの音が響いた。
「香澄ちゃんがお仕置きするんで、そこんとこよろしくねっ♪」
真っ白のボンテージに包まれた一人の女王が、おずおずと頭を下げた。