◆蝋人形
マチルダは今日も揺るが無い。
毎朝、彼女は録音テープのように僕を起こし、
音一つ立てずに食事を並べ、
瞬きすらせず花々を手入れ、
インプットされたように窓を拭く。
同じ毎日、全てが予定調和から外れない彼女を人は『蝋人形』と呼んだ。
でも僕は知っている。
蝋人形もキスの熱には蕩けてしまうという事を。
「ひやっ!んぅ…………。坊っちゃま、お戯れは程々にして頂きますよう……」
一瞬だけ頬が紅く見えたけど、彼女はそういってすぐに仕事に戻ってしまった。
でもマチルダ。猫で窓を拭いてはいけないよ。