再び故郷の土を踏める。  
本当に幸運だ。  
自分の力なんかより運のおかげと言った方がいいのかもしれない。  
帰ってこれた。  
数えきれないほどの幸運と、旅先で出会った仲間の助けがなければ無理だっただろう。  
そうなれば当然あいつも悲しむ。  
いや、例え知らせが届いても信じずに待ち続けたか。  
何年も何十年も。  
新しい恋人など考えもせずに一人で待ち続けて、そのまま老婆になってしまってもまだ待ち続けたか。  
………あいつはそういうやつだ。きっとそうだっただろう。  
 
あいつを一人にするのが嫌で、でも旅立ちは迫って、旅には出なくちゃダメで。  
そんな葛藤にギリギリまで悩んで、  
『小さい時から旅に出ることを意気込んでた幼馴染はどこに行った!』  
って。  
本当は一日だって離れたくないのに、ずっと一緒にいたいのに。  
普通に暮らして、恋して、結婚して、子どもを作って。  
普通に暮らしたかったのに、怒って、怒鳴って、時々殴って。  
でも本当はやっぱり行って欲しくなくて。  
だから行けとは一言も言わなくて。  
ただ小さいころは楽しみにしてたのにと。泣きそうなのを必死に我慢しながら。  
言っていた。何度も何度も。  
だから別れの言葉は言えそうになくて、別れの時の顔も見れそうになくて。  
何も言わずに朝早くに。  
『またな』と短く。  
手紙を置いて出てきた。  
 
それからもう何年経ったか。  
正確には4年だけど。離れている時間を考えたくなくて。  
 
4年経っても何も変わらない。  
この道も、あの店も教会も。  
俺の家も、隣のあいつの家も。  
 
あの犬まだ生きてたのか。  
俺への吠え方も変わらないな。  
警戒ではなく歓迎の吠声。  
 
ほら出てきた。あいつが。  
連絡するの忘れてたな。怒るかもな。  
でもすぐに許してくれるだろうな。  
一緒にいれなくて辛かったろうな。  
なんて言うだろう。  
早かったね。遅いよ。無事でよかった。  
 
 
こいつは少し変わったかな。  
髪伸びたな。体つきも。走り方も。  
 
でも声は変わってないな。  
 
「おかえりなさい」  
 
 

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