2  
 
「うあっ!!!」  
 
 テアルは普段の声とは似ても似つかないすっ頓狂な悲鳴を上げて起きあがった。  
 周囲は闇のとばりに落ちているが、見渡す限りの草原。  
 トーレ村の南に位置する、同名の広大な土地だろう。  
 全身に汗をかいているが、つい先刻まで体験したできごとが夢じゃないことぐらいはわかる。  
 
「痛っ…………」  
 全身に軋むような鈍痛。  
 あの女にやられたせいだ。  
 
「やつめ…………まったく躊躇することなくここまでするとは…………ちぃっ」  
 声が濁ってしまいそうな腹部の痛みにテアルは舌打ちする。  
 杖の先端で胃をえぐるように打ち据えられたが、もしとっさに抗魔法〜クラージュ〜をかけてなかったらこの程度では済まなかっただろう。  
 
「……未だやつに敵わないのか、私は」  
 少女は忸怩たる思いをかみ締めるように独語(どくご)した。  
 中等位次席がなんだ。  
 主席と差が大きすぎたらそんな事実など滑稽に見えるだけだ。  
 
「…………ぐぅ…………っち」  
 地面に手をついて立ち上がろうとするが、体中の至るところが悲鳴をあげていて起立することすらもままならない。  
 そのうえ、先刻の戦闘で魔力のほとんどを使い果たしてしまったせいで回復魔法〜curare〜(キュラーレ)の行使もできそうにない。  
 
「…………アルさまぁ」  
 
 ふいに。  
 テアルの耳朶を打ったのは可愛らしい少年の声。  
 少女の首にかかっている黒縞瑪瑙〜ブラックオニキス〜のペンダントから放たれたものだ。  
 
「アルさまぁ、だいじょうぶですかぁ……?」  
 鼻にかかったようなハイトーンソプラノに、テアルは思わず相好をくずした。  
 
「…………そういえば、すっかり忘れていたな」  
「えっ、そんなぁ?! ヒドいですよアルさまぁ」  
「仕様が無いだろう。見てのとおり、無様にやられてきたからな」  
「うう、おいたわしや…………」  
「だが、私の言いつけをちゃんと守ってくれたのは有り難く思ってるぞ、ギリオン。むしろ、心配性のおまえが良く最後まで出てこなかったな」  
 
 テアルが彼――妖精ギリオンに頼んだのは、「私がどうなっても決して外に出てくるな」というもの。  
 主従契約を結んでいる魔女と妖精は、魔石を介して容易に召喚可能だが、テアルはあえてギリオンの加勢を事前に止めておいたのだ。  
 
「でもでも、このままじゃうごけないですよねぇ……? どうしよう……ガドウィールさまをよんだほうがいいかなぁ…………?」  
「な、なんだと?」  
 テアルはその固有名詞に過敏に反応する。  
 
「おい、まさかギリオン……あいつがこちらに来ているのか?」  
「そうですけどぉ……あれ、けっこうおおきなまりょくがちかくからはなたれているじゃないですかぁ」  
 少女は肌が粟立つのを感じた。  
 ようやくあの小姑爺から解放されたと思ったら、もう再会する破目になるのか?  
 
「というか、もうすぐそこまできてますよぉ」  
「逃げるぞギリオン」  
「え、ど、どうしてですかぁ?!」  
「せっかく自由を満喫できそうなのに、また縛れらるのはごめんだ。私は独力でやつをたお――――」  
 
「其れは無理な相談ですな、テアル様」  
 
 渋みのある特徴的なバリトンボイスが響くと、テアルの背筋に悪寒が走った。  
 過去の世界では飽きるほどに聞いた低い声。  
 一週間程度あわなかったところで忘れられるはずもない。  
 
「わたくしの気配を察知出来ないとは、よほど消耗しているのでしょうな。お痛わしや」  
 ギリオンと同じことを言う声の主の姿を、テアルは視認できない。  
 わざわざ異能魔法を行使っているのだろうか。  
 暗いとはいえ、周囲は見渡す限りの大草原なのである。  
 
「…………主に対してかような狼藉、とても見過ごすことはできん。クビにするぞ、ガドウィール=カトゥケスス」  
「いや、冗談です、冗談でありますぞ、テアル様」  
 テアルがガドウィールと呼んだ不可視の男は、フフフと愉快そうな忍び笑いを漏らした。  
 
「相変わらず……お変わりないようで、テアル様」  
「一週間顔を合わせなかったくらいで大げさだな。それよりさっさと姿を見せてくれないか? やりづらくてかなわん」  
「かしこまりました」  
 声は首肯し、すぐさまサァァァッ……という乾いた音とともに、大柄な男性のシルエットが少しづつ形をなしてゆく。  
 
 推定、四十代後半の大男である。  
 背丈だけでなく横もヴァッツを有に越える。  
 それだけではない。  
 彼が全身にまとうのは、もの凄い重そうで、もの凄い光沢が目立つ全身鎧〜フルプレート〜だ。  
 背にはきわめて特徴的な紋様が描かれている巨大な戦斧〜バトルアクス〜を携(たずさ)えている。  
 鎧から出ている顔は男前だが、齢はすでに五十手前だろう。  
 初老寸前の壮年の良い部分だけを抽出したような、見事な面差しだ。  
 ガドウィールは、きわめてアルカイックな微笑をテアルに向ける。  
 
「寂しかったでしょう。さあ、遠慮なくこの爺の胸にとびこ…………」  
 ごんっ!  
 にぶい音が響く。  
 テアルの白樺の杖〜ホワイトバーチ〜がガドウィールの頭部をしたたかに打ち据えたのだ。  
 
「どの口がいうんだ、どの口が。……そうか、私に殴られたくてそんな戯言を吹いてるんだな?」  
「……いくらわたくしといえど痛覚を愉しむ趣はありません。それに、あまり殴られると頭が馬鹿になってしまいます」  
「ええい、うるさい。……くそ、余計なやつが来たせいで行動しにくくなったな」  
「ところでテアル様、ひとつお訊きしたいことがあるのですが」  
「なんだ」  
「テアル様はなぜ未来にきたのですか?」  
「…………なんだと?」  
 
 テアル、なに分かりきったことを訊いているんだ、という表情をがガドウィールにむける。  
「未来にきたエキドナを打倒するために決まっている」  
「つまり、彼女を殺したら現代に戻られると」  
「こ………………」  
 
 テアルは言葉に詰まった。  
「……殺すとは言ってない。倒すと言ったんだ」  
「ならばわたくしにお任せを。あのような小娘、赤子の手を捻るかの如く――――」  
「やめろ!!!」  
 
 ドスのきいた低い怒声が放たれる。  
 わずか十三の少女の声とは思えないほどの迫力があった。  
「私とやつの間柄に口を挟まないでくれ」  
「ええ…………解っています」  
 
 ガドウィールは何事もなかったかのように、柔和な笑みを浮かべたまま話し続ける。  
「わたくしとて、貴女とエキドナ嬢の関係性に介入したいわけではありません。ただ、契約を忘れてほしくないのです」  
「…………………………」  
 
 テアルはうつむき、押し黙った。  
「……解っている」  
「けっこう。ところで…………」  
 
 言下に、ガドウィールがまとっている鎧がガゴッ! という音を立てて地面に落ちた。  
 ものすごい重装備のはずだが、落ちた際に発されるはずの衝撃や音はほとんどない。  
 全身鎧をはずした初老の男は、一人の村人のような普段着に姿をかえた。  
 ただし、渋麗な容貌ゆえ目立つことにかわりはないのだが。  
 テアルの身体に戦慄が走った。  
 
「ずいぶんとご無沙汰でしたな。テアル様もそう思いませんか」  
 
 テアルは答えることができない。  
 ガドウィールの口で自身の口が塞がれてしまったからだ。  
 
 無理矢理に唇を奪われ。  
 強引に肩を抱き寄せられ。  
 服の上から胸を揉まれ。  
 それでも、彼女は抵抗する気がおきなかった。  
 本当は待ち望んでいたからだ。  
 こうされることを。  
 
 だが、表面的にはそれを否定せざるをえない。  
 彼に軽い女だと思われたくないゆえに――――  
 
 
 3  
 
『後悔するぞ、エキドナ…………』  
 
【無作為転送〜Neugier exir〜(ノイギーア・エグジル)】を行使い、テアルをどこかへ飛ばしたまさにその瞬間に、リディはテアルの「後悔するぞ」の本当の意味が解かった。  
 ……確かにいま、リディは後悔していた。  
 テアルならクレミアの精神を正常に戻せるが、精神魔法〜esprit〜が苦手な自分にはそれができない。  
 ヴァッツらには「一日経てばもとに戻る」などと嘯いてしまった手前、明日すぐにテアルを捜しに行かなければならない方針は伝えづらい。  
 
「はぁ…………どうしよう」  
 少女は独りつぶやいた。  
 あれからヒュリンとは別れて、ヴァッツとともに村長宅に着くなり、夜も更けきっていた時分とあってか二人はぐったりと眠りに就いた。  
 
 が、なぜか今リディは眼を覚ましてしまったのだ。  
 眠れない。  
 疲労の極みに達していたはずなのにここまで目が冴えるのは、何か尋常じゃない。  
 
「ふぉっふぉっふぉ……お目覚めのようじゃな」  
 
 出しぬけに聞こえてきた村長の声に、リディは寒気を覚えてぶるっとふるえた。  
 ふと見ると、いつのまにやら開いた扉から村長が顔をのぞかせていた。  
「……まさか、あなた…………」  
「別にわしはお前さんに何かしようと思ってきたわけではない。少しばかり様子を見にきたんじゃ」  
「様子って…………――うあっ!!」  
 
 ドクン!  
 少女は両手で腹部を押さえうずくまった。  
 体内で何かが蠢いている。  
 ひどく不愉快な……しかし抗いがたいこの妙な感覚……そう、下腹部からだ。  
 
「な……何を…………あたしに、何を飲ませたんだい…………?」  
「ふぉっふぉっふぉ…………その口調は似合わんぞ、お嬢ちゃん」  
 下腹部が熱い。全身がひどく火照ってきた。  
 月のものの前のように……いやそれ以上に自分が不安定すぎるのを少女は感じとる。  
 
「ふむ、魔女とはいえ、やはり催淫薬を飲まされれば効果はてきめんじゃな」  
(催淫薬…………!!)  
「レージルめには睡眠薬を盛ったが……あの阿呆め、まんまと引っかかりおったわい」  
 まずい、とリディは思った。  
 
 すべての魔法使いにいえることなのだが、性的快楽を覚えると魔力が飛んでしまうのだ。  
 男女問わず絶頂を迎えると、魔力が一気に全て飛んでしまう。  
 故にか、大魔法使いほど齢を重ねているし、女性の方が優れた魔法使いが多い。  
 個人差はあれど若い男の射精欲は尋常でなはないし、また女性であっても若いほど性的な標的にされやすいからだ。  
 
「……ふふ、うふふふふ。可愛いのぉ」  
 身もだえするリディを眺めて涎をたれ流す老人。  
「そんなに短いスカートで……美味しそうな足を晒しおるから悪いんじゃぞ……そう、お前さんがイケナイんじゃ」  
 もはや村長の声すらまともに聞こえない。  
 歯を食いしばって沸きあがる肉の欲情を抑える。  
 
「…………さて、わしは退室するとしよう。人がいない方が自涜はおもいきり気持ち良くできるだろう? ぶふふふふふふふ…………」  
 気色悪い笑声を高らかに響かせ、老人は退出する。  
 愕然とした気持ちを抱えたまま、少女はベッドの上で悶えていた。  
 
 
 4  
 
「ひぐっ、あっ……! ――ふぁっ! だめ…………!」  
 テアル=サイモリアが、普段の声からは想像できない嬌声をもらしている。  
「あいかわらずここが弱いですな、テアル様」  
 ちゅくちゅく、ちゅぷっ、ちゅぷっ…………  
 
「ひゃぅ…………くっ、う…………! ふくぅぅ…………」  
 右乳首を執拗に舐められ、吸われ、少女は白く小さな肢体をがくがく痙攣させる。  
 声を抑えようと必死なのだが、ものすごく気持ちいいせいで多く洩れてしまうのだ。  
「や、やめっ、ろっ、あっ――……うっ……くぁ……ひあぁっ!!」  
 特にテアルは吸われてから顔を離されるのが苦手だった。  
 なぜか乳首に電気を通されたかのような感覚が走り、たまらなく気持ちいい。  
 
「気持ちいいんですか、テアル様」  
「くぅ……そ、そんなわけっうぁっ」  
 ちゅぱ、と吸われれば言葉をまともに口にできないほどの衝撃が走る。  
「ひぅ……――んぁ! っ……ひゃ…………んんっ……!!」  
 ちろ、ちろ、しゅぷしゅぷしゅぷ…………  
 舌先で乳首の先を擦られたり、口に含んで全体を舐め回されたりと、多彩な責めでテアルは絶えることなく甘い鳴き声を上げてしまう。  
 
「ふふ……もうこんなにコリコリにたっていますよ、テアル様」  
 言葉通り手で乳首をつまんでしこりあげると、「ひやあ!」と喘いだ少女の身体がビクンと跳ねた。  
「も、もうっ……やめへぇ! お、おか、おかひくなっひゃうぅ…………」  
「おや、乳首だけでこんなになるなんて…………(ちゅく)」  
「ひゃっ!!」  
「テアル様は本当にお好きですな」  
 すすすっ……――と、ガドウィールの右手は自然とローブスカートをまくりあげ、下衣の上から股間を刺激する。  
 
「あくぅ…………」  
「もう湿ってらっしゃる。直接触ったらどうなるんでしょうな」  
 言いながら、ガドウィールはそれこそ無遠慮に下衣の中へ手をいれる。  
「そ、そんなすぐにっ……」  
「すぐに、なんですか。いつもしていることではありませんか」  
「そ、それは……(くちゅ)――んあぁっ!」  
 
 濡れた指で膣内を探られると、蕩けそうな性感が少女を襲って恍惚の声をおさえることができない。  
 くちゅくちゅ、ぬちゃぬちゃぬちゃ。  
「ひゃっ、あっ、きゃあんっ! だっ……くはっ、んんっ、ふぁああっ!!!」  
 人差し指で秘境を探り、分泌される愛液をすくうようにして責めたてる。  
 愛液でぐしょぐしょになった少女のそこから指を引き抜き、ぬらぬらした指をねっとりと舐める。  
 
「もうこんなに濡れていらっしゃる。そんなに昇りつめたいのですか」  
「そ、そんなわけ…………(くちゅ)――ひゃうぅん!!」  
 今度は長い中指が根元まで挿入された。  
 少女の狭く小さな性器のなかで、初老の男は中指の第二関節と第一関節を巧みに動かし、テアルの良い部分を的確に刺激する。  
 
「ひぐっ、あッ!? やっ、だめらめぇ、ひゃ、やぁぁ!!」  
 先刻と比較すると明らかに激しいぐちゅぐちゅという水音が響いている。  
「絶頂(いき)そうですか、テアル様」  
「ひゃめっ、もうやめっ、あっ、指を抜い、ひゃあッ、あんやんひゃあああぁっ!!!」  
 
 ガドウィールは可愛くあえいでもだえ狂う少女を愛おしく見つめる。  
 右手中指がテアルの愛液で濡れていることに、男はえもいわれぬ快感を覚える。  
 もうすぐ昇りつめるだろう……そうと解かるだけで彼は満たされた気持ちになる。  
 娘ほども齢が離れた少女を性感へ誘うことへの背徳感。  
 しかも強姦などという下劣きわまる行為ではない。  
 彼女はとある理由から合意の上で自分に身体を許し、しかも自ら快楽を求めているのだから…………。  
 
 
 5  
 
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」  
 ぐったり、という様相のテアルである。  
 ほとんどの衣類を脱がされ、あおむけに倒れて涙と涎を流し、性器は自らの漿液で濡れている。  
 何も知らぬ者が目撃すれば凌辱現場に見えるかもしれないが、その美しい肢体には傷一つない。  
 
「大丈夫ですか、テアル様」  
 ガドウィールの声が遠く聞こえる。  
 快楽の余韻が未だに抜けきれず、陶然としている状態。  
 初老の男はため息をついた。  
 
「やれやれ、仕方ありませんな……自分でするしか――」  
「何が仕方ないんだ」  
 出し抜けにむくりと上体を起こした少女に苦笑を禁じえない。  
 
「いえ……テアル様がしてくれないので自家発電しようなどと言ってませんよ」  
「いま、言った」  
「ええ、言いました。してくれるのですか、テアル様」  
「別にしてやろうなどと言ってない。おまえがどうしてもというなら詮無いが」  
「じゃあ、どうしてもです」  
 
 ガドウィールは真顔で視線の焦点が合わないテアルに迫る。  
「わたくしはどうしてもテアル様にご奉仕していただきたいのです」  
「ふむ…………ならば仕様が無い。この私じきじきにおまえを良くしてやろう」  
 まるで酒に酔っているかのような少女のいきおいである。  
 
「言いましたね」  
「ああ、女に二言はない」  
「別にあってもかまいませんが……そこまで言ったからにはしてもらいますよ」  
 言うなり、男は恥ずかしげもなく脚衣を脱ぎはじめる。  
 
「…………おい」  
 テアルが少し引き気味だがお構いなし。  
 なにゆえだろうか、彼のそれはすでに戦闘準備万端のようだった。  
 
「うえ…………」  
 さすがのテアルも明らかに吃驚している。  
 なにゆえだろうか、初老の男は得意満面で少女を見据えている。  
(キモいぞ………………)  
 正直そう思うが、口には出さなかった。  
「…………なんというか、だな…………おまえの持ち物は本当、半端じゃないな」  
 
 黒髪の少女は頬に朱を差している。  
 酔いが醒めたとでもいうのか、眼前に屹立する逸物を見て後悔していた。  
 ちょっと前までの自分はなぜあのようなことを口走ったのだろうか。  
 
「当然ではないですかテアル様。まあ、これというのもテアル様のおかげです。わたくしの性力……もとい精力を取り戻させてくれたのですから」  
「……………………切り取ってやった方がいいかもしれんな」  
「何か言いました?」  
「別に…………」  
「無駄話はこれくらいにして、そろそろはじめましょうか」  
 
 テアルは盛大に舌打ちした。  
 だが、あそこまで啖呵を切ってしまったのでは仕方がない。  
 それに、彼女は舌技には自信があった――――  
 
 
 6  
 
 ちろちろ、ちろちろ。  
 ちゅぷ。ちゅくちゅく、ぺろぺろ。  
 しゅるうぅぅぅ…じゅく、じゅぷ、じゅぷじゅぶ。  
 
 …………見事に擬音だけの口淫場面である。  
 両者ともなかなかはっきりとした声を出さない故だが、当然ながら傍目にはなかなかエロチックだ。  
 
 舌先で亀頭を優しく舐めたり、小さな口に亀頭をすこし含んで吸い付いてペロペロしたり。  
 あるいは根元から亀頭まで舐めあげたり、今度は陰(いん)茎(けい)全体を小さなお口に含んで淫猥に上下運動したり…………。  
 それに、少女の表情も淫蕩に染まっており、奉仕される初老の男も少女の頭に手をのせて不敵な顔だったりして…………。  
 ある種の雅やかさを感じるのが不思議である。  
 
「……………………ふう。なかなかにいい眺めですね……初老の男であるわたくしが、年端もゆかぬ少女に奉仕されているというのは」  
「……なら少しはよさそうにしたらどうだ。張り合いがなくて困る」  
「これは失敬。こう見えてもわたくしそろそろ射精そうなのです」  
「……能面というわけでもないだろうに、ちょっとは顔に出しても罰は当たらんぞ」  
 
「では口に出しましょうか。(誰うま)  
 ――――ああ、ああ、気持ちいいですテアル様。で、射精そうであります。  
 あ、あ、あぁ、あん、射精る、射精る、射精てしまいますう」  
「棒読みのくせにずいぶんビクビクしてるな……本当に――――ぷあっ!」  
 
 どぴゅ――びゅく、びゅぷ、びゅっ……どくどく、どく…………。  
 
 精液がテアルの口内、そして顔を濡らし、美しい少女は白濁に穢れて咳きこんだ。  
「〜〜射精すなら射精すといえこの馬鹿!」  
「いやあ、あまりに気持ちよかったもので……直前に言えませんでした」  
「……言っとくが別に私はこれがすきなわけじゃないからな! まったく……ああ、髪にも少しついてしまった……もう!」  
 
 ガドウィールは微笑みながら、ぷんすか怒っているテアルを見つめる。  
「すいません。でもそれは魔法の布でなんとでもなりますよ」  
「そういう問題じゃない!」  
「それに、ここは宿のベッドというわけでもありませんし……」  
 
 読者様が失念されないよう記すが(そもそも筆者が情景描写を怠りすぎなわけだが)、なにしろこの二人が今スケベしているところは「真夜中の大草原」なのである。  
 たしかに人通りは皆無に等しいとはいえ…………ねぇ。  
「……そうだな。たしかにベッドではない以上、おまえと繋がる必要性もないだろうな」  
 
 初老の男は「おや」という顔をする。  
 射精したあととあってか、この少女に挿入れたいという欲求が薄いのは確かだが……  
「おたがいによくなったんだ。行くぞ」  
 
 テアルはどこからか取り出した魔法の布で顔を拭きながら言った。  
「……何処へでありますか?」  
 例によってアルカイックスマイルをむけてくる男に、テアルもまた清々しさを感じさせる微笑で応える。  
「それはお前が決めることじゃないのか? 行ってやろうじゃないか、どこへなりとも。お前の望むところへ私もいこう」  
 少女の朗々たる表明に、ガドウィールは思わず瞑目して答えた。  
 
「仰せのままに」  
 
 
 
「…………ボクのこともわすれないでくださいよぉ」  
 妖精ギリオンの台詞はもちろん二人の耳に入らなかった。  
 
 
 7  
 
「あくぅ、あ…………ふ、あっ。んはぁ……」  
 くちゅくちゅ、くちゅくちゅ、くちゅくちゅくちゅくちゅ。  
 と、少女はひたすら自らの膣内に中指薬指を出し入れさせていた。  
 
 仄かな気持ちよさ。  
 そんな表現がもっともしっくりくるであろうほどよい心地よさを、少女は自らの指で味わっている。  
 淫猥な水音を響かせながら愛液をしたたらせ、眼を瞑り、開けた口から涎を垂らすさまは、外見的に十歳程度の少女としてはとてつもなく大きな違和感を覚える。  
 
「きも、ち、いぃっ…………あぁぁ――キモチいいよぅ……!!」  
 トーレ村の長が盛った催淫薬の効果はてきめんだった。  
 リディがそこまで性欲があるわけでもなく、かといって意志が抜群に強いわけでもないが、ここまで欲情のままに自涜に及んでくれるとは思っていなかった。  
 
「あ、あ、あっ、あン、あぁんっ……だめ、だめだめ、ここらめぇ、きもちぃよぉ…………」  
 無我夢中で陰核〜クリトリス〜をいじりながらそんなことを口走る。  
 確かに彼女、強い性的快楽を感じてはいるものの、もう二十分近くもシているのに絶頂を迎える気配はまったくない。  
 
 ある意味、これのおかげで彼女は体力(魔力)があるのかもしれない。  
 自慰行為というものは、長引けば長引くほど体力的に疲弊する。  
 リディは絶頂けないゆえ、なんとしてでも絶頂こうと励むから、そのぶん体力もつくのだ……。  
 そして、そんなリディの様子をヨダレを垂らしながら見守る村長の姿があった。  
 
 恍惚の表情である。  
 むき出しの逸物からは先走りがあふれ、久方ぶりの快感に酔いしれていた。  
 だが、不幸なことにそれは長くは続かなかった。  
 
「ふむ…………なかなかに趣のある光景ではあるな」  
 
 ――――!!!???  
 老人の全身は凍りついたかのように硬直した。  
 そして、おそるおそる後方を振り返る…………!!  
(ば、馬鹿な…………ありえん! わしは確かにレージルめの落ちる瞬間を見届けたはず。なのに、一体なぜ!?)  
 
「なぜ俺がここにいるんだ……か? 答えは簡単、俺には睡眠薬が効かないからさ」  
「…………!!」  
「……というと御幣があるがな。まあ、あんたが何を企んでるか知れたものじゃないから、狸寝入りをしたというわけだ」  
 
 村長は表情を凍りつかせたままガタガタと震えていた。  
 逸物をむき出しにしたままの状態なので非常に間抜けにみえる。  
 ヴァッツは嘆息した。  
「別にとって食おうという気はない。見なかったことにする、だから…………さっさと消えろ」  
 ダダダダダダッ…………老体に似合わぬ走駆をみせ、村長はあっという間に姿を消してしまった。  
 ヴァッツは微苦笑を浮かべる。  
 
「気持ちは分からんでもないがな……」  
 むしろ痛いほどによくわかる。  
 そして、わかるからこそ村長のよからぬ企みを見抜けたというべきだろう。  
 
「あっ、はぁ、あぁん! らめ……らめぇ……」  
 未だ自分で自分を慰めるリディに、ヴァッツは眉間にしわ寄せ複雑な表情をむけた。  
(はて、どうしたものか……)  
 
 むろん、理性的に考えれば放っておくべきなのだろう。  
 彼女があの状態だからといって心身ともにそこまで実害があるわけではないし、催淫薬を中和する方法もわからない。  
 このまま見てみぬふりをするのは簡単だ。  
(………………どうにも決めがたいな。――よし、天の声にまかせるか)  
 

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