一章「過去より導かれし運命の少女」  
 
 
 
 1  
 
 ラドラクス大陸から魔物や魔法といった「混沌」が去ってちょうど五百年が経とうとしていた。  
 「混沌」がなぜ去ったか、正確にはいつ消えたのか、そういったことはいまや人々の間では謎に包まれていることになっている。  
 魔法はともかく魔物がいなくなったことで人々の生活は非常に安定したものとなった。  
 もちろん人間同士の小競り合いや戦争は耐えないが、少なくとも五百年以前のような、人間の存在自体が危ぶまれるような事態はなかったからだ。  
 ゆえに、大陸の人々は「混沌」に対しては色々な想像を巡らせるのみであった。  
 シア・ラマ歴1689年をむかえるまでは…………  
 
 
 
 2  
 
 トーレの草原で、壮年の男は窮地に陥っていた。  
 息は荒く、振りむいた顔はけわしく、足取りもあやうい。  
 彼は五百年前にほろびたはずの魔物に襲われていたのだ。  
 それも、まばゆい太陽が照りつける白昼堂々である。  
 背には身の丈ほどもある大剣をたずさえ、たくましい長身体躯と身なりからすると傭兵稼業をして生計をたてる旅人のように見える。  
 
 男は魔物をまこうと、今いる草原から森の中へと入ってゆく。  
 だがこれが誤算だった。  
 十歩ほど木々を分け入ってから後方を振り向いたものの、魔物の姿が見当たらない。  
 そして、突如として視界の隅の大木から触手が殺到してきた。  
 
 男は舌打ちをまじえながら両手大剣を抜き、魔物の硬化した触手をはじき返す。  
 間一髪ですべてを受けながしたが、しくじったと思わざるをえない。  
 魔物の姿が見えなくなって余計ピンチになってしまった。  
 しかも、相手はああ見えて異様に動きがすばやい魔物だ。  
 
 男は焦燥を募らせる。  
「――っ?!」  
 ドフッ、というにぶい音とともに、男の口から声にならないうめきがもれる。  
 眼を下にむけて自分の腹部から突き抜けている何かを見やると、こみあげてきた鮮血がはき出され、地面を朱に染めた。  
 
 何が起きているのかわからない。  
 これが自分の最後だとしたら、あまりにも呆気なさ過ぎる。  
 自らの生きる理由を見つける前に死にたくはない。  
 そう思うと、総身に気力が染み渡るのを感じた。  
 
 しかし、身体を動かすことはかなわなかった。  
 気付けば触手に四肢を拘束されているという事実に気付く。  
 眼前に漂よってくる幾多の触手刃。  
 ゆらゆらと揺れるそれが自分のことをあざ笑っているように見え、男は微かな恐怖と大きな屈辱を感じ、わななく。  
 
 触手刃はまるで死刑執行人の振り上げる斧のように上空へと伸ばされる。  
 さしもの彼もこの時は一瞬死を覚悟した。  
 まさにそんな時である。  
 彼と触手の傍らで何者かがむくりと起き上がったのは。  
 
 
 3  
 
 ようやく目覚めたとはいえ、少女の意識は未だまどろんでいた。  
 彼女の寝覚めはよくないほうで、よくベッドで上半身を起こしたまましばらくぼーっとしていることがある。  
 いつもと違うのは妙にまぶしいという点だった。  
 それが太陽の光だと解り、道理でまぶしいわけだ、と思ったのもつかの間。  
 
 なんとなしに右に眼を向けてみると……見知らぬ男が魔物に磔にされていた。  
 魔物は背を向けていて、しかもまだ彼は生きている――そう感じとった彼女の身体に一気に活力がみなぎり、杖を手に魔物へと疾駆する。  
 少女の姿をみとめた男の目が大きく見開かれる。  
 彼女は人間離れした跳躍で魔物へと飛びかかり、その巨大な樫の木の杖を振るった。  
 
 ドグシャァアアッ――!!  
 
 もの凄い打戟音がひびきわたった。  
 魔物の身体が大きくゆがみ、吹っ飛ぶ。  
 磔から解放された男は驚愕の表情をあらわにしながらも、ふたたび両手大剣を持ち構える。  
 自身を救ってくれたその少女は、跳躍力・スピード・武器さばき・膂力と、すべてにおいて十代前半の少女――いや、人間のそれを上回っているといってよかった。  
 
「助太刀、感謝する!」  
 男が朗々と叫ぶと、少女は無表情でかすかに頷いた……ように見えた。  
 その後の彼の動きはまさに水を得た魚の如しであった。  
 
 体勢を立て直した魔物は、今度は少女をねらって触手をビュゥンと放ってくる。  
 かなりの速度で迫ってくる、それも無数の触手を、彼女は難なく杖ですべて弾き返す。  
 その隙に男が魔物の横合いから襲い掛かる、が魔物も三本の触手を放って応戦した。  
 しかし男は二の轍を踏まず、腕や脚にかすらせるに留める。  
 上空に振りかぶった大剣が魔物の脳天へと振り下ろされ、魔物は見事に一刀両断――紫の鮮血が派手に噴き出した。  
 こうして彼は、ようやく一匹めの魔物を仕留めたのである。  
 
 
 4  
 
「【治癒〜cura〜(クーラ)】……」  
 
 透明感のある綺麗な声で少女がなにかつぶやくと、ヴァッツの胸元に淡緑の光が収束してゆく。  
 少女は瞑目し、口と指先を世話しなく動かしてゆくその内に、男は胸のキズがふさがってゆくのを感じていた。  
(すごいな…………)  
 それが正直な感想だろう。  
 これが…………これが「魔法」というモノなのか。  
 先刻の戦闘では行使っていなかったようだが、こうして明確な効果を見せられると魔法の凄さを実感せざるをえない。ならばなおさら何故この「魔法」という存在が世界から喪失(うし)なわれたのか気になる。どの文献にも直接的な原因は載っておらず、詳細不明なのである。  
 
「……キミは一体、何者なんだ?」  
 とすっかり完治した胸元をなでながら、男は当然の疑問を口にした。  
「俺はヴァッツ=レージル。旅の傭兵だ。きみは一見したところ……」  
 男――ヴァッツは言葉に詰まった。果たしてこれは訊いていいことなのだろうかと、少し迷ったのだ。  
 
「…………魔女見習い」  
 少女の声は小さかったが、ヴァッツには十分聞き取れた。  
 半そでの上衣(チュニック)に短めの外套(マント)、これまた短い腰布きれ(スカート)に革の長靴(レザーブーツ)といった出で立ち。  
 なるほど、彼女の格好はヴァッツに大昔の魔女見習いの容貌を連想させていたが、予感は的中していたのだ。  
 
「……ど、どうしたら信じてもらえるの、だい?」  
 ???  
 ……ヴァッツはいま強烈な違和感を覚えた。  
 見たところ十歳くらいな上、非常に可愛らしいお顔にまったく似つかわしくない口調だったからだ。  
 
「や、別に疑ってかかってるわけじゃないんだが……」  
「……あたしは過去から来たんだ。あ、あたしを妬んでる愚か者どもが未来に飛ばしやがったんだよ」  
 ヴァッツは噴き出しそうになった。彼女は明らかにこの口調で話すのが不得手そうな上、少し恥ずかしそうにしている。  
 
「ま、まぁそいつらは今ごろ牢獄に入れられてるだろうが、ね。……もしかしたら死んでる可能性だってあ、あるし」  
「ふむ、そうか…………実は、この大陸はここ五百年ちかく、魔物や魔法といったものと無縁の歴史を紡いできたんだ」  
「な、なんで…………だって?!」  
 ヴァッツはついに噴き出した。  
 それを見た少女が少し顔を赤くした。  
 
「な、な、な…………何がおかしいの、だい?!」  
「いや、あんまり似合ってないと感じたんでな、その口調。加えて、ところどころつっかえてるじゃないか」  
「くぅ…………」  
 少女は悔しげに呻いた。  
 
「ま、それはともかく。未だ名前を訊いてなかったな?」  
 ヴァッツはごく自然に話を逸らす。  
 少女はハッとして、急にクールな表情になって口を開いた。  
「わ、私は…………あたしの名前は…………」  
 
 彼女の一人称が異なっていようが、ヴァッツとってはすでに瑣末な事項だった。  
 これからいちいち反応していたらキリがないし、馬鹿らしくなるだけだと思ったからだ。  
「……フェ、フェリラディ=エキドナ、だよ…………リディって呼んでよ…………」  
 急にしおらしくなった彼女――リディに、やはり違和感を覚えてしまう。  
 さっきまで姉御口調だったからだろう。  
 こっちの方が似合っているような気がする。  
 
「リディ、か……可愛らしい名前だ」  
 男のその言葉に少女は顔を赤くしてうつむく。  
「ところで、出身は何処なんだ?」  
 リディは「えっ……」という顔になった。  
(この人、私の言うこと信じてない……失礼だな…………)  
 実際には信じていないのではなく、過去彼女が住んでいた地域を知りたいだけである。  
 
「……ふ、ふん、すぐに信じろとは言わないよ。けど、あたしは本当に過去から未来へ飛ばされたんだ。ここが何年後かは解らないけど、その様子だと今のこの大陸では魔術の存在は珍奇なものなんだね」  
 リディは一息で言い終えた。  
 しかもまったくつっかえることなく。  
 どうやら感情が揺らいでいるとこの口調になるらしい、とヴァッツは推測する。  
 もちろんその限りではないとおもうが。  
 
「……わかった、信じよう」  
「えっ…………」  
 少女の愛らしいおもてに微かな喜色がさす。  
 そもそも疑ってわけではないが、「疑われたと疑われた」のをいちいち吐露したところで何か意味を為すものでもない。  
 
「ほ、本当、かい?」  
「ああ、疑ってもしょうがないからな。俺だって人を見る目を多少は持ってるつもりだ、キミが虚言を弄しているようには見えない」  
「あ、ありが……さんきゅ」  
 面映そうに礼を述べるリディに、ヴァッツは一言付け加えざるをえない気持ちになった。  
 
「余計なお世話かもしれないが、その口調はあまり似合ってないぞ」  
「わ、分かってるよ」  
 少女は慌てて言い返した。  
 そのことには触れられたくないようだった。  
 
「分かってるけど……あたしの憧れの人がこういう話し方だから」  
 リディはそれだけ言って押し黙る。  
「……そうか、なら良いんだ。だが、傍から見ると無理してそういう口調にしているように見えるんでな。や、好きでやっているならこれ以上口を出さんよ」  
「あ、ありがとう」  
 リディはまた早口で言った。  
 ヴァッツは素の口調のほうがこの娘らしくて良いと思ったが、前言どおりこれ以上の突っ込みを入れるのは自重した。  
 
「ところで、さっきの戦いについて訊きたいんだが……」  
 ヴァッツは例によってごく自然に話題を変える。  
「……なんだい?」  
「さっきの魔物との戦闘時、いつ魔法を使ったのかと思ってな」  
 
 ヴァッツの言葉にリディはかわいらしく首を傾げる。  
「ずっと…………」  
「うん?」  
「最初から最後まで、ずっと……使いっぱなしだったけど?」  
 リディの台詞はにわかに信じがたいものだった。  
 
 
 5  
 
 トーレの村は「西の辺境国」とも云われる小国ギルヴェストのさらに辺境、南端に位置する農村である。  
 およそ二十分もあゆめば海へたどり着くものの、ここの海は魚が取れないため夏に子供たちが遊びに来るだけの場所だったりする。  
 
「さて、と…………」  
 村についたヴァッツたちは大変な事態が起こっていることなど露とも知らずのんびりしていた。  
 が、彼の顔を知っている男に見つけられると、  
「あ、ヴァッツさん! ちょっと来てください、ヴァッツさん!」  
 とすぐに呼び止められる。  
 この村には顔見知りが多い。  
 
「久しぶりに来たんだ、慌てることもないだろうに」  
「火急の事態なんですよ! あなたならなんとかできそうだ……村長に力を貸してあげてください!」  
 明らかに不機嫌な態度を示してみたが、そこまで乞われては仕方がないと、ヴァッツは男に案内されるままに村長宅に赴くことにした。  
「ところで…………いや」  
「彼女か? 魔女見習いだ」  
 
 「いや」と言ったのに自分の疑問に対し正確な返答をよこされ、おもわず身構えてしまう。  
「ん……魔法のない世界に一人、魔法をつかえる彼女がこうして未来にきたんだ。少しは親切にしろ……っておい、なに怖がってる」  
 ヴァッツは後ずさりしている男にあきれつつも言った。  
「彼女は悪い人間じゃない。おまえどころかおそらく俺さえ敵わない相手なんだ、その気がありそうだったら行動を共にはしないさ」  
 それどころか俺自体いまごろあの世でくだを巻いていただろうしな、と心の中でつけ加える。  
 
 簡単に認めるのはなんとなく悔しいので「おそらく」を付け加えておいた。  
 男は驚愕の表情を隠しきれなかった。  
「ヴァ、ヴァッツさんがこんな小娘に負けるわけないじゃないですか!」  
「……俺も多少はそう思いたいところなんだが」  
 
 ヴァッツはあくまで淡々と事実を述べる。  
 リディは居辛そうに身体を縮こませていた。  
 自分がなんだか化け物扱いされているようで複雑な気分なのである。  
「おっと、悪いな。別におまえが化け物だって言ってるわけじゃないぞ。たとえるなら、俺たちが微生物並みでおまえが哺乳類……つまり人間並みの力の差があると言っているだけだ」  
「…………あんまりフォローになってない」  
「ふっ…………」  
 
 ヴァッツは微かな笑声を洩らした  
 なんとなしに人を惹きつけるような魅力がある。  
「気にするな。だがなリディ、たぶん確実に、いずれおまえの力が必要となる時がくる」  
 ヴァッツはどこか演技じみた口調でいう。  
 
「たぶん確実にって…………どっちなんすか?」  
 前を歩む男がリディの疑問を代弁してくれたが、ちっとも嬉しくない。  
 私が訊きたかったのに。  
 リディの煩悶とした気持ちをよそに、一行は村長宅についた。  
 
「じゃ、ヴァッツさん、俺はこれで」  
「ああ、悪いな」  
「村長にうまく合わせてやってくださいよ。有事なんですから」  
「ああ、おまえこそ細君に殺されんよう気をつけろよ」  
「それは言わない約束ですよ」  
 男は苦笑を浮かべながら立ち去った。  
 
 
 6  
 
 村長宅は他の農家とは明らかに一線を画した造りで、良くいえば堅固、悪くいえば贅沢な印象を受ける木造の建物だった。  
「む…………レージルか」  
 トーレ村の長は、振り子椅子(振り子のように前へ後ろへ揺れるのでそう呼称される)にもたれかかって、壮年男性と幼い少女の二人連れを見つめた。  
 自分でゆるやかに椅子を揺らしているのにどこか威厳を感じさせる容貌である。  
 
「で、大変なことってのはなんだ、村長。俺達だってそこまで暇じゃあない。用件は手短に頼む」  
「……おまえも娘を持つようになったのだ、同じく孫娘を持つわしの気持ちを慮ってはくれまいかね」  
「大いなる誤解だ、村長。彼女は今日会ったばかりの迷子だ」  
「……おまえも嘘が下手になったものだ」  
「本題からずれていくのは勘弁してくれ、村長。それに、時間が経つほどクレミアの身も危ういんじゃないか?」  
「……相変わらず食えぬ男よ」  
 
 過去の‘例の事件’のせいでこのふたりは仲がよくない。  
 村長の話をかいつまんで要約するとこうなる。  
 孫娘のクレミアが一昨日の夜に消息を絶った。  
 ほぼ間違いなく最近出没しはじめた魔物の仕業であろう。  
 以上である。  
 話すのは簡単だが、問題を解決するのは困難といえた。  
 
「……魔物の仕業である根拠は?」  
「手品のようにいなくなってしまったからな。魔法がない今そんな事ができるのは魔物だけじゃろう」  
「……つまりなんとなくか」  
 ヴァッツは呆れ顔になった。  
 
「……この二日間でなにかしたのか?」  
「実は魔物の仕業と解ったのが今日なのだ。……北の洞窟の入り口にこれが落ちていたんでな」  
 言いながら老人はひとつの首飾りを差し出す。  
 キラキラと煌めく銀細工の、黒水晶の首飾り。  
 
「……あやつが……常に身につけておったものだ。孫娘をさらった輩はてっきりこれが目当てだとおもったんじゃがな…………」  
 突如リディが幼顔を蒼ざめさせ、小さな身体をぶるぶる震わせた。  
「……どうした?」  
「そ、それ…………」  
 リディは大きな黒水晶の珠を指差し、眼を背ける。  
「歪んだ魔力…………この宝石から魔物を呼び寄せる力を感じるよ…………」  
 
 
 7  
 
 それが突き入れられるたび、少女はえもいわれぬ感覚におそわれていた。  
 十字架を模した寝台にあおむけに磔られ、精強な体つきの男と交わっている少女。  
 トーレの洞窟の最深部で犯されている彼女こそ、行方不明となっている村長の孫娘クリミアであった。  
 
 この地獄のような時間はいつまで続くのだろうか。  
 身に覚えのないことを訊かれても答えようが無いのに。  
 大昔の魔女狩りで捕まった女性の気持ちが、今のクレミアには痛いほどによく解る。  
 
「ん? なんだよ、我慢してんのかよてめえ」  
 自分の秘処に巨茎を突き入れてくる男がなじってくる。  
 彼女は彼をよく知っていた。  
 いや、知っているつもりだったというべきか。  
 こんなことをしてくる男だったとは。  
 
 ずぶ、ずぷっ、ずちゅ……  
「んっ……! は…………うぅ……!」  
 いくら催淫薬の所為とはいえど、犯されているにも関わらず性的快楽を感じ、あまつさえ甘声をもらす自分がいやになる。  
「おら、どこなんだよ……吐けや!」  
「ぐぁっ――!」  
 
 男に固めた拳でなぐられ、クレミアは悲鳴を上げる。  
 痛い。口の中を切ったらしく、血の味を感じた。  
 悔しい。自らが置かれている理不尽な境遇に、少女は涙する。  
 身動きできない自分を暴力によって辱める眼前の男――トーレ村の長の息子・ギラスに、村長の孫娘クレミアは根深い憎悪を抱いた。  
 
 ギラスはふいにクレミアから己自身を抜き、ひどく憔悴したクレミアの様子を眺め回して愉しむ。  
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」  
 クレミアは荒く息を継ぐ。  
 屈辱と消耗によってかなり眼つきが険しくなってしまっていた。  
 
「はっ?! あくぅっ……!」  
 下半身に感じた強烈な衝撃に、少女は思わず可愛い鳴き声を洩らしてしまう。  
 ギラスが膣内に指を滑らせてきたのだ。  
 くちゅくちゅくちゅ、ぬちゃぬちゃ、びちゃびちゃ――――  
「ふあっ! ひゃぁああん!!」  
 
 淫靡な水音と、それを否定したくともできない少女の切なげなあえぎ声が、洞窟内に反響する。  
「あっ、くぅ……や、やめっ…………――あああぁぁッ!!!」  
 脳天に直接ひびくような快感に、クレミアはあやうく意識を失いそうになった。  
 ギラスが指で膣内をさぐりながら、少女のもっとも敏感な部位に吸い付いてきたのだ。  
 ぴゅっ、ぴゅっ、と断続的に愛液を噴かしつつ、目からは涙が、口からは涎が垂れ流される。  
 
「へっ、清純な女かと思ってたが、服を剥いだら淫乱なメス犬じゃねえか。失望したぜ」  
「ひぐうぅ…………」  
 花芯に吸い付いてくるギラスに対し何の言葉も返せない。返す気力がない。  
 しかもこの男、ただ自らの欲望のままに淫戯に興じているだけではない。  
 催淫薬で理性を乱れさせたうえ、感度が高まっているのに決して絶頂(イか)せないように責め立てているのだ。  
 絶頂寸前で責め手をゆるめ、微かに回復してきたところをまた責める……しかも言葉による尋問も加わり、少女を精神的にも性的にも追いつめているのだ。  
 
「いい加減に吐く気になったろ? さあ、てめえの宝石コレクションの数々はどこにあんだ、ああ?」  
「知ら、な……――うあぁあっ!! やだぁぁあぁぁ……!!」  
 ぐちゃぐちゃぐちゃ。  
 はげしい水音が鳴りわたり、クレミアのそこから快楽の証液が噴き出す。  
 男の卑猥な指が少女の気持ちいい箇所を的確に突き上げ、気が狂いそうなほどの快感がずんずん突き上げてくるのだ。  
 
「あはぁっ!! ひゃぅ、あんっ、あぁんっ――」  
 少女の悲鳴のようなあえぎは途切れることがない。  
 今まで性体験すら無かった彼女の理性を壊すほど、ギレスの指技は巧妙なのである。  
 くちゅくちゅくちゅ――  
「だ……めぇ……! イ……く……イっちゃ、うぅ、んあぁっ!! いやぁッ!――――」  
 
 だが――まさに絶頂寸前というところで、ギレスは指を引き抜く。  
「あぁぁ…………」  
 ため息にも似た稚い嬌声。  
 絶頂に至りたくて仕様がないのに、こうして何度となくおあずけをくらわされる。  
 このまま続けていると精神に異常をきたすのは明白だった。  
 
「おら、言ってみろよ。自分は凌辱されてるにも関わらず感じてる雌豚ですってよ」  
「くっ……! ――んぁああんっ!!」  
 ギラスをキッと睨みつけるも、秘穴を激しく責め立てられると壮絶な快感に甘いあえぎを洩らしてしまう。  
「あ……あぁっ、はぁぁあっ!」  
 
 くちゅくちゅといやらしい水音がもれ、少女は眼が開けられず、口を閉じることもかなわない。  
 さりげなくたまに陰核を擦られるたび、電気を通されたかのようなもの凄い衝撃がクレミアの全身を震えたたせる。  
(……もうこのまま気持ち良さに溺れてしまってもいい)  
 クリミアの心が淫欲に染まりきろうとした、その時だった。  
 
「あー、もう飽きたわ」  
 
 ギラスの台詞は突然だった。  
「え……――くあぁっ!」  
 もう何度目だろうか、少女のそこに男の陰茎が容赦なく突きこまれる。  
 挿入られた瞬間に少女は異変を感じとっていた。  
 ギラスのそれはすでに激しく波打っていたからだ。  
 
 どくどく、びゅくびゅく、びゅぷっ――――。  
 
 ギラスの射精はすさまじいものだった。  
 膣内出ししたかと思えば、引き抜いたペニスから出てくる精液は留まるところをしらず、クレミアの白い裸体、さらには顔にもぶっかけたのだ。  
 美しい少女はいまや全身が精液まみれだった。  
「あ…………ああ………ぁ………………」  
 白濁に穢れきった少女は、こわれた人形のように呻き、光を失った碧い双眸を虚空に漂わせていた。  
 
 
 
 

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