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ハッシュ君は顔合わせのため、秘書官さんに連れられて王宮の奥の特別会議室へと案内されました。
そこには、すでに件のお姉さん達五人が集まっていました。
全員揃ったところで、先ずは自己紹介から。
「レイチェル・レイン中尉です。うふふ、ご指名、どうもありがとうね。ハッシュくんって言ったっ
け? キミ、こういう事、初めて? 大丈夫、お姉さんが優しく導いてあげるからね。安心して身を
ゆだねちゃってね」
一人目のお姉さん、ふんわりエアリーショートのアッシュブロンドと口元のホクロが蠱惑的なレイ
チェルさん(23)が、ハッシュくんを後ろから抱きしめながら、耳元で誤解を招くような挨拶をし
ました。て言うかあんただって初めてでしょう。魔王討伐なんて。
「んっ……はっはい、お願いしま……あっ、んっ、息を吹き掛けないでっ……ひあっ! せ、背中に、
胸が……っ!」
「あ、ずるぅい!」
それを見た二人目のお姉さん、笑顔の優しそうなゆる巻き栗色セミロングのメアリーさん(24)
が膝を着いて正面から抱きつきます。
「メアリー・コネリー中尉でぇす。ハッシュくん、よろしくねー」
「こ、こちらこそ……やあっ、む、胸を押し付けないでください……っ!」
「えー、でもこうすると、ハッシュくんのどきどきが伝わってきて、とってもあったかいんだもん。
……あれぇ? どうして前屈みになるのぉ? くすくす」
「あ……やあぁ……」
三人目のお姉さんは、シルバーヘアをショートにした背の高い凛々しい系、だけど実はちょっぴり
内気なアレーネさん(21)。彼女は、二人の女性に前後から挟まれ動けないハッシュくんの右手を
両手でそっと掴み、自分の胸の前に持っていきました。
「あの……アレーネ・ノヴァク少尉、です……。その……よ、よろしくね……」
「ふあぁっ……ひ、人の手を握ったまま指もじもじしないでぇっ!」
手の平や甲が弱い人っていますけど、どうやらハッシュくんもそうみたいですね。
「えっ、あっ、ご、ごめんなさいっ!」
あわてたアレーネさんは、ハッシュくんの手をしっかりと掴んだまま、思わず自分の胸を押さえて
しまいました。
「ふああっ……手が、胸に埋まって……っ!」
「し、しまった、出遅れたわ!」
そう言ってハッシュくんの左腕にしがみついた四人目のお姉さんは、目尻のキッと吊上がった気の
強そうなお嬢様、ストロベリーブロンドロングツインテのクリスティーナさん(19)。
「クリスティーナ・デビソン大尉よ。クリスで良いわ。か、勘違いしないでよね! 別に、君が可愛
くてあたし好みだったから志願した訳じゃ無いんだからねっ!」
じゃあ一体どんな理由なんですか。
「ああっ! ま、また胸がぁっ! う、腕に胸が当たってますぅっ!」
「当ててんのよっ!」
四方向からのおっぱい攻撃に、ハッシュくんはなすすべも無く固まってしまうのでした――色んな
所が。
さて、五人目のお姉さん、亜麻色の髪をフェミニンなショートボブにした小柄な可愛い系、エリザ
ベスさん(16)は、おろおろしているうちにハッシュくんを囲む輪――というか塊から、一人取り
残されてしまいました。
「あーん、私もハッシュくんといちゃいちゃしたいよぉっ!」
そういう場ではないです。
どっちにしろ、前後左右どこも陣取られ、もう隙間がありません。
「うー……よーし、こうなったらあっ!」
エリザベスさんはそう言って二、三歩下がったかと思うと、勢いをつけて突進しました。
「えいっ、どーーーんっ!!」
「あらっ!」「えっ!」「きゃっ!」「わっ!」「やぁんっ!」
そのまま全員ひとかたまりになって床に転がりました。ちなみに悲鳴の主は順に、レイチェルさん、
メアリーさん、アレーネさん、クリスさん、ハッシュくん、です。
ハッシュくん、悲鳴も可愛らしくて、本当、女の子みたいですね。
がんばれ第三十九代目勇者。
「えへへー、わーい! やっとハッシュくんに触れたよー。あ、私はエリザベス・アールン。階級は
少佐だよー。リズって呼んでねー」
「呼んでねーじゃねーわよこのおばかっ!」
クリスさんがリズさんの頭をはたきます。
「痛あい……なにすんのよー」
「それはこっちのセリフよっ! なにが『どーーーん』だっ! 一番貧乳のくせして!」
「なっ何の関係があるのよ! ってか人が気にしてること言うなー! 私、上官だぞー!」
「あら、関係あるわよ? さっきからの反応を見るだに、ハッシュくんってば大きいおっぱいが好き
なのよねー?」
メアリーさんがにこやかに尋ねますが、ハッシュくんは顔を真っ赤にするだけで答えられません。
「あら、照れちゃって。可愛い。本当に初心なのね。これからお姉さん達が色々教えていってあげる
から、安心して任せてちょうだいね」
あの、レイチェルさん、そういう目的で集まったわけじゃありませんよ。
と、そこで、
ず ば あ あ あ あ ん っ !
という凄まじい音が部屋中に響き渡りました。
皆が驚き静まりかえる中、秘書官さんは何事もなかったかのように床に叩き付けたバインダーを拾
い上げ、埃を払います。
鉄製のバインダーは、少しひしゃげていました。
「そろそろよろしいですか?」
「「「「「失礼致しましたっ!」」」」」
お姉さん五人組は全員、直立不動で横一列に並びました。こういうところは一応軍人さんぽいで
すね。っていうかこれで皆さん士官とか、大丈夫ですかこの国の軍隊は。
ちなみにハッシュくんは、足の間に両腕を挟んだまま女の子座りです。支障があって立ち上がれな
いのです。仕方ありませんね、ハッシュくんだって男の子なんですもの。それにしては女の子座りが
良く似合ってますが。
「も、申し訳ありません……騒いでしまって……」
「はう……っ! あ、あなたは気にしなくて良いのよっ。悪いのはこの五人だから」
恥ずかしそうに上目遣いで謝罪するハッシュくんがあまりに可愛らしく、秘書官さんはこの旅程に
同行できない有能な我が身と、役得の五人をあらためて恨むのでした。実は秘書官さんもこっそり志
願していたのです。
「ちょっと秘書官殿、ハッシュくんと一緒に行けないからって、逆恨みとかしないでほしいんですけ
どぉ?」
クリスさんが的確に指摘しましたが、それを差し引いても、やっぱりあなた方が悪いように見えま
すよ。
「ねえねえところでハッシュくん、なんで座ったままなのかなぁ? お姉さんに教えて欲しいなぁ」
メアリーさんが、にっこり微笑みながら言わずもがなの質問をします。優しそうな顔して、この人
けっこうSですね。
「そんなの、タっちゃったからタてないんだよ。ねっ、ねーっ?」
リズさんが、うまいこと言っちゃった! って顔で周りを見渡しました。
ハッシュくんはうつむいてしまいます。
秘書官さんは、深く溜息をつきました。
「……話を進めますよ。まず部隊名ですが『魔王討伐特務戦隊・疾風』に決定しました。そして以後
本作戦は『山岳の嵐作戦』と呼称されます」
ぷっとレイチェルさんが吹き出しました。
「……陛下直々のご命名ですが、何か?」
「いえ、なんでもありません」
真顔に戻って直立不動で答えます。
「結構。それから予算ですが、六人部隊の派遣費用としては破格の金額が計上されています。よほど
無計画に使わない限り困ることは無いでしょう。ただし領収書は必ずもらってくださいね。この書類
を会計科窓口に提出すれば即時支給されるよう手配しておきました。その前に一応目を通しておいて
下さい」
ハッシュくんに渡された書類を覗き込んだアレーネさん、メアリーさん、クリスさんは驚きの声を
上げました。
「こ……こんなに!? い、良いんですか……っ!?」
「ええ。ちなみにこの資金はアールン公爵閣下、デビソン侯爵閣下、レイン伯爵閣下、コネリー子爵
閣下、そしてノヴァク男爵閣下から出資していただきました」
「わぁい! お父様ありがとー!」
「パ、パパったら……べ、別に喜んだりしないわよ? まったく、余計なことするんだから……」
「うふふ、デビソン大尉ってばツンデレね」
「素直に喜びましょーよぉ」
「そ……そうですね……」
このやり取りからも分かる通り、リズさんは公爵令嬢、クリスさんは侯爵令嬢、レイチェルさんは
伯爵令嬢、メアリーさんは子爵令嬢、そしてアレーネさんは男爵令嬢です。公侯伯子男勢ぞろいです。
貴族の子女は士官学校に入り軍人になるのが慣例なのです。まあ戦時ならともかく、平時は大抵腰掛
なのですが。それぞれの階級の高さが爵位に比例してしているあたり、なんとも世知辛いですね。今
や士官学校もすっかり形骸化してしまっているのです。
閑話休題。
「それにしても、これなら一週間毎日宴会出来るわねぇ」
「いや、一ヶ月は出来るわよっ! あんたどんだけ飲むつもりよっ!?」
「……念のため言っておきますけど、これは遊行費ではありませんからね。例え足りなくなっても、
よほどの事がない限り追加は出せませんから、考えて使ってください。別にあなた方はどうなっても
構いませんけど、ハッシュくんのことを考えてくださいね」
「むー。言われなくっても、ハッシュくんを困らせたりしませんよーだ」
リズさん、そう言いますが、ハッシュくんは現在進行形で困っているようですよ? 主に男の子的
な意味で。
「でもぉ、こんなに額が大きいとぉ、任務遂行にちょっとプレッシャーかかるかもぉ……」
「あら、でも元々私達の家が出したお金なんだし、遠慮する必要ないわよ。だいたい、一軍動かす事
を考えたら安いものじゃないの。むしろこれくらいで済むんだから、私達は感謝されても良いくらい
だわ。軍の懐は痛まないし、それを管理してる会計科にしたってどうせ金勘定の帳尻さえ合えば良い
ような連中なんだから。ねぇ秘書官殿?」
メアリーさんの不安をなだめるようにレイチェルさんが言いますが、
「分かりました。あなたの意見は会計科の士官達に伝えておきましょう」
「……ごめんなさい今のはオフレコで」
どうもレイチェルさん、ついつい口が滑ってしまうダメな人みたいですね。
「んじゃあハッシュくんっ、さっそく会計科に行こっ!」
「あっ、あのっ、ちょっ、リズさんっ! もうちょっとだけ、待ってください……っ」
リズさんが座ったままのハッシュくんを、後ろから腋の下に腕を差し込んで立たせようとしました
が、ハッシュくんはそれに必死に抵抗します。主に健康で健全な男の子としての理由で。
「あらぁ、何でかしらぁ? ほら、早くぅ。善は急げって言うじゃない」
何でか分かってるくせに、メアリーさんがにやにや微笑みながら、ハッシュくんの右腕を掴んで引
き上げようとします。
「やぁ……お、お願いですからっ、少しで良いですからっ、待ってください……っ!」
「ダぁメ♪ 大丈夫だよぉ、恥ずかしがらなくても。男の子としては自然な反応なんだからぁ」
「うふふ、そうよ。さあ怖がらないで、お姉さんに身を任せて、ね? とっても気持ち良くしてあげ
るから」
左腕にレイチェルさんも加わりました。
いかにハッシュくんが勇者で男の子でも、三人掛かりでは流石に抵抗しきれません。ついに、何処
ぞの捕まった宇宙人のような格好で立たされてしまいました。
立ち上がったハッシュくんの勃ち上がった部分に、皆の視線が集中します。
そして、ハッシュくん以外の全員が息を飲みました。
ごくり……と、誰かの喉の鳴る音が部屋に響きます。
しばしの沈黙の後、全員の意見を代弁するようにアレーネさんが言いました。
「やだ……うそ……! ハッシュくんの……すっごく、おっきい……っ!」
そう。その乙女のような外見に似合わず、ハッシュくんのそこは、服の上からでも分かる程、大変
立派でございました。
「やあぁ……見ないでくださいぃ……」
恥ずかしい場所に視線を感じ、顔を真っ赤にしてうつむくハッシュくんですが、意に反して、ソコ
は嬉しげにヒクヒクと動いてしまいます。
それを見たクリスさん。もう我慢できません。
彼女はハッシュくんの胸倉を掴むと、他の三人ごと、扉に向かって引っ張って行きました。
「ひゃあぁ……く、クリスさん……っ!?」
「かっかかっ、かかかか会計科までっ、こっ、こっ、この私が案内してあげるんだからっ、感謝しな
さいよねっ! まったく、トロいわね! もっと急ぎなさいよっ! あっ、かっ、勘違いしないでよ
ねっ!? 別に、とっとと出発して脱ぎ脱ぎさせたいとか、早く生で見たいとか、そっ、そういう事
考えてる訳じゃないんだからねっ!?」
非常に分かりやすいクリスさんです。もちろん、他の四人のお姉さん達に異存があるはずもありま
せん。
彼女達に運ばれるように、ハッシュくんは会計科へと連れていかれてしまうのでした。
残された秘書官さんは、深く深く溜息をつくと、切なく独りごちました。
「あーあ……いいなぁ年下の男……。あたしも男、欲しいなぁ……」
美人過ぎて逆に敬遠されがちな秘書官さんは、最近めっきりご無沙汰なのです。
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