ゲームみたい。  
ぼんやりと弥生は思った。  
まるでゲーム。  
お嬢様校で知られた海の花女学園の生徒達が、  
麗しいマリンブルーの制服を脱ぎ捨て(勿論、大方の生徒は制服を着ているのだが)  
ジャージや私服に身を包み、バットやモップ、竹刀を手に校舎を歩きまわる姿は  
やっぱり非現実的で、――ゲーム、みたいだ。  
 
★  
 
異世界に移動して、一週間が過ぎたろうか。  
ある一年生(弥生は彼女の姿を見てはいない)が"いる"と言われていた"化物"を  
倒した、らしい。それで、己が身は自分で守らねば、という風潮が、  
荒野に投げだされた学び舎に満ちていた。少女達は瞳に強い意志を秘め、  
怯えを心の奥に封じ込めながら、一歩一歩、この異郷で生きる為に  
進もうとしている。  
 
だけど。  
それが、遠い。  
 
★  
 
異世界に飛ばされるなんて、悪い夢よ。  
そう思う程、黒川弥生(くろかわ やよい/1年生)は無邪気ではなかった。  
夢の中にいるような、何処か遠くの出来事のような離人感は、  
 
この学園に入る前からずっと彼女の胸にあったのだ。絶えることなく。  
故に彼女の評判は芳しくない。  
曰く、暗い。曰く、冷めている。曰く、協調性に欠ける。曰く、………  
 
だって、しょうがないじゃない。夢としか思えない。  
 
★  
 
ゲームのような。  
或いは、醒めない、夢の、ような。  
 
初めから非現実のベールの向うにある"現実"がどうなっても、  
弥生はやはり、変わらず傍観者の立場にいた。  
手製の武器を持ち、生活や安全について話し合う人々の横を、  
何処か夢見心地で通り過ぎ、校舎を出る。  
コンクリートの塊は生徒達を守る砦であり、目的もなく砦を出るものはいなかったが、  
弥生はまるで散歩にでも出るかのようにふらりと、普段通りに静かな裏庭へと出た。  
 
色素の薄い長い髪が、風に靡いて散る。  
風は、向うの世界と同じだった。いや、少し乾いているだろうか。  
或いは含んだ砂の所為か、ぴりぴりと薄い皮膚に小さな刺激。  
目に砂が入らぬよう、額に手を翳して、緩く天を仰ぐ。  
ありえない、空の色。  
 
くすっと、弥生は笑って。  
ザ、と地面を蹴る音に、目を見開いた。  
 
飛びかかる影――何。……狼!?  
「ッあ、は……」  
のしかかる2Mを超えた獣に、弥生の細身の肢体は呆気なく押し倒された。  
後頭部を打ったらしい。頭が、ガンガンして、目が開けない。  
 
生臭く湿った息が、首にかかる。ピチャッと音がして、  
おそらく狼(に類似した獣)の舌が、弥生の首筋を舐めあげた。  
「ぅ、うく……あ、はッ……」  
目を、開かなければ。頭がまだガンガンして、手足は動かせないが、  
せめて事態を見なければ。弥生は痺れた瞼を押し上げ、至近の獣を見た。  
赤い、理性などない獣の口。全てを食い千切る為の長い牙。だらりと垂れる不透明の唾液。  
唾液は、ピチャッ、ピチャッと弥生の、整いながらも何処か冷たい頬を汚す。  
「ゲームオーバー?」  
冷静に呟いたつもりなのに。声は掠れていて、内心、弥生は苦笑する。  
生命の危機に瀕して、離人感の克服だなんて、なんて陳腐。  
まさか、それを期待していた訳でもあるまいに。  
弥生は唇を笑みに歪めながら、制服のスカートの下で足を開いた。  
襞スカートがよじれて、乱れているのが気に入らないけど。  
鮮やかなマリンブルーのスカートが滑りおち、膝をたてた白い足が露になる。  
それは異種族にさえわかる、女の証。  
狼に押さえつけられ、不自由な腕を眉をひそめながら動かして、  
弥生はスカートの下に手を滑らした。狼の目を見つめる。  
牙はこんなに怖いのに、瞳はシベリアンハスキーを思わせて、可愛くさえ思える。  
「私はゲームオーバーしちゃったから。好きなだけ犯せばいいよ。」  
自己犠牲では、ない。ただ単に、"今"をゲームとしか考えられない弥生にとって、  
力が大幅に勝る狼に捕まえられた現状は"負け"であり。負けたなら代償を払う。  
ほら、だから。私は笑ってるよ。微笑んでる。  
痛いのは、怖いけど。さっきから、ハフハフと、狼が息を荒げ、首筋から  
襟を引きちぎり、鎖骨を舐めしゃぶるのがくすぐったくて、手は巧く動かないけど。  
 
だって、ゲームだからさ。  
 
「んぁ、あ……ッふあ、ああ……あ」  
 
狼の荒々しい愛撫にブラウスを裂かれ、舌とごわついた毛がもたらす感覚に  
甘い息をつぎながら、弥生はスカートの中で、白のパンティを脱ぎきった。  
「はぁ、あ、……噛んだら、痛いわよ……あ、ん……」  
ぱさりと、白のパンティが地面に落ちる。頭はまだガンガンする。  
狼は弥生から次第に立ち上る女の気配に興奮し、毛むくじゃらの足の間の  
赤黒い性器を、硬くしている。ちらりと弥生はそれを見た。長いな、と  
冷静に思った。――いや、冷静だったのか? そう思わないと、怖いから?  
 
どうでも、いい。  
所詮、ゲームだから。ただの、ゲームでしょう?  
 
スカートを膝上まで捲れかえらせ、大きく足を開き秘所を晒した弥生に、  
狼が更に息を荒らげ、顔を近づける。長い鼻がつんと潤んでいない  
花びらに当り、弥生の細い体が大きく撓る。くぐもった喘ぎが、  
きつく結んだ唇から洩れる。  
「んふ……ん――」  
これから始まることは、予測している。  
 
だって、ゲームだから。  
どんな酷いことも辛いことも、ゲーム。  
皆が一生懸命だったでしょう? あれと、同じだよ。  
 
「ぅ、うぐぅう、あぐ、ひ――、  
 痛いぃい――!! イッ、ぎ、あ…が、ひゃぅううッ!!」  
猛り狂った狼の性器が、小さく、未だ踏み荒らされていない弥生の秘所を  
前戯なしで貫く。狼の男根は熱く、ドロドロと先走りで濡れ、  
無理矢理に閉ざされ、線のようだった弥生の女陰を切り裂いてゆく。  
「痛いぃい、やだッ、ゆ…ぐして、が、深く――だめ、裂け……ぅあ、  
 あ、あん!! あぁあん!!!」  
 
地面の上で、弥生の体がのたうった。長く手入れされた髪が土に塗れる。  
左右に何度も振った頭。白い頬を伝う涙が泥で汚れる。草の葉が  
傷一つない彼女の顔を切る。――そして何より、細い両足の付け根から  
流れる破瓜の証。証は流れる自由さえない。狭く、熱い膣口の締め付けに満足した  
狼は、激しく腰を動かし、たった一度の破瓜の血は、狼のペニスに絡みつき、  
性感を得る為の潤滑油にされた。  
弥生に性感なんてあるわけがない。  
あるのはただただ灼熱の痛み。  
ジュブ、と狼が腰を入れる度に脳天まで突き抜けるような鋭い痛みが  
秘所から電撃のように走る。引き抜かれる時は更に強く、  
肉の細胞一つ一つにまで痛みが叩きつけられる。  
「あぅうう、あん、ん、んぐ、ひゃあああん! アッ、  
 痛いぃい、ぃッ、ぅあは、は……! あぁあああああ――!!!」  
全身にびっしょりと汗がういていた。声を制御することなんてできなかった。  
 
それでも。  
まだ、何処かで冷めた自分がいて。  
遠いもののように、悶え、喘ぎ、哀願し、のたうつ己を見ていた。  
痛みが現実を感じさせるなんて、嘘、だね。  
 
涙が、頬を伝う。  
土色の涙。  
 
ズチュッズチュッと狼の腰の動きが激しくなる。  
長いペニスが深く深く弥生の女性器を抉る。  
陰唇は充血し捲れかえり、狼の恥酵と無理矢理滲み出された体液で  
白く汚されていた。  
「あふッ、あん、ん、ひぐぅ…ぃたいぃい、裂け……ちゃ、あ、ひぅ、  
 あぐ、あ、んぁああ、あ、あふ、膨らん……でッ、いや、千切れ――……」  
 
ピストン運動の度に持ち上がる弥生の腰を、狼がグッと捕らえた。  
爪がスカートにつきたてられ、薄らと赤が滲む。  
高々と抱え上げた腰に狼が長くねじれた一物を突き入れ、  
ズチュッという内臓の潰れる音と共に子宮口を抉り、  
同時に、膨れ上がった性器から、大量の白濁液を解放した。  
狼の雄叫びにかき消されるように、半ば白目をむいた弥生の唾液まみれの唇から、  
悲鳴が迸れる。  
「あぁああ――ッ、あ、熱いの、熱いのぉおお、  
 あぅ、ふ、まだ……くるッ……!!!」  
ゴポ、ゴポ、と結合部からあわ立った白濁が擦り切れた陰唇を押し上げるように溢れかえった。  
獣の、人間に比べるとかなり生臭い精液は濃く、黄ばんだ白をしていて、  
弥生の制服と言わず太腿と言わず、マーキングのように汚し尽くした。  
「あが……、ぁ、ッく……ふ、あ……」  
ブチュブチュと汚らしい音をたてながら子宮から溢れかえる精液の音を聞きながら、  
貫かれた弥生はこれで終わりだと思った。ひきぬかれて、もう一度痛みがあって、  
それで終わり。  
 
だが、それは甘い計算だった。この世界の狼は何度でも射精することができ、  
弥生のような小柄な人間の女性器は、狭さといい温度といい、  
狼にとっては絶品の代物なのだ。手離す筈がない。  
 
「ひぃいッ!」  
一度ひきぬかれた精液まみれのペニスが、  
再び真赤に充血した秘所を割る。  
「ひがあ、ああ、あん、あ……あふ、ふぁッ、あァアア……んぅうぅぐッ!!」  
 
メリメリと骨盤を圧迫する音をたてながら、長く歪な淫獣の性器が、  
濡れそぼった弥生の秘所に根元まで差し込まれていく。  
苦しげな弥生の息。  
ブチュッ、ブチュッと吐き出された精液が膣内から溢れ、飛び散った。  
「ア……ぅあ、あ、……ん、許して――も、ぅ……ひぃいッ、あぁああん!」  
腰で支えられただけの弥生の体は、狼が腰を揺らす度に、  
ブランコのように大きく揺れた。何処か冷たく、儚げだった顔は  
朱に染まり、瞳の焦点は朧。口からはだらしなく涎を垂らし、  
手入れされた髪が乱れに乱れる。内部を抉る激しさを物語るように  
時折体が跳ね、そして、大きく開かれた足が悶え、時に虚空を蹴った。  
「はぅううん、あん、ん! ん! だめぇえ、だめ! ひぁあ、あん!」  
腰を捕らえる狼の手が震えた。肌につきたてられる爪が深くなる。  
二度目の絶頂の予兆が、狼の背を震わせ、毛むくじゃらの足を踏ん張らせ、  
打ち付ける腰の動きを早くする。太くはないが長く、よじれたペニスが  
抜き差しされる度に、無垢であったピンクの秘肉が捲れあがり、  
体がまるで人形のように大きく揺れる。いつしか、制服も乱れ、  
ブラウスは上に捲れかえり、晒された腹部にはありありと狼のペニスの形が浮き上がっていた。  
突きたてられる度に、グッグッと異形が薄い腹に浮かびあがる様は  
淫蕩としかいいようがなかった。  
溢れかえる精液と、狼の涎がボタボタと地面に落ちる。  
「あふうぅ、ふあ、あん、ん――!」  
少女の官能は、無理矢理に開花させられつつあった。  
 
「あがッ、あ、あん、ん、んあぁあ、あ、ひゃぅうううッ!!  
 う、あ、あ………ぁん、あ、ひく、……ひぁ、あ――――!!!」  
狼の怒張が子宮を抉り、最奥に子種をぶちまけたと同時に、  
弥生が大きく体を仰け反らせ、目を見開き絶頂の叫びを上げた。  
 
――はじめての、感覚だった。  
ガラスの向う。  
手の届かなかった世界が、今、私と一緒にある。  
ガクガクと震えるエクスタシーの間、  
確かに弥生は世界との一体感を感じた。生々しい現実を感じた。  
たとえ泥や精液にまみれていたとしても、――現実!!  
 
★  
 
弥生の視界を、強い白光が染めあげる。  
 
★  
 
「大丈夫?!」  
意識を呼び覚ましたのは、闊達そうな、だが知的な少女の声だった。  
目をゆっくりと開くと、おそらく声の主だろう少女が弥生を覗き込んでいる。  
屋根の下だ。傍らには武器らしきもの。そして少し離れた場所には、大人しそうな  
医療班の腕章をつけた生徒が一人、器具の前で座っている。  
弥生の視線が少女の持つカメラに向くと、  
ハハッと少女――名札を見ると、石橋というらしい――は笑って髪を掻いた。  
「化物を追い払うのにフラッシュを使っただけだから、写真なんか撮ってないよ。  
 よく、誤解されるけど、プライバシーの遵守は報道の……」  
 
「撮ったって、良かったのに」  
ぼそりと呟いた弥生の声は、歩みくる医療班の生徒の声で消えた。  
「石橋さん。あの……患部の消毒をもう一度したいから……」  
「はいはい」  
石橋は武器らしきものを手に立ち上がると、少し心配そうな目を弥生に向け、  
数歩離れた。医療班の少女は制服から察するに二年生らしいが、  
傍目から見れば弥生の方が大人びて見えたろう。  
「もう……座れる? だったら、……見られたくないよね。自分で、消毒する?」  
弥生が頷くと、少女は消毒ガーゼを手渡し、背を向けた。  
股間が、ヒリヒリとする。いや、そんな生ぬるい表現では足りない。  
未だにあの凶悪な形状のペニスが、深く深く体を貫いているかのようだ。  
消毒ガーゼの冷たさなど、役にたたない。寧ろ傷の痛みを深めるばかり。  
 
それでも、――おそらく自分達を守る為に武器を持って立つ石橋も、  
眼前のこの少女の背も、また、遠い。  
あの、犯された一瞬は、  
世界がギュッと近く感じられたのに。  
 
「黒川さん、……ぁ、名札で判ったんだけど……  
 あ、あの、私も――化物に、襲われたの……貴女と同じ目にあったの。  
 それでも、こうして、生きてるから。  
 貴女も、辛いだろうけど、貴女のために、貴女を待つ人や  
 貴女の好きなことのために、……生きて…欲しいな。生きる、べきだと思うな」  
 
ゲーム、みたいだ。陳腐なゲーム。  
 
これはモニターの向う。――現実じゃない。  
現実は、あの…………。  
 
再び世界に下りた透明の幕の向うで、医療班の生徒がそっと視線だけを、  
控えめに、こちらに向けた。その顔はやっぱり子供っぽい。  
「出すぎたこといってごめんなさい。  
 私は安土紅葉(あづち くれは)。何かあったら、相談」  
「先輩。私、死んだりしません。――大丈夫ですから。感謝してるんです」  
パアアァと、効果音でも鳴り響かせるかのように、  
安土の顔が明るくなる。「良かったぁ」と叫んで振り返って、  
「きゃ!」と弥生の姿に顔を覆った。――賑やかな人だ。  
遠いけれど。  
 
――感謝、している。あの化物に。あの狼に。  
私を、ゲームの向うに連れて行ってくれるものを、やっと、見つけた。  
膣の奥から溢れてやまぬ狼の精液を拭いながら、弥生は、密やかな笑みを浮かべた。  
その笑みは酷く淫蕩で。  
 
END  
 

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