魔王の娘、ミナレッタが治めるウェステンブルグから南に進むと、『要塞の海』に辿り着く。かつてこの海は『白軍』の艦隊が集結していた要衝であったが、今は魔王の娘の支配下にある。  
 その原因は、海の中央にある要塞島に配備された超長距離雷撃魔導砲である。もっぱら『ペルーン』と呼ばれるその戦略兵器は、『要塞の海』全域を射程に収める魔法の雷を放つことができた。  
 これによって『白軍』は制海権を握り続け、なおかつウェステンブルグとの戦いにも優位を保っていたのだが、ウェステンブルグのワイバーン部隊が要塞島を占拠してから、状況は一変した。  
 今の『ペルーン』は魔王の娘のものになっている。妙な動きをする船は、かつての『白軍』の艦隊のように海の藻屑となるだろう。  
「……魔族どもめ……」  
 その要塞を忌々しく見つめる老人が一人。『要塞の海』の沿岸部にある高級別荘地・リンドブルムのある館のバルコニーから、そびえ立つ『ペルーン』を見つめている。  
 老人の名はエドワルド・ヴィッテ。『白軍』の王から伯爵と財務大臣の地位を与えられた男だ。かつては国内で大きな権勢を振るっていた彼だが、『白軍』の滅亡以後、こうして隠れ家を渡り歩く生活を続けていた。  
 ジリリリリ、と古びたベルの音がなる。ヴィッテは部屋に戻り、電話の受話器をとった。  
「私だ」  
『失礼致します。ベルバ行きの船の手配が済みました』  
「出発はいつになる?」  
『明後日です』  
「ご苦労」  
 逃げ道が見つかったようだ。ベルバはこの地から離れているが、魔族の影響も少ない。人間が亡命するには丁度いい土地だ。  
 ひとまず安心する老人の背中に、びゅうと風が吹きつける。そういえば、窓を開けたままだっか。バルコニーに向き直る。  
 そこに、コートを風にたなびかせた男が立っていた。  
「『白軍』財務大臣、エドワルド・ヴィッテ伯爵だな」  
「……あ、ああ」  
 音もなく現れた侵入者に驚き、ヴィッテは唖然として答えた。銃を向けたまま問いかけるのは、金髪の男。見覚えのある顔だ。老人は脳をフル回転させて、その男の記憶を思い出そうとする。  
「一つ、聞きたいことがある」  
「……なんだ」  
 男が誰だか思い出そうとしながら、ヴィッテはゆっくり問い返す。  
「王妃の行方を知っているか?」  
 その一言で老人の記憶が蘇った。  
「貴様、貴様は、王妃の……ッ!」  
 ヴィッテを襲ったのは狼狽、そして恐慌。侵入者に驚き動けなかったはずの体がふらつく。一方の侵入者は、相変わらずその場に佇んでいるままだ。  
「知っているかと聞いている」  
「知らんっ! ワシは王妃の居場所など知らん! 知りたくもない!」  
「……本当か?」  
 緑の視線が老人に突き刺さる。射竦められながらも老人はかすれた震え声で答えた。  
「本当だ……王妃は、首都が落ちる数日前から姿を消していたのだ……貴様が王妃の側から姿を消して、すぐ後の話だ」  
 魔族たちの軍勢が『白軍』の首都に到達する数日前。戦支度を進めていた城の中から、王妃が不意に姿を消した。その居場所は、『白軍』滅亡の混乱の中で誰にもわからなくなってしまった。  
 命からがら逃げ出してきたヴィッテにとって、王妃の失踪はいらぬ混乱を招いた出来事の一つでしかなかった。それに加えて、目の前の男を始めとする王妃の暗い噂。こちらから探しに行く理由など、ありはしない。  
「ふむ」  
 ヴィッテの言葉を値踏みするかのように、男が目を細める。ごくり、とシワだらけのヴィッテの喉が鳴った。その次に男が取った行動は、意外なものだった。  
「お前でもわからないか」  
 そう呟いた男は、興味を無くしたように振り返って歩き出した。  
「ま、待て!」  
「なんだ?」  
 拍子抜けしたヴィッテは、思わず男を呼び止めてしまう。  
「……ワシを、殺しに来たのではないのか?」  
 それに対して男は言った。  
「その命令は出ていない」  
 それだけ言うと、男はバルコニーから飛び降りて、手すりの向こうに姿を消した。体が自由になったヴィッテはバルコニーに駆け寄って下を覗きこもうとする。  
 しかしそれは、突然吹きつけた一際強い風によって阻まれた。ヴィッテは思わず腕で顔を覆う。ほんの一瞬だけ、空の向こうに飛び去る銀色の閃光が見えた。  
 
 ウェステンブルグ城、厨房。毎日戦場となっているこの空間だが、今日はいつにも増して殺伐としていた。  
「ミューズ、ローストビーフの仕込みは終わった?」  
「まだですー」  
「……ちょっと、それ焼きすぎよ!」  
「うわーん! 手ェ切ったー!」  
「ああもう、またなの!?」  
 厨房に向かうと、メイドたちが夕食を作っているところだった。いつもより数が多い。どこからか客人でも招いてパーティーを開くのだろうか。  
 そんな空間に忍び込む、一人の男あり。てんやわんやのメイドたちの間を、刺激しないように通り抜ける。  
「何か御用ですか」  
 声をかけられた男が振り返ると、そこにはメイド長のジャスミンがいた。両手を腰に当てて、この忙しいのに何しに来たと言った表情。いかにも不機嫌そうだ。  
 そんな彼女に男は――アイルはそっと告げた。  
「夕食はないか?」  
「ありません」  
「余り物でもいいんだが」  
「今はお客人の料理を作るので精一杯なんです。自分で適当に作ってください」  
 忙しさでイライラしているのか、ジャスミンは邪険に返事をするとさっさと元の位置に戻ってしまった。仕方ないので、厨房の隅を借りて適当に料理を作ることにする。  
 今日のメインディッシュはローストビーフのようだ。その余った切れ端を拝借して、クロワッサンにレタス、チーズと共に挟みこむ。  
 それだけでは物足りないので辺りを見渡すと、テーブルの上に放置された白身魚の切り身があった。  
「この魚は?」  
 近くのエルフメイドに聞いてみる。  
「あ、それ間違えて出しちゃって。いらないんで食べちゃっていいですよ」  
「そうか、ならいただこう」  
 白身魚をバターを溶かしたフライパンの上に移し、軽くソテーする。更に盛りつけた後、いい香りのするホワイトソースを添えれば完成だ。  
 もう一品、サラダでも作ろうかとアイルが考えていると、周りの視線が集まっていることに気付いた。メイドたちが料理の手を止め、アイルのことをじっと見つめている。  
「……どうした」  
 動揺を隠しながら、誰に言うわけでもなく呟くと、意外にも答えが返ってきた。  
「なんでそんなにお上手なんですか?」  
「うん?」  
 ジャスミンにそう言われ、アイルは首を傾げる。  
「何か変か?」  
「ええ。殿方の客人が私たちの誰よりも上手く料理ができるというのは、少々納得がいきません」  
「……昔覚えた技術だ。大したことはない」  
 珍しくアイルが不機嫌そうな顔をする。しかし料理をする手は止めていない。野菜や果物を丁寧に切っていき、最後に冷やしたヨーグルトをかければ完成だ。  
「おおー」  
「すごーい」  
 手際良く作られた一人分の夕食に、周りで見ていた人外メイドたちが感嘆の声を上げる。ただ適当に盛り合わせただけの料理でここまで盛り上がれるとは、この城の料理はどうなっているんだろうかと思うアイルだった。  
 
 
 
「……うーむ」  
 魔王の娘が治める城、ウェステンブルグ城。その一室でアイルは唸っていた。  
 アイル・ブリーデッド。魔王の娘を暗殺しようとして失敗し、利害の一致から彼女らの協力を受ける事になった暗殺者であり、現在この城にいる唯一の男でもある。  
 彼がこの城にいる理由は、彼の主である『白軍』の王妃を探すためだ。王妃の持つレイピアに隠された秘密が、魔王の娘にとって何かの助けになるらしい。  
 もちろん、アイルは素直に剣の秘密を教える気は無い。監視の目を潜り抜け王妃の下に帰り着く。それが彼の目的だ。魔王の娘は利用出来るだけ利用するが、深入りはしない。  
 そう決めたのはいいのだが。  
「今のところ手がかりは無し、か」  
 机の上に置かれたのは一枚の地図。その所々に赤い?印がついている。?印は特に地図の東側に集中していた。  
 魔王の娘と『白軍』の最後の戦いは、白軍の首都で行われた。『白軍』の王は激戦の最中戦死、首都は陥落。そうして魔王の娘はこの地域の最東端の領土を手に入れた。  
 その混乱の中で身を隠した『白軍』の重臣は多い。彼らの所在をアイルは大体掴んでいたが、王妃とそのの関係者の所在だけは分からなかった。  
 何しろ情報が錯綜している。北の半島に逃げたという噂もあれば、未だに『白軍』の領内に残っているという話もある。中には魔王の娘の軍勢によって討たれたという荒唐無稽な話まである。  
 要するに、『白軍』のツテだけでは王妃の居場所は分からなかった。  
 
 となれば、頼るべきは王妃自身のコネクションだ。『白軍』の王に頼らずに王妃が自力で密かに作り上げた諜報網。アイル自身もまた、その諜報網の一つだ。辿ることは不可能ではない。  
 あまり訪れたくはないが、手段を選んではいられない。早速手紙を書こうと引き出しから便箋を取り出そうとする。  
 首の後ろに、ちりちりと違和感を感じた。  
 バッと振り向くと、誰もいない空間に突如として銀髪の少女が降り立った。身に纏っているのはぶかぶかのクリーム色のローブ。見覚えがあった。  
「こんばんは」  
「ナコトか」  
 ナコト、と呼ばれた少女はにっこりと笑うとアイルに歩み寄る。一見何の変哲もない少女だが、彼女もまたこのウェステンブルグ城に住む魔族の一人だ。  
 時渡りと呼ばれる種族の彼女は、その名の通り時間に関する魔法を使うことができる唯一の種族だ。彼女が時間を止めるせいで、アイルの銃弾は未だに一発も魔王の娘に届いていない。  
 彼女が魔王の娘の側から離れれば魔王の娘を殺す算段もつくのだが、彼女たちは寝る時も一緒で隙が見当たらなかった。  
「お仕事は……はかどってないみたいね」  
 銀髪の少女はアイルの肩越しに机の上を覗きこむ。椅子の背もたれに寄りかかる格好になり、ギシ、と椅子の足が音を立てる。  
「国が滅んだからな」  
 地図に向き直ったアイルは、無感情に答える。魔王の娘の進軍のせいで、情報が集まりにくくなっているのは確かだ。だが、それに対して特に思うことはない。王妃さえ生きていればそれで十分だ。  
「この前は随分遠出したみたいだけど、それはどう?」  
「同じだ。王妃の行方はわかってない」  
「ティセちゃん、少しは役に立った?」  
 む、とアイルが一瞬言葉に詰まった。  
「……まあ、役には立ったな。ヴィッテ伯爵の屋敷から離れる時だけだが」  
 背中に展開した翼でアイルを運んだ、ティセのことを思い出す。監視役としてつけられたサイボーグの少女だったが、従順で何かと役に立つせいで、不覚にも頼ることが多くなっていた。  
 あれで自分のことを親だと思ってなついてこなければ、もっと動きやすいのだが。  
「今はどうしてるの?」  
「エシェルのところだ。メンテナンスらしい」  
「そう」  
 ぼんやりとした沈黙が降りる。この城にきてからそれなりに時間が経つが、未だにアイルはナコトの心の中を計りかねている。一体彼女は何を考えて、アイルに構っているのか。  
 そんなことを考えていると、またナコトが喋り出した。  
「それで、ティセちゃんにどこまで手を出したの?」  
 一瞬、アイルの頭の中が真っ白になる。  
「……何の話だ」  
「あの子に慣れない手でおちんちんしごかせたり、頭を掴んでイラマチオしたり、キツキツの膣内をそのおちんちんで掻き回して」  
「していない」  
「嘘でしょ?」  
「本当だ」  
 出会った当初こそ勢いで少し乱暴にしてしまったアイルだが、本来子供にそういう感情を抱く人間ではない。寝込みを襲われてフェラチオを許したことぐらいはあったが。  
「じゃあ、この一週間二人っきりででかけて、何もなし?」  
「何もなしだ。馬鹿な妄想はやめろ」  
「そう。それじゃあ……」  
 肩越しにアイルを覗き込んでいたナコトが、不意にその両手をアイルの首に絡めた。吐息が、首筋にかかる。  
「今、こんなことされたら、我慢できなくなっちゃう?」  
「……馬鹿を言うな」  
 言いながら腕をどかそうとする。だが、体が動かない。  
「おい」  
「なあに?」  
 くすくす、とかかる吐息が笑っている。  
「……時間を、戻せ」  
 体が動かない原因は分かっていた。ナコトがアイルの体の時を止めている。以前もこんなことがあったが、その時はかなりろくでもない目に遭った。  
「私は何もしてないよ。あなたが期待してるだけ」  
「嘘を言うな」  
 そうは言ってみるものの、体はやはり動かない。何とか動かそうともがいているうちに、ナコトがするりとアイルの足の間に滑り込んだ。  
 ズボンのジッパーを下ろして、中に隠れていたアイルの肉棒をつまみ出す。引きずり出された肉棒は、まだ勃ち上がってもいなかった。  
「……なんだ、その顔は」  
 不機嫌そうな顔のナコトに、アイルが憮然と声をかける。  
「私がこんなに誘惑してるのに……」  
 身も蓋もない事を言いながら、ナコトが肉棒を口に含む。時間を止められているのに、熱い口内に肉棒が含まれる感触は鮮明に感じ取れた。  
 
「う……」  
「ん、じゅぶ、んぐ……」  
 肉棒の周りを、ぬめったナコトの舌が這いずりまわる。溜まっていたこともあって、肉棒はあっという間にガチガチになった。  
「やっぱり期待してた?」  
「うるさい」  
 相変わらず憮然としているが、肉棒を固くしながらでは説得力がない。その上、僅かだが表情が快感で引きつっている。  
「素直じゃない人には、おしおき」  
 それでも言葉を聞きたいのか、ナコトは肉棒を擦っていた手を放し、肉棒を一息に咥え込んだ。じゅぶじゅぶと、さっきよりも卑猥な音を立ててアイルを責め立てる。  
 時々鈴口の裏辺りを舌先が掠めると、その度にアイルの肉棒がビクンと跳ね上がる。時間を止めていなければ、彼の体全体が震えていただろう。  
 弱点を見つけたナコトが、獲物を見つけた肉食獣のように蒼い眼を細める。顔を上下させるたびにわざと舌を掠めさせ、徹底的に快感を与える。  
「おい……っ!」  
「なあに?」  
 ナコトが肉棒から口を放す。アイルの表情は、隠しようがないぐらいに切羽詰まっていた。  
「時間を、戻せ……ぐうっ!?」  
 細い指がアイルの肉棒を激しく擦りあげる。普通ならそれで絶頂を迎えてしまいそうな責めだが、しかし肉棒は射精しなかった。  
 当然だ。時間を止められているのだから。  
 それなのに快感だけが延々と上積みされているせいで、アイルの精神は先程から延々と寸止めを味わわされ続けていた。  
「もうガマンできない?」  
「……ッ!」  
 そう告げるナコトの瞳は、ぞっとするほど蠱惑的で。アイルはその視線に屈してしまった。  
「……ああ」  
 その一言を聞いたナコトは、口の端をニィッと吊り上げると、アイルの体に触れた。途端にアイルの体の時が動き出し、自由に動けるようになる。  
 しかし肉棒の射精感だけは未だに解放されなかった。  
「ナコト……?」  
「だめ。まだおしおきは始まったばかり」  
 アイルの膝の上に乗ったナコトが、彼の首に両腕を回し、扇情的なキスをした。  
「続きはベッドで、ね?」  
 
 
 
 ベッドの上に横たわったナコトは、ローブを脱いで一糸まとわぬ裸体を晒していた。整った顔立ちと色白な彼女の肌は、よくできた人形のようでもある。  
 しかし下半身に目を向ければ、その秘所はしどとに濡れている。いやらしい体液に塗れた白い柔肉は男の欲情を誘うためだけに作られた魔性の光景だ。  
 ナコトの上に覆いかぶさったアイルは、十分に濡れそぼった秘所に肉棒を突き入れる。相手を気遣う余裕は無いし、その必要もない。貪るように腰を動かし始める。  
「うあうっ!? やだっ、いきなり、はげしっ!」  
 いきなり最奥を突かれたナコトが喘ぐ。  
「なら、時間を、戻せば、いいだろうっ」  
 腰を打ちつけながらアイルが唸る。とっくに数度は射精してもよさそうな快感を味わいながら、彼は未だに達せずにいた。じりじりと鉄板の上で焼かれる拷問のような快感が、立て続けにアイルを襲う。  
「あ……うん。トンだら、きっと、解けるから」  
「それまで愉しませろ、と……」  
 柔肉の間に肉棒を突き入れると、無数の襞が肉棒に吸い付き、包み込み、えぐられていく。その度にアイルもナコトも脳髄を焼くような快感を与えられ、ますます互いを貪りあう。  
「はあっ、ひっ、あ、あああっ!?」  
「う、ぐぅ……っ! ハッ……」  
 一度達したナコトの膣が、ぎゅうっと肉棒を締め付ける。眼の奥がフラッシュするような刺激に、しかしアイルは達せずに更に腰を突き動かす。  
「ひぐうっ!?」  
 絶頂の余韻に新たな快感を上書きされ、ナコトの眼が見開かれる。苦悶と快楽の入り混じった、獣じみた表情。  
「ひいっ、あ、いっ、イッてるのにぃっ!」  
「それが……どうしたっ!」  
「やあっ! あ、だめ、またイッちゃう、ああっ!」  
「そうなりたいから、こんなことをっ、ぐうっ!」  
 また膣内が収縮し、アイルに気が狂いそうな快感を与えてくる。ナコトは何度も達しているが、このままではラチがあかない。そう考えたアイルは一度肉棒を引き抜いた。  
「うぁ……え?」  
 唐突に快感が収まったことにうろたえるナコトの体をうつ伏せにする。ちょうど、ナコトの臀部が高く突き上げられる格好になった。  
 
「あ、待って。そんな――ッ!?」  
 ナコトの言葉を待たず、アイルはバックから彼女を襲った。さっきまで最奥だと思っていたところよりも深く、肉棒が秘所をえぐり取り、ナコトは声にならない悲鳴を上げる。  
「が、うっ……はぁっ、ハーッ」  
 一方的にイカせているアイルのほうにも、いよいよ限界が近づいていた。ただ無我夢中で腰を振るその姿に、理性の鎖は見当たらない。  
 ふと、組み伏せているナコトの背中を見ると、猛烈に噛み付きたくなる衝動に襲われた。その陶磁器のような背中の皮膚を食い破って、真っ赤な血で染め上げたい。一瞬そんなことを考えてしまう辺り、いよいよ狂気の淵が近づいてきたか。  
「きゃうんっ!」  
 狂気を振り払うようにナコトの背中に覆いかぶさり、ほとんど密着した状態で挿入を繰り返す。血の代わりに体温がアイルの体を温める。  
「あ、ひっ……あっ、だめ、だめ、だめだめっ、あああッ!」  
 容赦なく責め立てられたナコトの体が一際大きく痙攣し、そしてがくりと崩れ落ちた。  
 それと同時に塞き止めていた何かが崩れ落ちて、アイルの肉棒から精液が流れだした。溜まりに溜まった精液が、びゅくびゅくと音を立ててナコトの膣内に注がれていく。  
「う、ぐ……っ」  
「ああ、うあ……」  
 ようやく解放された射精感と、強烈すぎる快感にアイルは思わず呻き声を上げる。それほどの精液を流し込まれているナコトのほうは、完全に意識が飛んで、意味のない声を上げるしかできない。  
 そんな強烈すぎる絶頂が一分ほど続いただろうか。ナコトの背にしがみつくようにしていたアイルが、ようやく体を起こした。はぁ、と息を吐くと、再びナコトの膣内を抉る。  
「ひうっ!?」  
 気絶していたナコトだったが、快感でむりやり叩き起こされた。  
「ま、待って。もうイッたでしょ……?」  
「まだ収まっていない」  
 言葉通り、アイルの肉棒は未だに硬さを保っている。  
「ちょっと待って、休ませ――ひゃうんっ!?」  
「さっきもそう言いながら愉しんでいただろう。しばらく付き合ってもらうぞ」  
「うあっ、いっ、も、もう……」  
 精液と愛液が混じったものを肉棒でかき回しながら、アイルは容赦なくナコトを責め立てていった。  
 
 
 
 気がつけば朝になっていた。体のあちこちが痛いし、酷く重い。体を起こそうとしても、右腕に抱きついたナコトのせいでできない。  
 あの後、何度もナコトの中に精を吐き出した。ナコトのほうは途中から意識が半分飛びっぱなしで、アイルの動きに合わせて柔肉を収縮させるだけの肉塊に成り果てていた。  
 何度目かの射精の後、アイルはそのまま倒れるように眠り込んだ。そして、今の時間に辿り着いたのだろう。窓の外には陽の光が差し込んでいて、随分時間が立ったことを認識させる。  
 不意に身震いがした。朝の空気で体が冷えたか。いや、違う。頭の中でそれを否定する自分はひどく無感情だ。  
 そう、本来のアイルは無感情な人間だ。与えられた命令を淡々とこなし、望む結果をはじき出す王妃の道具。それが彼の存在意義だ。  
 それが昨晩はどうだ。欲望のままにナコトを組み伏せ、好き放題に蹂躙していた。今までの自分とは全く違う、ケダモノじみた性質。そんなものが自分の中に眠っていることに震えていた。  
「んぐぅ……」  
 寝ぼけているらしいナコトが腕に擦り寄ってくる。それを気遣うこともなく、アイルは真っ白い天井をただ見上げていた。  
 
 
 

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