◆◆◆  
 
 
 ブランデン大公国、動く。その知らせはウェステンブルグのみならず、大陸全土を駆け巡った。  
 ブランデンの軍勢3万に攻め込まれている西方のロマエ王国は、攻め手が緩むと安堵した。しかし、奪われた6割もの領土を取り返す算段はついていない。  
 同じくブランデン大公国に隣接する神聖ラマンチェ大帝国は、すぐさまウェステンブルグの支援を表明、挟撃する形を取った。隣のロマエの惨状を見て明日は我が身と思ったのだろう。  
 ウェステンブルグの北を根城とする『赤い盾』の一派は沈黙を保っている。どちらが勝つかを見極めてから勝者について、甘い汁を吸おうという考えだろうか。  
 挟み撃ちの形になったブランデンに対し、ウェステンブルグはブランデンとの戦いだけに集中できる。それでも、ブランデンからウェステンブルグに向かう軍は、総勢3万。対するウェステンブルグは総動員して2万。厳しい戦いだ。  
 しかしウェステンブルグの領主、ミナレッタは諦めない。すぐさま領内の諸侯を呼び、対策会議を開き、それぞれ役割分担をさせると2万の兵士を国境沿いに展開させる手筈を整えた。  
 ウェステンブルグの諸侯はすぐさま屋敷から出発した。これから彼らは領地に戻り、兵士を送り出し、あるいは自らも武器を身につけて戦場に赴くだろう。  
 その翌朝のことであった。  
 
 
 
 ウェステンブルグ城、西の一角。がらんとした部屋の中でアイルは目を覚ました。体が妙にだるい。頭を振って起き上がる。時計を見ると、いつも起きる時間よりも大分遅かった。  
 寝坊か、と寝起きの頭で考える。昨日は多くの代官や領主が城に出入りしていた。そのストレスが知らないうちに溜まっていたのだろうか。  
 寝間着からいつもの服とコートに着替える。今日は遠出をする予定だ。北の町にいる情報屋に『白軍』の王妃の行方について調べるように依頼した。その結果を聞きにいく。  
 まずはメイド長のジャスミンから銃を受け取り、それからお目付け役のティセと合流しなければ。すっかり慣れたタスクをこなすためにアイルは部屋を出て、それから立ち止まった。  
 城の中は静まり返っていた。物音一つない。百人を超えるメイドが仕事をする雑音も、見回りの兵士たちの足音も、時折外から聞こえてくる親衛隊の掛け声も聞こえない。  
 慎重に辺りを見回す。見たところ静かなだけで、城の中におかしなところは何もない。花瓶に入ったバラの花から、水滴がポタリと零れ落ちた。  
 少し考えた後、アイルはとりあえず玉座の間に向かって歩き出す。ミナレッタなら何か知っているはずだ。周囲の警戒は怠らない。ブーツがじゅうたんを踏む音が、今日はよく聞こえる。  
 暫く歩いていると、微かに物音が聞こえた。音のした方には半開きのドアがある。ここは誰の部屋だったか。とりあえずノックする。返事はない。だが、中にいる誰かが息を呑んだ気配はある。  
「入るぞ」  
 意を決してドアを開ける。その直前、待って、と声が聞こえたがもう遅かった。  
「あ……」  
 ドアの向こうにいたのは、戸棚に寄りかかって床に座り込んだジャスミンだった。下から見上げてくる彼女の頬は少し朱色に染まっていて、どこか扇情的だ。  
 その指は淫らな粘液に濡れており、彼女の足元には、恐らく彼女が履いていたであろう純白の――尤も、少し湿っているが――下着が落ちている。その時点でアイルは彼女が何をしていたのかを察した。  
「違うんです、これは、あのっ」  
「……ナニしてるんだ、お前は」  
「だから、違いますっ、他の皆はもっとひどくて」  
「他? 他のメイドも?」  
 するとジャスミンは真っ赤になって俯いて、少し間を置いてから小さく言った。  
「……はい」  
「何だこれは、一体……」  
 呆れたようにアイルが呟く。だが、何かの異常事態が起きているのは確かだ。  
「魔王の娘は? ナコトはどうしている?」  
「わかりません……陛下の部屋にはまだ……」  
「……分かった、すぐに見てこよう」  
 そう言うと彼は部屋を出た。辺りに気を配りながら、しかしさっきよりも少し早足で進む。ミナレッタの私室に近づくと、静かだった城内に嬌声が混じり始めた。  
「んっ、ふぅ……んあっ」  
「やぁ……ダメ、気持ちいいよぅ……」  
「ふあああっ! いいっ、そこ、そこなのぉ!」  
 部屋の前を通り過ぎる度に中から喘ぎ声が聞こえてくるが、全て無視する。  
 
 目的の部屋にはすぐに辿り着いた。他のドアよりも豪華に飾り付けられたこの城の主の部屋。ノックをするがやはり返事はない。アイルはそっとドアを開け滑り込む。鼻をつくむわっとした空気に、思わずむせ返りそうになった。  
 何が起こっているのか中の様子を確認した時、彼は驚きに目を見開いた。  
 部屋の中は以前見た時とは様子が一変していた。豪華な絨毯や調度品の上には腕ほどある巨大なイバラが絡みついており、所々赤いバラの花が咲いている。緑一色に染まった部屋の中は庭園そのものだ。  
 そしてその中央、奇跡的に――あるいは恣意的に――無事なベッドの上に、絡み合う二人の少女の姿があった。  
「ナコトッ、ナコトぉ……んっ、ちゅ、ふうっ!」  
「ひあっ、らめ、ミナ、やぁぁ……!」  
 責め立てるのは金髪の少女。陶磁器のように白い肌は興奮と熱で桃色に染まり、玉のような汗がその上を滑っている。細く滑らかな指は、彼女が掻き抱くもう一人の少女の乳首と秘所を這っている。  
 そして彼女に抱かれているのは、銀髪のくせっ毛の少女。普段は病人を思わせる青白い肌も、今は金髪の少女と同様に紅潮している。快楽で我を忘れているのか瞳の焦点は定まっておらず、口の端から涎を垂らしてよがる肉人形でしか無い。  
 ミナレッタとナコト。彼女たちがこの城の主だ。しかし今は自分たちの置かれた状況の異常さにも気付けず、イバラに囲まれて延々と快楽を貪る二匹のけだものでしかなかった。  
 手遅れか、とアイルは努めて冷静に判断する。二人の美少女が絡み合っている扇情的な光景を気にしないようにしつつ、周りのイバラに目をやる。そのイバラが、もぞり、と動いた。  
「ッ!」  
 一瞬の勘に任せ、アイルは床に伏せる。次の瞬間、頭上を棘の鞭が通過し、ドォンと低い音とともに彼の後ろにあったドアを吹き飛ばした。飛び散った木片がアイルの頭にパラパラ降り注ぐ。  
 第六感が危険を告げる。アイルはそれに逆らわない。すぐに立ち上がると部屋を飛び出し、一目散に駆け出した。その後ろをイバラたちが蛇のように這って追う。  
 あのイバラは何かの魔族だ。そして何らかの術を使ってこの城にいる生物全てを発情させたのだろう。走りながらアイルは推理を巡らせる。  
 廊下の先にもイバラ。挟み撃ち。床を蹴って跳躍、窓を体当たりで破る。魔法を使ってこの状況を作り出したのなら、自分にも影響があるはずだ。となれば、毒か。起きた時からの気だるさの正体はそれか。  
 着地しようとした地面を見れば、土が盛り上がりイバラが顔を覗かせようとしている。このままでは捕まる。アイルは左腕を城の屋根に向かって伸ばした。無論、届くはずがない。それは彼もわかっている。  
 彼が手首を複雑に捻ると、袖口からフック付きのワイヤーが飛び出した。射出されたフックは屋根に食い込み、アイルの体は振り子のように空中で方向転換する。  
 もう一度手首を捻ると、コートの袖の中の発射機構からワイヤーが切り離された。再び慣性に捕らえられたアイルの体が飛んでいくのは、玄関ホールの窓だ。腕を顔の前で交差させる。  
 ガシャアン、とさっき窓を破った時よりも一際大きい破砕音が玄関ホールに響き渡った。続いて、無数の破片とともにアイルが絨毯の上に転がる。破片で切ったのか、その頬からは血が流れている。  
 素早く辺りを見回す。イバラの姿はまだない。これなら城外まで逃げ切れるか。アイルは躊躇うことなく正面の大扉を開いた。  
「つっかまえたー!」  
 次の瞬間、彼の腹を強烈な衝撃が襲った。肺の空気を全て外に搾り取られるかのような打撃に、彼は一瞬意識を失う。気がついた時、彼は大広間の絨毯の上に転がっていた。  
 すぐさま起き上がろうとしたが、両腕をイバラに押さえつけられた。バラの棘が両腕に食い込む。  
「えへへ、鬼ごっこは私の勝ちだよ」  
 頭上から無邪気な声が聞こえてくる。続いて器用に体に巻きついたイバラによって体を空中に持ち上げられた。それでようやくアイルは、この城全体を覆う異変の正体を知った。  
 彼の前にいたのは巨大なバラの花だった。2mはあろうかという大きさのバラは、目が痛くなるほど鮮やかな赤色に輝いている。バラの下部からは無数のイバラが伸びており、幾つかは地面に刺さり、それ以外は足のようにバラを支えている。  
 だが目を引くのは花の巨大さだけではない。バラの花の中央には本来あるはずのない、いや、いるはずのない者がいた。  
 
「久しぶり、アイルおにーさん。元気だった?」  
 バラの中央から『生えて』いるのは、薄緑色の肌の少女だった。瞳の色はバラの花びらと同じく赤色で、群青色の髪には黒いリボンが結び付けられている。  
 若木のような瑞々しい体は余すとこなく外気に晒されており、見た目には不釣り合いな大きな胸も、奇妙な刺青の入った腰も、一筋の線にしか見えない秘裂も、全てさらけ出されている。  
 巨大な花を操る魔族、アルラウネ。そんな魔族がいた事をアイルは思い出す。だが、久しぶり、と言われるほど親しい仲の魔族は記憶に無い。ましてや名前を教えたことなど。  
「……誰だ」  
「やだなー、もう忘れちゃったの? 私よ、私」  
「知らん」  
「……これに見覚えは無いかなー?」  
 首を傾けて、アルラウネは髪に結ばれた黒いリボンを見せつけてくる。黒いリボン、バラの花。まさか、と脳裏にある可能性がよぎる。  
「あの……バラの花束か?」  
「はいっ、正解です!」  
 満足のいく答えが得られたアルラウネはにっこり笑って頷いた。  
「レクシィ様とライカ様からね、お城に忍び込んでこいって言われた時はどうしたのかと思ったけど、まさか戦争を始めるなんてねー。  
 まあ、アイルおにーさんがここまで連れてきてくれたたおかげで、こうしてお城をえっちな花粉で一杯に出来たし、これでお仕事完了かなー?  
 あ、でも王様がこの城に来るまではちゃんと足止めしておかないといけないし、もう少し残ってないといけないのかな? うーん、どうなんだろ」  
 ペラペラとよく口が回る魔族である。その間にアイルはなんとかイバラから抜けだそうとしたが、ガッチリ巻き付いておりビクともしない。  
「あれ、アイルおにーさんまだ動けるの? ってゆーかさっきちょっと本気で殴っちゃったけど、あれで死んでないの?」  
 アイルの体がグイとアルラウネに引き寄せられる。イバラではないアルラウネの人間部の手がアイルのコートとシャツに伸びて、そのボタンを外していく。  
 露わになった彼の腹部は見たところ傷のついていない綺麗なものだった。  
「ふーん。ドラゴン皮のコートかぁ」  
 アルラウネがごわごわしたコートの生地を撫でる。魔界でも一線を画す強さを持ったドラゴンの皮膚はいかなる刃も通さず、熱や電撃、魔力にも強い。アルラウネのイバラの一撃では傷ひとつつかないのも当然だ。  
 ただ、防げるのは傷だけで、殴られた衝撃はちゃんとアイルの体に伝わっていた。  
 続いてイバラがグッとアイルを引き下げ、アルラウネの顔の高さに彼の顔を合わせた。宝石のように赤い瞳が彼の顔をまじまじと見つめる。  
 アイルは朝から感じていた体の気だるさが熱に変わるのを感じた。耐えられないことはないが、幾分苦しい。  
「……おにーさん、平気なの?」  
「何がだ」  
「私、頑張っておにーさんをえっちにする花粉出してるんだけど。普通の人間だったらとっくにおかしくなっちゃってるよ?」  
「毒なのか、それは?」  
「うーん? ……うん、そーだね。人間の言葉で言ったら、毒だよ」  
「なら諦めろ。俺に毒は、効かん」  
 『白軍』の暗殺者として育てられた彼は、毒に対してある程度の耐性がつくように訓練されている。  
 しかし全く効かないというのは嘘だ。体が毒に慣れているとはいえ、彼は人間である。少し息が荒くなっているのがその証拠だ。そしてアルラウネが面白そうに細めた瞳は、彼の嘘を見抜いていた。  
「へえ……本当に?」  
 いたずらっぽく笑うと、アルラウネはアイルを抱き寄せる。顔を胸に埋められた彼はもがくが、イバラでガッチリ腕を固められて何もできない。そうしているうちに、更に花粉が肺の中に入り込む。  
「やめっ……むぐっ……」  
「ほらほら、大人しくしてー」  
 子供をあやすようにアイルのくすんだ金髪を撫でつける。彼が暴れれば暴れるほど花粉は彼の精神を蝕むが、どうすることもできない。  
 彼を捉えているアルナウネは、自分の胸の中で彼がもがく感触で頬を染めている。その余裕に満ちた表情が、一瞬ピクリと歪んだ。  
「んっ……?」  
 見れば、暴れていたアイルはすっかり大人しくなって、アルラウネの乳首に吸い付いていた。毒が許容量を超えたようだ。  
 
「やっと堕ちてくれたんだ……ふふっ」  
 くすくす笑ってアルラウネはイバラの拘束を解く。どんな人間だろうと魔族だろうと、彼女の毒が一度効いてしまえばただのケダモノと化す。そうして理性を失った相手から生命力を一滴残さず搾り取る。それが彼女たちの食事の仕方だ。  
 瞳から光を失ったアイルは、ただ目の前にいる女に襲いかかることしか考えられない。アルラウネを赤いバラのベッドの上に押し倒す。  
「ひゃんっ! もう、元気すぎるよ、おにーさん?」  
 毒に耐性があった分、一度振り切れた反動は大きい。常人にはまず耐えられない花粉に狂ったアイルは、アルラウネの文句など聞かずにその乳房に乱暴にむしゃぶりつく。  
「あ、ふ……そんなに乱暴にしちゃらめえ……」  
 アルラウネの胸は、不思議と蜂蜜のような甘さがあった。いつまでも舐めていたくなるような衝動に駆られる。その甘さをもっと濃く堪能しようと、彼は乳房を吸い上げ揉みしだく。  
「ふああっ! そ、そんなに揉んでも何も出ないよう」  
 ちゅっちゅと乳房を吸う度に、アルラウネは甘い声を出して体をよがらせる。しばらくそうして彼女の体を堪能していた彼だったが、やがて思い出したように彼女の下半身に手を伸ばした。  
「ひゃうっ!?」  
 アイルの指がアルラウネの秘所に触れる。そこは既に濡れていて、いつでも肉棒を受け入れられる状態になっていた。  
 一度手を離して、内腿全体を探るように撫で回す。すると彼女の膝の辺りで妙な感触にぶつかった。押したら跳ね返ってくる人間の肌ではなく、すべすべした樹木のような手触り。  
 奇妙に思ったアイルが胸から口を放し、それを見る。縛られていた時はバラの花びらに隠れていて見えなかったが、彼女の膝から下は太い茎が寄り集まった物に置き換わっていた。足を模した茎の束は花びらの中心に伸び、その先は暗闇で見えない。  
 魔物の本性を表したかのようなグロテスクなパーツを目にして、アイルの正気が一瞬戻る。逃げようと身を起こす。  
「行っちゃだめだよう」  
「がっ……!」  
 甘い声と共に、体にイバラが再び巻き付いた。更にその上からアルラウネが覆い被さる。薄緑色の頬を紅潮させた彼女は、アイルに抱きついて胸元に頬ずりする。  
「まだ抵抗できるなんて、おにーさん凄いね……これなら、もっと濃いのを使っても大丈夫かな? 花粉の原液なんだけど」  
 アイルの顔から血の気が引く。さっき正気に戻ったのも奇跡のようなものだ。これ以上毒を盛られては二度と戻ってこれなくなる。  
 必死にもがくが、やはりイバラは外れない。それを楽しそうに眺めてから、アルラウネはアイルの胸に牙を突き立てた。  
「うっ、ぐあ……ッ!?」  
 一瞬の痛みの後、噛まれたところから灼熱にも似た快感が全身に広がっていく。彼の理性は今度こそ毒に飲み込まれた。  
「どう、おにーさん……んっ」  
 ガクガクと痙攣するアイルに、アルラウネは唇を重ねる。熱い舌同士が絡み合い、アイルの口に甘い唾液が流れ込む。彼がキスに抵抗しなくなったのを見て、アルラウネはイバラの拘束を解いた。  
「グアァッ!」  
「きゃあっ! ……んもうっ」  
 案の定、毒に狂ったアイルがアルラウネを再び押し倒す。アルラウネは逃げようともしない。すぐにズボンのジッパーを降ろし、ガチガチにそそり立った肉棒をアルラウネの秘所に突き入れた。  
「あぐっ……!」  
「ふあっ!? い、挿れただけでイッちゃったの……?」  
 いきなり最奥で精液を吐き出される感触に、アルラウネは戸惑いの声を上げる。散々花粉の毒で高められていたアイルの性欲は、うねうねした膣肉の壁をこじ開けるだけで一度果ててしまった。  
 しかし人外の媚薬に染められた獣が、これだけで止まるはずがない。まだ射精が止まらないのに再び彼は腰を動かし始めた。  
「ひゃっ……もう、あんっ、大丈夫なの?」  
 返答はない。ただ黙々とピストンのペースが早くなる。アルラウネの柔肉は人間のそれとは違い、無数の肉の紐が絡まり合ったような形をしている。肉棒を突き入れ、引き抜く度にその紐が肉棒に絡みつく。  
「んぐっ、ふああっ! おちんちん、お腹の奥叩いちゃ、あっ、ひ……だめぇ、感じ、感じすぎちゃうよお!」  
 肉棒を撫で回す感覚に夢中になり、アイルのピストンはかなり乱暴なものになっている。執拗に子宮口を責められるアルラウネの目元には涙すら浮かんでいるが、気遣う理性など残っていない。  
「あっ、だめっ、もう、ひあうっ! だめ、イッちゃう、イッちゃううう!」  
 一際高く叫んだアルラウネの膣が、アイルの肉棒をきつく締めあげた。欲望のままにアイルは精液を膣内に解き放つ。びゅくびゅくと音がしそうな射精に、膣奥から湧き出てきた粘液が混ざる。  
 
「あうう、ナカに……ひゃうっ!? あ、待って、まだイッて、いぎいっ!?」  
 余韻に浸る間もなく、アイルはまた抽送を再会する。絶頂中で締まりきった膣内を掻き分けるのは、今まで彼が得たどんな快楽よりも気持ちいい。  
 その上突けば突くほど、膣奥からローションのような粘り気の強い愛液が染み出してくる。それがお互いの性器に絡みついて快感を一層高めていく。  
「あ、ぐ、うあ……ひぃぃ、またおちんちんから、せーえきでてるう……」  
 三度目の射精の後、アイルは半ば意識を飛ばしかけているアルラウネの髪を掴んだ。  
「い、痛っ! なに、ひゃんっ!」  
 一度身を起こしたアルラウネを、今度はうつ伏せに押し倒す。丁度尻を突き上げるような形になったら彼女に、アイルは遠慮なく肉棒を突き挿れた。  
「ひぐっ!? お、ああ……」  
 内蔵全体を押し込まれるような衝撃。後背位に変わった分、より深く肉棒を奥まで押し込めるようになった。アルラウネの口から、呻き声に似た嬌声があがる。  
「んぐっ、はっ、おにー……ひゃふ、おにーさん、ああっ!」  
 花びらに顔を擦り付けてアルラウネが喘ぐ。彼女の膝下の茎の束がざわざわと動き、アイルの足に絡みつく。どうあってもこの快楽を逃がさないつもりだ。  
 もちろん、溺れる彼がそれに気づくはずがない。アルラウネが絶頂すると同時に、一番深い所で子宮に向かって精液を放つ。  
「すごぉい……お腹タプタプ言って、んあうっ!?」  
 膣内に栓をしたまま、アイルはまだピストンを止めない。子宮全体を精液で埋め尽くそうとするような、貪欲な征服感に突き動かされて、彼は次の射精を目指して腰を振る。  
「せーえき漬けだよぉ……人間にこんなにされるの初めてぇ……」  
 子宮の中で精液がシェイクされる感触にうっとりしながら、アルラウネは呟く。その背中に覆い被さり、アイルは彼女の両胸を乱暴に揉みしだいた。  
「んあっ! ふふ……いいよ、好きなだけ絞りとってあげる」  
 すべすべした肌の感触と、妖艶な囁きに導かれて、アイルはまた精液を吐き出した。  
 
 
 
 それからどれぐらいの時間が立ったのだろうか。  
「んぅ……アイルおにーさぁん……」  
 仰向けに倒れるアイルの体は、半ばイバラに飲み込まれていた。腕は無数のイバラが巻き付き、足はアルラウネの膝から伸びたイバラが覆い隠している。  
 そして彼の肉棒は伸し掛かるアルラウネに咥え込まれ、彼女の言いなりになって精液を吐き出す器官と化していた。  
 毒が回りすぎ、体力も尽きたアイルにできることは、騎乗位で腰を振るアルラウネの子宮に向かって射精することだけだ。虚ろな瞳は呆然と彼女を見つめ、口の端からはだらしなく涎が垂れている。  
「ほら、またせーえき出して」  
 アルラウネが呟くと、きゅっと膣肉が締まり肉棒から精液を搾り取る。初めの勢いは面影すらなく、肉棒からはほんの少し精液が漏れ出るだけだ。  
「もう限界かな」  
 その呟きはアイルに向けられたものではない。彼女の独り言だ。彼の四肢を飲み込んだイバラたちがゾワゾワと動き、彼の胴へと登っていく。  
「凄かったね、アイルおにーさん。殺しちゃうのは勿体無いから、私のナカで飼ってあげる。おいしい蜜も食べさせてあげるし、元気になったらまたさっきにみたいに一杯セックスさせてあげるよ」  
 愛おしく頬を撫でる彼女の瞳は、危険な輝きを放っている。しかし自我を失ったアイルはその瞳に見つめられることしかできない。  
 最後に、アルラウネが彼の頬にキスをして、イバラの群れが彼全体を飲み込もうとした時だった。  
「おとーさんを……」  
 アルラウネの後ろから、声。  
「いじめるなぁーっ!!」  
 アルラウネが振り向いた瞬間、一瞬何かがフラッシュし、続いて煙を吹いて飛ぶ何かが彼女に向かって飛んできた。  
「えっ!?」  
 驚愕しながらも、アルラウネのイバラがそれを撃ち落とす。だが、イバラに触れると同時にその何かは爆発を起こし、イバラもろとも消滅した。  
「なに、なんなのっ!?」  
 慌てて新しいイバラを自分の周りに展開させるアルラウネ。爆発の煙が晴れた時、彼女は玄関ホール二階の渡り廊下に立つ人影を見た。  
 腕を組んでアルラウネたちを見下ろすのは、仁王立ちした鋼色の髪の少女。左手と両足を機械に置き換え、背中にはエンジン音を立てる機械の翼を展開している。アルラウネを睨みつける赤と金のオッドアイには怒りの炎が宿っていた。  
 偽物の記憶でアイルを父と慕うサイボーグの少女、ティセ。今日までバラの花束の姿で隠れていたアルラウネは、彼女のことを知らなかった。  
 
「誰よあなた!」  
「うるさい! お父さんをいじめるのは許さないんだから!」  
 言うや否や、彼女の太腿が展開し中から小型ミサイルポッドが出現、アルラウネに向かって8発のミサイルを発射する。しかし備えていたアルラウネはそれをイバラの鞭で叩き落とす。さっきと同じく、イバラとミサイルがぶつかり合い、爆発して相殺される。  
 だが、アルラウネが放ったイバラはそれよりも多かった。爆発をくぐり抜けたイバラが猛スピードでティセに襲いかかる。  
「邪魔するな……なっ!?」  
 捉えた。そう思った瞬間、ティセが何の予備動作も無しに跳躍、そして、飛んだ。銀色の閃光となって、瞬きする間もなくアルラウネの眼前に迫る。銀の光が一瞬視界を覆い尽くし、そして消えた。  
 見失った敵を探して辺りを見渡せば、自分の丁度真後ろに、ティセは浮いていた。背中に取り付けられたエンジンが火を吹き、絶妙なバランスでティセを空中に留めている。その右腕には、抱えられたアイルがいた。  
「あっ、あれっ? あ、このっ、盗んだな!」  
 自分の足元を見れば、イバラの中に飲み込みかけていたアイルがいなくなっていて、代わりにバラバラに刻まれたイバラの残骸が残っている。  
「……うう、返せぇぇぇ!」  
 お気に入りの人間を奪われた怒りと、突然現れた謎のサイボーグへの戸惑い、それに一瞬怯えてしまった自分への恥ずかしさ。そういう感情がないまぜになって、アルラウネの中で爆発した。  
 彼女の叫びと同時にありったけのイバラが宙を駆け、ティセに向かって殺到する。再びティセは背中のエンジンをふかし、急加速してそのイバラから距離をとる。大広間の天井から地面スレスレまで、空間すべてを使ってイバラから逃げ回る。  
 もちろん逃げる場所は次第に少なくなり、遂には天井の隅に追い詰められる。だが、それだけの時間があればティセにとっては十分だった。  
 左腕を、いや、左腕だったものを突き出す。内蔵パーツを繰り出して変形した機械の腕はいまや一つの砲になっていた。エネルギーのチャージも十分だ。  
 光を放つ砲口を殺到するイバラに、その先のアルラウネに向ける。赤い右目の瞳孔が収縮し照準を補正する。ほんの僅かに砲口を左に向け、準備は整った。  
「いっけぇぇぇっ!」  
 ティセの気合とともに、エネルギーが解き放たれる。衝撃に銀色の髪が巻き上がり、閃光が膨れ上がる。今まさに飛びかからんとしていたイバラは残らず光の渦に飲み込まれ消えた。  
「なっ――!?」  
 そして、自分のイバラの壁を貫いて迫る閃光に驚愕したアルラウネもまた、光の中に消えていった。  
 
 ウェステンブルグにも烏はいる。人界に魔族が現れて住み着くようになってから、人界の生態系は大きく崩れてしまったが、それでも烏のようにしぶとく生き残る動物たちはいる。  
 そんな生き残りのカラスたちがかぁかぁと鳴く夕暮れ時。玉座の間はなんとも言えない空気に包まれていた。  
「あー……」  
「うーん……」  
「その……」  
 玉座にはいつも通りミナレッタが座っていて、その隣にはナコトが控える。そして部屋の入口にはメイド長のジャスミンが立っている。いつものウェステンブルグだ。  
 彼女たちはどこか上の空だ。それもそのはず、さっきようやくアルラウネの花粉が抜けて正気に戻ったばかりである。ふとしたことで昼間の熱い情事を思い出し、顔を赤くしてしまうのだ。  
 そんな中でいつも通りなのは、ニコニコ笑っているティセと、胸を張っている彼女の生みの親、エシェルだ。  
「ふっふーん、どうよお嬢様。花粉の毒は効かないし、侵入者も一撃必殺。うちのティセは強くて可愛いでしょう?」  
「ティセは強くて可愛い!」  
 天真爛漫な笑みを浮かべてティセが繰り返す。「いや、それはいいから。というかエシェル、お前が威張ることじゃないでしょ。自分の研究室であんなに盛ってたくせに」  
「う……いや、その話は無かったことに」  
 アルラウネがアイルを襲っていた頃、ティセは調整カプセルの中で目を覚ました。健康診断と機械部分の修理を自動で行なってくれるカプセルから起きて彼女が最初に見たのは、自分のアダルトグッズで自慰にふけるエシェルの姿だった。  
 空気中に興奮作用のある花粉が撒かれていることを体内のセンサーで知ったティセは、すぐに大元を立つために研究室を飛び出し、そしてあの場に至ったのだった。  
 ちなみに散々アルラウネに吸われたアイルは、一命を取り留めたものの、毒と疲労で昏睡状態のために自室のベッドに寝かされている。今頃はメイドの誰かがタオルで体を拭いてやっているところだろうか。  
「とにかく! ティセがこんだけ頑張ったんだからご褒美ちょーだい! まずは研究予算の拡大と待遇改善、地下の研究室はもっと広くして、バスルームは別にして……」  
「あのねえ、これから戦争やるっていうのにそんなお金出せるわけないでしょう?」  
「うええっ!? 頑張ったのに予算どころがボーナスも出ないなんて! 私は奴隷じゃないのよ!?」  
「だ・か・ら! お前が頑張ったんじゃなくて、この機械娘が頑張ったんでしょう?  
 だったら、その子が自分で決めるのが筋ってものじゃない?」  
「え、私?」  
 突然話を振られたティセはきょとんとして聞き返した。  
「そう、お前よ。何でも好きなものを言いなさい。出来る範囲で叶えてあげる」  
「ホントに!?」  
 ティセが目を輝かせる。その様子を見てミナレッタはにんまりと笑った。いかに機械化されて並外れた戦闘力を持ったとしても、その頭脳は子供のままだ。  
 好きな褒美と言われても、飴玉とかぬいぐるみとか、そんなちゃちなものしか欲しがらないだろう。そこまで計算済みで彼女はティセに聞いたのだ。  
 だが、ティセの答えは彼女の想像を上回っていた。  
 
「うーんと、それじゃあね。お父さんと一緒の部屋で暮らしたい!」  
「へ?」  
 ミナレッタの頬杖がずり落ちた。  
「だってお父さんと一緒にいられるのは、お父さんが出かけるときだけなんだもん。  
 せっかく一緒のお城にいるんだから、ティセだってお父さんと一緒にお風呂に入って、ご飯食べて……それで、い、一緒のベッドで寝たいもん」  
 何故か最後の一言は真っ赤な顔になっているティセ。それを見てぽかんとしていたミナレッタだったが、やがて俯いて肩を震わせ始めた。  
「くっ……ぷ……っははははは! なあに、そんなことでいいの!?」  
 絵に描いたような大爆笑。ひとしきり笑った後、ミナレッタは笑顔で答えた。  
「いいわ。明日から、いや、今からでも、あいつがうんざりするぐらい一緒にいてあげなさい。私が許すわ」  
「ほんとに!? やった! じゃあ今からお父さんのところに行ってくるね!」  
 満面の笑みに浮かべて駆け出していくティセ。その後ろ姿を見てミナレッタはニヤニヤ笑っている。これからアイルはティセに一日中付きまとわれてうんざりすることになるだろう。  
「わ、私の夢が……予算がぁ……」  
 一方、見事に手柄が空振りしたエシェルはその場にがっくりと崩れ落ちる。  
「別に予算をやらないってわけじゃないわよ」  
 半分呆れ気味に、ミナレッタが言う。  
「えっ?」  
「未然に防いだとはいえ、あのアルラウネ一匹にこの城が落とされそうになった、それは事実よ。  
 だからあいつに負けないような強いボディーガードを作りなさい。あのティセみたいに。それだったら予算でもなんでもくれてやるわよ」  
 そういうミナレッタの顔は真剣そのものだ。大事にはならなかったものの、敵に早速裏をかかれてプライドが傷ついたのだろう。  
 既にウェステンブルグとブランデンの戦争は始まっている。何としても勝たなければいけない。そういう意気込みを感じ取ったエシェルは、立ち上がると服についた埃を払った。  
「分かったわ。なーに、安心しなさい。この天才エシェル様にかかれば、最強のボディーガードぐらいニ週間、いや、一週間で作ってあげるわよ!」  
「その言葉、期待してるわよ」  
 ミナレッタの言葉に頷いて、エシェルは玉座の間を出ていった。その姿を見送りながら、ミナレッタは遠い地、ウェステンブルグとブランデンの国境に思いを馳せる。  
 
 
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