『稀代の天才写真家』ヘドリック・ハウセンに撮られる事は、女優やモデルにとって最高の栄誉とされる。  
ヘドリックの悪魔的な美への執念で撮影された一枚は、  
対象の美しさを奥底まで写し取って後世へと語り継ぐ。  
彼と同じ時代に活動できた事を誉れに思う女性は、星の数ほど存在するという。  
その彼がヌード写真を撮ると表明した時も、反響は大きかった。  
世界最高峰のステータスを求めて、目の覚めるような美女が各地から集う。  
瀬川優輝もその一人だ。  
 
優輝は若干16歳にして、既に日本を代表する女優として知られている。  
中学に入る前から演劇を始め、その天才的な表現力で人々の心を動かしてきた。  
初主演作『真冬の蝉が見る夢』のアカデミー賞受賞は、彼女の“泣き”の演技に因る部分が大きいとされる。  
また彼女は実力だけでなく、容姿にも優れていた。  
人の無数に行きかう都心を歩いていても、なお振り返られるほどの垢抜けた涼やかな美。  
整形するまでもなく、生まれて間もない頃から周囲の男の視線を惹きつけていた、やはり天賦の才だ。  
 
ただそんな優輝は、天才であるが故の問題も持ち合わせている。  
一言で表せば高飛車なのだ。自分の高い実力を理解しているだけに、称えられて当然と思っている。  
何千という倍率を潜り抜けてヘンドリックの被写体に選ばれたのも当然だと思ったし、  
そのヘドリックが被写体に求めた『状態』にも、ただ一人不服を露わにした。  
 
ヘドリックが求めたものは、最高級の女性が帯びる官能美。  
頬と肌が紅潮し、乳首が屹立し、無毛の丘陵から桜色の性器と、慎ましく尖った陰核が覗く。  
これこそ究極の人間美だと訴えたのだ。  
一般には変態じみた思想とされるこの主張も、天才写真家の言葉となれば意味を変える。  
誰もが少なくとも表面上は、その通りだと手の平を叩いた。  
ただ一人、冷ややかな目つきをした優輝を除いて。  
彼女にとってはヘドリックの撮影も、女優としての箔をつけるための儀式でしかない。  
他の女性が期待に胸を膨らませる中、早く終われば良いのにと退屈そうに溜息を吐くのだ。  
 
 
撮影当日、参加者の数名の女性には各々専属のマッサージ師が宛がわれた。  
通常の撮影で行われる、メイクやヘアセットはない。  
あくまで髪や肌は自然体のままで、性器だけを昂ぶらせての撮影だ。  
優輝は撮影の番が来るまでの間に、何人もの女性が個室から現れて撮影に向かう瞬間を目にした。  
彼女らは一人残らず頬を染め、はっきりと解るほどに乳首と陰核を紅く屹立させていた。  
ばかばかしい。  
優輝はそう溜息を吐きながら、係員に呼ばれて個室に向かう。  
 
部屋の中はどこかのクリニックさながらに清潔に保たれており、白衣を着た女性が数名いた。  
その中の女医らしき人間が、バスタオル一枚の優輝に椅子を勧める。  
「瀬川優輝さんですね。大原と申します、よろしくお願いいたします」  
大原と名乗った女医は、そう恭しく頭を下げる。  
口調は丁寧だが、言葉に心が籠もっていない。あくまで上辺だけの礼だ。  
それを見透かした優輝は、それ以上に尊大な態度で椅子に腰掛ける。  
「はーいはい、さっさと終わらせてよ」  
目を閉じてうんざりとした様子で告げる優輝。  
「畏まりました」  
大原は抑揚のない口調で答える。  
心なしか機嫌を損なったのが優輝にも解ったが、知った事かと虚空を眺める。  
かくして、優輝への官能のマッサージは始まった。  
 
場にはリラックスできる環境が整っていた。  
椅子はゆったりとしていて柔らかく、微かに不思議なアロマも焚いてある。  
その中で優輝はバスタオルを取り去られ、裸身を晒した状態でマッサージ師の愛撫を受け始めた。  
首元からオイルを垂らしかけ、肌に擦り込みながら胸を揉みしだく。  
胸の房を手の平で包み込んだまま、優しく、けれども快楽の芯だけはしっかりと捉えて。  
 
女性2人の手によって左右から乳房を刺激され、数分後。  
椅子の肘掛けに乗せていた優輝の腕が、ぴくりと反応した。  
 
(……な、何、こいつら……滅茶苦茶上手い……っ!!)  
 
自慰の際に得るものとは比較にならない快感が、まだ若い乳房の中に渦巻いている。  
乳房だけではない。腕も、腹部も、そして脚も。  
柔らかく暖かな女の手の平でオイルを擦り込まれ、絶妙に刺激されている。  
特に足指の間でぎゅぷぎゅぷと音を鳴らしながらオイルの泡を弾けさせる動きは、  
優輝の脊髄全体に染み渡るような、如何ともしがたい快楽を与えてきた。  
 
「ふふ、心地よろしいんですか?胸の先が尖って参りましたよ」  
マッサージ師の1人が、優輝の胸に目をやりながら囁いた。  
優輝が恥じらいを瞳に宿す。  
「別に……。ただの生理現象じゃないの?」  
口ではそう強がりながらも、オイルで柔らかく扱かれている胸の蕾は、  
今までの人生でかつてなかったほどに尖っている事は十分に解っていた。  
勿論、指をどけるだけでその状態が見える女達も同じだろう。  
 
誰の目にも明らかなほど胸の先が尖りきった所で、いよいよ大原が優輝の脚を割り開く。  
「さて、今度はこちらですわ」  
大原はラテックスの手袋を嵌めた手でスプレー缶のようなものを握り、優輝の股座へと吹きかけた。  
どうやらシェービングクリームの類らしく、優輝の薄い繁みが泡に塗れた。  
大原はしばらくその泡のついた繁みを眺めた後、剃刀を取り出す。  
「さて、じっとしていて下さいね。せっかくの宝物のような肌に、傷がついてしまいますから」  
そう淡々と告げた後、優輝の白い丘陵に指をかけて剃刀を宛がった。  
 
ショリ、ショリッと響く、恥毛が剃り落とされる音。  
優輝は側方に視線を投げたまま、微動だにせずにいる。  
片手で髪をいじってもおり、一見すれば何も感じていない風だ。  
けれども彼女の視線に先回りして覗き込めば、どこか童女にも見える顔つきで、  
しっかりと恥らっているのが解る。  
 
毛が残らず剃り落とされ、つるりとした無毛の丘が改めて衆目に晒された。  
大原はその丘の上に震える、慎ましく息づいた芽を撫でる。  
「……っ!」  
反射的に腰を引きながらも、まるで陵辱者を見るように大原を睨みつける優輝。  
対する大原は淡々としたもので、閉じかけた優輝の脚を大きく開かせると、  
メンソールの軟膏を掬い取って若芽に塗りつけた。  
「少し冷やっとします。でもこれを塗っておくと、非常に感覚が鋭敏になるので」  
大原はそう断りながら、ごく優しい指遣いで肉芽を扱きはじめる。  
「………………う……っ、ぃひ、くっ……!!」  
ややあって、優輝の薄い唇から声が溢れた。  
大原はその優輝の表情を静かに見守りながら、ゆるゆると陰核への愛撫を続けていく。  
 
それは優輝にとって、初舞台以来になる恥ずかしさだった。  
部屋の中で裸になり、割れ目までを同性とはいえ他人に晒してしまっている。  
「ああ、ああ……っあ」  
肉芽への刺激は、優輝から気を抜いた瞬間に甘い声を絞り出した。  
尻軽なクラスメイトが恋人とのセックス自慢で演じて見せた、あの雌の声。  
それを出すまいと刺激に耐えようとすると、ある瞬間にどうしようもない快感の高波が来る。  
大股開きで曲げた膝が跳ね上がり、快感を得た事を周囲に知らしめてしまう。  
ならば快感に身を任せれば良いかといえば、それも甘い声を出してしまう結果になる。  
出口のない堂々巡り。  
ガラス張りになったドーナツ型の容器を延々と走らされ、見世物にされているような気分だ。  
もう何度ばかり、軽い絶頂を迎えているだろう。  
優輝は白衣を着た女達の視線から逃れるように瞳を彷徨わせつつ、そう考える。  
 
「ふむ。反応は決して悪くありませんが、今ひとつ勃起力の弱いクリトリスですね」  
大原が肉芽から指の腹を離し、包皮を剥き上げながら呟いた。  
優輝も自らの陰核を見下ろして息を呑む。  
きっちりと勃起はしている。普段ならば見つける事も困難なものが、小ぶりな小豆ほどに。  
けれども、大原はその大きさに納得していないようだ。  
撮影するヘドリックの思想を鑑みての事か、あるいは個人的な悪戯心からか。  
いずれにせよ、彼女の指は手袋を新たに付け直し、優輝に更なる快楽をもたらそうとしていた。  
 
「膣に指を入れ、膣壁越しに陰核の根元へ刺激を与えたいと思います。よろしいですか」  
大原が優輝の瞳を覗きこみながら問う。  
「何でもいいわ……好きにしてよ」  
優輝は吐き捨てるようにそう告げたが、内心穏やかではない。  
彼女自身、先ほどの陰核への揉み込みで、何度も小さな絶頂を自覚している。  
その状態で割れ目に指を挿し入れられれば、濡れている事が知れてしまうと思われた。  
とはいえ、拒否できる道理もない。  
 
「失礼します」  
機械じみた大原の言葉と共に、ラテックスの手袋のつるりとした感触が割れ目へ入り込む。  
凄まじい圧迫感が優輝の背を貫いた。  
「かなり締めつけが強いですね、普段から十分な運動をされているようで」  
大原はそう言いながら指を進め、迷いなくある部分に指の先を宛がった。  
優輝が自慰をする際に、最も気に入っている部分。  
表面にざらつきがあり、興奮するにつれて膨らんでくる絶好の性感帯。  
 
(うあっ……し、知られちゃってるんだ)  
 
優輝の瞳に焦りの色が増す。  
そしてその焦りが正しい事は、大原の指が動き始めて数秒で体感できた。  
 
「あ、あああっ、はあああああっ!!あっあ、くああああ、はあああっ……ぁっ!!」  
 
優輝の声が控え室の中に響く。  
普段年頃よりも大人びた声を作っている彼女とは思えないほど、おさなく、澄んだ声だ。  
陰核を指先でこね回し、押し潰し、裏側からも二本指で性感帯を押し込む。  
そうされてしまっては、もはや優輝から声を堪えるなどという余裕は消え去った。  
先ほどまでの肉芽だけへの刺激は、ならし運転に過ぎなかったらしい。  
この大原は間違いなくプロだ。世界的な女優とはいえ小娘ごとき、好きに乱れさせるだけの。  
 
「瀬川さま、少し愛液が出すぎではないですか」  
大原が一旦濡れそぼった秘裂から指を抜き、替わりに吸水シートを秘裂に宛がう。  
そうしてたっぷりと水を吸わせたそれを、見せ付けるかのように傍らの台へと重ねていく。  
優輝はそれを横目に見ながら、自分がどれほど蜜を吐かされたのかを知った。  
 
「濡れた、って……そんなにされたら、仕方ないじゃない!さっさと、終わってよ……」  
「終わりにしたいのならば、クリトリスを勃起させてください。  
 その為の助力は惜しみません」  
「勃起、してる……よぉ……もう、痛いくらいに」  
 
優輝の語気は、次第に弱くなっていた。  
大原が絶対的支配者然としている事もひとつだ。  
最初に優輝が見せた態度がよほど鼻についたのか、徹底的に嬲ってきている。  
しかしその嬲りが、かつて経験のないほど心地の良いものである事が、最も大きな理由だった。  
晒し者にされ、嬲られている事がどうでもよくなってくるほどに心地良い。  
真正面から瞳を捉えてくるこの女性にもし服従すれば、どれほど幸せになれるのだろう。  
そう思い描くと、その瞬間に陰核が立ち上がり、狂いそうな快感が根元から先にまで突き刺さる。  
「いっ、いくうっ!!!!!」  
大原が意地悪く陰核を摘んだ瞬間、優輝はすべての足の指を内に曲げ、歯を噛みしめて絶頂に打ち震えた。  
深い、深い絶頂。  
 
「よーし、中々に大きくなってきましたね」  
大原はそう言って陰核を開放し、血が止まって薄桃色になった陰核が再び赤らむ様子を観察する。  
そして見慣れない吸引口のついた器具を取り出し、不安がる優輝の瞳へ見せ付けるようにした。  
「では、最後の仕上げです。あまり……暴れないでくださいね」  
その言葉と共に、陰核に小さな吸引口が嵌めこまれる。  
そして白衣の女のひとりがスイッチを入れた瞬間、膨らんだ陰核が機械に強く吸われ始める。  
 
「あふぁぁあっ!?え、なにこれ、なにこれぇっ!!す、吸われてる、クリが吸われてるよ!!  
 ああぁああ、いく、私いま、イッてるの?これ、イッてるのっ!!?  
 だめっ、止めて!!ずっと、我慢してたけど、あたしずっと前から、腰ガクガクしてて……  
 あっ、あっあっあっ!!!だめえぇ凄いいっ、クリ取れちゃう、千切れちゃふうううっ!!!!」  
 
大原と白衣の女達は、悶え狂う優輝の様子を周囲から観察し続けた。  
本当に限界が見えれば機械を止め、息が整えば再開して。  
まだ幼さの残る尻肉が飛びはね、すらりとした脚が椅子の上でばたつき、  
黒髪がさらさらと擦れながら、奇跡的に整った顔が快楽に緩む。  
胸の蕾に若芽という、女の象徴たる器官までをも紅く快楽に染め上げ、震わせながら。  
それこそはまさしく、ヘドリックが主張する最高の人間美であると思えた。  
 
 
やがて優輝は、若芽が小豆よりもさらに大ぶりに実った頃に解放された。  
涙と涎に塗れた心地良さそうな優輝を椅子から助け起こしつつ、大原は初めての笑顔を見せる。  
「可愛かったわ」  
僅か一言。けれども、しっかりと感情のこもった言葉。  
「…………あ、ありがとう……ございました……」  
優輝の頬が、大原の瞳の中で今一度赤く染まった。  
 
部屋を出て、いよいよ撮影に挑むという一瞬。  
優希は傍らの机にあった、クリニックの広告を見つめていた。  
煌びやかな瞳を揺れさせて、まるで新しい生き甲斐を見出したかのように……。  
 
 
      
 終わり  
 

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