その日私は、会社のために身体を張った――。  
 
 
私、阿川曜子は小さな弁当会社の営業部で働いている。  
とは言ってもまだまだ入社2年目で、やっと落ち着いて慣れてきたくらいだけど。  
 
うちの会社は、工場で作ったお弁当を契約先の会社に配達している。  
この地域の会社の昼食は、だいたいうちの会社の弁当を契約してもらっている。  
とは言っても、私が入社するほんの少し前に、契約先の会社で食中毒を引き起こしてしまっているらしく、  
入社以来ずっと、『信用第一』だと上司から教わり続けてきていた。  
 
 
そんな状況で、また契約先のある一社で食中毒を起こしてしまった。  
 
 
責任は当然お弁当を生産している工場にあるんだけど、まずは営業部の私たちが契約先に頭を下げに行かなきゃ  
 
いけない。  
もちろんお弁当会社で食中毒なんて、一度でも起こしてしまったら即刻会社が潰れたっておかしくない。  
そんな大事件を私の入社前に起こしておきながら、また同じことをやってしまうなんて。  
しかも、そのための謝罪訪問に、入社2年目の私も同伴しなきゃいけないなんて――。  
 
 
ともあれ、まずは契約先の会社にいちはやく、謝罪訪問に行かなければいけない。  
こっちは私の上司の井頭係長と、宇田部長と私の3人で契約先の会社に向かうことになった。  
 
契約先の会社に到着して、受付で応接室を案内してもらう。  
応接室には、うちの会社との契約を担当している鎌野さんが座って待っていた。  
真っ白な髪と深い皺の、かなり年配の方だ。  
 
「この度は、5年前と同様の事件を起こしてしまい大変申し訳ありませんでした。」  
宇田部長が口火を切って、3人で並んで深々と頭を下げた。  
「……頭を下げていただくのは結構なのですが、5年前の教訓はどのように生かされていたのでしょうか」  
先方の鎌野さんが、私たちを立たせたまま、座ったまま質問した。  
「その件につきましては、もちろんその教訓を生かして工場での制度化は進めてまいりましたが、  
 今回の事件において至らなかった点はどこなのか、大至急調査中でございます。  
 調査終了次第、追って報告のために訪問させていただければと考えております」  
井頭係長が続いて説明した。  
私はただ、黙って神妙な顔をしてるだけ。  
 
「あ、報告していただく必要はありませんよ。御社との契約は切らせていただく予定ですから」  
鎌野さんは予想通りの反応。  
誰だって、2回も食中毒を起こした弁当会社の弁当を注文なんてしたくないはずだ。  
でも、うちの会社としては、そこをどうにか思いとどまっていただかないといけない。  
はっきり言って、倒産の危機だから。  
 
「で、『こっちの女の子』は何で連れてきたのですか?」  
こっちの女の子、とは私のことだ。  
その口ぶりに私は(そんなことができる立場じゃないけど)内心ムッとした。  
「御社との取引の窓口にはこちらの阿川に担当させておりますので、彼女も今回同伴させることにしました」  
井頭係長が答える。  
「いやいや、『こっちの女の子』は5年前の食中毒のことは知らないでしょう?  
 そんな子を連れてきてどうなさるおつもりですか?」  
鎌野さんの口ぶりは、ただ女だというだけで私を社会人とは認めていないような口ぶりだった。  
そうしているうちに応接室のドアのノックの音が聞こえて、若くて綺麗な女性社員がお茶を汲んで持ってきてく  
 
れた。  
……早い話が、この人にとって女性社員は「女の子」でしかないんだろう。  
 
「御社がご立腹なのも尤もでございます。ですが何卒、今一度機会をお与えいただきたく」  
宇田部長が続けた。  
「機会などございません。御社とのご契約は今月度をもって終了とさせていただきます」  
取りつくしまもない様子の鎌野さん。  
「このとおりでございます」  
宇田部長と井頭係長が、膝を折って床につけて、身体を前に傾けた――  
 
「この度は大変申し訳ありませんでした!」  
土下座、だった。  
まだ呆然と立ち尽くしている私の横で、私の上司と部長が土下座していた。  
私もつられて、膝を床につけた。  
 
両膝を床につけて、脚を揃える。  
そのままお尻を両足の上に乗せて、正座の姿勢をとって、  
身体を前に倒して、手と頭を床に……ダメだ、屈辱感がふつふつと湧いてくる!  
悔しい……なんで私たちが矢面に立って、土下座までしなきゃいけないんだ!  
「申し訳ありませんでした……」  
井頭係長と宇田部長に少し遅れて、私も手と頭を床につけて、土下座した。  
ほんとに悔しいし屈辱だけど、これも会社のためだ……  
矢面に立って頭を下げるのが営業のお仕事だから……!  
 
「土下座なんかやめてください。御社との契約を打ち切らせていただくということには変わりませんから」  
「いいえ!ひとまず今回の事件の対応についての報告だけでも、後日させていただきたく!」  
「顔を上げてください。御社の詳細報告のために時間を割くつもりもありません」  
「そこを何とか!何卒、契約打ち切りを決定される前に、今一度の機会を!」  
「土下座なんかされても困るんですよ。私には情に流されて御社の処遇を決定できるような裁量もございませんから」  
 
「大変申し訳ありませんでした!重ね重ねお詫び申し上げます」  
私も土下座しながら、鎌野さんに謝罪の言葉を述べた。  
土下座なんて生まれて初めてだけど、隣の井頭係長と宇田部長を見よう見まねでやってみる。  
……泣きたい!何で私が土下座までしなきゃいけないんだ!  
 
「『この女の子』に謝らせたって何も伝わりませんよ。『この女の子』は、5年前のこと知らないんですから」  
一緒に土下座までしている私を、鎌野さんは『この女の子』と軽くあしらう。  
「おおかた、女の子にも土下座させたら私の情にうったえられるとお考えなのでしょう?  
 そうじゃなかったら、会社に入りたての女の子なんか連れてはきませんよ」  
 
「めめめ、滅相もないです!本来なら弊社社長や工場長も連れて本日お伺いしたかったのですが、  
 取り急ぎ御社担当の営業部の者だけで本日ご訪問させていただいた次第です!」  
「でもね、『この女の子』が心を込めた謝罪なんてできるわけないんですよ。  
 だって、5年前のことを知らないんですから」  
私は、何も言えない。口をはさむことすらできない。  
やっぱり私は入社2年目で、会社の歴史もまだまだほんとに知らないんだ……。  
でも、私も一緒に土下座までしてるってのに、まるで私を邪魔者のように扱う鎌野さんは腹立たしい……。  
 
「もしも謝罪の意味で本日お越しくださったのなら、『そちらの女の子』を連れてくる意味はなかったはずですよ。  
 『この女の子』が本当に御社の顔として謝罪できるのであれば、少しは考えますが。」  
私が、鎌野さんを納得させられるような<<心からの謝罪>>ができれば、鎌野さんは契約打ち切りを思いとどまってくれる??  
私も一緒に土下座までしてるんだから、ここまでやって無駄足にはしたくない!  
「……そ、それはどのような謝罪をすれば、阿川が<<心からの謝罪>>をしていると認めていただけるのでしょうか?」  
井頭係長が質問した。  
「それを私に訊いてどうするんですか」  
鎌野さんは苦笑しながら答えた。  
 
「そんなものあなたがたが考えればいいんですよ。  
 例えば『この女の子』に、土下座を裸ででもやっていただきましょうか?」  
 
……な、何てことを言ってるんだこの人は!土下座を、は、裸でだなんて!!  
『この女の子』呼ばわりといい、鎌野さんはセクハラが酷すぎる!!  
でも……耐えるしかない……。涙がこぼれそうだけど、我慢するしかない……。  
そもそも悪いのは、うちの会社なんだから……。  
「あ、そんなことしないでくださいね。されても私が困りますから。  
 要するに、宇田さんと井頭さんは、<<謝罪に適さない>>人を連れて謝罪にいらしてるってことなんですよ。  
 この時点で、私も御社を信用することは不可能なんですよ」  
 
それから、私たち3人は膝をついたまま、何度も頭を下げて謝罪の言葉を述べたけれど、  
鎌野さんは全く取り合ってくれる気配がなかった。  
 
「どうかもうお引き取りください。御社とのご契約は今月度で終了ですから」  
結局、私たちは鎌野さんを説得することはできなかった。  
それはすなわち、本格的にうちの会社が潰れてしまうくらいのピンチってことだ……。  
「もう土下座をやめて、立ち上がってください」  
絶望だ……私たちは会社の顔として、その顔を何度も床にこすりつけて謝罪したのに!  
悔しくてたまらない……!  
 
このまま私たち3人は、応接室をあとにしようとした。  
先頭の宇田部長が、応接室のドアにまさに手をかけようとしていた。  
 
『例えば『この女の子』に、土下座を裸ででもやっていただきましょうか?』  
 
 
さっきの鎌野さんの言葉は、どれくらい本気なんだろう。  
多分、私が裸で土下座なんてできないと考えた上で言ったことだと思う。  
でも、だからこそ、――!!  
 
「もしも……」  
ドアを開けようとしていた宇田部長も手を止めて、みんなが私の方を向いた。  
「もしも、私が裸で土下座をしたなら、今一度の機会を与えていただけるのでしょうか」  
応接室内が、ピンと緊張した空気に変わった。  
 
 
「それは例えばの話です。実際そんなことされても困りますし、それはやめてください」  
「でも鎌野様は、【私が裸で土下座すること】が、契約打ち切りを考え直すきっかけになると仰いましたよね?」  
「僕を情に流させて考え直させるというのなら、こんな方法もあるかもねってだけです。  
 先ほども言いましたが、私に情で流されて決定するような裁量はないんですよ」  
「情にうったえようとしてるんじゃありません!  
 私は入社歴も浅いし、今回以前の事件は存じませんが、  
 <<弊社の顔としての謝罪ができる>>ことは証明できると思っています!」  
鎌野さんも、井頭係長も宇田部長も、みんな私に注目していた。  
「わかりました。阿川さん、でしたね。なさるのでしたら、どうぞこの場でご自由に。  
 念のため申し上げておきますが、これは私が命じたことではございませんので」  
「……はい!」  
これから私は、会社を背負って、裸で土下座するんだ……!!  
 
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……私の心の中で、弱気な部分が悲鳴をあげている。  
裸で土下座だなんて、恥ずかしくて、惨めで、屈辱でしかない。  
今からでも、ここから逃げ出したい……。  
 
――パサッ  
私はジャケットに手をかけて、まず一枚脱いだ。  
それでも……!私の心の中の、強気な部分が私を突き動かした!  
女だから、以前の事件を知らないから。そんな理由で、さっき土下座までした惨めさを、無駄にしたくないから!  
 
――スッ  
ブラウスのボタンに手をかけて、一つ一つボタンを外して、袖から腕を抜いた。  
今日このまま帰ったら、間違いなくうちの会社は潰れる。  
私の今の行動は、それを食い止めるための、唯一残された小さな希望なんだ!  
これで鎌野さんが心変わりしてくれるかどうかはわからないけど。  
 
――パサッ  
ブラウスの下に着ていたインナーを脱いで、上半身は下着だけになってしまった。  
まるで、鎌野さんが垂らしてくれた一本の蜘蛛の糸に縋り付くように。  
 
――スッ  
上半身を露わにしてしまった恥ずかしさで震え始めた手で、恐る恐るスカートに手をかけた。  
 
――ジーッ  
スカートのファスナーを、震えが止まらない指で、ゆっくりと下ろす。  
この状況は、私が変えるしかないんだ――。  
 
――シュルルッ  
そのまま震える手をストッキングにかけて、私はブラとパンツだけの下着姿になった。  
 
 
顔が熱い。多分今、私の顔は真っ赤になっているんだろう。  
恥ずかしさが止まらない。泣いてしまいたい。  
でも、絶対に、泣いちゃいけない!  
これは私が、自分の判断でやっていることなんだから――!  
下着姿で、正面にいる鎌野さんを見つめる。  
鎌野さんは椅子に座ったまま、私の身体を眺めるようないやらしい視線で見つめていた。  
こんな人に私の裸をそんな目で見られるなんて、悔しくてたまらなかった。  
でも、鎌野さんはいやらしい視線よりも、私がどこまでできるのかを試すような、試験官のような表情をずっと保っていた。  
私の後ろには、井頭係長と宇田部長。  
当たり前だけど、この二人にも私のこんな姿はみせたことがない。  
振り返ってないからわからないけど、多分二人とも、背中からの私の下着姿を見つめているんだろう――。  
上司にまで、私のこんな姿を見られてしまうなんて!!  
 
 
――パチッ  
私は震える手を、背中のブラのホックにかけた。  
ブラが外れて、胸が露わになってしまった。  
私は片腕で胸を隠しながら、横に畳んで置いていたスカートの上にブラを畳んで置いた。  
そのときに私は一瞬だけ、二人の方に振り返ってみた。  
二人とも、俯いてつらそうな表情をしていた。目線にいやらしさはほとんど無かった。  
会社全体の不甲斐なさを私一人に背負わせていることを気負っているような、謝るような視線だった。  
でも、今私は片腕で隠しているだけで、胸を露わにしている。  
その胸への視線はやっぱりいやらしい視線で、やっぱりなあと内心幻滅してしまった。  
でも、もう後ろの二人がどんな視線かなんてどうでも良い状況だった。  
 
いよいよ、最後の一枚――。  
鎌野さんの顔から、試験官のような表情は消えない。  
パンツを脱ぐために、胸を隠していた腕をほどく。  
「ううっ……」  
これで、胸は丸出し。どうしようもなく恥ずかしくて、少し声を漏らしてしまった。  
胸の先端に、緊迫した空気を冷たく感じる。  
――スッ  
ゆっくりと、ゆっくりと、パンツにかけた手を下に下げていく。  
「……あっ」  
後ろの二人に、お尻が丸出しになってしまった。  
顔はもっともっと赤くなって、緊迫した空気でも冷やせないくらいに火照っている。  
――スーッ  
またゆっくりと、パンツを下ろす。  
「(いやあああああっ……!!)」  
とうとう、ヘアーまで丸出しになってしまった。  
鎌野さんの顔が少しにやけた。  
それがわかってしまったことで、堪えていた涙が限界まで溢れかけてしまった。  
「(泣くな……泣いたら終わりだ……!!)」  
――スッ、スッ、  
お尻を後ろに突き出して、少しずつパンツを下ろしていく。  
多分、客観的にはすごくいやらしい光景なんだろうけど、潔くパンツを脱いでしまうなんて私にはできなかった。  
お尻を突き出しているから、きっと、後ろの二人からは私のあれは丸見えになっちゃってるんだろう。  
パンツを下ろしたときにあれに感じた空気の冷たさが、私のあれが丸見えになっていることを知らせた……。  
――スーッ  
パンツから片足を抜いて、もう片方の足も抜いた。  
脱いだパンツを、横に畳んで置いていたブラの上に重ねた。  
 
着ていたものを全て脱いで、私は気を付けの姿勢で鎌野さんの方を見た。  
……ダメだ、恥ずかしくて鎌野さんの顔を直視できない!  
身体を隠してしまいたい!胸も、股間も!  
また涙が溢れそうになってきた!  
 
でも、これで終わりじゃない!  
片膝を床につけて、もう片方の膝も床につけた。  
さっきの土下座でストッキング越しに感じていたよりも、膝で感じた床の温度はもっと冷たかった。  
お尻を足に下ろして、正座の姿勢をとって、  
そのまま身体を前に倒して、肘と掌と、額を床につけて、  
――私は言った。  
 
「誠に申し訳ありませんでした!!」  
 
乳房が垂直に垂れて、先端が床に触れている。  
胸の先っぽが伝えるその感触は、膝や掌からの感触とは比べ物にならないくらい冷たかった。  
それに、身体を前に倒したことで、冷たい空気がお尻の穴とその下のあれに流れていった。  
今私は、お尻の穴やあれまで、係長と部長に晒してしまっている。  
特にお尻の穴の心もとなさが、一層の惨めさを煽った。  
そのせいで――。  
せっかくここまで我慢していたのに、謝罪の言葉が涙声になってしまっていた。  
私は、全裸で土下座をしながら、顔を伏せて泣いていた。  
 
 
「阿川さん」  
鎌野さんが私を呼びかけた。  
顔をあげたくなかった。  
ずっと恥ずかしさを我慢してきたのに、私は結局泣いてしまったから。  
「阿川さん、顔をあげてください」  
私は涙でくしゃくしゃになった顔をあげた。  
「阿川さんの謝罪は、<<会社の顔としてのものだった>>と認めさせていただきます」  
「……っく、ひっく」  
喉はしゃくりあげる声しか伝えられない。  
私は返事もできずに鎌野さんの方に顔を向けていた。  
「何度も申し上げているとおり、私には御社の処遇を決定する裁量はありませんが、――」  
その言葉は、今日聞いた限りで一番優しい言葉だった。  
「――御社から受けた謝罪は、若手の方からのものも含めて、  
 『とても丁寧で、心からのものであった』と、上に報告させていただきます」  
 
私が文字通り身体を張った、全裸での土下座のおかげで、  
うちの会社は今一度の機会を与えてもらえることになった。  
 
弁当製造の工場を総点検したところ、なんと上水ラインに下水が混入していることがわかった。  
上水の水質は毎日分析しているはずだが、当日の分析担当者によるデータの改竄が判明した。  
過去に一度食中毒を起こした弁当会社だから、衛生第一の品質管理に務めるべきだったのに、  
どうやらそれができていなかったようだった。  
 
とりあえず私の溜飲は、その日の分析担当者とその上司が転勤になったことでひとまず下げられた。  
 
 
もちろん、私が全裸で土下座をしたことは、誰にも話さない。  
井頭係長と宇田部長しか知らないことだ。  
でもそれでいい。  
 
――私が身体を張ったことで、この会社を救えたのだから。  
  恥ずかしいけれど、それが私の自慢になったのだから。  
 

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