暗い森の奧、どこからかフクロウの鳴く声が聞こえる。その森の真  
ん中に若いネクス族の魔法使いが住む家があった。その魔法使い、名  
前をエスクと言った。人ではなく、猫でもなく、と例えた詩人がいた  
そうだが、エネクは猫を二足歩行にして人の手を持ったような姿をし  
ていた。  
 エスクは攻撃用の魔法は使えなかったので、もちろんのこと人里に  
行ったことなど一切無かった。どちらかというと魔法を使っての配合  
薬作りや、ヒーリングの方が得意だった。エスクにはフリラという友  
人の魔女がいる。フリラもこの森に住んでいるので二人はよくどちら  
かの家に出かけてレモンティーでも飲みながら語り合うのだった。フ  
リラはどこにでもいそうな若い魔女だったが、滅多に魔法は使う事は  
無かった。その理由はフリラの専門魔法が攻撃魔法だったためか、フ  
リラがただ気まぐれなだけなのかは定かではなかった。  
 
 ある日の夜、エスクはただならぬ様子で家の中をかけずり回ってい  
た。手には何冊も積み上げて本を持っていたため、階段の中間あたり  
で天井に本を引っかけ一気に崩してしまった。そんなエスクを玄関の  
窓の外から偶然見たフリラは、くすくすと笑いながら呼び鈴を押した。  
 
「あ、ごめん。ちょっとハプニングがあって・・。」  
 
案の定、尻尾のあたりをさすりながらドアを開けたエスクを見て、フ  
リラのくすくす笑いは止まらなくなってしまった。  
 
「え、どうしたの?・・あ、そこから見てたのか。」  
 
エスクは困ったような笑顔でそう言った。そうよ、と言ったフリラは  
玄関脇の小窓をちらと見て、優しく微笑む。しばし、二人で笑って合  
ってから、頃合いを見計らってエスクが立ちあがる。  
 
「君が来るのを待ってたんだ。ちょっと用事があってね。」  
 
なんの用事なの、とフリラが聞いた。頭の上の三角耳が楽しげにぴく  
ぴくと動く。  
 
「あがってきて。見せなくちゃならないものがある」  
 
エスクは少しも笑わず、そう言って廊下の奥の部屋まで歩いていった。  
フリラもドアを閉め、失礼します、と言って靴を脱ぎ、廊下を歩いて奥  
の部屋に言った。その部屋はとても薄暗く、深緑色の炎が部屋を照らし  
ていた。そこでエスクは深緑色の炎で沸騰させた透き通った液体の中に  
紐を垂らしていた。  
 
(続かない)  
 

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