下校の時間になり、疲れていた山野は自転車を押しながら宮越と一緒に住宅街を歩いて  
いた。二人以下で家に帰ってはならないと言われていたが、今日は木刀を持ちかえること  
もあり、特別に許可が下りた――まぁ、許可無しで一人で帰っている人も大勢いたが――。  
「俺、怖いよ……最近ずっと一人で帰ることが多かったから、ヘタしたら俺も誘拐されて  
いたかもしれないって考えたらさ……」  
そう言う宮越を励ましながら、山野は心の中で大きくため息をついていた。昨日の朝、あ  
の事件のことを話したそばからこんな事になるなんて……酷すぎる。  
 公園の脇を通りかかった時、ふいに、人の言い争う声が聞こえてきた。薄暗いので初め  
は何がどうなっているのか全く把握できなかった。一体何が起こっているのか、それは近  
づいてみて初めて分かった。宮越が後ろで息を飲む音が聞こえた。  
 会社員らしき男が、長髪の女に首を絞められている。おまけに、その絞めつけられ方は  
尋常では無かった。男は首を絞められた状態で宙に浮いていたのだ。それに……。  
「な……な、何あれ!」  
宮越が怯えた様子で叫んだ。気絶したらしい男の首から手を放し、こちらを向いた女性は  
人間とは思えない姿をしていたのだ。裸の上半身は野獣のごとき体毛で覆われており、目  
は不気味に赤く光を出していた。  
「あ……あんた、誰だ!?」  
自分が動揺しているのが分かった。こんな化け物が現実に存在しているなんて、映画じゃ  
あるまいし、信じられなかった。もしかしたら着ぐるみか何かだろうか。  
「見たなぁ……」  
女性はそう呟いたかと思うと、突然飛びかかってきた。かわし損ねた山野は、首を掴まれ  
て地面に押し倒された。  
「お前も本部に連れ帰って仲間にしてやるよ……」  
「宮越……、に……逃げろ……」  
強烈な握力で首を締め付けられながらも、山野は力を振り絞って言った。  
「助けを呼んでくるからっ!」  
宮越は叫んで走り出す。そうだ。それでいい。山野は地面に転がっている自分の木刀を手  
に取った。そして、それを女性の右側頭部めがけて打ちつけた。犬の悲鳴に似た声をあげ  
て、女が山野の首から手を放した。その隙に山野は女と距離をとった。  
「来るな。近寄ってきたら、もう一発喰らわしてやる」  
山野は低く押し殺した声で言った。女は打たれた部分を押さえながら立ち上がった。その  
姿は先ほどまでとは違った。顔は完全に狼になり、両手両足の爪は鋭く尖っていた。  
「やれるものなら、やってみなよ」  
化け物と化した女は、ゆっくりした足取りで近づいてくる。目に殺気が溢れている。完全  
に怒らせてしまったという事が分かった。剣道二段の自分が、本気の化け物あいてにどこ  
までやれるのか。不安な気持ちになったのが原因だったのかも知れない。次の瞬間、木刀  
は空を舞い、山野の右腕には化け物の牙が食い込んでいた。激痛で悲鳴をあげるところだ  
ったが、それは叶わなかった。何者かが後ろから山野を羽交い締めにして、口を塞いでい  
たのだ。それが宮越だということを知ることが無いまま、山野は気を失った。  
「ねぇオカミ、もしかして山野君を殺そうとしなかったかい?」  
宮越は地面に倒れた山野を横目で見ながら、何食わぬ顔で化け物に話しかける。オカミと  
呼ばれた化け物は目を見開いた。  
「いえ! 滅相もございません!」  
「ならいいけれど……『ユーモア』は人殺しが御法度ってこと、忘れないようにね」  
そう言いながら、山野を背負って立ち上がる。  
「さぁ、彼を連れて帰ろう。彼は僕よりも剣道が上手いからね。いい戦士になるよぉ……」  
くくく、と笑いながら宮越は歩き出した。  
 
 
 
「あんたら二人とも、いい加減にしなさいよ!」  
武子はそう言ってオカミと宮越を交互に睨んだ。案の定、問答無用で突っ込んできたオカ  
ミと宮越を高く飛んで交わし、気絶した山野の傍らに着地する。  
「後悔しても知らないからね」  
武子は目を閉じ、精神を集中させながら手のひらを顔の前でパンッと組んだ。指の形を変  
えないまま組んだ手をゆっくり外し、素早く両手を正面に出した。間髪入れず、手のひら  
を外に向けたまま左右に腕を開くと同時に目を大きく見開く。  
「変身っ!」  
電流が走ったような衝撃が体に走り巡った。それに少し遅れて身体の内側が燃えるように  
熱くなった。肘から先が分厚い金毛で覆われ、頭蓋骨が激痛と共に変形していく。武子は  
悲鳴をあげるが、それは猛獣のごとき声として轟いた。オカミと宮越は怯えたように一歩  
下がる。今のって、本当に自分の声なの? 武子は驚いていた。激痛も治まり、武子は息  
を整えた。どうしよう。  
「ほ……ホントに変身しちゃったんだけど……」  
 
 突然、オカミが狂ったような叫び声をあげながら突進してきた。  
「あとは任せたぞ! 俺はこいつを連れて帰る!」  
先ほどの気絶した男性会社員を抱えて、宮越は闇に消えていく。  
 一撃で決着をつけてやる。武子は両手の爪を出して、舌なめずりをした。そしてそれと  
同時に驚愕していた。身体の自由が効かない。勝手に身体が動いてる。二足歩行の虎と化  
した武子の身体は狼の怪人に向けて走りだしていた。勝負は五秒もかからなかった。武子  
の両手は怪人の腹に深々と突き刺さっていた。激しい閃光が辺りを包み込む。手を引き抜  
いて殴り飛ばすと、オカミは地面に倒れたまま動かなくなった。  
 数秒後、大爆発。  
 

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