七日目。 
見まわりを終えた黛皐月は寮の自室のベットで横になっていた。 
「今日も異常はなくて良かった・・・だけど、美樹先輩にも言ったけど、毎日が祭りだった日々は本当に遠くなっちゃったんだなぁ・・・」 
皐月の脳裏に入学以降の日々が蘇ってきた。 
(・・・そういえば、初めて唯たちに会ったのはあの日だったな) 
 
4月下旬の連休直前、その日は体育館を使って「運動会系クラブの懇親会」が開かれた。 
特に先輩達が新入部員たちをお互いに紹介しあい、新1年生達同士の親睦を深めさすという目的もあった。 
剣道部主将の冴島静香(さえじま しずか)の薦めもあって彼女に連れられ会場にやって来た皐月は、立食パーティー式の集まりで予想以上に盛り上がりを見せている会場に居るうちに楽しくなってきた。 
ふと鮮やかな金髪が目の隅に止まりそちらを見てみると、肩のあたりで髪をきれいに切りそろえた金髪碧眼の美少女が談笑している。 
「主将、あの人は?」 
尋ねる皐月に静香は、フェンシング部1年のエリザベス・アンダーソンだと教えた。 
イギリスからの留学生で騎士階級に属する貴族の娘であり、今年から父親が東京の大使館勤務となったので両親と来日し、また父親がこの学園の理事長と顔見知りである上に、留学生が多くまた海外にも名を知られている海の花女学園に入学してきたらしい。 
皐月の目には彼女はおちついた物腰と暖かな雰囲気とあいまって、貴族玲嬢というよりは母性あふれる若いシスターという感じがした。  
 
自分の感じた事を静香に話すと彼女は 
「うん、確かに見た目はそうだね。だけど試合になると普段の物腰からは信じられないくらい激しい攻撃を見せるそうだよ」 
なんでも質実剛健をモットーとする父親の教育方針で幼い頃から剣を教えられ先祖伝来の本物のレイピアも使いこなせるらしい。 
その話を聞いた皐月は祖父から剣術を教えられ本物の日本刀を使える自分と重ね彼女に親近感を持った。 
 
「冴島先輩、その娘が噂の剣道部ホープですか?」 
と、静香にカメラを首にかけメモ帳を持った少女が声をかけた。 
「お、知世。パーティーの取材か?」 
その少女、新聞部2年の石橋知世は目を輝かせていた。 
「黛皐月、中学時代最後の全国大会では団体戦で先鋒を努め一回戦から決勝まですべて五人抜きをして優勝し、他のメンバーは座っていただけに終わった・・・というのはもはや伝説ですから。一度本人にお会いしたいと思っていたのです」 
知世は皐月に今後の抱負をはじめ、趣味から好きな食べ物にいたるまで矢継に質問してきた。 
見かねた静香が助け舟とばかりに知世に質問した。 
「そういえば弓道部にも凄いのが入ったって聞いたけど、どの娘だっけ?」 
「ああ、橘伊織ですね。中学時代に全国大会で1年から3年までの間、完全制覇した凄腕。私もこの場で是非取材したかったのですが」 
なんでも弓道部主将じきじきにこのパーティーに誘ったにもかかわらず、 
「・・・・興味ありません」と一言で切り捨て欠席しているらしい。 
「おや、今入って来たのはルームメイトの李明花だ。よし!取材を兼ねて橘の事を聞いてきましょう」  
 
知世はすばやく走り去った。 
「やれやれ相変わらずせわしないやつだな」 
苦笑する静香。 
一方、皐月の心には中学時代の成績に加え、そういう断わりかたをした橘伊織という少女の名が強く印象に残った。 
 
「やあ、静香」 
と静香に話しかけたのは空手部主将の大野房子(おおの ふさこ)だった。 
おさまりの悪いショートカットの少女を連れていた。 
「唯、こっちが剣道部主将の冴島静香よ」 
唯と呼ばれた少女は踵を合わせ、背筋を伸ばし直立不動の姿勢となり 
「空手部1年、三上唯(みかみ ゆい)です。よろしくお願いします。押忍!!」と大声で自己紹介し、ふかぶかと頭を下げた。 
静香はちょっとたじろいたが、 
「う・・うん、元気があって大変よろしい・・・。こちらはうちの新入部員よ」 
「けっ・・剣道部1年、黛皐月です。よろしく」 
同じように少したじろきながら挨拶する皐月に唯は 
「よお!これから3年間同じ釜の飯を食うんだ。よろしくな」 
と返事をした。 
出会いは少したじろいたものの、明るくはきはきと喋る唯に皐月は好感を持ち意気投合した。 
唯は中学時代に空手全国大会個人戦で優勝を2回経験しているらしい。 
その後も何人もの先輩や同級生らを紹介され楽しい時間は過ぎて行った・・・。 
 
皐月は懇親会の思い出に浸りながら、何時しかうとうとと眠りに落ちていった。  
 
 
その同時刻、学校の別の場所ではエリザベス・アンダーソンが試合用のフェンシングの剣を持って見まわりをしていた。 
彼女も皐月の行動に感銘を受けた一人であった。 
「ハーイ、ベス」と時々声をかける生徒に 
「はい、こんにちは」と笑顔で挨拶を返す。 
この母性あふれる少女がフェンシング部ではピカイチの使い手で、いったん闘いとなったら人が変わったようになるのはその場を見ない限り信じられないだろう。 
学校が異世界にワープする直前まで彼女と皐月による異種剣術試合を見たいと言う声も高かったのである。 
エリザベスは手に持った剣を見て思った。 
「もし、メイのように化け物と出会ったらこれで勝てるのでしょうか?」 
手馴れたものが一番とは思うけれど、ああここに先祖伝来のあの剣があったら・・・と思ったときベスの脳裏には一本のレイピアが浮かび上がった。 
それは入学直前に父の知人であるこの学園理事長に挨拶をすべく理事長室に通された時の事。 
デスクの後ろの壁に一本のレイピアがかけられていたのだ。 
尋ねると、理事長のアンティークコレクションの一つらしい。 
あまりにも興味深げに見ていたため理事長が「ちょっと持ってみるかい」 
と言った。 
知人の娘である上に、やはり見せびらかしたいという思いもあったのだろう。 
壁からはずしてベスに手渡してくれた。 
鞘から抜いたその剣の作りの見事さにベスは深く感心したのだった。 
(あれは見事な剣でした・・・我が家の剣に勝るとも劣らないくらいの) 
いつしかベスは、自分があのレイピアを使うところを頭に描いていた。  
 
 
また別の場所では三上唯が空手部練習場で汗を流し、寮に戻る途中だった。 
彼女もまた竹を割ったような性格で皆から好かれていた。 
胸や尻は同世代の少女に比べるとかなり薄めだが、本人は気にしていない・・・というか気にするという事自体を考えた事がないのだった。 
彼女も皐月の武勇伝を聞き、自分の身は自分で守らないとと決意していた。 
唯にとって皐月は親しい友達で良いやつだった、あの唐沢先輩たちにタメ口を利くのがタマに傷だが。 
(いくら親しくても上級生には敬語で話すべきだろ!) 
というのが唯の持論だった。 
 
寮の近くまで来ると、仲岡勇介が地面に置いた空いたペットボトルや空き缶を的にしてパチンコ射撃の練習をしていた。 
「よおユウ、精が出るな」 
「あっ、唯姉ちゃん」 
ユウとその傍で練習を見ていたサキも近寄ってきた。 
子供好きでもある唯にたちまちこの兄妹もなついていたのだった。 
さらに唯はユウの「妹は自分がなんとしても守る」という態度にも深く感心し、自分も何かの力になりたいと思っていた。 
その兄妹を目の前にしながら唯は 
(そうだこの子達は、いやこの子達だけでなく学園のみんなは私が守って見せる。化け物どもめ来るなら来てみろ、私の拳でたたきのめしてやる!おっしゃ〜!!) 
と決意していた。 
両手の拳を握りしめ、目をむいて天を見上げる唯を兄妹はいささか気味悪げに見ていた。 
「ユウ兄ちゃん・・・私、なんか怖い」 
「・・・だ、大丈夫だ・・・兄ちゃんがついてるぞ・・・」  
 

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