第3次大戦があった。  
それはアフリカ・南米・東南アジアの経済的台頭で、経済的に陰り、  
というか破綻まっしぐらになった中華共和連邦(事情あって北朝鮮を取りこんじゃいました)。  
国民の不満を逃がすために以前から流してた嫌日誘導と、  
その最中で日本が自衛隊を自衛軍としたことで歯止めが利かなくなり、  
振り上げた拳の落とし所を間違うと、政府そのものへの鬱積から転覆しかねない状況に陥ったため、  
日本への武力誇示が必要になってしまった。  
当時、経済的に好調になったアメリカが、日本から「債務返済しろ」という突き上げをくらって  
煙たがっていたことを利用して、上層部同士で密約を交わし、  
アメリカの南米の共産国家群への攻撃を黙認する、中連の日本への侵攻を黙認する、という条件のもとだ  
 
共和軍は、中華共和国連邦の第1党の党軍。人民解放軍がベースで、  
連邦政府高官の親戚縁者、要するにいい所のボンボンが身内人事で偉くなってゆく状態は相変わらず。  
しかし、その状態を解決せずに、党が一枚岩じゃなかったのが致命的な事態を引き起こす。  
連邦政府の米国と密約した側は、あくまでもナアナアの関係を維持したい派閥であり、  
日本を適度に荒らし回って、国家体系をぶち壊しにした辺りで、米国が介入し  
「同盟国に攻撃してもらっては困るね。あ、でも日本はもう統治力無くなってるね。  
仕方ない、我が国が半分を管理しよう。残り半分は中連さんにお渡ししよう。」  
という目論見だったのだが…  
 
中連側の、自国至上主義で、アメリカとの密約に関わってない人達の関係者も、共和軍には多く  
何も知らずに「普通に全部攻め落とせば良い、日本を全部手に入れる」と考えていた一派が  
日本から飛び立った米国籍の避難民を載せた旅客機を撃墜したことで、問題が表出。  
(これに関しては、日本がその直前にE兵器を投入したため、  
 甚大な被害を被った共和軍将校が徹底的な反抗作戦にでたのが原因)  
至上主義派閥は叱責を受けるも、親米談合派閥を弱腰であると反発、  
戦争中にクーデターを起こす、という行動に出た。  
その結果、艦船や基地内での主導権争いからくる同士討ちが相次ぐこととなった。  
 
元々、小国日本などは片手間で落とせる、として大軍を動かしていなかった事もあってか、連邦内の軍同士で内戦が勃発。  
更に東南アジア等の、連邦を煙たく思っていた諸国が、ここぞとばかりに連邦内に武器を密輸。  
それらの武器がアメリカ製だったり連邦製だったりしたものだから、国家間問題は拗れに拗れ…  
 
漁夫の利を得た日本が軍国主義を基礎に再興する一方で、連邦は崩壊。  
煽りをくらって軍事制圧併合されてしまった近隣の小国があるかと思えば、  
談合派閥を元とする国、至上主義派閥を元とする国、それらに抑えられていた中小派閥の連合、  
古い血筋を持ち出してきた新興国、欧州等の支援を受けた少数民族の独立国等により  
数年が経過して、5つほどの大国と、15ほどの小国が入り乱れることとなった。  
 
また、同じ時代の戦いでD兵器が用いられた戦いがあった。  
D兵器はエネルギーをばらまく核兵器と違い、与えるエネルギー次第で攻撃範囲が厳密に指定できる兵器だ。  
サイズは小さくし辛いが、それでも大型トレーラーには積める。テロリストには何の問題もなかった。  
それは、エルサレムで発動した。  
 
彼らはためらわなかった、自分達の聖地は遺構が粉砕されてしまったのだから、もはやためらう理由が無いのだ。  
爆心地を占拠し、隣り合っていた彼らの聖地へ向かうテロリスト達を、報復のD兵器の牙が襲った。  
テロリストが用いた数十倍の威力のD兵器、そして報復に報復、  
その武器は時代遅れな物と違って、何の汚染も残さないのだから。  
敵も味方も使いたいだけ使えばいいとばかりに、聖地を時空間ごと切り刻んだ。何度も、何度も。  
 
その後にどんな惨事が待ち受けるか、何も知らずに。  
 
 
 
強引な早寝が祟って、静一の眠りは夜更けに覚めた。強烈な月明かりが彼の顔を照らしたのも原因だが。  
美梨に謝りたい。  
夢の中から頭を覆っていたのはその事一つ。  
だが、今は無理だ、ということは理性では分かっていた。  
就寝した美梨の部屋に入ってはいけない、それは年頃の二人だからという理由が主ではなく、  
彼女は、というよりはE兵器である彼らは、寝る時には裸か、それに近い装いをするからだ。  
夢の中では様々な精神状態が誘発される。E兵器である体はそれにも鋭敏に反応し、起動を起こす。  
仮に寝ぼけたとしても、リミッターによって破壊的な攻撃は防げるようにはしてあるのだが、  
肉体自体の変形まで止められるわけではない。  
朝に、膨れ上がった体で張り裂けた、あるいは鋭く伸びた爪牙で切り裂かれた寝巻を見たくなければ、ということだ。  
強いて言えば、病知らずのE兵器の肉体は、それほど衣服に頼る必要はないのだから、  
それほど大きな問題はなかった。  
しかしその問題が、今、静一の前に立ちふさがっている。  
布団から体を起こす。満月も近い月明かりのおかげで部屋の電気を付ける必要もなかった。  
廊下へ通じる襖の前まで来て、行っては駄目だという気持ちと、一刻も早く謝らなければという気持ちがせめぎ合う。  
掛け布団は使っているのだから、彼女は自分から隠すはずだ、  
部屋に入った非礼は先に謝ればいい、と自分に言い聞かせて。  
 
美梨の部屋の襖をわずかに開け、彼女が布団に包まれて眠っている事を確認した。  
問題ない。襖とは逆に向いて横になっていて、二つに分けてまとめられた長い髪がこちらに向いている。  
少なくとも、裸らしい裸を見てしまうことはなさそうだ。  
意を決して部屋に飛び込む、後は謝るだけだ。布団越しに肩に手をかけ、  
なるべく優しく揺り動かし、彼女の目が覚めるように促す。  
だが、彼女は目覚めない、深い眠りのようだった。  
問題なのは、外から受けた影響から体の重心が動き、横向きだった体はころりと転がり、  
肩にかかっていた布団が引きずられ、斜めになった掛け布団の下から、  
美梨の可愛らしい乳房が露わ  
になってしまったことだ。月明かりが彼女の肌を真っ白く輝かせる。  
静一はその事故にあって、見慣れた可愛らしい少女の顔と、  
それに並んだ、見慣れない白く柔らかい曲線の体を、息も出来ずに眺めていた。  
 
触りたい。  
雄が動かす。  
左の手が伸び、僅かに自制から躊躇って、女性に近づいている彼女の体の直上で腕が痙攣する。  
触りたい!  
手のひらの真ん中に、少女の尖った先端が触れる、止まらない、手のひらが暖かな感触に染まる。  
押し過ぎた、慌てて力を抜くと、僅かに汗が乗った肌は優しく押し返し、手のひらに指に吸いつく。  
何度目かの唾をごくりと飲み込む。体は雄の機能に突き動かされる。  
このまま。  
と、美梨が大きく息を吐いた。  
静一の全身が跳ねあがり、飛び退く、だが、美梨は目を覚ましたわけではなかった。  
これも静一が知らないことだが、E兵器達は夢現の変化により、体の内外からの圧迫感を感じることは珍しくない、  
だから美梨は、眠りの中、自らの体に悪戯が及んでいるとは想いもしていない。  
ただ、姿勢が変わって、重力のかかり方のかわった肺から、息を吐いただけだった。  
美梨の布団のそばにひっくり返った静一の顔色は、月明かりの反射もあって酷い、  
ここに来た原因の自責の念と、その時にあってもなお、卑劣な行為にでてしまった事が重なり、  
いっそ自分の首を絞め千切りたいほどの罪悪感に駆られていた。  
だが、手のひらに残る、あつさ。  
動悸を抑えながら立ち上がり、よろよろとしながら美梨の部屋から出る。音をたてないように襖を閉める。  
 
自分が辱められた事を、彼女が全く気付かないでいて欲しい。  
邪に卑怯に願いながら、わずか数メートル先の自分の部屋まで戻る。  
今すぐにでも後ろから辱怒に震える美梨が罵声を浴びせてくるのではないかと怯えながら。  
そんなことは美梨は絶対にしない子だと分かっていても、  
数分前の事で、二人の関係が今までとは決定的に変わってしまったように思えて、  
そうであれば、違う別の事が起こってしまうのではないかという考えが頭を支配していた。  
 
小さな頃は、二人は互いにケッコンしたいとも思っていた。  
だがそれから成長するにつれて、結婚とはどういう関係かが解ってきて、おいそれと触れない関係になった。  
だから親身な兄妹のような関係になるように留めていた。  
しかし、手のひらに残るあつさは、子供心や、あえて遠ざけていた意識を強烈に突き付ける。  
 
部屋に戻り、布団を被り、自業に唸る。  
左の手のひらがあつい。  
 
処理をすれば自己嫌悪はもっとひどくなると分かっていても雄の残り火は収まる気配はなかった。  
ティッシュの中に随分追い出しても。  
最後の滴を出し切る際、少年の体に添えてあったのは、あつい、とてもあつい左の手のひらだった。  
意識はまだ収まる気配もなかったが、そこで体力の方が尽きた。  
 
美梨が少しでも狼の力を表出させれば、その人の何十万倍もの嗅覚に汗と青臭さが絡み付くのは間違いないほどの醜態、  
だが、それを気にする余裕もなかった。  
 
翌朝、静一はいよいよ美梨と顔を合わせられなくなっていた。  
寝汗を言い訳に風呂、便所、洗顔、食事、身支度、忘れ物の確認、  
ありとあらゆる手段を用いて、彼女の行動と時間をずらし、広い屋敷の狭い生活範囲の中で逃げ回った。  
通学には同じバスを使わなければならないにしても、元々隣り合って座るような習慣はない。  
幸いにもバスの座席は十分に空いていて、美梨とは随分離れた場所に座ることができた。  
 
視線を逸らす、逸らす、逸らす。余所余所しさは昨日の、夕方の、事があるので、  
不審に思われないだろう、と願う。自分はどこまで卑怯なのかと目眩すら覚えた。  
教室は一緒、父親が彼女の身元引受のために同じ学級という制度が憎らしい。  
 
あらぬ方向を向き続け、ふらふらしたような状態で、教室の前にまでなんとか辿りついたところで、  
僅かな異変に気付く。騒がしい。  
 
1人の少年が下着一枚の半裸になっていた。名前までは知らない、別の学級の、E兵器。  
彼の後ろには卑劣な笑みを浮かべた少年たちが群れて廊下をふさいでいた。  
珍しい事ではなかった、若い嗜虐欲求を満たすには、反抗できず傷も付かない奴隷、E兵器は格好の玩具なのだから。  
 
視線が他人と並行線を取り戻した静一の視界に、竦む美梨の背中があった。  
その時、静一の中で、何かが外れた。  
外す力になったのは前日からの義憤か、それとも昨晩の贖罪か、あるいはもっと別の物か、  
ともかく、静一は、人垣を抜け、生徒たちがそれぞれの感情を持って遠巻きにしている空白地帯を横切る。  
他の少年たちが僅かに後ずさる中、リーダー格の少年は、自分達の遊戯に邪魔が入ると察し、  
不機嫌な表情を向けた。  
「やめろ。」  
静一は、その一言を吐き出してから、やっと息を吐けた。  
悪童は鼻で笑う。  
「何の風紀委員だ?おい。」  
取り巻きたちが制止する、あいつは軍人の子だ、軍家相手は危ない、止めた方がいい、  
だが悪童は一睨みで黙らせる。  
「自分の所のイヌと遊んでやってるんだよ。俺は。」  
その一言で、今までは別の学級とあって知らなかった事情、身元引受と分かり、やっと静一も話しやすくなった。  
「E兵器は人間だ。法律で権利セイゲンの決まりがあるけど、玩具にしていいわけじゃない。身元引受人でもだ。」  
教科書通りの回答しかできなかった事が悔しい。言い返される。  
案の定、  
「軍事、営利、その他の行動上は、民間人であってもE兵器どもへの命令権があんだよ。おら!取ってこい。」  
投げられた上履きが静一を掠めて飛んでいき、生徒たちが場所を開けた廊下に落ちる  
E兵器の少年は一瞬戸惑った後、駆けだす。  
「イヌが二本足で走るんじゃねぇぞ!」  
雷に打たれたように戦慄し、立ち止まった少年は、その場で両手を床に付き、  
E兵器の時の行動を再現できるのだろうか、人の四つん這いではなく、獣の歩みで投げられた靴へ向かう  
人の足の長さが邪魔になるので、酷く不安定でゆっくりとしか動けないようだったが。  
静一からは彼の顔は見えなかったが、視界の片隅に美梨がいた。  
 
悪童が笑う、  
「ほら、イヌだろ?人間にはあんな気持ち悪い動き、できねぇよ?」  
取り巻きたちも、幾分気色を取り戻してきたようだ。引きつったようだが笑い始める。  
「おい、イヌなんだから手で持つなよ、口で咥えろ。」  
悪童が続ける。  
「バケモノを何匹も飼ってる家の人間だっけな?お前。よっぽどバケモノがお気に入りなんだろうな。」  
少し、語りのトーンが変わった事を静一は感じた。攻撃の対象が自分に向いている。  
「飼ってるイヌかネコにでも、毎晩お世話してもらってるから恩返しとか思っちまった口かい?」  
事実にかすかに触れる、殴りかかりたい。多少なりとも父親には鍛えられている。  
簡単な投げ技のコツがある。一度殴った相手が無暗に殴りかえしてくれば一発だ。  
衝動が体の各所の筋をギシギシと鳴らす。  
 
似た感覚が蘇る。昨晩、衝動のままに行動した悪事。衝動にがちりと歯止めがかかる。  
と、食い止められた思考が反動で別の方向に回り始める、何故、連中は自分を攻撃し始めた?  
別学級でもこの集団の暴力ぐらいは何かと目に耳に付く。何故、それが直接自分に向かない?  
挑発だ、こちらから殴りかからせようとしている。  
軍家の息子とはいえ、議員等でもない普通の家だ。多少発言権があっても、他人に殴りかかっていい権利はない。  
むしろ家庭の責任問題にまで伸びかねない。  
E兵器は文書の上では守られていても、実際には疎まれるもので、  
それを庇っている父親に、下手な醜聞を付けるわけにはいかない。  
何か、こちらからの挑発の方法はないか、強烈な、一発は  
 
背後に向けて生徒群衆の奇声が向く。  
目を逸らした隙に殴られる可能性があったが、静一はそちらを見てしまった。  
どうやら、躊躇していたE兵器の少年が、ついに口で上履きを咥えてしまったようだった。  
静一は顔をしかめる。美梨は、  
 
瞬間、反撃が見えた。静一は声を上げる。  
「おい、そこの犬!軍家の命令だ!その靴を俺に向かって投げろ!」  
軍家の発言権は、一般のそれに勝る。そう教育されている子供たちだ、  
周りの者が意図を掴めずにあっけに取られる中、少しの躊躇の後、E兵器の少年は上履きを口から離し、  
命令通り、静一に向かって靴を投げた。  
自分に当たれば「相手の飼い犬の躾の悪さ」を咎める事ができる。だが上手くいけば。  
 
靴は上手く飛んでくれたので避けるのはそれほど難しい事ではなかった。  
そのまま靴は飛び、静一を対角にしていた悪童、その顔に直撃した。  
生徒の群れが息を詰めるような声を上げてざわめく。あまりに上手くいったので、静一もあっけに取られる。  
悪童も何が起こったのかを把握できず、しかし次の瞬間、顔を怒りに染め、  
怒声と共に、静一に殴りかかってきた。  
 
あとは、簡単だった。  
教師への説明も、軍家が侮辱を受けた、と言えばよかった。  
 

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