両親が共働きな為、朝は俺達二人だけのときが多い。
そんなわけで俺達二人は朝食をとりながら他愛ない会話をしていた。
「そういや何でこんな時間に朝飯つくったんだ?9時に起きると言ったはずだけど・・・。」
「ほら、いつもこの時間帯に起きてるから・・・つい、いつものくせで。」
「習慣って恐いな・・・。」
「ユウは目覚ましセットするのが習慣付いても一人じゃ起きれないけどね。」
「やかましい。っていうかおまえはそろそろ起こし方のバリエーションを増やすべきだぞ。
毎回毎回俺の寝顔をじろじろ見るか容赦なく叩き起こすかの二択しかないし」
「例えば?」
「例えば・・・、目覚めのキスとか・・・。あ、いや、今のなし!!」
「何一人で恥ずかしがってるのよ・・・。」
そんなしょーもない会話をしてるうちに俺達の食器は綺麗に空になっていた。
「ごちそうさん。今日もうまかったです。」
「どういたしまして。」
その後、俺達は出かける為の準備をしていた。
今日は友人達と花見をする予定なのだ。
真由里はその用意の為に早起き―といってもいつも起きてる時間だが―していたのだ。
せっかくなので俺も用意を手伝うことにする。
「ごめんねー。こんな時間に起こしちゃって。」
「いや、今考えたら女の子に肉体労働させておいて自分は爆睡というのはなんか悪い気がするし。」
「一度はそれ了承したけどね。」
「まあとにかくちゃっちゃと終わらせよう。」
「うん。」
俺が手伝ったせいか作業は思ったより早く終わった。
俺達は予定より早いが現地に向かうことにした。
「・・・重い・・・。」
「大丈夫?」
「全然。だいたい何入ってんだよこれ。」
俺は両手がふさがっている為手に持った荷物を視線で示す。
「焼き肉用のお肉とコンロにー・・・。」
「ちょっと待て。お前は焼き肉しながら花見する気か。」
「何か問題ある?」
「いや・・・もういい。」
現地―地元の自然公園―は思ったより静かだった。
「あんまり人いないね。」
「そりゃあ平日だしな。俺らみたいに春休みの学生ぐらいしか来る奴はいないだろ。」
「それもそうね。」
俺達は適当なところにレジャーシートを敷きそこに座った。
「みんなは何時に来るんだっけ?」
「11時。あと2時間半だな。」
言いながら俺はレジャーシートに身を沈めた。
「寝るの?」
「昨日は9時に起きる予定だったんで4時まで起きてたからな。眠くてしょうがないんだ。
それじゃあいつらが来たら起こしてくれ。」
「うん分かった。―ああそうだユウ。」
「?何?」
「膝枕していい?」
「ええええええ!!」
真由里の突然の提案に俺は思わず悲鳴を上げた。
「なななな・・・いきなり何言い出すんだマユ!?」
「何って、膝枕してあげようかって言っただけだけど・・・。」
「いやいきなり膝枕って・・・その・・・。」
「嫌なの?」
突然真由里に表情が不安なものに変わる。
不謹慎にも俺はその顔をかわいいと思ってしまった。
「喜んでさせていただきます。」
気が付けば俺は了承の返事をしていた。
「気持ちいい?」
「・・・まあまあ。」
ホントはすごく気持ちいいけど。俺はそんな本心を隠して真由里の太ももの感触を味わっていた。
俺の意識が闇に沈むまでそんなに時間はかからなかった。
「・・・・ユウ・・・。」
ペシペシ
「・・・ユウ!・・・そろそろ起きて・・・!」
ペシペシ
俺の意識は聞き慣れた幼なじみの声で引き上げられた。
閉じていたまぶたを開けようとしたが、途中でやめた。
このまま寝たふりをするという悪戯を思いついたのだ。
「・・・ユウー?・・・」
ペシペシ
「ユウさーん?」
ペシペシペシ
真由里は必死に俺を起こそうとしているが俺が起きる様子はない。
朝の敗北感を味合わされた借りをこんなところで返せるとは願ってもないチャンス!
このままみんなが来るまで寝たふりし続けて・・・!
ちゅっ
「・・・!?」
俺は唇に突然感じた柔らかい感触に思わず目を見開く。
そこには俺のよくする俺のよく知る幼なじみの顔が―いつもより近くにあった。
「!?」
真由里が俺が目を覚ましたことに気づき、慌てて俺から離れる。
「・・・マユ?」
「・・・ごめん。いきなり・・・。」
「いや・・・。」
しばしの無言。俺は何とか心を落ち着かせて彼女に声をかけた。
「なんでこんなこと・・・?」
俺に問われた真由里は目をそらしつつ答えた。
「だって・・・、朝そうして起こして欲しいって言ってたから・・・。」
「あ・・・。」
俺は今朝真由里と交わした会話を思い出す。
―例えば・・・、目覚めのキスとか・・・―
・・・確かに言った。
「・・・ゴメン。」
心の底から申し訳なさそうに俺に謝る真由里。
「いや、マユは悪くないよ。」
何とか真由里にフォローの声をかける。
・・・しかしよく考えると・・・
「今のファーストキスなんだよな・・・」
「えっ・・・!?」
真由里がより申し訳なさそうな顔になる。
しまった。つい口に出してしまった。
何とかフォローせねば・・・。
「あ、いや、別に怒ってる訳じゃないって。むしろ目覚めのキスがファーストキスというのも何というか、
味わい深いというか、あ、唇の感触はきっちり覚えてるよ何というかすごく柔らかくて・・・。」
駄目だ。まともな言葉が出てこない。
真由里も今度は顔真っ赤になってるし・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
結局、みんなが到着するまでこの沈黙は続いた。