ジリリリリ・・・・・・・・!!
目覚まし時計特有のやかましいベルが俺の耳に飛び込んでくる。
しばらくは無視しようとしたがそいつは俺にベルを止めろとしつこく言い寄ってくる。
仕方がなく俺は目覚ましのスイッチを切るべく身を起こした。
「悪いが俺にはいつも起こしてくれる幼なじみがいるんだ。
君は俺には必要ないんだよ・・・。」
俺は残酷な現実を突きつけながらスイッチを切ってそのストーカーの息の根を止めた。
時刻は6時56分。まだ時間には余裕がある。というか早く起きすぎだ。
というわけで俺は再び夢の世界へと旅立つべく布団をかぶりなおした。
「また寝ちゃうの?」
「うん。9時までまだ時間があるし。」
「そうね。じゃ、おやすみー。」
「おやすみー・・・。」
そう答えて俺はまぶたを閉じる。
・・・あれ?
なんか今声が聞こえたような?
そういえばすぐ傍から気配がするような・・・。
俺は声が聞こえたとおぼしい方向に体ごと顔を向けた。
そこには見慣れた整った顔があった。
「あ、ユウおはよー。」
「・・・何をしている。マユ。」
「何って寝顔見てるんだけど?」
「だからって年頃の女が男の部屋に勝手に上がり込んであげく布団に
勝手に入り込むのはどうかと思うんだが・・・。」
「まあその時は責任とってもらうだけだし。」
「エラい軽いな・・・。オイ。」
その返事に目の前の少女―マユは苦笑する。
彼女、マユ―河崎真由里は俺と同居している幼なじみ―正確にははとこ―である。
といっても二人きりで同棲してるわけではない。
俺達は元は近く(当然別の家だが)に住んでいた。
これで関わりがないはずもなく、俺達は赤ん坊の頃からいつも一緒だった。
何故か小学生、中学生のときもずっとクラスが同じだったが
多分それは担任達が俺達をセットとして扱っていたからだろう。
それのせいでクラスどころか学年全体からからかわれたりもした。
そのたびに真由里は苦笑しつつもどこか申し訳なさそうにしていたのを今でも覚えている。
だが中学校に上がった途端周囲の目が露骨に変わった。
それまでは同じくらいだった俺と真由里の成績が格段に離れていったのだ。
優等生の真由里と劣等生の俺が一緒にいるのが気にくわなかったのだろう。
それでも一時はイジメに遭いそうになりながらも俺達は何とか今までの関係を保っていた。
その後も俺は必死に努力して彼女と同じ高校に合格した。
そんなときだった。
真由里の父親の栄転が決まったのだ。
だが彼女はここを離れるのを拒否した。だからといって異動を取り消すわけにもいかない。
そこで彼女は近くの親戚の家―つまり我が家―に預けられたのだ。
それらの理由で彼女はこの家にいるのだが・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・だああああァ!人の顔ジロジロ見つめんなぁ!
落ち着いて眠れんわ!!」
「えー。ユウの寝顔見るのが朝の楽しみなのにー。」
「ンなモン楽しみにしなくてよろしい。」
俺―高本裕也はなおも不服をいう真由里に背を向けて再びまぶたを閉じる。
「寝ちゃっていいのー?」
真由里のよく通る綺麗な声―俗に言うアニメ声―が耳に届く。
「やかましい。俺はついいつものクセで目覚ましをセットしたせいで寝不足なんだ。」
「全面的にアンタのせいじゃない・・・。それはそうと早く起きないと朝ご飯冷めちゃうよー。」
「先に言えよ!!」
反射的な動きで真由里の方に向き直りツッコミを入れてしまう。
そこにはやはり見慣れた笑顔があった。
「ん。おはよー。」
「・・・おはよう。」
観念して俺は身を起こす。
なんか負けた気分だ。
俺は敗北感をかみしめながら真由里とともに部屋を出た。