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「悠生ちゃんだって見たじゃない」
一言で表すならばグロテスクなソレを右手でそっと掴むと、悠生ちゃんがわずかに眉を寄せた。
ぬるりとした液に濡れた先端を、親指の腹で撫でてみる。
それに反応するかのように、ピクンッと右手の中で悠生ちゃんのモノが震えた。
「千鶴子…っ」
形成逆転。
掠れた声で私の名前を呼ぶ悠生ちゃんに、内心にんまりと笑いながら、私は震えるそれに唇を寄せた。
親指で先端に孤を描きながら、真っ赤に色づくその部分に舌を這わせる。
あんまりフェラの経験はないけれど、これぐらいなら。
つるつるとした先端に舌を絡ませ、右手で悠生ちゃんのモノを上下にこする。
「っ、はあ……千鶴子…っ」
悠生ちゃんの口から吐息が漏れる。
ちらりと悠生ちゃんの様子を伺うと、気持ち良さそうに目を細めて、私の方を見下ろしている。
「あー……やべ、気持ち良い…」
「ほんと?」
「ほんと」
額に掛かる髪を掻き上げ、悠生ちゃんはふぅっ…と息を吐き出した。
「千鶴子、もう良いから」
「まだ……駄目」
さっきの仕返しとばかりに悠生ちゃんのモノを口に含み大きく吸い上げる。
途端、「くっ」と苦しそうに悠生ちゃんの顔が歪む。
私の知らない悠生ちゃんの顔。
快感に眉を寄せる悠生ちゃんは、すごく色っぽい。
もっとその顔が見たくて、私は悠生ちゃんのモノを吸い上げながら、ぎこちなく舌を動かした。
「っ……ふ…ん……、そん、なに」
「?」
口の中で大きさを増す悠生ちゃんのモノに夢中になっていると、吐息混じりの悠生ちゃんが何事かを呟く。
それが気になって動きを止めた瞬間。
「俺の、美味い?」
ニヤリと悠生ちゃんが笑った気がした。
あからさまに訊かれた言葉と、悠生ちゃんが自分の事を『俺』と言った事。その両方に心臓がドクンと大きく波打った。
「ち、違うよ」
「でも、美味そうに食ってんじゃん」
慌てて顔を上げると、私の髪を撫でる悠生ちゃんが意地悪く笑った。
「千鶴子のえっち」
「悠生ちゃんには言われたくないっ!」
からかわれるのが悔しくて、思わず右手に力がこもる。
その瞬間、悠生ちゃんが眉を寄せたので、私は慌てて手を離した。
「い…っ!」
「あ、ごめん!」
上体を起こして悠生ちゃんのモノを優しくさすると、悠生ちゃんの両手が私の手に被せられた。
「そう思うなら、千鶴子の中に入れさせて」
「……ん」
オブラートに包む事のないストレートな要求に、躊躇いがちに頷いた私は、左手のゴムを悠生ちゃんのソレに被せた。
にゅるにゅるとしたゼリーに覆われたゴム。それを付けられても、悠生ちゃんのモノの熱さは、私の手に伝わってくる。
「千鶴子」
もう何回呼ばれたんだろう。
名前を呼ばれ顔を上げると、悠生ちゃんは私に深く口付けながら、私の腰を持ち上げた。
「っ…う、ふ、ぅん」
軽々と身体を持ち上げられ、悠生ちゃんをまたぐ格好に座らされる。
触れ合う素肌が気持ち良い。
ぴたっと抱きつくと私たち二人の体の間で、私の胸と悠生ちゃんのモノが挟まった。
「千鶴子……自分で入れてみ?」
「ん…」
私の腰を支える悠生ちゃんの声は、どんどん艶を増していてあらがえない。
固く立ち上がった悠生ちゃんのモノを右手で支え、悠生ちゃんの手でぐちゃぐちゃに解されたあそこに当てがう。
ゆっくりと体を沈めると、自然と互いの口から熱い吐息がこぼれた。
「はあ、あ……気持ちいー、千鶴子ン中」
「ん…っ……悠生、ちゃん……くるし」
下世話な言い方をすれば『ご立派』な悠生ちゃんのモノは、私の中を広げるかのようで。
ぶっちゃけ、過去に一人しか経験がない上、最後のエッチは半年以上前のこと。
そんな私に、悠生ちゃんのモノはかなりキツい。
「痛い?」
「ちょっと…」
「ん、分かった」
悠生ちゃんもそれを知っているからか、無理に動こうとはせずに、私をソファに押し倒した。
胸に手を伸ばしながら、何度も何度も優しいキスを繰り返す。
唇が触れるだけなのに、それは酷く甘くて、そのたびに私の中の悠生ちゃんを締め付けてしまう。
今更かも知れないけど――。
「――入れちゃってるんだ」
思わずこぼれた心の声。
唐突な言葉に悠生ちゃんは目を瞬かせると頬を緩め。
「ん……千鶴子ん中に、俺の、全部入ってる」
別に繰り返さなくて良いし!
改めて言われると破壊力がある。しかも悠生ちゃんに。
「千鶴子、顔真っ赤」
「だ、だって…!」
ぴくんっと私の中の悠生ちゃんが脈打つ。
そんな小さな反応すらもが分かって、気恥ずかしさに悠生ちゃんの顔がまともに見られない。
うわぁぁぁ、もう、どうしよう。
顔を背ける私を見下ろした悠生ちゃんは、両手で私の額の髪を上へと撫でつけ、そのまま頬へと手を滑らせる。
身体も顔も悠生ちゃんで縫い止められて身動き出来ずにいると、悠生ちゃんは少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
「可愛い、千鶴子」
「っ! ゆ…悠生ちゃん……さっきからそんな事ばっかり…」
しどろもどろに言葉を返す私と、意地悪な笑顔の悠生ちゃん。
またいつの間にか形成逆転。
もっとも、最初から悠生ちゃんに逆らえるはずなんて無いんだけど。
「だって、可愛いんだもん、千鶴子」
私の頬を両手で挟んだまま、悠生ちゃんは私の頬や瞼や鼻先に唇を落とす。
「だから……そういうこと言わないでってば…」
今の悠生ちゃんに言われたら、胸の辺りがきゅうっとなって、何だか心が締め付けられるみたい。
でも悠生ちゃんには、そんな私の気持ちなんて分からないみたいで。
「何で?」
「……恥ずかしいから」
真っ赤になって答えた私は、その胸の苦しさを伝えたくて、悠生ちゃんにしがみついた。
耳元で悠生ちゃんの笑いを含んだ吐息が聞こえる。
「可愛い、千鶴子」
うー……また言ってる。
「……俺、千鶴子の前なら男でも良いかも」
もー、分かったから――って……。
え……今、なんて……?
ぼそりと呟かれた言葉。
その声があんまり低かったもんだから、上手く聞き取る事が出来なくて。
悠生ちゃんの顔を覗き見ようとした瞬間、悠生ちゃんがぐっと身体の中のモノを動かした。
「やぅ……っ!」
全部入ったと思ってたソレを、突き動かすような悠生ちゃんの動きに付いて行けず、私は思わず悠生ちゃんにしがみつく。
痛みはいつの間にか和らいでいて、痺れるような快感が全身を駆けめぐった。
「や、あ、悠生っ、ちゃ…っ」
「千鶴子…まだ痛い?」
身体の最奥に悠生ちゃんのモノがぶつけられる。
熱く高ぶったその塊は、私の中を余すところなく擦っていて。
「んっ、ん……へーき、っ」
いきなりの事で驚いたけれど、私が小さく首を横に振ると、悠生ちゃんは私の頬の横に両手を突いて、上体を起こした。
「辛かったら言えよ」
「うん…っ、あ」
ずるりと引き抜かれたソレが、再び私の中に入り込む。
身体の中を擦られるたび私の中で熱い何かがじわじわとわき起こり、繋がった場所から蜜が溢れていく。
「んぁ…っ! や、ああ、あ!」
ぐちゅぐちゅといやらしい音に、さっきまでの思考回路は切り離されて、快感だけが身体に残る。
何かに掴まっていないと置いて行かれそうな錯覚に、私は悠生ちゃんの肩に両手を回した。
「は、千鶴子…っ」
頭上から悠生ちゃんの声が降る。
薄く目を開いて見上げると、悠生ちゃんは何とも言えない眼差しを私に向けていた。
「ちづ、こ…っ気持ちいい?」
「う、……っん、い、いい、よぉっ」
絶え間ない動きは深く、浅く。固くなった悠生ちゃんのモノが角度を変えて私の中を擦り上げる。
「ゆ、きちゃんっ、ゆうき、ちゃ…ああっ!」
揺さぶられる身体は悠生ちゃんの動きに併せてどんどん高みへ追いやられて行く。
口からこぼれるのは、甘い悲鳴と悠生ちゃんの名前。
私が名前を呼ぶたびに、悠生ちゃんは私の身体を軋ませる。
「う、ああっ! やぁ、あ、ゆう、き…」
「千鶴子…っ、すげ、きもちい」
徐々に激しさを増す悠生ちゃんは、私の頬に両肘を突いて、私の頭を掻き抱いた。
噛みつくような口付けに、私も舌を絡めて悠生ちゃんにしがみつく。
擦れる身体も、触れ合う肌も、絡めた舌も、熱くて熱くてとろけそう。
頭の中がぼーっとして、気持ち良すぎておかしくなる。
「ふ、ん…っ」
舌を離した悠生ちゃんは、一際強く私の中を突き上げると、ゆっくり身体を起こした。
緩やかになった律動に目を開けると、悠生ちゃんは一旦私の中から自分のモノを引き抜いた。
薄らと汗ばむ体を荒い呼吸で上下させる私に手を伸ばし、うつ伏せに向きを変えられる。
抵抗出来ない私は、悠生ちゃんにされるがまま。高くお尻を持ち上げられて、悠生ちゃんの前にいやらしい部分を晒す格好を取らされた。
「千鶴子、もっと欲しい?」
私のお尻を両手で掴み大きく広げた悠生ちゃんは、男の人の声で私に問いかける。
恥ずかしくて、でもまだ足りなくて。さっき感じた悠生ちゃんが気持ち良すぎたせいで、私は何度も小さく首を縦に振った。
「い、れて……悠生ちゃん、の」
「どこに?」
そんなの、訊かなくても分かってるくせに。
さっきまで悠生ちゃんのモノを受け入れていた私のあそこは、悠生ちゃんがお尻をこねまわすたびに、ヒクヒクと疼く。
「や……そん、な、言えない…っ」
「言ってくれないと……私、どっちでも良いんだもの」
いつもの口調なのに、声は男の人のそれ。経験のある悠生ちゃんらしい意地悪な台詞だ。
「ほら、言って? ……ここ?」
熱い吐息と共に、ねっとりとした感触が私のお尻の穴を伝う。
「や、違っ…!」
固くすぼめられた舌先でツンツンとそこを突付かれて、思わず身をすくませる。
悠生ちゃんと違って、私にそっちの経験はない。
「じゃあ、どこ?」
「……っ! …も、っと…したぁ…っ」
堪えきれなくて声を上げると、悠生ちゃんはつぅっと舌を滑らせて。
「ここ?」
「ぅあ、はぁっ…! そ、こぉ…っ!」
ぐちゅりとあそこの入り口をかき回され、私は思わず目の前の肘掛けにあった自分のコートを握り締めた。
「ここで良い?」
私のあそこを舐め回しながら、悠生ちゃんは中々入れてくれようとはしない。
もう駄目。足りない。もっと悠生ちゃんが欲しい。
「そこぉ…そこに、悠生ちゃんの、入れてぇ…」
意地悪で優しい悠生ちゃんは溢れた蜜を吸い上げると、ようやく満足してくれたのか、私のあそこから顔を上げた。
「素直でよろしい」
舌とは違う熱い塊があてがわれたかと思うと、一気に私の中に押し込まれる。
走り抜けた快感に声も出ない私は、ソファに顔を埋めて喉の奥で悲鳴を上げた。
「っ、あ…あ、やぅぅっ!」
さっきとは違う角度で当たる悠生ちゃんのモノは、一気に私を高ぶらせる。
後ろから攻める悠生ちゃんは背中に覆い被さると、ぴたりと密着して私の胸を鷲掴んだ。
「千鶴子……どっちが気持ち良い?」
どっちって、何が…。
問われた意味が分からず喘ぎ声を上げる私の耳元に、悠生ちゃんの吐息が掛かった。
「前と、後ろ。気持ち良い方でイカせてやる」
緩やかな律動に合わせ、私の口からは声が漏れる。
けれど、悠生ちゃんの問いかけには、答えられるほどの余裕がない。
「あっ、あ、ん、ああっ」
「ほら、答えて?」
「ひっ!」
きゅっと乳首を摘まれて、悲鳴にも似た声が上がる。
こんな状態で答えられるはずがない。
悠生ちゃんもそれは分かってるはずなのに、律動も手の動きも止まらない。
「ほら。千鶴子」
「あう、んんっ! あ、やぁ…っ!」
なおも答えを迫る悠生ちゃんは私の上体を起こすと、下から突き上げながら私の太股を開かせる。
繋がった部分に手を伸ばし、敏感な部分を指で転がす。
「やあぁっ! あ、あああっ!」
「千鶴子、答えて?」
胸と、あそこと、体の中と。
体中の気持ち良い場所を、悠生ちゃんは容赦なく責め立てる。
ただでさえ後ろから攻められるのは弱いのに、こんな風にされたら気持ち良すぎて死んじゃいそう。
「千鶴子」
耳元の悠生ちゃんの声は僅かに掠れて。掛かる吐息が酷く熱い。
「あ、ふぅ…っ! やあ、あっ、も、らめぇっ!」
「このままイく?」
ぱくりと耳をくわえられ、悠生ちゃんの声が頭の中に直接響く。
その言葉に、私はただもう頷くしか出来なくて。
「いく…っ、いかせてぇ…! ゆ、きちゃあ…っ! ああ、ああぁっ!!」
すがる物が欲しくて悠生ちゃんの腕を掴む。
悠生ちゃんは私の耳を味わいながら、突き上げる速度を早くした。
「あ! あっ、ああっ、やぅっ!」
全身を激しく揺さぶられ、力の抜けた体の奥に悠生ちゃんのモノがこつこつと当たる。
蜜の溢れたあそこからも、くわえられた耳からも、ぐちょぐちょと淫らな音が響いている。
「ゆ…きちゃん…っ、ゆうきちゃ…ぁっ! 」
甘い悲鳴で悠生ちゃんの名前を呼ぶ私に、悠生ちゃんの舌が差し出される。
ぬらぬらと光るそれに自分の舌を絡めると、目を細めた悠生ちゃんの瞳が視界に入った。
真っ黒な瞳は、真っ直ぐに私を捉えていて離さない。
「ぅ、むふぅっ、う、んんぅっ!」
舌を絡める動きは、いつしか深い口付けになって、どっちの口の中で動いているのか、もう分からない。
私を突き上げる悠生ちゃんの動きに、体の高ぶりが増していく。
「ふはっ、あ、やぁっ! ゆ、きちゃっ、悠生…ちゃ、やあ、も――っ!」
「良いよ、イって」
声と同時に最奥を突き上げられ、瞼の裏でチカチカと閃光が瞬いた。
ぐぷり、と体の奥から蜜がこぼれ、全身から力が抜ける。
ただ悠生ちゃんと繋がった部分だけが、痙攣するみたいにヒクついていて。ぐっと私の中に押し付けられた悠生ちゃんのモノが一際大きく膨らみ、何かを吐き出すように震える感触が伝わった。
「っ……ふあ…は、あぁぁ…」
汗ばむ体を悠生ちゃんに預け、私はぐったりと力を無くす。
悠生ちゃんも肩で荒い呼吸をしながら、後ろから私を抱き締めた。
しばらくの間、私も悠生ちゃんも黙ったまま、二人してソファに沈み込んでいたけれど。
「やべ…」
ボソリと呟いた悠生ちゃんが、ふと思い出したかのように、私の中から固さをなくしたソレを引き抜く。
私の体の前でその口を縛り、床に捨ててあった袋の上にゴムを捨てると、私の体を抱き直して、ごろりとソファに横になった。
二人で寝転がるには狭いソファだけど、悠生ちゃんは私の体が落ちないようにしっかりと支えてくれる。
その腕の力に、私も安心して悠生ちゃんに体を預けた。
「あーあ、やっちゃった……」
ぎゅうっと抱き締める腕に力を込めて、悠生ちゃんは私の髪に顔を埋める。
言葉とは裏腹に、何だかすっきりした口振りに、私も小さく笑いをこぼした。
「やっちゃったね」
「まさか、女の子とやる日が来るなんて、思ってなかったわよ。しかもチィ子と」
「私だって悠生ちゃんとするなんて、考えたこともなかったよ」
本当に、今の今まで一度も、そんな事を考えたことなんてなかった。
たぶん、他の女友達と同じように、悠生ちゃんのことも『女友達』だって思っていたから。
でなきゃ三年もルームシェアなんか出来っこない。
「チィ子……」
「ん?」
甘えるような悠生ちゃんの声音。
その声に顔を上げて悠生ちゃんを見ると、悠生ちゃんは目を閉じていて。
「……気持ち悪い」
「へ?」
……。
忘れてた!
悠生ちゃん、限界ぎりぎりまで、ビール飲んでたんだっけ!
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
慌ててソファに手を突いて体を起こすと、悠生ちゃんは眉をしかめて小さく唸った。
「お水ぅ」
「わ、分かったから! 頼むから吐いたりしないでよ!?」
部屋の中とは言え、裸でウロウロするのは抵抗がある。
私は手近にあったコートを羽織ると、悠生ちゃんのシャツを悠生ちゃんに放り投げ、キッチンに向かった。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、悠生ちゃんの元へ戻る。
蓋を開けたペットボトルを悠生ちゃんに手渡すと、悠生ちゃんは喉を鳴らして一息に半分ぐらい飲み干した。
「大丈夫?」
「んー……気持ち悪い。寝るわ」
「うん……お風呂は?」
「明日入る」
ふらふらと体を起こした悠生ちゃんは、覚束ない足取りで自分の部屋に向かう。
そんな悠生ちゃんを見送って、私は小さく溜息を吐いた。
翌朝。
私が部屋を出ると、先に起きていた悠生ちゃんがリビングで朝食を取っていた。
「オハヨ」
「おはよー。早いね、悠生ちゃん」
先に起きた方が朝食を作る、とルームシェア当初の決まり通り、テーブルの上には二人分の朝食が並んでいる。
「今日は一限からだもの。食べたら出るから、後片付けお願いね」
「うん」
昨日の夜と同じように、悠生ちゃんの向かいに腰を下ろして、私も両手を合わせる。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
いつもと変わらない悠生ちゃんの笑顔。
昨日の事が嘘みたい。まるで夢か幻か。悠生ちゃんは何もなかったかのように、私の前で朝食を食べている。
まあ、いきなり意識されても困るっちゃ困るし……私も、その方が気楽に出来る。
「やだ、忘れてた! 今日は朝一で教授に呼び出されてたんだったわ」
テレビから流れる朝のニュースを見ていると、悠生ちゃんが慌てたみたいにコーヒーカップを置いた。
「ごめんチィ子、私、もう行くわね」
「うん、大丈夫なの?」
「平気よ。行ってきます」
「行ってらっしゃい……」
ばたばたと忙しない足音で、悠生ちゃんが家を出る。
悠生ちゃんらしからぬ慌てっぷりに、私は呆然とその後ろ姿を見送った。
珍しい事もあるもんだ。あの隙を見せない悠生ちゃんが。
昨日はバイトもあったし、色々と忙しかったのかな。
のんきにそんな事を考えながら、私は再び朝食を取る。
だから、私は知らない。
「やべー……顔、まともに見れねぇじゃん」
玄関の向こうで、悠生ちゃんが顔を真っ赤にして顔を覆っていたことも。
悠生ちゃんが、私を意識し始めていた事も。
私は、まだ何も知らなかった。
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