大好きなダイ兄ちゃんのお嫁さんにはなれないらしい、と私が理解したのは  
同じく大好きなパパと結婚できないと知った頃よりも少し後のこと。  
血の繋がりなんて複雑なことはまだわかっていなくて、知っていたのは  
結婚とは好きな人と1対1でするものだということ、  
ただの好きではなく、特別な好きが必要だという二点だけ。  
パパのお嫁さんはママだから、私はパパと結婚できない。  
ダイ兄ちゃんは私のことを相当好きだけど、結婚するような特別とは違う。  
好きな男の子を決めてきゃぁきゃぁ騒ぐ遊びに頑なに参加しようとしなかった私は  
同じ年頃の女の子たちに比べてその手のことに少しおくてだと思われていた節があるけど  
少し年の離れたダイ兄ちゃんの特別をもらえる対象が自分ではありえないことを知って  
独りこっそり泣く程度にはませていた。  
私がダイ兄ちゃんの秘密を知っているのはそういうわけだから私と同い年の、  
つまりダイ兄ちゃんとは少し年の離れたチュウ君にこんな風に問い詰められても困るのだ。  
「俺が気に入らないのは!兄貴が“ああ”だってことを俺達には秘密にしてたのに  
 ショウコには教えてたってことだよ!」  
「別に教えてもらったわけじゃないよ。順番が逆なの。  
 私はずっと前からそのことを知ってたから、ダイ兄のコイバナの相手に選ばれてただけ」  
「ずっと前に!!兄貴が教えたってことじゃねーか!!!」  
紅茶の入ったマグカップを持つチュウ君のごつい指がプルプルと震えている。  
チュウ君は外見だけはダイ兄と良く似ているけど  
ごちゃごちゃ考えるよりも先に行動に移す直情型で、悪く言えばちょっとだけ馬鹿だ。  
「教えてもらわなくてもわかるんだよ。だって、ずっとダイ兄のこと見てたから」  
「なんだよそれ!?俺だって見てたよ!兄貴のこともショウコのこともずっと!!」  
ほのめかしただけでは頭に血が上ったチュウ君には通じない。  
 
だからチュウ君は、兄の恋の秘密を知ってしまったのと同じ日に  
幼馴染のそれも聞かなくちゃいけない。まぁ、後者についてはすでに気づいてるかもしれないけど。  
「違うんだよ。チュウ君みたいに、弟が兄ちゃんを見るような意味じゃないの」  
ティーカップのふちをなぞって熱を楽しむ。チュウ君のよりずっと細い、目障りな指。  
「自分がそうやって見てたからわかったの。ダイ兄が、私がダイ兄を見るのと同じ目で  
 男の人を見てること。ダイ兄が今の人と付き合い始めるより前、子どものころからずっと」  
すぅ、とチュウ君が青ざめ、また赤くなって泣きそうな顔になる。  
そんな顔をするから、君はいつまでたっても私の弟分なのだよ。  
年齢だけならチュウ君のほうが半年ほどお兄さんなんだけど。  
「なんだよ、それ。じゃぁ、ショウコは兄貴のこと…」  
途中で口ごもるくらいなら最初から言わなきゃいいのに。  
「すきだよ。ずっと好きだった。いまでも、大好き」  
少し遠くの大学に進学して家を出たチュウ君が冬休みのバイク旅行の寄り道に  
アポなしで押しかけた実家でどうしようもなく決定的なシーンを目撃したのが数時間前。  
まさかダイ兄が男の人とそういう関係を持ってるなんて知らなかったチュウ君は混乱したまま  
私の部屋に押しかけ、自分の見たものを語り、私の落ち着きっぷりにキレて騒いで今に至る。  
「ダイ兄もさ、別に隠してたわけじゃないと思うんだ。チュウ君だって家族に  
 みかんちゃんの話はしないだろうし、私にもわざわざ恋人の性別なんか言わなかったでしょ」  
 
今までに聞かされたお惚気によるとチュウ君の恋人は  
実家暮らしの小柄な文学少女で、飼っている猫の名前はみかん。  
名前も聞いたけど知らない人だし、私は猫の名を取ってみかんちゃんと呼んでいる。  
ダイ兄のお相手は取引先の大企業の出世頭だというダイ兄曰く若手エリートで  
独身寮(といっても会社借り上げの高級マンション)に独り暮らし。  
何らかの抵抗が働くのか、私は何度教えられてもありふれた姓と中性的な名で構成される  
その人の名前を覚えることができない。  
北国出身のその人は絆創膏のことをサビオと言うので便宜的にさびおさんと呼んでいる。  
ダイ兄とチュウ君は兄弟だけにコイバナの傾向まで似ているのだ。  
決定的な違いはチュウ君の話に出てくるみかんちゃんは恋人のことをすごく大事にする子だけど  
さびおさんはそうじゃない、ってことだろうか。  
ダイ兄が小さいときからずっと恋に苦しんできたことを私は知っている。  
大きくなって恋愛に肉体の欲が絡むようになったら、さらにダイ兄の苦しみは深くなった。  
だから、ようやく恋心を受け入れてくれる相手を見つけたのに  
ダイ兄があいかわらず苦しい思いをしているのがとても辛い。  
「家族といえばさ、親父達にはなんて言えばいいと思う?」  
ダイ兄たちの両親はおじさんの仕事で外国に長期赴任中なのだ。  
「己の欲せざるところ他に施すことなかれ、でいいと思う。  
 ダイ兄にみかんちゃんのこと知られたら、チュウ君はどうしてほしい?」  
チュウ君は耳まで真っ赤になって視線を泳がせる。  
 
「え?えぇ?!俺達はまだそういうのないし!  
 違、えっと、そういうってのは、親に紹介するような!」  
付き合いだしてけっこう長いしチュウ君は独り暮らしなのに、そういうのない、らしい。  
きっとチュウ君もみかんちゃんのことをすごく大事にしてるんだろう。  
「わ、わかった。親父達には、っていうか誰にも、このことは黙っとく。  
 悪いんだけど、どうしようもなくなったらまた相談させて。  
 あと、本当に彼女とはまだ、その…」  
微笑ましいけど、嘲笑と受け取られるといけないのでことさらに眉を寄せてみせる。  
「まだ、か。さっき言ったようなわけだから、その言葉すごくうらやましいよ」  
ダメだよ、チュウ君。黙りこんでも、顔に“しまった”って書いてある。  
チュウ君の素直な反応に、騙してしまった罪悪感が募る。  
「はぁ〜……。俺、もう旅行切り上げて帰るわ。聞いてくれてサンキュな。紅茶ご馳走様」  
400ccの大きなバイクに跨ったチュウ君を見送って部屋に戻ると携帯に着信が一件。  
ダイ兄からだ。  
私はシャワーを浴びる準備をしながらため息をつく。馬鹿なチュウ君。  
嘘は何も言ってない。でもものすごく大きなパーツをチュウ君には見せていない。  
昔からダイ兄のコイバナの相手をしていたのは本当だけど、それくらいで  
突然男同士のベッドシーンの話を聞かされて、落ち着いてなんかいられるわけがないのに。  
 
 
玄関のドアに鍵をかけ、声のする方向を探ってそちらに向かう。  
応接間に入ると、おばさん御自慢の手入れの行き届いた革張りのソファのうえで  
さびおさんがダイ兄を組み敷いていた。  
 
肌蹴て乱れてはいるけれど、ふたりとも仕立てのいいスーツを身に着けたままだ。  
何かのマンガに“ホモの嫌いな女はいない”と言い張るキャラクターがいるらしいけど  
そういう子は私をうらやましく思うだろうか?  
好きな人がそうだからホモセクシュアルに嫌悪感はないけれど、さびおさんのことは好きじゃない。  
ダイ兄が切なげな声を上げながら熱くとろけた表情をこちらに向ける。  
「やぁ。弟君からもう聞いた?  
 ショウちゃんのために鍵を開けておいたんだけど、失敗しちゃったよ」  
対照的に涼しげな顔でさびおさんが言う。嘘つき。  
ここはチュウ君の家でもあるのだから、鍵なんか関係ない。  
剥き出しの400ccのエンジン音は通りの向こうからでも聞こえるほどにぎやかで特徴的だし  
ふたりともまだスーツを着ているのだから、チュウ君のバイクの音が  
家の前に止まった時点で大急ぎで離れればいくらでもごまかしは効いたはずだ。  
自分の露出趣味を満たし、ダイ兄を困らせて楽しむために  
わざと見えやすい位置、見間違いようのないやり方でチュウ君に見せ付けたのだろう。  
ダイ兄とこうなってすぐに、私を巻き込むためにそうしたように。  
「ダイ兄ちゃんはさ、弟に見られて興奮しちゃって声が止まらないらしいんだよね。  
 ショウちゃん、唇でふさいであげてよ」  
ソファの端っこ、獣の姿勢でさびおさんを受け入れたダイ兄のすぐそばに座って  
言われたとおりにする。  
さびおさんの言葉は提案か懇願のかたちだけど、実際はいつも命令だ。  
さびおさんが小さく動く度にダイ兄の唇が甘く蠢き、鼻からくぐもった声がこぼれる。  
唇を割って入ってくる舌が、熱く湿ってダイ兄の欲情を伝えてくる。  
欲情の相手は、舌を絡めている私ではないけれど。  
 
ダイ兄の意外なほどごつい指が私の服を剥ぎ取っていく。  
「そんなにガッついちゃ駄目だよ。ごめんね、ショウちゃん  
 ダイのやつ君の裸が見たくてがまんできないみたいだ」  
もちろんこれも嘘。  
こうしないといけないように、あらかじめダイ兄を追い詰めていたに決まっている。  
鍛えても鍛えても筋肉はつかず、肉が削げ落ちていくだけの薄っぺらな私の体。  
この体ではダイ兄は慰められない。  
ダイ兄の呼吸がさらに荒くなる。おなかの中で、さびおさんのものに変化があったのだろう。  
可哀相なダイ兄。  
ダイ兄は男であることを止められなくてそれでも男の人に恋してしまう同性愛者だけど  
さびおさんは単なる性倒錯者、両刀使いのソドミーだ。  
「相変わらず、やらしー体。ダイ兄ちゃんにたっぷり可愛がってもらうといいよ」  
そこだけは何故か肉の落ちない忌まわしい乳房をダイ兄の熱い手がこねまわす。  
この丸い乳房の代わりに厚い胸板を、すがりつく細い腕の代わりに逞しい男の腕を持っていたなら  
私でもダイ兄を幸せにできたのだろうか?やっぱり、さびおさんでなきゃダメだった?  
ダイ兄の熱い手指に、ダイ兄の匂いに、ダイ兄の吐息に、ダイ兄の声に、体が熱くなって  
触られている部分の先端が赤くとがっていく。  
ダイ兄が手を止めて苦しげにうめく。さびおさんがここぞとばかりに腰を押し付け攻め立てる。  
「ねぇダイ兄、もう、して?」  
見かねて声をかけるとダイ兄ではなく、さびおさんが答えた。  
「ははは、ショウちゃんやらしー。大好きなおにいちゃんにおっぱいもまれただけで  
 その気になっちゃった?まだおまんこ濡れてないのにそんなおねだりしちゃうんだ」  
さびおさんが笑うとおなかに響くのだろう、ダイ兄が細く長く悲鳴をあげる。  
 
「やさしいダイ兄ちゃんはさぁ、けなげでやらしいショウちゃんに  
 痛い思いなんかさせないよねえ?」  
さびおさんがダイ兄の手に何かの容器を押し付けた。  
ダイ兄の体が、目に見えてこわばる。  
「これは、だめ」  
かすれた声でささやいたダイ兄が背中をそらせていやいやをするみたいに首を振る。  
私からは見えないけど、逆らったお仕置きにおなかの中で何かをされているのだ。  
「にいちゃん!いいから!私だいじょうぶだから!」  
「だってさ、ダイ兄ちゃん。ますます痛くなんかできないね?」  
そういってさびおさんは容器の中身を先走りにぬれたダイ兄の性器に塗りつける。  
目を剥き歯を食いしばるダイ兄を見ればそれが何かは想像にたやすい。  
「駄目だと思うならさぁ、効いてくる前に他の液体をたくさん  
 ショウちゃんの中に出して洗い流しちゃえばいいんだよ」  
ダイ兄が私の両手を掴む。  
目はうつろで体には力なんか入らないように見えるのに、それだけで、もう動けない。  
「ショウちゃん、ごめん」  
お尻にさびおさんを飲み込んだまま、ダイ兄が私の中に入ってくる。  
さびおさんへの愛で張り詰めたダイ兄の性器が、塗りつけられた薬のせいか目が眩むほど熱い。  
「う、ぁ…!ダイに、…ゃ、ぁっ、ぃ…おに、ちゃ」  
「ああああぁあ!――!――!――!」  
「ははははは!ふたりとも入れただけでイっちゃったんだ?  
 ほんとに中に出してるよ!すっごい脈打ってる!」  
 
笑い転げるさびおさん、壊れたみたいに叫びながらさびおさんを呼び続けるダイ兄。  
さびおさんがまともに声も出せない私をダイ兄から引き剥がし、キスをする。  
首を振って逃げようとすると顎をつかんで固定された。  
技巧的なさびおさんのキスは悲しいけどダイ兄とのつたないキスよりずっと気持ちいい。  
私とキスをするとき、ダイ兄もこんな悲しい気持ちになるのかな。  
私のキスはこんなに上手じゃないけれど。  
「ショウちゃん、感じまくってるでしょ。  
 さっきからダイがすごく嬉しそうに俺のに吸い付いてるんだ」  
違う。呼んで欲しいのはこの声じゃないの。  
欲しい声の持ち主は固く目を閉じ眉根を寄せて堪えている。  
もう、どちらがどれだけイったのかわからない。  
さびおさんの入れ知恵で薬を服用しているから妊娠の心配だけはない。  
生理痛が酷いとお母さんを騙して連れて行ってもらった病院で  
『生理不順がなおって生理痛が楽になるお薬があるって聞いたんですけど』  
教えられたとおりに言って処方してもらった低用量ピル。  
なんでこんなことになっちゃったんだろう。  
「――さん、――。――、さ…」  
ダイ兄が私の中で腰を振りながらうわごとのように何度もさびおさんを呼ぶ。  
大好きなダイ兄の声。  
甘くかすれて耳に焼きつくのにやっぱり何と呼んでいるのか認識できない。  
違うよ、ダイ兄。  
さびおさんはダイ兄に突きたてていたものを引き抜いて離れていってしまった。  
だからダイ兄が今感じているのは私だよ。  
ぜんぶ、わたしだけ、なのに……  
 
快感と悲しみでぼろぼろとこぼれて頬に流れる涙をさびおさんが舐め取る。  
ダイ兄と私が出したものでぬるぬるのお尻にさっきまでダイ兄をいじめていたものがあてがわれる。  
薬の力を借りてどろどろに汚しあう私達と違い、さびおさんは必ず避妊具を使う。  
私達の体ではなくて、さびおさんの人生を守るために。  
さっきの薬が塗られているのだろう、冷たく濡れた感触がおなかを押し拡げる。  
「く、ふ。ちゃんと、中まで洗ってあるんだ。ショウちゃん、こうされるの期待してた?」  
さびおさんが勝手なことを言いながら私の中をかき回す。  
ダイ兄のだけでもおなかの形が変わってしまいそうにいっぱいなのに  
壁越しに固いものがこすれてすごく苦しい。  
さびおさんは一番深くまで押し込んだままで  
私の内臓の蠢きとダイ兄の性器の感触を楽しんでいる。  
ダイ兄が私越しにさびおさんを感じて暴れまわり、何度も何度も喜びを吐き出す。  
もうわけがわからなくなっているのだろう。私の肩を掴み、跡が残るほど握り締め、しがみつく。  
いたい、くるしい、うれしい。  
ダイ兄の心の中に私が入る隙間はないけれど。  
 
遠くから特徴のあるエンジン音が近づいてくる。  
さびおさんはいつの間にか、私達から離れてどこかに隠れてしまった。  
体がだるい上にダイ兄に押さえつけられてちっとも動けない。  
玄関から鍵の開く音がした。 fin.  
 

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