フローリングの上でゴン、という派手な音をたてて、
ビリーの後頭部は床に打ち付けられた。
「いったあ・・・!ちょっとキャシー、何すんのよ!」
言葉遣いは女そのもの、けれども声質はとても女とは言えない、
文句の言葉がその男の口から飛び出した。
優に190はあろう長身、筋肉質の引き締められた身体。
形の良い輪郭が見て取れる、よく手入れされた丸刈りの頭。
今は化粧がされていない、整った顔立ち。
ビリー(本名ウィリアム)の今の姿は、可愛らしいパジャマと
派手な色の長い爪さえ視界に入れなければ、誰もが認める「いい男」だった。
ビリーが見上げる先には、全てが対照的とも言える少女が自分を睨んでいる。
小柄で、セミロングの茶色い髪。
少しクセのあるその毛先は、中途半端にかかったパーマのように内側にカールしている。
透き通るように白いその肌は、今は酒でみっともないくらいに真っ赤になっていた。
「・・・・・・」
キャシーことキャサリンが膝で一歩踏み出すと同時に、
酒類の空き缶がカラカラと机から落下する。
ビリーの頭の痛みがひいた頃には、キャシーはすでに腹の上に馬乗りになっていた。
「・・・ちょっと。飲みすぎじゃない?」
キャシーはその言葉にも答えることはせず、やはりビリーを睨み続けていた。
(…もう)
酒のせいで、視界が霞む。
(なんで)
それに加え、涙が浮かぶものだから余計に何も見えなくなる。
(なんで、こんな人好きになっちゃったんだろう)
輪郭線もしっかり捉えられない目の前のその人。
(よりによって、オカマの人なんか!!)