「その格好、面接? 男装って珍し‥‥ネクタイがアクロバティックだよ」  
「中学高校と詰め襟だったし、ネクタイは苦手なのよ。窮屈で嫌になるったら」  
「‥‥ネクタイ貸して。結んであげる」  
「できるの?」  
「あたしの高校、男女共通でブレザーにネクタイだったから。キミもきちんと出来るようになったら彼氏のネクタイ結ぶってこともできるんじゃない?」  
「教えて」  
「OK」  
 意気揚々とネクタイを受け取って向かい合ってネクタイを結ぼうとするけれど、自分の首に結ぶのと、他人の首に結ぶのとじゃ違う。直ぐに壁に突き当たることになる。  
「‥‥ちょっと座って」  
「座ったけど‥‥なんで背後に回るのよ」  
「大口叩いたけど、視点が同じじゃないと無理みたい。脇の下から腕失礼ー」  
 そうして後ろからネクタイを結びにかかると、自然と後ろから抱きつく姿勢になる。  
 女から漂う香りを心地良く感じるオカマ。  
 意外と体格しっかりしてるんだな、と思いつつネクタイを結びにかかる女。  
「ここに通して、巻いて、こうして、こうやって」  
「‥‥ねえ」  
「はい、完了――」  
 ここで思い出してみよう。視点がだいたい同じになるように、後ろから抱きつくような姿勢で、ネクタイを結んでいた訳だ。当然、顔の位置は近くなるので、その状態で顔を向けあうと――  
「‥‥ばかああああ!」  
「事故だから! 事故だから! ノーカウントだから落ち着いて!」  
 キスしてもおかしくないのだ。  
 
 その場は事故だから気にしないことで一致した。  
 けれど、女はオカマとキスしてからずっとドキドキしてることに、戸惑ってる。  
 オカマは女の唇の柔らかさが、ずっと頭にちらついてる。  
 
「友達なのに、な」  
 本当に?  
 

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