男が好きだと馬鹿みたいに大声で公言しまくる程、男が好きなわけではない。けれど異性が好きか、つき合えるか、と訊ねられたところで素直にYESと言えない。
結局はモデル並みにスタイルがよかろうが美人だろうが、惹かれるのは同性の方が圧倒的に多い。
ふわふわと甘く柔らかい女よりも角張った骨格や節々、固い手のひらの方が魅力的に感じるのだ。
「まあ、いいんじゃないの?」
あっけらかんと返してきたのは腐れ縁と呼んでもいいくらい付き合いのある幼馴染だ。
見た目は可憐だが中身はそこら辺の男なんて目じゃないくらいにサバサバとしてて男らしい、いや訂正しよう。凛々しい女だ。
女に惹かれないと爆弾発言をかましたにも関わらず今朝の朝ご飯は昨日の夕飯の残りだったなぁぐらいのあっさり感だ。
清々しく流すその様は思わず感嘆が零れる。
「軽蔑しねぇの?」
ちょっと呆れながら聞けば幼馴染殿は可愛らしく首を傾げ、長い睫をぱちぱちとさせる。一緒に肩を滑った髪の毛はさらさらりと揺れる。
「異性愛者がいるんだ、同性愛者がいたって構わないだろ。それに同性愛者だろうがなかろうがお前はお前だろ?今更何を軽蔑しろというんだ?」
きっと幼馴染殿は深く考えずに言ったんだと長年の付き合いから容易く推測が着いた。
しかし不覚にも泣きそうになったのは「特異」な目で見ることなくありのままにとらえてくれたことが嬉しかったに他ならない。
同性愛者は特殊だという偏見はなかなかに恐ろしいのだ。だから、その何気ない言葉はひどく嬉しい。
何もわかっていないような表情で俺を見る幼馴染殿に非常に愛らしく、憎たらしくも感じた。嗚呼、異性には興味が持てないのだ。
だから、幼馴染殿を、多分恋人として愛せない。友人としてしか好意は抱けない気がする。
そしてそんな自分が恨めしくなる。故に溜め息しか出ない。
「何でお前は男じゃないんだろうな」
言った所で無駄な事を今更ながらに苦々しく呟いた俺はなんて愚かなのだろうか。