「というわけで、こいつを存分に孕ませてくれ」
そう言ってにかっと笑った洋平を、出会ってから初めて、遠慮せずに殴ろうと思った。
俺の知らない女の肩を抱いていることだってもちろん気に食わない。親しげに耳元に囁
いているのも当然腹が立つ。だけどそんなことはどうでも良くなってしまうくらい、洋平の
言っていることは滅茶苦茶だ。
「突拍子無いにもほどがある……」
「なんだよー、昨日広章が言ったんじゃん、子供が欲しいって」
「言った。確かに言った。が、いくつか必要なプロセスと説明が省かれている」
「丁度周りに子供産みたいって言ってる女がいたんだよー。ラッキーすぎだよな俺達っ
て!善は急げ、ギヴアンドデイク、機会は逃したらもったいぜ!」
俺はすっかり絶句した。相変わらず大事な部分が省かれているが、なんとか頭を回転
させる。そうだ、子供が産みたいからってこんなところまでのこのこついてくるのはどんな
奴だ、と、初めて女をまじまじ見た。が、彼女も顔面を蒼白にして俺と洋平を交互に伺っ
ている。部屋自体はうるさいが、それは洋平一人がしゃべくっているからだ。俺も彼女も
開いた口が塞がっていない。
どうにか自分を落ち着かせたのか、彼女は暴走している洋平に呼びかける。
「よ、洋平、いったい、何が、どうなって」
「ん?何がって、美和は俺達の子供産んでくれるんだろ?」
「洋平の子供を産むとは言ったわ。でも、この人の子供を産むとは……っていうかこの人誰」
「俺の恋人だって言ってなかったっけ」
「いやいや知らない知らない、全っ然知らない」
ますます混乱してきたわ、と彼女はうめいて、ソファにを支えに床にへなへなへたりこ
む。気に入っていたレザーソファに勝手に触られ、俺の背中に違和感が走る。まさかこ
れを女に触れられる日が来るとは、と現実逃避気味に遠い目で、ああそうだ、なぜこん
な所に女がと改めて認識するに至った。
「洋平、色んな矛盾とおかしな展開をとりあえず無視するとして、とにかくそこの女と子を
作るとするだろう?」
「うん、がんばれ!」
「ちがう、これは質問だ!応援を求めたわけじゃない!」
「小難しく考えんなよーお前の嫌な癖だぞー」
「どこも難しくないわ!シンプルかつ明瞭な事実を単細胞的に思い出せ!」
ああ、何が悲しくて、こんなことを叫ばねばならないのだ。
「俺はバイじゃない、純然たるゲイだ!!」