「なあ、いいだろう、綾香」  
「ちょ、ちょっと待った!」  
「キスだけだから」  
「イヤ!ちょっと、離れて!」  
迫る春樹の顔を押しのけるようにして、綾香は仰け反っていた。本日、二人は確か  
中間テストの勉強をする約束だったはず──と、綾香は唐突にキスをせがんでき  
た春樹を戒める。  
 
「こんなことしてる場合じゃないでしょ。明日からテストがあるのよ」  
「キスしたら勉強するからさ。な、頼むよ」  
蛸のように唇を突き出し、口付けをせがむ春樹。これを大の大人がやっていれば滑  
稽きわまりないが、なにせ春樹は中学一年生。そういうことに、とても興味を覚えて  
しまうお年頃なのだ。それに対し、同い年の綾香は若干冷めている。  
「まだ早いよ、こんなこと」  
「キスくらいはいいじゃないか」  
「ダメ!一回キスしちゃうと歯止めがきかなくなりそう。特に、春樹は怪しい」  
ここは春樹の自室である。その上、彼の両親は共働きで、今は家を空けていた。そ  
うなれば、綾香の身を守るものは彼女自身の腕力と、春樹の理性にかかってくる。  
綾香は決してひ弱な女の子ではないが、もし春樹が己の欲望に負けて、彼女を押し  
倒してしまうような事があれば、無事でいられるかは分からない。  
 
「俺たち、付き合ってるんじゃないのか?」  
「それはそうだけど・・・」  
「それにしては、つれないな。綾香、お前本当に俺の事好きなのか?」  
「うん、それは間違いない」  
「だったら」  
キスぐらいいいじゃないか──そう言いかけて、春樹は言葉を飲んだ。あまりしつ  
こくやると、綾香はへそをまげてしまうかもしれないからだ。  
 
「勉強しよ、ね」  
「あ、ああ。分かったよ」  
綾香が諭すようにして、何とか春樹を丸め込んだ。惜しくも少年は、ファーストキスの  
チャンスを逸した事になる。もっとも彼は、心の中ではこう思っていた。  
(実を言うと、本当にしたいのはセックスなんだけどな)  
 
中学一年生になってすぐ、悪い先輩から成人雑誌を貰い、この世に男女の営みという  
ものを知ってからは、その事ばかりが頭に浮かぶ春樹。寝ても覚めても、思うのは女の  
裸とセックスばかりで、その中でも女性が男性器を唇で愛撫する、フェラチオという行為  
に心を奪われていた。  
(男のチンポをしゃぶっている時の、女の人の顔は最高にエロい!)  
成人雑誌に載っていたフェラチオシーンが、頭に焼き付いて離れないので、春樹は何と  
かして、綾香とねんごろになりたかった。キスをせがんだのは、その序章に過ぎない。  
いずれセックスに持ち込み、あわよくばフェラチオ──などと、身勝手な将来設計を構築  
しつつ、今まで機会を窺っていたのだが、相手にその気が無いのではどうしようもない。  
 
「春樹、手が止まってる」  
「お、おう。いかんな、集中、集中」  
勉強をするふりをしながら、春樹の目は近頃ふくらみ始めた綾香の胸へ釘付けになって  
いた。二人とも幼少の頃からの付き合いだが、最近は互いを異性として意識し始めている。  
綾香とて春樹が嫌いな訳では無く、むしろ好きなのだが、それだけに春樹にはしっかりして  
もらいたいという気持ちになる。好きな男であれば、格好良くいてもらいたいものだ。もちろ  
ん、勉学にも長けているにこしたことはない。内心、  
(キスくらいはゆるしちゃおうかな)  
そう思うのだが、もう少しもったいつけてやりたいという考えもある。今のところ、二人の思い  
は平行線をたどっていた。  
 
「小腹が空かないか?」  
勉強を開始してから一時間ほど経った時、春樹がテキストとにらめっこをしながら  
言った。時計を見ると、もう夕方に近い。腹が減り始めても不思議のない時間だ。  
「何か買って来ようか?」  
「いや、勉強する時間が惜しいだろう。台所に何かあるだろうから、見てくる」  
「ついでに飲み物もお願いね」  
「分かった」  
すっくと立って、階下の台所へと向かう春樹の背中を見て、扱いやすいなと思う綾香。  
たとえ結婚したとしても、夫婦の実権を自分が握る事はたやすいだろうとも思った。  
 
「おまたせ」  
台所へ行ってものの三分もしないうちに、春樹は戻って来た。手にはおぼんがあり、  
その上にはホットドッグが置いてある・・・のだが、どこかがおかしい。  
「食べたら」  
そう言う春樹が持つおぼんは、股間の前にあってぴくりとも動かない。ホットドッグの  
パン自体は何の違和感も無いように見えるのだが、問題は挟んであるモノにある。  
「何の冗談よ」  
ぴりり、と綾香の眉が吊り上がった。パンが挟んでいるモノ──それは、どうやって  
見てもウインナーやフランクフルトの類ではなく、勃起させた男根だった。要するに、  
春樹は己の男根をパンで挟み、綾香に味見して欲しい・・・と、考えているらしい。  
 
「ど、どこか変かな」  
声が震える春樹。この馬鹿げた事を考えついたときは妙案だと思ったが、さすがに  
綾香の形相が変わった事で、それが間違いだったと気がついた。しかし、彼とてすで  
に後戻りが出来ない所に来ている。これを冗談と言うには、あまりにもお下劣過ぎた。  
「それを食えってか」  
綾香が膝立ちになり、怪しいホットドッグの前に居直った。  
 
「食べると言うよりは、舐めるという感じで・・・」  
春樹の額に玉の汗が浮く。本当は、ホットドッグと勘違いした綾香が、これを口にした  
所でフェラチオを乞うつもりだったのだが、計算が狂ってきている。綾香は冷ややかな  
目で、自称ホットドッグ君を見つめているのだ。百パーセント、姦計が見破られていると  
考えていい。  
 
「食べてもいいけど、あたし、カラシをたっぷり塗るよ」  
「ひええ・・・それは勘弁」  
「パンに挟んであるウインナー、噛み千切るからね。本当に食べちゃっていいの?」  
「うう・・・そ、それも、許してちゃぶだい・・・」  
玉袋が縮み上がる春樹。いよいよ、洒落で済まされなくなってきた。  
「こんなおバカさん、初めて見るわ」  
綾香がホットドッグの中身を、指でぴんと弾いた。たまらず、『本身』の春樹は腰を引く。  
「あうう・・・」  
「バカみたい」  
それでも春樹の男根は、萎えずにパンに挟まっていた。バカバカしさに輪をかけている  
のは、男根と共にレタスやトマトがデコレートされている事。少なくとも春樹は、綾香を  
本気で騙そうと思っていたのだ。そうでなければ、ここまで腐心するはずもなく、また  
実行もしないだろう。それを思うと、綾香は情けなさで頭が痛くなった。  
 
(そうまでして、エッチなことがしたいのかしら)  
綾香にもそういう知識が無い訳ではない。保健体育で男女の営みは学んだし、内緒で  
はあるが自慰まがいの事もたまにしている。もちろん、女性が男根を口にする行為も、  
知っていた。それと、おそらく春樹がそれを望んだのだろうとも分かる。ただ、やり方に  
大いに問題があるのだ。  
「これ、オチンチンでしょ」  
指先で男根をくりくりといじくる綾香。もう、隠す必要はないので、春樹は素直に頷いた。  
 
「男の人は、気持ちいいらしいね。舐めてもらうと」  
今度は手のひら全体で、男根を握り込む綾香。その熱さに正直驚いたが、取り乱す  
ような感じでは無かった。  
「舐めてあげようか」  
その言葉に、春樹の男根は激しく反応した。いよいよ勃起が本格的になり、今までホ  
ットドッグの中味としてパンに挟まれていたそれが、天を突かんばかりに反り返る。  
 
「あ、綾香・・・いいの?」  
「何だか、しょうがないかって感じ。春樹もここまでやったら、後には引けないでしょう」  
カタンと音を立て、おぼんが床に落ちた。ついでに、パンもレタスもトマトも──  
「そのかわり、すっきりしたら勉強に打ち込むのよ」  
「うん」  
そんな取り決めが交わされた後、綾香は駄目を押す。  
「じゃあ、あたしも脱ぐから春樹も脱いで。だけど、勘違いしちゃダメよ。絶対に、あたし  
の体に触っちゃダメ!もし、少しでも胸とか触ったら、あたし、すっぽんぽんでも外へ  
逃げていくからね」  
「了解。すべて、オッケー」  
「服を脱いだら、ベッドへ寝て」  
「それも了解」  
かくして、二人は勉強を一時中断し、同衾する事とあいなったのである。  
 
 
「あたしもね、別に興味が無かったって訳じゃないんだ」  
綾香は春樹の男根を握り締めながら言った。すでに二人は素肌に何も身に着けては  
おらず、完全な裸体となっている。  
「だけど経験するのは怖いから、どこかでそういう話題を避けてたと思う。でも、さっき春  
樹が見せてくれたホットドッグで、悩むのがバカバカしくなっちゃった。オチンチンも、思っ  
てたより可愛い感じだし」  
先ほどキスを拒んだ唇が、男根に迫ろうとしていた。そして──  
 
「うッ!」  
静かに──しかし、艶かしく春樹の男根は綾香の口中に収まった。にゅるりと生温かな  
肉の感触が春樹を脅かす。  
「ああ・・・綾香」  
綾香の横顔を見ると、成人雑誌でフェラチオに嵩じる女性にこそ及ばないが、十分官能  
的だった。頬が膨れているのは男根がそこにあるからで、鼻息が荒いのは舌を懸命に  
使っているからだろう。春樹はその献身的な姿に感動した。  
 
「良く分からないんだけど、これで気持ちいいの?」  
咥えては放し、舐めては咥えを繰り返しながら綾香は聞く。上目遣いに問うその表情が  
淫蕩で、幼いながらも女を感じさせた。  
「すごくいいよ・・・もう、いきそう」  
時おり触れ合う綾香の素肌にも後押しをされ、春樹は早々に絶頂の予感を悟った。自分  
が思っていた以上に、口唇愛撫は愉悦をもたらせてくれるものだったのだ。  
 
「いきそうって・・・精子が出るのね?」  
すでに先走りでべとついた男根を何度も頬張り、綾香は艶めいていた。顔が上気し、鼻っ  
面を淫液できらめかせている。もちろん春樹の言う、いきそうという言葉の意味も分かって  
いた。  
「出すときは言ってね」  
綾香はそう言うとみたび男根を咥え込み、唇をすぼめてその時を待った。目を閉じて、  
春樹の今際の叫びを聞き逃さぬよう、耳を澄ます──その刹那──  
「いくよ!ああ!」  
どくんと春樹の男根が波打った。そして、それに驚き唇を男根から離した綾香の顔を、  
とろみがついた白濁液が汚していったのである。  
 
 
それから三十分ほど後──綾香は、春樹の前で美しい少女体を投げ出していた。  
「いいのか、本当に」  
「ウン」  
一人用のベッドは狭く、綾香が寝転べばもう左右にスペースは無い。故に、春樹は  
綾香の体に重なるような形を取っていた。そして、綾香が開いた両足の中に、春樹  
の下半身がある。  
 
「キスもまだなのに」  
「いいの・・・あたしも興味が出てきちゃったし」  
春樹の男根は綾香の女陰にあてがわれていた。もう、少し腰を前に突き出せば、  
彼女の純潔は散ってしまうだろう。しかし、これは綾香自身が望んだ事だった。先ほ  
ど、フェラチオで官能を揺すられたのは、春樹だけではなく綾香も同じだったので  
ある。  
「なんだか俺だけ得してるような気がする。フェラチオしてもらって、セックスまでさせ  
てもらうなんて」  
「そう思ったら、せいぜい勉強して賢くなってね。旦那さんにするのに、おバカさんじゃ  
困るわ。もっとも、セックスに興味が出てきたのは、あたしも同じなんだけど」  
綾香が腰を浮かす。春樹の男根が前に押し出されてきたからだ。  
 
「とんだ・・・勉強会・・・に・・なった・・・わ・・・ね」  
処女宮を刺し貫かれる衝撃に耐えながら、綾香は言った。ぽろぽろと涙を流している。  
「ごめん、俺のせいで」  
春樹は手で綾香の頬を撫でながら詫びた。男根はすでに半分が、女陰に埋没して  
いる。  
「ア───ッ・・・」  
男根がすべて胎内へ入った瞬間、綾香はか細い悲鳴を上げた。そして、いつまでも  
子供ではいられない二人に、さよならを告げたのである──  
 
おしまい  
 

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