今俺は、人生最大の分岐に立たされてると思う。  
俺の名前は佐々木鍬一、高校二年生。ちょっとスケベだけどそんな所は微塵も感じさせない自称ナイスガイだ。  
そんな俺が抱える人生最大の悩みというのがまた込み入った話である。  
俺には、ちょっと前まで好きだった奴が居た。名前は宮本小糸。色が白くて線が細くて、そのくせ行動力があって体育とか各種イベントでは人一倍張り切る不思議な奴。  
去年の校内マラソン大会でゴール前5人抜きを敢行してブッ倒れた所を当時救護係だった俺が助けて以来、俺のことを鍬兄って呼んで懐いてきた。  
それからも事あるごとになにか無茶をやらかしてはその大きな目を糸みたいに細めて俺ににこーっと笑いかけて、直後に必ずブッ倒れて、俺が助けたついでに説教かますと決まって、  
「鍬兄が私のことお嫁に貰ってくれるなら無茶やめます」  
なんて笑って言いやがる。  
そして俺が「冗談いうなバカ」って返すと決まって一瞬寂しそうな表情をする。  
そうやって艶のあるショートカットを揺らしてまた無茶を繰り返す小糸が、俺は愛おしくてたまらなかった。  
ほんの1週間前までは。  
 
 
その日、俺はボウリング部の練習につき合って頭にボウリング玉が直撃してから調子がおかしかった。  
大体なんで学校にボウリングのレーンがあるのかがわからない。俺はそんなどうしようもない事に腹をたてながら廊下を歩いていた。  
頭がズキズキする、ていうかむしろ脳が痛いという状況に危機感を感じた俺は流石に家に帰ろうと思った。  
と、その時、足下に不思議な物が落ちていた。  
「糸・・・だよな?」  
視線を足下から前に移すとずーっと延びている糸。  
そうか、これは足払いのトラップだな!  
いやいやいや、あり得ない。大体道なりに縦に足払いを仕掛ける奴がいるか。  
なんかいよいよ気になったので拾って引っ張ってみる。  
すてんばたーん!!  
ほら見ろ、足払いだった。俺はバカそのものの回答に疑問を抱かず先に進んだ。  
いやちょっとまて、これが足払いかはともかくとにかく先で誰か転んだわけだから助けねばなるまい。  
俺は痛む頭を抑えて走り出した。  
糸を伝っていくとその先には見覚えのある姿がうつ伏せになっていた。  
「小糸じゃないか、何やってんだ?」  
「うー、いたたたた、鍬兄ぃ。誰かが私のこと引っ張ったんだよ」  
スカートをパンパン払いながら立ち上がる小糸。  
「引っ張ったのは俺だけど、俺はお前を引っ張った覚えはないぞ?」  
何か自分の言葉が支離滅裂だ。  
「うそ、じゃあだれが私の糸引っ張ったんだろ?」  
「糸ってこれのことか?」  
くいっと引っ張る、小糸のスカートがぴらっとめくれる、やった、ひっぱる、やった、俺ラッキー。  
「って、何するのさ鍬兄!」  
「ちょっと待て、何でお前の尻から糸が生えてるの?」  
いよいよ幻覚がみえたか、あばよ普通の生活。どうせなら物の死が視えるとかがよかったけど。  
 
「尻から糸、お前蜘蛛かなにかかよ」  
全くの冗談のつもりだった、でも小糸の奴はいつもの寂しそうな顔で言うのだった。  
「もしかして鍬兄、怪我とかしてる?」  
小糸が背伸びして俺の頭を触ってくる。  
「痛っ、もっと加減して触ってくれよ」  
「ごめん、鍬兄」  
「いたた、やっぱ何かおかしいから帰って寝るわ」  
小糸に背を向けて歩き出す。  
「待って、鍬兄!」  
振り向くと深刻そうな小糸。  
「あのね鍬兄、聞いてほしいの。たぶん鍬兄にはもう幻術は効かないと思うから」  
幻術、何のことだろうか。  
「私ね、鍬兄に隠してたんだけど。実は見ての通り女郎蜘蛛なの」  
ほらみろ、俺の推理が当たったぞ。イヤ、そうじゃない、ありえないぞ、現代日本に人以外の人に似たかが居るとかって。そのうえ可愛くて危なっかしい同級生がソレだなんて。  
「嘘・・・だろ?」  
嘘じゃないことは解っていた。小糸は嘘をつくときにこんな寂しそうな表情はしない。じゃあ何なんだ、この状況は?  
「嘘じゃないよ」  
「バカ、そのぐらいお前を見てれば解る」  
小糸の表情が一瞬和らぐ。  
「じゃあ、騙したんだな?」  
もう大分頭がはっきりしてきた。相手は人を食らう妖怪だ。罠は、美しいものに似せて仕掛けられる。  
「違うよ・・・私は鍬兄のことが・・・・」  
「それ以上は言うな!」言われたら、俺も後には戻れない。  
「お前は解ってるのか?そういうことを明かすってことが、俺達の日常を断ち切ることだって」  
「でも、私鍬兄に嘘つきたくなかった」  
「いっそ騙された方が幸せだったんだよ!」  
今度こそ背を向ける。  
「俺は、お前を倒す。ヒトじゃないモノは、ヒトに混ざっちゃいけないんだ」  
後ろの小糸がどんな顔をしていたかは解らない。  
小糸は次の日、学校を休んだ。  
 
結局俺はどうしたかと言うと、激しく後悔していた。  
勢いに任せてシリアスに決めてはみたもののはっきり言って勢いも勢い。バカバカしいにも程がある。  
確かに小糸の尻からは糸が出てたし、本人が認知したんだからあれは小糸のだ。  
でもそれ以外の所は小糸は実に小糸だった。派手に転ぶは俺にぱんつ見られるわ真顔で嘘がつけないわ、どうみても人畜無害だ。  
それに何だ、あの問答は。愛の告白そのものじゃないか。  
どんな顔して小糸を見ればいいんだ、これは非常に大きな問題だぞ。  
もうぶっちゃけ小糸が妖怪だろうと全然関係ない。もうどうやって小糸に会うか、それだけだ。  
でも倒すって言っちゃったしなぁ、ていうか普通の高校生の俺がどうやってヒト(暫定)一人始末しようって言うんだよ。粗大ゴミじゃないんだぞ。  
ああ、もう決めた。謝って抱きしめる。もうそういう事にした。誰にも文句は言わせない。  
ただ、一つ問題があったりする。  
「小糸の家ってドコなんだよ・・・」  
 
俺はとぼとぼ街を歩いていた。あのバカ、どうして会いたいときに行方が分からないんだよ。  
流石妖怪というか何というか、誰も小糸の家を知らなかった。  
マジでどうしようもない。今の俺を小糸が見たらどう思うだろうか。  
「うん、ずいぶん情けないね。いまの鍬兄は」  
ああ、小糸の声が聞こえる。  
「そんな調子じゃ、私を倒したりできないよ」  
幻聴、幻聴なのか?  
「もう、しっかりしてよ鍬兄!」  
バシィ!  
「いってぇ!何すんだよ!!」  
いた。  
「鍬兄、ただいま」  
「小糸、お前今まで・・・」  
「ずーっと考えてた、鍬兄に拒絶されて、どうしたらいいか。でも、決めたんだ!」  
俺をまっすぐ見つめる小糸。  
「私を、殺してください」  
こともあろうに、小糸は最後に泣きやがった。  
 
 
ぱっかーん!!  
 
 
「ぇう、痛ぁい」  
「バカ、何言ってんだ」  
「だってだって、鍬兄私のこと倒すって」  
「バカ、言い過ぎたに決まってるだろ!」  
「バカバカいわないでよぉ・・・」  
「それにな、俺はお前が何者かなんてとうの昔に関係なくなってたんだよ。危なっかしくて、ほっとけないお前のことが大好きだったんだ」  
そしてもう一息  
「俺も、お前になら喰われてもいい」  
 
「あああああんっ、鍬兄ぃ、鍬兄ぃっ!」  
「ああもう、泣くな。人が見てるだろ」  
泣き止ませるためにそっとキスしてやる。  
「ふぁっ、鍬兄ぃ」  
「続きは、帰ってからだ」  
 
「し、鍬兄ぃ。やさしくしてくれる?」  
俺の部屋で二人、服を脱いで向かい合っている。  
「なんで震えてるんだよ、女郎蜘蛛なんだろ?百戦錬磨なんじゃないのか」  
ふるふると首をふる小糸。  
「そんな、誤解だよぉ。初めてなんだよぉ」  
「そっか、ならサービスだ」  
優しく口づけをする、そのまま下へ舌を這わせる。  
「あっ、ひゃっ、くすぐったぁっ・・・」  
そのまま控えめな胸の頂上の桜色を舌でくすぐってやる。  
「ひゃあっ、ああん、ふぁっ」  
次第に頬が紅く染まってくる。愛おしい。  
さらに下に手を這わす。「いゃあっ、ああっ」  
蜜が溢れてくる、  
「感じてるのか、小糸?」  
「うぇぇ、そんなこと聞かないでよぉ」  
いちいち可愛い  
「綺麗だよ、お前は可愛い」  
「それも言っちゃダメぇ」  
真っ赤になってうつむく小糸。この初々しさ、ほんとに女郎蜘蛛なのか?  
「じゃあ、小糸。そろそろ挿れるぞ」  
それでもまだ不安そうにする小糸に、  
「安心しろ、俺も初めてだから」  
「余計不安だよぅ」  
 
ゆっくりと小糸の中へと侵入していく。  
「平気か、小糸」  
「うん、意外と大丈夫ぅ」  
そういう体質なのか、小糸はそんなに痛がらなかった。  
「なら、大丈夫だな・・・・動くぞ?」  
「・・・うん。鍬兄、来て」  
小糸の中は想像を絶した。女郎蜘蛛としての本能なのか、それとも女性が皆こうなのか、俺はただただ動くことに必死だった。  
「ひぁぁっ、んああっ、鍬兄が中に居るよぉ、嬉しいよぉ!」  
俺の手で乱れ、俺一人を受け入れる小糸がただただ愛おしい。  
「ううっ、出そうだっ」  
「平気、鍬兄がほしいよぉ」  
俺は果てて、そのまま静寂が流れた。  
 
「ねぇ、鍬兄」  
「なんだ、小糸」  
「もう私、無茶したりしないよ」  
「バカ」  
指先で額をつついてやる。  
「ふぇっ?」  
不思議そうな小糸。  
「それじゃつまんねーよ。お前はブッ倒れるまで頑張るから可愛いんだ」  
そう、ただただひた走るお前の脇をこれからも走れると思うとワクワクする。  
「もっと無茶してもいいぞ。これからは遠慮なく助けてやるから」  
「でも、やっぱり普段も可愛いがって欲しいな」  
「欲張りすぎだ。でも、悪くないな」  
 
 
おしまい  
 

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