勝手知ったる他人の家。
親同士が仲良しの友達同士で、自然と子供同士も幼馴染の友達になれば、合鍵を持ってたり隠し場所を知ってたり、なんていうのは珍しくないはずだ。
「みなみー、入るぞー」
鍵を開けてドアを開けてから声をかけてみる。
返事はない。
無理もない、この家の主が不在だから、母さんに呼びに行くよう言われたのだ。
だけど、呼ばれた本人がいないはずはない。靴があるんだから。
どうせ部屋でヘッドホンでもしてて、聞こえないんだろう。これはよくあることだ。
2階にあるみなみの部屋に行こうと階段を登っていると。
「…ん……たっちゃん……」
みなみの声だ。
だけど…何かがおかしい。
いつもはこう、もっとツンツンした高くてよく通る声のはずなのだが、今聞こえたのは、くぐもった湿った声。
部屋の前まで行くと、ドアは閉め切られていなくて、そこから少しだけ、部屋の様子が見える。
そこで、俺は…驚いた。
本当に驚いて、声が出なかった。
「たっちゃん…だめだってばぁ…」
みなみが、制服をはだけさせて、ブラウスやスカートの中に手を突っ込んでいる。
それも、具合が悪いとかではない。俗に言う、オナニーってやつだ。
エロ本とかAVとかで見たことがないわけではない。
だけど、みなみのオナニーしてるところなんて、それも…自分の名前を呼びながらしてるなんて、ちょっとどころじゃない驚きだった。
「だめ、たっちゃん、そんなにしたら…あんっ!」
みなみの手がより激しく動き始め、声が大きくなった瞬間。
身体を動かしたみなみと、思わず目が合った。
「いやあああっ!」
CDを借りに来たり、勉強を教えてもらったりで来慣れているみなみの部屋だが、もちろんすぐに部屋になど入れてもらえるはずがない。
「な、なんでたっちゃんがそんなところにいるのよ…」
平静を取り繕おうとするみなみだが、いつもの説得力はどこへやら。
無理もない、オナニーしながら名前を言っていた相手が、ドアの間から自分を見ていたのだ。
「いや、母さんがみなみは今日は一人のはずだから、夕飯でも一緒にどうかって…」
「そんなの、電話とかメールしたら済む話でしょ!
なんでよりによって、こ、こんな瞬間に…ありえない…」
一生懸命、元通りに制服を直そうとしているのだが、少しずれている。
「知らねえよ、ドアも閉め切らずにオナニーしてるほうが悪い。
だいたい…そんなことするくらいなら、なんでこの間はデートのセッティングなんか…」
「あれは…断れなかったんだもん。
本当は嫌だったよ、どうせなら私が一緒にデートに…」
そこまで言って、みなみは恥ずかしそうに俯いてしまった。
こんな「告白」っぽいこと、今までみなみにされたことなんてなかった。
「…バカ」
「え?」
「…だったら、なんで言わなかったんだよ。
俺だって…俺だって、みなみのこと考えて…一人でしたことあるんだからな」
言ってしまってから、俺のバカ、と慌てた。
事実だけど、こんな恥ずかしい話をなんで…
「…じゃあ、いいよ。入ってきて」
ふいに、ドア越しの声が近くなった。
ドアを開けると…制服を直し切っていないみなみが抱きついてきた。
「ほ、本当に私で、こ、興奮してくれたんだったら…付き合ってあげる」
精一杯強がって、普段のツンツンぶりを取り戻すみなみの顔は、幸せそうな笑顔だった―。