……昔から、僕は友達から言われていた  
「そんな体しててどうして『僕』なんていうの?」とか。  
 
気にしなければどうのこうのじゃないんだけどさ。  
でも、それってやっぱりコンプレックスになっちゃうからさ。  
まぁそういう話だ。  
 
…そして僕は23歳になった。  
 
 
 書類に目を通し、僕は憂鬱にも今日の仕事を終わらせる。  
人よりふたまわりかのただでさえ大きな体を縮めこませて、電車に乗って。  
やっとのことで我が家へ到着。サラリーマンなんてそんなもんか。  
「鍵、鍵っと・・・・・・あいてる・・・・・・」  
一瞬にして僕の表情が歪んだ。  
「まさか・・・・・・」  
靴を脱いで、そろりそろりと3LDKの部屋の一番広い場所へいくと・・・  
そこで彼女は眠っていた。  
 
……そんなに幸せそうに寝ていないでください。  
しかも土足で……あぁ……昨日きれいにしたフローリングがぁ・・・。  
 
 僕はその場で立ち尽くし、頬をぽりぽりと掻いてしまった。  
いや、まぁ、初めてではなのだけれど。  
さて、どうやって起そうか……。  
 
「あの……起きてください……」  
僕はゆっくりと肩へ手を置き、そのの縞々の毛並みのやわらかさを感じながら、  
彼女を揺さぶる……。あーあ。なんかタンクトップの上にジャケット羽織ってるのはいいけど、  
はだけちゃってるんですけど。  
・・・・・・すごい形相でにらみつけてきた。牙むき出しで唸ってるよ。  
いや・・・・・・だから……  
「あの、ここは僕の家で・・・・・・」「わかった!」  
何が!?  
「俺が酒で酔っ払ってきたのをいいことに、俺をここまで運んで、  
いろいろとしようとしていたんだろうっ!?」  
 
・・・・・・なっ・・・・・・  
僕の顔が一気にかぁぁぁっ、と赤くなる。  
何で大学でもまじめにやってきた健全な僕が、そんなことを  
つーか。第一そんなする度胸ないですよ。  
「・・・・・・そんなことするわけ、な、ないじゃないですかっ!?」  
「だって俺は覚えてないぞ!こんな場所!」  
「馬鹿いわないでくださいっ!第一、あなたは酔っ払った勢いで見ず知らずの僕に抱きついてきて、そのまま寝ちゃって……先週もこの部屋に来ていたじゃないですか!!」  
「……ぅぇ?」  
ぽかん、としてる彼女に僕は更に畳み掛けた。  
「それで翌朝何度も戻しちゃいそうになったあなたをトイレにつれてって、駅まで送って……覚えてないんですかっ!?」  
 
僕も自分で馬鹿馬鹿しいと思った。だって、お人よしにも程ってものがあるだろう、と  
でも、ほっとけなかった、というか下心がないわけでも無かった。  
……そりゃ、女友達からは「良い人」とはいわれるけど、  
恋沙汰になることなんか全くなかったし。  
どうせ……狼とかドーベルマンとか、狐とか、そういうカッコイイ人が好みなんでしょ  
……と、そう思うと、ますます自分に自信が無くなって。  
 
久しぶりに怒ったな、と思った、目を吊り上げて、鼻息も荒く、  
肩を上下させてる自分がいて、はっ、と気づくと、申し訳なくなってきた。  
「ごめんなさい、あの……僕も戸締りをしなかったのが」  
「……」  
彼女は黙り込んだまま、こっちを見ている。表情も無いから、怖い。  
どんなこと考えてるんだろ、って思うと、ますます嫌な気持ちになる。  
 
そんな沈黙をよそに、彼女はすっくと立ち上がり、  
「……悪かったな、俺、帰るわ」  
と言って、玄関に向かって歩き出した、は良いものの  
 
「……うっ」  
わ!、わわ!戻しちゃだめ!  
僕は急いで彼女を抱きかかえ、二人でトイレへ向った。  
 
何度か、そんなことを繰り返し、僕は彼女に渡すためのコップに水を注いでいると、  
雨が降り始めた。この調子だと、土砂降りだな。  
「……すまん、俺、ぜんぜん覚えてなくて」  
さっきまで威勢の良かった彼女が、いきなりそんな事を言い出して。  
耳をしおらしく下ろし、テーブルを眺めている。  
「……いえ、まぁ、こうなったのも何かの縁でしょうし」  
と僕も苦笑を交えて答えると、再び、短い沈黙。  
「あの、こんな雨ですし、泊まって行きませんか?」  
「……いいのか?」  
「……そんな、女の人を土砂降りの中を帰らせるのもどうかと思いますしね」  
と、僕は穏やかに笑って見せると、彼女は更に体をちぢこませた  
 
「……本当に、ごめんな……」  
……う、こういうときって抱きついて「ありがとうっ」とか言ってくれても良い……  
って、ナニ考えてるんだろ。僕。  
 
彼女を寝かせる前に先週と今週、なぜ酔いつぶれていたのか、  
という理由を話してもらうことにした。  
 
その……なんていうか、ベタベタな失恋話だった。  
・彼女には同じ虎人のしかもアルピノ(要するにホワイトタイガー)な人がいて  
まぁ、当然のごとく、一目ぼれ。  
すごく悩んでいたそうだ。彼女も言動が男勝りで通したきたことをコンプレックスに持っていて、恋もあまりしたことが無いのだそうだ。  
んでそのつらさを忘れるために飲みまくってた。のだそうだ。  
・今週は、といえば、密かに想ってた、友達とコンパに行ったときその彼もいて。  
酔った勢いで「俺、あんたのことが好きなんだ」って言ったら  
無表情だった彼が大げさに笑って  
「……あはは、冗談だろ……女房いるし」といわれたらしい。  
どうやら彼はいやいやそのコンパに出ていたらしく、  
当然、純粋に酒飲んで騒げればそれでよかったらしい。  
まぁそりゃ、不倫は良くないよ。確かに。  
で、彼は1次会で帰ったんだけど、彼女は3次会でダウンして、  
電車でふらふらとここに……  
 
って……ありえねー……そう言いたかったが、何とか言葉を飲み込んだ。  
 
 
「とりあえず、今日はぐっすり休んでください、明日は日曜日ですし」  
「本当に悪いな、ベットまで貸してくれて」  
「いえ、それと、僕、明日も仕事があるので、適当に部屋使って良いですから。  
戻れるぐらい体調が戻ったら、好きな時に自宅に戻ってもらって結構ですし」  
「鍵は?」  
「あ……お昼頃に戻ってきますので、大丈夫ですよ」  
と言っておいた。  
 
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その日は彼女が寝ている横で僕は仕事を済ませ、また会社へ行った。  
昼に戻ってきたときには、もう彼女はいなかったのだが、  
テーブルの上に、彼女の名刺があった  
 
「トキワ・カスミ……ね」  
僕は財布の中に、こっそりその名刺を入れた。  
 

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