暗闇の中誰もいないはずの部屋に小さな足音が聞こえている  
どうやら本人は足音を消しているつもりらしいのだが  
 
ここは王室に仕えるメイドたちの控え室並びに更衣室、ほとんどのメイドは既に本日の仕事を終えて  
各々の自由時間となっている、もっともすぐに自分のベッドで休む者が大多数ではあるが、  
とにかく足音の主はその事を知っているのだろう、部屋に入る月明かりを頼りに部屋を物色している。  
 
「おかしいな〜ここら辺にあるはずなのに〜」  
 
目当てのものが見つからずに戸惑っていると、ゆっくりと入り口の扉が開き部屋の明かりがついた。  
 
「探し物はこいつかい?」  
 
そう言って手に持っている髪飾りを小さなコソ泥にみせつける。  
 
「それ!返してよリサ姉」  
 
「やなこった、これは私が勝負に勝って手に入れたんだ  
いくら相手がお姫様のサリーだからって返すつもりは無いね」  
 
リサはそう言ってサリーの要求を跳ね除ける。  
 
「それにいくら自分の城だからってこんなとこまで入り込んできやがって、ったく  
こりゃお后様に報告しなきゃならねえじゃねえか」  
 
「あははは、、、それは勘弁して!」  
サリーの押しにリサは簡単に引いてしまう、慌てたリサの様子を見たサリーは  
 
「心配すんなって、報告したらこの勝負の事も話さなきゃならないからな  
私にとっても損な話しだし言わないよ」  
 
「確かに、じゃあ返して」  
そういってサリーはリサの目をしっかりとみて手を差し伸べる。しかし返事は  
 
「やだ」  
「やっぱし、それにしてもリサ姉私がここに来ると思ってずっと待ってたの?」  
「まあ近くで待ってたくらいだけどな、サリーならきっと来ると思ってたしな」  
「あはは、リサ姉には何もかもお見通しか」  
 
 
即答で拒否をされて落ち込む素振りは見せたもののあんまり引きずりそうな様子は無くサリーは一安心している  
リサ姉と愛称で呼ばれてサリーと呼び捨てにしてはいるがサリーはこのお城の城主の娘で立場的には姫にあたる。  
サリーには兄がいるために正当な王位継承者ではないがその兄に万が一があれば国の主になることもあるような立場である。  
一方のリサは病気で家族を失い行き場もお金も無くなり、半ば買われるような状態でこの城にやってきて  
メイドとして働いている立場であり二人の身分差は限りなく離れている。  
それでもお互いに妙に気が合い気づいたころにはお互いに気軽に話すような仲になっていたのだ。  
 
それこそ仲のいい姉妹のように、特に家族のいないリサにしてみればサリーと一緒にいる時は  
仕事をしているというよりも姉妹で仲良くしているような感覚だった。  
 
この髪飾りも2人でトランプで遊びリサが勝利し手に入れたものである。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
「でもそんな髪飾りもらってどうするの?」  
 
ふとサリーは私に質問をしてみせた。  
たしか髪飾り自体はサリーにとっては今はもういない祖母から貰った大切な物であったが  
金品としての価値はほとんど無いはずである。  
 
「たしかにもうちょっといい売値になるものの方がよかったかもな、  
でも王家からの品物って事で結構な値段にはなるかもな  
ったく、いい加減借金からは解放されたいぜ」  
 
私に入ってくる給料のうち半分以上は私を城に売った男の所へと流されていく、両親が残した借金を返済するためとの  
ことではあるが、まだかなりの額が残っている。  
まあ働き口があるだけよしとする考えもありかもしれないが、  
実際サリーも私の借金のことは気になっているみたいではある。  
姫であるサリーの持つ権力で私の持つ借金を帳消しにしたり、借金に準ずる額を与えたりすることもできたが  
私はそんな風にお金を受け取るようなことはしなかった。  
 
確かに借金が消えれば暮らしが変わり自由を手にする事ができるが、そんなことをしたら借金を踏み倒すためにサリーに近づいたことに  
なってしまう。そんな風には思われたくないしお金のためや権力のために私はサリーとの友情を作ったわけではないのだから。  
まあ物品を賭けて戦い戦利品を売ってお金にしている時点で説得力のあまりない言葉ではあるが・・・、  
まあでもサリーもあんなに困ってるし、今回は売るのを止めて返してやるか、そんな事を考えてた時サリーは思いもよらない事を言い出した。  
 
「じゃあ私が買う、それならいいでしょ・・・ってこれはリサ姉が嫌がってるんだっけ」  
 
確かにサリーが私の借金を気にしている以上いい手段ではない、というかこの髪飾りを貰った事自体がその場のノリで決めた  
失敗だったのかもしれないが。  
 
「まあなサリーが王家の権力で私だけに救いの手を出すなんてしたら、同じ事をしてもらおうとする奴等がごまんと来るぜ」  
 
と説明する、実際に私以外にも借金で苦しんでるメイドは大勢いるし、私より多額の借金をしている女もいるのだから。  
ここでサリーの権力で私が楽になるとその分の余計な負担がサリーに行ってしまうのが目に見えている・・  
などと考えている間にサリーは私のロッカーの中を眺めて何かを考えていた。  
とはいうものの私のロッカーの中に入っているものといったら大き目の鞄とメイド服くらいしか入っていないはずだが・・・  
 
「そうだ、私がリサ姉と一緒に働いてお金を稼いでリサ姉から髪飾りを買えばいいんだ  
それならリサ姉も嫌がらないし私も堂々と返してもらえる」  
 
なんか突拍子も無い発言がサリーから飛び出した、  
お姫様がメイドとして仕えるなど聞いた事もないし無茶苦茶である  
まあ人手が多くなるのはありがたいといえばありがたいのだが・・・。  
 
「ぶっ、はははサリーがここでメイド?なんだそりゃ」  
 
私は思わず噴出してしまった。  
その笑い声が聞かれたのか部屋の扉が開かれて、メイド服を来た一人の女性が姿を現した。  
 
「こんな時間まで何をやっているのですかリサ、こんな時間までダベっている余裕があるのなら  
明日は少しきつい仕事を頼みましょうかしら。  
それにお嬢様も、ここは使用人の更衣室です。お嬢様みたいな方が出入りなされるような所ではありませんよ」  
 
「も、申し訳ありません、ミス、クリス」  
 
彼女の名前はクリスといいこの城に仕えて十数年のベテランで私の上司にあたるメイド長である  
実際よくイヤミを言われたりもするがやはりそれは上司たる所以であるからだろうか  
 
「すいません、私がリサを呼び止めたせいで、彼女には問題はありません」  
 
咄嗟にサリーがフォローをするが  
とにかく、今日はもう遅いので詳しい事は明日サリーに聞くということになりこの場はお開きとなって私は自分の寝床に帰ることになった。  
そういえばチーフはこんな時間まで一体何をしていたのだろう?  
そんな事を考えながら私は眠りに付いた。  
 
二日後  
 
「ったく、昨日はえらい目にあったぜ」  
 
リサはそうぼやきながら仕事の服へと着替えていく。  
結局チーフに目を付けられた結果昨日の業務内容が過酷な物になっていたのだ  
でもまあ過ぎた事は仕方が無いと気持ちを切り替えてメイド服へと着替えていく。  
紺のワンピース、白いエプロンドレス、ストッキングにガーターベルト、そしてヘッドドレス  
しっかりと装備を整えて、今日もみなさんにご奉仕と行きますか、  
と心の中で気合いを入れて部屋をでて朝礼をする大広間へと向かっていった。  
結局昨日はサリーと一度も会わなかったけど、まああいつがメイドになるなんて事はないだろ。  
仲のいいだけでサリーの専属メイドというわけでは無いので昨日みたいに一切会わずに  
過ごすことになる日も無いわけではない。  
 
 
と大広間に向かう部屋の前に新入りらしきメイドの姿を確認した、  
どこか高貴な印象の長い金髪、大切に育てられてきたような表情、そして体格の割に大きな胸、  
どっかで会った気が・・・・・・そして新人メイドの姿をもう一回確認した時見て私は目を疑った。  
そこにいるのは間違いなくこの城の姫であるサリーだったからである。  
 
「おっ、おっ、お前一体何やってるんだ!!」  
 
驚きを隠せないリサに対して  
 
「おはよう御座います、本日からこちらでお世話させていただくスピカといいます。  
なれない事だらけですがどうかよろしくお願いします・・・・・・って挨拶はこんな感じでいいのかなリサ姉」  
 
「挨拶とかそういう問題じゃねえ、なんで一国の姫君様がメイドになんてなってんだよ  
サリー、きっちり説明しろ、まさかこの前の話本気にしてるのか?」  
 
メイドたるもの予想外の事態にもことあるじの前では常に冷静にと教えられてはいたが  
流石にそんな事はできそうにない、若いなりに想定外の事態や無茶苦茶な要求はそれなりに見てきてはいるが  
こんなことはなんかの冗談としか思えなかった。  
 
「もちろん本気よ、トムおじ様に相談したら労働の大切さを学ぶのも大切だろうって事で  
本来の姫としてのやるべき事もしっかりやれば両立は問題ないですって  
だから住み込みじゃなくて週に2〜3回くらいの通い扱いになるはずだから  
あと一応スピカって偽名って事になってるから、まあどうせすぐにばれる気もするけどね  
ちゃーんと働いて、そのお金でリサ姉から髪飾りを返してもらうんだから」  
 
まったくお姫様が自分の城でメイドとして働くなんて聞いた事無いし夢やドッキリと言われた方が  
まだしっくりくる、しかも働いてお金を得る目的は私の持ってる髪飾りを買うためだという。  
サリーの事だから本気なんだろうが一体どうなることやら気になったがまあサリーがやるという内は  
支えるべきであろう、例えサリーの教育係にならなかったとしてもメイドとしてそして親友としても。  
 
「スピカさん、何をそんなところでぐずぐずしてますの?早くこっちに来なさい」  
「は、はい申し訳ありません、今行きます」  
 
そういってサリーは慌てて朝礼を行うホールへと走っていった、  
お姫様でありながらメイドになった少女とそのメイドの話はまだ始まったばかりである。  
 

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