第三話 キツネくん絶体絶命!?  
 
俺の腕にすがりついている、ボロキレのような服をまとうネコ耳の美少女。  
 
「んにゃあん♪」  
 
どうも、耐性ができてしまったらしい。  
眼の前の美少女の正体があの仔猫であるらしいという事実を、  
俺はあっさり現実のものとして受け入れてしまったのだ。  
 
「これではヒトミさんのお宅で飼う訳にはいきませんわねぇ」  
 
俺から元・仔猫の美少女を引きはがしながらタヌキさんがため息をつく。  
 
「そ、そうは言っても…この姿じゃ野良猫としても生活出来ないぞ」  
「ですわねぇ。貴方、ネコに戻れます?」  
 
どうやらタヌキさん自身は、任意でヒト形態とタヌキ形態を切り替えられるらしい。  
当然、眼の前の元・仔猫にもその技を期待したのだが…  
 
「にゃー」  
 
タヌキさんの質問に、元・仔猫の美少女は首を振った。横に。  
 
「はぁ」  
 
全員でタメ息をつく。  
 
「言葉は理解しているようだけど…」  
 
ヒトミが困ったように呟く。  
 
「仕方ありませんわ」  
「タヌキさん?」  
「私に考えがあります」  
 
※ ※ ※  
 
という訳で。  
タヌキさんに連れられ、俺とヒトミ、そして仔猫ちゃんがやってきたのはある一軒家。  
表札に記された名前は「田貫」。  
そう、ここは我らが理事長にして、タヌキさんの伯父さん宅。  
タヌキさんは仔猫ちゃんを自分ともども伯父さんに面倒見てもらおうというのだ。  
タヌキとは言え、自分の通う学園の理事長に会うということで少し緊張。  
しかし…  
 
「伯父さま!」  
「おお、彼がキツネくんかね?初めまして理事長の田貫です」  
「ぷっ!」  
 
俺とヒトミはタヌキ理事長を見るなり吹き出してしまった。  
 
「ん?どうしたね?」  
「い、いえ、なんでも…はじめまして、理事長先生…く…くく」  
「私の顔に何かついているかな?」  
 
いや、別に。きっと事情を聞かされてる俺たちだけです、あなたを見て笑うのは。  
タヌキ…タヌキ、なんだよな、この人。  
こんなにタヌキ親父って形容がハマる人が本当にタヌキ!  
くそ、これで笑うなって無理だぞ。  
 
しかし容姿はともかく、タヌキ理事長は話の解る人だった。  
仔猫ちゃんの面倒を見てくれる事になったのだ。  
彼女が「自分の居場所」を見つけられるまで、という条件で。  
 
「人間社会で生きていくためには色々と必要なものがある。  
 一番必要なものが何か解るかね?」  
「そうですね…お金?」  
 
首を横に振るタヌキ理事長。  
 
「じゃあ…戸籍?とか」  
 
またも首を横に振るタヌキ理事長。  
 
「一番必要なのは、自分の居場所だ」  
「自分の居場所…?」  
「そうとも。私たちは元タヌキだ。つまりそれは、本来この人間社会には居場所が無いという事を意味する」  
「住むための家って事ですか?」  
「いいや、自分がそこにいていいという自信や自負、  
 いるべき理由、いなければならないという理由、だよ」  
 
よく解らない。難しい事を言うな、この人。タヌキなのに。  
 
「それは地位や立場かもしれない。あるいは自分を必要としてくれる伴侶かもしれない。  
 仕事かもしれないし、使命かもしれない。これは君たち人間も、無縁ではいられない命題だよ」  
 
生きていく理由、社会での立ち位置、か。  
なんか人生相談か就職相談みたいになってきた。  
そういう重苦しい話は御免なので、俺は傍らの仔猫ちゃんに救いを求めてみる。  
 
「とにかく、良かったな、仔猫ちゃん」  
「にゃー♪」  
「伯父さま、ありがとうございます」  
「ところで…そのコには名前が無いのかね?」  
「まぁノラでしたし、本人も喋れないようだし…」  
 
と、そこでタヌキ理事長、はたと思いついたように。  
 
「そう言えば、お前も名前が必要だな」  
「名前?伯父さまと同じ田貫ではいけませんの?」  
「それは名字…ファミリーネームだ。  
 人間にはそれぞれ固有の名が必要なんだよ」  
「なまえ、私だけの名前…」  
「どうかなキツネくん、この娘たちにいい名前はないかね?」  
 
俺にタヌキさんや仔猫ちゃんの名前をつけろっていうんですか、タヌキ理事長。  
 
「キツネくんが…私に名前を?」  
 
すんごく期待に満ちた眼で俺を見るタヌキさん。キラキラ光る、期待に満ちた瞳。  
いや、そんなに期待されても…俺にネーミングセンスなんて期待するなよ。  
えーっとタヌキ、タヌキ、タヌキと言えば…  
 
「みどり…とか?」  
「え?」  
「うわー安直」  
 
ヒトミには俺の思考回路がバレてるらしい。さすが幼馴染み。  
 
「でも、いい名前じゃなーい?似合ってるわよ(くすくす)」  
「そう思います?思います?思います?キツネくん!  
 さっそく名前で呼んでくださいませ!ハイ!せーの…」  
「い、いや、その…それは…」  
「あ、あんたなんかタヌキで充分だー!」  
「いまさら取り消しは効きませんわよ?  
 ヒトミさんばかり名前で呼ばれるのはズルいですわ!  
 私もキツネくんから名前で呼ばれたーーーーいっ!」  
 
そ、そのうちね。  
 
「ところで…」  
 
ん?  
 
「名付け親ともなれば親も同然、親も同然と言う事は家族も同然  
 家族も同然と言う事は、私とキツネくんはもはや恋人以上の関係…きゃっ(ハート)」  
「こらこらこらー!なんでそうなるのよ!?」  
「あら?悔しいんですの?なんでしたらヒトミさんもキツネくんに名前を付けていただいたら?」  
「ペットじゃあるまいし!お断りよ!」  
「いやだヒトミさんたら、私がキツネくんのペット…ペット…きゃっ(ハート)  
「ま、待て待て待て!な、何を想像した!?」  
「ですからぁ…ご主人様とペットと言う関係と言えば…  
 ご主人様はペットの身体を好きにしていいのですよね?」  
「どこでそんな歪んだ知識を手に入れたんだお前はーーーっ!」  
「あら?私はいつでもよろしいのですよと申し上げ…」  
「わーわーわー!余計なことを言うなーーーーーっ!」  
「わっはっは。青春だねぇ」  
 
呑気すぎますタヌキ理事長!  
 
「で、彼女の方はどうするね?」  
 
と、仔猫ちゃんへの名付けを促すタヌキ理事長。  
 
「んんんにゃー!にゃー!にゃー!にゃー!」  
「わ、解った解った、そんなに慌てるなよ」  
「まぁキツネくん、彼女が何を言ってるか解るんですの?」  
「ニュアンスだ、ニュアンス。えーっと…」  
 
ネコか、ネコなんだよな…えーっとネコと言えば…やっぱ「タマ」だよな。  
 
「タマミ…とか?」  
「うわ、どこの二世帯家族の飼い猫?」  
「うるさいぞヒトミ、元ネタばらすな」  
「んにゃにゃにゃにゃ!にゃーーーーー(ハート)」  
 
うん、喜んでる喜んでる。これは間違いない。  
俺に擦りよって頬ずりしそうな勢いだ。  
こんなに喜ばれて悪い気はしないね。  
 
「よし、ではこれで決まった。さぁ君たちは登校しなさい。  
 学生の本分は勉強だ。自分の居場所を見つけるためにも、ね」  
 
※ ※ ※  
 
仔猫ちゃんを託し、俺たちはタヌキ理事長宅を辞した。  
自分たちの居場所を見つけるために、俺たちは学園に向かう。  
俺の右側はタヌキさん、左側はヒトミ。  
いつの間にか、彼女らはそこを自身の居場所と決めたようだった。  
 
「ねぇキツネくん、あのコもやっぱり、キツネくんの事…」  
「…小さいくせに私のキツネくんに色目を使うなんて」  
「そこ、勝手に自分の物にするんじゃない」  
「でも、私の敵ではありませんけれど。  
 どう考えても私のような健気な乙女の方がキツネくんに相応しい」  
「妄想入らんで人の話を聞かんか、このエロタヌキー!」  
 
やっぱり、そうなのか?  
あのコは、俺の事…?頭痛の種がまた増えた。  
いや、その、想いを寄せられる事が迷惑だなんて事はないんだけど。  
 
そして、学園では。さらなる頭痛の種が生まれようとしていた。  
 
※ ※ ※  
 
放課後。  
朝と同じく、左右を二人の美少女に挟まれて教室を出る俺。  
ああ、教室中から殺気と嫉妬と不審に満ちた視線を感じるぅ  
って、まぁだいぶ慣れたけど、ね。  
これまで実力行使に出たヤツはいなかった。  
だから、俺は油断していた。  
 
教室を出た俺たちは、俺たちはむさくるしい男の集団に取り囲まれた。  
 
「我々はー!タヌキさん親衛隊であーる!」  
「そして我々は!ヒトミさんファンクラブのものだ!」  
「…はい?」  
「我々はこのたび話し合いの結果、利害の一致を見た!  
 ここに一致団結し、タヌキさんとヒトミさんを守る会を結成するにいたった!  
 その目的は…木常!貴様から麗しの乙女たちを救い出す事だ!」  
「な、なんだなんだ!?」  
「お前さえいなければ、丸く収まるのだ!」  
 
俺がいなければお前らが彼女らの関心を得られるって?  
短絡すぎるだろ、それは!しかし、事態は最悪だ。  
 
「お、俺をどうしようってんだ!?亡き者にでもするつもりか!」  
「暴力に訴えるなど、下種の所業!愚の骨頂!」  
 
とりあえず命の危険はなさそうだ。  
 
「じゃ、じゃあどうしようってんだよ?」  
「知れた事…!お前の真実の姿を白日の元にさらす!  
 そうすれば必然、タヌキさんとヒトミさんはお前に愛想をつかすはずだ!」  
「はい?」  
「そうだ!何をどう誤解したのか、二人はお前をいい男だと勘違いしている!  
 そんなはずがあろうか?否!断じて否!!  
 我々はご近所の皆さんに入念なリサーチを行った!そして探り出したのだ!  
 過去から現在に至るまで、貴様がこれまでに犯した罪の数々を!恥ずかしい秘密のあれやこれやをな!」  
「ちょ、ちょっと待て!!プ、プライバシーの侵害だ!」  
 
清廉潔白なら問題は無い。しかし、そんな人間がいるか?  
誰だってほじくられるのがイヤな過去のひとつやふたつあるもんだ。  
おれは聖人君子じゃない。断固阻止しなければ!  
ところが。  
 
「えっと、よく解りませんけれど…  
 皆さんについていけば、私の知らない昔のキツネくんのお話を  
 聞かせていただけると言う事でしょうか?」  
「ちょ、タヌキさん!?」  
「そうとも!キミの知らない木常という男の真の姿を教えてあげよう!」  
「まぁ!ぜひ!ぜひお聞かせいただきたいですわ!」  
 
タヌキさん、目がらんらんと輝いてるんですけどーーー!  
 
「ヒトミさん!参りましょう、一緒に昔のキツネくんのお話、伺いましょう!」  
「あんたも悪趣味ねぇ、それに男ばっかに取り囲まれるのってちょっと…」  
「あん、もう!いいからいいから♪」  
「ちょ、離してよ!」  
「タ、タヌキさん!ヒトミ!?」  
 
「おっと!お前はついてくるんじゃない!」  
 
ヒトミのファンクラブとか名乗った連中だ。手に手に弓を持っている。弓道部員だ。  
 
「こ、こら!弓を人に向けるな!」  
 
暴力には訴えないんじゃなかったのか!?  
 
「キ、キツネくん!」  
 
ヒトミの心配げな声が響く。  
 
「大丈夫大丈夫、危害は加えませんよ、先輩!」  
 
と呼びかける声は弓道部の後輩か?  
男子弓道部はヒトミでもってるってホントだったんだなぁー  
 
「ちょ…!タヌキさん!キツネくんが…」  
「え?」  
 
振り返ろうとしたタヌキさん、しかしその前に視界を遮られる。  
大きな布を持った守る会会員たちが、俺と彼女らの前に立ちはだかったのだ。  
体育館あたりから持ち出したのか?ビロードのカーテンだ。  
そして、その向こうから。  
 
「きゃ!ど、どこ触ってんのよ!」  
「ヒトミさん!?お待ちなさい!あ、あなたたち…!」  
「お、おいこら!何やってるんだ!タヌキさん!ヒトミ!」  
 
何が守る会、だ!彼女らに危害を加えたら…許さない!  
しかし俺の前には弓を構えた男たち。なんてこった。  
学園内でこんな危険な事態に陥るなんて。  
騒がしいながらも平和な学園生活はどこ行った!?  
まだ下校中の生徒たちもちらほらいる。  
しかしこの異常事態を遠巻きに見守るばかり。  
助けは期待できそうにない。  
 
進退きわまった。その時。  
 
「おにーちゃーん!」  
 
俺には妹はいないぞ!?  
振り返るとそこにいたのは、仔猫ちゃん。  
 
「ど、どうしてここに…って喋れるの!?」  
「タヌキのおじちゃんととっくんしたのー!おにいちゃんとお話したくて頑張ったんだよぉ!褒めて褒めて!」  
 
と、首っ玉にかじりついてくるネコ耳美少女。って、耳!耳!  
 
「き、きさま!」  
 
と、なんだか知らないがその光景が弓道部の連中の逆鱗に触れたらしい。  
 
「にゃっ!」  
 
弓道部員の剣幕に、仔猫ちゃんが怯えてる。俺の影に隠れ、おずおずと連中の様子を覗いている。  
 
「俺たち弓道部のアイドルを手籠めにしただけでなく!そんなカ、カ、カ、カワイイネコ耳少女まで毒牙にかけるとは!」  
 
ネコ耳はスルーなの?ねぇ気にならないの!?ネコ耳だよネコ耳!?  
 
「いや、手籠めて!毒牙て!俺まだ何もしてないぞ!」  
「まだ、だと!?これからするつもりだったのか!?」  
「いや、それは、その」  
 
完全に否定できないのがツライ所だ。そりゃ、俺だって、健康的な男の子な訳で。  
今は誰の気持ちに答えるかふんぎりがつかないから手出ししてないだけであって。  
そこんとこに決着がつけば、それはその、あんな事やこんな事をしたいなーなんて…  
と、そんな気持ちが顔に出たのか  
 
「ゆ、ゆるさん!」  
 
弓道部員の闘志に火をつけてしまった。逆上した恋する男ほど手に負えないものはない。  
矢を番え直す男たち。待て待て待て!本気で撃つ気!?  
って、このままでは俺にかじりついたままの仔猫ちゃんにも危険が…!  
と、そこへ。  
 
「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」  
 
って、威嚇!?ネコの威嚇!?  
 
「あいつら、おにいちゃんの敵?ねぇ敵?敵?敵?」  
「いや、敵っていうか、まぁ、そう、かな?」  
「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」  
「毛が!毛が逆立ってる!?」  
「おにいちゃんを…」  
「えと、仔猫…タマミちゃん?」  
「おにいちゃんを、いじめるなーーーーーーーっ!」  
 
まさに豹変。そうだ、彼女はネコだったっけ。  
鋭い爪が、弓道部員たちに襲いかかる。不意を突かれた男たちは。  
 
「ぎゃっ!」  
「あたしの!」  
「うぎゃ!」  
「大好きな!」  
「ひーっ!」  
「おにいちゃんをいじめるやつは!」  
「ひぎゃ!」  
「ぜったい!ゆるさないんだからっ!」  
 
うわ、引っ掻き傷がみみずばれに。痛そう。いや、俺に弓を向けた連中だ。当然の報い。  
 
「おにいちゃんは!あたしがまもるんだからっ!」  
 
地面に突っ伏した男たち。仁王立ちの仔猫ちゃん。  
しかし、今の騒動の間にタヌキさんとヒトミは守る会の連中に連れ去られたようだ。  
 
「おにいちゃん!ぜんぶやっつけたよっ!」  
「あ、ああ…その、なんだ…ありがとう。すごいな、仔…タマミちゃん」  
「わーい!わーい!おにいちゃんに褒められた!褒められちゃった!」  
 
さっきまでの激しい怒りはどこ吹く風。天使の笑顔で俺に擦りよるタマミちゃん。  
その笑顔にどきっとしちゃうのは、俺が正常な男の子である以上、いた仕方ないのだ。  
 
「そ、そうだ…タヌキさん!ヒトミ!」  
 
タヌキさんとヒトミが危ない!もし二人に何も危害が無かったとしても俺のプライバシーの危機!  
 
「や、やつら、どこへ行った!?」  
 
早く捜さなきゃ。しかし。  
 
「ふぇ…ふにゃぁあ!ふにゃああああん!ああああん!」  
「うえっ!?な、なんで!?」  
 
さっきまで笑顔だったのに!?ネコ耳美少女はちょっぴり情緒不安定!?  
 
「ど、どうしたんだよ、いきなり」  
「だってぇだってぇ…こわかったもん。こわかったんだもんっ!」  
 
…そうか。そりゃ、そうだ。今は人間の姿だから忘れちゃうけど、  
あんな小さい仔猫が人間に立ち向かうとなれば、並大抵じゃない勇気が必要だったに違いない。  
 
「ごめん、それから…ありがとう」  
 
俺は泣きじゃくるタマミちゃんをそっと抱きしめた。  
なんにも出来なかった俺に、出来る事なんてその程度。  
俺のために頑張ってくれたんだ。少しだけ待っててくれよ、タヌキさん、ヒトミ。  
 
「えぐっえぐっえぐっ…!」  
 
そんなに泣くなよ。もう大丈夫だから。っていうか、君のおかげで、大丈夫だから。  
 
「ふぇ…っ!ひっくひっくひっく…!」  
 
肩をさする。頭を撫でる。あ、ネコ耳、暖かいな。  
 
「ひぇ…ひぇ…っく、ひぐっ…うぇっうぇっうぇっ…!」  
 
抱きしめる腕に力を込める。少しでも安心させてあげられるように。  
 
「うぇ…うぇえええん!うえええええん!」  
 
そろそろ、落ち着いてくれない…かなぁ?  
 
「うぇえ…うぇえ…ひっくひっく…ぐすぐすぐすっ…!」  
 
タ、タヌキさん…ヒトミ…大丈夫かなぁ。  
 
「ぐすっ…………ふぇえぇええぇえ…ん!ふぇ!ふぇええ!!」  
 
あー、その…そろそろ…  
 
「タヌキさん…ヒトミ…!」  
 
「何よ?」  
「あらあらまぁまぁ!」  
 
あ、あれ?二人とも…  
 
「お、お帰り」  
「はい、ただいま戻りました」  
「って呑気に挨拶するなー!」  
「ふにゃ?」  
「あ、あの…二人とも、無事だった、の?」  
「変なトコ触るやつがいたからひっぱたいてやったわ」  
 
GJだ、ヒトミ。  
二人の様子から、特に危ない目にあったとかは無かっただろう事が解る。  
俺はほっと胸をなでおろした。って事は残る懸念は…ごくり。  
 
「そ、そう…それで?話は聞いたの、かなー?」  
「聞いてやったわよ。キツネくんの昔話」  
「そ、それで、その、どうでした?」  
「別にぃ。あのね、私はキツネくんの、何?」  
 
ちょっとどきっ。えっと、恋人、とかじゃない、よね?  
 
「えっと、幼馴染…かな?」  
「その通り。だからね、今更って話ばっかりだったわよ」  
「そ、そう…」  
 
昔からずっと一緒に育った幼馴染。俺の事なんて、親よりよく知ってるんだ。  
では問題はタヌキさんの方だ…って  
 
「はぁ…」  
 
な、なに?その夢見るような瞳は!?  
 
「キツネくんの昔のお話…楽しかったなぁ…」  
「は、はい?」  
「キツネくんは、昔からキツネくんだったんですわねぇ…(うっとり)」  
「あ、あの?タヌキさん?」  
「この子、途中からずっとこの調子なのよ」  
 
と、ヒトミが呆れたようにぼやく。  
 
「おねしょの話とか、肝試しの件とか、ウサギのネタとか」  
「う、うわ!い、言わないで!それ!だめ!全部だめ!」  
「まーどの話を聞いても揺るぎないわ、このコ。幻滅どころか『キツネくん可愛いっ!!』ですって」  
「だって!だってだってだって!可愛いと思いません?おねしょして濡らしたシーツを隠そうとして森で…」  
「わーわーわー!!!やめてやめてーーーー!」  
「とまぁ、万事この調子だったからね。連中も調子狂っちゃったみたい」  
 
と、そこでくすりと笑うヒトミ。お、おかしくなんかないぞ!ゆ、許すまじ、守る会のヤツバラ!!  
 
「にゃーー!あたしも聞きたい聞きたい!おにいちゃんのお話、聞きたい!!」  
「って、タマミちゃん!?いつのまにそんな流暢に!?」  
「彼女、人間社会で暮らすノラネコだったんですから、元々言葉は理解出来たんですわ  
 人間の声帯の使い方がよく解らなかっただけで」  
 
…理屈は通っているよな、うん。  
 
「あたしのおにいちゃんの!昔のおはなし!聞きたい聞きたい聞きたいー!」  
「あたしの!?っていうか、いつまで抱き合ってるのよ!」  
「はっ!そ、そうですわ!私のキツネくんに何をするんですか!」  
「あんたのでも無ーーーーい!キツネくんは!わ、わた…し、の…(ぼっ)」  
「ひにゃっ!おにいちゃんはあたしのーーー!!」  
「あら?真っ赤ですわよ?ヒトミさん」  
「真っ赤だー!真っ赤!真っ赤!真っ赤っか!」  
「う、うるさいうるさいうるさーーーーーいっ!」  
「おにーちゃーんだぁいすきぃ!」  
「こらーひっつくなー!!」  
「んべーーーーーーーーーっだ!」  
 
えーっと。雨降って地固まる?ちょっと違うか。元の黙阿弥?これも違うか。  
 
とにかく。世はなべて事もなし。  
 
 
第3話、了。  
 

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