友達と駅前でショッピングという姉の予定は、今朝耳にしていたので知っていた。  
 
信也が駅前で姉を見かけた時、姉は友達とおぼしき女の子一人と、  
そして一目で不良かチンピラと分かる出で立ちの男数人と一緒にいた。  
男たちは歩道の上で姉と女の子の行く手を阻むようにして立っている。  
 
明らかにナンパだった。  
 
ナンパの仲裁や、不良の類いと関わり合うなどの経験は信也にはなかったが、  
助けない理由はなかった。足早に近づいていくと、彼らの会話が聞こえてきた。  
「いいじゃんか、お嬢ちゃん。カラオケでも行こうぜ」  
「行かないって言ってるでしょ!しつこいわよ!」  
「うるせえ!俺はそっちの嬢ちゃんと喋ってんだよ!」  
勇敢にも不良のリーダーらしき男に立ち向かい抵抗している女の子の後ろで、  
姉は目に涙をため怯えつつも、辺りを見回し誰かに助けを求めようとしていた。  
その視線が信也を捉えると、姉の表情には安堵の色が広がった。  
 
やっと姉のそばまで行きつき、割って入る。  
「二人に何か用ですか」  
あえて、淡々と言った。  
「あ?何だテメエは」  
リーダー不良は襟首を掴んできたが、信也は表情を変えず、  
「俺? 俺は……」  
姉を指で差して  
「こっちの彼氏」  
すぐには信じず、探るように信也の目を睨み返してきたが、  
やがて諦めたのかリーダー不良は視線を外して舌打ちすると、  
他の不良を引き連れて去っていった。  
 
「大丈夫? 姉ちゃん」  
不良たちが完全に見えなくなってから、顔をのぞきこんで姉に声をかけた。  
「……うん。ありがとう……信也」  
いくらか落ち着きを取り戻している姉の様子に信也は安心した。  
 
「あたし売れ残りかよ」  
笑えない冗談を言い放った女の子は近くで見てもやはり見覚えがなかったが、  
信也とは以前家に遊びに来た時に会っているらしく、  
「イケメンじゃん! カワイイ! モテるでしょ? 今からホテル行かない?」  
その発言のすべてに否定の意を示すと、  
彼女は姉にまたメールすると言って駅へと歩き去っていった。  
 
信也も姉と共に別の駅に向かい、電車に乗った。  
特に何も話さず黙ったままだったが、ずっと姉が手を握っている事に気づいた。  
止めに入った時からだった。  
「……信也。」  
よほど疲れたのか、姉は信也の肩にもたれ、安心しきったように眠っていた。  
 
おわり  
 

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