記録的な残暑が続くある日の夜
青く茂った公園の木々は、朝からの濃霧と霧雨で重くしなだれ
からみつくような重たい空気を作り出していた
重厚な雲の切れ目からは時折り月がのぞき、塗れた木々を妖しく輝かせる
ザクッ…… ザクッ……
細かい砂利を混ぜられた公園の土
重く湿ったその土を踏みつける音が近づいてくる
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ
足取りは決して軽くない
近づくにつれ、色々な音がその様子を伝えた
かすれた喉の苦しそうな呼吸
それと、スウェットのこすれる音
月の明かりがその人を捉えた
塗れたスエットがギラリと光る
上下そろえた銀色のナイロン製スエット
高価なものではないようだ
フードをしっかりと被り、大きめのサンバイザーまで備えた完全装備
この蒸し暑い中、これだけ着込めば息も荒くなるし、足取りも重くなるというもの
この大きな公園は一周するだけでも相当な疲労だ
中心の池を周回するメインストリートならまだ平坦な道のりだが
ここは公園の外周にほど近い、林道のようなコース
あまり整備もされず、外灯もまばら、月明かりがなければ相当走りにくい
もちろんこんな霧雨混じりの日に走っている人などいない
ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ
彼女は苦しそうな吐息を繰り返し、それでも一定のスピードをたもったまま
しっかりとした足取りで木々の中を駆け抜けた
彼女──香織は、時折りこの公園へと走りに来ていた
今日のようにできるだけ人気のない、蒸し暑い夜を選んで
ダイエットを兼ねた、彼女のひそかなお楽しみ
測ったように規則的だった香織のペースが急にぐぐっと落ちた
根元にベンチの備え付けられた木のそばで香織の足が止まる
ベンチには香織のものと思われるスポーツバッグが置いてあった
膝に手を付き、乱れた呼吸を落ち着かせると
香織は目深にかぶっていたスウェットのフードを脱いで、サンバイザーも取り払った
中からは後ろで一本に束ねた長い黒髪が現れた
フードの中で汗をたっぷり吸った髪は月明かりを艶やかに反射する
香織はそのままファスナーに手を伸ばすと、スウェットの胸元を大きくはだけた
汗が蒸気の塊となって立ち上る
クロスしたバックスタイルの黒いスポーツブラ
肌にぴったりと密着した薄手のそれは、まるで裸のように体のラインを如実にあらわす
乱れた呼吸に豊満なバストは大きく上下した
香織はその動きを抑えつけるように胸に手を伸ばし、乳房をぐっと強く握った
「ハァ……ッ」
不意に香織の口から甘い吐息が漏れる
ぐにゃりと変形した乳房
それを握る手のひらには黒いインキがベッタリとうつり
逆に乳房のほうは黒がまだらにはげていた
香織は黒く染まった手のひらを眺めると、さして気にも留めぬ様子で脇腹で手をぬぐった
そのままスウェットを脱ぎ去り、バッグに乱暴に詰め込んで足早にランニングへと戻った
月明かりも届かない暗いランニングコースに香織の姿が消えていく
闇に落ちるように消えていく