いつも通り人間界におりて来て、いつも通り俺が見回りを任されている町に問題がないか確認して、  
どうやらいつも通り問題なんてなさそうだとわかった俺はため息をついた。  
こう毎日毎日平和な日ばかりが続くと、俺までこの町特有の平和ボケムードに毒されてしまいそうだ。  
問題がないとわかっていながらこのあたりの見回りをしなければいけない俺の身にもなってほしい。  
うちの神サマはいったい何を考えてるんだ。というか、このあたりは平和すぎる。それこそ問題だろう。  
因みに、ここ以外の地域はそんなに平和ではないらしい。なんでよりによって俺がここの見回りなんだ。  
 俺にとっては不幸な、うちの神サマと平和ボケしたこのあたりの人間たちには幸運なことに、  
今日という日も問題なく終わりそうだ……。  
 と思った矢先、俺の視界に問題と呼べるものが映った。  
それは人間の女の子のような姿をしているが、明らかに人間とは異なる点があった。  
というか、どう見ても人間じゃない。悪魔だよなあれ。  
まず最初に目を引くのは背中から生えた大きな黒い翼だろう。  
闇を象徴するかのようなそれは、ぼんやりと差し込む夕日に対抗するように、黒く怪しい輝きを放っている。  
翼の先と生え際の中間あたりから上に向かって鉤爪が飛び出しているあたり、モチーフとなっているのはコウモリだろう。  
どこの宗教の神か知らないがあの子を創った神は馬鹿だ。コウモリの翼は腕が進化したものなのだから、背中なんかには生えていないはずだ。  
案外俺を創った馬鹿な神サマと同一の存在だったりするかもしれない。だとするとあの子は俺の姉か妹になるのか?  
視線を下に移すと、お尻から尻尾が生えているのが確認できた。先端の形状がハートマークのようになっていてかわいらしい。  
翼と同じように真っ黒なそれは、まるでそれ自体が意思を持った不思議な生き物であるかのようにゆらゆらと揺れている。  
あんなにしなやかな動きができるってことは、よっぽど尻尾の関節の数が多いんだな。  
次に目を引くのは身に纏っている衣装だった。  
冬場だというのに、大胆にもお腹を露出した格好は、見ているこっちが寒くなってしまう。  
服が上下に分かれているだけでなく、袖も本体とは分離していて、腋や太股も寒気に対して無防備だ。  
基調となっている色は、暖色の赤と光を吸収する黒なのだが……それでも寒そうな印象は拭えない。なんであの格好で平気そうにしていられるんだろう。  
 悪魔は手に何やら紙切れのような物を持ち、キョロキョロと何かを探している様子だ。  
何を探してるのか知らないが、どうせ暇だし手伝ってみてもいいかな。あるいはちょっかいを出してみようか。  
多分持っている紙切れは地図か何かだろう。きっと道がわからないんだな。  
そんなことを考えながら悪魔のほうに歩みを進めると、むこうがこちらに気づき、先に声をかけてきた。  
 
「ちょっとそこのあなた!」  
 
 むこうから声をかけられる理由は特に思い当たらない。こんな下っ端天使に何の用だろう。  
というか俺は一応天使なんだし、少しぐらい警戒してもいいと思うが……。  
あぁそうか、今は翼を折りたたんで服の中に収納してるんだっけ。  
こうすれば俺の外見は人間と変わらない。むこうには俺が人間に見えてるのかもな。  
ところで質量を無視して俺の大きい翼を収納できるこの服の構造は、どうなってるんだろう。  
俺を創るよりも、この服を創るほうに神サマが労力を使っているような気が……。  
 
「突然だけどさ、あたしと契約しない? 寿命の16分の1を渡せば願いを3つかなえてあげるわよ」  
 
 さっき俺がした予想は大きく外れた。あの紙切れは地図ではなく契約書だったのだ。  
 
「16分の1? 願い3つの代償にしてはずいぶん安くないか? それで釣り合うの?」  
 
「あたしは契約した相手の願いをノーリスクでかなえられるし、問題ないわ。寿命をちょびっともらえればいいの」  
 
 ふーん。そういうものか。  
にしてもこうして間近で見ると結構かわいいな。  
少し釣りあがった赤い目はなんだか強気な印象。寒そうな格好をしてるわりに肌の色は健康そうだ。  
うるおった薄ピンク色の唇はどこか色っぽい。全体的に幼そうな顔立ちをしているせいで余計に際立って見える。  
この衣装もけっこう似合ってる。やっぱり寒そうだけど。  
 
 
「ん? あたしの顔に何かついてるの?」  
 
 いきなり顔をジロジロ観察されて、悪魔はちょっと戸惑うような顔をした。  
その表情もまたかわいらしい。このままずっと見つめていてもいいけど、契約のほうに話を戻さないとな。  
 
「いや、なんでもないよ。ところでこの契約ってかなえられる願いの数を増やしてくれとか願うのはダメなのか?」  
 
「もちろんそれは禁止よ。他にもかなえられない願いはあるから、ちょっとこのへんを読んでね」  
 
 俺の意地悪な願いを跳ね除け、悪魔は契約書の禁止事項と書かれた欄を指差して、俺に差し出した。  
何とか契約の穴を突いて悪魔を困らせてやろうと思ったが、やはり対策されてるな。  
やはりかなえられる願いの数を増やすのは禁止だというようなことが書いてあった。  
悪魔を殺したり、ひどい目にあわせたり、遠くにとばすなどして、寿命の回収が不可能、もしくは困難な状態にする願いも禁止。  
というかこんなかわいい子を殺したりするのは、それこそ悪魔のすることだろう。  
あと契約の内容を変えてくれと願うのも禁止。  
そして寿命を延ばしてくれ、渡さなくてもいいようにしてくれ、などと願うのも禁止。  
さらに寿命を引き渡すのは最後の願いを言ってから1週間以内で、それ以上先延ばしにする願いも禁止。  
ここで一つの疑問が俺の脳裏を過ぎった。  
 
「なんだこれ。引き伸ばしても結局はとられるんだから一緒じゃないのか? 禁止する意味なんてあるの?」  
 
「あぁ、それ? この前契約してくれた人がずるい人でさ、寿命を引き渡すのを150年待ってくれって言われちゃったのよ。  
だからあんまり先延ばしにするのは禁止にしたの」  
 
 確かに俺が死んでから取りに来い。なんて言われても無理だよな。だからこのルールを作ったのか。  
そのずるい人間より先に俺がその願いを思いついていれば、悪魔を困らせてやることができたのに……。  
 
「ところで寿命の8分の1を渡すから願いを後3つかなえてくれとか願うのはダメなのか?」  
 
「それは願いの数を増やす願いだから無理だけど……頼むならもう一度契約してあげるわよ」  
 
 今のは微妙な点を突付いて困らせてやるつもりの質問だったんだが、悪魔は即答。  
ん? 今の会話で何か悪魔を困らせる方法が思い浮かびそうになったんだが……。  
おぉ、こう願えば寿命を渡さずに、何度も願いをかなえてもらうことができるじゃないか。  
もう一度禁止事項の欄に目を通すが、この方法なら前述したもののどれにも触れないし。  
前述したもの以外にも禁止されている願いはいくつもあるが、  
前述したもの意外は何度も願いをかなえてもらうこととは関係なさそうなものばかりだ。  
 
「もしも代価をなくせて、かなえられる願いの数を増やせるような穴が見つかったら、君はどうするの? やっぱり一方的に契約切ったりしちゃう?」  
 
「そ、そんなことしないわよ! というかできないわ。契約は絶対なの。」  
 
 心外だ。という風に悪魔は言った。どうやら一方的に契約を切られる心配はなさそうだ。  
 
「万が一そんなものが見つかったら、ちゃんとあなたの願いを何度もかなえてあげるわよ」  
 
 自分のことを毛ほども疑われるのは嫌だ。というような感じで悪魔が続ける。今ので言質を取った!  
 
「絶対にそんなもの無いけどね」  
 
 自信ありげにそう付け加えるが、俺が既に穴を見つけていると知ったら、悪魔はどんな顔をするだろうか。  
……今更だがこの契約は悪魔と天使の間でも成立するものなのだろうか。  
人間界に相手を探しにきてるんだから、人間の契約相手を探していると考えるのが自然だろう。  
俺が天使だと気づいていながら声をかけてきた可能性もなくなはいが、  
それならそれで人間界に天使がいることに反応してくれてもいいはずだ。  
 
 「ところで俺が人間じゃなくて天使だってことには気づいてる? 契約相手は人間じゃなくてもいいの?」  
 
 収納していた翼を思いっきり広げ、羽ばたく。やはり悪魔は俺が人間ではないことに気づいてなかったようで、  
顔に驚きの表情を浮かべる。が、俺に驚いた顔を見られるのを恥じたのか、すぐにもとの強気な表情を取り繕った。  
 
「も、もももちろん気づいてたわよ! 別に契約相手は人間じゃなくてもいいのよ」  
 
 なんてわかりやすい反応をしてくれるんだろう。その自覚があるのか、悪魔の健康そうな色の頬に少し赤みが差した気がする。  
 
「つ、翼だったらあたしだって負けてないわよ!」  
 
 そう言って悪魔は羽ばたき、翼を強調して見せた。発生した風が黒髪のショートを撫で、頭に生えた触角を揺らす。  
今気づいたが角じゃなくて触覚なのか。なんだか悪魔というより虫歯菌か何かに見えてきたぞ。  
先端の形状が3角形になってるとことかけっこうそれっぽいと思う。  
 
「で、契約はしてくれるの? してくれるならここにサインしてね」  
 
「俺、名前とか無いんだよな。なんて書けばいい?」  
 
「別に、あなたのことを指してれば本名じゃなくてもいいわよ。偽名でもなんでもいいの」  
 
 俺は小さく「天使」とサインした。これではあんまりな気もするが、俺は名前の無い天使なんだから仕方が無い。  
 
 
「これで契約は成立よ。さぁ願いを言って頂戴」  
 
 俺に穴を突かれて悪魔がどんな表情をするのか今から楽しみでたまらない。  
ニヤけてしまいそうになるのを堪えながら、俺は口を開いた。  
 
「3つ目の願いを言った後に、もう一度俺と契約してくれ」  
 
「願いを1個つぶさなくても頼めばまた契約してあげるわよ?」  
 
 悪魔はわざわざ俺が損をしないように教えてくれた。  
だが、確実もう一度契約を結ぶことができないと俺は都合が悪いんだ。  
願いを1つ潰してでも、もう一度契約することを確定させる必要がある。  
 
「いいから!」  
 
 俺がちょっと語気を強めると、悪魔はちょっと納得がいかないような顔で頷いた。  
確かに今の願いは意図を知らなければ不可解に見えるだろうな。  
 
「2つ目の願いは、寿命を引き渡すのを最後の願いを言ってから一週間後にすることだ」  
 
「え? さっき引き伸ばしても意味なんか無いって自分で言ったじゃない」  
 
 悪魔はますますわけがわからないというような顔をした。  
しかしこの願いを了承してもらわないと話にならない。  
 
「いいから!」  
 
 悪魔は渋々といった感じで俺の願いを了承した。よし、これで俺の勝ちだ。  
 
「了承……したよな?」  
 
「したけど……それが何よ? 変な願いばかり言ってどういうつもりなの?」  
 
 このへんでネタばらしといくか。たっぷり困らせてやる。  
 
「寿命を引き渡すのは「最後」の願いを言ってから1週間後だよな? 俺が何度ももう一度契約しろって願い続けたらどうなると思う?」  
 
「え……? どういうことよ?」  
 
 俺の口ぶりで何かまずい願いを了承してしまったらしいことは察したようだが、  
まだどんな風にまずいのかはわかりかねているようだ。  
 
「ほら、何度も契約するってことは何度も願いを言うってことだろ? だから「最後」はこないんだよ。 俺が寿命を渡すことはないんだ」  
 
「え? あっ?! だ、ダメよそんなの! それ禁止!!」  
 
 自分がどういう状況にいるのか完全に把握した悪魔が慌て出す。  
でももう了承させちゃったもんね。今からそんなこと言っても無駄だ。  
 
「この契約書には禁止だなんて書いてないみたいだけど? 穴を見つけたんだから約束どおり何度も願いをかなえてよ」  
 
「ダメダメ! お願いだから見逃して!」  
 
 顔の前で両手を合わせながら、悪魔が懇願してくる。そ、そんなかわいいことしたって無駄だからな。  
 
「じゃ、じゃぁ代価なしで願いを10個かなえる契約を結んであげるから! それで妥協して! ね? いいでしょ?」  
 
 必死に懇願する様子があまりにもいじらしいので、その問いにうんと頷いてしまいそうになるが、ぐっとこらえる。  
無限に願いをかなえてくれると確かに悪魔は言ったんだ。ここで妥協してはいけない。  
 
「ん? 願い10個? 契約の内容はそっちが決められるのか? やべっ、まったく同じ内容の契約をもう一度って願うべきだったかな」  
 
 それを聞いた悪魔は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、意地悪そうな笑みを浮かべる。  
 
「そっか……それもそうね。あたしが次に契約をするときに契約内容を変えたり禁止事項を書き足せばあなたはお終いね!」  
 
 まずい、抜かりがあったか。もう一度契約しろと願うのは禁止とか書き足されたら、願い2つを無駄に潰して寿命を取られてしまう。何とかして打開しないと。  
 
「というか、もう一度契約するということだけが決定してるんだから、あたしが無茶な契約をふっかけてもあなたは拒否できないはずよね?」  
 
「えっと……どゆこと?」  
 
 「あなたが契約するように願ったから、あたしとあなたが近い未来に契約をすることは確定したけど、  
契約の内容は確定してないわ。だから、あたしはどんな契約をあなたにふっかけてもいいわけ。おわかり?」  
 
 悪魔がなんだか怪しい雰囲気の新しい契約書を書き綴り始めた。もしかして俺ピンチ?  
 
「できたわ。これはあたしがあなたを一生召使いとしてこき使える雇用契約書よ。あたしをタダ働きさせようとしたんだから、  
これくらいの代償は当然よね?」  
 
 悪魔の口元がますます吊り上る。ま、まずいな……この状況を何とかするには……。  
 
「願いはあと1個残ってるんだし、その願いを使って1個目の願いを取り消させてあげてもいいわよ? でもそうすれば  
何も願いをかなえられずに寿命だけをあたしに渡すことになるわね」  
 
 ……って願いがあと1個残ってるんだから簡単な話じゃないか。  
 
「次にする契約の内容を今回のとまったく同じものにしてくれ。これが俺の3つ目の願いだ」  
 
「あっ?! それはダメ! お願いだからやめて!」  
 
 意地悪そうな表情から一転し、悪魔が困り顔になる。  
むこうはむこうで俺を召使いにしようとしたんだし……もっと意地悪してやる。  
 
「だってそうしないと俺は意地悪な悪魔の召使いにされちゃうわけだしなー。こうせざるをえないだろ?」  
 
「い、今のは……その……じょ、冗談よ! ちゃんと願いを10個かなえてあげるからそれで妥協して! お願い!」  
 
 さっきの意地悪そうな笑みは本気っぽかったし、正直信用できないな。俺は首を横に振る。  
 
「少ない代価でかなえてあげてるんだから見逃してくれてもいいじゃない! どっちが悪魔なのよ! この意地悪ー!」  
 
 それとこれとは別だろう。俺が見逃してあげたとしても、本当に願いを10個かなえてくれるのかは保障されてないし、  
契約の内容をこっちがいじるのは禁止だと書いてあるんだから、「願いを10個かなえる契約を結べ」と願って保障させることもできない。  
 
「俺の3つ目の願いは……」  
 
「ああ……それだけはダメ……お願いだから……」  
 
 口を開いた俺を見て、悪魔が悲痛な声を出す。願いを言うのを躊躇ってしまうから本当にやめてくれ。  
 
「次にする契約の内容を、今回のとまったく同じものにすることだ」  
 
 俺が躊躇って本当に願いを言えなくなる前に、一気に言い切ってやった。  
 
「うぅ……わかったわよー! タダ働きすればいいんでしょ! すれば! もう好きにして!」  
 
 もうやけくそだ、といった感じで悪魔が叫んだ。途端に悪魔の持っていた雇用契約書が、今俺が持っている契約書とまったく同じものに変わる。  
 ノーリスクでかなえられるのに、タダ働きさせられるのはそんなに悔しいことなのかな。  
ノーリスクなら別に何度もかなえさせられても、そんなに損するわけじゃないと思うが……。  
 
 衣と食は神サマがいちおう何とかしてくれてはいるからいいや。俺は願いを使って住を確保することにした。  
さて、どこに俺の住む場所を作ろうかな……。そうだ、あそこに行ってみよう。確か景色が綺麗なとこがあったはずだ。  
 よし、このへんなら俺の部屋を作っても誰の邪魔にもならないし問題ないんじゃないか。  
瞬く間に出来上がった俺の部屋、というより俺の家は正直神サマが用意した天界の環境より快適そうに見えた。  
住む場所がほしいと願っただけなのに、しっかりと家具までそろってるし、  
風呂場やトイレもちゃんとあるみたいだ。ここから見える寝室にはふかふかのベッド、俺たちが今いる部屋の中心にはでっかい炬燵がある。  
クリスマスが近いからか、ツリーまで飾ってある。やけに親切だな。  
 
「君、悪魔だよね? クリスマスツリーが飾ってあることに抵抗は無いのか?」  
 
「別にあたしはキリスト教の悪魔じゃないし……キリストを嫌う理由は特に無いわよ。  
あたしがキリストの誕生日を祝っても、何の問題も無いわ」  
 
 そういうもんなのか。悪魔ってくらいだからこういうのは嫌いだったり苦手だったりするんじゃないかと思ってたが、どうやらそれは間違いだったらしい。  
じゃぁどこの宗教の悪魔なんだとか、この家の電気はどっからきてるんだとか聞こうと思ったが、やっぱりやめた。  
こんないいものを俺にくれた上に、これからも願いをかなえてもらえちゃうんだ。その前にお礼を言わないとな。  
にしても本当に天界よりこっちのが快適そうだな……神サマもっと頑張れよ……。  
 
「すっげぇ住みやすそうな家だな……ありがとう! こんなところに住めるなんて夢みたいだ」   
 
「どういたしまして。ねぇ、あたしもここに住んでいい? そしたらあたしに意地悪したことを許してあげてもいいわよ」  
 
 なるほどね、この家具とかは悪魔用でもあるわけか。よく見ると女性がよく使いそうなものもあるし、家のインテリアとかもかわいらしいものが多い。  
 
「ん? 自分の家を自分で建てることはできないの?」  
 
 こんなものをすぐに作れるんだから、自作すればいい。この家にこだわる理由はないだろう。  
 
「あたしは契約した相手が願ったことしかかなえられないわよ。正直あなたがすごく羨ましいの。ね? こんな広い家なんだからあたしも住んでいいでしょ?」  
 
 そういうものなのか。相手の願いはノーリスクでかなえられるのに、その力を自分のためには使えないってのはちょっと悲しいな……。  
 
「いいよ。それにこの家は俺だけが住むには広いよな」  
 
 俺が返答すると、悪魔が顔を輝かせた。  
 
「本当? やったぁ! ずっと束縛されてこき使われるみたいなのを想像してたけど、こうやってあたしも願いの恩恵を受けられるなら案外悪くないかも」  
 
「別にそこまでしようとは思ってないけど……それに俺が「6日以内にもう一度」契約しろとか願えば、6日間君は自由に動けるわけだろ?」  
 
「それもそうね! よかった〜。寿命の回収に出かけたりとか自由にできるのね」  
 
 俺が悪魔をそんなに酷使するつもりがないとわかると、悪魔はさらに顔を輝かせた。頭に生えた触角がうれしそうに揺れる。  
 ところで、あの虫歯菌とかの頭に生えてそうな触角にはどんな役割があるんだろうか。  
 
「ところでその触角は何のために生えてるの? 何か役立つのか?」  
 
「あぁ、これ? こうやって先っぽのとこを押し当てると、相手の考えてることと、今感じてることが読めるのよ」  
 
 確かに取引をしてるんだから、相手の心を読めたら何かと便利だよな。  
相手が妥協するギリギリのラインを探って、代価を釣り上げたりとか……。  
って、おい。何勝手に俺の頭に触角を押し付けてんだよ。  
 
「うわわわ! 恥ずかしいからやめろ!」  
 
 俺が、触角を振りほどくと、悪魔は口を尖らせた。  
 
「何よー。ちょっとぐらいいいじゃない。ケチ」  
 
 心の中を読まれるなんて、それほど恥ずかしいことは無い。ダメなものはダメだ。  
 
「あとあたしはこれを代価を釣り上げるのに使ったりはしないわよ。もっと違うことに使うわ」  
 
 しかもしっかり俺の心の中を読まれてるし……。恥ずかしいから俺の考えてたことを口に出したりしないでくれ。」  
 
「じゃぁどう使ってるんだ?」  
 
「あなたにはわからないと思うけど、これで相手のドロドロした欲望とかを読むのってけっこう気持ちいいのよ。  
あと、願いがかなったときの満足感とかを読むのもあたしは大好きよ」  
 
 代価をもらって相手の願いをかなえたりしてれば、必然的に人間たちの欲望を目の当たりにすることになるだろうし、  
欲望を読み取って快感を得られるように創っておくのはいい考えだな。  
この辺はちょっとぐらいは評価できる。この子を創った神はうちの神サマほど馬鹿ではなさそうだ。  
 
 それから俺は、悪魔と世間話をしたり、夕飯をすませたりした。  
新しく宗教を立ち上げたどっかの神が信者を大量に獲得したとか、会話の内容は他所の宗教のものが多かった。  
食事をすませると、悪魔は風呂場に向かった。  
 
「ごちそうさま〜。ちょっとお風呂入ってくるわね」  
 
「ん?いってらっしゃい」   
 
 俺は食器を片付けながら、悪魔を見送った。  
 
「わかってると思うけど、覗くのは禁止だからね」  
 
 風呂場に向かいながら、悪魔が付け足した。  
 悪魔の裸か……。たしかにそれは魅力的だと思うけど覗きはよくないよな。うん。  
 
 だが、気が付くと俺は風呂場の手前にある洗面所の前にいた。食器を洗っていたはずなのに……何故だ。  
 そ、そうだ。風呂のなかで眠ってしまう人もいるんだし、悪魔がそうでないとは限らないじゃないか。  
うん。俺は悪魔が眠ってないか確かめるために来たんだ。少しもやましい気持ちなんてない。  
 洗面所を見渡すと、悪魔の脱ぎ散らかしとは別にもう一着同じ服が用意してあった。  
確か自分の願いはかなえられないんだったよな……?  
住む場所がほしいって願いをどう解釈すれば自分用の代えの服を出せるんだ……?  
しかも湯暖簾(ゆのれん)には悪魔湯とか書かれてやがる。  
悪魔湯って何だよ悪魔湯って。悪魔だったら男が一緒に入ってもいいのかよ。  
悪魔湯なんか作っちゃったり、風呂に入った後の代えの服を用意してたり、  
俺に許可を求めてきた割には、最初からこの家を自分も利用する気満々じゃないか……。  
突っ込みどころは色々あるが、俺は何よりも悪魔湯が用意されてるのに、天使湯は用意されていないことに突っ込みたかった。  
 
「あ……ん……」  
 
 風呂場に悪魔の声が響いた。思わずそちらに耳を傾けてしまう。  
 
「ん……くぅ……い、今はあいつも家の中にいるんだし……ひゃぁ! が、我慢しないと……」  
 
 徐々に、悪魔の声に熱がこもり、音量も上がっていく。  
そして俺はとんでもないことに気づいた。  
なんと風呂場と洗面所の境目にあるものが湯暖簾しかないのだ。  
これじゃちょっと屈めば中が丸見えじゃないか……。  
 
「んっ……うぅ……だ、ダメ……あぁっ……」  
 
 中で何をしているのかは見なくとも大体想像がつく。  
だからこそ俺は体の底から湧き上がる黒い欲望に打ち勝つことができなかった。  
 そもそも悪魔というのは宗教によっては人を誘惑して精を絞り取ったり、たぶらかして悪道に誘ったりする存在なのだ。  
こんな覗いてくれといわんばかりの状況を作って俺を誘惑する悪魔のほうが悪い。  
天使の俺に覗きだなんて背徳極まりない行為をさせるなんて流石だよ全く。  
さて、そんな悪い子がお風呂で何をしているのか、拝見させていただくとするか。  
 にしてもこうしてると昔神サマの風呂を覗いたことを思い出すな……。  
顔を真っ赤にしてきゃーきゃー叫ぶ神サマはかなりかわいかった。  
 
「おぉっ……むぐっ」  
 
 中の光景に思わず声を漏らしてしまい、慌てて口を押さえる。  
 もうもうと沸き立つ湯気、湯に濡れた黒髪、そして何よりも艶かしい悪魔の裸体。  
視界に映った何もかもが俺の中の恥ずべき感情を刺激する。  
腋から腰にかけてのほっそりとしたラインとへっこんだお腹に大き目のお尻。まさに理想の体型だ。  
こうして改めて見てみると、けっこう胸あるな。  
背丈からして年齢は……少なくとも肉体年齢のほうは俺とおなじくらいなんだろうが、  
そのわりにはけっこうなボリュームがある。巨乳というほどではないが、俺にはこの大きすぎず小さすぎずのサイズがベストに見える。  
そんなバストの先端にくっついた乳首は、唇と同じきれいな薄ピンク色をしている。  
決め細やかそうな肌は、ここから見ているだけでもすべすべとした感触が伝わってくるようだった。  
さっきまであんな寒そうな格好で外をふらふらしていたとはとても思えない。あんな格好でいたらすごく肌に悪影響がありそうなもんだが。  
秘所からはこんこんと泉のようにえっちな液体が湧き、、知らぬうちに俺の激情を煽っている。  
 
「ひゃぁ……あっ……あんっ……」  
 
 悪魔がその手で触れているのは、秘所ではなく自身の長い尻尾だった。  
指がさわり心地のよさそうな尻尾を擦り、握り、扱くたびに悪魔の口から淫らな声が漏れる。  
あっちじゃなくて尻尾で自慰をしているとはちょっと予想外だったが、  
こうしてみると尻尾も秘所と同じくらいえっちな器官に見えてしまうから不思議だ。  
 
「あぁっ! あ……あ……んぅっ!」  
 
 もう悪魔は家の中にいる俺に声を聞かれる可能性など全く考慮していないようだ。  
激しく尻尾を扱きあげ、愛撫の激しさに負けないほど激しく喘いでいる。  
ここで悪魔は尻尾から一旦手を離し、たわわに実ったおっぱいを弄り回し始めた。  
 
「ん……ぅ……」  
 
 尻尾にしていた激しい愛撫とは打って変わって、優しく胸を揉みしだいている。  
胸は尻尾ほど敏感ではないのか、喘ぎ声のボリュームはさっきよりも低いが、それでも十分に悪魔の声は熱を帯びていた。  
 
「ふあぁっ!」  
 
 悪魔の手が乳首の刺激にシフトした。途端に悪魔の口から大きい声が漏れる。  
 
「あぁ……も……もうダメ……」  
 
 淫らな表情を浮かべ、夢中になって自信の性感帯を弄り回す悪魔は、もう俺の知っている悪魔ではなかった。  
俺の視界に映っているのは、性を貪り、けしからん肉体と喘ぎ声で俺を誘惑するメスの姿だけだ。  
 
「ああぁぁっ!!」  
 
 なんと悪魔は尻尾を自身の秘所にあてがい、そのまま押し込んだ。  
膣の肉が尻尾の先端をギュウギュウと締め付け、悪魔に快感を与えているようだ。  
 
「んっ……! も、もう我慢できな……あっ……!」  
 
 とうとう自身の欲望に完全に屈服してしまった悪魔は、そのまま激しいピストンを始めた。  
 あんな関節の多い部位をズッコンバッコンしたら脱臼とかするんじゃないか……?あの子の尻尾を性感帯に創った神は馬鹿だ。  
なんて突っ込みを入れる余裕は俺にはもうない。自分の欲望に抗おうともせず、ただただ悪魔を貪るように見つめるだけだった。  
 
「あぁ……もうダメ……あっ! ああああぁぁぁーーっ!!」  
 
 風呂場に声をガンガン響き渡らせ、悪魔が全身をびくびくっと痙攣させた。どうやら昇天したようだ。  
 恍惚とした表情を浮かべ絶頂の余韻に浸っているようだったが、案外すぐに持ち直し、再び体を洗い始めた。  
 体を洗った後に悪魔は湯船に浸かってしまい、屈んだ姿勢では裸が見えなくなってしまったので俺はその場から退散した。  
 ギンギンになってしまった俺の愚息をどう処理しようか……。悪魔が家の中にいるんじゃ、こっちだってオナニーができやしない。  
うう……俺のここがこんなになってるのは悪魔のせいだ。悪魔の誘惑に負けて覗いてしまった俺も悪いが、  
覗いてなくとも声を聞くだけで勃起はしてしまったに決まっている。  
 
 暫くして、悪魔が洗面所のほうから居間に姿を現した。  
 嬉しそうに触覚を揺らし、とてもさっぱりした表情をしている。  
 爽やかなシャンプーの香りが俺の鼻腔を擽り、気分を和ませた。  
 
「お風呂あいたわよー。ごめ〜ん。気持ちよかったからちょっと長風呂になっちゃった」  
 
 顔の前で両手を合わせ、悪魔が軽く俺に謝罪した。  
 にしても……この格好はなんとかならないだろうか。  
さっきから悪魔の裸と淫らな表情が頭にこびりついてはなれない。  
こんな露出度の高い服を着ていたら服の上からでも容易に裸が想像できてしまう。  
 
 
「随分かかったな。じゃ、俺入るね」  
 
 なんだか俺のほうが恥ずかしくなってきた。耐え切れなくなった俺は悪魔から離れようと、さっさと風呂場に行くことにした。  
 
「あたしが願いをかなえて出してあげたお風呂なんだから、あたしに感謝しながら使いなさいよー」  
 
「うん。ありがとう。住む場所がほしいって言っただけで風呂までつけてくれちゃうなんて、本当に親切だな」  
 
 その風呂は悪魔湯だなんて湯暖簾がかかってたりするんだけどな。  
 
「それほどでもあるわよ。もっと感謝しなさい。実はあたしがお風呂がほしいから出しただけなんどけどね」  
 
 やっぱり最初から自分もこの家に住んだり、利用したりする気満々だったんだな。  
一生代価をもらえずに願いをかなえ続けることになっても、それを逆に利用してしまおうだなんて、  
あの短時間で思いつくのは素直にすごいと思う。俺だったらわざと辛うじて住める程度の家を出して相手に意地悪をしてやるけどね。  
 ところで、あんなに喘いでいたのに、それを俺に聞かれなかったのかどうか心配する様子が皆無なのはどういうわけだろう。  
あんなに大きい声を出しておいて、自覚がないなんてことは考えられない。  
 
「じゃ、行ってくる」  
 
 そう言って、俺は逃げるように風呂場へ向かった。  
 
 
 
 風呂場に行っても、頭から悪魔のことは消えなかった。  
むしろさっき悪魔が自慰をしていたのと同じ場所にいることで、悪魔のことを意識してしまう。  
 気が付いたらボディーソープで頭を2回も洗っていた。おいおい大丈夫かよ俺。しっかりしろ。  
 十分温まったしもう出ようかな。  
 今気づいたが、この湯暖簾はリバーシブルなんだな。裏表をひっくり返せば天使湯になるのか。  
 洗面所をよく見ると、俺の分の代えの服もしっかりと用意されていた。  
なかなかいけてるじゃないか。黒と赤の組み合わせはかっこいい。  
でもこれよくみたらパジャマ……? 黒と赤ってパジャマとしてはどうなんだろ。  
悪趣味にも思えるけど、かっこいいからいいや。  
 鏡を見てみると、俺の白い翼とはミスマッチに見える。  
俺が金髪じゃなくて黒髪に創られてたら多分今よりは映えたろうに……。服がかっこいいだけに、俺のせいで服の魅力を完全に引き出せないのは残念だ。  
 
 居間に戻ってみると、悪魔の姿は無かった。  
 
「おーい? どこにいるんだー?」  
 
 この広い家の中を探すのはちょっと大変だ……と思ったが居間から近い寝室にむかうと、案外あっさり悪魔が見つかった。  
 
「あ! その服どう? 気に入った?」  
 
 俺を見るなり悪魔は俺に感想を求めてきた。  
 
「けっこうかっこいいじゃん? ありがとう。でも何で意地悪をした俺にここまでしてくれるんだ?」  
 
 親切はうれしいが、なんでこんなにも親切なのか正直疑問だ。  
 さっきも言ったが、俺が契約しようとした相手に契約の穴を突かれて束縛されるようなことがあれば、間違いなく俺は相手に意地悪をする。  
間違っても相手に親切なんてしない。  
 
「言ったでしょ? あたしは願いがかなった時の満足感とかを読むのが大好きなのよ」  
 
 触角をゆらゆら妖しく揺らしながら、悪魔は答えた。あくまでも自分が気持ちよくなるため、か……。  
契約して代価を受け取ったりする生き物なんだし、自分の利益を常に気にするのは当然っちゃ当然かな。  
 
「あと、やっぱり契約してくれた相手が喜んでくれたほうが嬉しいし……相手の要求が意地悪なものでもね」  
 
 契約相手が喜ぶと自分も嬉しく感じるようにできてるのか。  
この子はちゃんと自分の役目を全うするように創られてるんだな。  
うちの神サマも俺が見回りの仕事を退屈に感じないように創ってくれてれば……。  
 
「あ、そうだ。もう一度契約をしてあげる約束だったわね。はい、これ」  
 
 悪魔が契約書を差し出した。ここで俺に願いがかなえほうだいなことを思い出させ、もっとよろこばせる作戦か。  
作戦の効果もあって、俺の中ではギラギラした欲望が渦巻いている。今の俺の心を読んだら悪魔は大喜びするだろう。  
 
「お、あんがと。1個目の願いはもう一度契約すること……でいいよな?」  
 
 契約書と同時に差し出されたペンを取り、ちゃっちゃと契約を成立させ、俺は悪魔に言った。  
最初のときとは違い、悪魔は頷いて俺の願いを快く了承した。  
 
「オッケー。了解。じゃ、読ませてね」  
 
 待てよ……? 俺の心の中を読まれたら、さっき俺が覗きをしたこともばれるのか?  
ま、まずい。俺は布団の中に隠れ、悪魔の触角から身を守った。  
 
「何よ〜。ちょっとぐらいいいじゃない。お願いだから読ませてよ〜! ね?」  
 
「は、恥ずかしいからやっぱりダメだっ!」  
 
 女の子に俺のスケベ心を読まれるとかどんな羞恥プレイだよ。  
無理無理。悪いが心を読むのは諦めてもらおう。  
 
「何よ〜。読まれてまずいことでも考えてるの? ここベッドだしね。ベッドの上で男女がすることと言ったら……」  
 
「な、何言ってるんだよ!」  
 
 からかうような口調で、悪魔が俺を誘惑する。もうそんな誘惑には乗らないぞ。俺は布団の中にもぐったまま、悪魔と距離をとった。  
 
「ところで……ねぇ。」  
 
 からかうような口調からは一転、悪魔の声が少し小さくなった。  
声の調子から、見なくとも悪魔がもじもじしていることがなんとなくわかる。  
 
「あの時さ、あたしの声……お風呂の外まで聞こえてた?」  
 
 ……聞かれてしまった。ここは正直に答えるしかないな……。  
 
「うん……聞こえてた。ごめん」  
 
 布団から顔を出すと、悪魔と目が合った。悪魔の顔が見る見る真っ赤に染まっていく。  
やっぱり俺に声が聞こえてたかもしれないという自覚はあったんだな。  
 
「やだ〜っ! も、もうダメ! あたし恥ずかしくて生きていけない!」  
 
 そう言うなり、今度は悪魔が布団にもぐりこんだ。  
布団の中で手足と翼をばたつかせる様子は、庇護欲と加虐欲を同時にそそる。正直すごくかわいい。  
 
「も、もしかして覗いたりとかは……? してないよね! ね! ……ね?」  
 
 ここで嘘ついても相手は心を読めるんだから意味ないよな……。  
 
「……ごめんなさい」  
 
「〜〜っ! えっち! あたし恥ずかしくて死んじゃうよー!」  
 
「覗いたのは悪かったけど……俺がいるのにあんな大声で喘ぐのもダメだろ」  
 
「やめてぇ〜っ! 言わないで! 恥ずかしくてどうにかなっちゃう!」  
 
 正直もっと言って恥ずかしがらせてあげたいが、流石にここで追い討ちをかけるのはまずいだろう。  
 
「そ、そりゃあたしも悪かったけどさ……覗くのは禁止だって最初に言ったじゃない」  
 
「ねぇ……あたしの裸見てさ、興奮した?」  
 
 悪魔が布団からひょっこりと顔を出した。  
顔はもう俺が今着ている服に負けないくらい真っ赤になっていて、目尻には少し涙が浮かんでいる。  
 
「え? そりゃ勿論したけど……ごめん」  
 
 悪魔の口元が釣り上がる。俺は何か変なことを言ったか?  
 
「じゃぁ、あなたの性欲を読ませて。そしたら許してあげる」  
 
 ……性欲は人類3大欲求の1つだし、欲望を読むのが大好きな悪魔がそれを読みたがるのはわかる。  
でも自分の裸に興奮してる相手から読むのはどうなんだ。それで相手を許しちゃっていいのか。  
にしてもさっきまで布団にくるまって悶えてたのに、随分と立ち直りが早いな。  
 
「恥ずかしいからやめてくれよ……」  
 
 俺はいちおう天使なんだし、このような感情は押さえ込むべきなのだ。  
今頃手遅れだろうが、そんな恥ずべき感情を女の子に読まれるだなんてたまらない。  
 
「あなたも恥ずかしい思いをすればあいこでしょ? いいから早く読ませなさい!」  
 
 そう言うなり悪魔は俺の頭に触角を押し当ててきた。少しこつこつした感触が俺の髪を掻き分ける。  
 恥ずかしいが悪いのは俺なんだし、これだけで済んでありがたいと思うべきだ。  
 
 えっと……悪魔が読みたいのは俺の欲望なんだから、俺は悪魔の裸を思い浮かべるなりしたほうがいいのか?  
もう俺がえっちなのは悪魔にはばればれなんだし、もう悪魔の前では開き直ってしまおうか。  
 まずは風呂場で見た悪魔の胸を頭の中に思い描くことにする。  
悪魔が自分の胸を揉んでいたところを見る限りじゃ、かなりやわらかそうだったな……。  
けっこう大きいし、手触りもよさそうだし、乳首の感度もよさげだった。  
そういえば乳首の色は薄ピンク色できれいだったな。  
 
「は、恥ずかしいからそんな鮮明に思い出さないでよ〜!」  
 
 そう言いながらも、悪魔はどこかうれしそうな表情をしている。  
やっぱりえっちなことを考えていたほうが、悪魔は喜ぶんだな。  
 ところで鮮明に思い出しているかどうかがわかるということは、悪魔は相手の頭の中に思い浮かべられた映像や画像も読めるんだろうか。  
 
「あたしからは見えないけど、鮮明に思い出してるかどうかはわかるわよ」  
 
 俺が疑問を口に出す間もなく、悪魔が返答した。  
やっぱり俺の心は完璧に読まれてるんだな……。  
胸の次はやっぱりあそこだよな。悪魔の恥ずかしい部分であり、  
同時に男を興奮させる器官であるそこを、頭の中に強く念じる。  
 
「そ、そこはダメ! やめて〜!」  
 
 頬を赤く染め、恥じらいながらも喜びを露にする表情が俺のツボにはまった。  
かわいすぎるだろこれ……。本人を前に悪魔の痴態を想像していることからも、俺の興奮は最高潮だ。  
悪魔にもっとかわいい表情をしてもらうために、よりくっきりと、鮮明に悪魔の性器を思い浮かべる。  
ぱっくり開いた割れ目に、勃起したクリトリス、そして垂れ流される愛液……。  
 
「わーバカバカ! やめてってばこのえっち! まぁえっちなほうがあたしはうれしいんだけども……」  
 
 なかなかいい反応。俺がえっちなほうがいいなら、期待に応えてやろう。  
 お次は尻尾を性器の挿入して自慰をしていたところを頭に思い浮かべてやる。  
 
「や、やめて〜! それだけは思い出さないで!」  
 
 そんなことを言ったって走り出した俺の思考はもう止まらない。  
尻尾を激しく出し入れして淫らな表情を浮かべる悪魔の姿を、最新カメラでも自信を無くすほどに、鮮明に思い浮かべる。  
 
「もう! なんであたしのほうが恥ずかしい思いをしなきゃいけないのよ〜!」  
 
 たまらず悪魔が触角を離した。  
 
「気持ちよかったからいいけど……次は覗かないでね? 絶対よ?」  
 
「それは悪かった。ごめん。でもあんなに喘がれるとどうしても気になるし……」  
 
「お願いだからそのことは忘れてよ〜! あたし恥ずかしくて死んじゃう……」  
 
 恥じらいながら懇願する姿は悪魔のかわいさを俺に再認識させた。  
なんというか俺にもっと意地悪をさせようとする何かがある。  
 
「でも家に男がいるのにあんなことをするのは……」  
 
「わかったからそれ以上は言わないで! お願い……」  
 
 本気で恥ずかしがってるみたいだし、そろそろ意地悪はやめないとな……。  
 
「あたし、尻尾がすごく弱くてさ……触ってると我慢できなくなっちゃうの。悪いけどあたしがお風呂に入ってるときは声が届かないところに居てくれない?」  
 
 だからなんでそこで俺をドキドキさせるようなことを言っちゃうんだよ。  
 
 俺の心の変化を感じ取ったのか、悪魔はまた俺に触角を伸ばした。  
 
「欲望ゲット〜♪。やっぱりこういうこと言うと興奮するの?」  
 
「俺も悪かったけどこれは恥ずかしいって! もう許してくれよ〜!」  
 
 なんてったって心の中を見られるのだ。裸を見られるどころの騒ぎではない。  
今俺の愚息がビンビンになっていることも、悪魔には筒抜けなのだ。むしろこっちのが裸を見るよりタチは悪いんじゃないか。  
そんな思考も、悪魔が次に起こした行動によって吹き飛んだ。  
 
「ちょっと恥ずかしいけど……ほら、こんなこともしちゃうわよ」  
 
 なんと悪魔は胸のふくらみを俺に押し付けてきた。服越しに伝わってくる感触に俺はもうメロメロだ。  
汚いぞ。これじゃ俺は逃げたくても逃げられないじゃないか。  
 
「あら? あなたのここ、さっきより硬くなってきたみたいね」  
 
「わかってても言わないでくれよ〜! もう俺の方が恥ずかしくて死にそうだよ」  
 
「そんなこと言わずにさあ、ほら、い、今なら特別に触らせてあげてもいいわよ? だからもうちょっとだけ読ませて? ね?」  
 
 悪魔がぐいぐいと俺に胸を押し付ける。これに触ってもいいだと? なんて魅惑的なお誘いなんだ。  
でも本当にいいのか? さっきは風呂場のことを話題に出すだけで、顔を真っ赤にしていたのに。  
 
「自分じゃ気づいてないかもしれないけど、あなたってけっこう欲深なのよ? あなたの欲望は恥ずかしい思いをしてでも読み取る価値があるわ」  
 
 つまり俺が悪魔の胸を触るというのは、お互いに快感を得るための行為なのだ。  
恥ずかしいのはお互い様だし、もう触ってしまってもいいんじゃないか……?  
 
「さ、触るなら早くして! あたしのほうが恥ずかしさに耐えられなくなっちゃう……」  
 
 悪魔が顔を真っ赤にして催促する。  
どこの宗教の悪魔か知らないが、やはりこの子も俺を誘惑して背徳的な行為をさせる、ろくでもない悪魔だったようだ。  
そして俺は悪魔の誘惑に抗う術を持たなかった。いいだろう。その誘惑に乗ってやる。  
だが俺が触るのは胸じゃなくてその黒くしなやかな尻尾のほうだ!  
 
「ひゃあ! あ、あんっ……尻尾はダメ……!」  
 
 悪魔のお尻に手を回し、尻尾を掴むと、悪魔はますます俺の激情を煽るような声を出した。  
 
「んぁ……や、やめて……! 尻尾触られたらあたし我慢できなくなっちゃ……あっ!」  
 
 またしても悪魔がかわいい声で俺を誘惑する。  
オーケー。とことん誘惑に乗ってやろうじゃないか。  
 相当な量の関節があるであろう尻尾を、俺の手でぐにゃぐにゃと曲げ、強弱をつけながら握る。  
 
「だ、ダメぇぇ……! ああんっ! 尻尾は許して……!」  
 
 快感に耐え切れなくなったのか、悪魔がその場に崩れ落ちる。同時に触角が俺の頭から離れた。  
俺が尻尾を弄る様子が良く見えるように、悪魔を仰向けにしてやってから、尻尾弄りを再開する。  
 
「んっ! こ、声出ちゃって恥ずかしいから……ああっ! 尻尾はやめて〜!」  
 
「じゃぁ声を出すのを我慢すればいいじゃないか」  
 
 俺が悪魔に意地悪を言うと、悪魔は口を閉じた。  
声を漏らすまいと必死に尻尾への愛撫に耐える表情はなかなかそそる。  
 
「ん……ぅ……あっ……」  
 
 悪魔は布団を強く抱きしめ、必死に快感に耐えている。  
それでも完璧に声を堪えることはできないようで、悪魔の口から途切れ途切れに喘ぎ声が漏れる。  
もっと意地悪をしてやりたくなった俺は、尻尾への愛撫を一旦中断することにした。  
 
「……?」  
 
 悪魔が不思議そうにこちらを見やる。  
俺は油断した隙を狙い、悪魔の尻尾の先端を掴んでやった。  
 
「あっ! あぁん!」  
 
 悪魔の一際大きな口から喘ぎ声が漏れる。  
 
「んああんっ! ふ、不意打ちするなんてずるい!」  
 
「ごめん。こんな簡単に引っかかってくれるなんて正直思わなかった」  
 
「ん……ああっ……や、やめてぇぇ……! ひうぅっ!」  
 
 一度ガードを解いてしまえばあとは簡単だ。  
尻尾の先端をいじめてやるだけで、悪魔は喘ぎ声を漏らしてくれる。  
 
「あぁ……お願い……先っぽは特に弱いからやめて……ああぁっ!」  
 
 ここで自分の弱いところをばらすということはもっとやって欲しいということだな?  
 悪魔のお望みどおり尻尾の先端を重点的に攻めてやる。  
掴む、摩る、握る、骨の部分をグリグリするなど、とにかく思いつく限りの愛撫を試し、悪魔がより感じる方法を探る。  
 
「んぅっ……くっ……! あぁっ! 先っぽやめて……あああんっ!」  
 
 本当に先端の部分は弱いらしく、どの愛撫でも悪魔は簡単に喘ぎ声を漏らす。  
だが、好きな愛撫の傾向はあるようで、優しく愛撫した時のほうが効果は大きいようだ。  
 
「んっ……あ、ああん! それダメ! やめてぇぇーっ!」  
 
 尻尾の先端を擽ると、悪魔は全身を震わせて反応した。  
 擽りに弱いんだな? よし、もっと擽ってやろう。  
ビチビチと暴れる悪魔の尻尾を、逃げられないように左手で強く握り、右手を使って思いっきり擽る。  
 
「ひゃああぁっ! ああん! や、やめて! 許して! 擽るのは禁止〜!」  
 
 そうだ、俺の羽根で素敵なことができるじゃないか。  
俺の翼から羽根を数本引き抜き、束ねて持つと羽根ブラシのようになった。  
実際の羽根ブラシとはかけ離れてる気もするが、いちおうこれは羽根ブラシということでいいだろう。  
 
「……! もしかしてそれであたしの尻尾を……?」  
 
 悪魔が顔を上げ、こちらを見やる。  
その不安そうな表情も、俺を煽る原因でしかなく、俺を抑制する効果なんて無いに等しかった。  
 
「当たり。俺の羽根で思いっきり擽ってやるからな。覚悟しろよ」  
 
「や、やめて! それ禁止! そんなことされたらあたしおかしくなっちゃうよー!」  
 
 不安そうにしながらも、やはり悪魔は擽られるのを楽しみにしているようだった。  
その証拠に抵抗は一切せず、俺が尻尾に触ることを許している。  
 悪魔に更なる快感を与えるため、俺の羽根ブラシで尻尾の付け根あたりを思いっきりくすぐってやる。  
 
「ひううぅっ! あ……あああぁん! ダメダメやめてぇ〜っ!」  
 
 やわらかな羽根先が悪魔の尻尾を優しく撫でるたびに、悪魔は敏感に反応を返す。  
どうやら俺の羽根がお気に召したようだな。徐々に、徐々に擽る位置を先端のほうへずらしていく。  
 
「ひゃっ! さ、先っぽだけはやめて! お願い!」  
 
 悪魔のかわいい声が俺を煽る。なんて加虐心をそそる声なんだ。俺の愚息が硬さを増した。  
 
「そんなかわいい声で誘惑されちゃ、それに乗らないわけにはいかないな」  
 
「な、違っ、誘惑してなんか……あぁっ! お願いやめてぇぇ〜!」  
 
 さらに羽根を引き抜き、羽根ブラシを2本に増やす。  
無論、それを見て悪魔が無反応なわけはない。じたばたと暴れ、必死に抵抗する。  
 
「お願い! それだけは許して! そんなので先っぽ擽られたら気持ちよすぎておかしくなっちゃうよ〜!」  
 
 わざわざ気持ちよすぎてなんて言うあたり、本気でやめてほしいわけではないことが伺える。  
 
「誘惑してきたのは君なんだからな。天使の俺を誘惑してこんなことさせるなんて、そんな悪い子にはお仕置きが必要だよな?」  
 
「もう許してよ〜! 恥ずかしくて死んじゃいそう!」  
 
「でも俺の性欲は恥ずかしい思いをしてでも読む価値があるんだろう?」  
 
 目を潤ませて懇願する悪魔の触覚を掴み、俺の欲望を脳へと送り込む。  
もう悪魔の風呂を覗いたり、性感帯を触り倒したりしてるんだ。今更悪魔の前で恥じることもないだろう。  
 ……ところでこの触角って伸縮自在なんだな。引っ張るとけっこう伸びる。  
 
「ん……これすごいかも……どす黒いのがどんどん伝わってくる……」  
 
 悪魔の表情は一転して満足そうなものに変わった。欲望を送り込まれた途端にこうなるなんて現金なやつだな。  
 
「だって気持ちいいんだもん……」  
 
 俺の心は欲望で満ちているのに満足気な表情をしやがって……。  
俺も悪魔が喘ぐ姿を見たいという欲求を満たして満足するとするか。  
 抵抗できないように悪魔の両腕を俺の翼で押さえつけ、クネクネと動いて羽根ブラシから身をかわそうとする尻尾を、俺の膝ではさんで固定する。  
 
「や、やめて……尻尾まで触られたら本当にあたし変になっちゃうよぉ……」  
 
 本当はやめてほしくないのか、それとも抵抗しても無駄だと思っているのか、悪魔は弱々しい抵抗しか返さない。  
 
「それに、この体勢は押し倒されてるみたいで恥ずかしいし……」  
 
 どっちにしろ触角が俺に触れていれば、俺の欲求を満たすことは悪魔を喜ばせることに繋がるのだ。  
 にしてもこの触角はけっこう伸びるな。触角を掴んだまま尻尾を愛撫できそうだ。  
 
「た、たしかに気持ちいいし嬉しいけどさ……はうっ!?」  
 
 悪魔が言い終える前に、尻尾の先端への攻めを開始する。  
尻尾の左側と右側を交互に俺の羽根で軽く撫でる。  
 
「ひうっ! あ、ああん! そんなに先っぽいじめちゃダメぇぇ〜!」  
 
 やっぱりここはかなりいい感度してるな。抵抗する悪魔の腕に力がこもるが、俺の翼はびくともしない。  
 翼は羽ばたいて自分の体を中に浮かせるくらいの力があるんだ。腕の力でかなうわけがないだろう。  
 俺が尻尾の先端をくすぐるたびに、悪魔の体が跳ねるのが面白い。  
ちょっといたぶるような感覚で、悪魔の弱所を断続的に攻める。  
 
「あっ! あん! こ、これずるい! 放してよ〜!」  
 
 悪魔が自分の翼も動員させて抵抗を試みるが、その努力も虚しく俺の翼は悪魔の腕を捕らえて放さない。  
 そもそもこんな快楽攻めを受けているのに、体に力が入るわけがないのだ。  
 無論、ここで放してやる俺ではない。むしろ抵抗してくる相手を拘束することに、興奮を覚えるくらいだ。  
そして、その興奮も悪魔の触角を伝って快感として脳に送られるのだ。もはや悪魔に快感から逃れる術はない。  
 もっと追い討ちをかけてやるか。羽根ブラシの動きを少し激しめにし、悪魔の尻尾に引き続き快感を与える。  
 
「ひゃあぁっ! お願い! もう許してえぇ〜!」  
 
 完璧に逃げ道をふさがれ、悪魔はもういっぱいいっぱいのようだ。  
そろそろイかせて楽にしてやるか。今まで断続的な刺激を加えるだけだった羽根ブラシをフルに動かし、悪魔の弱点に連続的な快感を送り込む。  
 
「あああぁんっ! ダメ! ダメぇぇ〜! お願いやめてぇ〜!」  
 
 成す術なくなった悪魔が悶え、懇願する様子は本当に扇情的だ。  
こんなに誘惑されちゃったらやめるわけにはいかないな。  
悪魔がイくのに向けてラストスパートだ。羽根の動きを最高の速度に上げ、悪魔の弱点をこれでもかと攻め立てる。  
 
「ああ! お願いこれ以上は……んんんっ! やめてぇ……! い、イっちゃ……あっ!」  
 
「君が潮吹くところは俺がちゃんと見とくからさ、安心してイくといいよ」  
 
 俺が悪魔の股間に視線を集中させると、視界の隅に悪魔の慌てた表情が映った。  
 
「お願いだから見ないで! せめてあっち向いてて! それは勘弁して〜!」  
 
 流石に服越しでも恥ずかしいのか。でも悪魔にとって不幸なことに、俺はここで顔を背けてあげるような性格ではない。  
そしてお互いにとって幸運なことに、俺が悪魔を視姦することで双方とも快感を得られるのだ。  
顔を背けてあげるなんて選択肢はあってないようなものだ。  
 
「も、もうダメ! イっちゃう! あっ! あああああぁぁぁーっ!」  
 
 悪魔は俺に昇天の瞬間を看取られた。かわいい声に、快感を堪えようとしても堪えきれないといった表情、そしてビクビクと痙攣する悪魔の全身。  
そして、それに合わせてぷるぷる揺れる悪魔の胸。悪魔の全てが俺に凝視しろと呼びかける。  
もう瞬きするのも惜しい。目を見開き、一瞬たりとも損をしないよう、悪魔を凝視する。  
こんなことをされる悪魔の羞恥は計り知れないが、触角から脳に送られる快感も相当だろう。  
 
「けっこう出たな……服濡れてるぞ」  
 
「い、言わないで! お願いだからもう許して!」  
 
 流石にちょっとかわいそうなことしたかな……でも気持ちよかったのも確かだろう。  
 
「ちょっとどころじゃないわよ! でも、まぁまぁ気持ちよくしてくれたことは認めてあげてもいいわね」  
 
 まぁまぁだと? 気持ちよすぎておかしくなるとか言ってたのは誰だったかな。  
それともまだ足りないか? この欲張りめ。お仕置きだ。もっと尻尾を擽ってやろうか。  
 
「ま、待って待って! み、認めるわ! 認めるからもうやめてぇ〜!」  
 
 認めるのか。じゃぁ羽根ブラシだけは許しておいてあげよう。  
尻尾の先端を俺の手で、優しく、優しく、何度も摩る。  
 
「あ……ふぅん……そうやって優しくされるのは好きかも……」  
 
「お仕置きされて喜ぶなんて、いけない子だな」  
 
「ん……だって気持ちいいんだもん……あ、そうそう……そうやって小刻みに摩られるとすごく気持ちいいの……」  
 
 あんまし意地悪するのもかわいそうだし、しばらく悪魔が好きなこの攻め方でいくか……。  
俺はしばらく悪魔の心底嬉しそうな表情と、尻尾の感触を楽しむことにした。  
 
「ん……あ……」  
 
 薄暗い部屋にあたしの声が響く。押し寄せる快楽の波に身を任せ、喘ぐ淫らな女の声が。  
他に沈黙を破るのは、彼があたしの尻尾を摩る音と、彼が姿勢を変える時に立つ衣擦れの音。  
 途中で彼は恥ずかしがってあたしの触角から手を放してしまったが、それでもあたしが感じる快感は十分に多い。  
彼が優しい愛撫に切り替えてから、どれほどの時間が経っただろうか。  
敏感な尻尾を愛撫され続け、あたしの体はこれから来るであろう彼との性交の時に備え、えっちな方へフル稼働している。  
全身はもう汗でビショビショ。胸の先っぽは刺激を求めていきり立ち、恥ずかしいトコロは濡れに濡れている。  
 もう降参だ。あたしの体をこんなにされて我慢できるはずがない。気持ちよくしてほしい。あたしに欲望をぶつけてほしい。滅茶苦茶によがらせてほしい。  
無論、そんなこと恥ずかしくて言えるはずもなく、ただただ時間だけが悪戯に過ぎていく。  
 
「そういえばさ、契約してるんだから、俺は君を好き放題できちゃうんだよな」  
 
 来たか。だが、ここで素直に言うことを聞いてはダメだ。あたしが誰彼構わず交わろうとする変態になってしまう。  
さっき心を読んだ限りでは、彼は相手が口では嫌がりながらも、体だけが正直に反応するというシチュエーションが好きなようだし、ここは少し反抗するべきか。  
それに、その方があたしも潤沢な欲望を味わうことができて、二度おいしい。  
 
「ず、ずるいよぉ……」  
 
 これは演技でもなんでもなくあたしの本心だ。  
彼はそのよく回る舌で、言葉巧みにあたしを契約で縛りつけ、さらにあたしが自分から彼を求めるような状況を作り上げてしまったのだ。  
これをずるいと言わず何をずるいと言えるのか。  
 
「……拒否はしないんだな」  
 
 彼があたしに意地悪な視線を向ける。心を読む力なんかなくとも、彼にはあたしが刺激を求めていることなどお見通しなようだ。  
 
「ほ、本当はしたくないんだけど……ど、どうしてもって言うならしてあげなくもないわよ? さ、願いを言って頂戴」  
 
「したくないのか……じゃぁ言ってやらない。したくなるまで尻尾で遊んでるからな」  
 
 彼は本当に意地悪だ。契約で縛りつけたばかりか、あたしの体を極限まで追い詰め、心身ともに屈服させようとするなんて。  
だが、そのギラギラと彼の眩い金髪のように輝く欲望こそが、あたしの大好物であり、寿命に代わる力の源なのだ。  
 
「お願い……もう許して……認める……認めるから……」  
 
「認める? 何をだよ」  
 
 彼が意地悪く目を細め、口元を釣り上げる。わかっているだろうに、彼はわざとすっとぼけて見せ、あたしの口から言わせようとしているのだ。  
あたしが屈服した瞬間に彼の体へ触角を押し付ければ、それはそれは美味な感情をいただけるだろう。  
 
「あたしが……その……尻尾だけじゃなくて……色々気持ちよくして欲しいってことを……み、認めるから! もう焦らさないで!」  
 
「そっか……じゃぁ2つ目の願いは、えっちしてお互いに気持ちよくなること、でいいよな?」  
 
 彼の表情がますます意地悪なものに変わる。もう彼はあたしが自分の性欲に抗えないことを確信しているのだ。  
 
「もうそれでいいから! こっちこそお願い! いっぱい気持ちよくして!」  
 
 ついに言った。言ってしまった。だが、完全に心まで屈したわけではない。  
これを態度に現しておけば、彼が本当にあたしを屈服させた時に、ドロドロした征服欲が満たされる最高の感覚を読み取れるだろう。  
今ちゃっかり彼に押し当てている触角から伝わってくる彼の欲望は、あたしが今までに見てきたどれよりも醜く、魅惑的で、あたしの心を惹きつけた。  
 
「言っとくけど完全にあなたに屈服したわけじゃないからね! あたしを屈服させるんだったらそれ相応のテクを見せてもらわないと……」  
 
「俺は君を屈服させる自信があるけどなぁ……」  
 
(そんなうまくいくかな……? どうしよ、俺こういうの初めてだし。これでイかせることすらできなかったらかなり恥ずかしいぞ)  
 
 言葉とは裏腹に、彼の心は不安に満ちていた。なんて初々しい。  
ちょっとはかわいいとこあるじゃない。だがその考えも、5秒で覆った。  
 
(ま、最悪尻尾弄りまくってればイくだろ。さっきもそうだったし)  
 
 ず、ずるい……そんなことをされて耐えられる自信はない。  
ここで、彼はようやくあたしの触角が彼の体に触れていることに気づいた。  
 さっと飛び退き、あたしの触角から逃れる。  
 
「!! よ、読んだのか……?」  
 
 彼の顔が見る見る赤く染まっていく。これがさっきまであたしに意地悪を言ってきた人間の表情かと思うと、笑ってしまう。  
 
「けっこうかわいいとこあるのね。おねーさんがどうやるのか教えてあげようか?」  
 
「う、うるさいうるさい! 君ぐらい、む、胸だけでもイかしてあげられるぞ!」  
 
 彼の両手があたしの胸に伸びる。正直胸だけでイくのは難しいと思う。  
それでも、尻尾への愛撫で、すっかりえっちになってしまったあたしの体には、下手っぴな愛撫でもかなりの効果が期待できるだろう。  
事実、こうして彼に胸を揉まれているだけでも、あたしは感じてしまう。  
 そもそもあたしの体はこういった願いにもこたえられるように創られている。  
胸等の男性が好んで触れたがる場所には、神経がたくさん張り巡らされていて、触られるだけでも感じるのだ。  
こう言うと、えっちするためにうまれてきたようにも取れるが、あたしは誰かの願いをかなえるために創られたのだし、間違ってはいないだろう。  
 
「ん……」  
 
「どうだ? 気持ちいいだろ」  
 
 彼の取り繕った自信からは、あたしに聞いて感じているかどうか確かめたいという本心が見え見えだ。  
彼の手が、優しく、というより、相手に痛い思いをさせないように恐る恐る、といった感じであたしの胸を揉みしだく。  
 
「ふ、ふん……調子に乗らないでよ……これくらいで感じるわけが……あっ!」  
 
 あたしの口から声が漏れてしまう。彼があたしの敏感な先っぽを摘んだのだ。  
 
「これぐらいで感じるわけが……なんだって?」  
 
 あたしが感じているとわかると、彼は水を得た魚のようになった。  
乳首攻めを交えながら、あたしの胸を持ち上げるようにしながら揉みしだく。  
 
「あっ……あぁん……感じてなんか……ないっ……!」  
 
「そんなこと言っても体は正直だな……」  
 
 胸を揉む手の動きが次第に自信を帯びたものになってゆく。  
親指はしっかりとあたしの弱点である胸の下部をとらえ、人差し指で乳首を弄りつつ、残りの3本はほどよい強さで胸の上部を責める。  
特に乳首に関しては、今の短時間であたしが一番感じる方法をつかんだようで、指の腹で乳首をゴシゴシと擦ってくる。  
 
「こんなコチコチにしちゃって……いけないおっぱいだな」  
 
「い……言わないでよ恥ずかしいからぁ……!」  
 
 あたしの体が敏感に刺激を受け止めていることを指摘し、彼があたしの羞恥心を煽る。  
 言葉責めは彼にかなりの優越感や征服感をもたらすようで、触角をちょっと当ててやれば上質な感情が手に入る。  
 
「こんないけないおっぱいには、俺が神の名のもとにお仕置きをしてやる必要があるよなぁ?」  
 
「や、やめっ……あんっ! そんなに乳首いじめないでぇ〜!」  
 
 神様の名前を出すのは卑怯だ。あたしは悪魔だが、あたしを創ってくださった神様のことは尊敬しているつもりだ。  
そんな神様の威光であたしの恥ずかしいところを浄化されるのかと思うと、それだけで乳首が疼いてしまう。  
 彼は自分を創った神とあたしを創った神が同じ神であることにまだ気づいてないようだが、彼は自分の神がどんな悪魔を創ったのかも把握してないんだろうか。  
あたしも彼を人間と間違えたりしたのだから、そのことはとやかく言えないか。  
 意地悪な彼があたしの乳首を重点的に攻め始める。  
摘んだり、突付いたりするのはもちろんのこと、あたしが大好きな擦る刺激もしっかりと織り交ぜてくる。  
……摘みながら擦るのは反則だ。どうしても我慢がきかなくなってしまう。  
 
「あんっ! えっち〜。そんなにあたしの胸が気に入ったの? ひゃぁ……! そんな激しく摩らないで!」  
 
「君こそ俺の乳首攻めが大分お気に召したようだけど……こうされると弱いんだろ」  
 
「なっ、あっ……よ、弱くなんかない! ないから摩るのやめてぇ〜!」  
 
 敏感なところを大好きな攻め方で刺激され、あたしは徐々に追い込まれつつあった。  
このままでは本当に胸への愛撫だけでイかされてしまうかもしれない。そう思えるほどに、彼の愛撫は効果が大きかった。  
 
「嘘吐きめ……念入りにお仕置きしないと……なっ!」  
 
 彼があたしの服を上にずらした。あたしの胸が揺れ、着けている下着が彼の視線に晒される。  
 
「きゃっ! や……やめて……恥ずかしいよぉ……」  
 
「ふーん。ブラの色はピンクか。なかなかかわいいな」  
 
 下着越しに彼があたしの胸を揉みしだく。無論あたしの弱点をばっちりと攻めながらだ。  
今は下着が胸を防護してくれているからまだいいが、下着まで脱がされてしまったら……。  
 
「あ、あんっ! お願いだから直に触るのはやめて……。くあぁんっ! あ、あたし変になっちゃうから……」  
 
「直接揉まれるのをご所望か。オッケー、やってやるよ」  
 
「だ、ダメダメやめてぇ〜!」  
 
 彼の手が、ゆっくり、ゆっくりとあたしの下着を、大事なところを防護するものを、  
恥ずかしいところを視線から守るものを、上にずらしてゆく。  
それに対してあたしは何の抵抗も示さない。事実上のOKサインだ。  
 神様がくださったあたしの体に恥ずべきところなんて一箇所もない!  
と、言いたいところだが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。  
そんなことを考えている内に、とうとうあたしの乳首が、彼の視線に晒されてしまった。  
 
(綺麗なピンク色……! すげぇ、やっぱりピンク色のほうが俺は好みかな)  
 
 もちろん彼から欲望を回収するのも忘れない。  
思わずゴクリと生唾を飲み込みながら、あたしの乳首に彼が熱い視線を注ぐ。  
 
「ぁう……お願い見ないで……明かりもついてるのに……」  
 
 薄暗いとはいえ、あたしの乳首の形、色、質感を視認できる程度には部屋は明るい。  
あたしの乳首は彼に丸見えなのだ。  
 
(この恥ずかしがってる表情もたまらないよなぁ……声もだ)  
 
 だが、あたしが恥らう様子がますます彼を加速させ、甘美な欲望をもたらす。  
あたしは欲望が欲しいという気持ちと、見られるのは恥ずかしいという気持ちの板ばさみになってしまった。  
 
(……ってまた読まれてる?! 油断も隙もない……)  
 
 彼が触角を振り払い、あたしに伝わる欲望が途絶える。  
 
「羽根攻めもいいかもな。心行くまで君のおっぱいを堪能してやるよ」  
 
「え? や、やめて……それだけは……!」  
 
 あたしの胸はただでさえ摩られる刺激に弱いのだ。そんなもので摩られたりしたら……!  
 
「それっ、こしょこしょ〜」  
 
「あっはぁぁん! ひゃあぁっ! ひゃ、やめひぇえぇっ!」  
 
 彼の言う即席羽ブラシがあたしの胸の下部を攻める。そこが弱いことも彼にはばれていたのか。  
くすぐったいような、気持ちいいような感触にあたしは成す術もない。  
擽りをやめさせようにも、あたしの腕はしっかりと彼の翼に押さえつけられている。  
擽られる位置をずらそうと、懸命に身をよじるが、彼の手が胸を追尾してきて執拗に弱点を攻めてくる。  
 
「はひゃぁぁぁんっ! ダメダメ! 擽りはやめひぇえぇええっ!」  
 
「俺の羽根がそんなに気に入ったのか。よしよし、もっと攻めてあげよう」  
 
「りゃめぇぇぇっ! お願いゆるひひぇえぇっ!」  
 
 彼の羽根が乳首付近を攻め始めた。乳首を攻められることを体が予感し、あたしの感度がますます上昇する。  
胸を攻められているだけなのに、こんなに気持ちいいなんて……。これで乳首を攻められたらあたしはどうなってしまうのだろう。  
 
「お願ぁい……乳首は許して! それされたらあたし……あたし……あっ!」  
 
「そんなに俺の羽根が好きか。じゃぁお望みどおり乳首を攻めてやろう」  
 
「はひゃああぁん! ダメダメやめひぇえぇっ!」  
 
 一切の容赦を捨て、彼の羽根があたしの弱点を攻める。  
小刻みに、激しく、それでいて繊細に、あたしが大好きな攻めを続ける。  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!