【 1 】  
 
 掌を天に向け、手首から下を望む。  
 そうして右腕を掲げ腋の下までを確認するとそれを反転させ、今度はそこからひじを折り腕の外を確認しながら  
手首を下ろす。  
 一望する己の腕には新雪のごとき柔らかな白銀の毛並みが短く生え揃っている。それが光を反射(かえ)して波打つ  
眺めはさながら、夜明けの雪原を走る一陣の風の光景を連想させた。  
 斯様な美しきその毛並み――しかしながら染み一つないそれを確認して、  
「あーあ……元に、戻っちゃったぁ」  
 白兎の少女であるルゥエは深く大きくため息をついた。  
 これより二ヶ月と少し前、彼女が確認したそこには刃物による大きな傷跡があった。  
 深く切り裂かれた皮膚と脂肪の断面その下からは筋肉の赤き鮮望が覗けるほどで、このルゥエの幼き容貌と相成っては  
ひどく痛々しいものであった。  
 しかしながらそれは、ルゥエにとってこの上ない『幸せの形』であったのだ。  
 当年をとって17歳となる彼女ではあるが、痩せた胸と更には隆起なく腹部と一体化したヒップラインの容姿(スタイル)は、  
一桁台の年齢の子供と変わらぬ未成熟な肉体を思わせた。  
 斯様なまでに生育の遅れている原因の一つは、ルゥエが幼少期に受けた虐待に起因している。  
 自身の出生についてなどはルゥエ本人ですら知らない。  
 しかしながら思い出せる最も古い記憶の中で彼女は――自分の掌以上の大きさを持つペニスを握らされていた。  
 思うにそれは自分の父親であったのだろう。  
 その記憶が証明する通り、ルゥエは幼き頃より性的虐待を受けて育てられた。  
 そしてその虐待は性的な玩弄に留まらず、拳や道具を使った肉体的な虐待にまで及んでいたのだ。  
 幾度となく殴られては蹴られ、幼く弱い子供ゆえに死に掛けたことだって一度や二度ではない。しかも彼女の都合を  
考えぬそれはほぼ毎日のようルゥエに対して施されたのであった。  
 幼さゆえに守るも戦うも叶わない肉体である。やがてそんな体は、彼女に出来うる唯一の防御反応を示していく  
ようになった。  
 それこそは、その苦痛の生活を快楽に変換してしまうというもの――逃げることの叶わない彼女の肉体は、  
むしろその環境を肯定的にとらえることで心と肉体の平穏を得ようと作用したのであった。  
 思えばそれは『発狂した』ということになるのであろう。  
 しかしながら皮肉にもそれが、今日に至るまでのルゥエの正気を保たせてきた。その狂気ゆえにルゥエは社会性を維持し、  
そしてこれ以上に無い幸せの中で生きることが出来てるようになったのだ。  
 以来その虐待から解放され、長じてからもなお彼女はそんな精神的障害を引きずることとなった。  
 とはいえ、社会生活の中でのコミュニケーションは問題なく取れている。  
 此処『Nine・Tail(九尾娘)』へと移り、仲間の嬢達と生活を共にする日々にルゥエは人並みの幸せや充実感も  
十分に感じていた。  
 しかしながらもっと根源的なこと――真に自分という存在を実感できる瞬間こそは、何者かの手によって虐待を  
受けているその瞬間なのだ。  
 
 痛みに叫ぶ時、ルゥエは自分というものを実感していた。痛みに苦しむ時、ルゥエはこの上ない多幸感に満たされた。  
 もはや、そのような生き物になってしまった自分を憐れみつつもしかし、それでもルゥエは幸福であったのだ。  
 また種族ゆえか、はたまたこれもまた肉体の神秘による奇跡なのか、ルゥエは人一倍傷の回復も早かった。  
 先に確認していた刃物による切り傷も一ヶ月あれば綺麗にふさがってしまうし、歯だって何度折られようとも  
そのつど新しく生えてきては、ルゥエの端正な容貌(おもて)を歪ませることは無かった。  
 それゆえか次第に、ルゥエの求めるそれは常軌を逸していった。  
 最初は面白半分に彼女を痛めつけては楽しむ客も数名いたが、回を重ねるごとにエスカレートしていくルゥエからの  
要望にやがては恐怖し、はたまたある者はそこに己の異常性の深淵を見つめてしまっては気が狂(ふ)れてしまったりと――  
彼女が在籍して数年が経つ頃には、そんなルゥエの相手をしようとする客など居なくなっていた。  
 しかしながらそれでもルゥエは幸せであった。  
 ただ一人、例外の客が残ったからだ。  
 その客はルゥエの求める虐待を与えてくれる人物だった。  
 自分の求めるがままに痛みと与え、苦しみを施してくれるその客にやがてルゥエは強い愛すらをも感じるようになる。  
 そして今日、その客が再びルゥエを指名した。  
 それを受け、彼女は朝から己の手入れに余念がないのである。  
 短毛の毛並みに何度もブラッシングを掛けては純白のそれをさらに白くそして艶やかに輝かせる。この毛並みが  
逆立ち荒れくれて血に染まる様を確認することがルゥエは何よりも好きだった。  
 二か月前に彼が来た時には、頭からつま先の方向に沿い、体のあちこちをナイフによって切り刻まれた。  
 肩から手首へ、腿からつま先へ、そして胸元からヘソへと腹も背も無く幾筋もナイフを走らされては、その純白  
の毛並みを鮮血とのストライプに変えられた。しかしながらその最中、己が斯様にして変えられていく様にルゥエは、  
これ以上に無い痛みと快感、そして何よりも美しさとを覚え興奮したものであった。  
 大量の失血に伴って昏倒し、次に目覚めたのはそれから一週間後のことである。  
 傷から来る燃えるような痛みの中にあっても、それを感じ続けられるルゥエの治療生活それは幸せなものであった。  
 その強い痛みこそは、誰でもない彼からの強い愛と同義――それを一身に感じることのできる治療中の状態こそ、  
彼女が人生の中でもっとも幸福を抱きしめることのできる瞬間なのだ。  
 それでもしかし柔弱な見た目に反したルゥエの強靭な生命力は、そんな傷など二ヶ月をかからずに回復させてしまう。  
 一ヶ月後には自立で生活できるようになって、彼女は蜜月の終わりに深く絶望するのであった。  
 そして今日、また再びあの客が訪れようとしている。  
 今より一週間前、彼からの予約が入ったことを知らされた時には不覚にも失禁したほどである。  
 彼はもはやルゥエに残された世界でただ一人の男であった。今となっては、その存在なくしては今日の正気すら  
保てなくなるほどに、彼はルゥエの心の中の大部分を占めている。  
 こんな自分に容赦なく痛みを与えてくれる存在、こんな自分と真剣に向き合ってくれる存在――それこそはこんな  
自分を世界で唯一、愛し理解してくれる存在であるのだ。  
 
 だからルゥエは嬉しくなる。  
「今日は、どんなことしてくれるのかな〜? 痛いかな? 苦しいかな? それとも熱いかなぁ? んふふふふッ♪」  
 彼と過ごすその瞬間を夢想することが、今の彼女の全てであった。  
 両肘を抱き、自分自身を抱きしめるよう体を縮めるとルゥエは自室のベッドに転がっては今夜の妄想を独りして身悶える。  
「オナニーも、体キズつけちゃうのも我慢するぞー♪ た〜っぷりご主人様に可愛がってもらっちゃうんだから」  
 独りごちて瞳を細めるルゥエの表情は、何処までも無垢で純真な少女のものであった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
.  
 
【 2 】  
 
 午後七時四〇分――自室の時計にてそれを確認し、ルゥエは興奮からくる強い動悸を喉に感じて何度も水を飲んだ。  
 件の客はいつも八時ちょうどにお呼びを掛ける。先に部屋に待機をしてルゥエを待つそのスタイルは出会った頃から  
変わってはいない。  
 すなわちそれは、もうこの時間には彼自身この娼館に到着しているということなのだ。  
 そんな彼の存在を同じ屋内に意識する体は、ルゥエの子宮を刺激しては潤わせ如実にその興奮を表面と表せる。  
「まだかなぁ〜? 体ムズムズするよぉ〜。パンツ汚れちゃうぅぅ〜」  
 今日の為、己の毛並みと合わせた純白のランジェリー上下に身を包んだ幼きルゥエ。  
 座り込んだ両腿をきつく閉じては膝を躍らせて何度も立ち上がるを繰り返し、自室のドアがノックされるのを  
今かと待ち受ける。  
 そして――厳かにドアを打ち鳴らすその音に、  
「キタッ♪ ご主人さまぁーッ!!」  
 放たれた征矢のごとく立ち上がるルゥエは、体当たりをするようドアを押し開いた。  
「き、きゃあ!? ああんッ!」  
 一方でドアの向こうに立つ者はたまったものではない。急のそれに弾かれては大きく尻もちをついた。  
 そんな目の前の人物にルゥエも正気を取り戻す。  
 そこには琥珀の毛並みを持った妙齢の女性が一人――腰元まで伸びた透き通るような煌めきの髪と、天に向くよう  
すっと通った鼻頭の端正な顔つきの容貌は『美女』と称しても差し支えが無い。  
 またメリハリに富んだ体(ライン)もチトノに負けず劣らずの豊満さではあるがしかし、そんな胸元から足元までを  
すっぽりと覆ったアオザイの衣装と相成っては、妖艶のチトノとは対照的に家庭的で母性あふれる印象を見る者へ  
覚えさせるかのようであった。  
「わぁ、お母さんッ? ごめんなさいッ、ごめんなさい!」  
「もう、あわてん坊さんね」  
 そう呼ばれその手を引かれて立ち上がる彼女・ティーは、苦笑い気に柔らかな微笑みをルゥエに向けるのであった。  
『母』と呼ばれてはいるがしかし、兎のルゥエに対して犬狼型のティーとでは、言うまでもなく種族が違う。  
その呼び方が意味するのは、彼女・ティーの存在がルゥエに対して母親的な役割を果たしているからに他ならない。  
「でも、あれれ? お迎えってクウ君じゃなかったっけ?」  
「あの子は別のお客さんのお迎えに出てしまっていて来られなかったの。だから今日は私が案内役(エスコート)なのよ」  
「ふーん。……ってことはご主人様、もう来てるのッ!?」  
 ティーの言葉のひとつひとつに表情をコロコロ変えるその仕草は益々以てルゥエの幼さを強調するようである。  
そんな表情が愛らしくてつい目元を綻ばせるがしかし、ティーはすぐさまその表情を曇らせてもしまうのであった。  
「ねぇ、ルゥエは辛くないの?」  
 彼女をエスコートするその道すがら、ついティーはそんなことを尋ねた。  
 
「辛いってなぁ〜に? ルゥエはこのお仕事好きよ?」  
「そうかもしれないけど、やっぱり痛いでしょ? 体に傷がつくと……」  
 あっけらかんと答えるルゥエとは対照的にその表情を重たくさせるティー。彼女はそのことを気に掛けていたのだ。  
 忘れもしない2ヶ月前――医務室に運ばれたルゥエの付き添いをしたティーは、そのあまりの変わり果てた姿に  
慄然とした。  
 もちろんルゥエの精神的失陥については理解しているものの、それでもやはり、血まみれで息一つしない彼女の  
青ざめた表情を見るにティーは不安になってしまうのである。  
 そして不安はそれだけではない。  
「このままじゃ……いつか取り返しがつかないくらい傷つくことになっちゃうかもしれないわよ?」  
 ティーは鹿爪ぶった言い回しでルゥエを言い諭す。  
「傷のこと? 大丈夫だよー♪ ルゥエは痛いの好きだし、動けなくなっちゃったらその時だもん」  
「それだけじゃないの。心がね……あなたの心が深く傷ついちゃう時が来るのが私は怖いの」  
「心? 幸せだよ、ルゥエ」  
 掛けられる言葉がどこまでも理解できない様子のルゥエを背中に感じ、ティーは突如その歩みを止める。  
 そしてそれにつられて立ち止まるルゥエに振り返ると――ティーは彼女を覆うよう強く抱きしめた。  
「な、なに? なぁに、お母さぁん?」  
「……ルゥエ、ひどい言葉や行動が人を傷つけることがあるように、時には強い愛情が自分を強く傷つけてしまう  
こともあるわ。それは、悪意で受ける傷以上に苦しかったり痛かったりするの」  
 ルゥエの首筋へ強く自分の首根も押しつけて抱擁するティーの表情は今のルゥエからは確認しようがない。  
しかしながら、どこか嗚咽を抑えるよう絞り出されるその言葉は、ひどくルゥエを不安にさせる響きがあった。  
「え……わかんないよ。わかんないよぉ、お母さぁん」  
「……うん。ごめんなさい、お仕事前だっていうのにね」  
 抱きしめていた力を解くと改めて彼女を前に笑顔を見せるティー。  
「貴方の生き方に不満や疑問がある訳じゃないの。でも、本当に苦しい時や悲しい時はお母さんに打ち明けてちょうだいね」  
 その笑顔と心からの思いやりの言葉を受けてルゥエの胸にも改めて喜びが込み上がる。  
「うん、大丈夫だよ! ルゥエ、すごく幸せだよ! みんな大好き」  
 再び抱きついてはその愛情を確認するようハグすると、ルゥエはティーから離れ立ち上がる。  
「あとは部屋までまっすぐだから大丈夫だよ。行ってくるね、お母さぁん♪」  
 そういって跳ぶように走っては廊下の突き当たりを曲がり見えなくなってしまうルゥエ。  
 その後ろ姿を見送り、  
「がんばってね、ルゥエ」  
 ティーはいつまでも、彼女の去り過ぎた廊下を見守るのであった。  
 
 
【 3 】  
 
 三階の東・突き当たりの部屋が二人の遊び場であった。  
 平素この娼館が逢瀬の場として提供している場所は二階の八部屋であり、一階がルゥエ達の寝室、そして三階が  
チトノの私室兼支配人室という構造になっている。  
 それにも拘らずわざわざ三階の部屋にルゥエの仕事場を置いているのには理由があった。  
 それこそは彼女の声に他ならない。  
 いかに苦痛を快楽に変換しているとはいえ、客からの責め苦にあえぐ時、それは苦しそうな声を彼女は上げた。  
 この小さくて愛くるしい体からは想像も出来ない苦しみに滲んだ声はさながら、この世の痛みと苦しみを一身に  
受けるかの如き響きを以て聞く者の耳へと伝わるのだ。  
 それを聞きとって遊びへの意欲を失ってしまう客も少なくは無く、者によってはそれがちょっとしたトラウマとして  
残ってしまった者までいる。  
 それを考慮してチトノは、彼女ルゥエが客を取る時にはここ三階の角部屋を宛がい、さらにはその階下の部屋の使用は  
差し控えるよう配慮したのであった。  
 他の部屋とは違いこの一室だけ、カリン材で組まれたドアが一際に赤く重たい色の姿でそこに佇んでいる。  
それこそは防音と汚れとを配慮して取り替えられたものではあるのだが、その重厚な眺めはなんとも独特の威圧感を  
そこへかもし出していた。  
 これを目の前にする時、いつもルゥエはそれに気押されしてしまうのだがしかし、そんなプレッシャーに『これから』を  
期待しては興奮もしていた。  
――あぁ……今日はどんな痛いことされるんだろう? どんな酷いことになっちゃうんだろう?  
 もはやそれに焦らされ理性の乖離し始めた肉体は、しとどにルゥエの下着を濡らせては如実に彼女の興奮を表に現わせる。  
 そして荒い呼吸を納めることなくルゥエは右手を掲げると、柔らかく握りしめた拳骨で二度のノックをするのであった。  
 硬い材質のドアと静寂の三階ゆえに、非力なルゥエのノックでも実に軽快な音色が打ち鳴らされる。そして中からの  
返事を待つことなく、  
「失礼しまぁす……」  
 ルゥエはドアを開き、その中へと入っていくのであった。  
 ドアを引くと内側から吸われるような空気がまとわりついてドアそれを重くさせた。次いで来る息苦しいばかりの  
熱気に胸をつまらせる。  
 入口そこから望む室内には、照明の類など何一つ灯されてはいなかった。  
 ただ正面突き当たりの壁面に設けられた暖炉にくべられた炎だけが薄暗くその周囲だけを照らす眺めは、  
この世の果てような重く寂しい印象をルゥエに覚えさせる。  
 それを見つめたまま後ろ手でドアを閉める。完全に室内が閉じられると――そこは初めに覗きこんだ時以上の闇に包まれた。  
 しばし目が慣れないルゥエはそこから暖炉の明かりだけを頼りに室内を見回し、そこに今日の相手の姿を探す。  
 
 室内には先に述べた大業な装飾を施した造りの暖炉とそのすぐ前にベッド――そしてそこの上に、猫背に屈みながら  
暖炉と向き合う何者かの背中を見つけてルゥエは息をのんだ。  
「あぁ……居たぁ。ご主人様ぁ……」  
『主人』とその人物を呼びルゥエは歩み寄っていく。  
 待ち焦がれた瞬間ではあるものの、それでも一歩一歩と彼に近づいていく今は興奮よりも恐怖が僅かに勝った。  
 彼の手によって壊されたいと願う半面、ここから逃げ出してしまいたくなるような気持もまた胸の中で渦巻いて、なんともルゥエを不安定にさせるのだ。  
 そしてついにベッドを回り込み、彼女の言う主人のすぐ側へとつけるルゥエ。  
「ッこ……こ、このたびは、ご指名い、いただき、ありがとうございま―――」  
 そして強い口の渇きに舌をもつらせながら挨拶をしようとしたその時であった。  
 突如として伸びた右掌が口上も途中であったルゥエの口元を覆ったかと思うと次の瞬間――荒々しくもその顔面を  
ワシ掴み、上着でもはたくかのよう彼女を宙へ吊り上げた。  
「んッ……ぐッ……んんッ!」  
 斯様に吊り下げられてルゥエは主人の右掌を両手でつかむ。  
 痛みは申し分ない。しかしながら、いかに小柄で軽量とはいえ首の関節部位ひとつで自分の体を吊り下げるには、  
あまりにも無理があった。このままでは体の重みに負けて頸骨が脱臼あるいは骨折しかねない。  
 ゆえに少しでも別な支えを得ようと、主人の掌に両手を掛けたルゥエではあるがしかし――その体勢は同時に、  
己の下腹を無防備に全面へ晒してしまう形にもなった。  
 それを前に主人は残る左手に拳を作り、肘を折り振りあげては二の腕に力を込める。  
 そしてその動きにルゥエが気付いた次の瞬間には――繰り出された拳は深々と、彼女のみぞおちへと突き刺さった。  
 その一瞬、呼吸が止まる。衝撃が走りぬけるそこにまだ痛みは発生しない。  
 しかしながらせり上がった横隔膜が呼吸を吐き出す以外の機能を止め、胃袋がその重圧で潰れひしゃげた次の瞬間、  
焼けるような痛みが腹の中心で爆発した。  
「げッ、えぇッ……えぐぅうッッ……ッ!」  
 その衝撃に叫びを上げようにも、呼吸すらままならなくなっている状態では呻きすら満足には上げられない。  
鋭角の先端で強く胃袋を突き潰されているかのような痛みの中、込み上がる胃の内容物を吐き出すも、それすら  
顔面をワシ掴む主人の掌に遮られてままならないのだ。  
「げよッ……けろけろ……かはッ」  
 口角と、塞ぐ指々のわずかな隙間からあふれた胃液がルゥエの首筋を伝い純白であったその毛並みを淡く黄ばませる。  
 そうして放される右掌。  
 絨毯の足元に糸の切れた人形のよう倒れ込むと、  
「ぐッ、ぐぇろッ! え゛ッ……え゛ぅぉ………お゛、おぉ……ッ!」  
 地に額をこすりつけたその姿勢のまま、ルゥエは激しく背を痙攣させては嘔吐を繰り返す。  
 そんな彼女の右手首を主人は再び掴んだ。  
 そこからはロープでも引き上げるかのようさながらに、人を扱うといった配慮など微塵も感じさせることのない  
様子で主人は再びルゥエを吊り上げる。  
 
 両腕を掲げられるようにして再度吊り下げられ、  
「んんぅ〜……んぶ〜ッ……げぇッ、えッ……ッ」  
 依然として込み上がる吐き気と酸欠に疲弊しながらルゥエは、かろうじて項垂れた首そこから上目遣いに主人を望んだ。  
 暖炉を背後に置いたこの位置からは、そこの炎の逆光となって強く影を落としてしまい微塵としてその表情を窺う  
ことは出来ない。  
 もはや目の前にいるそれは同じ人であろうものなのか……その恐怖にルゥエは強く震える。  
 そうして見守り続ける中、主人の影は再び肘を折った右腕を掲げた。  
 軋むほどに握りしめた拳骨は殺気を帯びて、これより岩の如きそれを力の限りにルゥエに撃ち込んでくるであろう  
ことを伝える。  
「あ、あぁ……ら、め……らめぇ……おなか、破れう……ッ」  
 それを察し弱々しく首を振るも次の瞬間には再び――無慈悲にも主人の右拳はルゥエの腹部へと突き刺さるのであった。  
「んう゛ぃッ………ッッ!」  
 下から掬い上げるよう弧を描き打ち放たれた拳は、先の左掌以上の衝撃を以てルゥエを打ちすえる。  
「んぅおッ……んぅぉぉぉぉ……ッ……ッ、ッ!」  
 半身を踏み込んで体重を乗せたそれを腹部に埋め込みながらもなお、さらには杭打ち機のごとく、密着させたそこ  
から幾度も衝撃を打ちこんでは彼女の内臓をえぐり上げる。   
 そしてそれを引きぬと同時、  
「げぅッ……げがぁぁぁああぁぁぁぁッッ!」  
 ルゥエはこの日一番の叫びと共に胃の底に残っていた内容物を吐き散らかした。  
「ぅおげぇぇぇ! んえぇぇ! ぇお゛ぉぉぉぉぉ……ッ!!」  
 口を鼻孔を問わずして吐き出される吐瀉物の中にやがて鮮血が混じりだす。  
 最初は細い筋となって吐瀉物の中に線を描いていたそれも、嘔気のたびに血の比率が増え、ついに胃の中を吐き  
つくす頃には血の割合が内容物の多くを占めていた。  
 先程からの衝撃に胃の一部が破れたのだ。  
 胃液がその傷口を洗う痛みを前にルゥエは失心寸前の体(てい)で身悶える。鼻の下を伸ばし、大きく舌を吐き出しては  
上目を剥くその表情に、事前までの愛くるしい容貌は微塵として見当たらない。  
 そんなルゥエを吊るしていた主人は、一切の慈悲を掛ける様子もなくベッドの上へと彼女を叩きつけた。  
「ぐげうッ!? が、がはぁ……ッ!」  
 いかに柔らかなスプリングの上とはいえ、背中から叩きつけられてはその衝撃も生半可ではない。  
 強くせき込み、そして痛みの鳴り響く腹部を抱くように身を縮こまらせるもしかし、  
「あ、あぁ……? ご、しゅじ、んさまぁ……」  
 主人はそれを許さない。  
 跨ぐようにルゥエの体の上へ乗り上げると、何遠慮することなくその華奢な体の上に座り込んだ。  
「ぐぎゃああああああああぁぁぁー!!」  
 先の打撃を受けて重症の腹部に体重の全てを預けられ、ルゥエは痛みと息苦しさに目を剥いては絶叫する。  
そして吊り上げていた時同様にルゥエの両手首をワシ掴んで掲げさせると、  
 
「がッ―――!」  
 今度は晒されたその横顔へと、主人は右掌の張り手を見舞った。  
 存分に手首のしなりを利かせた掌に打ち抜かれて、ルゥエは強く首を捻る。今しがた顔面をワシ掴まれていたことからも  
知れるよう、体格差のある主人の掌ではルゥエの小柄な顔面などすっかり覆えてしまう。  
 そんな肉厚の掌で力の限りに打ち据えられてその一瞬、ルゥエは虚脱して意識を朦朧とさせた。  
 しかしながらそれを目覚めさせるかのよう、  
「んぐぅッッ!?」  
 今度は右から――帰る右手の甲が深々とルゥエの左頬に打ち払う。  
 その一撃にカリカリと小石でも含んだかのような感触が歯根を通じ脳に響き渡った。今の張り手で奥歯の一部が折れたのだ。  
 やがてはそれを皮切りに始まる顔面への殴打――。  
 呻く暇すら与えずに一定のリズムを以て往復する主人の掌に、砕けた歯々は口中において存分にルゥエの内頬や舌根を傷める。  
 しばしそうして殴り続けると、やがてルゥエからの反応は一切なくなった。  
 そしてその段に至り手を止めればそこには瞼の形が変わるほどに頬を腫らし、そして白樺の木の幹のよう唇を  
ズタズタにしたルゥエが虚ろな視線を宙に投げだしているばかり。  
 内臓から響く痛みと顔面の殴打によって引き起こされた脳震盪に虚脱して、今のルゥエの意識は薄氷のよう脆く  
朧ろ気なものとなっていた。  
 それを確認し、主人は立ち膝になって尻を浮かせては、一時ルゥエに預けていた体を持ち上げる。  
 そして股間を覆っていた下着を荒々しくも千切っては引き剥がすと、彼女の眼前に己の一物を露わとさせた。  
 半ばまで勃起をし、その先端で亀頭をもたらせたペニスの様は、不明瞭な暗がりと相成って一匹の蛇が鎌首を  
しならせているかのようですらある。  
 そしてその亀頭先端を、躊躇することなく主人はルゥエへと咥えさせる。  
――お、お口……柔らかいの、きたぁ……ぐにぐに……やわらかいのぉ………  
 依然として朦朧とする意識の中、突如として唇に発生した亀頭の感触にルゥエも無意識で奉仕(フェラチオ)を開始する。  
 とはいえ赤ん坊のよう弱々しく、先端ばかりをついばむだけの動きしか今のルゥエには出来ない。  
 しかしながらそんなことは主人の都合ではない。  
 望む奉仕をルゥエが出来ないのだと判断するや、主人は彼女の後ろ頭に両手を添え、さらにベッドへ着く両膝の  
位置を確認しては体を固定する。そして次の瞬間――主人はルゥエの喉奥深くまで、己のペニスをねじ込んだ。  
 捻じりこまれたそんな亀頭が喉頭を押し分けては喉を圧迫してくる衝撃に、  
「ッ――んむぅッ!? んむぅもぅぅぅぅーッ!!」  
 ルゥエの意識も一気に覚醒へと引きずり上げられる。  
 それを確認し、さらには開始されるピストン――唾液と鮮血にまみれた茎がルゥエの唇から引き抜かれるごとに、  
主人のペニスもまた硬度と膨張とを増していった。  
「ん゛も゛ッ、ん゛も゛ッ、ッッッん゛も゛ぉぉぉおおおおおッんッ……んぐぶぅぅッッ!」  
 口中に満ちる唾液と血と線液、そして容赦ない往復の速度と勢いを以て喉を突きえぐる口虐にルゥエの呼吸は再び  
止められる。一突きごとに衝撃は痛みとなって脳髄を締めあげ、砕けた歯の欠片は頬や喉を問わずにルゥエの中を  
傷つけては鋭い痛みを与えた。  
 
「んぼ、んぼ、んぶぅぅッ? ん゛ぶぅおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッッ!!」  
 それら苦痛と酸欠の中にあって、ついには限界から激しく体を痙攣させるルゥエ。  
 しかしながらそれを前にしても主人の責めの手が休まることは無い。むしろその苦しみに反応するよう、彼の中にも  
快感の昂ぶりが波打ち始めていた。  
 添えていた手の平を握りしめてはルゥエの髪をワシ掴み、さらに激しく主人は彼女の顔へと腰を打ちつけていく。  
 前後する腰の像がぶれるほどに速度を上げて打ち付けられるその腰元に鼻先を殴打され、ルゥエの鼻孔からは見る間に  
鮮血があふれだした。  
 そしてついには、  
『むッ、くぅ…………』  
「んむぅぉもぉぉおおおおおおお……ッッ!!」  
 快楽の頂点に達し、主人は欲情の限りをルゥエの喉の奥にて炸裂させた。  
 口いっぱいに咥えるペニスからは、灼熱の精液がその尿道を大きく膨らませては大量に打ち出される。斯様な射精を  
尿道で切るごとにそれは大きく跳ね上がり、その鼓動がもたらす痛みと衝撃は、割れ鐘を叩くかのごとくルゥエの  
脳髄へと響き渡るのであった。  
「んぶッ……んぉ……ん、ぐぷぐぽぉぅぷ………ッ」  
 ペニスによって塞がれた咽喉と、鮮血によって満たされた鼻孔、そしてそこへ新たに流し込まれる精液の奔流――それによって僅かに口中に残っていた空気は行き場を無くし彼女の喉の中で逆流する。  
 やがては圧に押されたそれが咽頭に迫り上がると、鼻孔からは湯の沸くよう鮮血が溢れ出ては泡立ち、そしてその後には  
一変して白く黄ばんだ主人の精液が彼女の鼻から圧し出されてくるのであった。  
「ん゛もぉ……ん゛も゛ぉぉおおおおおおおおお……!」  
 斯様にして呼吸器を塞がれて、脳内に直接広がる鮮血と精液の香りにルゥエも震える。  
 そしてそんな酸欠から完全に思考が遮断されるその間際、彼女もまた強い絶頂を感じて意識を失うのであった。  
 
 
 
 
.  
 
【 4 】  
 
 宙に浮くかのごとく夢遊するルゥエの意識は、ただ安らぎと幸福の中にあった。  
――あ〜……きもちいー……この感覚、ひさしぶりー………  
 肉体の内外を問わずして全身を満たす温かな感触はまるで、母体の胎(なか)において羊水に浸っているかのようですらある。  
 斯様にしてルゥエは緩やかに目覚め、肉体の境界すらもが溶け込み漂う感覚を実感しては満喫していた。  
 そしてその最中、  
――あれれ? そういやなんでルゥエ、ここにいるんだろ?  
 そのことに気付く。  
 さらにそれを意識した途端、僅かに体が寒くなった。  
――どうやってここに来たんだっけ? ルゥエ、何してたんだろう?  
 思い出すごとに意識は輪郭を持ち、体には四肢の感覚と重力とが戻ってくる。  
 そして、  
――そうだ……ルゥエ、ご主人様のお相手をさせてもらってたんだ。  
 そのことを思い出した瞬間――突如として激しい痛みが体を走り抜けた。  
「―――んぅッ……ぎゃああああああッ!」  
 そんな痛みを声にして叫ぶと同時、ルゥエは完全に覚醒する。  
 瞼を見開き視線を巡らせば、そこは闇と炎だけの世界――あの部屋の中にルゥエは戻って来ていた。  
 そして同時に、今自分の体に流れている様々な痛みを実感する。  
 ふと上唇を舐めた瞬間、電流のように鋭い痛みが走った。それだけではない。口中はくまなくひりついて燃える  
かのようである。唇も含めてズタズタに裂けているのだ。  
 気付けば左目の視界も消えていた。先程殴られことで瞼が腫れてしまい自力では開けなくなっているのだろう。  
もしそうならば、この瞼に限らず今の自分の顔は相当ひどい状態になっているに違いない。  
 そう考えて――ルゥエはゾクゾクと背を震わせた。  
――見たい……ルゥエ、どんな顔になってるんだろう? どんな酷いことになってるの?  
 過去の虐待に照らし合わせて、今の自分の顔を想像する。それを想いながら更にはわざと唇を噛むと口中の痛みもまた  
再発させた。虐待の合間にあるこの僅かばかりの間隙においてこんな想像を膨らませるのも、今のプレイの楽しみである。  
――じゃあ、お腹はどうなってるんだろう?  
 同時に腹部にも激しく打撃を受けていたことをもい出す。  
 そうして仰向けに寝ている今の状態から自分の体を見降ろそうとしたその時であった。  
「……ん? え? え……?」  
 ふと動かした右手が思うように動かないことに気付きルゥエはそこへ視線を巡らせる。見れば自分の右手首は、  
その色が鬱血して浮腫むほどにきつく縛られてベッドの足もとへと緊縛されていた。  
 そしてそれは右手だけに留まらない。気がつけば残りの左手や両足に至るまで、己の四肢は同じようベッドの四隅に  
くくりつけられていたのだ。  
――う、動けない……全然ダメ。  
 二度三度と体を伸縮させるなどして動ける範囲を図ろうとするも、袈裟に四肢を広げられた体は、微塵として今の  
体位以外の姿勢を取ることは叶わなかった。  
 
 そしてそんなルゥエの動きを察し――まるで影が伸びてくるかのよう静かに、主人がルゥエの枕元に立ちあがった。  
「ッ……ご、主人、さぁ………」  
 覗きこむよう猫背を前かがみにして見下ろしてくる主人の表情は、やはりこの暗がりにおいては微塵として窺い知る  
ことは出来ない。  
 それを前にしてルゥエは想像するのだ。  
 いま彼は、どのような顔で自分を見つめているものか……。  
 そこには在るのは加虐者としての優越か、こんな生き物(じぶん)を憐れむ見下げた蔑みか? それともあるいは――  
  そんなことを考えて見上げる主人の顔がその一瞬、  
「ひッ? ッ………?」  
 雷のよう発生した青い閃光に照らされて浮かび上がる。  
 その驚きにルゥエの中の疑問など一瞬にして消し飛んでしまう。それほどに今の閃光(ひかり)は不可思議で衝撃的であった。  
 そんなルゥエの疑問に気付いたのかあるいは見せしめか、もう二度三度と主人はその光を手元で発生させる。  
 どうやら主人の両手には棒状の何かが握られているらしかった。それを触れ合わせることであの光が発生するらしい。  
「な、に……? なぁに? なんですか……それ?」  
 今までに見たこともない道具だった。  
 あの光そのものはひどく美しくはあるが、同時に強く不安もまた感じてさせた。  
 そしてそんなルゥエの問いに  
『――――電極、だ』  
 聞き取れぬほどに小声で応えると主人は、右手に携えて一本の先端をルゥエの脇に押しつけた。  
 その瞬間、  
「ッ――んみぅびぃぃぃぃいいいいいいいいぃぃッッ!!」  
 右脇からそこから発生し体を走り抜ける衝撃にルゥエは鳥獣の如き甲高い声を発して絶叫した。  
 時間にしては一秒ほど押し当てられた程度ではあるが、それでも体中を走り抜けた衝撃それは、永遠とも思えるほどの  
ショックをルゥエに与えていた。  
「え゛ッ……え゛、え゛ぅぅ……ッ……!」  
 電極それはもう押し付けられていないというのに、体にはまだ痺れが残ってルゥエを痙攣させる。その感覚は、  
長く足を畳んで座っていた時に生じる末端の痺れに良く似ていた。  
 そしてそんな感覚と、さらにはこれが始まる前に主人の見せた閃光の映像に、ルゥエはおぼろげながらこの衝撃の  
正体を察するのであった。  
 それこそは――  
――でん、き……電気、だ…………  
 察する通り、一〇〇Vの電圧を発生させる電極こそがそれの正体であった。そしてそれはルゥエにとっても未知の体験である。  
 その威力は今、身を以て知った通りだ。それゆえに、ひどくルゥエは恐ろしくなる。  
――ちょっと当てただけであんなにすごいなんて……こんなの長くやられたら、本当に死しんじゃうよぉ……!  
 そう考えると同時、無意識に体はその身をよじらせて今の緊縛から逃れようとする。本能がこの道具の危険性を察していた。  
 
 しかしながらそれら行動は全て主人の目の前に晒されているもの――。  
 その動きを見るにつけ、主人は再び電極の先端をルゥエの右脇下へと当てた。  
 再び―――  
「ッッ、ッんぃぃいいいいいいいいいいッ!! むゅいぃッ、みぃぃぃいいいいいいいいッッ!!」  
 そこから発生して体全体を走り抜ける電流にルゥエはその身を痙攣させる。  
 そして今度は数秒と触れさせる程度のものではない。依然として腋に当てたままの電極を動かすと、主人はその先端で  
ルゥエの体の上をなぞっていった。  
 腋から登ると右胸の上で文字を描くように押し付けた電極を躍らせ、さらにはそこから首へと上がっていく。  
「むぅめぇぇぇぇぇええぇえ!! ええええええええッ! んむぉッうぉッおおおぅぅんッッ!!」  
 そして電極の先端が顔面に右頬に置かれると、如実にルゥエはその反応を激しくさせた。  
 瞳孔が見切れるほどに白目を向いては、何度も頭を振って激しく後頭部を枕に打ち付ける。口角からは海洋生物のよう  
胃液の撹拌された泡が噴き出され、欠けて残されていた歯々が砕けるほどに口元を食いしばった。  
「ッ、ッッ……んい゛ッ……じ、ずぃじッ……、……ッッ〜〜〜〜〜〜〜!!」  
 そうして電流のショックから委縮した顔面が硬直して、もはや悲鳴すらあげられなくなった頃――主人はそれをルゥエから離す。  
 途端、一気に脱力してはベッドに沈み込むルゥエ。それからは微動だもせず、時おり思い出したかのよう体を痙攣させる  
その極端な静と動の様子は、まさに電気仕掛けで動くカラクリ人形のよう――。そこに人としての尊厳などは、  
微塵として残されてはいなかった。  
 そんなルゥエの意識を確かめるよう主人は軽く、立て揃えた指々でその横顔を叩く。それに対してまったく反応を  
見せようとしないルゥエに、今度は強く掌全体を使って張り手を見舞う。  
「ッ……んぉッ……おぉ………ッ!」  
 それを受けて呻きを漏らすルゥエに主人は鼻を鳴らし覗きこんでいた顔を上げる。それでもしかし依然として体の  
自由が戻らぬルゥエへと、主人は前以て用意していたであろうバケツの液体を浴びせかけるのであった。  
――んッ……んん? つ、冷たい……なぁに?  
 突如として浴びせられた液体の冷たさにルゥエも曖昧であった意識を取り戻す。  
 朦朧としていた意識の気付けに掛けられたのかと思いきや、それがただの水ではないことをルゥエも瞬時に悟る。  
 なぜならそれは、  
――し、しょっぱい……? ……これって、塩水?  
 舌先に塩気を感じさせると同時に、切れた唇にそれが強く染みたからだ。  
 無知なルゥエは何故に今、そんなものが自分へと浴びせかけられたのか知る由も無い。  
 しかしながらこれこそが、本当の地獄の始まりであった。  
 件の塩水を浴びせると、主人は次なる準備に移る。  
 依然として緊縛されたルゥエの足もとまで移動すると、そこから手を伸ばし彼女のショーツをワシ掴み、一気に  
それを剥ぎ取った。  
 短毛の毛並みが肌のラインに沿って茂る恥丘とそれを巻き込んで形成された膣口のクレバス――ぴっちりと閉じ合わさっては  
その淵を盛り上がらせろ様は幼子のものよう無垢で儚い。  
 
 そんな膣に人差し指と親指の二本を添えると、主人は荒々しくそこを押し開いた。  
 襞の突出もなく、広げられてもなお奥の閉じ合わさった膣口の眺めは生娘のそれのよう使用感は全く無い。艶やかに  
湿らせた薄紅の柔肉と、その先端に鎮座する陰角が手荒い主人の扱いに仔犬のよう震えていた。  
 そんな無垢の場所へと、  
「んぁぁああああああ!!」  
 主人はいつの間にか右手にしていた張型(ディルド)を無遠慮に捻じりこむ。  
 突如として挿入される感覚と、さらには前戯も無しに乾ききった異物をそこへ入れられる痛みにルゥエは声を上げた。  
 しかしながら一番に彼女が感じたのはその異質感――それこそは、  
――なにこれ……すっごく冷たいよぉ……。  
 今までに感じたことの無い金属感であった。  
 顎を引き、かろうじて顔を上げては自分の体を見下ろしながら、自分の膣に何が挿入されたのかを確認しようとする。  
 そしてそこにあったものは、周囲の情景を反射させるほどに磨かれた銀色の金属片。ゴムや樹脂などを使って造られている  
従来のディルドとは程遠いその見た目にルゥエは目を見張る。  
 そんなルゥエをよそにさらにはもう一本、  
「ぐぅッ!? ぅんんんんぅ〜ッッ!!」  
 膣に挿入されたものとまったく同じディルドが、今度は肛門にも押し当てられた。  
 力任せにねじ込んでこようとするその力に思わずルゥエも呼吸を止める。  
 いかに狭き入口とはいえ表に対して間口の広がっている膣とは違い、肛門は臀部のさらに奥底に窄まっているものなのだ。  
そこでの経験が無いわけではないが、それでも前戯の解しも無しに乾いたディルドを挿入するには無理があった。  
「ごッ、ご主人さまぁ! 待ってください! いきなりは、無理ですよぉ! もっとお尻を広げさせてください!!」  
 ディルドの先端に肛門は押しつぶされ、臀部のクレバスすら巻き込んでもなお挿入の果たせない状況と痛みにルゥエも  
仕切り直しを懇願するが――そんな彼女の言葉にむしろ、主人はディルドを押し込む右手へ力を込める。  
 筒身を握りしめていた持ち方からディルドの柄尻に掌を押し当てる形に押し込め方を変え、  
「んぎぃぃ!? い、痛い! 無理です!! ぜったい無理だよぉ! お尻が破けちゃうよぉー!!」  
 そして一際膂力を込めて、折り曲げていた肘を一思いに伸ばした次の瞬間――  
「――ッぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」  
 文字通りディルドの先端は肛門を突き破り、一気にその根元までルゥエの直腸に収まってしまうのであった。  
「おッ……おぉお……い、いたいぃ……いたいよぉ………ッ」  
 尻の下のシーツに赤が滲み、やがてはそれも放射状に広がってはシーツを染め上げていく。今の無理に完全に肛門の淵と、  
そして直腸内壁の一部が裂けたようであった。  
 神経の集中するそこの裂傷は、体のどこの部位よりも痛みと熱を帯びる。その痛みに怖じけるあまり息を震わせては  
嗚咽を漏らすルゥエを一瞥すると、主人はそこから離れ次はルゥエの胸元へと着けるのであった。  
 依然として泣きじゃくるルゥエの胸元に手を這わせると、そこにて乳房を包み込んでいたシルクの胸当てをワシ掴み  
ショーツの時同様に剥ぎ取る。  
 
 露わになるルゥエの胸元は、両腕を掲げている姿勢も相成ってか乳房が重力に潰されてなんとも平坦な姿をそこに晒していた。  
 幼児体型ゆえに皮下脂肪を蓄えた体はそこそこに肉付きも良いのだが、こと未発達の乳房に至ってはそれも例外である。  
少年のものと変わらぬであろうアバラの浮いたそこには、桃の蕾を思わせうかのような乳首がツンと天を向いては  
外気に震えるばかりであった。  
 それを前に屈みこむと、主人はその脇から目線を揃えては斯様なルゥエの幼い胸元の丘陵を眺めて回す。  
 そうして立ちあがっては改めて、今のルゥエの眺望を見渡した。  
 一糸まとわぬ体には膣と肛門の前後に金属製のディルドが二本、そしてその全体は余すところなく塩水を浴びせられて  
濡れそぼっている。  
 ここまでが次なる責め苦の支度であったのだ。  
 そんなルゥエを確認すると主は再び、両手にあの電極を携える。  
「あ、あぁ………いやぁ……ビリビリ、だめぇ………ッ」  
 左右のそれらを打ち鳴らすよう数度触れ合わせると先と同じように火花を発生させて、ルゥエの恐怖を煽る。  
 そして再び、かの電極がルゥエの腹の上に置かれたその時であった。  
「がッ―――!」  
 先程と同じよう電流が肉体を流れたその瞬間、まるで下から突き上げられたかのようルゥエの体は痙攣して跳ね上がった。  
その反応たるや、先に最初の電流を流した時とは比べものにならないものである。  
 依然として電撃を受け続けるルゥエなどは悲鳴を上げる余裕すらない。先と同じ電圧でありながらも今回、こうまでも  
強い衝撃を与える理由こそは事前に浴びせかけられた塩水にあった。  
 塩水により伝導率の抵抗が下がった今のルゥエの体は、一切の遮り無く電流を走らせるのだ。それこそは主人の設定している  
一〇〇Vの電圧をほぼそのままに通されていることになる。  
 そして電極の先端は――次いでルゥエの胸の上、乳首そこにピンポイントで置かれた。  
「ぃぎッ―――げぇぇぇええええええええええッッ!!」  
 全身に広がっていた時とはまた違い、脆弱な乳首一点にかの電流が集中する痛みと熱にルゥエは声の限りに叫びを上げる。  
 しかもそれは一個に限られること無く――更には残された左の乳首にも電極は置かれた。  
「ぶぎゃあああああ!! おぎゃああああああぁぁッ!! ぎゃああああぁぁぁぁぁッ!!」  
 心臓に近いそこへのショックとあっては肉体の反応も半端ではない。  
 この小さな体のどこにそのような力があるものか、キングサイズのダブルベッドを壊さしかねない勢いでルゥエは  
緊縛された体を跳ねあがらせた。  
 依然として左手の電極を乳首に固定したまま、一方で左のそれは徐々に下降を始める。  
 浮き出したアバラの隆起を一本づつなぞり、内臓がせり上がって窪んだ腹部に落つるとそこで数度弧を描きルゥエの  
反応を確認する。  
 そして下腹部へと至るその手前で、臍の僅かな窪みを発見した電極はその動きを止めた。  
 しばしそこにて窪みの淵をなぞっていた先端ではあったが次の瞬間、  
「ぎゃあああああああ! いぎゃあああああああぁぁ!!」  
 持ち手を逆手に握り直すと同時、主人はその先端を以てルゥエの臍そこに電極を突き立てた。  
 
 穴にも潜らせる程度の生半な動作ではない。文字通りに主人は、電極で刺したのだ。  
「いぎぃ! おぎゃあぁお! お、んぉぉおおおおおおお!!」  
 力と体重とが込められた電極は徐々にその刀身を沈ませ、やがては侵入を拒む抵抗が消えうせたその瞬間、電極は  
一気に3分の一以上がルゥエの臍の中へと挿入されてしまうのだった。  
「んぅッげげぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇッッ!!」  
 臍を貫通されるその痛みと、さらには体内へと直接電流を流しこまれる衝撃にルゥエは吐瀉物と悲鳴を吐き散らした。  
 貫通された臍の窪みには、見る間に貫通された体内から溢れだした鮮血が血だまりを作り、さらには依然として  
そこにある電極に触れてそれは激しく沸騰を始める。  
 血の焦げる饐えた臭いが充満しだしてもなお主人は責めの手を止めることは無い。  
 依然として臍の血だまりの収めた電極を大きく旋回させては執拗にルゥエの内臓そこを責め立てていく。  
 更には左手の電極もまた下降してくると、それは剥き出されて勃起したクリトリスを押し潰した。  
「いぎゅぅぅ!? い、いぢぃぃぃぃいいいいい、いいいいいッ、いいいいいッッッッ……い゛ぅぅうぉおおおーッッ!!」  
 感覚神経の集中したそこへの電撃は、また内臓へと与えられるダメージとは別な痛み・苦しみをルゥエへと与える。  
 何度も電極の先端で弄んでは、子供が嫌いな野菜を皿の中で弄ぶかのよう、その先端で形が変わるほどに主人は  
ルゥエのクリトリスを押しつぶした。  
「ぐ、ぐぅッ! ぎゅぶぶッ! べぶッ!! お゛、お゛ぉッッ………おぉぉおぉ〜〜〜……  
ッ!」  
 休む間もなくそれら電流にさらされ続け、ルゥエの体は筋肉麻痺のあまりに苦悶の表情すら保てなくなる。  
 方瞼だけを大きく見開くその瞳が徐々に充血してくると、ついには血涙が堰を切り外耳道からも鮮血が流れ出してきては  
ルゥエの端正な顔を染めていく。  
 それを確認し主人も彼女の限界が近いことを悟ると、この責めの仕上げとばかりに左右の電極を一旦ルゥエから引き揚げる。  
 そして最後にそれらが辿り着いた場所は――膣と肛門それぞれに挿入された金属製のディルドそこであった。  
「いぎゅるぁぎあぃああぇああぉぉッぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁッッッ!!」  
 銀色ディルドのその正体こそは――白銀。  
 電気の交流において展性に富んだそれは、電気伝導率・熱伝導率にあって金属中最大の効果を持つ物質である。  
それを粘液に満たされた膣と肛門という『内臓』に直結されては直に電流を送りこまれているのだ。  
「え゛ぅぅううううぅーッッ! え゛ぇぉお゛おおぉぉおおおおぉーッッ!!」  
 突き立てるよう股間をせり上がらせると同時に、ルゥエは激しく失禁した。常軌を逸した電気量を受け止めきれず、  
ついには自立神経の失調とともに内臓系の機能にも支障が生じ始めてきたのだ。  
 そしてついに、  
「ぃぅッ、ぎぃぃいいいいいいいいいいいぃぃぃッッ!!」  
 心肺の停止に伴い突如としてルゥエは意識を失う。  
 夜の黒よりも深い闇がまた――ルゥエを包み込み、連れ去ってしまうのであった。  
 
 
【 5 】  
   
 胸の苦しみを覚えてルゥエは覚醒した。  
 やけに体が揺れていると他人事のように思っていたそれは、なんてことない無意識化でしていた己の咳であったのだ。  
 それに気付くとなおさらにルゥエはえずいて咳を繰り返す。  
 改めて目の前には闇と、そしてその片隅で燃える炎の光景――主人の部屋だ。今度は夢を見る余裕すらなかった。  
 それ気付くと左の胸に鈍痛を感じてルゥエは自分の体を見下ろす。  
 見れば左胸の上そこに、大きく鬱血しては斑に影を浮き上がらせた内出血の痣が見て取れた。  
 おそらくは主人が自分の蘇生の為に強くそこを打ったのだ。  
 その痛みと跡とを確認すると、ルゥエは大きくため息をついてベッドに体を沈ませる。  
 心底疲れていた。  
 斯様な性癖を持ち合わせていることからも、体力と頑強さには自信があったつもりではあったが――それでも今日の  
責めは堪えた。  
 試しに右腕を上げようとしてルゥエは愕然とする。まるで重りでも付けられたかのよう動かすことが叶わない。  
依然として四肢はベッドの四方に緊縛されて入るのだが、そういう問題以前にルゥエの体力は限界に来ていた。  
 そんなルゥエを――再び主人の影が覗きこむ。  
 影を落とした顔からは、やはりその表情を窺い知ることは出来ない。  
 なまじ暖炉の炎と言う心許ない照明があるせいで、一向に目が闇に慣れてこないのだ。  
――いったいどんな顔してるんだろうな……?  
 ふと場違いにもそんなことを思ってルゥエはおかしく思った。  
 想像する主人の顔――そこには無表情を貫いているのか、あるいは不甲斐ない自分(ルゥエ)に怒りを感じているのか、  
はたまた心配しては泣きだしそうに眉を歪めているものか……そんなことを想像すると、この闇が途端にルゥエは  
楽しくなってくるのだ。  
 どうにかして主人に応えるべくルゥエも声を出そうと試みるが――疲労と、さらには先の電流のマヒによって  
発声すらままならない。このままでは奉仕はおろか、次なる主人からの責めに反応してやることすら無理に思えた。  
――今日はこれで終わりかな……?  
 その状況に遊びの終わりを予期して、小さくため息をついたその時であった。  
 そんな自分を覗きこんでいた主人の影がそこの上からどいたかと思うと、そんな傍らで何やら新しい企みの準備を始めいる。  
――ごめんね、ご主人さまぁ……もうルゥエ、声も出せないよぉ……。  
 一方で様子にルゥエも申し訳なく思う。しかしながらまだ、終わってなどはいなかったのだ。まさにここから  
『始まった』のだと、後にルゥエは思い知らされることとなる。  
 しばしして屈みこんでいた主人は立ち上がってくると、再びルゥエの上に覆いかぶさってはその様子を覗きこんでくる。  
そして右腕を伸ばしたかと思うと、その指先でルゥエの首に触れた。  
 同時に鋭く小さな痛みが一瞬、首筋に走るのを感じた。そしてさらにはそこな首筋に残る違和感――  
――え……? え、なにこれ? なんか、首の中にある……。  
 何かが皮膚を貫き、血管の中にその身を潜めている感触にルゥエは混乱する。  
 
 そしてその違和感を中心に、温かい血流の中へとぬるりと流れ込んでくる冷たい何かの感触にルゥエを目を剥いた。  
 それこそは射器にて何らかの薬液を注入されているに他ならなかった。  
――な、なにこれ? 首の頃がムズムズする? なにこれぇッ?  
 未知の感触に混乱するも束の間、かの薬液注入はすぐに終了して注射器は離れる。  
 いったい主人はこれで何がしたいものなのか――それを尋ねようにも今は、疲弊しきっていて呻きすら上げられない。  
 そうして数分が経った頃であった。  
 突如としてその変化は起こった。  
「……ッ――!? ッ、ゥッ……?」  
 鼓動がひとつ、大きくなった。  
 そしてそれを皮切りに心臓は走り終えた後のよう跳ね上がり始めてはルゥエの体を内から昂ぶらせていく。  
 締め付けられるようであった頭痛は晴れ、むず痒いほどに血流を感じる手足はたちどころに自由を取り戻していく。  
 さらには曖昧であった意識も明瞭に冴えわたると次の瞬間には、今までに感じたこともないような高揚感が頭を満たし、  
そして――  
「ッ……ぅ、ぉ、ぉお……おおお、おおおおおッ、んんほぅぉおおおおおおおお!!」  
 類人猿のごとくルゥエは叫び出していた。  
 その一声に箍が外れると、もうルゥエには歯止めが利かなくなっていた。  
 虹彩いっぱいに瞳孔は広がり切って痙攣し、汗を尿をと問わず水という水が体中の穴から滲み出てきてはルゥエを濡らした。  
「な、なにーッ? なにこれェー!? すごいぃー、すごいよぉー!! きもちいい! きもちい! きもちいい、  
きもちいい、きもちぃきもちいきもちーきもちぃぃんぎぃもぢぃぃんいいぃんぅぅぅぅぅぅぅ………ッ!!」  
 乱れる視界に合わせては頭を振りまわし呂律の回らぬ奇声を発するルゥエの状態それは、明らかに常軌を逸していた。  
 こうまでして不能であったルゥエを覚醒させてしまった理由こそは、先の注射器――それにて主人は覚せい剤の類である  
薬物の注入を行っていた。  
 それも今日の為に純度上げて精製した薬物を、適量を度外視して撃ち込んだのだ。  
 その注入に薬物の耐性など無いルゥエはたちどころに溺れて、そして今の状態にまで沸騰させられてしまったのである。  
「だぁれぇー! だぁめぇー! からだ、むじゅむじゅしゅるのぉー!! おぉーん!! まんこぉー、おあんこぉー! かゆいのぉー!!」  
 何度も局部のかゆみを訴えては尻をばたつかせるルゥエの股間には、先の白銀ディルドがまだ刺さりっ放しとなっている。  
 そしてそんなルゥエのおねだりに答えるよう、主人は膣部に挿入されていたディルドの江尻を掴み、前後のピストンを  
施してやるのだった。  
「んひぃッ!? きた! チンポきたぁ!! ちん、ぽぉッ、ちんぽぉ♪ きたぁあんぁあんぁあん、ぅおんぅおんぅおん♪」  
 膣道の粘膜をディルドが摩擦する感触にルゥエは喘ぎとも鼻歌ともつかない声を上げては反応する。  
 
 斯様にしてディルドの行き来する膣口には放尿の如く愛液が溢れ、引き抜く際には撹拌された愛液と空気とが膣の中で  
乱流し、風呂の排水の如き音を上げるほどである。  
 その様子を窺いながら、始まりこそは小手先でピストンを繰り返していた主人の手も徐々にその速度と重みとを増していく。  
「んぅおッ!? そ、そう! そうよ!! もっと動いちゃうんだから!! もっど激しぐなっちゃうんらかやぁ!!」  
 膣内を掻き回すそれに反応してルゥエの快感もさらなる昂まりをみせる。  
 自由の利く限りに腰を上げ下げさせては、撃ち込まれるディルドにさらに深い挿入を得ようとルゥエは躍起になる。  
そんなルゥエの動きと主人の責めとが相成り、徐々にディルドはその筒身を彼女の胎内へと潜り込んでいった  
 かのディルドからしてその全長は三〇センチを超えており、半分も収まってしまえばルゥエのキャパシティなど  
すぐに埋まってしまう。それが今はもう、すでにその三分の二までもが彼女の中に収まっていた。  
「うぉおおおおー! すげいー! すごいー! ちん、ぽッ、埋まってるぅー! ルゥエの中にぃー、いたくてー、  
きもちーのぉーッッ!! んほぉおおおおおおおお!!」  
 もはや痛みですらもが今のルゥエの中では快感に変換されている。  
 そしてついにディルドはその根元近くまで侵入し――そこにてようや侵入を止めた。限界まで引き延ばされた  
膣道の先において子宮口に辿り着き行き止まったのだ。  
 しかしながら、  
「もうちょっとだよッ? ちんぽ、もうちょっとなんらからぁ、もっとぉ、入れえよーッ!!」  
 今のルゥエに限界など無い。  
 ただ声の限りに叫び膣への挿入を叫ぶ様は完全に正気を失っていた。  
 そして主人もまた――それに応えた。  
 アナルへの貫通を果たした時同様、ディルドの江尻に掌を合わせるあの持ち方に替えるや、折り曲げた肘を脇に  
固定しては体全体でルゥエの中にディルドを仕込んでいく。  
「んぎぃー!? お、おぉぉぉおおおおお!! い、いだいー! いだぁーい!!」  
 その先程とは打って変わった膂力の込めようにルゥエものけ反らせた頭を枕に打ち付けては身悶える。  
 いま体の中に起きている変化――頭の中にはその小さな筋肉と骨格とを伝わってミリミリと肉の裂ける音と感触とが  
ルゥエを苛んでいる。それこそは、容量以上のディルドを受け入れ続けることで起こる膣内部の筋肉と血管の破裂されていく音なのだ。  
 それでもしかし、ルゥエはその痛みを喜びと受け取っていた。  
 そして、  
「おぉおおおー!! こ、わ、し、てぇーッッ!!」  
 ひときわ強くルゥエが叫んだその瞬間――ラスト10センチ足らずを残していたディルドはいともたやすくルゥエの膣に  
飲み込まれてしまうのだった。  
 それと同時、  
「ぶぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッッ!!」  
 断末魔の如き勢いでルゥエが絶叫を上げた。  
 顎が外れるほどに口を開き、目を皿のよう見開いては過呼吸を引き起こして痙攣する様は尋常ではない。   
 薬物によって感覚のリミッターが解除されているであろうルゥエをなおもここまで苦しませる理由それこそは――  
件のディルドが、その頭で彼女の子宮口を貫いてしまったからに他ならなかった。  
 
 本来ならば『パスタ一本分』とも形容されるほどの小さな穴である筈のそこへ、先端径60oはくだらないであろう  
ディルドが挿入されてしまったのだ。薬物や、先の電流責め後という筋肉の弛緩があったにせよ、小柄の少女が  
受けるには度を超えた仕打ちといえた。  
「げッ……げへ……えへぇ……かッ……えへ、えへぇえぇぇぇぇ……」  
 脱力し、それでも爛々と見開いた眼だけは宙一点を見つめて痙攣しているルゥエの姿には、もはや人としての尊厳など  
微塵も残されてはいない。  
 性的な玩具と揶揄されて売春を行っているだけの行為が健全に思えてくるほどに、今日のルゥエを取り巻く環境と  
そして彼女に与えられる責め苦の数々は常軌を逸している。  
 しかしこれでもなお彼女の今日は終わろうとはしない。  
 一連のディルド責めで再び虚脱してしまったルゥエへと、再び主の影はその上を覆う。  
 掌を天に返してそこ持つは再び何か薬物の注射器――。  
 それを手にルゥエの元へ屈みこむと、今度はその針先を彼女の右乳首の真上に宛がいそして――そこから乳首の真芯を  
針にて貫通してしまうのであった。  
「――いぎゅッ!」  
 しかしながらそれも細い針のこと、今の疲弊しきった状況と相成ってはその瞬間に刹那うめきを上げただけでそれ以上の  
反応は示そうとしない。  
 そこから恙無く薬物の注入を終え、ルゥエがその効能へ反応し出すのはまた数分後の話であった。  
 異変は最初、『痒み』として体に現れた。  
「ん……ん、んん? な、なぁに? かゆいよ? なに? かゆいよッ!? おっぱいの先っちょ、すごくかゆいんだけどぉ!!」  
 半ば飛びかけていた意識が再び引き戻されるほどの痛痒感を右乳首に感じてはそれを強く訴える。  
 首を上げて己の体を確認するそこ――  
「え……? なにこれ……なにこれぇ!? いやあぁぁぁぁぁ!!」  
 主人と共に見つめる目の前――自分の右胸には、親指以上に肥大して立ちあがった乳首の姿があった。  
 しかもその腫れは未だ進行形である。  
 見守る最中も膨張を続け、ついには小ぶりの林檎ほどにまで肥大しては、その自重に耐えきれず倒れてしまうのであった。  
 そんな己の体に起きた異常を理解してはただ慄くばかりルゥエの視界に、先の乳首へと指先を伸ばす主人の姿が映る。  
 そしてその人差し指と親指の二本が件の乳首をつまみあげた瞬間、  
「い゛ひぃいいいいいいぃぃッ!?」  
 電流に弾かれたよう反射しては、ルゥエは首をのけぞらせた。  
 触れる程度に摘みあげられた動作にもしかし、かの乳首を通して来る感覚はそれは激しいものであった。  
 一言で例えるならば快感である。しかもそれは同時に、激しい痛みもまた兼ね備えているのだ。  
――なにこれぇ……本当に、乳首なの? クリちゃんだって、こんなにはならないんだよ?  
 たった一摘みで絶頂に達してしまった意識を奮わせながら、ルゥエは必死に今の自分の体について探りを入れようとする。  
 
 しかしそれも詮無きこと――再び、そして今度は一切の慈悲無しに主人の指先がかの乳首を捻じり挙げた瞬間、  
そんなルゥエの思考など残らず吹き飛んでしまった。  
 直撃した痛みと快感とに、  
「いげぇぁあああああぁぁぁぁぁッッ!!」  
 ただルゥエは声の限りに叫んでは身悶えるばかり。  
 元の一〇倍以上も肥大してしまっているにも関わらず、そこに集中する感覚それらは生の神経を直に触れられている  
かのように鋭角でそして直接的なものであった。  
 一捻じりの後は、まるでペニスでも扱うかのよう立て揃えた指先でしごく動きにルゥエの情欲も爆発する。  
「んおぉぉッ、んぅんんおおおおおおぉぉ!! きもちいいッ! おっぱいすごいの! お願いご主人さまぁ、キスして!   
ルゥエのチンポ乳首しゃぶってよぉ!!」  
 おそらくはルゥエもまたそこへ男生殖器を連想したのだろう。そこへの口による愛撫を衒いもなく主人へと要求して  
くるのであった。  
 それを受けて、主人もまた素直にそれへ応じる。  
 ルゥエの肥大したそれを口にくわえてやるとしばし舌で転がしては頬の中を泳がせて、実に愛情深く愛撫してやるのだった。  
「んああ! ああんぅ、きもちいよぉ! ご主人さまもっとぉー! フェラもっとぉー!」  
 求めてはいながらも心の隅では叶わぬと諦めていた主人の奉仕に、ルゥエは世界の愛情を一身に受けるかごとき  
幸福に包まれては快感に震える。  
 しかしながら、それこそが次なる責め苦の始まりであった。  
 口の中に転がしていたルゥエの乳首それを主人は突如として噛んだ。  
「んぎぃ!? やだ、いたい! いたすぎるよぉ! なにこれ、いだいー!!」  
 肥大に比例して感覚まで鋭くなっていた乳首は受け止める快感同様に、痛みに対しても鋭敏になっていた。  
 そんな乳首を今、主人は奥歯で噛み締めているのだ。  
 けっして最初(はな)からは強く噛まない。万力で締め付けていくよう、徐々に徐々にと奥歯に力を込めていくそんな痛みは、  
それを受けるルゥエにもこれからの痛みの広がりを想像させ、さらなる恐怖を覚えさせる。  
「だめ、やめてぇ! 潰れちゃう! これ以上噛んだら、本当におっぱい潰れちゃうー!!」  
 もはやそんな声が主人には届かないと解りつつも、ただ慈悲を求めることしかできないルゥエには訴えるよりほかに手段は無い。  
 そんな中、主人の口中にある乳首はついに平らに身を細めてその耐久に限界を迎えた。  
 みしりと、凝縮された物体が噛み締められる音を最後に、ルゥエの乳首はその表皮を破り主人の口の中で噛み裂けた。  
「いぎぃぃぃいいいいいいいいい!!」  
 常時であったとしても、そこの部分を噛み潰されるなどは常軌を逸した痛みであろう。それが薬物により感覚が  
研ぎ澄まされた状態とあっては堪ったものではない。  
 その激痛に叫び、すぐに意識を失いかけたルゥエであるがしかし――そんな意識の喪失を繋ぎとめたのは新たに  
発生する次なる痛みであった。  
 表皮が破けて強く出血をする乳首そこを、主人は依然として口中において強く吸いだしたのだ。  
「んッ、んぅぅッ! いだい! 吸わ、ないでッ! ぢりぢりするよぅッ……いたいッ、いたいのぉ!」  
 破けた表皮からその中身を取りださん勢いで出血を吸われ続ける痛みを、ルゥエは唇が破けるほどに噛み締めては耐え続ける。  
 
 やがて出血も緩やかとなり、ようやく主人の口中から解放されると――そこにはすっかり萎びては黒く鬱血した乳首が  
その姿を露わとするのであった。  
 裂けたのは一箇所と思っていたそれも、改めて目を凝らせばその全体がところどころに破けては依然として緩やかに出血を続けていた。  
 そんな自分の変わり果てた乳首を眺めながらついルゥエは不安になる。  
 はたして今日のこの体は元に戻れるものだろうか?  
 いかに回復の早さが取り柄とはいえ、今に至る今日の責め苦はそのどれもが常軌を逸していた。  
――もしかしたら……今日は本当に死んじゃうのかも…………今日こそは……。  
 そんなことを考えながら己の胸元を見つめ続ける視界の先に、再び主人の影が横切った。  
 暖炉を正面した位置故か彼の手元が鮮明に映る。そしてその手元には、淡い照明を反射(かえ)した注射器の針――。  
「え……なに? ……なぁに?」  
 主人が新たに何をしようとしているのかを解りかね、ルゥエは返ってこようはずもない何故を主人へと問うてしまう。否――解り過ぎてるいるがゆえに、その恐怖を否定しようと尋ねたのかもしれない。  
 震えるルゥエの見守る中、主人は注射器を絞り気泡を抜くと――残った左手でルゥエのクリトリスをつまみあげた。  
「ひぃッ――や、やだ……やだぁ! だめ! そこはダメぇ!! やめてよぉ!!」  
 最悪の予想が的中しようとしていた。  
 声の限り叫んでは懇願し、緊縛されている体を捩じっては主人のそれから逃れようとするも全ては無駄な抵抗である。  
 ゆで豆の皮でも剥ぐよう人差し指と親指で圧を掛けクリトリスの包皮をめくり上げると、主人はそこの小さな陰角へと  
針の先端を宛がう。  
「いやぁ! いやぁー! ッッいやぁぁぁあああああ――――ッ!!」  
 そして次の瞬間、一切のためらいなく注射針はルゥエのクリトリスへと突き立った。さらにはそこから薬物を注入される  
感覚にルゥエは呼吸(いき)を止めては身悶える。  
 予防接種の用途でも使われる標準的な注射器のシリンダーが1mLの内容量であり、今回主人がルゥエへの薬物投与に  
使用している注射器もまた同じタイプのものであった。  
 そんな1mLはルゥエの小さなクリトリスを満たしてしまうほどの量であり、言うまでもなく今の投与は過剰投与に他ならない。  
「あ、あぁ………こわい……こわいよぉ……おかあさん……おかさぁん……ッ」  
 クリトリスの中で薬液が乱流している感触にただ震えるばかりのルゥエ。  
 そしてそれが体に溶け込み、クリトリス内で循環した次の瞬間、  
「いぎぃッ!? おッ……お、おぉッ………きたぁ……!!」  
 跳ね上がるような強い心臓の鼓動を皮切りにルゥエの脳は再び沸騰した。  
 薬物の効果によって昂揚すると同時、件のクリトリスもまた乳首の時同様に肥大を始める。  
 肌の表面に浮きあがった『豆』程度であったそれは見る間に肥大しては『芽』となり剥き上がる。それでもなお  
膨張は止まらず、その大きさに合わせて血流の循環が促進されるごとにルゥエのクリトリスは肥大していった。  
「んぎぃ! クリが、お豆がジンジンするよぉ! んぎぃぃぃー!!」  
 そしてその肥大が完全に収まった後のそこには――体長一〇センチ超となるペニスにも思しきクリトリスが天を  
向いて屹立しているのだった。  
 
「あぁ……すごい……チンポ、生えちゃったのぉ? ルゥエ、男の子になっちゃったのぉ?」  
 そんな自分の体の変化を今のルゥエは恍惚と見つめる。  
 そんなクリトリスに主人の手が触れる。親指で引き絞った人差し指が一振りルゥエのそこを打ち弾いた瞬間、  
「んぇおおおおおぉぉぉぉーッ!?」  
 想像を絶する衝撃にルゥエは腰元を突き上げては痙攣した。  
 感覚神経の集中したそこへの刺激は乳首の時のそれとは比べ物にならない。  
 斯様にして薬物により脳を焼かれた彼女にはもはや、恐怖も痛みも、そして幸福観すらない。  
 今はただ、無垢の快楽それだけがルゥエの中に在るのみ――  
 白き穢れは白銀の中に、ただ在るのみ。  
  そんなルゥエの反応に主人も改めて彼女のクリトリスを掌の中に収める。  
  無遠慮に握りしめては銃でも磨くかのよう荒々しくしごく動きでもしかし、  
「んへぇえええええ! しゅッごいぃぃ! ちんぽぉ、ルゥエのチンポッ、しごかれてきもちよく、なっちゃってるぅぅぅぅッ!!」  
 全身を貫くその快感にルゥエは目を剥いて悶える。  
 もはや肥大したクリトリスそのものが全身の性感帯と直結しているがごとく、陰角を刺激する快感は頭からつま先まで  
くまなく全身を走り抜けた。  
「ぐぅんぉおおおおー! イグぅー! いぐぅあー!! いぐのぉーッ、ルゥエ、初めて、チンポで、いぐのぉーッッ!!」  
 愛液とも放尿ともつかず性器から飛沫を噴きあげては絶頂を予期し昂ぶっていくルゥエ。しかしその直前で、  
主人は右手の動きを止めた。  
「ぅえ……ッ? やだぁ……なんで? なんで、止めるのぉ!? もうちょっとなのぉー! もうちょっとでイグのにッ、  
なんでチンポやめるのぉ!? チンポしてよぉー! チンポおぉぉぉーッッ!!」  
 もはや快感をむさぼるだけに生きる彼女にとって、それを感じ続けることは息を吸い水を飲むことと同義――いま在る  
『生』の全てだ。それを絶頂の直前で止められるショックに肉体は如実に反応しては、その拒絶反応から実際にルゥエの  
呼吸すら止めた。  
「あ、お、おぉ……ッ、はや、ぐぅぅぅ……死んじゃうのぉ……ッ」  
 過呼吸に身悶えながら首を上げ、肥大した己のクリトリス一点だけを見つめるルゥエの視界に、新たに注射器を  
掲げながらそこへ屈む主人の姿が見えていた。  
「新しいお薬ッ!? いいよ! もっと射ってぇ!! 気持ち良くなるなら、何でもしてへぇぇぇ!!」  
 その動きに期待を高ぶらせるルゥエに従うでもなく、主人は至って冷静にそれを彼女へと打つ。  
 しかしながらそれが打たれたのは膣の何処か……クリトリスではない。針の突き立つ痛みも、今のクリトリスが  
鋭敏化している状況と相成っては打たれたことすらルゥエには感じられないほどだ。  
 しかしながらこうして薬物投与した後には決まって激しい快感の波が来た。今回もそれを期待して胸高鳴らせるルゥエではあったが、  
「なぁに? なんで? なにも無いよぉ? きもちよくならないよぉ? なんでなのぉッ? なんで、きもちよくならないのぉぉぉぉッ!?」  
 今回は一向としてその効果が現れてくれないことに、ルゥエは疑問と不満の声を上げる。  
 その傍ら主人はといえばそんな反応にはお構いなしに、ルゥエの股ぐらの前に陣取っては先程注射した個所を何やら観察する。  
 
 そして次の瞬間、  
「んはッ!? い、いたい! ぴりぴりするぅぅぅぅ!」  
 性器に感じた刺すような痛みにルゥエは声を上げた。  
 おそらくは中指が挿入されたであろう内部を探られるようなその感触――膣に感じるような柔らかい摩擦感とは違い、  
今のそれはヒリヒリと焼けるような痛痒感が感じられた。  
 とはいえ今に至るまでの行為に比べれば全然大人しい痛みである。しかしながらそれゆえに疑問を感じなくもない。  
 それこそは、  
――なぁに? どこに……どこに指を入れてるのぉ?  
 そんな素朴な疑問。  
 ここからも見える通り、今も膣と肛門にはあの、白銀のディルドが収まっているのだ。もはや性器そこにこれ以上  
弄ばれるような孔(あな)などあったものであろうか? ――と。  
 しかしながらルゥエはすぐに気付くことになる。  
「んあああぁぁ! い、いたいぃぃ! なにこれぇッ? おへその奥がいたいよぉッ!?」  
 一際深く主人の指が挿入された瞬間、叫ぶ通り臍の奥底に鋭く突くような痛みが走った。そしてその直後、激しい  
尿意が発生したことにルゥエは全ての真相に至ってしまう。  
「これって……おしっこ? おしっこの穴に、指いれてるのぉッ!?」  
 想像の通り、主人はルゥエの尿道そこへ指の挿入を果たしていた。  
 先程彼女へと注射したものは弛緩剤の一種である。それによりルゥエの括約筋と皮膚にの一部を緩め、今の拡張が  
可能な体へと作り上げたのであった。  
 根元まで中指が埋まるとその指先は如実に膀胱を刺激してはルゥエの排尿感を高めさせる。そして指一本での往復が  
可能と知るや、次はそこへ人差し指も添えて二本での挿入を試みる。  
「い、いたいぃー! んおぉぉぉ……ッ無理だよぉ! そこは、本当にダメなのぉ!!」  
 拒否が受け入れられたことなどは一度として無い。それはルゥエも知るところではあるのだが、それでも今の彼女には  
それを叫ぶことしかできない。そしてそんな抵抗と懇願は、それを施す者をより一層に興奮させてしまうだけなのだ。  
 何度もその身を捻じり、返したりさせながら侵入を進めると、ついには二本指もまた尿道の中に収まってしまった。  
 そこから浅く出し入れを始める動きに、  
「んぢぃぃぃいいー!! いだいぃぃーッッ!!」  
 突き刺すようなその痛みと刺激に機能の障害を来した膀胱は、その容器に残っていた尿を排泄させては主人の指を拒む。  
 この小さな体のどこにこれほどの水が貯まっていたものか不安になるほどの量をとめどなく噴き出し続ける体ではあったが、  
その中でルゥエにも変化が現れ出していた。  
「んぁ……あひぃぃ……いいぃ……きもちいいッ……おしっこの穴ぁ、いたくて、きもち、いいッ……!」  
 尿道を探られる痛みですらもがついに、彼女の中では快楽へと変換された。  
 
 こうなるに至ってはもはや、彼女を止められるものなどは何も無い。  
「きもちいいよぉー! い゛ぃぃぃー!! もっと奥までいれてぇ! もっとたくさんしてぇ! もっとぉッ……もっと、  
痛くしてよぉぉぉッ!」  
 再び己から腰を上下させては主人からの愛撫を一身に感じようと躍起になるルゥエ。  
 この段にいたり――宴の支度は全てが整った。  
 尿道に預けていた指を引きぬくと、主人は立ち膝に起き上がってはルゥエから離れる。  
「や、やだ! もっとしてぇ! 何でやめちゃうのぉ!? もっとしてよぉ!!」  
 それに対し声を上げる彼女を前に、主人が己の屹立したペニスを晒すや――それを確認してルゥエは生唾を飲み込む。  
「あ、あぁ……チンポだぁ……ご主人さまの、本当のおチンポだぁ……ッ」  
 反りも鋭く、巨木の根のように強(こわ)く血管を浮き上がらせた主人の陰茎は、今までに見たどんな玩具やペニスよりも  
恐ろしげに見えた。  
 しかし同時、それに対してこれ以上に無い愛しさもまた感じていたのだ。  
「い……いいよ。それで、差してください……おまんこでもお尻でも、おしっこの穴でもおへそでもいいです……耳だって鼻だって、お目々をくりぬかれたって構いません……」  
 懇願、というよりは宣誓に近いその言葉――自分という存在は血の一滴までも主人のものであり、その手に掛れるのであれば  
最悪の事態を迎えることになっても後悔しないことをルゥエは自分の言葉で伝えた。  
 そして、  
「今日こそは、貴方の手で殺してください。大好きな、貴方の手で」  
 それを伝え、心からの笑顔を向けた次の瞬間――一息に、主人のペニスはルゥエの尿道を貫くのであった。  
 先端は膀胱に届くやその間口を貫いてはそこの中に亀頭を埋めた。  
 外部から内臓を直接に傷つけられるその痛みと衝撃に、  
「ぶぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁッッッ!!」  
 ルゥエはこの日一番の叫(こえ)を上げた。  
 もはや『刺す』や『貫く』などといった言葉では形容しがたいその痛み――否、その衝撃は言葉などで形容できる  
次元を超えている。内臓器官への直接のダメージなど、生命に関わることなのだ。  
 それでもしかし、  
「お、おぉぉおお! ぅぉおおおおぉぉ……ッッ……ぅんぅぅぅ……きたぁぁ……!」  
 それを受け止めるルゥエの貌は、笑っていた。  
 下瞼の形が真円になるほどに瞳を見開き、口角や鼻孔をはじめとするあらゆる孔からは何らかしらの体液がとめども無く  
あふれ出してはルゥエの全体を濡らす。  
 しかしながらいかに本人が――その脳がこれら衝撃を快楽に変換しようとも、実際今日この肉体へ科せられている衝撃は  
そのどれもが生命の危機に関わる無慈悲なものであった。  
 それを理解しつつもしかし、ルゥエは今この瞬間が幸せでならない。  
 彼女にとっての一番の苦痛それとは、孤独にあった。  
 
 幼き日の、本当に何も無かった自分などは誰の歯牙にもかけられない存在であったのだ。  
 しかし虐待されたからこそ、そこには『虐げられている自分』が存在していた。父や周囲の人間にとって  
『都合の良い自分』がそこに在った。  
 今の社会においてはそんな存在理由などは嘆かれて、あるいは非難されてしかるべきことなのだろう。しかしながら、  
そう実感することで今日の自分を確立し得た人間もまたここにいるのだ。  
 虐待を受け止められる人間とはすなわち、守ることのできる人間である。  
 誰かの代わりに犠牲になり、そして捌け口となることで加虐者の心の重荷もまた解き放つ――ルゥエの考える娼婦像、  
しいては自分に課せられた使命こそはそこに在るのだと確信していた。  
 だからこそ苦しみは快楽に、痛みは愛に変換される。  
 今まさに彼女は、その快楽と愛の最中に在った。  
 斯様にして愛され続ける中、  
「あ、あぁぉお……い、いぐぅ……いぐのぉ………いたくてぇ、いっぢゃうの゛ぉぉぉぉぉ……!」  
 ついにルゥエにも絶頂に息衝きはじめる。  
 すでに肉体的な限界が近づいていた。  
 そんな彼女の限界を前に、主人もまた最後の仕上げに入る。  
 依然として正常位にピストンを続けながら主人は傍らの暖炉へと手を伸ばし――そこにて火掻き棒の一本を手にすると、  
一思いにそれを引きぬいた。  
 その勢いに暖炉の薪炭が弾かれて、舞い上がった火の粉が暗がりに散ってはその一瞬、室内の天井を照らしだす。  
 そんな主人の動きに、もはやこれ以上の驚きは無いと踏んでいたルゥエも目を剥いた。  
 馬上の騎士が指揮を執るかのよう右手に掲げられた火掻き棒――しかし赤く焼けては輝きを放つ先太りの形状は  
火掻き棒では無く、農場で家畜が整理される際に押しあてられる『焼きごて』の如き形をそこに見せていた。  
 やがてはそれを両手にしては逆手に持ちかえると、主人はルゥエの恥丘の真上にそれを誘導し、そこへ狙いを定める。  
「な、なぁに? それ、なぁにッ? 焼けてるんだよッ? 危ないんだよッ!?」  
 素肌から数センチ上に在るそれの焼かれるような熱気を感じ、ルゥエの表情も蒼ざめる。  
 それと同時、その危機を前に彼女の体もまた異常な反応を起こしていた。  
 無意識でその体全体が痙攣を始めると同時に、体中の筋肉はこれから来るであろう痛みを予測しては縮小して主人の  
ペニスを締め付ける。  
「だめ、だよぉ……あついよぉ……そんなの、あぁ……いやだぁ……ッ」  
 心許なくそんなセリフを口にしながらもルゥエは件の焼きごてから目が離せない。  
 痛みの予期は同時に、快楽への期待でもある――今までの不意な責めの施しとは違い、凶器を晒し充分にそれを視覚で  
確認させられてはついに、ルゥエの心も壊れた。  
「ッ……、………………して」  
 震える唇は――  
「して、くださいッ。それで……ルゥエに、思いっきり、ひどいことッ……して、ください!!」  
 ついにそれを求めてしまった。  
 
 それを受けてルゥエの恥丘の上へと落とされる焼きごて。  
 刹那――ルゥエは主人の口元が僅かな笑みを作ったのを見たような気がした。  
 そして次の瞬間、火掻き棒の先端は深々とルゥエの肌に食い込み、蒸気の噴き上がるかのごとく音を発した。  
 
「ッッッッ〜〜〜〜〜ぎゃあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぅぅッッッ!!」  
 
 快楽に溶けた脳が一息に覚醒するほどの痛みと衝撃――直に肉を焼かれるその熱(いたみ)にルゥエは我を忘れて叫びのたうつ。  
『ぐッ……ぬぅぅ………ぐくぅぅ……!』  
 その一方で主もまた苦しみを噛み締める呻きを漏らした。  
 いま彼が挿入している尿道はこの焼印が為されている恥丘のすぐ下に当たり、そんな焼結の熱と痛みとは充分に  
己へも返って来ているのだ。  
 それでもしかし――その痛みの中にあってもしかし、主人は焼印を押しつける手を緩めることは無かった。  
 痛みに意思が弱まると判断するや、そこから己が逃げてしまわぬよう体重を柄に預け、さらに強く深く焼きごてを押しつけていく。  
 その中で、  
「いぐぅぅぅぅううううううううううう!! ぅえおぁあああああああああ!! いぐのぉぉぉおおお゛ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」  
 絶叫を以て絶頂を伝えるルゥエへと、  
『ッ〜〜〜〜……僕も、イクよ。ルゥエ、一緒に……!』  
 主人はこの夜初めて彼女へと声を掛けた。  
 それを受け見開く瞳に一条、愛しさの光を帯びてはルゥエもうなづく。  
 そして次の瞬間、主人は想いの限りをルゥエの中に迸らせ――  
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッ!!」  
 ルゥエもまた今在る命の全てを放出するかのよう痙攣しては、体を仰け反らせるのであった。  
「え゛ッ……え゛ひぃッ……え゛ッ、え゛おぉぉ………ッ」  
 斯様にして迎えた絶頂の余韻の中、未だ臍を天に突き出してはその身を焼きごてに強く押し付けて硬直するルゥエ。  
 そんな彼女の尿道からゆっくりとペニスを引きぬくと、そこには焼きごとの影響を受けて赤く表皮の焼きただれた  
主人の筒身が露わとなる。そして一方でルゥエの尿道もまた、ぽっかりと主人のペニスの形に間口を広げては、  
不定期に来る痙攣に合わせて内部の精液とさらには排尿を繰り返しては斯様にただれた姿をそこへ晒すのであった。  
 それらを確認すると、次いでは件の焼きごてを剥がしにかかる。  
「んぐひぃ……ッ?」  
 焼きごての柄を掲げ引き上げると、焼結した彼女の皮膚はすっかりそれに貼りついて、その白い毛並みと相成っては  
モチが引き延ばされるかのよう、そこの皮膚と毛並みとをまとわりつかせて浮き上がる。  
 やがてそれも端から隙間が生じ、徐々にはがれ始めたかと思うと――重力に負けたルゥエの体は完全にそこから解放されて  
ベッドへと落ち沈むのであった。  
 その解放とそして絶頂の余韻に弛緩して、意識はおろか全身の筋肉すら虚脱させては脱力するルゥエ。  
 
 膣に収められていたディルドも見る間に下降してきたかと思うとついには、括約筋の消失に子宮口までもが膣口から  
はみ出してはその間口に加えこんでいたディルドを吐き出す。  
 その様は肛門もしかりで、こちらに至ってはディルドと同時に大量の便が止めどなく溢れてはベッドのシーツを汚した。  
「おふぅッ……ん、んぉッ……お゛ッ、お゛ぉぉ……ッ」  
 排泄と排出、力みと緩み、そして快楽と痛み――そうした体中の全てを開放しきり、徐々にルゥエの中からも硬直が  
解けていった。  
 そうして本来ある柔らかな彼女に戻る頃には、その意識もまた薄れていった。  
 そんな中ふとルゥエは思う。  
――あぁ……すごい気持ちいい……幸せぇ……。  
 今までに感じたこともない多幸感に包まれながら彼女は、  
――神様ぁ、どうかこのまま……死なせて下さい……。  
 最後の最後にそんなお願いをして眠りに落ちるのであった。  
 
 
 
 
 
 
 
.  
 
【 6 】  
 
「ルゥエちゃん! 起きてよ、ルゥエちゃんってば!! 起きてぇ!」  
 春雷のよう遠くから徐々に輪郭を以て響いてくるその呼びかけと、さらには自分を揺すっているであろう感覚を確認し――  
ルゥエは緩やかに覚醒した。  
 誰かの手の中で仰向けに抱かれているであろう感触もまた理解しゆっくりと瞼を開ければ、そこには自分と同じ兎の青年が一人。  
 栗毛の毛並みが鼻周りだけ綺麗に白くなっているそのあどけない表情――ころころと太ったその丸い輪郭を愛らしいと  
思うと同時、ルゥエは完全に覚醒を果たした。  
 そして目の前の彼を誰なのかもまた完全に認識して、  
「あ………、やぁ〜ん♪ ご主人さまぁ〜んッ」  
「あわわわッ」  
 ルゥエは目の間の人物――今日の自分のパートナーであった『主人』に強く抱きつくのであった。  
 そうして熱烈に何度もキスをしては改めて確認するその顔。  
 二〇代も始めであるにも拘らず黒目がちのつぶらな瞳と色の淡い鼻頭の表情は、ルゥエにも負け時劣らずの童顔であった。  
体つきこそ脂肪を蓄えてしっかりとしてはいるものの、そのあどけない表情と相成っては『巨大な赤ん坊』のようですらある。  
 気がつけば闇一色であった室内にも眩いばかりの照明が灯っていた。  
 件の電極装置が置かれた猫足の豪奢な什器と今自分達が居るベッドそれが、この部屋の調度の全てある。  
情事の最中にはあれほどまでに禍々しく存在感を醸し出していた暖炉も、この照明の下と在っては昼行燈この上ない。  
 斯様にして光の下に晒された室内には、先程までの狂気などは一欠片として残されてはいないのであった。  
 そんな現実世界の中でルゥエはしばしかの主人・クインと抱擁をしては、恋人同士の時間を楽しむ。  
「ん……ルゥエ、歯がガジガジになっちゃったね。大丈夫なの?」  
 数度目のキスを交わした時、ふとルゥエの欠けた前歯が自分の唇に触れるのに気付いてクインも言葉を掛ける。  
 それこそは誰でもない自分が与えてしまった傷だけに、クインはそんなルゥエの姿に胸を痛ませずにはいられない。  
 しかしながら当の本人であるルゥエはあっけらかんとしたもので、  
「あ、これ? へーきへーき♪ 半年くらいで生え換わるんだよ、ルゥエの歯って」  
 自分の体以上に、そう心配をしてくれたクインの心遣いの方が嬉しいといった様子で再び抱きつく。  
 ここでの仕事においてルゥエがもっとも愛して止まない客こそが、このクインその人である。  
 実際のところかのクインは、加虐嗜好といった趣味は微塵として持ち合わせていない青年であった。生まれも育ちも  
温室の良家の御坊ちゃまであったところの彼は、事実虫すら殺せないような無害の性分であったりもする。  
 ならばそんな青年がなにゆえルゥエに斯様な仕打ちをもたらすのか?   
 それこそは――愛、に他ならなかった。  
 ここを訪れてルゥエと知り合ったのは2年前――成人式を悪友達と祝った際に、訪れたのがここであった。  
 女遊びも知り尽くしている友人達とは違い、童貞どころか家族以外の女性とはメイドとだってろくに口も  
聞いたことのない体たらくである。  
 
 自分の趣味嗜好すらまともに説明できないそんな彼に店があてがった嬢こそが、誰でもないルゥエであった。  
 なまじ『女』を感じさせないルゥエの天真爛漫さに、すぐにクインも打ち解けた。そして彼女との甘い一時を経験し、  
純情な青年が恋に落ちてしまうことは想像に難くないことであった。  
 そうなってくるとルゥエのことが誰よりも知りたくなるのが性というものである。  
 その後も足繁く通っては、次第に彼女のことをクインは知っていくのであった。  
 被虐愛好趣味であったルゥエは、度を超えた『M』であった。  
 それも、ただ打つ締める程度では満足出来ない真性さゆえに、自称Sの客達からも忌避されて当時の彼女は孤独の中にあったのだ。  
 それを見かねてクインは一大決心をする。  
 彼女を満足させることこそを、ここでの目的にしよう――と。  
 以来クインの苦悩日々が始まった。  
 どうにかしてルゥエを楽しませようと躍起になるも、所詮は元童貞の浅はかさ。彼の虐待(当時はげんこつする程度)と  
アイデアに、ただルゥエは苦笑いするばかりであった。  
 それでもしかし、クインは諦めなかった。  
 ただルゥエの為だけに、クインは自分の中の良心や呵責を押し殺して彼女への虐待を続けた。本来はそういった行為を  
最も苦手とする性分であるにもかかわらずである。  
 そんなクインに次第にルゥエも惹かれていった。  
 今までに自分を求めた男達は皆だれもが、欲望のはけ口や誰かを傷つけたいといった負のイメージでしか自分を見てはくれなかった。  
 しかしながら、このクインだけは違ったのだ。  
 痛みや残虐さは誰よりも苦手な彼のはずなのに、そんな自分を押し殺してはルゥエにそれを施してくれた。  
 次第にそんなクインから受ける仕打ちはそのどれもが温かく体に届くようになった。彼の責めが厳しければ厳しいほど、  
それは同時に自分への愛情の深さもまた示してくれているのだ。  
 そして今日――これ以上は無いというくらいの責め苦、その愛を一身に受けてルゥエは改めて彼への想いを強くしたのである。  
「だけど、最後のジューはすごかったねぇ♪ ルゥエ、あんなの初めてだったよ? ほら、すごいよー? 跡ー♪」  
 言いながら見せてくる恥丘の上には『R』を刻印した焼印が赤くただれた傷跡も鮮やかにそこに残っていた。  
「そ、それはね、僕の家の家紋なんだ。屋敷の馬にうちの所有物だってことを知らせるための家紋なの」  
『所有物』の言葉にルゥエはいっそう瞳を輝かせた。  
「すごーい♪ ご主人さまのおうちって、あの『ラーズ家』でしょ? めちゃくちゃお金持ちの。そこの家紋が入っちゃうだなんてすごい嬉しいよぉ♪」  
 嘘や社交辞令などではなくルゥエはそう思っていた。なによりも今この瞬間、自分がクインの『所有物』になれていることが  
何よりも嬉しかったのだ。  
「この傷だけは治らないでほしいなぁ……ずっと残してたい」  
 我が子をいとおしむかのよう、その家紋が焼き入れられた腹部をさすってはルゥエも恍惚と今の幸せを噛み締める。  
 
 そんな彼女の横顔を目の当たりにして、クインも生唾を飲み込む。  
 今日は、こうして会うこと以外にも重大な誓いを胸に秘めてやってきたのだ。  
 そして、  
「ルゥエちゃんッ」  
 語気強く彼女を呼ぶ。   
 こんなに強く真剣にルゥエの名を呼ぶなんて、プレイ以外では初めて出会った。そしてそれをルゥエもまた知るからこそ、  
驚いたように顔を上げては正面からクインを見つめる。  
「な、なんですかご主人さまぁ?」  
「今日はね、今日は……今日はッ、大事な話があるんだ!」  
 口の渇きに何度も舌を縺れさせながらクインは続ける。  
 緊張のあまりベッドの上に膝を正してそれを伝えようとするクインにつられて、つい対峙するルゥエもまた正座をしては  
彼の言葉を待つ。  
 そうして『その言葉』を何度も頭の中で反芻しやがては、  
「ルゥエ、僕と、結婚して」  
 クインはそのことを伝えた。  
 その告白にもしかし、ルゥエの表情は一向に変わらない。依然としてきょとんと彼を見上げる表情は瞬きひとつしてはいなかった。  
 それでもしかしその直後――ルゥエの頭の毛並みが一瞬ハリネズミのよう膨張して、やがてはそれが波となって体に降り足を走り、  
最後に尻尾を爆発させて消えた次の瞬間には、  
「えぇぇえええええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」  
 その言葉の意味を理解して、ルゥエは両手で口元を押さえては必死に溢れ出る感情と叫(こえ)とを抑えるのであった。  
「嘘じゃないよッ? 本当だよ!」  
 そしてクインもまた、一度堰を切ってしまうと途端に腹が据わった。彼は、今この瞬間こそが人生において数度ある  
『勝負』の時であることを本能で察知したのだ。  
「君が好きなんだ、どうか僕と一緒になって!」  
「えー……でもルゥエ、こんなお仕事してるし……」  
「そんなの関係ない! だったら僕と一緒に今日すぐにここを出ようよ!」  
「でも……こんなヘンタイな女の子なんだよ?」  
「全然気にしてないよ! 君が望むなら、毎日だって今日みたいに苛めてあげるから!」  
「でも、ルゥエわがままなんだよ? 夜中に急にお話がしたくなって、みんなを起しちゃったりするんだよ?」  
「僕でよかったらいくらでも起こしてよ。君の話が聞きたいんだ!」  
「でも、でも………」  
 追い詰められていた。しかしルゥエは、追い詰められたかったのだ。  
 誰よりも責められることを望んだルゥエは今、人生の中において最も重大な責め苦の中にいる。  
 
 そしてそんなルゥエに畳みかけるよう、  
「僕が君を幸せにしてみせる! 僕が君を笑わせてみせる! そして最後には僕がッ……」  
「…………」  
「僕がッ、君を殺してあげるから――お願い、ルゥエ! 愛してるんだー!!」  
 クインは言葉の限り、想いの限りにその言葉を伝えた。  
 そんなクインの全てを受けて、場違いにも泣き出しそうにその顔を歪めるルゥエ。  
 そしてそんな顔をかき消すよう両手で強くそこを掻き擦ると―――  
 
 ルゥエは、今日一番の笑顔でクインに応えるのであった。  
 
 
 
 
☆      ☆       ☆  
 
 
 
 
.  
 
 館から表に出ると、外には雪が降りしきっていた。  
 風も無くただ落ちては積もるばかりの静寂のそこには、今この瞬間、世界で自分が一人だけになってしまった  
かのような錯覚を覚えさせた。  
 しばしそんなことを想いながら宙に息を舞わせてはいつまでも降り注ぐ雪を見つめていた。  
 そこへ、  
「……冷えますよ。早く出ましょう」  
 送迎の馬車(ブルーム)から御者のクウが声を掛ける。  
 それを受けて、  
「……あぁ、すいません。それじゃあ、お願いします」  
 
 クインは小さく頷くと一人、馬車までの残りと足取り重くたどるのであった。  
 
 そうして乗りあがろう片足を掛けた刹那、クインは動きを止める。  
 そこから振り返り館を見上げると、彼の視線は自然と三階の角部屋へと向かった。  
 自分が去った時と同じように照明が灯されたままの窓からは誰も姿も見ることは出来ない。  
 そして俯くように視線を切ってはそのまま――クインも馬車へと乗り込むのであった。  
 それを確認しクウが馬達へ一鞭入れると、馬車は小さないななきの後、新雪を轢き締めてはゆっくりと動き出す。  
 そうして馬車の去り行く気配を確認すると――館の中のルゥエもまた、部屋の窓からそんなクインの馬車を  
見下ろすのであった。  
 いつまでもいつまでも飽くこと無く、やがてはその馬車が視界から消え、それの残した轍が降り積もる雪に消されてもなお、  
ルゥエはそこを見下ろし続けるのだった。  
 そうしてどれくらいが経った頃だろう。部屋のドアが厳かにノックされるとともに、  
「ルゥエ、まだいたの? 今日は傷は大丈夫だった?」  
 あまりに戻ってくるのが遅いルゥエを心配したティーがそこを訪れたのであった。  
 そんなティーにもしかし、ルゥエは微動だにしようともしない。  
「どうしたの? 嫌なことが、あったの?」  
 そして次に掛けられたその言葉に、  
「…………すごくね、嬉しいことがあったの」  
 依然として窓の外を見つめたままルゥエは独り言のように応えた。  
「ご主人さまがね、『結婚しよう』って言ってくれたんだぁ……本当だよ」  
 思わぬその告白にティーも息をのむ。  
 そしてどう言葉を掛けたものか考えあぐねながら歩み寄るティーに気付いてか否か、依然としてルゥエも続ける。  
「でもさ、断ったの。だって受けられないもん……」  
「ルゥエ………」  
「……笑っちゃうよね。お金持ちのお坊ちゃんがこんなお仕事してる女の子に夢中になっちゃうんだもん。だからさ言ってあげたの」  
「…………」  
「そんなのあなたの勘違いだよって。気持ち悪いから、もう二度と来ないでって……ッ、だってさ……だってさぁ………」  
 
 徐々に近づいていく彼女の背中。そしてその背後まで迫り、  
「だってさ、向こうは王子様でルゥエはただの兎だもん……」  
 ルゥエを映す暗がりの窓ガラスに――涙をいっぱいに溜めては悲しみに堪えるルゥエを見つけた瞬間、  
「ッ……ルゥエ!」  
 ティーは――そんな彼女を抱きしめてしまうのだった。  
 背中から抱きしめられるその感触と温もり――そこに誰かの存在を認識してついに、  
「……う、うわぁぁぁ………うわぁぁぁああああああああああああああああああ!」  
 ついに、ルゥエは泣き出してしまうのだった。  
「お母さんッ、お母さぁん!! 嫌だよぉ、ルゥエもご主人さまと一緒になりたいよぉ!!」  
「ルゥエ……」  
「でもさぁ、ルゥエなんかと一緒になったらさぁ、ご主人さまきっと不幸になっちゃうよ! ルゥエみたいな女の子が  
奥さんだなんて知れたら、みんなご主人さまをバカにする!!」  
「あぁ………ルゥエ!」  
 けっして嫌いだった訳ではない。否、こんなにも愛していたのだ。  
 クインがルゥエの為に非情になってくれたように、ルゥエもまたそんなクインの為に私情を押し殺したのだ。  
 そして遠からず訪れるであろうこの未来もまた、外から見守るティーは予期していた。  
 だからこそルゥエに忠告をしたのだ。  
――『時には強い愛情が自分を強く傷つけてしまうこともある』  
 いつか来るであろうこの瞬間の為に覚悟をしておけるようにと、ティーはルゥエへと言い諭していたのだ。  
 それでもしかし、このあまりにも残酷な結末を前にしてティーも胸が張り裂けんばかりの想いでルゥエを抱きしめた。  
「痛いよぉ……苦しいよぉ……お母さぁん………お母さぁん!」  
 ただ泣きじゃくるばかりのルゥエをティーは何も言わずに抱きしめ続けた。  
 そうしてふと視線を巡らせる窓の外に、ティーは雪を見る。  
 午後も未明から降り出した雪は今もなお止む気配は無い。  
 ならば今、この雪がルゥエの悲しみと鳴き声を覆い隠してしまうことをそこへ願った。  
 無垢の大地につけられた様々な轍や穢れが雪によって覆いかぶされては消えるように、今日のルゥエの傷もまた  
この雪のように降り積もっては消えてしまえとティーは願う。  
 
 そんな二人を想い遣るかのよう空もまた――――無垢の結晶をルゥエとクイン達に散りばめ続けるのであった。  
 
 
 
 
 
 
 
【 おしまい 】  
 
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