ストレングスが動き出した時、寮の部屋ではユウがごねていた。 
と言うのも、静香が号令を出して淫獣と戦いに行く時ユウも一緒になって 
付いて行こうとしたので、明花はあわててユウのパチンコを取り上げたのだった。 
 
「ミン姉ちゃん返してよ、僕も皆と一緒に戦うんだから」 
「ダァ〜メ! ユウ君が行っても足手纏いになるに決まってるじゃない」 
 
「そんなのやって見ないと分らないよ」と言うユウの言葉に明花は 
「やって見なくても分るの!」と一蹴する、先程からずっとこんな調子であった… 
それでもパチンコを取り返そうとして、高く上げられた手に向かってユウはピョンピョンと 
ジャンプをするが、いくら明花の背が低いと言っても届くはずもなかった。 
 
伊織は背中で二人の遣り取りを聞きながら、窓の外の女子高生達と淫獣の戦いをみていた。 
本当なら自分も力を合わせて戦うべきなのだろうと分ってはいるのだが、しかし、淫獣の目的は 
食欲を満たす為ではなく、性欲を満たす為なのだと知った今となっては、もしかしたら 
自分が犯されるかもしれない場所へわざわざ出向いて行けるはずもなかった。 
 
正門の方に目をやると女性警備員が何人か数匹の淫獣に群がられ、犯されている。 
(この世界でもアレを入れられる場所は三ヶ所なのね……) 
 
犯される女性警備員を見て四年前の自分と重なり、思わず目を瞑り顔をそむける、 
助けたい気持ちはあるが、ペニスに性器と後門を貫かれる痛みと苦しみ、 
そして口の中に入れられる息苦しさと生臭さがどれだけ自分を苦しめたか…… 
それを考えると体が勝手に震えだし自分では止める事ができないのだった。  
 
(ごめんなさい…私、もう二度とあんな目にあいたくないの…だから……ごめんなさい…) 
「伊織姉ちゃん、恐いの?」 
「えっ?」 
 
目を開けると隣にサキが居て、伊織の顔を見上げていた、 
そして不安に脅えた顔をして「私も怖いよぉ〜」と言ってしがみ付いて来る…… 
そんな時でも一瞬体が強張る! 
 
(こんな小さな子にも体が反応するなんて我ながら、なんて情けないのかしら……) 
 
夜、寝る時はサキだけではなくユウとも一緒に寝たりしているのだから(さすがに明花のベッドで三人寝るのは無理がある) 
いい加減、慣れて欲しい物だと思った。 
 
「大丈夫よ…きっとお姉ちゃん達がなんとかしてくれるわ…」 
 
一応、微笑んだつもりだったが、果して明花に笑いかける時みたいに出来ただろうか少し不安ではあった。 
その時ユウが口を挟んだ。 
 
「ちがうよ!「お姉ちゃん達がなんとかしてくれる」じゃなくて「僕達も一緒になんとかする」だよ!」 
「ュ…ユウ君…」 
「…ユウ…君…」 
「ユウ兄ちゃん」 
 
皆が一斉にユウを見る。 
 
「だって、そうじゃないか…戦う事が出来る人は戦わないと、守りたい人や助けたい人がいるんでしょ」 
「…そ…それは……」 
 
ユウの言葉に考え込む伊織を見て明花は窓際にユウを連れて行く。 
 
「ンもう、ユウ君ったらぁ……ホラ見て、別に私達が行かなくてもお姉ちゃん達の方が 
 優勢でしょ、だから今回は行かなくてもいいのよ」 
「でも……!? あれ? あれは…」 
 
ユウが正門に目をやると、そこに一際大きな牛頭の淫獣が出て来た所だった……  
 
 
まずはこの勢いを断つ為にストレングスは軽く戦況を見渡す、 
そしてメス供も中から四匹の目立つメスを見つけ出した。 
 
まずは静香を見る 
「あの的確な指示、奴がこのメス供のリーダーだな…だが、この勢いを作っているのは奴ではない」 
次に唯をみる 
「闘志剥き出しで確かに勢いはあるが、奴のはまた別の物だな」 
次はべスを見る 
「あの鋭く早い攻撃、奴はこのメス供の中で一.二を争う強さがあるだろう…だが、奴も違う」 
最後に皐月を見る 
「……アイツだ…奴には周りを惹き付けるなにかがある、奴がこのメス供の中心軸だ」 
 
ストレングスは標的を搾り出すと地面を足で二回掻き蹴り、左手の指を軽く地につける、 
丁度、ラグビーの突進する前の格好になり、大きく息を吸い込んで止め、全身に力を溜め込む。 
だんだんと体の筋肉が膨れ上がり、引き締まって行く…… 
そして「カッ」と目を見開くと、皐月に向かって一直線に戦場を駆け抜けて行く。 
 
皐月は何体目かの淫獣を切り倒した時、不意に後から異様な気配に振り向く、 
すると、そこには自分の目の前まで迫る牛頭の淫獣の姿があった。 
 
(もう躱せない…刀で受けなきゃ……) 
 
刀で防御の姿勢をとる、だが淫獣の攻撃はワキに逸れ、地面に「ズドン」と腕が深く突き刺さる、 
もし刀で受けていたらと思うと、皐月は背筋が「ゾッ」とした… 
 
(ワザと外した…どうして?…) 
 
皐月が不思議に思っていると、ストレングスが話出した。 
 
「お前達では俺には勝てん、諦めて降参した方が身の為だぞ」 
「こ…言葉を……そっか…ワザと外したのは「俺はこんなにも強いんだぞ」て所を見せ付けて 
 戦意を無くさせる為だったんだ…でも、私にはそんなダサい脅しなんて効かないよ…」 
「ならば早くその手に持つ物で俺の体を絶てばいいだろう…」 
 
皐月は「クッ」と声を漏らす、実はストレングスのあまりの気迫と破壊力に 
体が硬直して動けないでいたのだ。  
 
それに気付いたべスと唯が別々の方向から皐月のもとへと駆け出す。 
 
「メイさん、相手の気に呑まれていますわ」 
「メイの奴、思いっきりビビッてんじゃねえか!」 
 
ストレングスは皐月の目を睨み付けながら、ゆっくりと立ち上がる 
 
(デカい、2メートル…いや、3メートル……もっとあるかも…) 
 
皐月は二歩、三歩と後退り、ストレングスは追い詰める様に歩き出す、 
そこに逸早く駆け付けて来たべスがストレングスに閃光の一突きを放つ! 
しかし左の外腕、しかも骨にあたり、それを防がれる 
(私の突きが止められた……) 
 
「メイさん、しっかりなさい! らしくありませんわよ」 
「べス……そうね、どうかしてたよ」 
 
皐月は刀をしっかり握り固め、上段から一気に振り下ろす、 
だが、これは角で受け止め、押し返される…その反動で皐月の体が後へ大きく仰け反り、無防備になる。 
 
「しまっ…」 
 
(やられる…)と思った瞬間、皐月とストレングスの間に割って入る一人の少女! 
三上 唯だった。 
 
「刀に気合が入ってないぞ、メイィ!」 
「ゆ…唯」 
「よぉっく見とけぇ〜、これが見本だぁ!!」 
 
「ズダンッ」と大地を割るほどに踏み込み、気合の篭った渾身の一撃を打つ! 
しかし、それさえも右の外腕で防がれた。 
相手が人間や並の淫獣であれば骨は粉々に砕けていたであろう…… 
しかし、上級淫獣のストレングスにはあまり効果は無かった様で受けた右腕を軽く振っていた 
 
「メスにしてはいい攻撃だ、久しく腕が痺れたぞ……」 
「私の渾身を…ウソだろ……」 
「今度は俺から行くぞ」 
 
そう言うと右腕を振り翳し左から右へと薙ぎ払う 
三人の少女達はその攻撃を後ろ飛びに回避する。 
 
「こんなのに……」 
「クッ…なめないでよね」 
「うわっと…あっびねぇ〜」 
 
凄まじい攻撃の風圧に地面の砂埃が「ブワッ」と舞い拡がる…… 
今、三人の少女達は同じ事を考えていた。 
 
―――こいつ……強い………―――  
 
寮の部屋でそれを眺めていたユウと明花は信じられない思いで一杯だった。 
まさか、あの三人が力を合わせても苦戦するなんて…… 
 
ユウは(お姉ちゃん達が危ない、何とかしなきゃ)と思い、チラッと明花を見る… 
(外に目を奪われている今なら……) 
ユウは明花に気付かれない様に、ソッと動く。 
 
「あんなの相手に…どうやったら……」 
「…どうかしたの? 明花……」 
 
何事かと伊織が明花に近づいて行ったその時、ユウは明花の手からパチンコを奪え返した。 
 
「へへ〜んだ、これは返してもらうからね」 
「あっ…ユウ君、ダメだったらぁ」 
 
そして、ユウは伊織に向き直り話す 
 
「伊織姉ちゃんも一緒に行こうよ!」 
「…えっ…」 
「僕、うまく言えないけど…助けられる力があるのにそれを使わないなんて、そんなの卑怯だよ」 
 
伊織は言葉に詰まった……明花も何も言えないでいる 
 
「メイ姉ちゃん達や化物に捕まってる警備員さん達、皆が助けて欲しいって思ってるんだよ…… 
 少しでも力のある人が助け様としなきゃ、一体誰が助けるのさ」 
 
ユウの言っている事は綺麗事である 
だが、子供ならではのストレートで純粋な意見だからこそ、かえって心に響く物があった。 
俯いて考える伊織を見てユウは「僕は一人でも行くからね」と言って走り出す… 
 
「ダメよユウ君、危ないから行っちゃダメェ! 伊織…私、ユウ君を連れ戻しに行くね」 
 
そう言って明花はあわてて部屋を飛び出して行く。  
 
伊織はユウに言われた事を考えていた…… 
 
(「少しでも力のある人が助け様としなきゃ、一体誰が助けるのさ」か……確かにそうね、 
 私の時は、周りに人がいなかった状況だったとは言え、小説や映画の様に誰かが私を助けに来てはくれなかった…… 
 だからこそ、私の様な目に遭わせない為に…私の様な目に遭ってる人を助ける為に戦わないといけなかったんだわ…) 
「伊織姉ちゃん、どこか苦しいの?」 
「サキちゃん……そうね、心が…かな」 
「こころ?」 
 
キョトンとするサキの頭を撫でながら、その場にしゃがんで話を続ける。 
 
「うん…私ね自分の事ばかり考えてたの、ある人達の様に他人の事なんて考えず自分勝手にする、 
 そんな人間にはならない、って思っていたのに…いつの間にかそうなっていたの…… 
 私って……最低よね………」 
「う〜ん……でも、伊織姉ちゃんは私やユウ兄ちゃんに凄く優しかったよ」 
「…私……優しいかな……」 
「うん! 私、伊織姉ちゃん大好きだよ」 
「サキちゃん…… 
 
伊織は「ギュッ」とサキを抱き寄せる、今なら分かる、明花や三上さんの気持ちが…… 
小さくて暖かく柔らかくて愛らしい、この存在を何としても守り通さなければいけない! 
そう決意をするのだった。 
 
「さてと、そろそろ行く用意をしないと……」 
「みんなを助けに行くの?」 
 
「そうよ」と言ってクローゼットから袋に入った弓を取り出す。 
 
「どうして新しいのを使うの? こっち、まだ使えるよ…」 
「私も本当はこんなの使いたくはないのよ…さっき言った、自分の事ばかり考えている人から貰った物だから…… 
 でも、私もその人みたいになりかけていたって事を忘れない為に…… 
 この弓を持つたびに自省しなきゃいけないから」 
 
そう言って伊織は袋の中から弓を引き出すのだった。  
 
その弓は黒漆の彫漆に沈金が施された、見るからに高価な物だった。 
 
「うわぁ〜綺麗な弓だね、伊織姉ちゃん」 
「まったく、呆れるわね……こんなの試合に使える訳ないじゃないの、 
 弓なら何でもいいとでも思っていたのかしら?」 
 
伊織は、まじまじと弓を見る。 
 
(材質は竹じゃなくて木ね、種類は梓(あずさ)かしら…月に雲がかかった彫が一つ、 
 あとは所々に雲が数個、嫌味無く彫られ、それらに沈金されたいる、手の込んだ物だわ… 
 あれ? 字も沈金されている…月群雲(つきむらくも)…これって名前? 
 弓に名前を付けるなんて聞いた事がないわ……) 
「ねぇ、伊織姉ちゃん…急がなくてもいいの?」 
 
サキに言われ伊織は「ぁっ、いけない」と、あわてて弓に弦を張り出す。 
 
弦を張り矢筒を肩に担ぎ「じゃあ、行くね」と言って走り出す伊織に 
サキが「私も連れてって」と言い出した。 
 
「えっ…ぁ、危ないからダメよ……」 
「危なくない様にずっと後の方で見てるから…邪魔にならない様にするから…… 
 ひとりで部屋で待ってるなんてイヤ…ひとりぼっちはイヤなの…お願い、伊織姉ちゃん」 
 
目に涙をためて見詰めて来るサキを見て、かつて孤独だった自分を思い出しす。 
 
「…お姉ちゃんも、ひとりぼっちは嫌い…」そう言ってサキに微笑んで右手を差し出し、 
「一緒に…行きましょう」と言うとサキの顔が「パッ」と笑顔になり 
「うん!」と元気良く走り寄り 
お互いの手を絡ませて部屋から駆け出して行った。  
 
その時明花はユウを校庭の少し出た所でやっと捕まえる事ができた。 
 
「さあ、つかまえた! 部屋に戻ろう、ユウ君」 
「イヤだ! 僕はメイ姉ちゃん達を助けるんだ」 
「子供のユウ君に何が出来るの? ねぇ〜、お願いだからこれ以上お姉ちゃんを困らせないで……」 
「確かに僕は子供だけど、男なんだよ……男は女の子を守らないといけないって 
 父さんも言ってた、だから戦わなきゃ!」 
 
そんな二人の遣り取りを一匹のハイエナに似た淫獣が見ていた。 
どう見ても体の小さな明花はこのメス供の中では一番弱く、戦える様には見えず、 
子供のユウなど問題にもならない、そんな二人に向かって走り出した。 
 
「もういいから、帰りましょう…」と言う明花の視野に一匹の淫獣が走り寄って来るのが見えた。 
 
「…ぅそ……なんでこっちに来るの……ユウ君、早く逃げよう!」 
「あんな奴、僕がやっつけてやる」 
 
そう言ってパチンコを構えるユウを明花は必死になって連れて行こうとする。 
 
「ダメッ、無茶よ! ホラァ、早くこっちへ……」 
「引っ張ったら狙いが定まらないよ」 
 
そうしてる間にハイエナ淫獣は二人の目の前までやって来た、 
 
「あ…ぁぁ……誰か…」 
「こいつ、これでも…」 
 
ユウがパチンコを構えた時、「ガッ」と言う鈍い音とともにユウは殴り飛ばされた。  
 
「ユウ君!…あんな小さな子供になにす…キャッ」 
 
淫獣に掴み掛かろうとした明花は逆に掴み倒されて、着ている服を左右に引き裂かれ、 
彼女の小さな乳房があらわになる。 
淫獣は明花の胸元から首筋まで、そのザラついた舌でゆっくり味わう様に這わす。 
 
「ヒッ…イィィィ……イヤァァー………」 
 
その時「ギャン」と言う淫獣の悲鳴がした。 
明花が目を開けるとパチンコを構えたユウが肩で息をしながら立っていた。 
 
「ミン姉ちゃんから…離れろ……」 
「…ダメ…私の事はいいから……ユウ君、逃げて…」 
 
楽しみを邪魔されて、淫獣は「グルルル」と怒りの唸り声をあげて立ち上がり 
ゆっくりとユウに向かって行った。  
 
ユウは新たに玉を持って引き、狙いを心臓に向けて放った! 
しかし、玉はわずかに上に逸れ左肩にめり込み、さらに淫獣の怒りを煽る。 
 
「クソッ」とユウがもう一度、玉を持ってパチンコを引くその前に、 
淫獣は一気に間を詰めてユウの首を掴み、持ち上げた。 
 
「ウグッ…が……あァ…」 
「イヤァ、お願いです、止めて下さい! 相手はこど…アゥッ」 
 
縋り付いてきた明花を淫獣は、おとなしくしてろ、とばかりに殴り飛ばす。 
殴られた明花は口の中が切れ、口元から血が流れ落ちる… 
 
(私、なんて無力なの…簡単に押さえ込まれたり、殴り飛ばされたり…… 
 ユウ君を…弟を守る事すら出来ないなんて……悔しいよぉ…) 
 
明花はあまりの自分の不甲斐無なさに涙が頬を伝う、 
淫獣は苦しむユウの息の根を止め様と腕を振り翳す。 
 
「ぁ…ダメ、やめて…誰か…お願いだからユウ君を助けて!!!」 
 
  ――――― まかせて、明花 ――――― 
 
ずっと後の方で親友の静かな声が聞えた様な気がした…… 
(…伊織…)そう思った刹那、「シュイン」と空を切り裂く音が過ぎ、 
遅れて疾風が「ブワッ」と明花の髪を舞い上げる! 
 
風の行く先を見ると、淫獣のこめかみを一本の矢が貫いていた。 
淫獣は腕を振り上げたまま動かない……ユウも明花もなぜか動けないでいる、 
まるでその矢が明花達の周りの時間の流れをも射止めてしまったかの様に……  
 
だが、その時間もやがて動き出す。 
持ち上げられてたユウが「ドサッ」と落ちたかと思うと、 
淫獣の両腕がダラリと垂れ下がり、次に膝がガクンと折れて地面に付き、そのまま後に倒れた。 
 
そしてユウは「ゲホッゲホッ」と苦しそうに咳き込み、明花はあわてて駆け寄る。 
 
「ユウ君、大丈夫…苦しいの? 痛い所は?」 
「…ゲホッ、ハァハァ…僕は…平気だよ……」 
 
なんとか笑顔を作るユウに明花は大粒の涙を流し、胸がはだけ、乳房があらわになっているのも構わず、 
「あぁ…良かったぁ…」とユウを胸に中にギュッと強く抱き締める。 
 
明花は「タッタッタッ」と走り寄る足音を聞き後を振り返り、 
こちらに向かって来る人物を見て顔を綻ばす。 
 
「やっぱり、伊織だ……」 
「ぁ…明花、血が…それに服も…」 
「心配しないで、口の中を少し切っただけ…それにユウ君が助けてくれたから、何もされてないよ」 
 
伊織は二人を見た、確かに殴られた痕や首を絞められた痕があるものの大事にはいたっていなかった。 
 
「良かった…二人供、大した事がなくて…」 
 
「でも」と伊織はユウをジロリと睨み、ユウはビクッと明花に縋り付く 
 
「お仕置きは覚悟なさい……どうしてかは分かるわね…」 
「ぇ…あの……はぁい…ごめんなさい…」 
 
ユウは明花の胸の中で小さくなって行った…… 
伊織はそんなユウを見て(なんだかカワイイ)と思ってしまった。 
 
「さぁ、二人はさがってサキちゃんの所に行ってて…… 
 こんな戦い、さっさと終らせるわ!」 
 
伊織は戦場を見据え、弓に矢をつがえる…… 
 
    もう誰にも……何もさせない……  
 
 
 
正門付近における生徒と淫獣達の戦いは今や乱戦となっていた。 
一人の生徒が押し倒されたら他の生徒が木刀や金属バットなどでその淫獣の後頭部を殴る、というような光景があちこちで展開された。 
さらにこの頃には生徒が戦っているという話を聞きつけた楯翔子(たて しょうこ)ら一部の教師達や裏門の警備にまわっていた田沼沙紀奈ら警備員達も参戦している。 
正門が化け物達を前にして開いたという連絡が入りその後通信が途絶えたので、沙紀奈達は裏門に若干の不安が残るものの苦戦しているであろう正門の仲間を助けるためにほんの数人をあとに残して駆けつけて来たのである。 
「!」 
そして正門に駆けつけた時に見たものは、生徒たちが化け物相手に戦っているという予想外の光景だった。 
一瞬驚いた沙紀奈達だったが、すぐに気を取り直して警棒やサスマタを振りかざし淫獣達の群れに突進していった。 
また、正門にいた警備員達も再び戦いはじめていた。 
丘律子は制服の残骸をわずかにまといつかせた上半身裸の姿で乳房を弾ませながら戦っていたし、飛び蹴りを受け顔面を強打した金子研作も鼻血を流しながら警棒を振るった。 
犯されて股間から淫獣の精液を滴らせ下半身を丸出しにしながらも警棒を振るう女性警備員達もいた。 
正門にいた警備員たちは皆「生徒たちが戦っているのに自分たちがいつまでも倒れていてどうする」という気持ちだったのだ。 
もはや数は圧倒的に人間側が優位に立っていた。 
 
このころになると淫獣たちの中にはもはやぺニスも萎えてしまい 
(いくら大勢のメスが居る所でもこれでは割に合わんのではないか?) 
と思い、戦場離脱を考え出す者も出はじめた。 
しかしまだ逃げ出す淫獣はいない、それは自分たちのリーダーであるストレングスが前線に出て来たからだ。 
―ストレングスが出てきたのならこれでもう勝った―と思う者もいれば、―本当は逃げたいのだが、ここで逃げたら後で彼からどんな報復を受けるかわからない―とか 
―もし自分が逃げたあとでストレングスの活躍で形勢が逆転して、メス狩りが成功したら自分は笑い者になる―などの思いが淫獣達にはあり、とにかくこの場に踏みとどまっていた。  
 
そのストレングスは今、皐月たち3人の少女と戦っていた。 
彼は皐月を睨みながら考えていた。 
(俺の力ならこのメス3匹を短時間で叩きのめせる・・・・しかしこの劣勢をひっくり返すには、一秒でも早く敵の中心であるこのメスを無力化する必要があるな・・・・よし!) 
決断した彼は唯とベスを指差しながら仲間たちに呼びかけた。 
「おい!だれかほんの少しの間で良いからこいつらを足どめしろ。倒せなくても良い、あとで2匹とも俺がかたづけてやる」 
「ゲコゲコゲーッ」「ウー、クツクツクツクツ」 
お任せ下さいとでも言うような奇声と共に唯とベスの前に跳躍してきた2匹の淫獣がそれぞれ着地した。 
一匹はストレングスがいつも引き連れている大蛙であり、もう一匹は少し前かがみの姿勢で二本足で立つカメレオンのような淫獣だった。 
 
そしてストレングスは拳を握り腰を少し落としてボクシングと拳法の中間のようなファイティングポーズをとった。 
もちろんこの世界にそんな流派があるわけではない。 
これは彼が幼い頃見た父親の決闘の仕方や彼自身が他の淫獣との戦いを通じて身につけた接近戦用の戦闘スタイルなのだ。 
「メスを殺したくはないから安心しろ、少しだけ眠ってもらうぞ」 
そう言うと彼は皐月に向かって電光のようなパンチを浴びせかけていった。 
一方唯とベスは。 
「くそ、どけ!」 
と唯が拳を見舞おうとすると大蛙はピョーンと高い跳躍を見せそれをかわした。 
カメレオン淫獣もビュルルーッと長い舌を口から吐き出しベスをけん制する。 
レイピアを舌に刺してやろうとしてもすぐに口の中に引っ込めてしまうのだ。 
彼らは唯たちを倒す必要はなく自分がやられさえしなければ良いのだ。 
そのため、負けない事に徹した戦いをされたので唯やベスもてこずっていた。 
 
繰り出すパンチをことごとく皐月にかわされたストレングスは焦り始めていた。 
自分はこの拳で多くの淫獣を叩きのめし従えてきたのに、なぜあたらない? 
このメスが灰色怪猫を殺したあたりから戦況もおかしくなった・・・なんなんだコイツは? 
一方の皐月も相手のパンチを見切ってかわすので精一杯だった。 
あんな拳を一発でも受けたら自分はKOされてしまうだろう。 
そう思うと背筋に冷汗が流れた。 
 
そのころ伊織は校庭の少し離れた所から矢を射り、2匹の淫獣を仕留めていた、すると彼女の傍へ二人の女生徒が駆け寄ってきた。 
唐沢美樹と高見沢麗子であった。 
「橘さん。私は唐沢ってもんだけど、いきなりで悪いけどあの牛の頭をした化け物を射ってくれない?」 
と美樹はストレングスを指差して言った。 
「え?」 
「この麗子が屋上からあいつが他の化け物達に指示を出しているのを見たんだって、つまりあいつがボスかもしれないそれを倒せたらこちらが有利になるかも」 
一度も言葉を交わした事のない上級生からいきなり声をかけられたので一瞬戸惑った伊織であったが、美樹の真剣な目と寮の窓から見たストレングスの実力から彼女の言う事は正しいと直感した伊織は矢をつがえたが・・・。 
(だめ、このまま撃ったら黛さんに当たるかもしれない・・・・せめて彼女がもう少し距離をとってくれたら) 
だがその時ストレングスは皐月に浴びせているパンチが焦りのあまり大振りになっている事に気がついた。 
(いかん、俺とした事が) 
彼は体勢を立てなおすべく、二三歩間合いを取って構えなおした。 
焦りながらもそういうことに気づいた彼はさすがといえるかもしれない・・・・・しかし。 
ドスッ! 
伊織の放った矢がストレングスの脇腹に深深と突き刺さっていた。 
「グッ、グハァ!」 
思わずのけぞるストレングス。 
(今だ!) 
皐月は桜吹雪を上段から一気に振り下ろした。 
スバッ! 
刃がストレングスの肉を切り裂き骨を断った。  
 
血しぶきをあげながら仰向けに倒れていくストレングス。 
「・・・・フッ」 
その時彼の顔に浮かんだ苦笑はメスにやられた自分への嘲りか、それとも自分が危険視したメスだけはあるという想いだったのか。 
ストレングスは地響きをたてて倒れ・・・・やがて絶命した。 
「グゲ!クゲゲゲゲゲ、ゲーッゲコゲ!!」 
ストレングスの死をまじかで見た側近の大蛙はパニックに陥り、あたりかまわず彼の死をわめき続けた。 
おもわず唯が攻撃を止めるほどの取り乱しぶりだった。 
その動揺はあっという間に淫獣達に伝染していった。 
彼らにしてみれば予想だにしなかった事態であり、乱戦の最中指揮官を失い言い知れぬ不安が心を満たした。 
そしてさっきから逃げる算段をしていた一匹の淫獣が逃走を始めると、つられるように他の淫獣達も正門からまたはその近くの塀によじ登り逃走を始めた。 
 
やがて校内から淫獣の姿が消え、門のむこうの荒地の彼方にかすかにそれらの後姿が見えるころになると、生徒達は次々と片膝をついたり地面にへたりこんだりしはじめた。 
そんな中で肩で息をしながらも立っている皐月の肩にやさしく手をかける一人の女性警備員がいた。 
「すごいよ、ほんとに貴女たちは大したものよ」 
という心から感心した声に皐月が振り向くと、田沼沙紀奈が微笑んでいた。  
 
 
午前11時30分。 
海の花攻防戦は淫獣達の全面敗走によって終結した。 
 
美樹や麗子の傍にいた伊織のところに明花と共にユウ、サキが 
「伊織姉ちゃ〜ん」と駆けよって来た。 
そして皐月や唯、ベスも。 
「橘さんほんとうにありがとう。あそこで矢を撃ってくれなかったら私はやられていたと思うわ」 
皐月は感謝の念をこめて礼を言った。 
「ほんとに凄かった!噂どおりの腕前だったよ」 
と唯。 
そしてベスは暖かく微笑んでいた。 
伊織は心の中に暖かいものが広がっていくのを感じた。 
「・・・あ・・・ありがとう」 
笑顔はまだ出せない、しかし伊織はぎこちないながらも心からそう答えていた。 
 
しばらくあたりの様子を見ていた皐月が言った。 
「さて、もう少ししたら私は校長室にいかないと。学校の刀を無断で使っちゃったし」 
「え、行かなきゃいけないのは私のほうだよメイ。それを持ち出したのは私だし」 
と美樹が言うとベスも 
「私も行かなければいけないのでした。このレイピアを無断で持ち出してきたのですもの」 
「よし、それならこの3人でとりあえず校長室に行こうよ」 
と皐月がまとめた。 
   ・ 
   ・ 
   ・ 
今、学園の正門と裏門の扉はピッタリと閉じられ医療班の生徒が忙しく走りまわっている。 
学校側の被害は犯された生徒3名に警備員7名、軽傷を負った者十数名、そして死者は0人であった。 
今、正門付近には多くの教師達が武器を持って見張りについている。 
彼女達は恐れもあり警備員任せで自分達が校舎に待機している間に生徒達が戦い化け物たちを撃退したということに皆恥ずかしさを覚えていたのだ。 
また警備員達も自分たちの同僚である鈴木一平が犯した失態により生徒達への申し訳なさで胸がつぶれる思いだった。 
(女たちを置いて一人で逃げるとは・・・ちくしょう、鈴木の野郎め) 
鼻血止めのティシュを鼻の穴に詰めながら研作は鈴木への怒りを新たにしていた。 
その鈴木はあの後裏門で警備員の制止を振り切りさらに2人の同僚を殴り倒し門の外へ逃げ、いまだに帰ってきていない。  
 
一方、皐月とベス、美樹そして田沼沙紀奈は校長室にいた。 
なぜ沙紀奈がいるかというと、皐月たちが剣の事を詫びに行くと聞いて半ば強引に付いて来たのだった。 
そして詫びる3人の生徒に対し校長は 
「あやまることはありません。そうしなければならないのは私のほうです」 
「校長先生・・・」 
「ごめんなさい、教師である私達自身が怯えている間に貴女たちが戦っていたなんて本末転倒もいいところです。貴女たちがいなければ被害ははるかに大きかったでしょう。ほんとうにありがとう」 
すると沙紀奈が言った。 
「校長先生、お願いがあります。」 
「なんでしょうか?田沼さん」 
「黛さんとアンダーソンさんにこれらの剣を貸し与えていただけないでしょうか?」 
「え?」 
「こんなんことを言うのは警備員としてとても恥ずかしいことです。ですが・・・警備会社からの増援も出来ない今、ここにいる警備員の人員だけでは生徒たちや先生方を守りきることは不可能なのです。ですから・・・」 
「ですから、生徒にも武器を持たせるべきだとおっしゃるのですね?」 
「はい」 
警備員としての責任感が強いので有名な彼女がそこまで決意するにはよほど迷った上での決断であろうことは校長や皐月たちにも理解できた。 
しばらく校長は考えこんでいたが 
「・・・わかりました。しかし私の一存でこの場で決めることは出来ません。理事長や教頭たちとも相談しなければ。田沼さんよろしければ貴女も一緒に来ていただけませんか」 
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結果から言うとその日の夕方までに2人の生徒に対する帯刀許可が出たのである。 
沙紀奈の「武器はそれを使いこなせる者が持つのが一番」という主張。 
そしてなによりも実際に皐月とベスがそれらの剣を使いこなし、化け物たちを倒したという事実が大きかったのだ。 
また理事長もこういう事態になったのだから学校の至宝もコレクションもない、幸い彼女たちなら悪用はしないだろうし実際に使われたほうが剣も本望だろうと判断したのである。 
 
この日、海の花女学園に2人の少女剣士が誕生した。 
さらに唯のナックルも認められ、生徒たちの武装化はいっそう進んで行くのであった。  
 
 

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