「おい!貴様!何者だ?」  
「あぁ?門番、それは私に向かって言っているのか?」  
 昼と言うには早く、朝と言うには遅い街の広場の一角に怒声が響く。  
 対峙するのは砂漠の民に相応しい、白茶けた厚手の服を着た男と  
 見るからに後進国である事を示す貧しい街並みに似合わない、スーツを着こなした豚、もとい丸々と太った男性である。  
 
「ここはこれからライラ・カラーマ様の蜂起演説会場の控えとなるのだ!  
 貴様のような白いぶt「そこまでにしておけ」」  
 使命に燃えるがごとく熱くどなり散らす門番の声を凛とした良く響く声が遮る。  
 振り返れば深緑色の軍服に身を包んだ白に近い褐色の肌の女性。  
 砂漠に咲いた一輪の花とまで謳われる革命軍のトップ、ライラ・カラーマである。  
 
「門番、任務ごくろう。お前が今怒鳴りつけたその男は私の招いたゲスト、ダグラス氏だ。  
 ダグラス。貴方には身分証を発行していたはずだが?」  
「なっ……こここれは失礼いたしました!」  
「あぁ、ライラ。すっかり忘れていたよ……ほら、ここにあった」  
 すっかりかしこまって直立不動のまま固まってしまった門番を尻目に、  
 ダグラスはわざとらしい動作で胸ポケットから身分証を取り出して見せた。  
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「仮にも組織の出資者の名前と顔を、下っ端と言えども私に関わるような者が知らないとは……  
 組織の管理がまだまだ足りないようだね?ライラ」  
「……っ、お言葉ですがダグラス。貴方のような存在があんな末端の者にまで知れ渡っていては  
 貴方の方が困るのでは?」  
 白い廊下を歩く麗人と醜男。お互い相手をファーストネームで呼び合っているというにもかかわらず、  
 明確な立場の差を感じる不思議な光景である。  
 
「当然、そこらで言いふらされては困る。  
 だが君の下には知っている事をべらべらと吐き出すような者しかいないとでも言うのかね?」  
「ぐっ…………」  
 平静を装う女革命家が唇を噛む。ダグラスが革命軍のあれやこれやに難癖を付けてくるのはいつもの事だ。  
 そして……この後の展開も。  
 
「ライラ、ライラ。君が亡きお父上の後を継いだと言ってもまだ未熟なのは私も良く解っている。  
 お父上の悲願は私の悲願だ。私には未熟な君を導く義務がある。そうは思わないかね?」  
「えぇ……いつもありがとうございます。感謝してもし足りないぐらいです」  
「では…解っているね?演説の原稿確認も必要だが、君が土壇場でヘマをしないよう、  
 私が『君』を確認してあげよう」  
「くっ………………」  
 
 足を止め、にやりと笑いかける資産家。  
 既に半分引き返すようなそぶりを見せているのも脅しの一環に過ぎない。  
 反乱軍に必要な様々な費用の大半をこの男が出しているともなれば、  
 その『申し出』を無下にする等という選択肢があるはずもない。  
 
「み、未熟な私を…………ど、どうぞ、ご指導ください……ダグラス」  
 

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