時計は夕刻を指してはいたが、まだ陽は高い。
巨大な石塔が立ち並ぶような集団住宅の他と変わらぬ一室で、
密やかな声が漏れていた。
その部屋は、カーテンを閉め切り、薄暗かった。
部屋の中央に鎮座する大きなベッドの傍で、
裸形の男女が情交に耽っている。
脚を開いて立った男の股座に、女が顔を埋めていた。
男はまだ若い。
精悍ではあったが、どこかまだ青臭さを残す顔立ちである。
この部屋の主の弟、塚越壮介であった。
壮介は、己の逸物を嬲り続ける嗜虐的な快感の波を、
歯を食いしばって耐えていた。
その表情を上目遣いに眺め、陶然とした表情で女は舌を絡ませた。
女は壮介の兄の妻、塚越由衣華である。
二人は不義密通の関係にある。
壮介の兄、塚越一登喜は今、単身赴任でスリランカに居る。
彼が二人の関係を知る由など、あるはずもなかった。
壮介と一登喜とは十歳も歳が離れていた。
その一登喜が、由衣華を妻に迎えたのは一昨年のことである。
由衣華は一登喜より八つ年下で、一登喜より壮介と年齢が近かった。
それが理由というわけではないにせよ、大きな要因であったことは間違いない。
二人は、密かに惹かれあった。
一登喜は出張で家を空けがちの上、元々淡白な性質であったため、
由衣華はその肢体に疼く情動を、持て余しがちでいた。
一方壮介も少年と青年の端境、性欲の捌け口に渇望していた。
二人の目的は合致した。
由衣華の肉体はしなやかで、豊かに熟れた肢体であった。
壮介もまた太く隆々とした男根を持ち、それを使うに足る熱情を内に秘めていた。
初めて肉体を交えてからと云うものの、二人は互いに求めあうようになっていた。
そのため主人が不在の間はほとんど日をおくことなく、
二人は痴態を演じているのである。
由衣華が、壮介のものを咥えた。
太さだけでなく長さも優たるそれは、由衣華の喉奥に易易と届いた。
由衣華の口腔は熱く、どろどろと蠢いていた。
一時も休むことなく、由衣華は壮介のものを舐り続けた。
壮介の息が荒くなる。
由衣華は、ゆっくりと陰茎から唇を離した。
桃色の艶やかな唇から、銀色の糸を引いて雫が落ちた。
「ダメよ、壮ちゃん。
すぐに出しちゃったらつまらないわ。
もっとゆっくり愉しまないと」
由衣華は淫靡な笑みを浮かべると、再び壮介のものを口に含んだ。
細い腕が、壮介の腰に回される。
壮介の躯が強張る。
由衣華が壮介の肛門をまさぐっているのだ。
壮介は、由衣華の頭を掴んだ。
由衣華の暗いブラウンの髪を目茶目茶に掻き回す。
それさえも愉しんでいるかのように、由衣華の顔に喜色が浮かぶ。
壮介が大きく呻いた。
由衣華の指が、壮介の中に這入ってきた。
細い指は、筋肉の締め付けに抗い奥へと潜り、壮介の官能を直撃した。
壮介の陰茎は脈動し、強暴なまでに反り返る。
「義姉さん、ダメだ! 出る!」
その言葉より後か先か。
壮介は獣の唸りのような声を上げ、精を放った。
それは由衣華の喉奥深くを直撃し、
由衣華は弾かれたように壮介から口を離し、むせ返った。
壮介は崩れるようにベッドに腰を下ろすと、
床にへたり込んでえずき、咳き込む義姉の姿を呆然と眺めた。
ようやく少し息が整うと、由衣華は非難がましい目で壮介を見上げた。
「ダメじゃない。
すぐに出しちゃ愉しくないって云ったでしょ」
目元に涙を溜め、唇の端から精と唾液の混じった糸を垂らし、由衣華は詰った。
しかし、その目には悪戯っぽい笑みの光があった。
「すみません、義姉さん。
余りに凄かったので、我慢できず……」
「壮ちゃんはいつもそうだよね。
お尻を弄られると直ぐにイッちゃうの。
お尻の中に、スイッチでもあるのかなあ?」
壮介は、申し訳なさそうに身を縮めた。
「そんなに良かったんだ。ふうん」
由衣華はそう云うと、ベッドの上に飛び乗った。
「じゃあさ、どんな感じなのか教えてよ」
壮介は顔を顰めて考え込んだ。
「なんて言えばいいんですかね。
なんか、違和感というか、圧迫感というか」
「そんなこと言われたってわかんないよ。
ちゃんと、再現して教えてくれないと」
由衣華はベッドに横たわると、ごろんとうつ伏せになった。
そして壮介を誘うように、尻を高く突き上げて、揺らした。
「ね、義姉さん?」
「分かるでしょ、どうして欲しいのか」
由衣華は自ら尻肉を掴むと、
その部分がよく見えるように大きく広げ、曝け出した。
壮介の目は、抗いようのない力によってそこに吸い付けられた。
柔肉の狭間の菫色した窄まりは、花芯から溢れ出た蜜に濡れ、妖しい艶を湛えてひくついている。
壮介は躊躇いがちに、そこに指を這わせた。
由衣華が小さな悲鳴を零し、窄みは磯巾着のように小さく強張った。
「い、いいんですか、義姉さん?」
「いいから、早くぅ。
それとも、お尻の孔弄るのは、汚いからいやかな?」
「い、いえ、そんなことないです」
「じゃあ、早くして。
こう見えて結構、この格好恥ずかしいんだから」
そう云われて、壮介は今更ながらに義姉を犯しているという背徳感を感じた。
その対象が、自分を可愛がってくれた兄に対してのものなのか、
今眼前であられもない姿を晒している義姉に対してのものなのかはわからない。
だが、その背徳感が胸の中で重みを増すに連れて、
壮介の心臓は早鐘のように鳴り立ち、全身に抑えようのない興奮が漲っていく。
吐息が、火のように熱い。
壮介は曝け出された由衣華の小さな菊花に、唾液の雫を垂らした。
糸を降りる蜘蛛のような速さで雫は落ち、由衣華のそれを汚した。
壮介は由衣華の蕾の中心に、人差し指を這わせた。
由衣華が呻き、身を固くした。
壮介は由衣華を傷つけることがないよう、丹念にそこを愛撫した。
由衣華の汗と愛液と壮介の唾液が混ざり合い、蕾を濡らし、沁みていく。
固く閉ざしていた蕾は徐々に柔らかく解きほぐされ、
その中心に仄かな赤味が差し始めた。
最初のうちは度々小さな呻きを零していた由衣華も、
段々と吐息に甘い響きが混じり始めている。
「入れますよ、義姉さん」
由衣華は、無言で頷いた。
壮介の指先が、由衣華の蕾の中心に潜り込んだ。
「ぃ、ぎぃ……」
由衣華が声をあげた。
肉の輪が、壮介の指をきつく締め上げた。
「義姉さん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。大丈夫だから、もっと……」
もっと、どうすれば良いのか、壮介は数瞬の逡巡をしたが、
その指は半ば無意図的に運動を再開していた。
窮窮と吸い付いてくる肉の輪から逃れるかのように、指は引き抜かれようとしていた。
「ダ、ダメ、抜いちゃ……」
由衣華の哀願の声に壮介は指の動きを止め、
ゆっくりと今度はさらに奥へと指を挿し込む。
由衣華が、切なげな声で呻く。
壮介の意識は、由衣華の菊門に呑み込まれていた。
今の壮介には深い思慮などなく、由衣華の声と、その肉体の反応に率直に動く。
指を埋め、引き抜く。
内壁を浅く掘るように掻く。
挿し入れる指の数を増やし、孔の径を押し拡げる。
その度に由衣華は違った声で鳴き、小花は妖艶(ナマメ)かしく姿を化える。
菫色した小さな蕾は、紅い血の通った、鮮やかな肉の花となって開いていた。
壮介は憑かれたように、由衣華の後孔を弄んだ。
「義姉さん、凄いよ。
お尻の孔が口を開けて、ひくひくしてるよ。
俺の指を三本も咥え込んで、まだ物欲しそうにしてる。
義姉さん、どうして欲しいの」
壮介が孔の淵を擦るように指を掻き回すと、由衣華は声をあげて撥ねた。
「指じゃ、指じゃ足りないの。
お尻の孔がぽっかり空いて淋しいの。
お願い、壮ちゃん。
壮ちゃんが拡げたあたしのお尻、壮ちゃんが埋めてぇ」
由衣華は、涙を頬に滴らせながらも、笑った。
一度精を放ち、萎えかけていた壮介の男根は、
いつの間にか再び血を滾らせて隆々と反り返っていた。
壮介は妖しく微笑む義姉の尻に、猛り立つ己の先端を押し付けた。
「う、ぐぅ、あ、あ、ああ……」
どちらが呻いたのかも判然としない。
壮介の陰茎は、恐ろしいほどの力で締め上げられていた。
あれほど愛撫し、解きほぐしたにもかかわらず、
由衣華の肛門はギチギチに壮介を締め上げてくる。
その締め付ける力に抗うかのように壮介の男根はますます固さと太さを増し、
由衣華を押し拡げた。
由衣華はシーツを掴み、息絶える間際の獣のような、
声とも吐息ともつかぬ音を、歯を食いしばった口元から溢れさせている。
全身をゾクゾクと震えさせ、眉間に刻まれた顰みには
凄絶なまでの淫靡さが滲んでいた。
「あ、あ、あ、あ、……」
壮介がより深く由衣華に己の分身を埋めていく。
ゆっくりとしたその動きに連れて、由衣華が壊れたような声をあげる。
大きく膨れ上がった壮介の怒張は、由衣華の小さな肛孔に、スッポリと呑み込まれた。
「壮ちゃん、凄いよ。
お尻の中、窮屈で、イッパイで、オカシイの。
気持ち悪いのか、気持ちいいのかも分かんない。
頭が、頭が変になりそう」
「俺もだよ、義姉さん。
チンコが千切れそうなくらいにキツイのに、目茶目茶気持ちいい」
肛門のキツイ締め付けとは裏腹に、由衣華の腸内は熱く、緩かった。
由衣華が息つく度に、穏やかな波に揉まれるように、
壮介の男根は肉襞に撫で回される。
女陰での交わりとは何かが異なる。
それでありながら、耽溺するほどの快楽は、
怖れを覚えるほどに変わらなかった。
「壮ちゃん、動いて……」
由衣華に促され、壮介はゆっくりと腰を引いた。
由衣華が、苦しげに鳴く。
由衣華の肛孔は、貪欲な肉食花のように壮介に喰らいついて、離そうとしない。
内壁が捲れ返り、紅い靡肉が外気に曝される。
それが限界に達すると、蛞蝓のようにゆっくりと肉を縮めさせ、
それでなおまた卑しく縋り付く。
「やだ、まだ抜いちゃダメ、なのにぃ……」
壮介の亀頭が由衣華の内壁を引っ掻き、ほじくり返すようにして外に抜け出た。
由衣華の肛孔は紅くほとびれ、蠢いていた。
キメの細かい白い肌と、しなやかなで優美な肢体とは裏腹に、
由衣華の肉花はグロテスクなまでに鮮やかに紅く、
不気味なまでの艶を纏って口を開けている。
その様相はまさに、由衣華の秘めた二面性の露呈でもあった。
「義姉さん……」
壮介は惚けたように、意味もなく義姉を呼んだ。
壮介の逸物は、由衣華の腸液にまみれてぬらぬらと光り、
なおも暴発しそうな激情を内に孕んでいる。
しばらくは息を荒らげていた由衣華だったが、
幾らか落ち着きを取り戻すと、肩越しに壮介に微笑みを見せた。
「お尻に挿れるのって、こんなに凄かったんだね。
あたし、もう何回イッたかわかんないもん」
悪戯っぽい笑みに浮かぶ涙の跡。
乱れ解れた後れ毛が頬に張り付いているのが、酷く艶めかしかった。
「ねえ、壮ちゃん。
どうせなら、最後までやっちゃわない?
こっちなら、生でどんだけ出したって大丈夫だから」
由衣華は自ら、円く開いたままの肛門に指を挿れ、拡げて見せた。
ぐちゅう、といやらしい音を立て、紅い花が蠢く。
歪に口を開けたそれは、別の生き物のように、壮介を誘惑した。
「い、いいのかい、義姉さん?」
「あたしは大丈夫だから、壮ちゃんのやりたいようにやって。
あたしの中、壮ちゃんの精子で一杯にしちゃって」
早くぅ、と由衣華は強請った。
壮介ははち切れんばかりにいきり立つ怒張の先端を、
貪欲に蠢く由衣華の肛孔に口づけさせた。
ふ、と由衣華が息を零す。
そして、縊り殺される獣のような声で鳴いた。
壮介は由衣華の細い腰を掴み、由衣華の腸内をゆっくりと侵し進んだ。
なおまだ肉の輪の締め付けは緩められることなく、壮介の分身を責めあげる。
それとは裏腹に、ドロドロとした腸腔は慰め、舐めあげるようにして壮介を弄ぶ。
壮介もその絡みつく熱い部分を踏みにじるかのように、抽挿を繰り返す。
由衣華の腸壁はその度に捲れ返り、また中へと押し込まれる。
壮介の腰と由衣華の尻肉が激しく打ち合わされ、音を立てる。
由衣華の尻は、二人の体液でドロドロの泥濘となっていた。
由衣華の声が止まらない。
よがり、喘ぎ、泣き、縋る。
涎の糸と共に紡がれる、責め苛まれる由衣華の声は、
言葉の態を成してはいなかった。
だが、その喘ぎとも咽びともつかぬ声の中に、
壮介は意味を持った言葉を聞き拾った。
「一登喜さん、一登喜さぁ、ん……」
壮介の中で背徳感が嵐のように噴き上がる。
義姉の尻を穿ち、苛み、弄んでいるというこの事実が、
壮介の心臓を不気味に打ち鳴らす。
だが、壮介の怒張は萎えることなかった。
寧ろ、その背徳感、罪悪感を喰らったかのように一層猛り狂った。
壮介は、由衣華の体を後ろから抱きすくめた。
そして、自らが蹂躙した痕にその証を焼き付けるが如く、
由衣華の中に精を放った。
白熱した濁流を流し込まれ、
由衣華は声をあげ、身を引き攣らせる。
脈動する怒張は、徐々にその威勢を失っていく。
涙を溢れさせた目で、由衣華は今気づいたかのように、壮介を見た。
「壮ちゃん……」
壮介は、由衣華が自分のものでないということを、今改めて認識した。
兄を裏切るということ。
そして、兄の妻を犯すこと。
秘密裏に行われるその悪徳が、壮介の情熱に暗い炎を灯した。
壮介は、兄嫁の体を手離した。
由衣華はベッドに崩れ伏し、固さを失った壮介の陰茎が抜け落ちる。
力尽きたように喘ぎ、息つく由衣華とは裏腹に、
紅い妖花はなおも貪婪に、精に渇して蠢いている。
壮介はまた、そこに指を這わせた。
彼のものではない女は、飽かず甘い嬌声をあげて、それを迎えいれた。
(了)