「……本当はもう、あんな事……したくないの」  
 
友人の潮樋 蘭(うしおひ らん)がそう零すのを、春川 映里(はるかわ えり)は神妙な面持ちで聞いていた。  
蘭は、通う高校の中でも令嬢として名の通った存在だ。  
手入れの行き届いた長い黒髪といい、甘えがなく知性的な語り口調といい、洗練された物腰といい。  
事情を知らない人間が見ても、まず育ちのよさを疑う事はないだろう。  
事実、彼女の生家である潮樋の家は、元禄の時代から続く名家として知られる。  
都会から越してきて日の浅い映里にとって、蘭のような古風な令嬢はひどく物珍しかった。  
 
潮樋の家が名家たる所以は、ただ資産や権力を持っているというだけではない。  
潮樋の一族は古くから、『オシミリ様』と呼ばれる土着神を鎮める役目を負ってきた。  
この文明の世に、何とも時代錯誤な。  
映里は初めこそそう思ったものだが、現実にこの一帯の人間が代々その逸話を固く信じている以上、次第に笑い飛ばす事も出来なくなる。  
 
その潮樋一族宗家の娘ゆえだろうか。潮樋 蘭には初め、およそ対等な友人と呼べる人間がいなかった。  
上級生や教師を含む誰もが蘭を特別扱いし、距離を取る。  
その中でただ一つの例外となったのが、好奇心旺盛な転校生の映里という訳だ。  
 
映里は、まさに好奇心の塊のような少女だった。  
その人格形成には、実兄が敏腕ジャーナリストである事が多大に関係しているだろう。  
両親を何者かに惨殺されて以来、映里の兄は報道規制を敷かれたその事件を独自に追い続けた。  
やがて“大物政治家の息子が主犯格”という真相を暴き出してからも、まだ世にはグレーゾーンに覆われた事件が多いと見て、  
フリージャーナリストとしての活動を続けている。  
映里からすれば、両親の無念を晴らしたこの兄こそはまさに正義のヒーローだ。  
六つ離れた彼が実質的な育ての親である事もあり、彼の哲学はそのまま映里の中に息づいている。  
今や映里は、青い春を謳歌する女子高生でありながら、一方で確固たるジャーナリズムを秘めた一人の記者でもあった。  
 
兄が題材として選んだ潮樋家の跡取り娘、蘭と親交を深めたのも、ネタに迫ろうという下心が無かったといえば嘘になる。  
しかし蘭から胸の内を明かされるにつれ、次第に映里から下心というものは消えていった。  
純粋に映里が哀れになってきたのだ。  
 
土着神である『オシミリ様』を鎮めるのが潮樋の家に生まれた女の宿命。  
恐らく蘭を持て囃す同級生達は、その鎮めの儀式が祈祷や祭事であると考えている事だろう。  
しかし蘭本人から映里に告げられた内容は、耳を疑うようなものだった。  
 
土着神は多くの場合、地元の人間に人身御供を要求するが、この地の場合もそれは例外ではない。  
一族の跡取り娘が『オシミリ様』に身を捧げる事。それが人身御供に相当した。  
身を捧げるとはいえ、取って喰われる事はない。  
実際に土着神へ捧げるのは、穢れを知らない生娘の後孔だ。  
『オシミリ様』は古くは肥やしの神ともされており、女の膣よりも排泄の孔を好む。  
そして仮にも神に捧げる存在であれば、その娘は操を守る清い身であらねばならない。  
 
身を捧げる儀式は『奉筒』と呼ばれ、夜風の生ぬるくなる初夏に執り行われる。  
生贄の役を担う蘭は、それに先立つこと三週間の時点で早めの夏季休暇に入るのが常だった。  
そしてその期間に、一族の者の手で後孔を開発され、『オシミリ様』を迎える準備を整えるのだ。  
まだ精神的に熟しきっていない少女が、親類縁者によって尻穴を開発され、挙句そこを土着神という名の異形の者に捧げる。  
同じ女子高生として、映里はその話に肌を粟立たせた。  
しかも蘭の語るところによれば、その儀式は彼女が捧げ物としての資格を得た十三の時から、すでに四度も行われているという。  
高校二年である今で五年目、また地獄の季節が巡ってきたという訳だ。  
 
「……もうあんな事、したくない」  
 
蘭はいつもの凛とした態度からは考えられないほど、肩を縮こまらせて繰り返した。  
 
「…………蘭…………」  
 
映里は居たたまれなくなり、友の名を呼びながらその肩を抱く。  
すると蘭は力なく微笑みながら、映里の手を撫でた。  
 
「でも、仕方ないんだ。私がやらなきゃいけない事だし。私が命を受けた世界は、こういう場所だから。  
 変な話しちゃってごめん。綺麗に忘れて、また休み明けに遊んでくれると嬉しいな」  
 
それだけを告げ、蘭は普段の彼女に戻る。  
きりりと吊り上がった瞳を光らせ、唇を引き締め、男女を問わず憧れの視線を向けられる彼女に。  
今年も必ず、役目を全うします。  
一日の終了後、彼女は教員と級友達の前でそう宣言した。誰もがそれを賞賛した。  
映里以外の、誰もが。  
 
 (なに、諦めて受け入れてんのよ。なに、当たり前みたいに応援してんのよ。  
   …………おかしいじゃない、こんなの…………!)  
 
映里は一人だけ拍手せず、手の平を握り締めて俯く。  
彼女の記者精神は、いつにも増して燃え上がっていた。  
こんな仕来たりは、自分がやめさせてやる。自分が真相を世間に公表して、世の常識で正してやる。  
映里はそう心に決め、その日のうちに支度を整えた。  
蘭の実家、潮樋の家に潜り込む支度を。  
 
映里が潮樋の家に着いたのは、日もすっかり暮れた頃だった。  
およそ車の入り込めないような獣道をいくつも越え、畦道を渡った。  
あの静々とした蘭が実家へ帰るのにこのような道を使うとは思えないため、恐らくは道を間違えたのだろう。  
しかしながら、何とか辿り着く事はできる。  
小高い山の上から見下ろすとすぐ、明らかにそれと解る屋敷構えが視界に入ったからだ。  
 
「すみません、道に迷っちゃって……」  
 
不審げな視線をくれる門番に、映里は努めて軽薄な娘を装って近づいた。  
多少頭の弱そうな娘の方が警戒されにくい事を、彼女は今までの経験から知っている。  
無論、映里自身の並とは言いがたい見目も含めて、だ。  
 
艶やかな光輪の被さる黒髪をセミロングに切り揃え、横髪を肩に触れさせつつ、後ろに軽く結わえている。  
格好は夏物の制服だ。  
ほとんどノースリーブに近いブラウスは、薄紫のブラジャーが半ば透けて見えるほどの厚さしかない。  
第一ボタンをはだけさせた首元からは、艶やかな女子特有の肌と、健康的な鎖骨が覗く。  
さらにブラウスだけならばややだらしなく映る印象を、引っ掛けた付属の赤ネクタイが絶妙に引き締めてもいる。  
制服の下はといえば、濃紺と水色のチェック柄スカートだ。  
この辺りでは滅多に見かけないような膝上丈に短く織り込まれており、都会育ちらしい垢抜けた面を見せる。  
一方で靴下はぴちりとした紺のハイカットソックスと、黒光りする革靴という真面目な風だ。  
 
年頃らしく遊び心を取り入れながらも、根は真面目な女子高生。  
それを見事に計算しつくした格好といえる。  
付け加えれば、スカートとソックスに挟まれた脚線の肉付きも絶妙だった。少女の脚でもなく、熟しきってもいない。  
さらに顔はといえば、くるくると動く好奇心の強そうなどんぐり眼が一番に印象に残り、細く理知的な眉と人懐こい唇がそれに続く。  
その顔を見て不快感を感じる男性など、まず居ないだろう。彼女の実兄はよくそう評した。  
 
「そ、そうか、迷ったか。まァこの辺りは解りづらいし、のう?」  
「あ、ああ。もう夜も更けてきた、特別に今晩は泊まっていくとえぇ」  
 
都会娘に馴染みのない門番達は、垢抜けた映里を露骨に眺め回しながら生唾を呑み込む。  
 
「ありがとう、おじさん!」  
 
映里はあどけない様子で謝辞を述べながら、内心で舌を出していた。  
これまで兄に協力する形で何十度と取材を行ってきたが、こと男相手で無碍に断られた験しがない。  
名家とはいえ所詮は血の通った人間の集まり、ちょろいもんね……と、この時の映里はそう思っていた。  
    
 
屋敷の広間には、すでにかなりの人間が集まっていた。  
あからさまに何かの儀式があると思しき、紋付袴を身に着けた男性が多く見受けられる。  
全員が同じ紋を背負っている事からして、潮樋の親類筋の人間である事は明らかだ。  
 
「すまねぇ皆、ちょっと道に迷ったってぇ娘っこが居てよ、一晩だけ空いた部屋を貸してやんねぇか」  
 
門番をしていた男が、映里を連れて一同に声を掛ける。  
心なしか声が震えている事からして、あまり歓迎される行為ではないらしい。  
男達が一斉に振り返る。  
 
「馬ッ鹿野郎てめぇ、今日からはもう『あの儀式』の準備に入ってんぞ、何余所者入れてやがんだ!!」  
「そうじゃ、何のためにお前に門さ見張らせてたと思うとる!オシミリ様の祟りがあるやもしれんぞ!!」  
 
そう怒鳴って門番を竦みあがらせる男達。  
その姿の向こうに、ふと祈祷衣のようなものを纏った蘭の姿が覗いた。映里と目が合う。  
 
「えっ!?」  
 
蘭は不意に現れた友人の姿に驚きを隠せない。すぐに表情を戻しはしたが、男達の数人はそれを見咎めた。  
 
「なんじゃ、蘭。…………ま、まさか、あの娘……ぬしゃの知り合いか!」  
「そういえばあの制服、蘭が今通っとる高校のもんじゃぞ!!」  
 
男達の剣幕が一層凄まじくなる。どうやら、敷地に立ち入った娘が蘭の知り合いでは余計に不味いらしい。  
ここへ来て、さすがに映里の背中にも冷たい汗が流れ始める。空気が、ひび割れそうに冷たい。  
 
「……いいえ、知らないわ。ただこんな時間に同じ学校の女の子が来るなんて、珍しかっただけよ。  
 でもあまり、ここに居ては良くないわよね、誰かすぐ車で…………」  
 
蘭は感情を抑えながら淡々とそう告げ、場を収めようとする。  
しかしそれで鎮火しはじめた空気に、再び火種を放り込む人間がいた。  
    
「 嘘ばっかり 」  
 
そう言葉を発した人物を見て、蘭と映里の表情が青く変わる。  
ちょうど支度部屋から姿を現したばかりのそのおかっぱ少女は、映里達と同じ高校の制服を着ていた。  
襟元のバッチを見る限り、学年は一つ下になるらしい。  
彼女は母親と思しき女性の横に立ったまま、映里の方を指差した。  
 
「その女、蘭の知り合いだよ。都会から越してきた子って、ちょっと有名だもん。  
 しかもあたしコッソリ聞いたんだぁ。この女、蘭を通じて色々この家のこと嗅ぎ回ってたよ。  
 『奉筒』の事まで知っちゃってるみたい」  
 
その言葉で、畳敷きの和室がにわかに狂乱状態になった。  
大の男の嘆く声や怒号のようなものが入り混じり、映里を竦みあがらせる。  
救いを求めて蘭を見やると、いつも毅然としている彼女さえもが真っ青な表情で下を向いていた。  
同年代でも図抜けて分別のある彼女がそういう表情をしている以上、状況は絶望的と考えて間違いない。  
 
「…………娘。おめ、男を知ってるか」  
 
血管を浮かせたまま凝固したような顔で、男の一人が映里に詰め寄る。  
処女かどうかを尋ねているのだろう。  
映里は慌てて首を振った。これは事実だ。効率の面から色気を武器にする事はあっても、実際に『した』事はない。  
その答えを聞き、男は小さく息を吐いた。安堵に近いものだ。  
 
「そか、まだ助かったな。もし誰かに操ォ捧げた後の身体なら、殺して贄さするしかながった所だ。  
 生娘なら、まだ“前菜”としてオシミリ様にお奉げする事もでぎる。  
 紫絵、珠代。この娘、『奉筒』までに蘭と同じように仕上げろ」  
 
男は先ほどの少女とその母親らしき人物に向かって告げた。  
母親の珠代は恭しく頭を下げ、娘の紫絵は蔑むような視線で蘭を見下ろしている。  
少なくとも蘭を疎んじていることは間違いなかった。  
 
「……蘭、お前はお清めやら始める前に折檻じゃ。腰縄だけ着けて、座敷牢で待っとれ」  
 
男の言葉で、宗家の娘である筈の蘭は両腋を掴まれ、無理矢理に引き立てられる。  
いよいよ事の重大さが骨身に染み始めた映里は、しかし広い屋敷の只中でどうする事もできなかった。  
紫絵が畳を軋ませながら近づく。  
 
「蘭なんかと関わり合いになったせいで、酷い目に遭っちゃうね。  
 お尻の中ぐちゃぐちゃにしてあげるから、身を以って取材してね、映里センパイ」  
 
どこまでの情報を握っているのか。その意地の悪そうなおかっぱ娘は、舐めるようにそう囁いた。  
    
※  
 
映里には、まず『清め』の儀式が行われる事になった。  
下剤入りの白湯を大盃一杯分飲み干し、臭みがなくなるまで体内の穢れを排出するのだという。  
いかに『オシミリ様』が元は肥やしの神とはいえ、その神を受け入れる器が穢れていては失礼に当たるとの考えだ。  
そうして体内を綺麗にしてから儀式当日までは、消化が良くほとんど排泄物にならない薬粥を、一日六回、少量ずつ摂るに留まる。  
 
映里は公衆の面前でスカートを脱ぎ去り、ショーツを脚から引き抜いた。  
紋付袴姿の男達は神妙な面持ちをしているが、その瞳が食い入るように生肌をなぞっているのが、映里には感じ取れた。  
よく知りもしない、友人の親戚達になまの下半身を晒し、さらにはその前で下剤を服用しなければならない。  
部屋の隅に檜造りの桶が詰まれた事からして、その中に“しろ”と言われる事も予想できる。  
その羞恥は映里の頭を焦がすかのようだった。  
しかし、映里には並の女子高生にはない意地がある。  
彼女に息づくジャーナリズムは、この極限の状況下でもその瞳をはっきりと開かせ、眉を引き上げ、現実を直視させた。  
 
目の前に差し出された、漆塗りの1尺3寸の大盃を受け取り、映里は喉を鳴らす。  
満たされた液体は澄んだ色をしているが、その中には嫌がらせのような下剤が入っているのだろう。  
 
 (…………でも、蘭だって毎年これを!)  
 
映里は目元を引き締め、掴んだ盃を傾けて飲み下し始める。  
んぐっ、ぐっと音がすると共に、白い喉が何度も蠢き、男達の瞳がぎらつく。  
盃の中身は、当然というべきか口の端から次々に零れ、只でさえ薄い夏服を透かせて少女の肌色を晒した。  
肩は華奢で、腰は細く、しかし二つの乳房は膨らんだ風船のように見事だ。  
 
「ふはっ!!」  
 
やがて、映里は息もつかずに盃の中身を飲み干した。宴会や兄弟盃の儀でなら、拍手が起こった事だろう。  
しかし今は拍手はない。男達の瞳は、映里にこれから起こることを、じっくりと観察するのみだ。  
 
 (……くっ……これ、お酒が入ってるじゃない…………)  
 
荒い呼吸をする中で、映里は目頭の奥がズキズキと痛むような感覚を覚える。  
彼女は兄を手伝う一環で、密かに酒を口にした事がある。  
情報を流す見返りとして、映里のような美少女から口移しされる酒を欲する男も存在したのだ。  
今飲み干した盃の感覚は、それとほぼ同じだった。  
    
「……はっ、はっ、……はっ、はぁっ…………」  
 
にわかに映里の頬は赤らみ、吐息が熱く、荒くなっていく。  
酔いが回ったせいだけではない。  
彼女の細く締まった腹部からは、にわかに異音が響き始めていた。  
映里自身も日常生活でそうは聞くことのない、重く長い腹鳴り。  
冬の朝、登校中に腹を下した時でも、この半分ほどの音しか鳴らなかったはずだ。  
腹の鳴る音がとぐろを巻いている。映里はそのような感想を持った。  
 
「苦しいの?背筋が曲がってて姿勢が悪いよ。蘭は、姿勢だけはきちっとして耐えてたのにな」  
 
映里の傍に屈みこむ紫絵が、嘲るように囁いた。  
意地を刺激された映里は、無理矢理に背を伸ばす。しかしその事で、さらに腹鳴りが激しくなった。  
そうして映里を追い込みながらも、紫絵は淡々と映里に語る。  
 
清めの儀式は通常、三時間ほどかけて行われること。  
分家の娘である自分が、宗家の娘である蘭の清めの儀式からの全てに携わってきたこと。  
排泄は、やはり檜の木桶にすること。  
ある程度『穢れ』が溜まれば木桶が新しいものに替えられ、  
便の出が悪くなれば、麻の手袋を嵌めた彼女が、肛門を指を突き込んで掻きだすこと。  
『穢れ』の臭みがなくなったかの判断は紫絵の胸三寸で、気高い蘭をいつまででも辱められること。  
 
それらを聞かされながら、映里は必死に荒れ狂う便意に抗っていた。  
内股で膝をつきながら、片手で秘部を覆い隠し、片手で臀部を押さえて堪える。  
髪の生え際や、こめかみ、首筋……晒された肌の至る所に汗が浮く。  
気丈に見開かれた瞳は、真っ直ぐ前を見ていたものが、横に逸れ、上方に漂い、やがて眉根を寄せて閉じられる。  
背中が痙攣するように上下し始めたのは、その五分後だった。  
 
「…………と、トイレ、使わせて…………」  
 
薄目を開き、紫絵に乞う映里。誰の目にも、すでに理性で抑えきれない便意に焦がれているのが解る。  
すると紫絵は立ち上がり、壁際にある木桶をトントンと叩いた。  
ここまで来て“しろ”、という意味に違いない。  
予想通りの展開に顔を歪めながらも、映里にはもはや選択の余地はない。  
かつての蘭もそうだったのだろうと思いながら、這うように壁際に辿り着き、震える脚を叱咤して木桶に跨る。  
身体を安定させるべく壁に手を付けば、その瞬間に彼女の肛門は決壊した。  
    
集まった親類縁者数十人が、贄となる娘の清めの儀式を見守った。  
 
「……っくぅうう、うっ……うう、ぐんうぅうううぐぅぅっっっ…………!!」  
 
映里は蹲踞の姿勢を取り、檜造りの木桶に跨りながら、およそ人前で見せた事のない表情を作る。  
唇を噛みしめ、眉間に皺を刻み。  
しかし、その細い腹部から響く雷鳴のような腹鳴りや、尻肉の間から放たれる耳を塞ぎたくなるような音を聞けば、  
そうした表情の歪みも仕方のない事に思えた。  
 
ある程度排泄に切りがつけば、木桶が取り替えられる。その間にも映里の便意は再び沸き起こり、排泄に至る。  
汗が止まらない。身体中が湯気を出しそうなほどに熱くなっていた。  
排泄を繰り返す肛門も、まるで真っ赤に焼けたリングのように感じる。  
そしてなるべく意識しないよう努めてはいるが、羞恥も卒倒しかねない程にあった。  
 
「ふふ、どうしたの、もう出ないの? 私がこれだけ丁寧に、お尻の中をほじくってあげてるのに。  
 あら、そう言うと出るのね、うわぁくっさい。どれだけ桶を替えればいいのかしら」  
「…………に、匂いなんて…………いい加減、するわけないでしょ…………」  
「あはは、まさか。私がまだ臭いって言ったらくさいのよ、言ったでしょ。  
 蘭だって毎年、太腿がパンパンになって立てなくなるまで、何時間だってその格好で排泄させてるんだから。  
 うそだと思うんなら、貴方のきゅうきゅう締め付けるお尻に入れてる指を、鼻の穴にねじ込んであげましょうか。  
 いい匂いなんてしないわよ、きっと。」  
 
紫絵は映里の肛門に指を埋め込みながら、その耳元に囁きかける。  
そしていよいよ顔を赤らめて恥じ入る様子を、おかしそうに眺めるのだった。  
    
※  
 
終わりのないような排泄が終わった後、映里は倉庫を思わせる部屋に移された。  
背の尖った木馬や磔用の板、手洗い場などが設えられてあり、生活用の空間でない事は明白だ。  
映里が試しに木馬に鼻を近づけてみると、かすかではあるがアンモニアの匂いが鼻をついた。  
 
 (……まさかこれ、蘭の……!?)  
 
その考えが脳裏を過ぎるが、確証はない。  
 
「さぁ、始めますよ」  
 
紫絵の母である珠代が、縄を手に告げた。  
彼女は実に慣れた手つきで縄尻を天井の桟に通し、そのまま映里の手首を頭上で縛り上げる。  
さらに左脚の腿にも縄を巻きつけ、壁の上方に打たれた杭にその縄を結びつける。  
それによって映里は、腋を晒す格好のまま、行進の途中のように片脚を上げる格好を取らされる。  
上半身には制服のブラウスを纏っているが、下半身はソックスと革靴だけという有様だ。  
その状態は全裸よりも、かえって惨めであるように思えた。  
 
「ふふ、いいよぉ。胸張る格好だから、ただでさえ大きいのが強調されてる」  
 
紫絵は、常にそうであるように蔑んだ瞳で映里を眺めつつ、ブラウスの第二ボタンをはだけた。  
そしていよいよ胸元の開いた映里の背中へと巧みに手を伸ばし、ブラジャーのホックを外す。  
するりとブラウスから抜けた紫絵の手には、薄紫の下着が摘まれていた。  
そうなれば、映里の胸は薄いブラウス一枚を残した生乳だ。  
当然、紫絵がブラウス越しに揉み込む動きをそのままに感じる事となる。  
 
 (このガキ……!!)  
 
映里はどんぐり眼を見開いて紫絵を睨みつけるが、そちらばかりを構っては居られない。  
背後では、珠代が指先に唾を垂らし、ついに未使用の窄まりへと指先を宛がっているのだから。  
 
「あうっ!」  
 
指が入り込んだ瞬間、映里は声を上げざるを得なかった。  
十七年間、出すことしかしらなかった穴に指が入り込んでくる感覚は、それほどのものだった。  
 
「う、う、あ、ううっ!!」  
 
ピアノでも弾きそうな細く長い指が、映里の肛門入り口で蠢く。  
その恐ろしいほどに洗練された指遣いは、そこからたっぷりの時間をかけて、映里の未知なる性感を目覚めさせていく事となる。  
    
「あ、あっ……は、あ、あっ……、あっあ、うあっ…………」  
 
切ない声が部屋に木霊する。しかし、それは仕方のない事だった。  
何より、珠代の肛門嬲りが巧みすぎる。  
映里の母が生きていれば同年代だろうと思われるこの女性は、片手で映里の尻肉を掴み、開いた肛門に指を送り込む。  
指は肛門の浅い部分で泳ぐようにしていたかと思えば、急に深く入り込んで腸壁を掻くようにもする。  
 
指だけでなく、口を使っても責め立てた。  
唾を垂らしながら二本指でじっくりと責め抜いた後、その唾まみれの指を引き抜く。  
そして小さな火山のように盛り上がってひくついている肛門に、やおら吸い付くのだ。  
吸い付いた口は、舌を使って皺の一本まで伸ばすように舐め取り、また菊輪の全体を嘗め回す。  
もっともつらいのは、そうして解された窄まりの中へ、ぬめる舌を送り込まれる瞬間だった。  
 
「おおおおぉぉっっ!?」  
 
腸内に舌が入ってきた瞬間、映里は声を上げた。その自分の声を聞き、彼女の心臓はすくみ上がる。  
何という浅ましい声だ。女子の出すべき声ではない。  
しかし、彼女はもうかなりの間、自分がそうした声を出しかねない事を理解していた。  
肛門性感は、膣のそれとはまるで違う。はっきりした快感ではなく、しかし積み重なれば、臓腑から噴き上がるようなものとなる。  
 
「えぇ、なぁに今の声?」  
 
紫絵はこれ見よがしに映里の口に耳を近づける。  
自らも声の浅ましさに気づいていた映里は所在無く視線を彷徨わせた。  
 
「べ、べつに何も……ん、おおおおおぉっ!!」  
 
言葉を出しかけた瞬間、小休止していた肛門に再び珠代の舌が入り込む。まったく同じ声が出た。  
 
 (嘘でしょ、嘘……! ……ねぇ、蘭……おしりって、舐められるとこんなに気持ちいいの?)  
 
初めて味わう肛門性感に、片脚を上げた映里の腿がふるふると痙攣する。  
 
「へへ、もうその声出しちゃうなんて、辛抱が足りないねぇ。蘭は三日目までソレ、我慢してたよ?  
 ねぇお母様、この女のお尻はどうなの?」  
「……まだまだ固いですね、蘭の肛門を始めてくつろげた日を思い出します。感度は言い様ですが」  
 
娘の問いに、感情をあまり感じさせない丁寧語で返す珠代。そこには感情というものが欠落しているように思えた。  
しかしながら、やはりその責めは凄まじい。  
    
また、紫絵の責めも中々に無視のできないものだった。  
彼女は主に乳房を責め立てている。手の平全体で乳肉を揉みしだき、先端の蕾を摘んではこね回す。  
初めこそ悪戯に思える程度だったが、それも長い時間をかけられると、蕩けるような快感になってくる。  
まだしこりの残る乳房であったものが、いつしかふっくらと膨らみ、蕾も固さを増していく。  
その尖った蕾を甘噛みされれば、映里は身体に電気が走るような快感を覚えるのだった。  
 
また紫絵の憎い事には、後孔責めで映里が震えるのとほぼ同時に、陰核に指を伸ばしてトントンと叩くことだった。  
充分に性感を覚えさせられた身には、そのように陰核をやさしく叩かれるだけでも軽い絶頂に近づく。  
肛門に吸い付かれ、同時に陰核を潰された時には、映里の足指は快感でピンと反り返った。  
 
「ねー、お尻で感じてるの?ねぇ」  
 
荒い息を吐く映里の顔を覗き込み、紫絵が尋ねた。  
 
「そんな訳ないでしょ……」  
 
映里は気丈に眉を吊り上げるが、実際には乳房・肛門・陰核の刺激で幾度となく絶頂まがいの感覚を得ている。  
ゆえに紫絵の指が秘裂に割り入った時、映里は絶望的な顔をした。  
 
「うそつきー、もうドロドロのぐちょぐちょじゃん。ほら、聴こえるでしょ。ほら」  
 
紫絵は嬉しそうに言いながら、映里の愛蜜に塗れた秘部を刺激される。  
的確にGスポットを探り当てて擦られれば、もはや耐えられる道理もない。  
 
「はぐぅっっ……!!」  
 
映里は細い脚を震わせ、唇を噛みしめて絶頂に至る。  
それを可笑しそうに笑う紫絵へ向けて、珠代が口を開く。  
 
「紫絵、そんな場所で果てさせるものではありません! 肛門だけで達するようにするのを、忘れたのですか」  
 
先ほどとは打って変わって厳しい口調だ。紫絵は肩を竦める。  
肛門だけで達するように。それは映里にとって、絶望的な言葉だった。  
そしてそれは、決して有り得ない事ではないと解っている。解らされて、しまっている。  
 
    
それからも淡々と、珠代・紫絵親子による肛門性感の開発が続けられた。  
珠代は指と舌を巧みに使い分け、時に吐息だけを吐きかけて焦らしながら快感を高めていく。  
紫絵は言葉責めと乳房・陰核への刺激で、脳内の快楽神経を錯綜させようと仕向けてくる。  
大盃での酔いもほどよく回り、映里が快感に酔うのを後押しした。  
 
「あ、あっ……あ、おおっ……あ! ひいうぁっ……くん、ん゛っ…………!!」  
 
映里は快感の走る糸のようになって揺れながら、蘭の事を考えていた。  
蘭はまだ十三の頃から、このような責めを受けていたのだろうか。  
彼女は今、どうしているのだろうか。  
 
「……え、蘭? ああ、折檻を受けてるんだよ。  
 どんな、って、知らないよ。まぁ近いうち神様に奉げる身だし、疵が残るような事はしないだろうけどさ。  
 でも何か水音と凄い叫び声聴こえてきたし、おじさんとかがバタバタしてたよ。  
 また失禁しただとか、気つけの水用意しとけだとか。  
 まぁ多分部屋の造りからして、江戸時代の女囚が受けるような拷問されてるんじゃない?」  
 
紫絵は全てを知っていてあえて惚けているような、独特の表情で告げる。  
分家の娘という引け目があるせいか、彼女は殊更に蘭の事を憎んでいるように思えた。  
ならば、その母である珠代もそうなのだろうか。  
しかしこちらは年季が入っている分その心が読めず、淡々と、着実に肛門への責めを進めていく。  
その手にはいつしか様々な道具が握られ、肛門への責めに用いられていた。  
 
いくつもの球が連結するような、棒状の責め具。  
男根を模したような張り型。  
幾通りもの太さがあるそれを、珠代は状況を見極めながら使い分ける。  
その選択は残酷なほどだった。  
いつしか子宮口がほぐれ、下り始めている映里は、肛門越しにその最大の性感帯を擦られて絶頂の際に押し上げられる。  
しかし、まさにその只中には中々辿り着けない。  
火山の淵をよろけながら周回するようなもどかしさがあった。  
 
「…………ねぇ、ちょ、ちょっとだけ、膣で、い、いかせ…………て……すごく……つらい……の」  
 
五日目、映里はついに堪らなくなり、恥を忍んで珠代に懇願した。  
しかし珠代は取り合わない。  
 
「こちらの穴で逝けばいいでしょう。その気になれば、いつでも達するように躾けています」  
 
そう冷たく告げ、淡々と道具を用い続けるだけだ。  
このもどかしさは、気丈な映里の反抗心を削ぐのにかなり有効だった。  
    
道具は他にもあった。  
細い棒の先に、瘤のように太い膨らみが取り付けられたものだ。  
この太さはかなりのもので、片脚を上げた姿勢では到底入りそうもない。  
紫絵が映里の片方の足を持ち上げ、両脚を大きく開脚する格好で初めて受け入れる事ができた。  
それほどの太さが肛門に入り込む感覚は、尋常ではない。  
 
「や、む、無理ッ……さ、さけ…………る…………!!」  
 
映里は全身に冷や汗を流し、恐怖に目を見開いて首を振った。  
骨盤が割れそうなほどに肛門が開き、凄まじい太さを持つ質量が後孔を隙間なく埋める。  
焼けるような熱さと共に奥へと入り込むそれは、奥まりで子宮の裏を強くしごいた。  
抜き出される際には、すでに出し切って存在しないはずの内容物が根こそぎ掻き出されるような錯覚を覚える。  
そして、蹂躙が始まった。  
 
「あああ、ああああああ!!うああああ、ああう、くふああああああうっ!!!」  
 
身も凍るような太さが出し入れされ、大仰に菊輪を捲り返しながら抜き出される。  
外気の冷たさに腸粘膜が冷やされるのも束の間、すぐにまた絶望的な質量が尻穴を圧し拡げる。  
この一連の動きは、映里のこれまでの人生で全く味わったことのない、無意識下にまで染み渡るようなものだった。  
映里はろくな言葉にもならない喘ぎを発し、何度も足の筋を強張らせ、やがて秘裂から飛沫を上げる。  
それは一筋の放物線となって、遠くの床にまで音を立てた。  
 
「あはは、ついに尻穴でイったみたいね! 一度その感覚が通じると、こっからも快感が安定するみたいよ。  
 少なくとも蘭はそうだった。前の年までランドセル背負ってたようなチビが、尻孔抉られて一日何度もびゅっびゅ潮噴くの。  
 ご不浄でなんかイきたくない、とか何とか泣きながらさ。あれ凄かったなぁ〜」  
 
肛門絶頂を迎えて身体を弛緩させる映里に、紫得は笑いながら言う。  
映里は視点を定められないままにそれを眺めていた。  
 
 (お……おしりで……いったなんて…………うそ…………。  
  ……そんな、そんなとこで……私がいくわけ、ないよ…………)  
 
頭の中でそう考えながらも、心はもう受け入れている。その食い違いは涙となり、映里の目頭から零れ落ちた。  
 
    
調教は続く。  
二週目に入った頃、映里は木馬のような台に取り付けられた張り型へ、直腸だけを支えに乗せられた。  
手首を後ろで縛られたまま、紫絵と珠代の両名によって台の上へ掲げられ、そのまま張り型を腸に挿し込みながら手を離すのだ。  
この張り型は、多様な種類がある中で、特に映里の反応が大きかった一つが選ばれている。  
カリ首の形と反り具合が、ちょうど映里の子宮口を抉るように嵌るのだ。  
常に目覚めた状態の子宮口と肛門を、そのようなもので抉り回されては堪ったものではない。  
 
「あああ、いや、いああああっ!!やめ、やめてっ、持ち上げて!!」  
 
二人がかりで腰を掴まれ、強制的に尻穴を穿たれながら映里は悲鳴を上げた。  
しかし紫絵はその様子を愉しむように、わざと一番の奥まで張り型を呑み込ませたまま手を止めた。  
張り型の先が子宮口を強烈に押し込み、映里の尻肉がぴたりと台に密着する、最もつらい状態でだ。  
 
「おおおおぉお゛っっ!!!」  
 
映里は、堪らずに声を上げた。  
 
「あははっ、またその声が出た。って事は、イッてるんだ。その時の声なんだもんねー。  
 また頭の中ドロドロになってて怖いの?  
 あはは、そんな暴れないの。これ、まだ14の時の蘭でも我慢してたんだよ。まぁ、気づいたら失神してたけどさ」  
 
紫絵は可笑しそうに言いながら、幾度も幾度も、映里の腰を持ち上げては落とす。  
そして最奥で押し留め、快感のあまりにガクガクと痙攣する様を愉しんだ。  
やがて映里がぐったりとすると、腸液に塗れた張り型からその身を抜き去り、床へと寝かせる。  
 
「じゃ、最後にいつものいこっか」  
 
映里は自らの手首にローションを塗りたくり、大きく口を開いた映里の肛門に狙いを定めた。  
そして指先を一纏めにし、肛門に宛がう。  
 
「はヵっ!!!」  
 
映里の喉から頓狂な叫びが漏れ、ぼやけていた瞳が覚醒する。  
しかしその時にはもう、紫絵の細い腕は、するすると映里の直腸へと入り込んでいた。  
    
「ふふ、熱くてどろどろ。腕を締め付けてくるのが可愛いよね、簡単に入るようになったし。  
 ……よし、奥まで届いた。じゃ今日も、十二指腸の入り口をたっぷりと指でコリコリしてあげるね」  
 
紫絵は怯える映里に笑いかけ、腸の奥で指を蠢かす。短い叫びと共に、映里のスレンダーな肢体が跳ねた。  
 
「ああああ、いやぁあああっ!!」  
「嘘だぁ、嫌なはずないでしょ、こんなにきゅんきゅん腕締め付けてくるんだから。嬉しいんでしょ。  
 あ、あ、今の顔!もっぺんして、すごくイイよ。その睨もうとするけど怖くて負け犬みたいになる顔、すごい好き。  
 蘭は一回振り切れるとびゃあびゃあ泣き喚くばっかだから、そういう表情見れないんだよね」  
 
紫絵は映里の表情を愉しみながら、映里の腸の奥底にある門を指で抉り回す。  
それは刻一刻と、映里の快感の薄壁を破っていく。  
 
「あ、あああ、あああああ、お、おおおおっっ!!!」  
「あはは、出た出た。でもさ、その『おおお』って呻きも、ちょっと飽きちゃったかな。  
 ねぇ、その喘ぎ禁止にしない? 別の絶頂声聞かせてよ。次言ったら、お腹ポンポンになるまで浣腸だよ」  
「あ、い、ういや、いや、あの浣腸は、も、いや……あ」  
 
映里は紫絵の行動と言葉のすべてに、潜在的な恐怖を覚えるようになっている。  
苦痛ではなく、快感ゆえの恐怖。振り切れれば、自我が消し飛んで獣になりかねないような恐怖だ。  
その恐怖に震え、しかしそれすらスパイスにして絶頂を繰り返す映里。  
それを見下ろしながら、珠代は呟いた。  
 
「…………意外に、長かったわ。ようやく完全に、メインの性器になったみたいね」  
    
※  
 
三週間の調教が終わる。  
映里にとっては、三ヶ月にも、三年にも思えた、永遠に続く調教が。  
彼女は蘭に先立ち、『オシミリ様』の棲む森にほど近い祠へと放置された。  
へたり込んだまま、両の手首足首を結び合わされて。  
その顔には、以前のようなくるくると動く眼も、理知的な眉も、人懐こい唇も見られない。  
あるのはただ陶然とした、与えられる快楽に翻弄されるだけの顔だ。  
すでに発情しきっている。白い身体は上気し、若いメスの香を醸し出している。  
 
祠の戸が音を立てた。  
生ぬるい夜風が、祠の中に吹き込んだ。  
 
「…………おにい、ちゃ……ん」  
 
映里の唇が動き、兄を呼ぶ。  
その映里の傍に、輪郭も朧な白い大蛇が入り込んできていた。  
大蛇は生贄を検分するようにその周りを巡り、やがて尻を突き出すようなその身体へと、鎌首の狙いを定める。  
 
「…………あたし…………しらべたよ…………おひりって、ひゅごいの…………。  
 とっても、きもちいいの……もう何もかも、ろうれもよく、なっちゃう、くらい…………。  
 これから、あたし、おしみりしゃまにささげられうのよ…………とってもきもちよくて、いいこと……。  
 …………おにいちゃんのかお、もういちろ見れたら、もっと……よかったのに…………な…………」  
 
そして映里の若い肉体は、大蛇によって貫かれた。  
靄のような大蛇は、限界以上に尻穴を拡げ、奥のさらに奥までを満たし、中で嵐のように暴れまわる。  
映里はその今までに経験した以上の快感に叫びながら、幾度も兄の名を呼んだ。蘭の名を呼んだ。  
とても、耐えられない。どうして蘭は、こんな事を何年も繰り返せたのか。  
 
 (……ああ……そっか……これが、潮樋宗家の娘としての仕事なんだ…………。  
  『オシミリ様』を鎮める事は、蘭にしか出来ない……だからきっと皆、あの子……を…………)  
 
最後の最後にその考えを浮かべながら、それを最後に映里は考えを放棄した。  
脳髄を焼き焦がす、未曾有の快感。自分を何者でもない物に変える悦楽。  
それに、疲れきった心身を委ねる事にする。  
 
 
彼女は、幸せだった。  
 
 
                             
                               終  
 

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