この国では髪の短い女に価値はなかった。  
 というよりも、長い髪でなければ女であると認識されなかったから、湊の髪型は好都合でもあった。  
 分厚く服を着せ、深く頭巾を被らせ、普段から決して喋らないように言いつけた。  
 例えごく一部の使用人としか顔を合わさぬよう屋敷の奥深くに繋いでいたとしても、鷹にはそういう建前が必要だったのだ。  
 
 継ぎ目の分からないほど磨かれた床板の上を湊の指先が撫でた。寝台から放り出された腕は彼女のものばかりではない汗で湿っている。  
 後ろを向け、と命じられ、彼女は四肢に力を込めた。男と彼女の蒸気が溶けあい、室内が湿気ているようだ。  
 その重たい宙を掬いあげるようにして湊は右腕を動かす。  
「後ろを向かせて、どうするのだ」  
「聞いてどうするのだ?」  
「…………」  
「尻を出せよ。浅ましい犬のように。腰を落として尻を突き出せ。ケツの穴まで見えるように自分で広げてみろ」  
 短い髪がはらはらと揺れた。その髪の隙間から見える湊の耳たぶは真っ赤に紅潮している。  
 鷹の知る姿と比べ僅かに痩せたものの、容貌は変わらず凄まじく美しいと言って差し支えない。  
 楚々と伸びた眉、気強さと高慢さとをないまぜにして、綺麗な形に鋳造したかのような目。  
 きっと牡丹色をした唇は濡れていて、頬も真っ赤だろう。  
 それを見ることが叶わない体勢であることを鷹は若干惜しく思ったが、すすり泣きを堪える声と、湊がぺたんと胸をついた後、徐々に持ち上がっていく白い尻を見て、思い直す。  
 白い尻が鷹の方を向いた。さすがに自分で広げることはできないらしい、湊の両手は頑なに敷布を掴んでいたが、今回は不問とした。  
 丸い尻たぶの肉に指を埋める。腰から尻、そこからしなやかに伸びる柔らかい太腿を眺め、眺めたところを手が往復した。  
 太腿はひどく濡れていた。覗き込むと、鷹の目前でしとどに濡れた媚肉がふるふると揺れ、熟れきった熱が立ち上っているかのようだった。  
 ――すぐにぶち込んでやりたいが。  
 鷹は思った。そこを触ることを我慢したが、くすんだ桃色の小さな菊門を見ると、ついつついてしまった。  
「ひ」  
 きっとすぐに入れられると思ったのだろう、湊は悲劇的な声を出した。  
 指を入れてみる。湊がおろおろと戸惑い気味に振り返ろうとするのが分かり、鷹は声を上げて笑った。中指を奥まで入れ、ぐにぐにと動かしてやる。  
 こちらの方は特段気持ちよくはないらしい。  
 未知の感触が恐ろしいのか、固まる湊が面白く、少しの間肛門を虐めて、おもむろに引き抜いた。  
 いつかはここも犯してやろうと鷹は決意する。  
「少し臭うな」  
 実際のところ臭いはしなかったが、そう言うと湊は短い悲鳴を上げた。笑って、花弁をべろりとひと舐めする。  
「や、あっ」  
「もっと腰を上げろ」  
 意図してかせずか、湊は尻を振った。舐めさせる気はないらしいと分かり、鷹は揺れる尻をひっつかむ。  
 我慢弱いわけではないが、そう悠長にしている時間もない。  
 乱暴に尻を引きよせ、肉棒をあてがった。湊が何事か喋ったが無視して、ねじ込む。  
「あああっ!」  
 湊が声を上げた。自分の声に驚いたらしい、彼女は指を噛んだ。  
「……湊」  
 名前を呼ぶと、湊が振り返ろうとする。  
「声を出せ」  
 ゆっくりと引き抜きじりじり追いつめるように差し入れる  
「ん、んぁ……」  
 肉がうねった。鷹は眉を顰めた。忙しなく、湊の口から彼女の手をどかせる。  
「声を出すのが嫌か?」  
「い、いや、だ、……んんっ、ん……っ」  
「そうか、なら、声を出すなよ」  
 
 湊の口を乱暴に開けた。顎がとろけたようにしまりのない唇に、鷹の指はすっぽりとくわえこまれた。  
 溶けそうに熱い咥内を指でかき混ぜると湊の舌が絡みついた。  
「湊」  
 鷹にはそれが無性に可笑しく思えた。言葉ではあれやこれや抵抗する癖に。  
「声を出すな、湊」  
 激しく腰を打ちつける。  
「んん、んーっ! ふぁ、あ――ああっ」  
「声を出すなよ、嫌なんだろ?」  
 湊が指を噛んだ。  
「声を出すな」  
 言いながら、激しく腰を打ちつける。肉のぶつかる音が部屋に響いた。  
 鷹がさらに指を奥に入れると、知ってか知らずか、湊は指を舐め始めた。  
「ん、ん、……んんっ、んあ、あっ、ふぁ」  
「……よしよし。良い雌犬だ。な? そのまま、声を出すなよ。できるだろ、ちゃんと」  
 声音だけは穏やかに言い、頭を撫でてやる。激しく突きながら。小さな頭が揺れ続けた。  
「静かに、しろ。お前が言いだしたんだろ、お姫、様」  
 乳首を摘まんでやる。媚肉がきゅぅと締まった。指先で摘まんで、強めに捻って、こりこりと転がす。  
「っん、ん、んぅ、ああっ!」  
 湊が指を吐きだした。  
 鷹の方も我慢の限界だった。  
「湊、声を出せ」  
 一意、放つことだけを考える。媚肉が絞めつけてくる、ぞくぞくする快感。  
「あ、あ、だめっ、激し――ああっ、あっ!」  
「聞かせろ、もっと……湊」  
 目の前が白くなる。  
「あっ、あ、ああっ、ひゃああっ……!」  
「湊! ……!」  
 込み上げ、昇り、ひとときの突き抜けた充実。  
 喉がからからになった。  
 長い吐精に意図せず身体が波打つ。尻にかけるのも一興であったと、眼下の光景を見て思ったが、涎を垂らし、ぐったりと倒れ伏す湊の横顔を見て、やはり、と思う。  
 この女の子宮をたぷたぷに膨らますまで犯してやりたい。  
 湊の肩口に噛みつき、首筋を張って耳の輪郭を舐めあげた。  
 抱き寄せて、抱きしめて、頬を舐め、鼻を噛み、瞼を、顔中を舐めた。  
 彼女はぐったりとしている。短い呼吸を繰り返す小さな唇にむしゃぶりついた。  
「――髪を伸ばさせるか」  
 湊が薄っすらと目を開いた。  
 蕩け切った(ように鷹には見えた)目が、じっと鷹を睨み、一拍置いて、また閉じた。  
 その動きを、かすかに震える唇を、穴のあくほど見つめ、鷹は立ちあがった。  
「着替える。仕事のない家畜と違って生憎俺は忙しいからな。  
 無能な前王が忠臣を皆殺しにしていて、人手が足りないんだよ」  
「……そんな」  
「知らなかったのか? 親の仕事を? 俺の弟も、兄も、従兄も、伯父も、全員お前の父親に殺された」  
 湊は声を失ったように黙りこくった。  
「死ぬなよ、湊。俺に殺されるまで生きて償え。何に殉じることもできない肉塊が」  
 湊がゆっくり顔を上げた。薄茶色の瞳が鷹を見詰めた。  
 小首を傾げて、何かを問うような仕草で一瞬口を開いたがすぐに閉じ、目を伏せた。  
 決定的に湊が傷ついたと、鷹は気付いた。  
「私、何も、何も」  
「何もしてない? 何も知らない? そりゃ幸せだったろうなぁ。肉塊のように働かず、父親を諌めるどころか知ろうともせず」  
 湊の身体がぐらりと揺れた。鷹が抱きとめる前に彼女は自分の腕で持ち直し、下を向いて小さく呟いた。  
「…………ごめんなさい」  
「…………」  
 鷹はしばらく動けなかった。次ぐ言葉を、罵詈雑言を探し、実際にいくつか思いついたが、喉のあたりでつかえた。  
 湊は泣かなかった。涙の代わりの微妙な危うさに、鷹は気付かざるを得なかった。  
 行き場を失った腕をとりあえず引っ込め、背を向ける。  
「死ぬことは許さない」  
 言い捨て、立ち去る、この僅かの間に鷹は二回湊を振り返り、二回ともすぐに目を逸らした。  
 部屋を出て扉を閉める、そのままの格好で鷹が舌打ちをした音が扉にぶつかり、掻き消えた。  
 

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