※     ※     ※     < 4 >     ※     ※     ※ 
 
 
 
 素足で泥沼に足を踏み入れるような気持ちよさ。 
 お互いカミングアウトしてしまった後の、変な気だるさと、くすぐったい沈黙。 
 無言でぎゅうっと抱きしめて、あるいはあたしの方からすれば抱きしめられて。 
 こいつの息遣い、ふかふかした毛に、広い胸、大きな腕が、気持ち良く。 
 …でもそれで終わりじゃ、ないんだよね。 
 
「……そろそろ、動こっか」 
「う……」 
 沈黙を破ったこいつの言葉と、ちょっと怯んだあたしの声。 
 だいぶ時間を置いたせいか、もう鋭い痛みはなくて、ただ鉛のような鈍痛があるだけだけど。 
「ひゃっ!?」 
 ひょいと膝下に手を入れ、両足を持ち股を開かされたられたこの体勢は…… 
 
 ……え、M字開脚とかいうやつディスカー!??(泣) 
 
「う、うわ、ちょ、ちょっとまっ――」 
 さすがに、これはと。 
 そう思って慌てふためくあたしを無視して、ぐっと強く引っ張り上げられた身体。 
「あうっ!」 
 深々と突き刺さって固定されていたものが、僅かに抜ける感触。 
 いつのまにそんなにぬかるんでいたのか、ずぷっという音。 
 
 ……でも、やっぱり痛い。 
 
「…ダメだよそんな緊張しちゃ、もっとリラックスしないと」 
 なんていうかある種悟りでもしたか、のほほんと困ったようにこいつが言ってくるけど。 
「む、むり、むり、無理ーー!」 
 それでも緊張するなってだけ無理のある話だ。 
 
 ただでさえ大きくてきつきつなのに、この凶器みたいな形状。 
 その上あたしは未経験者。 
 そんでもってこの破廉恥すぎる体勢、いくらなんでもちょっとさすがに……。 
 
「うーん、仕方ないね…」 
「あ…」 
 ……とは思うけど、かと言ってこいつを困らせて無理難題おっつけるのも気が引けて、 
 ぱたんとM字にしてた足を下ろしたこいつを、思わず見上げてしまった時。 
 
 ――むずっと掴まれて、ひょいひょいと自分の膝下へと持っていかされたあたしの両手。 
 
「とりあえず、悪いけど自分で持って広げて」 
 
 ………… 
 
 ………… 
 
 ……じっ、『自分M字開脚』しろってかーー!? 
 
 
「ででっ、できっ、できっ、できるわけないじゃ―― 
 当然涙目になって訴えかけもしましたがね。 
「でも足閉じたままより、きちんと開いてた方が出し入れされても痛くないよ?」 
「…………はぅ」 
 妙に理に適った事を言うこいつに。 
「痛いよりかは、痛くない方がいいに決まってるよね?」 
「…………あぐ」 
 っていうか、何か妙に楽しそうなこいつが。 
 
「はい、じゃあそういうわけで持つ〜」 
「きゃっ、あッ!」 
 無理矢理に持っていかれた膝下の手の下から、更に強引に抱え上げられた。 
「ほら、もっとお尻前に出して?」 
「あぅ、ぅぅぅ…」 
 足を動かされ、お尻を前に出される度に、動かされる下半身、挟まれた肉の間に感じるもの。 
 泣いて口をぱくぱくさせてるあたしに、強制的に恥ずかしい体勢を取らせる。 
「…はい、じゃあこの格好のままね」 
 およそ場違いな、はしゃぐような声が何かおかしい。 
「オレが手離しても、放しちゃだめだよ?」 
 いつもはくすんでぼんやりと、穏やかな緑色をしている瞳が何かおかしい。 
 
「あっ…」 
 そうして情け容赦なく離される、補助をしてくれていた大きな手。 
 途端にずしりと両手に掛かる、かかげ広げられた自分の膝の重み。 
 
 …でも、あたしばっか気持ちよくなって、こいつが気持ちよくなれないのは…と思う気持ち。 
 ……そうしてなんか、変な気持ちよさと――それを求めてしまう自分の心。 
 
「…うん、いい子だね」 
 ぽん、と頭に置かれた手になでなでされて、囁かれた言葉は、何かいやらしくて。 
「すごーく、いい格好……」 
「ッ!!」 
 断罪して罰を与えるみたく、耳元で囁かれる言葉。 
 
 でもあたしも、それにぞくぞくっと背骨を走り抜けるものを感じ。 
 ビクッと震えた身体に、じわりと出る涙。 
 …なぜか変な歓喜、広げ開かされた股の奥が更に熱くなるのを感じるのも事実だ。 
 
「後は……そう」 
 くっと押された後頭部、頭を下に向けられて。 
「ここ、見てて」 
 視線の先にさせられたのは、彼のモノを飲み込んだ自分の秘所。 
 
「や――」 
 直視にできないその結合部に、思わず目を背けたあたしの耳元で。 
「ダメだよ」 
 ねっとりと。 
「そういう風に身体を硬くして、恥ずかしい事から逃げようとしちゃうからダメなんだよ」 
 ……でも正しくて、でも間違っていない。 
「そうやって緊張するから、身体硬くするから、あそこの筋肉もこちこちで、余計痛くなる」 
 優しく、一言一言諭されるように言われる言葉。 
 
「だからもっとリラックスして、力抜いて、恥ずかしい事全部受け入れるようにして――」 
「…でき…ない……よぉ……」 
 そういって恥ずかしさにべそをかくけれど。 
 …でも本当は文句を言っているんじゃなく、…ただ、甘えてるんだ。 
 
「…できるって」 
 甘く耳元で囁かれる優しい言葉は、一つ一つあたしの逃げ道を丁寧に潰す。 
 ……でもそれは、あたしが望んでいる事だ。 
「だってお前の心は、こんなに綺麗なんだから」 
 恥ずかしくても、でもこいつにやれって言われてやったんなら、仕方ないから。 
 どんなに痴態を取らされても、でもこいつに『命令された』結果だったなら、言い訳できるから。 
「理屈や言葉は、全部捨てちゃって」 
 そうしてやっぱりそれを分かって、あたしを導いてくれるこいつの言葉は、優しくていやらしい。 
 声はねっとりとしてるけど暖かくて、耳をピリピリと震わせるそれはなんか安心する。 
「全身の力抜いて、頭空っぽにして、気持ちいいのといやらしいのに身を任せちゃえばいい」 
 言われて、かくんとまた頭を倒され、絡み合ったその部分へと視線を向けさせられる。 
 目のやり場にすごく困ったのはまた同じだったけど、でも今度は目を逸らさない。 
 
 そうして。 
「ほら、おっきく息吸って」 
 無意識に、促されるままに大きく息を吸って。 
「ゆっくり吐いて」 
 深呼吸するみたく吐いて。 
「またおっきく吸って」 
 …座椅子みたいに自分を座らせ、後半身を支えるあったかいふかふかが、安心する。 
「吐いて」 
 …優しく耳元に囁かれ、鼓膜を振動させて脳に響く、高めのハスキーボイスが、安心する。 
「力抜いて…」 
 あられもなく開かされた足も、それを持つのが自分の腕だという事も忘れて。 
「…うん、ちょっと とろん って、眠たくなる位がちょうどいい感じだよ」 
 ぬるま湯に浸されたような思考、繋がった部分を見つめたまま、そんな言葉を聞く。 
 
「…お前は、こっちの方が好きだよね」 
 そうしてそんな言葉と共に、ふいに両手が動いて。 
「あッ?」 
 左手は大きく回りこんで、胴を固定しがてらあたしの右胸をぎゅむっと握り。 
 右手は結合部へと伸びて陰毛の中、紅珠の包皮を剥いて指の腹で擦った。 
「ひゃっ、んッ」 
 自分が見ている、その目の前で。 
 ぷにぷにと柔らかく。 
 しかし指先まで産毛に覆われてちくちくするこいつの指が、それをリズミカルに押す感触に。 
「……じゃ、始めよっか」 
 気が紛れたところで、それは始まった。 
 
 
 
 動きは単純で単調。 
 
 ずぷっ…という音を立てて、あたしの中にぎちぎちに食い込んだ槍がゆっくり引き抜かれ―― 
 ――だけどほんの少し持ち上がった所で、それ以上は無い力。 
 ずぷぷ…という音と共に、ぬるぬると重力に従って、またゆっくりと奥に当たるまで刺さる。 
 ……ただ、それの繰り返し。 
 
「ん、んんっ、ん…」 
 でもそれくらいで、ちょうどいい。 
 ゴツゴツと乱暴に、激しい腰使いでやられたら裂けてしまいそうな、 
 それ位きつくて、潤滑油があっても動かすだけで精一杯。 
 …『デカけりゃいいってもんじゃない』という言葉を、何か身にもって実感するけど。 
 
 ――でも。 
「どう…、痛くない…?」 
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、じっとりと汗ばんだ身体で左手にあたしを抱え直すこいつに。 
「う…なんか…いたきもち…いい…」 
 同じく汗ばんで、脚を開き抱える手が滑るのを、深く手を入れ直して改めて開き直すあたし。 
 
 ──正直、挿入とピストン運動自体は全然気持ち良くない。 
 あんだけ時間を置いたのにまだ鈍痛があって、 
 そうして鈍痛と痛みによる麻痺とで、何か中で硬いモン動いてるな〜って感じしかしない。 
 正直あたしが今感じてる気持ち良さは、 
 胸を揉まれたり、出し入れされてる部分の上部の突起を弄られたりから来る気持ち良さだ。 
 …普段から一人でやってるだけあって、こっちの方はすんなり気持ち良くなれる。 
 
 ……だけど、いくら肉体的快楽より痛みの方が大きかったとは言っても、それはそれ。 
 男女の交わりがそれだけで終わるのだったら、ただの自慰と何も変わらない。 
 『それ以外の別な何か』があるからこそ、みんなこれを求めるんだと思う。 
 
 実際、気持ち良かった。 
 …おそらく精神的なものから来る気持ちよさなんだとは思うけど、 
 それでも自分の手じゃない、他人の手で胸や肉芽をいい様に弄られるという事は。 
 …何か入っちゃって、それがずりずり動いているというその実感は。 
 
 
「はっ、は…」 
 快楽と痛み、そして衝撃と熱気に打たれ濁った頭。 
「ふ、ぅっ…、んっ…」 
 溜まってきて飲み込みきれず、口の端からつぅ…っと垂れる唾。 
 呻き声を上げて、あたしはただ黙ってそこを見ていた。 
「はっ…、あっ…、んっ、ん」 
 ごつごつしてあったかい、男の人の大きな手、獣のふかふかした手が自分の胸を弄び、 
 逆にちくちくする指の腹がきゅっきゅっと意地悪く、膨らんだ紅珠を押すのを感じつつ。 
 全身に薄っすらと汗をかきながらも、それでも言われた通り、そうしてそこから目を離せず。 
 
 
「あ……あ……」 
 
 ……すごかった。 
 すごいグロテスクだったけど、だけど気持ち悪いとか、汚いとは感じなかった。 
 
「ん……んふっ、…んふぅぅっ」 
 『何コレぜってーはいんねーって』と思う大きさのモノが、だけど確かに入ってしまい。 
 陰毛の下で、クリトリスも尿道も膣口も全部露になってしまう位の大きさのモノを咥え込み、 
 あり得ない、おかしいと思う大きさに広がった普段は小さい穴。 
 ごつごつとお腹の奥の最奥部、硬くしこった部分に先端がぶつかる感触に、 
 どれだけ深く突き刺さっているのか、それくらいは否が応にも理解させられた。 
 
「…はぁっ、んぅうっ、んああぁっ…あっ」 
 そこから ずちゅっ、とか ずりゅっ、とかの肉と粘液が立てる音と共に出入りする棒に、 
 薄白っぽいねばねばした液が、抜き差しの度に絡み付いて糸引いてるのが見え。 
 …出たり入ったりに晒されて、濡れてぺしゃぺしゃになった灰色の毛。 
 だけど白い泡が纏わりつくそれに、赤茶色く染まった部分があるのを何気なしに見つけては、 
「…ッ!! あっ!? ああっ! ああああっ!!」 
(…あたし、…こいつに、処女、…とられちゃったんだ…) 
 と、今更のように感じ、だけど何かひどく満ち足りたものを。 
 
 
 それだけじゃない。 
 
「やっ!? はっ、はあっ」 
(……あ………すごい……) 
 めり込んだモノの下にぶら下がり、幹の部分と同じく細かい短毛で覆われて何か可愛い、 
 たぷたぷした大きな陰嚢も。 
 それらを取り囲む一際毛深い陰毛と思しき体毛が、あたしのせいでびしょびしょなのも。 
 
「ああっ、あああんっ、やぁぁんっ!」 
(……すご……いよぉ……) 
 あたしを乗せた下、毛皮の上からでも筋肉がわかる逞しい太腿が、 
 だけどじっとりと汗で毛並をへたらせて、肉をピクピクさせてるのが分かるのが。 
 後腰に擦れるお腹、毛皮の下の腹筋が、洗濯板みたいにごつごつ硬いのが分かるのが。 
 
「んっ、んんぅっ、んくぅっ」 
(…すごいよ……すごいよぉ…) 
 男の人の汗の匂いに、あれだけ拭ったのに薄っすら残る、染み付いて消えない血の匂い。 
 ……だけど晴れた日によく干した布団みたいな、お日様の匂いもして。 
 あたしの胸をこねくり回すおっきな手一つとっても、男の人のそれを、獣のそれを感じさせる。 
 
「ふぁっ!? ふあぁっ! ふあぁぁっ!」 
(すごいよぉっ、すごい、すごいよぉッ) 
 興奮か、熱気か、運動にか、ハァハァと湿って荒げた呼気。 
 ぐちゅぐちゅと水音を立てて、ずぱんずぱんと水を含んだ毛独特のいやらしい音を立てる腰。 
 
 
「あんっ! あんっ! あんっ! あんっ!」 
 
──興奮してた。 
──すごい、興奮してたと思う。 
──おかしくなりそうなくらい、興奮してた。 
 
 ……でも。 
「…大丈夫?」 
 ちぷちぷと、粘る陰核に刺激を加えながら掛けられる、 
 そんな淫態には不釣合いな、優しい言葉。 
「…気持ちいい?」 
 笑って、嬉しそうに。 
 ふかふかの胸にぎゅっと抱き寄せられる身体、伝わってくる暖かい想い。 
 犬の口からちらりと見えた牙に、ドキッとする。 
 
 
 そうして陰嚢や竿の部分まで柔らかい産毛を敷き詰めさせたそれは。 
 あたしの最奥まで突き刺され、またあたしが心身共に受け入れてしまっているそれは、 
 ……だけど人間のものじゃなくて。 
 
 処女を取られて、犯されて、なのにそれが最高に幸せで 
 女の幸せ、至福にすら感じる、満ち足りた気分で受け入れてしまっている相手は、 
 ……だけど『人間』……ではあるけど、『ヒト』……ではなくて。 
 
 あたしが本気で好きになった、愛してしまった相手。 
 抱かれて、犯されて、愛を囁かれて、褒められて、撫でられて幸せだと感じる相手は、 
 ……だけどヒトじゃない、異世界人、違う種族、イヌ、狗頭の獣人の…… 
 ……でも中身はあたしの知る誰よりも人間らしい、愛しい人で。 
 
 
「あっ、きっ、気持ちいいけどっ、これっ、おかっ、おかしいっ、おかしいぃぃっ!」 
 泣きながら、身をきゅうっと丸めて擦り寄せて、甘えてた。 
「痛いのにっ、痛いのに気持ちいいっ! 気持ちいいよぉっ!!」 
 実際には気持ちいいというより、胸の奥がムズムズして、幸せで堪らなかった。 
 たとえ硬くしこった乳首や、ぷっくりと膨れた赤い肉芽への刺激が起爆剤だったとしても、 
 それでもあたしが酔って、溺れて、飲まれていたのは、肉体的なものとは別の何か。 
 
「あんっ! あっ、あはっ、はぁんっ!」 
 声、体温、匂い、質感……その全てに完全に溺れて、飲まれてた。 
 背中を、身体を、ぐしぐしと擦り付けて、甘えた。 
「んっ、くぅ、くぅぅ、くぅぅぅぅんっ♪」 
 鼻を鳴らして。 …もしもあたしに尻尾があったなら、多分ちぎれんばかりに振っていて。 
 ……まるであたしの方が、『犬』みたいだった。 
 
 
 そうしていつの間にか。 
「ふぁっ?」 
 ずちゅっ、ずちゅっ と、滑らかにも大きな音を立てて。 
「あ……」 
 広げられた股の中央で、淫液を撒き散らしながらスムーズに。 
 1cm2cm、ゆっくりと上下に動かすのがやっとだったはずの杭が、5cm近くも前後していた。 
「う……ふっ…」 
 鈍痛は消えない。 
 …消えないけど、だけど最初の激痛と比べれば十分耐えられるレベル。 
 赤くひくひくと痙攣し、美味しそうにそれを咥える下の口は、 
 上の口と同じで、だらだらとだらしなく白濁した涎を垂れ流している。 
 ……まるであたしの心の中を、そっくり表しているかのように。 
 
 そうして、あたしにも見えた。 
「…は、はっ、はぁっ」 
 ぐっと持ち上げられるお尻に、ズッ…と音を立てて中から露になる屹立。 
 押し包む窮屈から解放され外気に触れた事で、撥ねるしとどに濡れたその竿部分の短毛が、 
 ピチピチと小さな雫に飛沫を飛ばして逆立ち、あるいは糸引く粘液と泡に絡め取られるのを。 
「…はっ、はっ、はっ、あっ」 
 また離され、重力に従って落ちるあたしの腰に、ぐじゅっ、と飲まれて見えなくなる屹立。 
 奥に先端が当たるのを感じた瞬間に、入り口からびちゅっと飛び散る何か。 
 今まで見た事が無いくらい白く濁った粘液が、溢れて散ってぴしゃぴしゃと彼の陰毛を濡らし。 
「あっ、ひっ、ひぁっ、やっ…」 
 体毛があってそれが吸う分、シーツはそうではなくても。 
 …でももう、見れば彼の大きな陰嚢とぼうぼうの陰毛は彼女のせいでてらてらのべとべとで。 
 そうして絵筆が水を吸うみたくに、たっぷりそれを吸った陰茎回りのぱやぱやとした毛が、 
 抜き差しの度にたっぷりそれを含まされ、それを飛ばしながら、けれど抽送をスムーズに。 
 
「…やぁっ、ぞーきんっ、ぞーきんんっ!」 
 見た瞬間、ちょうど先端を受け止めたあたりが更にきゅんと切なく、熱くなって。 
 次の抽送で毛が振り飛ばし、また押し出す液体の量がどっと増えるだろうという事が判る。 
 ──いやらしいと思って、感じてしまったからだ。 
 ──勢いよく引き抜かれた瞬間、吸った彼女の愛液をぴちぴちと飛沫かせる彼のモノに。 
 
 
「変、変だよぅ、へんだよぉこんなのぉっ」 
 でもそこには怯えが半分、甘えが半分。 
 現にぐずって涙を零しながらも、言いつけの通りに自分の手で自分の脚を持ち続けて。 
 ぽろぽろ涙を零しながらも、結合部に向けたままの視線を動かさないのがその証拠。 
 
「何でっ、何で入っちゃうの、こんなのぉっ!? なんでこんなに普通に入っちゃうのぉっ」 
 指何本分どころか、女のあたしの手首の一番細い所と。 
 それぐらいの太さはありそうなものを、痛くないわけじゃなかったとはいえ受け入れてしまって。 
 こんなに凶悪で、自分のあそこをぎちぎちに押し広げるグロテスクなものを、 
 初めてなのに愛液を垂れ流してまで懸命に咥え込み、しかも愛しいとまで、可愛いとまで。 
「なんで…なんでこんなに気持ちい……」 
 そうして、彼の屹立が自分の愛液をたっぷり含んで濡れそぼっているのを見ては。 
 裸の彼に抱かれて、そのふかふかの心地良さとその下に隠れた逞しい身体に気がついては。 
 イヌに犯されてるんだ、イヌを好きになっちゃったんだと思っては、濡れる秘奥に。 
 
「ぞーきん…、…ぞーきぃん……」 
 でも、ただ、変じゃないよと言って、ふかふかの手で頭を撫でて欲しかった。 
 もっと気持ちよくなっていいんだよと、広い胸に抱きしめて耳元で囁いて欲しかった。 
 ──それだけで。 
 ──それだけでもっと気持ちよくなれる、もっと淫らになれる。 
 
(…あ……) 
 幸せで溶かされた心に、乳首や紅珠への為されていた愛撫。 
(…イキそう…かも……) 
 さっきあんなに激しく達したばかりなのに。 
 またその予兆を感じ取ってぶるっと震える身体に。 
 
 
 肉芽をいたぶり続けていた手が、ピタリと止まった。 
 胸を弄んでいた手が、スルリと離れ。 
 そうして膝と腰だけを使っての器用なアップダウンが止む。 
 
 
「あ……」 
 途端に、寂しくなる身体。 
 
 胸をぐにぐにこね回してくれるおっきな手も、いじわるにあたしの肉芽を摘む指も、 
 そうして視線の先で、動くことがなくなってしまった腰と腰とのぶつかり合いも、全部。 
 ――なんで?――とあたしが悲しくなった時。 
 
「…違うだろ?」 
 
 俯いた顎に手を掛けられ、くいっと持ちあげられ上を向かされた顔。 
 昨日までと同じ、優しい声、穏やかな言葉、柔らかい瞳。 
 …でも、あたしにはやっぱり分かった。 
 そんないつもと同じこいつの顔に、だけど今は芽生えて確かにあるもの。 
 ……いじわるな色と、力強さ。 
 
「『ぞーきん』じゃなくて。……分かるよね?」 
 
 優しく促された言葉に、相手が何を言いたいのかすぐ分かる。 
 つまり―― 
 
 
「…ごしゅ…じん…さま…」 
「うあ」 
 
 
 ――あたしの中に突き刺さった怒張がビクンッと大きく跳ねるのと同時に。 
 ……なんかこいつの肩が、ずる、と斜め45度にずれるのが判った。 
「そ、それもあるけどね?」 
 なんかドギマギと、でもどことなく目を熱っぽく潤ませながら、ぐっと押し込まれる腰。 
 たぷたぷと、弾ませるように弄ばれる胸が、 
 そうやってこいつの大きい手でいじくられてるのはどこか心地良かったけど。 
 …でもちょっと物足りない。 
 
 あれ? 違うの? なんかあたし変な事言ったかな?と思いつつも。 
 ちょこっと冷や汗を掻いて、(なんでか)すごい鼻息荒げてるこいつに対して。 
 
「…じーく……様…?」 
 
 ――それともズィークバル様やローヌ様と呼ぶべきなんだろうかと。 
 そう思って見上げた視線の先で、あいつが「あ…」と困ったような声を上げた。 
 
 
「…様は、要らないよ」 
 とん、と顎を上げさせられて後ろ頭を首元にくっつけられる。 
「う……」 
 そうして片方の腕は胸下で、もう片方は腿の付け根の上であたしの身体を拘束して。 
 こうすると首からお尻まで、全身でこいつの身体が判って気持ちいいけど。 
 
「う……だめ…だよぉ……」 
 
 知ってたの。 
 本当はずっと、知ってたの。 
 …こいつの方が凄い事。 
 …こいつの方が偉い事。 
 …こいつの方が強い事。 
 
「だって…あたし…」 
 『ぞうきん』となら呼べた。 
 それは悪態で、それはノリと勢いの産物で、そうして免罪符。 
 『奴隷』で『モノ』であるヒトのあたしと、『知的生命体』で『人間』であるイヌのこいつとの差を、 
 ……この世界の理を埋めてくれる為の免罪符だ。 
 
 ちょうど、悪ぶってひねくれた奴がね、 
 自分より身分も、地位も遥かに上の、本当は自分よりずっと目上だって分かってる相手を。 
 …しかも心の底ではその実力も認めちゃってて、 
 もしも萎縮して畏まっちゃったりしたら、本名じゃとても呼び合えなくなっちゃうような相手を、 
 でも悪態やニックネーム、冗談交じりの中でだったら、呼べるみたいに。 
 ……そうしてそうじゃなかったら、呼べなくなっちゃうみたいに。 
 
「ヒト…だもん……」 
 ジーク様とかズィークバル軍曹だなんて似合わないと思うけど、 
 でもこいつはあたしの命の恩人で、こいつがいなかったらあたしは今頃何度死んでたか。 
 あたしはヒトで、こいつはイヌで、そうしてこいつは、あたしのご主人様。 
 誰が決めるでもない、何に従うでもない、あたしが自分でそう認めてしまったのだ。 
 
 ──『雑巾』というニックネームだって、本当は好きで言ってたんだよ? 
 白銀や黒曜には程遠い、こいつの小汚い雑巾色の毛並だけど、…でも嫌いじゃなかった。 
 なんだかとても親しみが沸いて、目に優しくて、落ち着く。 
 …『血統書付きよりも雑種の方が親しみが沸いて飼い易い』ってのは、案外嘘じゃないらしい。 
 
 ──ジークって愛称もね、カッコよくて嫌いじゃあなかった。 
 似合わないものものしい名前と見せかけて……でも凄くよく似合ってると、今なら思える。 
 
 ……でも、だからこそ、呼べない。 
 
 ……呼べない名前も、あるのにね。 
 
 
「……気にしなくていいだよ、そんなの」 
 ふわふわ、心を包んでくすぐる。 
「大体『ジーク様』なんて、本当にオレに似合うと思う?」 
「う……」 
 抱き合って、突っ込んで、やってる最中だってのに……余裕っていうか、無邪気っていうか。 
 笑って、冗談めかして。 
 …だけどこの双眸にじっと見つめられると、吸い込まれるようで逆らえない。 
「それに、ローヌ軍曹とか、ズィークバル様とか、ズィークバル殿なんて……呼ばれ飽きてる」 
 声は悲しそうで、寂しそうで、…なんか言う事、聞いてあげたくなってしまう。 
「呼んで欲しいんだよ、ジークって」 
「んっ…」 
 摺り寄せる首に、首下の毛でくすぐってきて、この瞳。 
 子供だけが使える、純粋きらきらおねだり視線攻撃にも似た、すごい卑怯臭い頼み方。 
「……そう呼んでくれる人、もう他には六人の『仲間』しかいないから」 
 ──強いくせに弱くて、なんか見てられなくて。 
 ──……だから、『あげたく』なっちゃうんだ。 
 
「ぅ……、……じ、」 
 ほら。 
「…じー…く………」 
 言っちゃった。 
 
 
「はい、よく出来ました」 
「…っ、あっ?」 
 途端、言葉と共にお尻を掴まれて。 
「…んんんんんぅっ!?」 
 ずりゅっ、と音がするくらい、一気に引き上げられて入り口近くまで引っこ抜かれた。 
 意外とあっさり抜けたのは、いちゃいちゃしてる間にふやけちゃったからか、 
 それとも人間のと違って間に愛液を含むものがあるせいで、それが滑りを良くしてるからか。 
「…あっ、あぅっ、あうぅぅっ」 
 先っぽだけ残して全部引き抜かれ、ぽたぽたと雫が滴り落ちてるのが判るのが恥ずかしい。 
 恥ずかしいけど、でも、それよりもむしろ。 
「やっ、やめっ――」 
 次に来るものを想像してあげた悲鳴。 
 だけど無慈悲に、腿とお尻の付け根を掴んだこいつの両手は、パッと離されて。 
「うあぁぁぁぁぁぁんっ!!」 
 垂直でなく斜めだったから、ドスッと行く事はなかったけど。 
 …でもその濡れて粘った肉の柱が、重力に従ってじゅぶじゅぶと中に戻って来てしまうのは。 
「ん、んんんんんん、んっ――」 
 肉体的な快楽が無くても、でも流石に最初は判らなかった分、こなれた今では判ってしまう、 
 なんか太い肉が、潤滑油のせいでずるずると滑ってあたしの中に入って来てしまう感覚。 
「――あっ!」 
 どっ…と最奥、子宮口に当たって止まるその痛み、また一番奥まで占有されてしまった感覚。 
「はっ! じ、じーく…っ」 
 愛する男のものを受け入れられる、ちゃんと受け入れられたという感覚に。 
 ……奥を叩かれた鈍痛で、だけどはじけ飛んで、抑えられなくなる。 
 両脚を掲げ押し開いていた手が汗でずるっと滑り、支えきれなくなった脚が床についた。 
 
──痛くても、しあわせ。 
──こんなのあの指を折られたり、お腹を蹴られたりにくらべれば、ぜんぜん。 
──こんなズキズキジンジン、むしろうれしい、しあわせだ。 
 
「じーくっ! じーくっ! じーくっ! じーくぅっ!」 
 脚が落ちたショックで、前のめりになった姿勢、ぺたんと前に手をついて。 
 そこをぐちゅぐちゅと、少し乱暴なくらいに出し入れされて。 
 だけど壊れたみたいに、犬みたいに。 
「すきぃっ、じーくっ! じーく、すきだよぉっ! …あんっ」 
 ぐいっとお尻を掴まれて、もう片方の手を腰の前――繋がった部分の上、肉芽を押さえられ。 
 前に突っ張った手で、ぐいぐいと自分から『そこ』に、突き刺さったものを押しつけながら、 
 ぐにぐに尻肉を揉まれるのが、肉芽を擦られるのが、奥を圧迫する肉の感触を感じるのが。 
 
 
 もうどうでも良かった。 
 『じゅうかん』とか、『きんき』だとか。 『じょうしき』だとか、『りんり』だとか。 
 
 命令や強制の方が、嘆願や提案よりも嬉しい事がある。 
 素直になれない心、踏み出せない足、…乱暴に、強引にしてもらった方が、嬉しい時が。 
 
 辛い痛みや苦しみがあったとしても、それを快楽に変えられる世界がある。 
 誰の役にも立てない、ただ傍観しか出来ない無力、…それから解放される瞬間の事だ。 
 …誰の役にも立てない『人間』であるよりは、好きな人の役に立てる『犬』でありたい。 
 
 ──だから今、あたしは最高に幸せだ。 
 ──痛くても、辛くても。 …たとえ玩具にされても、性欲処理の道具にされても。 
 ──あたしは今、自分の身体を使って、ジークを気持ちよくさせられてる。 
 
 
「あっ、ああああ…っ、おか…してぇ…っ」 
 『犬』になりたかった。 
「おかしてぇ、じーく、おかしてぇっ!!」 
 だって、『犬』になれば、だけど堕ちちゃっても、犯されても、人間やめちゃっても。 
「もっと、もっとぉっ! もっとおかして、おかしてっ、おかしてぇっ!!」 
 でも、こいつの傍に居られる。 
 傍に居てあげられる、こいつと一緒に居てあげられる。 
 ずっと。 
 
 
「おかっ――」 
 
 
 
      ※     ※     ※     < 5 >     ※     ※     ※ 
 
 
 
 びくっ、と。 
(は……) 
 波が砕ける。 
(あぅ……) 
 突っ張った両手、反らした背筋に、また来てしまったのを。 
 
「ふ……ぁ……」 
 ぎゅうっと締め付けた中のモノに、とぷっと奥から溢れて来るもの。 
 がくがくした腕に、上半身を支えきれなくなって、ぺちゃんと地べたに潰れる中、 
 ひくひく痙攣するあそこから、とろっと汁が漏れるのが分かった。 
 
(あ……) 
 また、達してしまったらしいと。 
(…どーぶつ…みたい…) 
 そう思う中に、だけど弛緩した体、じわりと悲しみからじゃない涙が滲み出した。 
 ただでさえ汗ばんでるのに、更にどっと噴き出す汗。 
 あそこの筋肉だけじゃなくて、全身がなんだかふわふわして、ガクガクする。 
 
 
 ──と。 
 またひょいっと人形みたく抱きかかえられて、ぽすんと座り直させられて。 
「……イっちゃった?」 
 深く座り直させながら聞いてくる声は、すごくいやらしくて、容赦なくて。 
「……うん」 
 だけど全身汗だく、疲れて弛緩した身体には、とても心地良いものに聞こえた。 
 そうして―― 
 
「…じーくは……」 
 ──無意識に出たのは、だけど聞きたくてたまらない問い。 
「じーくは、気持ちいい?」 
 達した直後のぼーっとする頭で、だけどそれだけは聞いておきたかった。 
「じーくも、イっちゃいそう?」 
 あたしで。あたしを使って。 
 
 
「……ああ」 
 ──声が震えているのは、どうしてなんだろうと思った。 
「うん、最高に気持ちいいよ」 
 あたしの後頭部に顎を乗せる形になってるので、こいつの顔はよく見えないけど。 
 …でも半分泣きそうになっているんだろうって事は、声の感じからなんとなく読めた。 
 
「…お前の心の中、オレの事だけでいっぱいだから」 
 もう今更心を読まれた所で、だけど呆けた頭には何も感じる事もない。 
 嬉しそうに言うそれは。 
 ……でも、泣くほどの事なんだろうか?と、素直に思う。 
「…オレの事しかないから。…オレへの気持ちでいっぱいだから…」 
 そんなの、『当たり前』じゃないか。 
 『好きな人とこうしている最中に、相手の事以外の事を考える人』なんているんだろうかと。 
 あたしとしては、どうしてこいつが『そんな事』にこんなに、と。 
 
「……イっちゃいそうだ」 
 
 
 
「……いいよ、イッちゃっても」 
 だから気だるさの中で、それでもあたしは、その顔に手を添えてそう言った。 
「最後まで……中でいっぱい、出しちゃっていいよ」 
 
 ──びくっと元気に痙攣して、あたしの中でぐぐぅっ…っと弓なりに反り返った屹立に。 
 ──こいつが鼻を押さえ、なぜか真っ赤にして顔を背けるのには「?」と思ったが。 
 
 ……でも、それが今あたし達がしている事の本来のあり方で。 
 そうしてそうする事で、『あたしがこいつにあたしをあげる』というその行為全体も完結する。 
 処女だって破られはしたけど、まだ完全には取られていない。 
 ……最後まですることで。 
 だけど何も持たないあたしが、唯一あげれるものを、こいつへと。 
 
「……すぐ、終わるから」 
「…うん……」 
 
 胸や割れ目の突起をいじる手もやめて、両手であたしのお尻を掴むこいつ。 
 …これまではあたしがなるべく気持ち良くなれるようにと配慮してくれていたのを止めて、 
 自分が気持ちよくなる為だけに腰を動かし始めたこいつの顔を、 
 あたしは黙って、一番の特等席から眺め始めた。 
 
 
「…ッ、……ハ…」 
 女と違って、男はしてる時に無口になるという話は、本当らしい。 
 苦しそうなんだか、気持ちいいんだか判別のつかない顔で。 
 でも汗に体毛を濡らして、あたしの腰を上げ下げさせるジークの顔は、…いい顔だった。 
 ずぶっ、ずぶっという音を立てて現れたり隠れたりする肉棒に、 
 あたしはただ鈍磨した感覚の下で『何かが動いてる』という感覚しか受けなかったけれど。 
 …でもぬるぬるぎゅうぎゅうと締め付けるあたしの肉壁に自分のを擦りつけて、 
 こいつがすごく気持ちいいんだろうというのだけは、なんとなく分かる。 
 
 だけど同時に、相手が必死で何かに耐え堪えているのも分かって。 
 
 ──なんで我慢するんだろう──と。 
 『男は女と比べてあっという間にイっちゃうから、少しでも長くと思って我慢するんだよ』 
 と後で教えられたとは言え、その時のあたしは、強く疑問に思ったものだ。 
 
 
 ……色っぽいな、と思う。 
 荒い呼吸、どこか遠くを見るような目で、ハァハァと口を半開きにして。 
 時々何かの波に耐えるようにきゅっと目が細められて、腹筋に力が籠もって硬くなり、 
 …次第にそれの頻度が増していって、そうして腕や全身にも緊張が走る様になった。 
 だけどあたしのお尻を持ち上げて降ろす、その腰と腕の動きだけは変わらなく。 
 
 …前にこいつが一人でしてる時を目撃してしまった時も、そう感じたのを覚えてる。 
 「色っぽいな」、「変な色気があるな」と感じたのを。 
 その時は遠目からだったのと、常識やら理性やらに阻まれ、そこから先には行けなかったが。 
 ……でも今から思えば、そう感じたという事はその頃からもう既に重症。 
 ……そうして今では開かれた心、自分の心の奥底にあるものを、だけど素直に感じとれる。 
 
「…………っ………ぐっ…」 
 半開きになった喉から、乱暴に吐き出される荒い息、結果声帯を震わせて洩れる声。 
 今では緊張とほぼ全身と常時に達して、力みはぶるぶると震える程。 
 特に下腹部、屹立のある下腹を中心として、身体全体をぎゅうっと硬く縮こまらせて。 
 段々早くなり、乱暴というよりは余裕がなくなってくのが分かる腰の動き。 
 切羽詰った表情に、苦しげな息、目は、どこか遠くを見てるようで、 
 …泣きそうにも、苦しそうにも。 
 …快楽に溺れているようにも、恍惚としているようにも見え。 
 
 それは小っちゃい男の子が、さながらおしっこ出ちゃいそうでもう限界なのを、 
 立ったり座ったり、うろちょろ行ったり来たり、顔をしかめて必死で我慢するのに似てた。 
 …そうして、だけどそれを『大きな男の子』が。 
 …こいつが、好きになった男の子がそれをやるのは、すごく色っぽくて、可愛くて。 
 
 何かが決壊する寸前、必死に快楽に抗って堪えるこいつの色っぽさに見とれて。 
 …そしてそんな彼を、だけど今この瞬間自分だけが独占しているんだという事実に、 
 たまらない幸せと、愛しさと、独占欲、…そうして劣情を感じ、興奮してた。 
 
「あっ…」 
 一際大きい声を上げて、ジークがずるりとあたしのお尻を落とし、 
 はっ、と大きく息を吐き出して、空いた腕でぎゅうっとあたしにしがみ付いてきた。 
「…で…る…」 
 抱きつかれてぎゅっと押し付けて来た腰、ぐっと深々と押し込まれたものが奥を押し。 
 ビクッと震えたそれに、…だけど全身に力を込めて耐えるこいつに、爆発は起こらず。 
「…でる、よ」 
 魂から出すみたくにそう叫んで、浅く腰を引いて、再度打ち付けた腰。 
 めり込んだそれが、今にも爆発しそうにぐっと膨らんで、ビクビクいってるのが分かるのに、 
 だけど口の端から涎を垂らしてまで耐えるこいつに、やっぱり爆発は起きず。 
 
──そうしてそんなこいつのそんな姿に、完全に身を任せて見とれながら。 
──……でも、思い出すべき、気がつくべきだったんだよね。 
──こいつがヒトじゃなくてイヌだって事を。 
──『出る』という端的な叫びが、『出るから注意してね』の意味も兼ねていたんだという事を。 
 
 今度は深く、ぐぽっ、と音が立つくらい腰を引かれ、ずぱんと音が立つほど強く叩きつけられ。 
「でるっ」 
 限界の叫び、きゅっと瞑った目から、ぽろっと涙が零れるのが、堪らなく可愛く、愛しくて。 
 …刹那、ぶるっと大きく震えたこいつの身体。 
 あたしを乗せた腰がびくんっと跳ね上がって。 
 
 
──『ぴゅっ、ぴゅっ』とか、『どぴゅっ、どぴゅっ』じゃなかったね、あれは。 
──『びちゅっ、びちゅっ』とか、『どぶっ、どぶっ』の方が正しいと思うよ、うん。 
 
 
 ぐっ…と、最奥まで突き込まれた先端が膨らんだと思ったら。 
「いっ!?」 
 不意討ちだっただけに、結構来た。 
 
「ふゃぁっ!?!?」 
 膣奥で ばちゅっ と、お湯の入った水風船でも破裂させられたかのような感触。 
 ぎちぎちの、体積的にもう限界な所に出されたそれは、 
 当然収まりきるわけもなく、次の瞬間僅かな隙間から、ぶじゅっ、と音を立てて噴き出して。 
 
「やっ、はっ、はっ、はあぁっ―― 
 思わず一緒に跳ね上がりそうになった腰を、 
 だけど太い両腿でがっちりと挟んで押さえつけられて。 
 
 
――そうして、汚された。 
 
「――んっ、んぅっ、んあぁっ」 
 びくっ、びくっと、震えるものを感じた。 
 その度に奥で爆発する、熱いじゅるじゅるを感じた。 
 潰されたゴムホースの先から出るみたく、びゅっ、びゅっ、と飛び散る収まりきらない白濁。 
 でも密着した腰がひくっ、ひくっと震える度に。 
 一滴残らず、一番奥に流し込まれて。 
 
「んぁ、ふ…、…うぁ……」 
 ――やがて「びくっ、びくっ」が「ひく…ひく…」に。 
 「びちゅっ、びちゅ」が「ぴゅっ…ぴゅ…」に変わっても。 
 それでも抱きしめる腕の、挟んで固定する膝の、押しつけられる腰の力が緩む事はなく。 
 
「…ぁ……」 
 ……そうして、完膚なきまでに汚された。 
 捕まった毒蟲にガッチリ固定され、体内に毒液を流し込まれてしまうみたく。 
 身体の一番奥の、決して汚されてはいけないはずの所で、ぶちゅぶちゅと、びちゃびちゃと。 
 汚されて、汚しつくされて、侵食されて。 
 
 ……だけどあたしは、悦んでたんだ。 
 熱くてドロドロしたものが、体の奥でどばどば出されるその感触を。 
 潰されたゴムホースの先から飛び散るみたいなその白濁が、内股を目いっぱい汚すのを。 
 
 
 
 ――どれくらい、経ったのか。 
 
 ぺたんと、ジークの腕が後ろについて。 
 …同時に膝や腰も緩み、あたしに掛かっていた力も全部消えた。 
 
 気がつけば、後ろ手をつきつつ壁に寄りかかって荒い息を吐くジークも、 
 その上にまたがって息を整えるあたしも、汗びっしょりで。 
 …それでも暖房を落とした部屋、冬の夜気はひんやりを越えて肌に冷たく。 
 
「……じー、く」 
 ──なんとなく呼んだ声に。 
「……なに?」 
 ──だけどすぐに答えて、ぐいっと引っ張って腕の中にくるんでくれる人。 
 
「…ううん、何でもない」 
 ──それに頬を摺り寄せる事ができる 
「…そっか」 
 ──それだけで、今はもう十分。 
 
 
 
 
 
 しばらくの沈黙。 
 
「……しちゃったね」 
 息が整った頃、今度は先にそれを破ったのはあたしの方だった。 
 
「……うん……」 
 答えて、はー と溜め息をつくのはぞうき……いや、じゃなかった……ジークの方。 
「…やっちゃった、…よなー…」 
 なんかあたしと同じで『あーあ、やっちまったよ』感が強く見えるけど、それもまあ無理はない。 
 
 ヒトを飼う、あるいはそれと性的な関係を持つという事は、 
 上流階級やお金持ちの間では結構『たしなみ』や半ば公然の『みやびな遊び』、 
 またはステータスの一種みたいになってて抵抗は少ないみたいだけど。 
 …でもはなからヒトを飼うようなお金の無い庶民の間ともなると、当然の如く話は別。 
 そして豊富な種族に、異種族間恋愛も珍しくないこの世界だけど、 
 それでも大多数を占めるのは『やっぱ違う種族とするのは〜』ってな意見の人達だ。 
 
 …あたし程では無いにせよ、つまりは『ウェルカム トゥー アブノーマルワールド』なこの行為。 
 ……こいつにはこいつなりに、この世界風の葛藤や抵抗があったと思う。 
 
「やっちゃったよねー…」 
「やっちゃったよなー…」 
 大人しく抱かれて、頭にぽんと手を乗せられながら似たような事を何度も呟き交わして。 
「あぅ……」 
 ……でもだんだん、汗だくで密着したお互いの身体とか、股間のぬるぬるとか。 
 じわじわ〜っと恥ずかしさがやって来て。 
 
「……て、てか、出しすぎだよぉ……」 
「う……」 
 
 ──いや、本当に出しすぎだった。 
 身じろぎしようとする度に、股の間がぬらぬらするのが恥ずかしい。 
 股の間からシーツの上、果ては膝の上にまで小さく飛び散った生暖かいゲル状のもの。 
 ……本当に例えるならイチゴにかける練乳としか言いようがないものが、 
 だけど急速に人肌の温かさを失って冷たくなってくのを感じると、…妙な気分になって困る。 
 
「…や、オレも一遍にこんなに出たの、初めてだから…」 
 ……本当に、妙な気分になるのだ。 
 困惑したようにそう言って、だけどそれでもあたしをぐっと抱きしめて来るこいつを感じてると。 
 …それによりぐちゅっと音を立てる、あたしのお尻とこいつの下腹部の間の粘液を感じると。 
 
 結合部を覆って。 
 陰核も、秘裂も、ぺっとりと覆い隠し。 
 あたしの陰毛も、逆にこいつの陰毛と陰嚢も斑の縞模様にデコレーションした白濁。 
 …でもそれが全部、収まりきらなくて溢れてきたものだ。 
 その証拠にてろてろと、今も少しずつ重力に従って繋がった隙間から滲み出して来ている。 
 当然中には、このぬめぬめ感からしてまだたっぷり入ってるんだろう。 
 
 汚された証拠であり、モノにされた証拠。 
 まるで印付けでもするみたいにたっぷりと出されたそれが、否応にもそれを強調する。 
 一番汚されてはいけないはずの一番奥に、一番の洗礼を受けて。 
 そうして明らかに『ヒト』の量じゃないそれが、ますますその事実を目の前に打ち付ける。 
 禁忌を……人間以外を受け入れてしまったという、その事実を。 
 
 ……なのに。 
 
 ……なんでこんな『妙な気持ち』になるんだろう。 
 
 その事を噛み締めていると、頭が、目が、なんかとろんとなって来て。 
 汚いはずの白濁で満たされ汚された今の自分の身体に、……どうしてこんな至福を。 
 まだ少しだけ残る鈍痛…奪われた痛みと、それを覆って隠す暖かいぬめぬめ、 
 …そうして今も直に感じる、その男の人の質感に、…淫らで満ち足りた、幸せと安堵が── 
 
 
(……って、いやいやいやいや、何考えてんだあたし!!) 
 
 ──と、そこでピシャリと頬を叩いて、正気を取り戻すあたし。 
 ついでにぶんぶんと頭を振って、そんな妄想を頭から追い出す。 
 …先刻まではともかく、この場に置いてはなんとか羞恥が快楽に勝ったらしかった。 
 
 あたしは『そのケ』はない。 
 断じてない! 
 ……無い、と思う。…多分……いや、絶対! 
 
 
「と、ともかくっ!!」 
 照れ隠しと、そうしてこのままでいたらまたムラムラ来そうだという恐れから、 
 あたしは強引に身をよじってぽや〜っとしてるこいつの顔を見上げて怒鳴った。 
「いったん抜いてよこれ!」 
「……え?」 
 上下関係だろうと性生活だろうと、ともかくこういうのは主導権というやつが大事なのだ。 
 特に初対面のインパクトが大事。 ここでイニシアチブを取られると、非常に挽回が難しい。 
 ……不覚にも今回は…う、『受け』に回ったけど、でもそれは初回のサービスってやつだ! 
 本来のあたしは攻め! 主導権握る側! 特にこんな気弱なイヌ相手には! 
 『美女と野獣』の美女の側! つまりは鞭もって野獣を使役する側、女王様の側なのだ! 
 それをこんなのに……いやさっきのあれは……な、なんといいますか…(ごにょごにょ) 
 
「だ、だって後始末しないとダメだし、何よりシーツべたべたでしょこれじゃ!」 
「…あ、いや…」 
 何より、上記のような訳で身体だけでなくシーツの汚れも酷い有り様。 
 このままじゃ確実に染みになる……っつーか、(あたしがやる)洗濯が大変になる。 
 こんな事ならタオル敷いてやれば良かったと、今更後悔したって後の祭りだ。 
 ……いや、っていうかそもそも…… 
 
「つーか、なんで柔らかくなんないのこれ?」 
「えー……」 
 確か男の人って興奮した時だけ硬くなって、射精した後は柔らかくなってずるっと抜ける 
 はずだと、それ位は友達から借りたや○い本読んで知ってたあたしである。 
「…まさかもう一戦とか言い出さないよね?」 
「……っていうか、その…」 
 困惑したような表情を浮かべるこいつをジト目で睨み、もしもンな事言って覆い被さって来たら 
 今度こそひっぱたいて躾けてやろうと身構えてたあたしは―― 
 
 
「……無理」 
「……は?」 
 ──でも、思い出すべきでしたね、ええ。 
「多分、今、引っかかって抜けない」 
「…はい??」 
 ──すぐ忘れそうになるけど、相手は人間じゃなくて獣人、…イヌなんですよって事を。 
 
「先っちょ、太くなってるから」 
 
 
 
              〜〜〜  しばらくお待ちください  〜〜〜 
 
 
 
「いでででででで!! ちょ、ちょっとタンマタンマ! ストップストップストップ!!」 
 100人の男性に聞いたら100人に『やってる最中に言われたら萎える』と答えられるような、 
 そんな雰囲気ぶち壊しの悲鳴をあげてるのはあたしです。 
 ……でもまあ、聞いてください奥さん、そんな悲鳴も上げたくなるってもんですよ。 
 
「なっ…、なんで抜けないのさぁっ!?」 
「だ、だから言ったじゃんか!」 
 出された時、中のこいつのモノが膨らんだような気がしたのは気のせいじゃなかったっぽく。 
 なんかこう…体感、先っぽのマッチ棒の先端みたくなった所が、ぶわっと大きく傘開いて。 
 
 ……中前後するならまだしも、入り口部分に引っかかって抜けません。 
 
 ……つか、無理矢理抜こうとすると、マジ痛いです。 
 
「そういう事言ってんじゃなくて、どうしてお前のコレこんな膨らんで抜けなくなるんだって―― 
「そりゃ、もちろん妊娠させやすくする為に決ま……」 
「妊娠させやすくする為とか言うなぁっ!!!!」 
「でっ!?」 
 
 すげぇ台詞に真っ赤になったあたしのチョップが、後ろ手にこいつの襟元にビシッと決まって。 
 なんかすっかりいつもと同じ雰囲気、漫才っぽい事繰り広げているわけですが、 
 
 ……ともかく、抜けません。 
 ……困りました、はい。 
 
「ど、どどどっ、どうやったら抜けんの!? まさか一晩中このままだとかっ!?!?」 
 当然うろたえるあたしですが、 
「いや、大体15分か1時間くらいあれば元に戻るんだけどね……」 
 でも流石に一晩中って事は、冷静に考えて無いらしく。 
 ……ただ。 
 
「…その、自分一人でした時とか、醒めてる時とかはすぐ元に戻るんだよ、うん」 
 
 『15分から1時間』 
 普通にバラつきあるなと、そんな時間幅で引っかかったあたしの悪い予感を裏付けるが如く。 
 なんというか大変言いにくそうに、おずおずと申し訳なさそうに言ってくるうちのご主人様。 
 ……うん、文句なしに情けない。 
 
「でも…その、興奮してる時とか、ドキドキしてる時とかは、なんていうか、結構?」 
 
 ……『結構?』 とか言って冷や汗を流しながら首を傾げてくる様は、 
 なんかもう『もうちょっと腰高くしなよご主人様、召使い相手なんだから』と言いたくなるような。 
 
「……つまり? 結論としては?」 
 それを同じく、…ただし苦笑いでなく複雑なひきつり笑いでそれを眺めるあたしに対し。 
「…えーっと、ね……」 
 
 ………… 
 
「…一時間、待って?」 
 
 てへ、と笑うこいつ。 
 
 
 
「ふざけんなーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!」 
 当然、キレた。 
 
「ななな、なんでそんなにこんな体勢で――」 
「…でもお前、こーんな温かいし、やーらかいし。 第一お前ん中すごい気持ちい――」 
「うがああああああああ!!」 
 きゅ〜っと抱きついてきて、とんでもない事を言うこいつを、べしべしぶっ叩いて暴れる。 
 さっそくさっきの誓い、調教タイムの実現を果たす時がやって来た……わけなのだが。 
 
「あははははははー」 
 ……なんかこれっぽっちも効いてねえ(←結構本気で殴ってる)上に、 
 むしろ暴れすぎるとあたしの方が痛いのであまり暴れられないという驚愕の事実発覚。 
 ……つーか、開き直りやがったよこのイヌ……。 
 
「ッ! …だっ、大体っ! あたしのどこに興奮するっていうわけよ!?」 
 それでも、負けるもんかとあたしは奮い立った。 
 そうだ、要は萎えさせればいいわけなのだ。萎えさせれば―― 
「こんな『いででで』とか叫んだり、ぎゃあぎゃあ暴れたり、びしびしお前の身体ぶっ叩――」 
「――かあいい♪」 
 
 
──隊長殿ッ! 前方に、敵、色ボケ一匹を発見ッ!! 
──よーし、雪辱戦の時だ諸君! 今回こそ我が軍の恐ろしさを見せつけてやれ! 
 
 
「かあいい♪ 可愛い♪ か〜いいな〜お前〜♪」 
「う、うわ、こら、ちょっ、ひゃっ」 
 「えへ〜」とか「うあ〜」とか意味不明な言葉を洩らしながら、 
 ぎゅ〜っと抱きつく腕に力を強め、すりすりしてくるこのボケワンコロ。 
 ――可愛いのはてめぇの方だっ!!―― 
 と思わず言ってしまいそうになってるあたり、当方被害甚大、かなりヤバい。 
 
 
──ぐわ、手強いッ! なんていう火力と兵庫線なんだ! 分厚くて打ち破れんっ! 
──た、隊長殿ッ! このままでは押し切られる、…いや、押し潰されますっ! 
 
 
「オレはお前のする事だったら、何でも可愛いよ♪」 
「ッ!!」 
 そんな小っ恥ずかしい台詞を、だけど嬉しさを抑え切れない声、ピュアーな瞳で。 
 ぱたぱたと尻尾を振りながら言ってくるこいつに、ぐらっと。 
「…でも、それともひょっとして、このまんまだとお腹苦しい? あそこ痛くてちょっと辛いとか?」 
「…い、いや……そ、そういうわけじゃ……」 
 本音を言えば、確かにお腹は窮屈で苦しいし、確かにあそこは痛くてちょっと辛いけど。 
 でも耐えられない程じゃないっていうか、 
 一転して心配そうに覗き込んできたこいつの顔を見たら、全然平気に思えて来たっていうか。 
「オレとこのままこうしてるの、イヤ?」 
「…い、いや……そ、そういう……」 
 
 
──ひっ、…て、敵、『雨の日に捨てられた仔犬の眼差し』投下! 隊長殿ご指示…… 
──ぎゃあー! お、おかあさーん……ぐふっ。 
──……た、隊長殿……隊長どのおおぉ――――――ッ!!! 
 
 
 ………… 
 
 ……一つ大きく、溜め息をついた。 
 
「……あー、なんかもう、どうでもいいや」 
「?」 
 馬鹿らしくなって、思わずそう呟く。 
 ……壮絶な爆死を遂げた隊長殿には、胸の中で黙祷するとして。 
 
「ね、あたしの身体、繋がったまま前後逆向きに直せる?」 
「へ?」 
 ふいに顔を上げての、そんな質問。 
「今後ろ向きで座ってるのを、向かい合って座るみたくに直せる?って聞いてんの」 
「え……出来…るけど?」 
 そんなあたしの問いを、こいつは目をきょときょとさせて聞いてたみたいだけど。 
「じゃ、それ、やって」 
「う、うん」 
 ――そこだけ見るなら、あたしの方が主で、こいつの方が召使みたいで。 
 
「…足、上げて?」 
 ――…だけど何も知らないあたしの手を取って、主導権を握るのはこいつの方だ。 
 
 言われるがままに、足を上げる。 
 身体を掴まれ、為されるがままにぐるっと回される。 
 中に突き込まれたモノが擦れても、耐える。 
 
「はい、いいよ」 
 後ろ上方から掛かってた声が、前上方から掛かるようになるだけで、だいぶ違うものだ。 
 
 まず感じたのは、閉塞感と、圧迫感。 
 すぐ目の前に視界を塞ぐようにこいつの身体があって、 
 ほんのちょっと視線を上げるだけで、人間のそれじゃない顔と向き合う羽目になるというのは、 
 意外に……というか、かなり恥ずかしい。 
 
 ……だけど。 
 ……あたしにだって、譲れないものはある。 
 
 
「あのさ、」 
 …恥ずかしいけど、でも俯いた顔を上げて、しっかりとその目を見据えて言った。 
「…あんた、言ったよね。『あたしの胸むにむにしてみたかった』って」 
「う」 
 見上げる先、変な呻き声を上げて冷や汗を垂らしたそこは、意外と高い。 
 …それも当然だろう。 40、下手すると50cm近い身長差があるんだから。 
「『柔らかそうな身体を、ふにふにとか、ぎゅーぎゅーとか、さわさわしてみたかった』って」 
 座って跨ったこの状態で、ようやくあたしの目線がこいつの肩甲骨ら辺に届く位。 
 キスしようと思ったら、あたしが上向いて背伸びし、こいつが屈んで身を縮めなきゃならない。 
「『そういうやらしい事とか、頭なでなでして、いい子いい子とかしてみたかった』って」 
「あ、いや――」 
 なんかでかいし。腕太いし。首太いし。脚太いし。肩幅なんて完璧あたしの二倍近いし。 
 カロリー計算の為に体重聞いたら、100ちょっとなんてふざけた答え返ってくるし。 
 
「…でも、ね」 
 でも。 
「あんただけじゃないんだかんね、それは」 
「……へ?」 
 本当を言えば。 
「あたしだって……」 
 あたしだって。 
 
──あたしは、変な所で我慢するタイプだ。 
──皆が花道を通ってくお相撲さんの背中をバシバシ叩いてる中で、 
──本当はむちゃくちゃ自分もやりたいのに、『相手に迷惑だろそれ』と我慢するタイプだ。 
──皆がむちゃくちゃ可愛いにゃんこをワー!キャー!と揉みくちゃにしてる中で、 
──本当は自分もめっちゃ撫で撫でしたいのに、『猫が迷惑してるでしょ』と我慢するタイプだ。 
 
「…あのね」 
 でも本当は。 
「あのねっ、」 
 でも本当はっ! 
 
 
 
「……み、耳触ってもいいっ!?」 
 
 ………… 
 
「………………は???」 
 
 
 
 
 
 ──思えば落ちて来て8ヶ月。 
 ファースト・コンタクトという貴重な機会に、失神してその機を逃してしまったのが禍根の発端。 
 そうしてそのせいでこの共同生活、今日までずるずると機会を持ち出せず。 
 ……しかし今この時! 長年の夢は果たされたっ!! 
 
 
 ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに…… 
 
「うわ〜、あったか〜い♪ やわらか〜い♪」 
「…………」 
「しかもふさふさで人肌、リアル犬耳さいこ〜♪」 
「………えと」 
 
 至福の表情で両の犬耳をつまんだり、ひっぱったり、うにうにしたりするあたしに、 
 なんか「え? え?」という感じで、たじたじと圧倒されて硬直するジーク。 
 ふはははははは、イニシアチブ(主導権)取ったどーー!! 
 
「あっ、ちゃんとピクピクぱたぱたするしっ! すっごいすごい、さっすが本物!!」 
 今度はさっきとは逆に、あたしの方が開き直る番であり。 
 ……逆にこいつの方が、気圧される番。 
 
 ……つーか、開き直っちまうとこれすごい楽しいわな、堪んないっつのよ。 
 こんな楽しみをこいつだけに味あわせてやるだなんて、そうは問屋が卸しませんってんだ。 
 弄ばれて、いじられて終わらないのがあたしという人間のド根性。 
 逆にいじり倒して、弄び返してやるもんね、ウッシッシ。 
 
「ああ〜、つーかやっぱ癒されるぅ〜ぅ、癒されるぅ〜ぅ…」 
 幸せに浸って奇声を上げつつ耳ふにふにするあたしを、困ったような、対応に困ってるような、 
 そんな目で見つめてくるこいつの顔が、またたまらなく可愛い。 
 最初は全く表情の読めなかったこの狗頭から、今ではそこまで感情を読み取れるようになり、 
 そうしてその事になんの忌避感も感じてない今の自分が、不思議でいっそ清々しい。 
 
 
 ──でもまだこんなもんじゃない!! 
 
「次っ、尻尾! しっぽ触ってもいいっ!?」 
「うぁっ?!」 
 あたしのきらきらした目に、思いっきしたじろぐこいつ。 
 
「え、あ、いや……い、いいけど…」 
「よっしゃ!!」 
 
 我に返りはしたものの、勢いで頷いてしまったのが運の尽き。 
 次の瞬間には耳から離されたあたしの手が、こいつのお尻に殺到する羽目になった。 
 
 
「わぁ…、太ーい… それにもこもこしてる♪」 
「……っ!」 
 えっちぃ台詞に聞こえるかもしれないけど、実際本当に太くてもこもこしてた。 
 ぎゅっと握るとちゃんと芯に骨が入ってる事も分かり、今更ながら生命の神秘に感動する。 
「こ、こら――」 
 ジークがそう言って慌てたような声をあげると、それに合わせてちゃんと尻尾が動くのだ。 
 赤ん坊がむずがるみたいに、あたしの手の中でばたばた暴れて、抜け出そうと。 
「あははは、結構力すごいね、くねくねばたばた〜」 
 そんな力強さにドキドキして、そうしてこいつの困ってしまった様子が可愛くて。 
 
「そ、そんなにいいもんか? …女ならともかく、男の耳や尻尾なんか触って…」 
 少しでも話題を逸らそうとしつつも、『分かんないな』とでも言いたげにジークが首を傾げる。 
 …そりゃ、分からないだろう。 犬耳や猫耳が比較的一般的な、この世界の住人には。 
「…うん、いいよ…? …だってすごい、すごい可愛いもん」 
 これは良いものだ。 …それも好きな男の子のものともなれば、言う間でもなく。 
 
「だ、だったら言ってくれれば、いつでも触らせてやった――「「バカッ、分かってないなぁ」」 
 なのに分かってない事を言うこいつに、両手を後ろ腰に回しての尻尾にぎにぎの中、 
 あたしは一喝、激を飛ばす。 
 
 
「考えてもみなさいよ? 突然知らない人や、仮にそれが友達からだったとしてもだよ? 
いきなり『耳触らしてください』、『尻尾触らしてください』って言われたら、あんたどうよ?」 
 
 ………… 
 
「……う、…ひ、引くかも……」 
「でしょ!?」 
 それはつまりは、あたしらの世界で言う所の、『耳たぶぷにぷにさせてください』とか、 
 『お尻さわさわさせてください』とか言ったり、あるいは実行したりするようなもんだろってのよ。 
 胸揉んで来たり、いきなり抱きついてくるのと大差ない。 
 友達だったとしてもちょっと引くだろう。見ず知らずの奴だったらあたしなら一発ぶん殴ってる。 
 だから―― 
 
「…だから、あんたにしか出来ないんだよ?」 
「……あ…」 
 
 流石に鈍いこいつでも、言意は取れたようだった。 
 名残惜しさに、その立派な尻尾の付け根から先端へと手を滑らせて、 
 そうして腰から背中へと、回した両手を這わせる。 
「最初にあたしの身体味わって来たのはあんたの方なんだから…」 
 あたしの中に突き刺さったままビクンと痙攣するモノの感触に、きゅっと緊張するお尻の肉。 
 しがみ付いて背後に回した顔に見える、そんな尾、尻、腰、背。 
「……これで、おあいこだよね?」 
「う…」 
 にっこり笑ってやると、困ったようにするその顔も。 
 ……全部可愛い。 
 ……大好きだ。 
 
 太くて力強い尾も。きゅっと引き締まった尻も。太い腰も。筋骨隆々とした背中も。 
 そうしてそれらを覆う、このぬいぐるみの毛みたいな雑巾色の鈍灰色の毛並も。 
「しっかしホント、何食べてどういう訓練したらこんなにでっかくなるの?」 
「いや、おおお、オレっ、一応軍人っていうか、ティンダロスハウンド――」 
 しどろもどろになって見当違いな事を言うこいつを、 
 …こんな凶悪な体格を持つこいつを、可愛いと思うのはおかしいのかも知れないけど。 
 
 …『心』を、『中身』を先に好きになっちゃった以上、 
 こいつの『外側』の何を見ても可愛く見えてしまうのは、まぁ仕方ないというものだろう。 
 
「うわー、腹筋すごいー」 
「ぅ、あ…っ」 
 これまで手と手を触れさすのにも消極的だった分を取り戻すみたく、ぺたぺたといぢくりまくる。 
 マジ洗濯板みたいな腹筋や、そこや右腕を中心に、全身に巻かれた包帯―― 
 ――あたしを守ってした怪我にもどうしようもない愛しさと情欲を感じたけど。 
「…っ、お、お前、ショタコンじゃなかったのか――」 
「……仕方ないじゃん」 
 でも一番あたしが萌えたというか……堪らなく心の中から込み上げてくるものを感じたのは、 
 やっぱりあたしが触る度にぴくぴくする筋肉や、ビクッとなったりする中のモノ。 
「……好きになっちゃったもんは」 
 …そうしてその度に困った声や変な声をあげる、こいつの存在になんだと思う。 
 
 軽々と持ち上げ、またあたしを乗っけてもビクともしない、逞しい腕、逞しい胸、逞しいお腹。 
 …それに胸の高鳴りと興奮、情欲を覚えてしまうという事は、 
 悔しいけど、あたしも女だったって事なんだと思う。 …なんかちょっとムカツクけどね。 
 
 跳ねて、艶も無い、見栄えの悪い事この上ないこの雑巾色の毛も、…でもあたしは大好きだ。 
 親しみも湧くし、落ち着くし、目にも優しいし、……何より、抱かれ心地がすごくいい。 
 この体温、この匂い、このふかふかに包まれてると―― 
 
「……なんか、落ち着くの」 
 広い胸にぎゅっと顔を埋めると、赤ちゃんの頃、遠い昔の何かを思い出しそうになる。 
 あたしを拘束する腕は、力強くて、離さなくて。 
 身体の中は、こいつと、こいつが出した温かいぬるぬるでいっぱいで。 
「じーく……」 
 そうして温かい、もう寂しくない。 
 
 本当は知らない世界、独りぼっちだという事に、ずっと不安で、怖くて。 
 だから本当は汚されても、捕まっても、食べられても。 
 ……でもそれで、ずっと一つだと思えば。 
 
「……大好き」 
 
 …もっとも、でもだからってこいつに負けて主導権取られ、一敗地を期すのはまた悔しいんで、 
 それとこれとはまた別なんだけ―― 
 
 
 
 ──と、思ったところで。 
 
 ふいに乱暴に寝台の上に押し倒された。 
 
「ひゃっ」 
 上に圧し掛かる重たい感触にびっくりして声を上げると、 
 またふいにそれが軽くなって、そうして顔の横に腕が突かれる。 
「あ、あのさ……」 
 いつの間にか真上から見下ろす顔は、おどおどしてるような……欲情しているような。 
 押し付けられた腰は、今にも動き出したくて堪らないとばかりにむずむずしてて。 
 
「……もう一回、シテもいい?」 
「いっ?」 
 
 哀願にも似たそれに。 
 「No」なんて選択肢は、初めから存在していないのが丸分かりで。 
 
 
 
      ※     ※     ※     < 6 >     ※     ※     ※ 
 
 
 
 ──そもそも、絶対的なポテンシャルが違いすぎるのだ。 
 ──あまりにも、違いすぎる。 
 
 
「オオオオオオオオオオ!!!」 
 きゅうっと抱きつかれ、押し付けられた全身、 
 堪えに堪えた限界の叫びを上げて、こいつはあたしのお腹の奥でまた水風船を破裂させる。 
「いやああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 
 びちびちと叩きつけられる迸りの感触からは、逃げようと思っても逃げられない。 
 何度もやられて、分かった事だ。 
 その勢いと激しさに、何度やられても思わず腰を引かそうとしてしまうあたしの腰を、 
 だけどしっかり腿で挟み込んで逃がさないで、そうして一番奥で、出す。 
 …力と体格差。物理的にはそれを退ける力なんてあたしにはなく、為されるがままだ。 
「おっ、おっ、お……」 
 ぶるっ、ぶるっ、と全身を痙攣させながら、そんなケモノじみた嘆息を上げて。 
 腰と腰とを密着させ、抱きしめたあたしの身体ごと仰け反りながら、本当に気持ち良さそうに。 
 ご丁寧にも放出の痙攣に合わせ、めり込んだ先端部でくいくい最奥を押してくる辺り、 
 完全に交尾スタイル、獣の種付けタイムと変わんないっつーのよこのやろう。 
 
「やっ! ひぁっ! やらっ! ふぁっ!? ふぁぁぁんっ!!」 
 そしてぶしゅぶしゅと溢れる暖かい粘液に、だけどそれが気持ちいいのは事実だ。 
 動物みたいに深く、強く、貪欲に犯されて、だけどそれに幸せ感じちゃってるのは事実。 
 ……それが、怖い。 
「ふぁっ、あぁっ……あ、…あ……」 
 『そこ』に熱い迸りを吐き掛けられる度、あたしの中の何かが『女』にされていくのを感じる。 
 白濁が内から外へと溢れ噴き出すのを感じる度に、書き換えられて、汚染されていくのを。 
 こんなに力強く、犯されるの、……植えつけられるの、悦んじゃってる、自分を。 
「………ぅ…ふ………ぁ……」 
 自分をしっかり持たなきゃ、という思いよりも、愛しいという想いの方が強い。 
 息を荒げて、一滴残らず注ぎ込もうと、貪るように求めてくるこいつが……愛しくてダメだ。 
 そうしてそこまでこいつを狂わすことが出来る自分自身が、誇らしくて。 
 ……もっとあげたくなって、もっと可愛がりたくなって、……もっと犯されたくなって。 
 
 
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハ……」 
 それでもぐったりと緊張が解けて、荒い息を吐きながら四肢が弛緩した……と思ったら。 
 
「…や……ちょ、」 
 へこへこ、ぐちゅぐちゅと動かされる腰。 
「ちょっと、やっ、ちょっと」 
 ぎゅむぎゅむと飽きもせずに揉まれる胸。 
「まだやる――ぁんんッ」 
 ぐいぐい押し付けられるけむくじゃらの腰に、充血した肉芽が擦れる。 
 
 二度目はじゃれ合っている内に。 
 三度目はそんなに掛からず、余韻を確かめ合っている内に。 
 四度目はすぐさま、ほとんど間を置かず…… 
 ……そして現在五度目は、即行で。 
 
「ちょ……もっ…やだぁっ…」 
 もう疲れて、へとへとで、意識は夢と現実の狭間、あそこの感覚もあんまないのに。 
 …なのにまた気持ち良くなってきて、止まらなくなってしまうのが怖い。 
 
 
 そして、それは── 
「…だっ、だって!」 
 ──こいつの方も同じみたいだった。 
「だっておかしいんだよ、オレぇっ!」 
 
 側位で。 
 背中側から取り付くように抱きつかれ、犯されて。 
 優しく抱き抱えて頭を撫ぜたり、時折軽く甘噛みしてじゃれついてくる腰から上と違って、 
 まるで駄々を捏ねる子供みたく小刻みに動かされる腰だけが、別の生き物みたいだった。 
 
「こんなに…、…こんなにいっぱい出したのにっ」 
 ぐちゅっ ぐちゅっ と、べとべとになった腰が、グラインドされる度に淫靡な音を立て。 
 快楽に溺れていると同時に、怯えているような声。 
「タマん中の底ん所にに、何か残ってるみたいでむずむずして、気持ち悪くて! 
先っちょの、竿のところも、なんかすごいむずむずしてっ!!」 
 サル(…という表現は適切ではないかもしれないが)みたく腰を動かしながら、 
 でもその声は、初めて自慰する事を覚えた思春期の子供みたく。 
「…出し、たい……」 
 半分だけ圧し掛かった重たい身体が、欲望にぴくんと震えるのが分かる。 
「…出しちゃいたいんだよっ、全部全部っ!」 
 叫んで、ぐるんとひっくり返されて、体を擦りつけて来て。 
 気が付けばあたしは仰向けで向かい合う形……圧し掛かられるみたいな感じになってた。 
 
 擦り寄るみたくに上から圧し掛かられる、大きな身体が重たい。 
 二人の間にあたしの乳房が押し潰されて、乳首がこいつの広い胸に擦れる。 
 
 ……でも。 
 別に、ただ出したい、吐き出してしまいたいだけなら、何もあたしの身体を使わなくても、と。 
 身体の奥に、『不穏な異変』を感じ始めたあたしが、思わずそう思って。 
「だ、だったらっ、一人でっ──「「違うっ!!」」 
 言った言葉が、否定され。 
 腰の動きはそのままに、優しく抱きしめられた身体に。 
 
 
「……お前の中に、出したいの」 
 はぁっ、と悦楽に吐かれた溜め息。…耳元に囁かれた、どこか妖しい言葉。 
 こいつがいつの間にか、泣き笑いの表情になっている事に気がついた。 
 
 
「いい…匂い…」 
 二度、三度と、回数を重ねるごとに。 
 耽溺するほどに、こいつが段々おかしくなって来てたのは分かるけど。 
「この耳も…」 
 例え陶然とする声が少しおかしくても。 
 そう言って指を走らせるこいつは、けれど決して耳フェチとかではない。 
「この髪も…」 
 傍目にも愛しさに満ち溢れ過ぎて、…少し常軌を逸してるようにその声色が聞こえても。 
 それでもあたしの髪を口に含むこいつは、だけど決して髪フェチとかではない。 
「この指も…」 
 例えその普段は穏やかな瞳の緑が、いつの間にか妖しく輝いていても。 
 腕をそっと持ち上げて、そこに頬擦りするこいつは、もちろん指先フェチとかでもない。 
 
「全部、全部、…全部、オレの……」 
 
 耳も、髪も、指も。 …ただ、全部の一部なだけ。 
 …『食べられる』という単語が、ふいにまざまざと脳裏に浮かぶ。 
 
 
「……だから、やだったんだ」 
 泣き笑いのような表情で、あたしをしっかりと抱きすくめながら。 
「こうなるの、分かってたから。 …だから、やだった」 
 お尻に、腰に、背中にと走る手は、いやらしくも何かを渇望し求めるようで。 
「だから落下物研究所に、送ってやろうと思ってたのに…」 
 吐露される気持ちに。 
 初めてあたしは、こいつの心の底にあった想いに触れた。 
「…でも、もう遅いよ」 
 狂ってもいないし、異常でもない。 
「もう、帰してやんない」 
 ただ、すごい欲張りなだけだ。 
「元の世界に帰る方法分かっても、帰してなんかやんない!」 
 すごい我がままで、…だけどすごい優しいだけ。 
「…お前は、ずっとここに居るんだよ…?」 
 泣いたような、笑ったような表情で。 
 苦しみながらも、楽しくてたまらないというこのあたしも良く知った表情を、 
 だから言葉に反して、そんなに怖いとは思わなかった。 
 
「な…んで…?」 
 むしろ、どうして『あたしなのか』という事の方が分からなかった。 
「どうして…あたしなんか…」 
 ここまで、強く、激しく求められて。 
 …でもどうして『あたしなんか』を、こいつはここまで求めるのだろうか。 
 
 あたしなんかよりもっと良いのがいっぱい居るのにと。 
「あたしなんかよりも…ずっと――「「分かってない!」」 
 だけどそう言った言葉も、子供の癇癪みたいな怒った声に遮られた。 
「…分かってないよ、お前…」 
 それにビクッとしたあたしの身体を、けれど宥めるようにいとおしげに撫で回す手。 
 ぐちゅぐちゅと別の生き物みたいに動く腰は、深くねっとりとしているけど優しくて。 
(…あ……) 
 『不穏な異変』を、また確かに。 
 破瓜の痛みと、それに続く鈍痛、痺れ、鈍磨に、麻酔されたみたく無感覚だったそこに。 
 何かが擦れていくのを感じるだけで無感覚だったそこに、何か別なものを。 
 
「お前の心、すごい綺麗なんだよ?」 
 それを知ってか知らずか、こいつは無理矢理顔に笑顔を浮かべて、身体を擦りつけて来る。 
「表に薄ーく膜があって、だからパッと見、冷たくて固く見えるけどさ。 
…でもそれ一枚めくると、すごい温かくて面白いんだよ?」 
 そんなあたしの心が自分にはどう見えるかを楽しそうに説かれて。 
 …正直いまいちピンと来なかったけど、 
 ──ああ、だけど、『面白い』ってのはちょっと傷ついたかな? 
 
 
「お前、自分に嘘つけないタイプだろ」 
「う……」 
 そんな事無いと言おうとして、でも思い当たる節がないわけじゃないのに気がつく。 
「皆にいいよって言われても、でも自分が許せないと、結局できないタイプだろ」 
「ぐ……」 
 結構身に覚えがないわけじゃない事を言われて呻くあたしを、 
 こいつは涙目で笑って、頭を撫でてきて。 
「ぶきっちょだね。…不器用で、頭良さそうに見えてバカで」 
 バカにしている割には口調はいとおしげで。 
「心の中はすごい温かいのに、でもそれ認めないで、わざと嫌われるような行動とか取って」 
 褒められてるんだか、貶されてるんだが、正直分からない言葉。 
 夢見心地のような目で、あたしを抱きしめて撫でてくる腕は、壊れ物を扱うようで。 
「結局皆、外側しか見ないんだから、意味無いのに、でも……」 
 なんだとコラ、とか、冗談で済ませられるような。 
 …笑い飛ばせるような雰囲気じゃ、なかった。 
 
「……でも、だから、すごく綺麗だ」 
 
 狂おしい程の何かを秘めたその言葉に。 
 泣いて笑いながら抱きしめて来るこいつに抗う術なんか、今のあたしには無い。 
 
「お前の心の中、嘘があるけど嘘がないよ」 
 そう言って、お尻から腰のくびれを通って背中まで撫で上げられながら、 
 幼子にいい子いい子するみたいに、頭を撫でられるのが好きだから。 
「…お前、心で嘘つくの、下手っぴだから」 
「あぅ…」 
 笑って言われたそんな言葉にムッとするものが無いわけじゃないけど。 
 …でもそのムッとするもの、このくすぐったさ、本当は嫌いじゃない。 
「怒ってる時にも、泣いてる時にも、嫌がってる時にも、でも同じ暖かいものがあってさ」 
 そうして、恥ずかしい。 
 
 ──そうなんだよ、怒ってる時でも、叱ってる時でも、泣いてる時でも、嫌がってる時でも。 
 あたしこいつの事が、好きで好きで、可愛くて可愛くて堪らない。 
 色ボケなのは、どっちだろう? 
 そう思って、そうしてそれ全てが全部こいつには手に取るように分かってしまうんだと、 
 今更のように改めて思い知らされて、…そうしてそれが、すごい恥ずかしくなった。 
 
「すごい綺麗で、すごいいい匂いしてて、すごいきらきらで、だから――」 
 この、常時人のパンツの中に鼻突っ込んで、フンフンされてるような恥ずかしい状態に。 
 …こいつに見られて侵されて、隠すものもなく赤裸々にされているという事実に、 
 だけど異常に興奮して、ぞくぞく息を荒げてしまうあたしは、…やっぱ淫乱なのかもしんなくて。 
 
 
「――だから、すごい、壊してやりたくなる」 
 
 
 だから、ぞっとするようなその言葉。 
 緑の瞳に宿る、妖しい光。 
 狂おしいほどの愛しさの中に混じった、しかし飢えて乾いて仕方ないもの。 
 …求めてやまない心。 
 
 でもそれは『狂気』なんかじゃなくて、そうしてあたしも……こいつと『おあいこ』だろう。 
 
 
 とても昏い、『ひと』のこころの奥底にある、ぐつぐつ、どろどろと渦巻く衝動。 
 何もかも壊して、捻曲げて、ダメにして、汚して。 
 …そうして独占してしまいたいというその黒く身勝手な欲望、凶暴な衝動を、 
 だけど抑え切れなくなる事が『狂気』だと言うのなら。 
 
 ……だったら世界には、隠れた狂人ばかりがいる事になってしまう。 
 
 それは、凄く哀しいものだ。 
 …小さな男の子が、だけど好きな女の子の事をいじめて、泣かせてしまうように。 
 …周りの皆は上手く作れるのに、だけど自分一人だけが何度やっても上手く作れない子が、 
 終いには癇癪を起こしてそれを叩きつけて、だけど泣き出してしまうように。 
 ……とても哀しい、ものだと思う。 
 
 
「……ずるいんだよ、オレが汚いのに、お前ばっかり、こんなきれいで」 
 目尻から水を伝わせながら、あたしの事をぎゅっと抱きしめて来るこいつに。 
 だけど『そんな事ないよ、お前だってきれいだよ』と、言えるものなら言ってやりたかった。 
「すごい、すごい、ぐちゃぐちゃのずるずるに、汚してやりたくなる」 
 自虐の快感、胸の中のどろどろを吐き出す事への快感に泣き笑いを浮かべるこいつに。 
 だけどあたしだって、形こそ違えど同じものが自分の胸の中にある事を知っている。 
「お前はこんなに真っ白で」 
 涙を含んで湿った頬の下、きゅうっと抱きついてこすり付けてくるこいつは。 
「……オレはこんなに、真っ黒なのにね」 
 とても綺麗で、汚いのに綺麗で、黒いのに白くて、…そうしてとても可哀想だ。 
 
「……ね?」 
 そうして、聞いてくる声。 
「…マルコ・サイアスや、ディンスレイフが、お前の目をどういう目で見てたか知ってる?」 
 不意に問いかけられた唐突な質問に、『え?』と聞き返そうとして。 
「…あっ?!」 
 だけどずちゅっと突かれた秘奥に、短いけど大きな声が洩れた。 
 
「…オレ、それが嫌だった」 
 それだけでは意味を計りかねる、端的な言葉。 
「あっ! はあっ!?」 
 ぐちっ、ぐちっと音が立つのにも構わず、ぐいっ、ぐいっと押し付けられる腰。 
 ……なんかじんじん、ぴりぴりして。 
「お前の、目の奥の。 …オレだけが、それを知ってたのにさ」 
 そうして心の匂いが分からない、あたしにでも分かった。 
「でもあいつらも、お前がすごい綺麗でいい匂いの生き物だって気がついたんだ」 
 その想いの強さ。…怖いくらいの想いの強さ。 
 
「それが、すごいムカついた!!」 
「あっ、あうっ」 
 叫んだ声と一緒に、ぐっとと片足を持ち上げられて、押し広げられた。 
 圧し掛かっていた重みが離れて、相手の体温が消えて。 
「しかもあいつら、お前の事壊そうとして!」 
「あぐっ、あっ……」 
 玩具みたいに掴まれて広げられた片足。 
 秘所だけが繋がった乱暴な体勢。 
「オレが一番最初に見つけたのに、オレがずっと大切にしてきたのに!」 
「あっ! あんっ!? …ひんっ!!」 
 帆みたいに立てられた脚を、レバーみたいにぐいぐい動かして。 
 度重なる絶頂と2人分の淫液で、ずるずるになってしまったそこはびちゃびちゃと音を立て。 
 初めての荒々しい突きこみと、ごつごつと突かれる最深部に、痛いはずなのに。 
 …でもその痛みの中に、どういうわけか甘い痺れが。 
「オレの! オレのっ! オレのなんだっ、オレのなんだよっ!!」 
「ひっ!? ひぁっ! ひぁん! ぁんっ!」 
 泣きながら、荒々しいまでの感情の迸り、乱暴な抽送。 
 凶暴で乱暴な、原始的な感情を浴びせられるのが、だけどなんでだか気持ちよくて。 
 その求め、そこまで必要とされ、求められているんだという事実が、痛みの中にも嬉しくて。 
 
 …そして確かに、ごりごりと膣壁を擦るそれや、ずんずんと最奥を突くそれには、 
 痛みだけじゃない何かが混じり。 
 
「オレが壊したくて、でも壊せなくて! なのに横取りして、壊そうとしてさ!」 
「あんっ! あんっ! あっ! あっ」 
 ぱんぱんと叩きつけられる恥骨に、たっぷり濡れて、あるいはたっぷり吸ったその部分が 
 ぶつかり合う度、じゅぱっ、じゅぱっ、びちっ、びちっと、液体が飛び散り泡立つ音が聞こえて。 
「オレが壊すんだ! オレが壊す、お前の事汚して、壊してっ、滅茶苦茶にしてっ!!」 
 ──受け止めてあげなきゃ、と。 
 快楽に歪む頭で、それでもそう思った時。 
 
 ──ぱたん、とそれが止んだ。 
 
 
 
 唐突に止んだその激しい責めに、えっ?と思う間もなく。 
 
 気がつけばふくらはぎに伝わる、暖かい液体の感触。 
「……うそ、だったんだ」 
 辛うじて首だけ傾け、顔を上げたあたしの目に映ったのは。 
 嗚咽も無く、閉じた目から涙を流しながら、あたしのふくらはぎに顔を摺り寄せるこいつの姿。 
「あ…っ」 
 きゅっ…っと、まるでその奥に逃げ込もうとするように。 
 めり込んだその先端を、だけどぐりっと押し込まれたそれに、変な甘い疼きが走った。 
 
「『ちつじょ』とか、『せいぎ』とか、『まもる』とか、…全部『うそ』だった」 
 それまでの乱暴さが嘘みたいに、素直にぱたんと足を降ろし。 
 謝らなくてもいい事を謝って。 
 ぐっと抱き上げた身体にしがみ付いてくるこいつは、仔犬みたいに可愛くて。 
「はっ! んぁっ!」 
 それでもくっ、くっと『そこ』を、むずがる子供みたいに『そこ』を押してくるこいつに。 
 ……『その奥』に逃げ込みたがってるんだなと分かるこいつに、 
 …なんだろう、この甘さ、心も身体も満たす上手くいえない『何か』は。 
 
「ただ、オレ、お前のこと、取られたくなかった、だけだった」 
 くち、くち、と押し付けてくる腰は、いやらしくて、貪欲で、可愛くて、バカ正直で。 
「自分で壊したかった、だけだったんだ……」 
 …そうしてあたしの母性本能を刺激して、心を捉えて離さなくて。 
 …放ってなんか、おけるわけがなく。 
 
 
「壊したいんだ……」 
 ──こいつが、可哀想だった。 
「……もう皆で仲良く半分こだなんて、イヤだ」 
 ──…ううん、可哀想に思っただけでなく、それもまた強く願った。 
「…『オレだけの』が、欲しい」 
 誰よりも、何よりも強く、こいつの事を満たし癒してあげたいと。 
 『あたしだけ』がこいつの飢えと渇きを満たしてやれて、慰み物になってやれるのだと。 
 
 
「……ね? …オレの召使いになってよ……」 
 
 ──ティンダロスは、とても執拗で貪欲な魔物であるらしい── 
 濡れた、その今ではどこか妖しい緑色の瞳に、そんなおとぎ話の一節を思い出す。 
 
 誰もいない暗い世界で、極限まで飢えて乾いたこの猟犬達は。 
 だから一度目を合わせてしまった、彼らの前に現れてしまった獲物を決して逃がさない。 
 相手がどこに逃げても、どこに隠れても、地の果てまでだろうと追いかけて探し出し。 
 そうして相手に喰らいついて、骨の髄までむしゃぶり尽くす。 
 心を覗いてその精神と魂を喰らい。 
 あらゆる秘匿と壁を越えてくる彼らを相手にしては、どこに隠れても意味はない。 
 その執念と執着は、ストーカーの代名詞と言われるまでに執拗であって。 
 …そうしてだから、誰もティンダロスからは逃げられないのだと。 
 
「形だけじゃなくてね、本当のオレのヒト召使いに」 
 …そんなおとぎ話さながらの自分の運命を、こいつのその言葉の先に感じ取りながら。 
「首輪もちゃんと買ってあげるから。登録もちゃんとしてあげる」 
 でもあたしは、そんなティンダロスの事が可哀想だと思った。 
「毎日美味しい物食べさせてあげて、欲しい物買ってあげて、悪い奴から守ってあげるから…」 
 暗い世界で、今までずっと独りぼっちで、飢えて満たされなくて。 
「…だから毎日ご飯作って、お掃除に洗濯、一緒に話し相手、遊び相手になってくれて……」 
 そうしてそんなになるまで、求めて、求めて、求めて仕方なかったこいつの事を。 
 
「……そうしていっぱい、気持ちいい事しよう?」 
 
 
 可哀想だと。 
 別に食べられてもいいや、と。 
 
「……ずっと、一緒?」 
 こいつならきっと優しく食べてくれるだろうと。 
 
 
「うん、ずっと一緒!」 
 嬉しそうに笑うこいつを見てると、何の疑いの余地もなくそう信じられる。 
「一人で、王都に――……お別れ、しなくてもいい?」 
 それでこいつのお腹が少し膨れるのなら、あたしぐらい幾らでも食べさせてあげたいと。 
「させるもんか! …ううん、むしろ……」 
 そう思うくらいに、こいつは。 
 
「……居なくなっちゃったり、しないよな?」 
 誰からも貰ったことがないんだというのが分かる、その子供の様な甘え。 
 誰もこいつに何もあげて来なかったんだというのが分かる、この強烈な求め方。 
「……ずっと一緒に、居てくれるよな?」 
 《剣》として、《兵器》として、《化け物》として、それを当然に全てを叩き込まれて育てられ。 
 …とても不安定で、大人なんだか子供なんだかよく分からない精神。 
 
 『劣情』と、『甘え』と、『独占欲』。 
 求められるのは『女』としてであり、『母親』としてであり、『自分だけの物』としてでもある。 
 …それにどこまで答えられるのかは、分からないけれども。 
 
 
「…うん、……行かないよ」 
 きゅっきゅっと、そこを押されるのを気持ちいいと感じながら。 
「どこにも、行かない」 
 胸を弄ばれつつ、あたしは黙ってこいつの手を握る。 
「……ご主人様」 
 ……食べられる為にだ。 
 
 
 
 『ご主人様』と言ったところで、またキスされた。 
 …キスと言っても、例のぱっくりくわえ込んでのスーパーディープな口姦なんだけど、 
 今度は違和感無く、求められるがままに舌を差し出して唾液を啜った。 
(あ……きも…ち…いい……) 
 口の中を隅々まで犯されながら、だけどぐち、ぐち、と小刻みに最奥も押される。 
 上と下とを同時に犯されて。 
(…あそこと…のーみそ……とけちゃう…) 
 『食べられよう』と思えば、もう最後に残っていた忌避感も消えた。 
 だって『壊されてあげる』ためには、あたしが『壊れなければいけない』のだから。 
 ……体の奥が、内側から溶かされるみたいに、あっつい。 
 
「はは……」 
 息継ぎの為に口を離して、こいつも壊れたように笑った。 
 …どうやら向こうも、もう本気でブレーキ利かないところまで行ってしまったらしい。 
 …目の色が怖いけど、…すごい素敵だ。 
「……じゃあ、いっぱい気持ちよくしてあげるね」 
 そうしてまた、休む暇もなく唇を奪われる。 
 
 …奪われながら。 
「…オレが、いっぱい、汚してあげる」 
 ――…実際は『ほへが、いっぱい、よごひへあげう』だったけど、 
 でも口付けされたあたしの耳には、ちゃんと何を言ってるのか聞こえる物。 
 そうやって話す暇もないとばかりに、キスされながら語られて。 
「気持ちいい事無しじゃ、生きていけなくなっちゃうくらい」 
 ぐちゅぐちゅと、二箇所からそんな水音がした。 
 一つは合わされて絡められた舌から。…もう一つはずちゅずちゅと動かされる腰から。 
「オレの身体無しじゃ、生きていけなくなっちゃうくらい」 
 合わされた手に、唾液が溢れ出るのにも関わらず喋りながら絡め合わされる舌と、 
 そうしてまたそこだけ、別の生き物であるかみたくにぱん、ぱんと腰が動く。 
 
 …それが、変だった。 
 気持ちいい箇所は、大きく分けて四箇所。 
 一つ目はざらざらの舌でたっぷりとすりすりされている口内と舌。 
 二つ目はこいつの毛むくじゃらの胸に潰されて転がされ、きゅんきゅんいってる乳首。 
 三つ目は同じくそれに擦られてちくちくさりさり気持ちいい入り口の上の肉芽で、 
 ……そうしてあとの一箇所は。 
 
 
「…オレしか、見えないようにね」 
 
 やがて顔を上げて大きく息をし、口の端を拭いながらにやりと笑って言ったその表情は、 
 精悍というか、不敵というか。 
 …およそ、いつものこいつらしくない表情をする目の前のこいつは、 
 『《剣》の方』のこいつなのか、『あたしが良く知る方』のこいつなのか。 
 『大人』のこいつなのか、『子供』のこいつなのか。 
 ……それとも、二つの混ざった?? 
 
「…好き」 
 そうして脚を持ち上げられて、肩に乗せられて。 
「…好きだよ」 
「ひんっ!」 
 ずちゅんっ、と思いっきり腰を突き出されて奥を突かれて。 
「ひっ? はっ、はぁッ! うぁっ、うああっ!」 
 ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ、と。 
「…食べちゃいたいくらい、好きだ」 
 ねっとりと降りてくるそんな声も、聞こえないくらい激しく。 
 
 
 ──変な感じだった。 
 
「ふぁんっ、ふぁんっ、ふぁっ」 
 …さっきまで何も感じなかったのが、なんか、段々。 
 ずぱんっ、ずぱんっ、と音を抑えようともしない腰の動きに大きな音が立って。 
「っ、ひっ、ひゅっ、うぅんっ」 
 出し入れされて、そして時々ぐいっと深くまで差し込まれてねじられる度に。 
 擦れて潰される肉芽だけじゃなくて、『中』も気持ち良くて。 
 
「あっ、ふっ、ふぅっ、…んんっ」 
 溢れるくらい一杯出されたこいつのせーえきが、 
 ローション代わりっぽくなってたせいで、なんかもう全然痛くはなかったんだけどね。 
「んくっ、んくぅっ」 
 そんな中をぐちゅぐちゅごりごりってね。 
 壁にぬるぬるしながらこすれるのが、なんかぴりぴり、じんじんして、気持ちよくて。 
 
「ぅっ、うふぁっ、ゃぁあっ」 
 ごつっ、って当たって、くいくいっ、って そこ 押されたり。 
 当たったまんまで、ぐるっ、ってねじられて、かべ ぜんぶ ごりごり って なりながら、 
 こいつの毛で クリトリスが こすられるのが きもちいいの。 
 
「やぁっ、やぁんっ、やあぁぁっ」 
 じーくも、いき、はっ はっ って、あらくてね。 
 かたに あたしのあしくび のっけて、ふともも ぐいぐいってつかんで、 
「あっ…あ、…あ、…あっ」 
 ぐぴゅっ ってぬいて、ずぴゅっ ってさすたびに、やらしいべとべと びちゃびちゃ とびちって。 
 「っ」「あっ」「ぐっ」って いいながら、ふっきん びくっ、びくっ、って、すごいえっちくて。 
 
「あっ、あ、うぁっ、あっ!」 
 ……なんか、あつくて。 
 あそこがすごい、あつくて、あつくて、あつくて、あつくて。 
「あっ! あっ! あっ! あっ!!」 
 ごりごり って されると、すごいびりびり って なって、あそこがきゅぅきゅぅして。 
 
「あっ、で、出るっ──」 
 
 あっ、だめ、いま だされちゃったら── 
 
 
 かくん、と静止の為に振った手はむなしく宙を掻いて。 
 ぐっと脚を掴まれて押し付け捻じ込まれた剛直に、 
 持ち上げられたお尻から脚の付け根の裏にかけてと、同じく体毛に覆われた腰とが密着し。 
「あ……」 
 ぐにっと最奥、一番いい所に重くて質量のある先端の肉塊がめり込んだ感触。 
 触れ合うお尻と腰に、あいてのふかふかとした暖かさを感じた時。 
「うあっ」 
 硬く緊張していたのが、びくっと一際大きく痙攣した太腿筋から腹筋にかけて。 
 密着した子宮口の鈴口の狭間で、 びぢゅっ、と。 
 
「ひぁっ、あつ――」 
 すでにねとねとで満杯の秘裂、すぐにぶしゅっ、っと溢れるもの。 
 叫んで、跳ね上がりそうになる腰を、ぎゅっと押さえられる。 
「あつっ、熱いっ」 
 そうしてその痙攣を楽しむかのように。 
 びくん、びくんという根元の痙攣に合わせて、くいっ、くいっと押し込まれるもの。 
 その度にリズミカルに溢れ噴き出したものが、すでにべとべとな相手の精嚢や陰毛に 
 絡まって滑り落ち、また太腿や下腹部に飛んで、そこの毛にねっとりと絡まった。 
「あつい、あついぃ! あついよぉっ!」 
 そうしてまるでお漏らししてしまったみたく、 
 何か熱い……だけどおしっこなんかよりもっと粘度の高い物が、痙攣の度にじわっ、じわっ、と 
 くっついた二人の下腹部の間に広がってく感触。 
 うんとちっちゃい頃、パンツの中に広がっていったのと寸分違わないそれは、 
 やっぱりうろ覚えのあの時と同じ、得体の知れない、癖になりそうなヤバい快感をもたらし。 
「やぁっ、あつっ! …あっ、や、…――はあぁぁんっ!!」 
 引き攣った体。 
 むっとする性臭に混じって、きゅっとしがみ付いた体の汗の匂い。 
 粘度の高さから噴き出るほどまで至らなかったものは、 
 ごびゅっ、ごびゅっ、っと溢れては膣口の周囲や会陰部を濡らし、 
 垂れてシーツにぼとぼとと溜まりを作り。 
 じーんとなった頭にも分かるそれと、ハッ、ハッっという荒い呼吸。 
 もたれかかってくる毛むくじゃら身体の、その重さ。 
 
 当然、そんな迸りに耐え切れず達してしまったあたし。 
 真っ白になった頭ではぁはぁと、まだぴくっ、ぴくっ、っと放出を続けているそれを感じながら。 
 
 ──だけどこの時点ですでに、おかしいと考えるべきだったのだ。 
 
 
 

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