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「……ち、ちょっと杏、大変だよ!!」
湿っぽい倉の中で男の子たちと消耗品の備蓄を調べていると、汀(みぎわ)があたふたと飛び込んできた。彼女も私と同じ十二歳だが、大人たちのいない長い『猟期』の間、最年長の私たちは責任ある村の世話役だ。
珍しく慌てた様子の汀は怪訝そうな男子たちの眼差しになぜか顔を赤らめて口ごもったが、すぐにいつもの迫力で彼らをキッと睨み返し、私の袖を掴んで倉の外へと引っ張り出した。
腕っ節が強く、口下手だけど心根の優しい私の親友。彼女は今週いっぱい小さな子供たちの監督に当たっていた筈だが、また迷子か……それとも派手な喧嘩か。いずれにせよ良い知らせとは思えない。
「どうしたの? 誰か怪我したんなら……」
「違うのよ杏、沙耶がほら、桟橋の近くで例の……」
妙に回りくどい汀の話によると、また作業を怠けて遊んでいた十歳組の沙耶が、あろうことか丸出しのお尻でノヅチの樹に跨がってしまったらしい。
村はずれの沼地に生えるノズチはつまらない灌木なのだが、皮膚に触れると独特の炎症を引き起こす。
昨日の午後に髪を切ってやったときも悪戯な沙耶には散々手を焼かされたものだが、さすがの彼女も今頃は規律違反の恐ろしさを身に染みて悟ったことだろう。
「……でもなんでまた、その……丸出し?」
「『斑猫姫』ごっこだって。まったく、あんないやらしい絵本は早いとこ処分しなきゃね……」
先日立ち寄った隊商からタダ同然で大量に引き取った古書の一冊らしい。久しぶりに新しい本が沢山読める嬉しさに、ろくに内容も調べず図書庫に収めてしまった私の失敗だ。
思えば沙耶たちももう十歳、そろそろちゃんとした性教育を施そうと最年長の女子で相談していた矢先だった。
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「……ひいぃ……痛いよ杏ちゃん!! 痛いよぅ……」
顔を見合わせ複雑な溜め息をついた私と汀が急いで桟橋まで走ると、べったり地面に座り込んだ沙耶が右往左往する遊び仲間に囲まれワァワァと泣き喚いていた。
目に見えぬくらい細かな毒性の絨毛が、敏感な粘膜部分をじわじわと刺激しているのだ。大人の肌でも耐えがたい痒みが数日続くというのに、まだ柔らかいお尻を直接幹に擦りつけたのだからたまらない。
「ねえ杏ちゃん、沙耶ちゃん毒で死んじゃうの!?」
怯え騒ぐ周囲を宥めながら沙耶の内股を開かせ、むっちりと閉じた女の子の部分を調べてみると、鰭のように薄い襞の隙から敏感な部分が、明らかに尋常ではない大きさでぷっくり覗いている。
陰核、クリトリス。擦り切れた医学事典によれば『繊細な神経が集中している女性器の小さな突起』。斑猫姫ごっこがどんな遊びかは知らないが、よりによって女の子の一番大変な場所だ。
「……みんな落ち着きなさい。誰か機械庫に行って噴水器を取ってきて。それから……」
最も適切な処置は強い流水で刺さった絨毛をしっかり洗い流し、腫れを鎮める軟膏を塗っておくことだが、赤黒い藻の漂うこの時期の沼水はちょっと洗浄には使えない。
用途を知れば係の男子は顔をしかめるだろうがずっと節約してきた濾過水と、村に一台だけある足踏み噴水器を使うことにした。
『無医村』など当たり前の言葉となって久しい、私たちの生きるこの絶電の世紀。受け継いだ知恵と素早い機転、そして自ら積み重ねた経験だけが自分と仲間の命を守ってくれる。
長い長い猟期を死と隣り合わせで過ごす大人たちに比べれば、この程度の災難はなんでもない。
「……ありゃりゃ、こりゃ大変ね。何を手伝いましょうか?」
ようやく噴水器が到着した頃、騒ぎを聞きつけたらしく桟橋に現れたのはこれまた私と同い年の一葉。生まれつき片足が不自由なのだが、裁縫や編み物の技術では大人でも右に出る者がいない名人だ。
何人か年下の女子を従えているのは、今日は日和がよいので外で刺繍でも教えていたのだろう。
「じゃ、一葉は沙耶の服を脱がせるの手伝ってくれる? それから汀は沙耶をその……後ろから『くぱっ』て感じで……」
「ん」
小さい女の子の太腿を抱え上げ、おしっこをさせるときの要領だ。汀には申し訳ないが、そうでもしないと半狂乱でもがく沙耶が大人しく脚を開いていられる訳がない。
「やだやだああっ!! 怖いっ!!」
「沙耶、言うことを聞きなさい!! すぐ楽になるから……」
三人で暴れる沙耶を丸裸にしていると、何やら騒がしく囃したてる声がした。見ると淫靡な雰囲気を敏感に嗅ぎつけた男子たちが何人か、遠巻きにこちらの様子を眺めている。
「こらあっ!! 男の子はこっち来ちゃ駄目っ!!」
短く跳ねた髪と褐色に灼けた肌は沙耶をまだ少年のように見せてはいるが、やんちゃな彼女の身体もこのところ急速に女らしい丸みを帯びてきている。本人は恥ずかしがるどころではないにせよ、こんな姿を男子に晒すのはいろんな点で非常に好ましくない。
「……ははぁん、また『ショチョー』ってやつだろ!? でもなんで噴水器……」
「関係ないっ!! あんたたちには関係ないのっ!!」
桟橋に大勢集まった女子が、慣れぬ手つきで大事な噴水器を引っ張り回しているのだから男子の詮索は当然だが、すぐ一葉について来た三人組が容赦ない投石で、彼らが近寄れないように弾幕を張ってくれた。
ついでに小さな女の子たちも無理やり男子に押し付けて村に帰す。やんちゃで手のつけられない沙耶だが、常にその屈託ない明るさで幼い子の寂しさを紛らわせてくれる人気者なのだ。
親たちが戻るまで、小さい子たちには少しでも不安な思いをさせたくはない。
「それから一葉、沙耶に猿轡もしておいて。暴れて舌噛むと大変だから」
「わああっ、お母さんっ!! 助け……」
噴水器の準備が整うと、汀の逞しい腕が抱え上げた沙耶の両脚をグイ、とこじ開ける。女の子の尊厳に関わるみっともない姿だが、手っ取り早く絨毛を洗い流さなければ猛烈な疼痛はいつまでも続くのだ。
僅かの間にまだツルリとした彼女のあそこはさらにぱっくりと腫れ上がり、捲れた襞の間では限界まで尖った肉の芽が、荒い呼吸に合わせてひくひくと上下していた。
同性とはいえ、自分のですら普段あまり目にする機会のない部分、なんとも言葉に出来ぬ奇妙な感覚が湧き上がる。
「沙耶、ちょっと辛いけどしばらく辛抱しなさい。もうお姉ちゃんでしょ?」
「むぐ……ふ……」
慎重に栓を開き水圧を調整してから、筒先から鋭く噴き出す水流を沙耶のあそこに向ける。冷たい水がまだ薄い襞を圧し広げると、はちきれそうに紅く膨らんだ陰核は激しい迸りに叩かれてなお抵抗するようにプルプルと震えた。
「んぐふううっ!!」
硬直する沙耶の小さな身体。桜色の膣口がまるで悲鳴を上げるようにきゅっと収縮し、爪先がバタバタと宙を掻く。
訳あってこの荒療治の効果には自信はあるのだが、知らぬ人の目には酷い拷問とすら映る一幕だろう。もはや観念したように汀に背中を預けた沙耶は、ぼんやりと焦点すら定まらぬ眼を見開き、大粒の涙を流し続けた。
◆
「んふ……ん……」
「よし、だいたい洗い流せたかな……」
濾過水をほぼ一樽使い切る頃には、沙耶の呻きはかなり穏やかな調子に変わっていた。彼女の悪友たちは恐怖におののき、涙目で自分の股間をしっかりと押さえながら私たちに畏敬の眼差しを注いでいる。
しかし……私と最年長の二人、汀と一葉だけは今、沙耶の身体を襲っているものが苦痛だけではないことをよく知っていた。頬を紅く染め、複雑に潤んだ視線をちらちらと私に注いでいる二人の幼馴染み。
そう、忘れもしない三年前のある日、彼女たちの前で沙耶と全く同じ、いやそれ以上の恥ずかしい姿を晒したのは他ならぬこの私なのだから……
思えばあの頃の私は、家柄を鼻にかけた生意気で扱いにくい子供だった。猟期になると構ってくれる大人たちも村におらず、よく些細なことでへそを曲げては勝手な行動をとったものだ。
あのとき独りぼっちでノヅチの樹によじ登ったのも洗濯の最中に誰かとつまらない喧嘩をして逃げ出し、ずぶ濡れにされた衣服を乾かす為だったと思う。
結局下着まで全部脱いで不恰好な枝に干してゆくたび、キラキラと辺りに舞い上がったノズチの絨毛。
寂しく膝を抱え、霞む沼地をぼんやり眺めていた私がふと下腹から這い登るむず痒さに慌てて股を探ったときはもう遅かった。大切な部分の真ん中、普段は意識したこともなかった突起が信じられぬ大きさに膨れ上がっている。
すぐに襲ってきた抉るような灼熱感に動くことも出来ず、なすすべもなくすすり泣いていた私を見つけてくれたのは当時最年長の花梨ちゃんだった。
今の私と同じ長い長い留守番の総責任者だった彼女は、よく点呼に遅れる内気なひねくれ者の隠れ家までちゃんと把握していたのだ。
今想えば天罰とも言えるその災難のあと、少しだけ素直な子供になった私。そして去年、猟から帰って来なかった花梨ちゃん。彼女の形見として配られた菫色の防塵服を、私は今もずっと大切に着ている。
「……ふ……ふぁ……」
潤んだ眼で私を見上げ、沙耶はくねくねと悶えながら譫言のような唸りを洩らし続けていた。
ノズチ被害の不名誉な先人として告白すると、洗浄の途中から死ぬほどの痒みに替わって陰核を襲うのは意外にも蕩けそうに甘く、身震いするほどの快さなのだ。
猿轡をさせた理由のひとつは、私と同じ恥を沙耶にかかせない為だった。もどかしげに腰を浮かせ、肉芽を撃つ水飛沫に恍惚と身を委ねている沙耶がもし声を出せたなら……
とにかく、これまで十二年の人生で一番恥ずかしい日のことを決して口外せず、親友の秘密としてずっと胸に秘めてくれている汀たちには本当に感謝の言葉もない。
「……はい、おしまい。よく頑張ったね」
「むぅ!! むふぅ!!」
キュ、と噴水器の栓を閉めると沙耶は激しく腰をくねらせて抗議したが、貴重な濾過水をあまり無駄使いは出来ない。それに彼女の不審な様子に気づいた何人かの女子は、ゴクリと生唾を呑みながら悶える沙耶の様子を凝視している。
汀にチラリと目配せすると、彼女は照れたようにそっぽを向きながら、抱えている沙耶の太腿をもう一度グイと大きく開いた。
「……綺麗になったから薬を塗っておこうね。もうちょっと我慢して……」
「ふ、んんんんっ!!!!」
灼けるようなあの痺れをはっきりと思い出しながら昂ぶる気持ちのまま軟膏をとり、私は沙耶の腫れた芽を強く撫で上げる。
。内股をがくがくと痙攣させた沙耶は少しおしっこを漏らし、深く長い吐息をついてようやくぐったりと大人しくなった。
「……さ、あとは私が面倒を見るから……」
すっかり冷えた指に熱い雫がトロリ、と糸をひく。
今夜からしばらくは間断なく押し寄せる疼きをこうやって鎮めながら、体力が落ちないようあれこれ世話をしてやらなくてはならない。
……花梨ちゃん、私も十二歳になりました。毎朝早起きして、丁寧に髪を梳くようになりました。近頃の楽しみは、昼休みに同い年の男の子たちとお喋りをすることです。
花梨ちゃんにも好きな人がいましたか。その人にギュッと抱きしめられる夢を見ましたか。目覚めても消えぬ胸の高鳴りに、訳もなく涙を流しましたか。
そして……眠れないままそっと触れてしまうあの場所に、ノズチの棘はまだ刺さったままなのしょうか。
沼から昇る冷たく湿っぽい風が、カタカタと桟橋を揺らし、また私たちの小さな村を強く吹き抜ける。花梨ちゃん、あなたの妹たちはみんな仲良く元気に暮らしています。
おわり