バレンタインデー。
聖人がブチ殺された日だとか、くじ引きで恋人決めた日だとか、はたまた製菓会社の陰謀だとか。
その起源には諸説ございますが、ここ日本においては女性が意中の男性にチョコレートを渡す日でございます。
友チョコやら義理チョコやら逆チョコやらいろいろと亜種はありますが、このイベントの本質はこれです。
起源がどうこうと理屈を並べてドヤ顔しているそこのあなたは現実に適合できていません。
もらえるか、もらえないか。それだけです。
さて古今東西色恋沙汰は悩ましきもの、上は神から下は獣まで、こころ持つ者は愛なる死病に振り回されるばかりです。
恋に心悩ます女がここにもひとり、堤防沿いを歩いておりました。
てくてくと歩いております。俯いて、手にラッピングされた包みを握り締めて、てくてくと歩いております。
いつも元気にピンと立っている猫尻尾も今日はなにやらしんなりとしています。
小学生、おまけにおまけして小学校高学年くらいにしか見えない彼女ですが、なんと二十代後半戦に突入しようかという女性です。
大人の女です。立派なOLです。桜子なる些か古風な名前はその桃色の肉球から取られたものだ、
というくすぐったいエピソードをこっそり机の奥にしまって鍵をかけちゃうくらい大人の女です。
おわかりのことと思いますがこの桜子さん、ロリはロリでも正真正銘混じりっ気なしの合法ロリです。
チン●ブチこもうがちっぱい舐めまわそうがおまわりさんがやってこない合法ロリです。
もちろん了承は必要ですが、ロリです。
大学時代にサークルの合宿で着替えを雄どもに見られるという破廉恥イベントをこなしておきながら
「罪悪感で手が震えた」とまで言わしめたロリです。ちっぱいちっぱい!
さてこの桜子さん、おつきあいしている相手がいます。
高橋くんと言って二歳年下のイケメン虎人です(ただしロリコン)。
ややコワモテな外見とは裏腹に物腰柔らかく声も朗らか、まわりのことを考えつつも自分の芯はぴしっと通す人格者です(ただしロリコン)。
当然ながら仕事もできて同期の中でも出世頭間違いなしと噂されています(ただしロリコン)。
婚期逃した女の妄想からうっかり迷い出てきたような完全無欠のMr.パーフェクトです(ただしロリコン)。
この高橋くん、これまで桜子さんがつきあってきた雄どもとは違って
ランドセル背負えともリコーダー咥えろとも黄色い通学帽子を被れとも言いません。
彼は幼女を愛好しているのではなく幼児体型を愛好しているロリコンです。
幼く無力な存在を自分の思い通りにするのではなく、未発達な女性の肉体を一日中ぺろぺろしていたいロリコンです。
正常な男なら一瞬で萎える真性ロリボディに囚われた桜子さんにとって、彼はまさに得難い番いでした。
今日はバレンタインデー。バレンタインデーです。
桜子さんも大好きな高橋くんにチョコレートを渡すつもりでした。
残業をしないで済むよう仕事を頑張り、サプライズのつもりで彼の会社の前で待ち伏せして。
もちろん手作りです。最近流行りの血だの爪だの愛液だの、
その他諸々の食べちゃいけない材料は一切入っていない、カカオとお砂糖と愛情でできたチョコです。
一晩かけてラッピングしたチョコを抱え、
親切なおまわりさんの補導には健康保険証をつきつけて(運転免許は足が届かなくて取れませんでした)、
喫茶店でドキドキしながら桜子さんは高橋くんを待っていました。
そこで、見てしまったのです。
むちむちグラマーな狐の女性が、高橋くんを呼びとめてチョコを渡すところを。
一目瞭然でした。
桜子さんだって大人の女です。その狐の女性が高橋くんに惚れているのがわかりました。
それはいいのです。ロリコンという重い逆十字を背負っているとはいえ、自慢の彼氏です。そういうこともあるでしょう。
高橋くんは、チョコを受け取ってカバンにしまうと、軽く挨拶をして会社を出ました。まるで何事もなかったかのように。
それを目撃してしまった桜子さんはわけのわからない衝動に突き動かされて喫茶店から逃げ出してしまったのでした。
かくしてお話は冒頭に戻ります。堤防沿いをとぼとぼと歩きながら、桜子さんは鬱々としていました。
桜子さんは高橋くんにチョコレートを受け取ってほしくありませんでした。
あの場で叩き返すとか、ぎったんぎったんに踏み砕くとか、そういう感じできっぱり断って、
彼氏を取ろうとするあの女狐の気持ちを滅茶苦茶にしてほしかったのでした。
もちろん高橋くんはそんなことをするような人間じゃありません。
桜子さんだってそんなことする人間を好きでいることはできません。
受け取ってしまったのだって、女狐のことですからきっと義理チョコだとでも理由をつけたのでしょう。
ただ、そう思ってしまっただけで。
束縛欲が強い女性はよくやってしまうことですが、
桜子さんは定期的に高橋くんのお部屋探検を行っておりました。
その鋭さ、しつこさ、ねちっこさ、麻薬捜査官なんのそのです。
彼女はその際高橋くん秘蔵児●ポルノを発見し、なんと一番上に置いてあった「ロリとぼくら●」を読んでしまっていました。
あのL○において尚輝きを放つロリエロ漫画家の極北、クジラ●クス先生です。
母と姉と妹にブログを見られたロリエロ漫画家クジラ●クス先生です。
そのあまりの生々しさとえげつなさ、紙面に塗りつけられた情念に、
桜子さんはすっかり「浮気=逮捕」と刷り込まれていました。
世の中広しと言えども合法ロリは自分しかいないんだと安心していました。
ただ、そう思ってしまっただけで。
とぼとぼと桜子さんは歩きます。あんなに頑張って作ったチョコレートを渡すことはもうできません。
別れよう。そうしよう。そう思っただけで、桜子さんの胸はつきんと痛みました。嫌です。別れたくありません。
けれど、しょうがないのです。だって自分は、彼に相応しくない女だから。
彼がロリコンだから。
自分が合法ロリだから。
浮気されることもなくて、捨てられることもなくて、彼には自分しかいないと安心しきっていたのです。
なんにもしなくても彼は自分を好きでいてくれるのだと勝手に思っていたのです。
あの女狐より自分は彼のことが好きであると、その意地でブラをしている胸を張って言えるでしょうか。
言えませんでした。どうしても、言えませんでした。
桜子さんは傲慢な自分のみにくさ、あさましさ、そういうものに打ちのめされていたのでした。
しくしくぽろぽろ、いつの間にか立ち止まっていた桜子さんの足元に滴がこぼれおちます。いくつもいくつも。
夜の冷たい風がふわふわの頬を撫でては通り過ぎていきます。こんな辺鄙なところ、もう誰もいません。
桜子さんはひとりぼっちで泣いています。小さな体にかなしみを持て余して、ひとりぼっちで泣いています。
――いいえ、いいえ。その頭にそっと乗せられる、大きく温かな手がありました。
果たしてそこにいたのは桜子さんが今一番会いたくて会いたくない人でした。
どうしたの、桜子さん。
あのね、その……
それ、チョコ?
うん、あのね……
もらっていいかい?
い……いいの?
えっ?
もらってくれるの?
もちろんさ。僕は、桜子さんの恋人だからね。
桜子さんの胸の中であんなに苦かったかなしみのかたまりは、
高橋くんの低い声にほぐされて甘く溶けてゆきました。
右手にチョコを、左手に桜子さんを抱えると高橋くんは最寄り駅に向かって歩き出しました。
実は桜子さんが待ち伏せしていた喫茶店は二人がよくデートするところで、
更に桜子さんが座っていたのは勤務中にふと外を見やった高橋くんからばっちり見える席でした。
恋人に見える場所で他の女性からチョコを受け取ってしまうあたり高橋くんもまだまだ迂闊ですが、
なにはともあれこのちっちゃくてかわいい彼の恋人がチョコを用意しているということを高橋くんはちゃんと知っていたのです。
うっすらと肉が付いているだけで揉みしだくことすら難しいお尻の下でもにもにと指を蠢かしながら、
高橋くんはとりとめのない桜子さんの会話に耳を傾けます。
正直なところ桜子さんがどうして泣いているのか高橋くんにはさっぱりわかりませんでした。
誕生日にプレゼントしたバッグの底にGPSを仕込んで桜子さんの位置を探知できるようにしている実は危ない奴な高橋くんには。
それでもまあ、どん底に自分で駆け込んでしくしくしていた桜子さんを引っ張り上げたのですから、いい男なのです(ただしロリコン)。
二人はのんびりと堤防沿いを歩きます。
すわ児童誘拐かと駆け寄ってきた犬のおまわりさんの鼻面に健康保険証でカードスラッシュをかましたり、
乱暴に扱われた桜子さん会心のチョコが悲惨な形になっていたりとハプニングはいくつかありましたが、
二人は無事にラブホテルにしけこんで結合を果たしたのでした(唐突なエロ)。
桜子さんはそのちっちゃな割れ目に高橋くんの体格に相応しいパイルバンカーをねじこまれてアヘ顔にしてもらいました。
おしまい。