「ただいま」
そう言って俺が玄関のドアを開けると、
妹の美優が明るく返事をしながら床を這ってこちらに向かってきた。
美優には右腕も左腕も、右脚も左脚もない。
二年前、中学生の時に事故で失ったのだ。
今は高校生ぐらいであろうが、リハビリという名目で毎日を家で過ごしている。
両手両足が無いと言っても完全なだるまではない。
両腕は肘より上から無く、
左脚は膝のちょうど手前まで残っていて、右脚はその半分くらいである。
それでも肘も膝も残っていないので、できることはほとんどなく、一日中テレビを見ている。
自分で手入れが出来ないからと、短く切り揃えた髪の毛の下から、二重の大きな目が覗いている。
両膝が残っていれば膝立ちが出来たが、長い左脚も膝上までなので
両腕と左脚を床について移動する。
ほんの少しだけ残った右脚がぷるぷる揺れていた。